【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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次回更新は9月2日を予定しております。

次回から宇宙の戦いを描いていく予定です。



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■38.転生者(ニュータイプ)

 ガルマ・ザビの国葬と今後の情勢についての特集を、病室のテレビは垂れ流している。

 

 アルケインなるMSの急上昇、急降下によって生じた戦傷もほとんど癒えるとともに始まったのは、取材責めであった。地球連邦軍広報部や地方放送局・地元新聞社の取材から始まり、あとはよく覚えていない。極端な快も不快もない。気をきかせた広報官――目の前で見舞客用の椅子に座っている初老の男、鬼威燦太広報官――が、質問の内容や向こうが聞き出したい話を事前に確認して教えてくれたのは助かったが、面倒くさいことには変わりない。が、相手も仕事である。あまり不機嫌な顔や非協力的な態度をとるのもかわいそうだと思った。

 

「どうですか、自分のやったことが称賛されるのは」

 

「あまり面白くはないですね。向こうも仕事でしょうし」

 

 元・空軍大佐とは思えない、くたびれた感じの鬼威広報官の質問に、正直に答えた。

 

「大尉は淡泊ですな」

 

「連邦軍はエースパイロットといった“個”の煌びやかさを嫌うものだと思っていました」

 

「そんなことはないですよ。貴官に対する広報部の評価はうなぎ登り。我々はチャンスさえあれば、いつでも部隊や個人の奮闘を広く発信したいと思っているのです。チャンスさえあれば、ですが」

 

 成程、と合点がいった。

 

「つまりエースパイロットは激戦地にいるか転戦を繰り返しているので、取材が難しいというか――しない、ということでしょうか」

 

「連邦軍広報部の原則、方針としてはそうです。作戦に優先される広報はない、というわけです」

 

「逆に言えば普段どおり戦えない分、広報に協力しろと」

 

「これは手厳しい」

 

 ははは、と鬼威広報官は笑った。

 

「浜松市長への表敬訪問をセッティングしたのも鬼威さんですか」

 

「ええ。しかし、あれは浜松市長の意向によるところが大きいです」

 

 最も面倒くさかったのは、浜松市長への表敬訪問であった。浜松基地防衛戦において挙げた戦果を報告し、浜松市長から直々に励ましのお言葉をいただいたが、一言で断ずるならば儀礼的なものであり、面白くはなかった。加えて押しかけた報道陣の前で「浜松出身の彼が、この浜松を救った。これこそ浜松の自由民主主義教育の成果であり、勝利であります」と彼が演説をぶったのには驚いた。

 

「が、我々からすると、貴官のことを思ってのことでもあるのですよ。いわば親心というやつです」

 

「そうなんですか?」

 

「浜松市長のお父様、どなたかご存じですか?」

 

「知らないです」

 

「極東エリア選出の地球連邦議会議員――」

 

「えっ」

 

「縁起のいい話ではありませんがね、今回のように何かあったときのことを考えて、顔をつないでおくことも大事ですよ。私なんかもう頸椎から腰椎までやっちゃってますからね。人生は長いですから」

 

「それは――ありがとうございます」

 

「いえいえ。それに私は広報の人間としても、元・空軍大佐としても、ひとりの人間としても感謝してるんですよ」

 

「はあ」

 

「コロニー落としで億単位の犠牲者が出たあと、そして浜松に敵が来て街で暴れ回ったとき、貴官の活躍はまさに希望の灯火でした。ざまーみろ、空軍だってやってやれるのだ、と。最近、巷ではニュータイプ、ニュータイプと騒がれますが、貴官のように周囲の勇気を奮い起こす人間のことをニュータイプというのかもしれませんねえ……」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

(ニュータイプ、か)

 

 統合参謀本部副議長のサヴェリオ・デ・モル空軍大将は、レポートに目を通した。そこには数週間前に生起した浜松基地防衛戦にて3機のMSを無力化、加えて6機のMSを撃破したエースパイロットの名前と経歴、信仰する宗教、人物評まで載っていた。

 いま地球連邦軍の内部では“ニュータイプ”がちょっとした話題になっている。

 もともと連邦政府高官や連邦軍将官は、ニュータイプの存在に対して極めて懐疑的であった。所詮はジオン共和国を建国したジオン・ズム・ダイクンが提唱したプロパガンダか、それに端を発した代物であり、宇宙移民の優位性を強調づけるための架空の存在にすぎない、という評価だった。

 ところが一年戦争開戦後、ジオン側がニュータイプの軍事利用を研究するフラナガン機関を中立コロニー・サイド6に組織する前後で、地球連邦軍の将官、参謀の間でもニュータイプの捜索と研究、対策に着手すべきだという意見が出るようになった。MSという新兵器によって大敗を喫した彼らに、敵が研究をはじめた分野を黙殺する、という選択肢はなかったのである。地球連邦軍もまたオーガスタ研究所を組織し、ニュータイプの研究を開始した。

 が、ニュータイプの素養を有する者は極めてまれである。

 そのため地球連邦軍は軍種を問わず、従来の人類に存在しない能力を有する――ニュータイプの片鱗を見せる者を捜索していた。

 

(高等学校卒業後、地球連邦軍空軍に航空生徒として入隊。ウィングマークを取得後は大気圏内戦闘機操縦教育課程および空間戦闘機操縦教育課程を修了。その後、スペースコロニー内部の航空管制支援および航空路警備を主任務とする戦闘機部隊に配属)

 

 レポート上の経歴を見る限り、平々凡々とした戦闘機パイロットの人生である。

 重大な軍規違反はない。もちろん精神疾患の類は皆無だ。

 開戦以降の戦果については言うに及ばず、である。

 

(が、奇妙な性格をしている)

 

■戦闘においては危険な戦闘機動を忌避しない

 

■地球圏ピンポンダッシュ作戦から浜松基地防衛戦に至るまで、航空宇宙第1統合戦闘団のパイロットは作戦中に9名戦死しているにもかかわらず、その戦死者をまったく認識していないか、あるいは戦死に対する反応が極めて希薄である

 

■旧世紀(西暦時代)の戦史、テクノロジー、サブカルチャーに精通している

 

■今世紀(宇宙世紀)の戦史、テクノロジー、サブカルチャーについては一般的知識しかない

 

 

 彼に対して実施された医学的検査では、ニュータイプにみられる特殊な脳波といった科学的証拠はいっさい得られなかった。が、一方で地球連邦軍情報部のプロファイリングでは、彼は一般的な地球連邦軍将兵とは異なる価値観、死生観を有しており、そういった精神的な側面では従来の一般的な成人男性とは異なる精神構造の――いわばニュータイプにあたる、と結論づけられていた。

 

(確かにガンカメラの映像を見たことがある)

 

 他の軍種の人間ならばいざしらず、空軍の人間ならば、わかる。

 

「ここは突っこめない」

「ここで引き起こさないと死ぬ」

「ここで止めないと意識が飛ぶ」

 

 と、直感でセーブをかける、恐怖を覚えるような操縦を連続してこなす。

 が、死生観が根本的に違い、死に対して恐怖を覚えていないのならば、確かに肉体と機体が限界を迎えるギリギリの戦闘機動が可能である。加えて戦闘に伴う恐怖や焦りがないのであれば、そうでない周囲と比して相対的に有利になる。

 

(輪廻転生、か)

 

 また地球連邦軍情報部は、数度に亘る聴取の結果、彼が仏教の諸派にみられる輪廻転生を強く意識しているのではないか、と結論づけていた。

 

(確かに死んでも“次”がある、と思えば)

 

 が、狂人だ、ともサヴェリオ・デ・モル空軍大将は思う。

 実際に輪廻転生を経験しているのであればともかく、死後の世界とその展開など非科学的な理論上の存在でしかない。その程度の思いこみで、自己保存の本能を殺しきれるはずがないのだが、それができるからこそ彼はエースパイロットであり、ニュータイプではないかと話題に上っているのであろう。

 

(しかし“次”がある、という思想は、危険だ)

 

 むしろ逆に、彼が高い士気と地球連邦に対する忠誠を維持できていることが驚きである。情報部によれば、彼は敵味方戦闘員の死傷に対しては極めて淡泊だが、非戦闘員の死傷については極めて強烈な怒りを露わにするという。どうせまた生まれ変わるのだから、いくら死んでもいいだろう、という反社会的な域にまでは達していないということだった。

 

(激情家の戦闘機狂い(ファイターマフィア)と、死の恐怖を克服した新人類(ニュータイプ)――)

 

 サヴェリオ・デ・モル空軍大将は喉の渇きを覚えてコップを手にしようとして、すでに水がなくなっていることに気づいた。

 

 ……そしてレポートには、彼が意識的に重要ではないとみて、読み飛ばした箇所がある。

 

■2010年代の旧日本国における法的・政治的・時事的・地理的・文化的知識については、現代の専門家を凌駕しており、極めて偏執的である

 

■ノイジー・ハチノ空軍大尉のテクノロジー、サブカルチャーの知識は前世紀(西暦)1980年代から2010年代のそれに集中しており、特にサブカルチャーについては地球連邦中央図書館・物理書籍庫にしか現存しないうえに、ここ30年間に亘って開架履歴のない、前世紀発刊の作品さえも知悉していた

 

■同作品群については、彼の作品に関する発言と現存する作品の内容を検証し、彼の発言がすべて真であることを確認した

 

■彼が言及した作品において、地球連邦中央図書館・物理書籍庫に存在しなかったものは1点のみである

 

 

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