【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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次回更新は8月12日ごろを予定しております。




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■32.FF-7Bst(5)

 月が見下ろす丘陵。

 周囲に広がるのは遮蔽物のなき平原。

 丘陵の中腹、よく隠蔽された戦車壕から覗く砲口が、発射炎で輝いた。マゼラアタックの集中射。高速飛翔体接近警報が鳴動し、サルバドール・ラモス陸軍少尉機は無数の弾痕を纏ったシールドを掲げたが、175mm徹甲弾はそれを貫徹し、それだけにとどまらずシールドを保持していた左主腕を射抜いた。弾ける火花。自機の片腕とシールドを失ったラモス陸軍少尉は叫んだ。

 が、それは恐怖の叫びではない。

 ラモス陸軍少尉機は片腕で保持する100mmマシンガンを連射し、前方を制圧しながら駆け出す。無謀な突撃――それを無謀なまま終わらせないのが、連邦軍の徹底した諸兵科連合だ。

 再び隻腕のザニーの前方で、橙色の光が連続して閃いた。それと同じタイミングでラモス少尉機に、キム・ウォンジュン少尉機が追いつき、シールドを掲げて自機とラモス少尉機をカバーする。響き渡る金属音。弾かれた弾頭が地表を抉る。

 さらにその2機に、もう2機が跳躍の連続で追いつき、その4機に残る8機が追いつく。ただこの8機は駆けてきただけではない。彼らがばら撒いてきた発煙弾が展張した煙幕の中を、空挺戦車と歩兵戦闘車が鏃の陣形で突き進む。

 それを睥睨するマゼラアタックと、機体の大部分を稜線に隠したザクⅡたちは動揺せずに照準を修正する――迫る敵MSの遥か後方で幾つもの発光信号が送られていることに気づかないまま。

 

「ミノフスキー粒子があっても、戦場の女神サマは俺たちに微笑むっての」

 

 発光信号で送られたのは、1字のアルファベットと2桁の数字のみ。それだけで120mm重迫撃砲が咆哮し、130mmロケット弾が敵火点を制圧するために押し寄せた。

 朦々と巻き上がる土煙。その中から砲塔(マゼラトップ)が飛び出す――その数秒後、飛来した空対空ミサイルの直撃を受けて175mm戦車砲を備えた簡易航空機は爆散した。

 続けてザニーの群れが跳躍し、一気に稜線上まで躍り出る。

 夜闇に浮かぶ人型の影。

 見上げるザクⅡも見下ろすザニーもプラズマの刃を虚空に生み出した。

 

「これより30分後にわれわれ地球連邦軍はモンテレイに駐屯するジオン軍を攻撃します。市民の皆さんは近隣の病院、学校に避難してください。繰り返します。われわれ地球連邦軍はモンテレイに駐屯するジオン軍を攻撃します。市民の皆さんは近隣の病院、学校に――」

 

 中米全域において地球連邦軍は兵站とそれが維持する諸兵科連合の攻撃で、淡々とジオン軍を追い詰めた。

 MSを含めた彼らがジオンの尖兵を鮮やかに撃破できたのには、ふたつの要因がある。

 ひとつはMSという兵科に転科した陸軍の操縦士たちが、1日24時間という時間のうち、生理現象をこなす以外のすべての時間を訓練に宛てたことにある。中でも注力したのは、対MS戦と中隊・小隊規模での連携だ。歩行から姿勢制御、回避まで、粗方は自動操縦でもこなせる。が、これだけは人間の頭脳がやらなければならない。

 他方、ジオン軍のMS乗りは操縦については慣熟している者が多いが、未だ対MS戦闘については考えすらしていない。

 つまり対MS戦という観点でいえば、ザニーを操る連邦陸軍将兵はザクⅡを操るジオン軍将兵に決して劣っていない。

 もうひとつの理由は連邦空軍・連邦海軍が航空優勢を譲らず、ジオン軍の航空戦力を駆逐したことで、MSを駆る機動戦士たちに歩兵科・砲兵科・機甲科・工兵科といった従来の戦闘職種が追随できたためである。

 一方でHLVを主とする貧弱な補給線しかもたないジオン軍側は、MSを主体とする機動部隊を維持するのがやっとであり、余力がない。その状況で地球連邦陸軍の憎悪と鉄量がぶつけられた格好だ。

 

「市民の皆さん、地下室があれば地下室への避難を推奨します。また戦闘開始後に移動する場合は、必ず徒歩での移動をお願いします。また白いシーツや白いシャツでつくった白旗を――」

 

 地球連邦軍の攻撃が鈍るのは、ジオン軍が市街地に後退したときだけである。

 連邦陸軍は市街戦を嫌う。それは多数の市民が傷つく可能性があるからであり、そうした人道的な理由だけでなく、ともすれば連邦陸軍の崩壊に直結するかもしれないからだった。地球連邦軍将兵の過半数の士気は極めて高い。それはなぜかといえば、亡くなった著名人、友人、家族の復讐と、緒戦の戦禍を経てもなお無事に暮らす人々の生命を守る、という強い意志があるからである。

 さらに連邦陸軍は様々な人種・宗教・文化が同居する組織であり、一地方都市であっても市街戦を雑に始めれば、どんな民族間問題が生じるかわかったものではなかった。

 

 ◇◆◇

 

 地球連邦軍は歴史的変革期を迎えようとしていた。

 大艦巨砲主義・航空主兵からの即応機動主義・MS主兵への転換である。

 この変革を最初に受容し、推進したのは地球連邦宇宙軍だった。

 というよりもそうせざるをえなかった。

 開戦前、地球連邦宇宙軍はメガ粒子砲を有するマゼラン級戦艦を主力とする数個の宇宙艦隊を整備することで、分離主義者に対する抑止力として働かせ、小艦艇と艦上戦闘機部隊をパトロール部隊に編成し、宇宙空間の治安維持に努めてきた。

 が、1週間戦争において宇宙軍は大敗を喫し、長距離砲撃能力の高い艦艇を多数失い、艦上戦闘機部隊もまた壊滅状態に追いやられた。その状態から宇宙軍を再建する、となれば同じ轍を踏まないのは当然――現在、地球中の軍事工廠では新たな建艦計画の下、MSの収容能力を備えた“後期型”のマゼラン級宇宙戦艦、サラミス級巡洋艦の建造が進められている。戦前にもマゼラン級宇宙戦艦を改装した航空母艦や、コロンブス級といった戦闘機収容能力を有する艦艇はあったが、より戦闘機・MSの運用に特化した強襲揚陸艦の建造が始まっていた。

 また編制上に名前が残っているだけの(つまり部隊構成員全員が宇宙に散った)戦闘機部隊については解体。1週間戦争から現在まで生残した戦闘機部隊も統廃合し、支援職種の人間は新設されるMS部隊の司令部・本部・後方部隊に廻す。パイロットたちはMS操縦適性・空間認識能力が高い者を、というよりもMS操縦適性が低い者を弾いて、MS部隊に異動させた。

 

 地球連邦空軍においても同様に改革が始まっていた。

 といっても宇宙軍ほどではない。

 開戦前、空軍の戦闘機部隊は地球とスペースコロニー内の、つまり1Gに近い重力環境下における治安維持を主な任務としていた。

 ところがいまそのスペースコロニーの過半数がジオン軍の攻撃によって失われ、1週間戦争を生き残ったコロニーは戦禍を免れるため、中立を宣言している。そのため空軍は生残したスペースコロニー駐屯部隊の人的・物的リソースすべてを地球に降ろしていた。他方、空軍の内部では新たな勢力が伸張しつつあった。

 

――宇宙軍、陸軍、海軍と同様に空軍もまたMSをもつべきだ。

 

「陸海空協同のサンダーチャイルド作戦がなまじ上手くいったばかりに妙な話になってきた」

 

 シルヴィア宇宙軍准将が愚痴っぽく言うので、賛同とも反対ともとれない曖昧な相槌を打った。航空宇宙第1統合戦闘団司令部には、例のごとく彼女と俺しかいない。機密の話をする際に彼女がわざわざ人払いをしているのか、それとも彼女が周囲の人間に避けられているのかは知らないが。

 

「空中強襲と地上からの低軌道邀撃を専門とするMS部隊、か。空挺作戦は陸軍の仕事だと思っていたが。西暦の頃、空軍が空挺部隊を保有していたことがあったのか?」

 

 シルヴィア准将の問いかけに、記憶を巡らせてから答えた。

 

「第2次世界大戦の頃にドイツ空軍は複数個の空挺部隊を有していました」

 

「ふうん」

 

 シルヴィア准将は小首を傾げて「妙な話だ」と再び言った。

 空中強襲が陸軍の仕事なのか、空軍の仕事なのかはともかくとして、空中強襲用MSというアイデアは悪くない。大気圏内でMSを高速で敵前まで輸送機等で運ぶ必要のある空中強襲は、高価値の輸送機を危険に晒すかなりリスクのある作戦だし、他の手段を使うにしても地表に到達するまでに敵の砲火に晒される時間が長くなりがちだ。単機で航空基地や航空母艦から高速飛翔して敵前まで移動、速やかに戦闘に移行できるMSはあったほうが便利ではある。

 

 ……。

 すでに空軍の空中強襲型試作MSの開発は始まっている。

 といっても現時点では、大型化したコア・ブースターの翼下に、ライフル型メガ粒子砲を保持するため、橙と白のツートンカラーのザニーの両腕を流用した武器腕(ファイアアーム)を備えた機体にすぎない。試作MSの開発プラン、というよりはコア・ブースターの改良プランでしかない。

 が、空軍としてはこれを漸次改良し、大気圏内における超音速飛行と地上戦闘が可能な戦闘機型MSを完成させるつもりであり、最終的には可変機構を有する戦闘機、あるいはMSを造ろうとしていた。しかしながら結果はどうなるかわからない。空軍関係者はこの難解かつ地球連邦軍の技術の粋を集めたこのプロジェクトと機体を、Arcane(アルケイン)と名づけた。

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