【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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次回更新は8月28日を予定しております。



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■37.加速しはじめた誤解。

 アルキー・オーゲン・バイエルン大佐でもあり、アレクサンデル・カフェルニコフ中佐でもある男は得られた情報を吟味した。彼は人を陥れるために仕事をしているわけではなく、地球連邦軍の勝利のために仕事をしている。情報保全から尋問、諜報活動はあくまでも地球連邦軍の勝利のための過程、手段でしかない。情報保全を厳として損失を生めば、それは本末転倒である。

 

(シルヴィア准将はグレーだ)

 

 彼女は海軍・空軍・宇宙軍・戦略ロケット軍、様々な将官や技術者と交流をもっており、その過程で職種上知るべきではない情報を得ている。が、彼女は地球連邦軍の勝利に寄与する人間であり、積極的に拘束するべきではないと、情報部もその上位機関も判断している。前線指揮官であるため、敵の捕虜になる可能性はある。しかしながら、漏洩したが最後、致命的な事態を招く情報――たとえばガンダムの設計図であったり、他軍種の暗号表であったり――を握っているわけではない。

 

(しかし、ノイジー大尉は)

 

 結論からいえば、白である。

 

 盗み見られてもわからないように彼の筆跡は非常に汚いが、メモの内容は真摯である。

 

■ストライクはガンダムという名称はつかないが、ガンダムである(本人)

 

■劇中でガンダムと呼ばれなくとも、事実上のガンダム(本人)

 

(大尉の云うガンダムとは、おそらくメガゾードと同じだ)

 

 メガゾードとは、パワーレンジャーシリーズにおける戦闘メカの総称だ。単一の特定の戦闘メカを指し示すものではなく、そのシーズン、シーズン、作品における主役級の戦闘メカに使われる名詞である。一種のお約束、と言ってもいいかもしれない。

 

(パワーレンジャー・スペースフォースのスペースメガゾード……)

 

 男も二十数年前は息子のために、毎年毎年名前が変わる■■ゾード、■■メガゾードを購入していたような気がする。

 

(パワーレンジャー・ファイブソードのソードダンスメガゾードじゃ酷い目に遭った――)

 

 話を戻す。

 ノイジー大尉は軍事機密の“ガンダム”について何も知らない、というのが彼の結論だった。おそらく“ガンダム”という未知の言葉を聞いて混乱した彼は、ガンダムをロボットの総称として語り出したのだろう。一応、彼は仕事に対して非常に真摯であるため、彼が語ったロボットの名称をすべて書き記していた。

 

■ストライク・ガンダム

 

■ブリッツ・ガンダム

 

■ドラエモン・ガンダム

 

■スティール・メイデン・フソー・ガンダム

 

■ガオガイガー・ガンダム

 

■スプー機動・トリンカー・ガンダム

 

■デモンベイン・ガンダム

 

■イングラム・ガンダム

 

■PLD X-4RR・ガンダム

 

 ◇◆◇

 

 

 

『機動戦士ガンダム』の本編の始まる9月が、連邦軍病院で無為に過ぎていく。といっても俺は入院していようがいまいが、もとより積極的にホワイトベース隊にかかわるつもりはなかった。非情に徹する必要があった。ホワイトベース隊には激戦を通して成長してもらわなければならない。

 

(俺みたいなオールドタイプは、ニュータイプにどうあがいても勝てない……)

 

 スポーツも戦闘も、人は相手の挙動から次の瞬間に起きることを予想する。たとえばテニスならば手腕の使い方とラケットの角度から次の球種を予想するだろうし、空中戦では敵の翼の動きやパイロットの頭の動きで、敵の次の機動が予想できる。MS同士の戦闘もまた相手の挙動と砲口の向き――要は予備動作から次の敵の動きを予想できるだろう。

 それがオールドタイプの限界だ。

 一方、高い共感性・感受性・洞察力を有するニュータイプは、その予備動作が生じるよりも早く相手の動向を察知することができるのだろう。

 奇策とよほどの幸運がなければ勝てる相手ではない。それこそ天賦の才を有し、十分な戦闘経験を得て、ニュータイプとしての能力を磨いたアムロでなければ、ジオン側のニュータイプを撃退するのは難しかろう。

 

(……)

 

 WB隊に対する後ろめたさを無視しながら、俺はベッドの上で窓の外に広がる空を眺めていた。色彩はベビーブルー、といったところか。戦闘機乗りとしていまの俺にできる最大のトレーニングは、外を眺めることである。

 空を横切っていく鳥の影を追っていると、ノックの音がした。

 

「私だ」

 

 こんな物言いをする人間は、ひとりしか心当たりがない。

 

「どうぞ」

 

「だいぶよくなったか」

 

 シルヴィア准将は腕組みをしたまま、見舞い客用の椅子に座った。

 

「ええ。だいぶ痛みも引きました。あと数日したら筋トレでもしたいですね」

 

「それがいい、体は容易く衰えるからな――私のほうも大分落ち着いてきた」

 

 浜松基地への奇襲によって、地球連邦軍航空宇宙第1統合戦闘団は大損害を被った。緊急発進機をはじめとした配備機体はすべて全損。それよりも深刻だったのは、人的被害である。

 あの晩に緊急発進の当直についていたドミニク大尉をはじめとしたパイロットは全員が死亡、あるいは任務中行方不明。また敵の攻撃が業務官舎のみならず、生活隊舎にも直撃したため、電子戦担当士官(ECMO)のトリクシイ少尉をはじめ、非番だった隊員や後方支援要員の中からも死者が出ている。

 部隊から死者、任務中行方不明者が出た際には、当然ながら遺品の整理や遺書の回収、遺族への戦死状況の通知を行わなければならない。こうした業務は主に葬儀事務連隊が行うが、こうした業務にかかわる調整には戦死者のことをよく知っている部隊長の存在が欠かせない。この数日、彼女は忙殺されていた、といっていい。

 

「……新たな隊員は補充されますか」

 

「そうなるだろう。が、航空宇宙第1統合戦闘団の新規機体配備と隊員の補充は宇宙で行われる予定だ」

 

「宇宙、ですか」

 

「ああ」

 

 地球連邦軍航空宇宙第1統合戦闘団の新たな戦場は、宇宙――このタイミングで地球から宇宙に上がるということは、オデッサ攻略戦やジャブロー防衛戦には参加せず、制宙権の確保や、ソロモン攻略戦、ア・バオア・クー攻略戦に身を投じることになるのだろう。

 

「敵の要塞線をぶち抜くための前哨戦にでもなりますかね」

 

「そうなるだろうな」

 

 シルヴィア准将はそう頷き、少し逡巡した様子を見せてから、再び口を開いた。

 

「貴官はニュータイプの存在を信じるかね」

 

「ニュータイプ、ですか」

 

 戸惑った、というよりも彼女の口からその単語が出たことに警戒心を覚えた。

 

「上級司令部の人間が、貴官が従来の人間とは異なる力を有する、いわゆるニュータイプなのではないかと口にしているのを聞いた」

 

「まさか」

 

「まさか? 常々私は貴官に謙遜するなと言っている。MSの操縦適性が高いというわけでもなく、浜松基地の一戦では十数分のうちに6機の敵MSを撃破、3機の敵MSのメインウェポンを無力化した。開戦以降から今日に至るまでの総撃墜数は、地球連邦軍の中でも5指の中に入る。常人にできることではない」

 

「それでもニュータイプじゃありませんよ」

 

「そうかな」

 

「敵機を数多く撃墜できることがニュータイプだとは思いません。もしもニュータイプというものが実在するのであれば、それはもっと精神的な、革新的な――」

 

「そのとおりだ」

 

「それじゃあ自分はニュータイプじゃありませんよ」

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙が続く。

 

「はっきり言おう」

 

 やはりその沈黙を破ったのは、シルヴィア准将の側だった。

 

「貴官の精神性は異常――いや、従来の人間(オールドタイプ)の精神性を大きく逸脱している」

 

「どこがです?」

 

「貴官は自身の死を恐れていない」

 

「そんなことはないですよ」

 

「謙遜――ではないな。本当にそう思っているのか?」

 

 シルヴィア准将の問いかけに、俺は小首を傾げた。

 

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