【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか―― 作:河畑濤士
高度2万メートルを舞う4機のMS-06FWXザク・ビングのうち、1機が功を焦った。眼下には噂となっている連邦の“ガンシップ”。対地射撃中の彼らはこちらには気づいていない――故にシュテファン・ヴィルケ・クロル少尉は、警戒色に彩られたレバーを引いた。
西暦の可変戦闘機F-14やトーネードめいて主翼の一部が折り畳まれる。
途端に揚力が減じ、急降下に転ずるシュテファン少尉機。
「一撃で墜とす!」
「待ってください、シュテファン少尉――」
みるみるうちに減っていく高度計の数字。しかしシュテファン少尉はまったく動じることなく、目標が放つ赤外線を捉えるパッシブ・センサーで敵の位置を確認した。彼は1秒とかけず、近接格闘を決意する。彼が近接格闘を選んだのは、連邦の新型戦闘機同様に眼下のガンシップにも堅牢な装甲材が採用されている可能性があったこと、また射撃よりも近接武器のほうが察知されづらいためである。
「ヒートサーベル」
彼は兵装コントロールパネルから、ヒートサーベルを選択した。試作中のMS、グフのそれと同様に形状記憶分子が放出され、右
ここでようやく気づいたのか、眼下の獲物は背面飛行の姿勢をとって翼下に設けた武器腕を広げて弾幕を張ってきた。
「遅い」
が、シュテファン少尉機はすでに右脚部を振り上げ、必殺の斬撃を繰り出そうとしていた。
「
「
確信の叫びは次の瞬間、悲鳴に変わった。格闘戦用武器を持って“いなさそうな”ガンシップは、補助にすぎないはずの両腕、その中央から棒状の装置を突出させた。
「
原理としてはヒートサーベルと同様だ。一瞬で纏われるプラズマ。形成されるセ氏数万度の刃。ザク・ビングの右脚部ヒートサーベルと、ガンファイターの右腕部ヒートソード、互いに超高温に耐える実体刀身が激突する。
「まずい――!」
そしてガンファイターは、左腕部ヒートソードを“遊ばせていた”。
「スプラッシュ・ワン」
主翼に青い星をあしらったガンファイターは、無慈悲にもシュテファン少尉機の腰部ユニットを左腕部ヒートソードで両断していた。強力なプラズマの刃は腰部外装を切断するだけに留まらず、その膨大な熱量を以て腰部・胸部ユニットの内部構造を破壊する。この時点でシュテファン少尉は、半ば溶解した操縦席に圧し潰され、絶命に至っていた。
溶断された機体はそのまま力なく数百メートル落下してから、虚空で爆散した。
「
高空に待機したまま、様子を伺っていた3機のザク・ビングは120mmザクマシンガンを下方へ構えたが、射撃を開始する前に回避運動に移ることを余儀なくされた。
「翼付きかよッ、こっちもそっちも頭おかしいーって!」
愚痴るナイトー中尉が操縦し、アイカワ中尉が砲手を務めるRX-75FXガンファイターが、急上昇しながら120mm低反動砲と4連装ガンランチャーを連射する。ナイトー中尉の感覚では相手の射撃を妨害できれば御の字だったが、月替わりの座右の銘を“一日一善”にしていたアイカワ中尉は、片門の120mm低反動砲を発射して敵機に回避を強要し――その回避先に選ばれるであろう空間へ、もう一方の120mm低反動砲を連射していた。
「なんな゛っ゛」
「スプラッシュ・ワン」
腹部を貫いて炸裂した120mm弾。空いた大穴が瞬く間にイレギュラーな空気抵抗を生じさせ、千切れた配線や砕けた装甲板が吹き飛ばされていく。
「ローズマリー、こちらウォーパーティー。脱出してください」
腹部の被弾痕が広がったことで腰部ユニットが脱落しかかり、飛んでいるのがやっとのザク・ビングに呼びかけたのは、主翼に血塗られた金槌、そして胸部に黒い1本線を描いた機体の御者――テランス・オースティン・ルーズベルトであった。
「ジ・アースは、私が相手します」
彼の口の端が、悦びに歪む。先の戦いでフライマンタを駆るジ・アースに敗北を喫したあと緊急脱出をしていた彼は、意外にも早い再戦の機会に歓喜していた。
「ウォーパーティー。こちらコメート、あれに勝てるのですか?」
コメート――2か月前までガトル宇宙戦闘攻撃機を駆っていたスサーナ・デ・アラゴン少尉は、そう言いながらも眼前に迫りくる多目的ミサイルを睨んで照準し、120mmザクマシンガンで空中撃破していく。爆散する弾頭。その合間を翔けるスサーナ少尉機。
(なぜ私はこんなところにいるッ)
彼女は鋭く舌打ちした。飛べればいい彼女にとって、敵のミサイルも、戦争も邪魔でしかない。さらにその感情を逆撫でするように、ウォーパーティーの声が鼓膜を揺らす。
「どうでしょうかね」
愉悦混じりの返事に、スサーナ少尉は眉間に皺を寄せた。
「……ふたりで殺りましょう」
ウォーパーティーの返事を待たず、スサーナ少尉は眼下を翔ける敵機に照準を合わせる。いくらエースパイロットといっても、人間には違いない。十字砲火だ。彼女は“地球”の未来位置に120mm徹甲焼夷榴弾をばら撒く。が、ガンシップの加速力、最高速は彼女の想定をともに上回っていた。さらに“地球”の僚機が展開する弾幕が、邪魔をする。
「一丁のマシンガンでは!」
スサーナ少尉からすれば、120mmザクマシンガンは敵弾の迎撃と、敵機の攻撃に用いる攻防一体の武器である。裏を返せば攻防同時には使えない。さりとて二丁持ちを使いこなす自信はない。
一方でテランスは狂喜の最中にいた。ノイジー大尉機が放つ120mm徹甲焼夷榴弾を、両脚から展開したヒートサーベルで斬り払う。それが可能だったのは、テランス側が高空――位置エネルギーをノイジー大尉機より多く蓄えており、上方へ撃ち出される砲弾の弾速が自然と緩むこと、そして興奮状態の彼が、超人的な動体視力と、砲弾をカメラが捕捉してモニターに映すまでのタイムラグと脚部操作のタイミングを噛み合わせる驚異的な集中力を発揮していたためである。
一見すると防戦一方のウォーパーティー、連続攻撃を仕掛けるジ・アースという格好。
「おいッ、守ってるだけじゃ勝てねえぞ!」
が、兵装の操作を明け渡したまま手持ち無沙汰になっているクローバー大尉は、事態を正しく認識していた。守りに入っているのは、ガンファイターの側である。格闘戦では手足のあるザクに、ガンタンクは勝てない。だからこそ敵の接近を許さないために、火力を継続発揮しているにほかならない。
実際、ノイジー大尉が意図しているのはそれである。
(こっちは手札を見せた)
ヒートソードで意表を衝けるのは一度きりだ。
(アニメみたいにチャンバラをやる自信はない――)
ゆえに賭けに出るほかなかった。
ノイジー大尉が兵装コントロールパネルを弄るのと、ウォーパーティーがダイブに移るのは同時だった。赤熱する両脚部のヒートサーベル。さらに彼の左手が握りしめるヒートホークもまた、プラズマの刃を形成している。
まだ距離がある。
空飛ぶガンタンクはむしろ急上昇し、空飛ぶザクを迎え撃つ格好を見せた。
と、同時に120mm低反動砲の照準が修正され、敵影を捉える。
「性懲りもなく!」
凶戦士が嗤う。撃ち出された120mm弾を、彼はその瞳で捉えていた。これも脚部のヒートサーベルで斬り払い、そして縦回転しながら繰り出すヒートホークの斬撃でガンファイターを墜とす――。
「む」
が、MSの装甲板を貫く威力を有する120mm徹甲焼夷榴弾は、ザク・ビングの僅か下方で炸裂した。徹甲焼夷榴弾ではない。弾種、対空榴弾。しかしながら一般的な設定の対空榴弾よりも遥かに短い距離で信管が作動している。弾ける鋼鉄の弾体。そして襲いかかる無数の弾片。
「この短時間で、信管を調整ッ!?」
テランスは素早く視線を動かし、機体ステータスをチェックする。損害は軽微――その0.5秒後、次弾が炸裂し、
それがテランスの集中力を削いだ。
「
横転しながらガンファイターが両腕を広げる。
そして再び伸長する、数万度の剣戟。
超高速で両者が交錯――ザク・ビングはギリギリで身を捩らせて致命傷を避けたが、それでもガンファイターのヒートソードはその左脚部と左腕部の装甲部分を溶解させ、その内側を機能不全に追いやった。
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ヒート系格闘戦用武器が(ビームサーベルのように)伸長するのはオーバーテクノロジーに思われるかもしれませんが公式設定準拠のつもりです。
次話からはコア・ブースターが話の中心になります。
次回更新は7月24日を予定しております。
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