【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか―― 作:河畑濤士
宇宙世紀0079年10月上旬、地球連邦軍はオデッサ作戦をはじめとする地球上の反攻作戦を準備するとともに、着々と宇宙空間における決戦の準備を進めていた。
すでにジオン側は宇宙要塞ソロモン、宇宙要塞ア・バオア・クー、軍事拠点を擁する月面都市グラナダを結ぶ本土防衛線を完成させており、地球連邦軍高官はこれをいかに抜くか、頭を悩ませていた。それぞれ単独でも堅牢な宇宙要塞だが、それよりも厄介なのはこの3拠点とその後背のサイド3は、相互に援護が可能であることだった。どこかひとつの拠点を攻撃しても占領に時間がかかれば、他の拠点から有力な機動部隊が出現し、自在にこちらの横腹を衝き、後背に廻りこんで後方との連絡線を断つだろう(と、地球連邦軍の参謀たちは考えている)。
そのため地球連邦軍は、この要塞線を無視してサイド3を長駆攻撃する研究もしたが、すぐにうまくいかないとわかった。サイド3と一言で言っても、数十基のスペースコロニー群から成る。前述の3要塞に比較すればさしたる防御施設はないが、これを敵の援軍が駆けつける前に占領するのは不可能である。
となれば順当に、かつ短期決着で敵の宇宙要塞を叩き潰すしかない。故に地球連邦軍は現代の攻城兵器ともいうべき、ソーラ・システムの準備――具体的には400万枚以上のミラーとそれを可動させるためのバーニアの調達・組立――を着々と進めていた。
同時に地球連邦軍は、ジオン軍に対して消耗戦を仕掛けることに決めた。
――敵の予備兵力を減じる。
空間優勢(制宙権)の獲得・維持も兼ねてだが、宇宙空間において積極的に攻撃に打って出る。とにかく敵将兵の頭数を減らすのだ。要塞に収容される、できる機動戦力を少しでも漸減する。
地球連邦軍宇宙軍が上記の方針の下で動き出した一方で、航空宇宙第1統合戦闘団もまた宇宙に上がった。
「また共に戦えることを光栄に思う」
「こちらこそよろしくお願いします」
俺とシルヴィア准将、航空宇宙第1統合戦闘団の面々を待っていたのは、艦隊司令のカイル大佐と艦長のマスターソン大佐、そして修理を終えたトラファルガ級航空母艦『エンタープライズ』であった。
ルナツーを巡る攻防戦において、航空母艦『エンタープライズ』は右舷・左舷の航空甲板とそれに付随する航空科設備が大破するという憂き目に遭い、前述のとおりルナツー内部の無人工廠で修理を受けていた。
と同時に、大小改装もまた施されている。
そのうちのひとつはMS運用能力の付与だ。左舷航空甲板の戦闘機用カタパルトと戦闘機用駐機施設は撤去され、その代わりにMS用格納庫とMS用カタパルトが増設されている。右舷航空甲板には戦闘機用カタパルト2基と、戦闘機用駐機施設が残されているため、航空母艦『エンタープライズ』はMS・戦闘機の双方の運用が可能であった。
またこの時期、航空母艦『エンタープライズ』をはじめとする連邦宇宙軍の艦艇には、最大出力15メガトン級小型核弾頭の配備が進められていた。これもピースメーカー計画の一環だ。未だ100メガトン級核弾頭の量産と配備にまでは至っていないが、現行の15メガトン級でさえ起爆した際に生じる火球のサイズは約1kmだ。仮にスペースコロニー内部で炸裂すれば、爆風は半径28km以内を蹂躙し、多くの死傷者を出すことになるだろう。
当然ながら、地球連邦軍はジオン側を信用していない。追い詰められたジオン側が、いつ再び核兵器の使用に踏み切ってもおかしくない。核による抑止力を機能させるためにも、こちらも核弾頭を前線部隊に予め持たせておいた、というところであろう。
「我々は当面の間、宇宙空間における戦闘機・MS連携戦術の研究を実施する」
続けて航空宇宙第1統合戦闘団司令部にて、俺たち戦闘機パイロットは新たにシルヴィア准将の指揮下に入ったMSパイロットたちと顔を合わせることになった。
「ええっ」
「……ジ、
「うわあ……」
「……」
航空母艦『エンタープライズ』内に設けられた戦闘団司令部にて、初めて会ったMS隊のパイロットたち。その第1印象は、“若い”であった。10代――しかも15歳から18歳といったところか。隣を盗み見ると、ナイトー空軍中尉なんかはわかりやすく絶句している。
シルヴィア准将は淡々とお互いに自己紹介をさせると、“宇宙空間における戦闘機・MS連携戦術の研究”という名の肩慣らしについて詳しく説明を始めた。
①初期型ジムをコア・ブースターに搭載した状態での発艦
②相対速度が異なる状態から初期型ジムがコア・ブースターに跨乗
③跨乗状態の初期型ジムが戦闘攻撃機コア・ブースターより離脱
④跨乗状態の両機による戦闘機動
(要はサブフライトシステムか)
MSが大型戦闘機に跨乗するメリットは大きい。より高速で移動できるだけではなく、本来ならば移動に費やすはずだった推進剤を節約できる。
「よ、よろしくお願いしますっ」
俺とペアを組むことになったのは、シャウナ・エンゲルハート・オートン宇宙軍少尉――“新品少尉”のGMパイロットだった。開戦後に大学へ休学届を提出し、わざわざ宇宙軍に志願した変わり者である。青みがかった黒髪と群青の瞳を有する彼女は、何か言いたげな様子だったが、こちらから特に問い質すことはしなかった。
◇◆◇
演習場に指定されたルナツー周辺宙域を翔ける。
自機が先行し、その後方からシャウナ少尉の初期型ジムが追うという格好だ。ミノフスキー粒子散布下を想定しているが、レーザー通信回線を用いることでデータリンクを確立することはできている。
「いきますっ!」
シャウナ少尉がスラスターを操作したのだろう、こちらと初期型ジムの距離が縮み始める――つまりシャウナ少尉機が増速したということだ。
(少し速くないか?)
戦闘機にMSを跨乗させるには、当然ながら相対速度と位置関係を合わせる必要がある。MSからしてみれば、コア・ブースターの機体背面に増設されたグリップを掴むだけでも一大事業だ。
俺はモニターに表示される初期型ジムの速度を注視していたが、みるみるうちに表示速度の数字は増大し、彼我距離の数字は漸減していく。
「あ、やば――」
彼女の呟きを聞くとともに戦闘機動用のバーニアを吹かして、合流軌道から離脱した。その5秒後、減速が間に合わない初期型ジムが、5秒前まで俺の機体が飛んでいた場所を高速で通り過ぎていった。と、同時にレーザー通信回線が途切れ、データリンクの更新が滞る。
俺とシャウナ少尉は無言のうちに再びフォーメーションを組み直した。
「すみませんっ!」
「焦らずにもう1度やろう」
が、二度目も同様の結果に終わり、見かねたシルヴィア准将から帰還の命令が出た。
原作では平然とやっていたことだが、シャウナ少尉の腕が原因か、それとも他の要因があるのか、どうも難しい……。
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次回更新は9月7日を予定しております。
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