【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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次回更新は5月5日になります。



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■3.FF-4C(3)ジ・アース、現る。

 海を右手に遠州灘大橋を渡り、海浜公園のプールを目指す。

 

 群青の空を横切っていくのは、連邦空軍の練習機。

 

 膨らませてある赤い浮き輪を担いで、死んだ親父を先導して歩く俺。

 

 これは夢だと一瞬で理解した。

 

 懐かしさで胸がいっぱいになる。

 

 連邦空軍浜松基地から飛び立つジェット機の喧騒と、遠州灘の潮騒に包まれて育った俺の将来はこの時点で、連邦空軍か連邦海軍のどちらかに入隊することが決まっていたに相違ない。

 

 宇宙に上がってからたまに耳にした地球出身の在住者(アースノイド)はみな裕福で、税金は格安で、金融業やコンサルタント業のようなホワイトカラーの仕事に就いている、という言説はあまりにも主語が大きすぎる。

 少なくとも俺が生まれ育った日本の地方都市においてはそうではなかった。

 

 大勢が詰めかけるプールでひとしきり泳いだ――泳いだというよりは流れるプールで浮かんだ――帰り道は、自動販売機のアイスクリームを食べながら帰る。

 

 今度は左手に海を見ながら遠州灘大橋を渡る。

 

 それから古墳じみた外見をした公園津波避難マウンドによじ登って遊ぶのが好きだった。

 

「あー俺はまた明日から仕事かー。小学生は夏休みがあっていいなあー」

 

 親父がそうこぼすとともに、警報が鳴り響いた。

 

「くそったれ」

 

 染みついた習性といっていい。

 俺は素早く仮眠用の寝具から飛び出し、ガンルームへ急いだ。

 腕時計を一瞥すると、6時間は眠れたらしい――ありがたいことだ。

 

「ノイジー少尉ッ!」

 

 途中、シルヴィア・プロット・バックランド中佐に呼び止められる。

 敬礼しようとした俺を彼女は舌打ちしながら手で制し、端的に言った。

 

「敵襲だ!」

 

「でしょうね!」

 

 踵を返して走り始める。

「おかげで時間をロスした」、という俺のぼやきは背後から叩きつけられた「MSを倒せ!」という大声に掻き消された。その中身は激励半分、憎悪半分、といったところか。

 ガンルームでノーマルスーツに着替えて格納庫に向かうと、FF-4Cトリアーエズは万全の状態で俺を待っていた。

 

「ハチノ少尉ッ、オーダー通りに仕上げときましたよ!」

 

 戦闘機整備員が大声でがなり立てる。

 主翼下のハードポイントには、確かに円筒状のロケットランチャーが吊り下げられていた。

 俺は親指を立てて、コックピットへ跳んだ。

 

 ◇◆◇

 

「艦隊内目標割当よし」

「メガ粒子砲、艦隊統制射撃はじめ」

 

 崩壊したスペースコロニーの残骸と、無秩序に拡散したミノフスキー粒子が生み出した暗礁宙域に、メガ粒子砲の光芒が伸びる。サラミス級巡洋艦『ナホトカ』『ブラフマプル』『コーヒーベイ』『コンセプシオン』4隻による長距離対空砲撃。が、敵影は自由自在な機動で、すでにサラミス級巡洋艦が向ける砲口の延長線上にはいなかった。

 

「楽勝」

「ここからだ! ミサイルと機関砲に注意しろ!」

 

 桜桃のモノアイ光を曳きながら、十数機のザクⅡが漂うコロニーの採光ミラーに身を隠す。先程のメガ粒子砲の攻撃を躱しながら敵の陣容を把握した隊長機は、素早く小隊ごとに攻撃経路をデータリンクにて送信した。このあたりはミノフスキー粒子が薄くなり始めている――これはジオン側には有利に働きつつある。

 先の小型戦闘機による威力偵察があった後、サイド2・8バンチコロニーを護衛する諸隊は、周辺宙域の哨戒を強化し、そして近傍の宙域にて集結中の連邦艦隊を発見した。即座にMSから成る攻撃隊が編成され、現在に至るというわけだ。

 

「バズ!」

 

 残骸に身を隠し、上体だけを晒した1個小隊のザクⅡが、バズーカ砲をサラミス級の戦陣に撃ちかける。

 

「回避!」

 

 迫る280mm弾――サラミス級巡洋艦の誘導弾による迎撃は間に合わない。無誘導の280mm弾相手では電子攻撃も無駄であり、速やかに回避運動を採ることに決めた艦隊側は賢明であった。

 が、それこそがジオン側の狙い。

 

「かかれッ!」

 

 8つの巨影が、デブリの向こう側から躍り出す。バズーカによる攻撃は、(はな)からサラミス級巡洋艦に密集陣形を放棄させ、対空砲火を分散させることが目的だった。突撃を敢行するザクⅡを前に、サラミス級巡洋艦は陣形を組みなおそうとするが、デブリの向こう側から発射されるバズーカ弾がそれを妨げる。

 

「まず先頭の1隻を殺るッ!」

 

 8機のザクⅡは急制動の連続で容易く対空ミサイルを避け、サラミス級巡洋艦『コンセプシオン』へザクマシンガンを連射した。マシンガン、とはいうもののその弾種は120mm徹甲榴弾だ。複数発が命中すれば、サラミス級巡洋艦でさえ致命傷になり得る。

『コンセプシオン』の機関砲とザクマシンガンが放つ曳光弾が交錯――次の瞬間、上面前部甲板に設けられた単装メガ粒子砲の砲塔が火を噴き、機関砲塔が拉げ、砕け、弾けた。

 

「ダメージコントロール!」

 

「上方に敵機4ッ――ダイブ!」

 

『コンセプシオン』が態勢を立て直す前に、マシンガンとヒートホークを握ったザクⅡが、疑似的急降下に移ろうとする。

 

「対空戦闘、SAM!」

 

「SAM、間に合わない!」

 

 砲雷科員の叫びとともに、ひとつの影が『コンセプシオン』の艦底方向から艦体側面をすり抜け、一気に艦橋頭上まで飛び出してきた。

 

「青――?」

 

 艦橋要員の眼に焼きついたのは、尾翼に描かれた地球の青。超高速で天を衝くFF-4Cトリアーエズは、降り注ぐ120mm徹甲榴弾に怯むことなく、レティクルにその巨影を収めた。

 

「左右に捌けろッ!」

「1機くらい……必要ない!」

 

 4機の中で明暗が分かれた。

 3機はミサイルを警戒し、直角方向に機動変更した。

 が、残る1機――この一航過で『コンセプシオン』を墜とそうと決意していたアネット・M・ブラント伍長は、突如現れた敵戦闘機との決闘(ヘッドオン)に臨む。

 

(当たるかよ)

 

 それこそFF-4Cを駆るノイジー少尉の思う壺である。

 ザクⅡから見たFF-4Cの機影はあまりにも小さく、一方で急降下中とはいえどもザクⅡの正面投影面積はあまりにも大きい。

 そしてMSが戦闘機に勝っている要因のひとつは、自由自在な戦闘機動。

 それを棄てている以上、この瞬間だけは有利でありこそすれ、不利では絶対ありえない。

 

「ロケット!」

 

 円筒状のランチャーから連射される70mmロケット弾。

 1発目はザクの左肩上方を抜け、2発目はザクマシンガンのドラムマガジンに直撃。撒き散らされた破片がザクの装甲板を叩く。と同時に、3発目が頭部装甲板に激突し、4発目がモノアイカバーを破砕して内部に飛びこんで炸裂した。5発目は左肩のスパイクアーマーに命中したが、弾頭のほうが砕けた。そして6発目は胸部装甲にめりこんで炸裂した。

 

「こいつ、どんだけミサイルを!」

 

「違うッ――無誘導のロケットだ!」

 

 ほんの一瞬だけ上がる火焔の脇をすり抜けて、FF-4Cトリアーエズは頭部を失ったザクⅡの上方へ翔けていく。その後背に鉛弾を浴びせるために、ザクⅡのFCSは飛び去る敵機を捕捉――半自動的に頭部ユニットとモノアイがトリアーエズの放つ熱線を追随した。

 つまり、眼前の敵艦から視線を切った。

 

「まずいッ!」

 

 FF-4Cトリアーエズが飛び去った方向とは反対側――サラミス級巡洋艦『コンセプシオン』の放った対空ミサイルが頭部を失ったアネット伍長機に直撃し、もう1発が別のザクⅡの股下に突っこみ、弾頭は腹部までめりこんで炸裂。この機体は縦方向に真っ二つに裂け、パイロットは破片と爆風を浴びて即死した。

 

「アネット、マチアスッ!」

 

 隊長機が漏らす悲痛な叫び。

 それを置き去りにしたノイジー少尉機は、横合いから撃ちかけられた火線を旋回して躱し、逃げるのではなく新手のザクⅡへ突進していく。これを迎え撃とうとしたザクⅡは、態勢を立て直したサラミス級巡洋艦『コーヒーベイ』の主砲斉射を躱し、体勢を大きく崩した。

 青い天球を尾翼に描いたFF-4Cがそれを見逃すはずがない。

 1秒後、新手のザクⅡは9発の70mmロケット弾を全身に浴び、腰部と胸部ユニットの合間――動力パイプの結合部に受けた直撃弾が致命傷となって爆発四散した。

 

「あの1機に掻き回されてるッ! 青い星のやつだ!」

 

「こちら『コンセプシオン』。貴機のコールサインを報せ」

 

「『コンセプシオン』。こちらのコールサインは……」

 

「なんだ、混線してるぞ!?」

 

「こちらのコールサインは、地球(ジ・アース)だ」

 

 FF-4Cの尾翼に描かれているのは、地球を模した青い星と、走る黄色い流星。

 

 地球に(あだ)なす敵を撃つ、地球(ジ・アース)を彼らは一生涯忘れないだろう。

 

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