【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか―― 作:河畑濤士
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次回更新は8月3日を予定しております。
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(08小隊に登場したコア・ブースターがメガ粒子砲を廃していた理由がこれか)
と、俺は勝手に納得していた。
たった1回の出撃で航空宇宙第1統合戦闘団に配備された先行量産型コア・ブースター12機のうち3機が完全分解整備の必要性有りと判断されてメーカー送りとなった。残る9機も次の戦闘で4機がメガ粒子砲発射システムおよび複数のセンサー類が故障し、こちらも整備工場に送らなければならない状態になっている。
航空宇宙第1統合戦闘団に属する補給整備部隊の見立てでは、メガ粒子砲の連続使用によって砲身命数が短時間のうちに使い果たされ、さらにメガ粒子砲の射撃とともに大気がプラズマ化し、膨大な熱エネルギーがセンサー類に悪影響を及ぼすのではないか、ということであった。
これでは兵器としては駄作と評されてもおかしくはない。
が、地球連邦空軍――否、ビーム系装備を有するMSを配備できていない地球連邦軍からすると、現状この戦闘攻撃機は、敵MSを圧倒する数少ない正面装備である。航空宇宙第1統合戦闘団の稼働機が5機となったその翌日、10機のコア・ブースターが新たに届けられた。それだけにとどまらず、基地には航空機製造を得意とするハービック社や、メガ粒子砲の製造と小型化に関係してきたボウワ社の人間が派遣された。
「この調子ならジオンの連中も地球から蹴り出せそうっすね」
彼と俺の視線の先にあるのは、一言で言えば“巨影”だ。兵器としての未成熟さを感じさせる角張った肩部装甲と腰部装甲。しかしながら主腕には、75mm級以上とみられる長砲身機関砲が保持されており、見る者に力強さを感じさせた。そしてゴーグルタイプのセンサーカバーが、西日を反射している。
――RRF-06ザニー地上戦仕様。
鹵獲したMS-06をリバースエンジニアリングした産物とも、あるいはジオニック社との裏取引によって開発されたともささやかれている機体である。が、前線将兵からすればそんなことはどうでもよく、敵の主力MSと同程度のMSが開発・製造されていま眼前にある、ということが大事であった。
「これでイーブン」
と、ナイトー中尉は無邪気に言った。
ザニーは特に防諜の工夫もされず、バランキージャ基地に運ばれてきた。このあとは中米における
ちなみにサンダーチャイルドとは、19世紀に刊行されたSF小説において、熱線兵器と毒ガスで武装した火星人の機動兵器を撃破した英国海軍の駆逐艦の名前であり、連邦軍にとってはとっておきの固有名詞で、嫌でもジオン側の耳目を惹くものになっている。
(陽動だ)
地上における本命は当然ながらオデッサ、その作戦準備。と同時に敵の情報戦リソースを地上に振り向けさせることができれば、サイド7でスタートする試作MSの最終テストを隠蔽することがより容易になる。
(それから、ソーラ・システムだ)
ソーラ・システムの開発・製造時期については知らないが、その規模については知っている。必要とするミラーの枚数は3、400万枚であり、当然ながら耐弾性はまったくない。存在を知られれば容易に対策されてしまうだろう。
(もしかするとRX計画自体が、宇宙空間における壮大な“陽動”だったのか)
とも思ってしまう。この世界がどれくらい『機動戦士ガンダム』単体の設定から乖離しているのか(つまり後発作品の設定にどの程度寄っているのか)不明な節があるが、目の前にザニーが存在することを考えると、おそらく連邦のMS開発は08小隊やIGLOOシリーズに近い形になるのではないか。つまりWB隊のジャブロー到着を待たずして、宇宙では初期型ジム、地上では陸戦型ガンダムや陸戦型ジムが登場し、前線で活躍することとなる。
(陸戦型ガンダムが前線であれだけ動ける代物である以上、RX計画と実戦データの重要性というのは相対的に低下する。仮にWB隊がジャブローに辿り着けなかったとしても――)
が、大尉の身でそれを確かめる術はない。
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「連邦議員に対する根回しは成功したよ」
モニターに映る統合参謀本部副議長サヴェリオ・デ・モル空軍大将の言葉に、シルヴィア准将は頭を下げた。
「ありがとうございます」
「礼は私ではなく、地球連邦軍軍事予算経理局のジャミトフくんに言うべきだろうね。彼は一介の大佐ながら、政財界に多くのコネクションを有している。さて、これでピースメーカー計画はスタートするが、覚悟はいいかね」
「覚悟、ですか」
彼女は
戦争終結後、核戦力と抑止力の再整備を実現し、連邦市民を戦禍から守るための軍備計画――それはあくまで表向きのものだ。実際のところはまったく違う。まず100メガトン級の戦略核弾頭は最短で半年、かかっても1年で開発・製造される予定であった。
「閣下、失礼を承知で申し上げます。覚悟を固める段階は、とうに過ぎました。地球連邦から離脱したサイド3のスペースノイドは、地球連邦のサイド1、サイド2、サイド4、サイド5を大量破壊兵器によって攻撃し、地球に対して全面核戦争と同程度の災禍をもたらしました。このまま戦局が推移し、仮に彼らサイド3が降伏を申し出てきた際、我々はそれに値するだけの賠償を要求することができますか?」
「できないな」
サヴェリオ・デ・モル空軍大将の表情に苦いものが走った。
実は地球連邦軍上層部でも、連邦政府首脳部でも頭痛の種となりはじめているのが戦後処理である。地球からジオン軍を叩き出し、幾つかの宇宙要塞を攻略する途上で、ジオン側から敗北を認める形での終戦交渉が持ちかけられる可能性はおおいにある。そうして終戦が成った場合、あるいはサイド3における本土決戦を経て終戦となったとき、連邦市民は何をサイド3に、地球連邦政府に求めるだろうか――当然ながら、サイド3のスペースノイドによる贖罪だ。
(だが賠償は要求できない)
サイド3に対して賠償を要求できない理由は2つある。
ひとつは大真面目に賠償額を計算すれば、比喩なしにその額面は天文学的数字になり、百年単位かかっても払いきれるものではないこと。
もうひとつは歴史的教訓からだ。懲罰的な賠償を求めることは、スペースノイドの地球連邦政府に対する敵愾心を煽り、新たな戦争の火種になるだろう。
「つまり終戦後、サイド3は戦禍とは無関係のまま、そこに住まうスペースノイドは安穏とした生活を続けるわけですね」
「まあ、そうなる。そうするしかない」
「疲弊した他のスペースコロニーと地球を差し置いて、サイド3は無傷の工業地帯を背景に、宇宙でも有数の裕福なエリアになるでしょうね」
「……過激な思想だよ、それは」
ピースメーカー計画の真の目的は、“使うこと”にある。
が、彼女とサヴェリオ・デ・モル空軍大将の認識は、少しズレている。
サヴェリオ・デ・モル空軍大将はピースメーカー計画を“予備”として考えていた。
「ピースメーカー計画は、復讐のためにあるわけじゃない」
「勿論、理解しています」
「宇宙要塞ソロモンが完成すれば、これを真正面から陥とすのは無理だ」
連邦軍情報部によると、宇宙要塞ソロモンが有する火力規模と収容戦力はルナツーのそれとは比べものにならないほど巨大であるらしく、地球連邦軍上層部は通常戦力での攻略は不可能だと早々にさじを投げた。そこでソーラ・システムという新兵器の投入準備が進められているが、こちらはあまりにも脆弱であり、土壇場で使用できないという可能性もあった。
そこで計画を強く推進するサヴェリオ・デ・モル空軍大将や、ピースメーカー計画に賛成も反対もしなかった統合参謀本部副議長とヨハン・エイブラハム・レビル地球連邦軍最高司令官は、対要塞戦の効果的なカードのひとつとして100メガトン級戦略核弾頭を欲したのである。
当然ながら、核弾頭の使用は南極条約に違反するが、約束というのは対等な立場だからこそ成立するものだ。
(1回きりの騙し討ちで戦争を終結させられるなら安いものだ)
サヴェリオ・デ・モル空軍大将はそう思っている。相手が核戦争を準備していない状況でこちらが先に仕掛けることができれば、ジオン側の大量破壊兵器を一挙に全滅させることも可能だろう。しかしながら、サイド3に対して全面核攻撃しよう、というところまで彼は考えていない。
(彼女は危険だ。が、厄介なことに彼女は空軍の人間ではないし、そのうえ背後にはハービック社が控えている)
とはいえ彼はシルヴィア准将との間にあるズレを、そこまで深刻には考えていなかった。
なにせ彼女だけでは核弾頭は使えない。
たとえば戦略ロケット軍では、核弾頭は戦略ロケット軍中央司令部と前線司令部、現地の前線指揮官と次席の指揮官が発行する起動コードがなければ、発射できない仕組みとなっている。
それを範としてピースメーカー計画もまた、複数の将官が同意のうえで発行する起動コードがなければ使用できないセキュリティシステムを導入する予定となっていた。