【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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■23.FF-7XF(2)

 ジオン地球攻撃軍の第2次降下作戦に相対した地球連邦軍は、完全に出し抜かれたといっていい。ジオン首脳陣は第3次降下作戦に供するはずであった戦力の過半を合流させたうえで(残余はオデッサへの増援に廻された)、乾坤一擲の大勝負に出た。中米に対する陽動作戦から始まった第2次降下作戦に、地球連邦軍北米方面軍は敵の企図を読み違えた。

 

「敵は中米を奪り、北米と南米の連携を切断する腹積もりだ――!」

 

 確かに中米を奪取されれば、陸路は断たれる。が、冷静になってみれば、連邦海軍大西洋艦隊と連携した北米・南米の連邦空軍戦闘機部隊によって中米周辺の航空優勢・海上優勢は保たれるだろうから、完全に連絡が遮断されるということはないし、ジャブローが孤立するということはない。

 ところが彼らには、そう判断するに至る背景があった。

 まず地球連邦軍情報部から「敵は中米に侵攻する公算が高く、中米からジャブローを攻撃する計画を進めている」と連絡を受けていた。これはキシリア・ザビをトップとするジオン突撃機動軍に掴まされた偽情報であったが、地球連邦軍情報部は確度が高い情報として扱っていた。また先の第1次降下作戦では敵は戦力分散の愚を犯さず、一手目から本命を奪りに来ており、今回もその可能性が高いというのが軍内の支配的な見方であった。

 地球連邦軍統合参謀本部もまた同様の判断を下し、全軍種、全方面軍に対して軌道上の敵部隊に対する全力火力投射を命令。

 欧州方面軍と連携しやすいようニューヤークに設置された地球連邦軍北米方面統合作戦司令部は、敵の降下地点を割り出すとともに、突入を果たした敵に対して短期決戦を図る作戦名(オペレーション)・ミズーリを発動。中米・北米の陸軍部隊は戦略機動に移った。

 

ニューヤーク(ここ)に下りてくる」

 

 その矢先の、本命出現。

 第1次降下作戦とは比べものにならない規模の突入強襲部隊が軌道上に姿を現した。対する地球連邦軍は先の陽動部隊に全火力を投じたため、海軍の水上艦艇から空軍の攻撃機まで補給中であった。

 故に第2次降下作戦の本命はほとんど無抵抗のまま、北米の東海岸、西海岸の双方に突入成功――かくして地球連邦軍北米方面軍は、万全な状態のジオン地球攻撃軍2個軍団と対戦を強いられることとなった。

 外野にあたる地球連邦軍統合参謀本部は正確な戦況をつかめない。

 それどころか中米に向かっていた地球連邦軍北米方面軍の諸部隊もまた、正確な戦況をつかめていなかった。なにせ緒戦で地球連邦軍北米方面統合作戦司令部が所在するニューヤークはジオン軍の手に陥ちている……。

 

 ◇◆◇

 

地球(ジ・アース)、こちらアルゴス。よろしくお願いします」

 

「アルゴス、こちらジ・アース。戦闘機隊の出番がないことを願っている」

 

 超音速偵察機に搭乗する電子戦担当士官(ECMO)のトリクシイ・ザクセン宇宙軍少尉に、俺は気楽そうな声色をつくって返事をした。返事をしつつ、風防越しに不審な機影がないか探すことを忘れない。周囲にいるのは、僚機のコア・ファイターと彼女が後部席に収まる複座偵察機仕様のFF-3――FF-3Rフォトセイバーだけだ。強力な横長のレーダーを背負い、赤外線監視装置は勿論、4基の光学カメラを胴体部に収め、敵の電波をキャッチして記録する電子戦機材も装備している。

 

――高速戦術偵察。

 

 連邦空軍バランキージャ基地に移った地球連邦軍航空宇宙第1統合戦闘団に与えられた最初の任務は、北米・中米方面の航空偵察であった。戦闘機部隊に偵察任務が割り当てられた理由は、仮に敵がすでに防空網を充実させていたとしても、非常時には超音速飛翔が可能なFF-3Rと、同じくカタログスペック上は大気圏内最高速度マッハ3を誇るFF-7XFならば敵の攻撃を振り切れる、というわけであろう。

 が、シルヴィア准将は地球連邦軍統合参謀本部の意図は別のところにある、と口にしていた。

 

――航空偵察が成功すれば重畳。実際のところは敵機を釣り出して叩きたいのだろう。

 

 本来、FF-3Rのような戦術偵察機は「武器なし、僚機なし、恐怖なし」の単機任務が基本だ。このように戦闘機の護衛をつけるように命令が下ることはほとんどない。シルヴィア准将は上級司令部の意図を汲み、航空戦が生起する可能性は高い、と出動前から周囲に言い含めていた。

 実際、そうなった。

 

「各機、こちらアルゴス。メリダから発進する機影を光学捕捉――敵戦闘機(ドップ)です」

 

 隊内に驚きはない。原作知識のある俺は勿論のこと、他のパイロットたちもシルヴィア准将が入手したジオン公国内で発刊されている航空雑誌を読み、ドップという名称のジオン公国製戦闘機の存在を知っていた。

 驚くとすればメリダ――カリブ海に面する旧メキシコ空軍メリダ基地から敵機が邀撃に上がってくることだ。敵がすでにメリダを占領するだけでなく、空軍基地機能を復旧、航空部隊まで配備しているとなると厄介な話だ。

 

「アルゴス、こちらクリムゾン。現時刻を以て戦術偵察作戦を中止し、基地へ帰投せよ。ペイトゥウィンはアルゴスを護衛」

 

 FF-7XFの機上から指揮を執るシルヴィア准将は、速やかに指示を下す。偵察任務を早々に放棄したことには賛否両論あろうが、敵機が上がってくる――しかもミノフスキー粒子がほとんど撒かれていないこの空域で、敵機がマッハ5以上の最高速度を誇る長距離空対空ミサイルを装備していれば、FF-3Rは即座に脅威に晒される。

 

「クリムゾン、こちらペイトゥウィン了解」

 

 課金兵なるふざけたコールサインを持つナイトー空軍中尉が返事をする――その間もFF-7XFの機上レーダーが捉える敵機の数は増え続けていた。

 

「ブレイク」

 

 先制したのは敵機である。地対空ミサイルシステムの援護を受けられるメリダ空軍基地上空で攻撃隊形を構築した彼らは、万全の格好で突っこんできた。空気力学的にデタラメな機影からミサイルが分離し、ブースターに点火する。その瞬間、FF-7XFが積んでいる電子妨害装置は敵のミサイルを捕捉し、脅威判定を下した。そして敵弾頭がレーダー波を発射し始めた途端に、FF-7XFは強力な欺瞞電波を敵弾頭の電波受信装置に叩きつけた。

 

(学習型コンピューター、恐るべし――)

 

 すでにFF-7XFのコンピューターには、ジオン側がこれまで使用してきたレーダーと電波情報がすべて記憶されており、敵弾頭に誤った距離情報と方位情報を流しこむことができる。

 

射程(レンジ)の問題はこれでなくなる)

 

 FF-7XFの明確な弱点は、射程150kmを超えるような長距離空対空ミサイルを運用できないという点だ。空対空ミサイルは背面の兵器庫(ステーション)に4発格納できるだけで、翼下にパイロンはない。ミノフスキー粒子が散布されていない状況で、敵機に長距離空対空ミサイルを遠方から連射されれば、成す術もない。それをカバーできるのが、光速の電子攻撃だった。

 ドミニク大尉が空対空ミサイル2発を発射し、手近な敵機に回避運動を強いる。速度を殺して急旋回する敵機――その横合いに俺は突進し、ドップの未来位置に30mm機関砲弾をばら撒いた。

 

「スプラッシュ・ワン」

 

 火を噴きながら緩降下していく濃緑の機影を無視し、俺は機体を横転させて敵味方の位置を確認する。操縦席のスペースはかなり広いため、身をよじるのも容易である。おそらく今後、MSの操縦機器・操縦系統が搭載されるのだろう――そんなことを考えていると、ドップに追跡される味方を眼下に見た。

 

(敵は追撃に夢中か)

 

 すぐに赤外線誘導ミサイルを格納した右兵装庫を開放し、1発を敵機に向けて発射する。敵が放出する赤外線を追尾するミサイルは、敵に気づかれにくい。おそらく命中するだろう、と思いながら俺は直撃の瞬間を見ずに、後方に視線を遣った。機体後方に備えられた電子の瞳が起動し、座席が透け――こちらに機首を向けようとする敵機が見えた。

 

(高度を落として速度を稼ぐのは不利)

 

 あの“2階建て”の機体を無理やり飛ばしている高推力では、多少加速したところで追いつかれてやられるだけだ。故に急旋回で敵の進行方向から外れ――こちらの機動についてこようとしていたドップは次の瞬間、背後から超音速で突っこんできた弾頭が直撃し、爆散した。

 目の前でみるみるうちに敵機の数が減っていく――。







◇◆◇



体調不良のため、1週間ほど休載いたします。
次回更新予定は7月9日です。
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