【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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■31.FF-7Bst(4)

 未だ戦車さえも発明されていない19世紀、英国に落着した多脚型機動兵器は化学兵器と熱線兵器によって英国軍を駆逐、大英帝国の首脳陣に「ロンドンを防衛できない」と言わせるに至った。逃げ惑う市民たちは英国脱出のため、港に向かい、そこに絶望を見た。漆黒の瓦斯と純白の熱線で武装した殺戮機械、多脚型機動兵器3機の出現。恐怖する市民――そして続けて現れたのは、英国海軍駆逐艦『サンダーチャイルド』であった。戦艦のような強力な主砲も、装甲板もない彼女が採ったのは吶喊。奔る熱線が海面を薙ぎ、その水蒸気に紛れるように急接近した彼女は至近距離からの砲撃で敵機動兵器1機を沈める。さらにその身に熱線を浴びながら、もう1機に突進してラムアタックでこれを撃破した。

 

 以上は、西暦1898年に刊行された古典『宇宙戦争』の一幕である。

 

 そしていま発動した反攻作戦(オペレーション)“サンダーチャイルド”は、火星人の機動兵器に立ち向かう駆逐艦『サンダーチャイルド』よりも勝算のある戦いであった。なにせ地球連邦軍には、敵の機動兵器と同規模の機動兵器がある。もちろん、火力の面でいえば、本来ならば曲射を是とする野戦砲の待ち伏せ攻撃を決行する英国軍よりも、はるかに恵まれていた。

 しかしながら、地球連邦軍にとって余裕があるわけでもない。特に今回の作戦では、数十機のミデア戦術輸送機が重要な役割を果たす。もしも失敗すれば、この多数のミデア戦術輸送機を喪失し、今後の兵站維持が危うくなる恐れがあった。

 

「サイド3からの観光客のみなさーん」

 

 それでも中米における大規模反撃は、地球連邦軍の電子攻撃から始まった。

 

「こちらは航空宇宙第1統合戦闘団(エンタープライズ)アメリカ支局。そして本日のゲストは地球(ジ・アース)! ところでみなさん、連邦発行の観光ビザはお持ちでしょうかぁー」

 

 古典的な電子攻撃が、ジオン側の無線通信やレーダーをノイズで埋め尽くす。

 電子戦用装備が施されたコア・ブースターと数機の護衛機が中米、その高空を遊弋する。強力な妨害電波の源となる彼らは、嫌でも目立つ。釣り出されるように上がってくるスクランブル機のドップを、メガ粒子砲の狙撃が射抜いた。空中哨戒中の敵機もまた、コア・ブースターから成る航空宇宙第1統合戦闘団へ攻撃に向かう。長距離空対空ミサイルが白煙を曳いて襲いかかったが、青い星が翼に描かれた電子戦仕様のコア・ブースターは、2基の熱核ジェットエンジンと4基の熱核ロケットがもたらす埒外の高速力でこれを容易く振り切る。それでも航空部隊の面子を保つため、ジオン側は新手の制空戦闘機を彼らにけしかけた。

 

(それでいい)

 

 敵戦闘機は囮に食いついた。地上から指揮を執るレビル地球連邦軍最高司令官や、洋上からこれを支援するジオンコロスノダイスキー海軍中将は思惑どおりに進む事態に満足げに頷いた。

 ドップが撃墜されて生じる火球の遥か遠方に、ミノフスキー粒子散布器を備えたミデア戦術輸送機が現れる。その針路に合わせて生成されるのは、電波による索敵を遮断する緞帳。そしてその不可視のカーテン、いま舞台に躍り出ようとしているのは、今次大戦の主役であった。

 FF-6C・TINコッドとコア・ブースター、フライマンタ戦闘攻撃機のエスコート。続けて現れるのはジオンコロスノダイスキー海軍中将が座乗する航空母艦『オーシャン』から発艦した大型輸送ヘリの群れ。

 その遥か頭上を、巨影が追い越していく。

 朝日を背負うミデア戦術輸送機の縦隊。

 

「空襲、また来るぞ!」

 

 ジオン側が占拠する地上は、混乱の最中にあった。強力な電波妨害を受けるとともに破壊工作員が浸透していたのか、有線の通信網もまた切断された。と同時に激しい空爆――頭上を飛び越していく機影と噴き上がる爆炎が、ジオン軍将兵の首を竦めさせる。

 

「キャノン、出るぞぉー!」

 

 カリブ海に面する旧メキシコ領西部の航空基地では、格納庫からMS-06Kザクキャノンがのっそりと姿を現したところであった。すでに2本ある滑走路の脇では、レーザー誘導爆弾の直撃を受けた自走対空機関砲車輌が無残な姿を晒している。ザクキャノンは上空を仰ぎ、対空榴弾を装填した肩部180mm砲を天へ指向する。その2秒後、ザクキャノンはメガ粒子砲の奔流を浴び、溶解した内部部品をぶち撒けながらうつ伏せに倒れていた。

 

「対空砲では限界がある――」

 

 航空基地の守備に廻されていたMS-06JザクⅡを駆るヴァンサン・ド・グルベニコフ大尉は、コア・ブースター目掛けて120mmザクマシンガンを連射していた。といってもそれは撃墜するためではなく、自身や部下を守るための射撃であった。

 

(連邦の重戦闘機は脅威だが、メガ粒子砲は進行方向と同期している)

 

 つまり敵機に回避を強いている間、あの必殺のメガ粒子砲の餌食になることはない、ということだ。

 

「これジリ貧ですよ!」

 

 グルベニコフ大尉の部下は自機を跳躍させて、70mmロケット弾の集中豪雨を回避する。地表から数十メートル離れた空中に浮かんだザクⅡは、スラスターを切って自由落下に移ろうとする。が、それはかなわなかった。

 

「え、撃たれ、撃たれでえ゛え゛」

 

「ベルナールッ!?」

 

 100mm徹甲焼夷榴弾が右脚部の動力パイプを吹き飛ばし、腰部装甲を貫徹し、胸部正面装甲を叩き、肩部装甲を拉げさせ、頭部ユニットを爆ぜさせた。遅れて腹部のあたりで小爆発が起こり、バランスを崩したザクⅡは激しく地表に叩きつけられた。

 

空中強襲(エアボーン)ッ!」

 

 グルベニコフ大尉はコア・ブースターから視線を切り、モノアイカメラを左右に素早く動かした。それから彼は自身の網膜に、光輝(こうき)背負って迫る――減速用のパラシュートを切り離してもなお高速の機影を見た。マズルフラッシュが瞬き、彼は本能のまま機体を跳躍させ、回避機動に入った。

 

「連邦のモビルスーツ、だと!?」

 

 飛来する100mm弾とともに、航空基地に隣接する雑木林に人型の巨影がその身を割りこませる。

 それも、1機や2機ではない。

 最初に降り立った4機のRRF-06ザニー地上戦仕様は、速やかに体勢を立て直し、ルナ・チタニウムの大盾と100mmマシンガンを構え、そのまま走行移動(ラン)に移る。

 それに遅れて4機のザニーが着地し、反撃を試みる敵機を睨んだ。彼らはみな100mmマシンガンの2丁持ち。その後背、虚空には180mm中隊支援砲や、砲身下部にグレネードランチャーを装着した100mmマシンガンを握るザニーたち、それからロケットランチャーを背負ったファンファンの群れが控えている。

 

「敵の態勢が整う前に潰すぞ!」

 

 グルベニコフ大尉機とそれに続いた2機のザクⅡは勢いに呑まれぬよう、ザクマシンガンを連射しながら突進。が、前衛のザニーは退くことなく、むしろ前進。真正面から120mm徹甲榴弾を盾で防ぎ、シールドの裏で100mmマシンガンを手放した。と、同時にシールドの裏面に格納された柄が展開する。

 

「ヒートソード」

 

 シールドから引き抜かれるのは柄と鍔、そして僅かな長さの実体刀身。

 

「オープン」

 

 それを掴んで振り上げた右腕は、振り下ろす前に赤橙(せきとう)の刃を延伸生成。そのまま長大なプラズマの塊は、最先頭のザクⅡを捉えた。そうして頭部の上面装甲を分かち、頭部のセンサー類を蒸発させ、胸部の半ばまで溶断した。

 その脇では未だ格闘戦に不慣れな連邦兵――ケリー・コックス・ラングストーン少尉が操るザニーが盾を力任せに右へ振るってザクⅡの体勢を崩し、そのまま機体を右回転、その勢いでヒートソードを横薙ぎに振るい、敵機を上半身と下半身とに両断した。

 最後の1機は格闘戦すら許されず、横合いから飛んできたメガ粒子砲の狙撃によって、爆発四散した。

 その残骸を足蹴にしながらヒートソードを収納するザニーは、その間も頭部の60mmバルカン砲を薙射(ていしゃ)する。60mm対非装甲目標用榴弾は、格納庫脇に止まっていたトラックをぐしゃぐしゃに破壊し、逃げ惑うジオン軍将兵を粉砕し、まだ生き残っていた12.7mm機関銃座を吹き飛ばした。

 

「……」

 

 60mmバルカン砲のトリガーを弾くアリス・ベル・マーティン陸軍大尉は、ザニーの脅威判定装置が報せる目標を照準していく。褐色の横顔にあるのは、無表情。回転する砲身ががなり立てる砲声と振動で、操縦席上面のコントロールパネル脇にぶら下がるハワイ製の古ぼけたお守りが揺れている。

 レーザー誘導爆弾が基地施設に次々と落着し、閃光と爆炎が生じる。

 

――“確保する”。

 

 応射がなくなったことを確認したアリス陸軍大尉は、後方の部下に右手でハンドサインを送った。彼女たちの任務はミデア戦術輸送機から空中強襲をかけ、この航空基地の2本ある滑走路を確保することだった。それさえできれば、何をしてもいい。彼女の部下はすべての動くものと、動くものがいそうな建物すべてを砲撃し始めた。

 アリス陸軍大尉機が赤い信号弾を上げる。続けて緑の信号弾。

 少し遅れて大型輸送ヘリの隊列が、基地に近づいてきた。大多数は歩兵部隊や装輪車輌を積んでいるが、数機は火砲をスリングで吊り下げている。また空挺戦車を載せたパレットを格納したミデア戦術輸送機も近づきつつあった。







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次回更新は8月7日ごろを予定しております。
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