【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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■25.RX-75Fガンファイター(1)

「車高を切り詰めてぇえええええ――!」

 

 ガンタンクの上半身を戦闘機にポンづけした外見を有する戦闘機型MS――RX-75Fガンファイターについては、空軍の癖原少佐が、発案者のクローバー・ボー・セブン大尉とともに再設計を実施することとなった。

 

「そもそもぉおおお! ガンタンクを飛ばすってぇえええええええ!?」

 

「ガンタンクは超人気だからな(真顔)。連邦宇宙軍で“モビルスーツ人気投票”をやったら、1位・ガンタンク、2位・ガンタンク、3位・ガンタンク、4位・ガンタンク、5位・ガンタンクという結果が出た。これはもうガンタンクを戦闘機型MSのベースにするしかねえだろうがよ!」

 

「現状では連邦軍のMSはガンタンクしかないからではぁあああああああああ!?」

 

「うるせぇえええええ! 腹から声を出すな、喉から声出せ! 喉から!」

 

「とりあえずこっちで試作中の核融合炉・メガ粒子砲搭載型戦闘攻撃機の機体構造を流用しておきますねぇええええええ!」

 

「えっそこまでできてんの(真顔)。ビームあるならこれ要らねえじゃん! ゴミだゴミ! ビームサーベルだってできるんだったらこの改良型熱線(D-patch)ソードも要らねえんだよ!」

 

「まだできてませんんん゛っ! ビーム砲の小型化が難航中なんですよぉおおおおおおおおお!」

 

 オンラインでのセッションには何の意味もなく、空軍の癖原少佐が自然、仕事を巻き取る形となる。彼女がまず着手したのは空力特性の改善だった。残っていた合体機構の一部を排除することで腹部ユニット分、全高を切り詰めることに成功。一方で胸部ユニットは弾薬庫と給弾機構が内蔵されているため、小型化するのは容易ではなかった。

 

(というか戦車のくせに上半身を旋回させられないとは……)

 

 RX-75ガンタンクは変形・合体機構を有している代わりに、“砲塔”にあたる上半身を旋回させることができない。もしも固定型の主砲で左右方向の敵を攻撃したい場合には、その場で無限軌道を使った超信地旋回を行う必要があった。

 

(それでは困る)

 

 癖原少佐はこのガンファイターに格闘戦をさせることを早々に諦めていた。空軍関係者としてイメージしやすいのは、対地攻撃機(ガンシップ)のような運用だ。敵地上部隊に対しては周囲を旋回しながら肩部の120mm低反動砲でアウトレンジから攻撃。敵戦闘機部隊との戦闘は、両腕部の4連装ガンランチャーで撃退する。戦闘機というよりは攻撃機に近く、護衛役の戦闘機が必要になるであろう。

 

(回転砲塔方式に変更)

 

 話は逸れたが、彼女が考えているのは対地攻撃機のような運用であり、そのためにはガンタンクの胸部ユニット下部に旋回機構を設けなくてはならなかった。西暦時代に存在した攻撃機AC-135は機体左側にのみ105mm砲を備え、攻撃の際には常に左側面を敵目標に向ける必要があったが、この戦闘スタイルは宇宙空間における戦闘では不利に働く(宇宙空間では自機の進行方向に発砲したほうが、自機の速度が砲弾の初速に乗るため威力が向上する)。

 

(ガンタンク部分のレーダー反射断面積が大きすぎる。空力特性も最悪だ)

 

 癖原少佐はAIのサポートの下、瞬く間に再設計を終えた。

 

 ◇◆◇

 

「モビルスーツってなんなんですかね」

 

 ジャブローから帰ってきてから1週間後――。

 格納庫の片隅で課金兵(ペイトゥウィン)のナイトー空軍中尉は軍広報誌をめくりながら、溜息まじりにそう言った。彼が人差し指でつつく誌面には、我が地球連邦軍のMSが掲載されている。

 

「腕か脚があればモビルスーツ、でいいのかな」

 

 連邦宇宙軍の試作MSとして紹介されているのは、作業用スペースポッドの上部に火砲を載せたような外観をもつ代物だった。『機動戦士ガンダム』を知っている人間ならば、すぐにわかるだろう。ボール、である。そしてナイトー空軍中尉が言うとおり、ボールには腕がある。

 

「それともスラスターがあって宇宙空間で戦えればモビルスーツなんですかね?」

 

 そう言って眼差しを向けてきた彼に、うーんと唸ることしかできない。

 

「Mobile SUITのSUITはSpace Utility Instruments Tactical――戦術的宇宙汎用機械の略称だと聞いたことがあります」

 

 割って入ってきたのは昼間の星(デイライトスター)、黒髪と漆黒の瞳が印象的なアイカワ空軍中尉であった。

 が、彼女の言葉はナイトー中尉の疑問を解決するには至らない。

 

「どのあたりが汎用なのだよ」

 

「この武装スペースポッド――RB-79Xの場合は、腕部ユニットが“汎用”の担保になっているのではないでしょうか。作業や戦闘に用いることができる腕部ユニットがあり、宇宙空間で運用可能であればMSといえると思います」

 

「……」

 

 ナイトー中尉はアイカワ中尉と、誌面の画像の間で視線を往復させると溜息をついた。

 

「MSのパイロットを募集するみたいですけど、俺はパスですねこりゃ……」

 

 彼は再び誌面の片隅をつついてみせた。

 そんな彼に俺は何気なく聞いた。

 

「戦闘機よりもMSのほうが生存性は高そうじゃないかな?」

 

「マジっすか? FF-7FAでも俺は十分ですよ。反撃の中核(コア)戦闘機というだけあってめちゃくちゃ硬いですし。実際、この前の出撃でミサイルの破片浴びてもなんともなかったし、つーかドップの機関砲弾も止めますからね……」

 

「確かにルナ・チタニウム合金製なだけはあるね」

 

「ええ、それにMSってなんなんですかね、マジで。あれもMSなんですか?」

 

 ナイトー中尉は格納庫中央部の巨影を指さした。

 

 そこに在るのは、航空機型MSの試作機――RX-75FXガンファイターである。

 ただし以前見せられたものとは、外観が大きく異なっていた。ジャブローで見たそれは、ガンタンクの上半身がポン付けされたデプロッグだったが、目の前にあるのは群青色の重戦闘攻撃機の機体上面に、まあ常識的なサイズにまとめられた砲塔が載っている、という格好である。そしてその砲塔の最上部には、より鋭角的なフォルムに整形されたガンタンクの頭部ユニットが据えられている。

 

(というかこれGファイターじゃん……)

 

 メガ粒子砲の代わりに実体弾を投射する長砲身を据えればこうもなろうか、という戦闘攻撃機である。

 

「一応、腕はありますね」

 

 アイカワ中尉は目敏く主翼下に設けられた腕部ユニット――腕というよりはミサイルを効率よく発射するためのアームを見つけていた。彼女が口にしたMSの定義が正しければ、確かにこれもMSである。

 

「醜いな」

 

 場所を変えて、航空宇宙第1統合戦闘団司令部ではシルヴィア准将はそう評した。

 

「だがスペックだけを見れば、まあ悪くはない。120mm低反動砲2門、4連装ガンランチャーが2基。攻撃空母ガウを単独で撃破できる火力を継続的に発揮できるのは素晴らしい。どう使えばいいのか皆目見当がつかないものもあるが……」

 

「……丸くなりましたね」

 

 俺の言葉に、シルヴィア准将は苦笑いを浮かべた。

 

「成長したと言え、馬鹿者」

 

 しかし、と彼女はすぐに表情を曇らせた。

 

「戦時中は軍需があらゆることに優先されるものだな。このRX-75FXは発案から試作機完成まで2週間も経っていない。RB-79XボールやFF-3SXエクスセイバーといった対MS戦を念頭においた試作機も次々と形になっている。1か月後には連邦軍もザクⅡのような本格的な人型機動兵器を配備しているだろう、と思わせるほどだ」

 

「俺から見ても異常な開発ペースですよ」

 

「これが新たな戦争の形態なのかもしれないな。技術者を支援する体制とツールの進歩が著しく、瞬く間にシミュレーションを含めた開発が完了してしまう。むしろわれわれ前線部隊のほうがそれに付いていけるか。友軍の新兵器の扱いに慣熟するだけならともかく、次々と登場する敵の新兵器に対応しなければならないのだからな」

 







◇◆◇



次回更新は7月16日を予定しております。



◇◆◇
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