【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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■4.FF-4C(4)軌道上反航戦!

(やはり戦闘機(ファイター)で真正面からザクⅡとやり合うのには無理がある)

 

 コロンブス級『パロス』に帰還後、自機の点検作業を手伝いながら考えていたのは、やはりこの1年戦争を生き残るにはMSへの機種転換訓練が必要だ、ということだった。戦闘機や戦車はいわゆる“やられメカ”だ。実際、宇宙空間における戦闘では、不意打ち以外に優位に立つ方法がない。

 サラミス級巡洋艦『コンセプシオン』にこちらのコールサインを伝えた直後に、後続の2個戦闘攻撃中隊24機が戦闘加入したから良かったものの、さすがにそのまま数的劣勢の状態で格闘戦にもつれこんでいればやられていた。

 “車と戦闘機なら、車を選ぶよ。戦闘機はバックができないからね”――とは第2次世界大戦を生き延びたパイロットの言だが、まったくもってその通りだ。AMBACシステムのない戦闘機は基本的には機首方向に前進するため、動きを読まれやすい。

 

(連邦のMS実戦配備が始まると同時に機種転換訓練を受けたいところだが――)

 

「ノイジー少尉、ご苦労。無事でよかった」

 

 背中に投げかけられたぶっきらぼうな声に、表情が硬くなる。

 

「シルヴィア中佐」

 

 緊張もするだろう。

 彼女が俺の前に現れるときは、きまって何かが動き出すときだ。

 

「厄介者が現れたな、とそんな表情をしているな」

 

「はい、いいえ。中佐」

 

「ふん。我々はもう一蓮托生の仲だと知れ」

 

「……」

 

 シルヴィア中佐は咳払いしてから再び口を開いた。

 

「ここでは人の耳がある。付いて来い」

 

 連れてこられたのは、“航空宇宙第1統合戦闘団”と張り紙がされた部屋であった。

 といっても実際のところは、シルヴィア中佐に割り当てられた私室らしい。

 ……彼女も俺と同様に全滅した原隊から逃げ延びた(たぐい)のようで、目立った私物は何もない。

 のっぺりした打ちっぱなしの白い壁が、目には痛かった。

 

「悪いニュースから伝えよう。我々航空宇宙第1統合戦闘団への核弾頭輸送は失敗に終わった。輸送部隊がジオン側の攻撃を受けたらしい」

 

 勧められるままにパイプ椅子に座り、缶コーヒーを受け取ると、そのまま膝を突き合わせての話が始まった。

 

「では我々の作戦は?」

 

 問うと、シルヴィア中佐の表情は苦虫を噛み潰したように歪んだ。

 

「我々の手による攻撃は実行できなくなった。核弾頭がないのであれば、敵の防衛網を突破できたとしても、核パルスエンジンに致命的なダメージを与えるのは困難だ――しかし、残りはすべて良いニュースだ」

 

「……伺いましょう」

 

「まずティアンム閣下率いる宇宙軍第2艦隊が、サイド2・8バンチコロニーを迎え撃つ態勢を整えた。我々もティアンム中将の指揮下に入る」

 

 1週間戦争において、ティアンム中将がコロニー落としの阻止に動くのは原作通りだ。

 しかしながらこれは“水際作戦”にすぎない。

 8バンチコロニーを崩壊させ、ジャブローへの直撃を防ぐのがやっとのはずだ。

 

(事態は好転していない)

 

 しかしながらシルヴィア中佐は、もう1本指を立ててみせた。

 

「また宇宙軍第2艦隊の攻撃に先立ち、宇宙軍および戦略ロケット軍は長距離核攻撃をこの宙域に対して実施することを決めた」

 

(核ミサイルによる攻撃は原作通り――なのか?)

 

 大艦巨砲主義と再ミサイル万能論が根強い連邦軍らしい選択だといえる。

 だが悪い選択ではない。8バンチコロニーを使用したコロニー落としをやる、とわかっているのならば、地球上、あるいは宇宙中から核弾頭を投げつけてやるほうが楽である。史実において連邦側は、8バンチコロニーが動き出すまでコロニー落としを察知できておらず、そのため長距離核攻撃ができなかったのかもしれない。

 

「これより我々はルナツーを出撃した閣下の第2艦隊本隊への合流を試みる」

 

 ◇◆◇

 

 前面から迫る金色の束が、網膜を()く。

 ムサイ級軽巡洋艦の主砲斉射――(はな)からこちらを狙ったものではないとわかっている以上、反応する必要はない。むしろ首を巡らせて、上方、下方を警戒する。敵影はなし。僚機もなし。それもそのはず、俺が連邦軍の繰り出した艦上機から成る戦爆連合とサラミス級巡洋艦から成る殴りこみ艦隊の最先鋒だからだ。

 

 結局、長距離核攻撃は失敗――その後に立案されたコロニー落としの阻止作戦は、2段階から成る。

 戦闘機部隊と軽巡洋艦、ミサイルフリゲートによる8バンチコロニーの前面に展開する敵部隊の排除。続いてマゼラン級戦艦を主力とする第2艦隊本隊が8バンチコロニー本体を攻撃し、これを破砕する。

 

(来る――!)

 

 前方に生まれる無数の火線。

 だがこれも当たるはずがない、と俺は高をくくった。

 ミノフスキー粒子の濃度は、無線通信ができない水準にまで達している。

 アクティブレーダーミサイルも使えない。

 が、それでいい。条件は連中も同様。敵も味方も肉眼頼り。そしてお互いに8バンチコロニーが描く破滅への円弧、その上にいる。故にバーニアに火を入れ続ける必要もない。ジオン側は、真正面から見れば高さ約3mのトリアーエズを迎え撃たなくてはならない。

 

 頭上を追い越していく白桃の閃光。

 サラミス級巡洋艦の艦隊統制射撃。その終着点は、濃緑の影。爆散するムサイ。

 その火焔の照り返しと、発射炎からザクⅡの位置を確かめる。

 食いやすいのはムサイ。だがムサイは撃ち洩らしたとしても、後続のサラミス級巡洋艦や第2艦隊でも容易く対処できる。ここで我々戦闘機隊に期待されているのは、MSの撃破。

 

(一撃離脱戦法なら、MSでも戦闘機でも有利不利はない)

 

 余所見しているモノアイ目掛け、ただ翔ける。

 そして視界がザクⅡの巨影いっぱいになったところで、トリガーを弾いた。

 無音。機体下部から吐き出される十数発の70mmロケット弾が、胸部ユニットに連続命中する。効果のほどを見ているほどの時間はない。スラスターを使い、自機の進行方向を変更――爆発する敵機の脇をすり抜けていく。

 

(その先にいるのは――ムサイか!)

 

 変針した先にいたのは、メガ粒子砲を連射するムサイ。

 こちらに気づいたか、ムサイの対空用ミサイルランチャーが火を噴く。

 が、思わず鼻で笑ってしまった。

 ムサイから撃ち出されたミサイルは、まったく見当違いの方向へ飛んでいく。

 

(ミノフスキー粒子を撒きに撒いたのはそっちだ)

 

 ムサイ級軽巡洋艦はメガ粒子砲、大型ミサイルランチャー、対空用ミサイルランチャーを備えているが、一方で対空火砲を一切有していない。つまりミノフスキー粒子散布下における艦隊防空を全く考慮していないのである。

 

「行きがけの駄賃」

 

 眼前でメガ粒子砲の砲塔が稼働し、漆黒の砲口がこちらを向く。

 

(測距もできないのに当たるわけない)

 

 十数m頭上を抜けていくメガ粒子の束。

 近接信管がないだけ、第2次世界大戦の対空砲火以下――そんなことを思いながらトリガーを弾く。

 撃ち出されるのは20発近い無誘導の70mmロケット弾。それを迎撃する術は、彼らにはない。前部上面装甲板がめくれ上がり、連装メガ粒子砲塔が弾け、艦橋が消し飛んでいく。

 

 それを後目(しりめ)に、俺は地球へ向かう8バンチコロニーと擦れ違うコースに機体を乗せた。

 

 ◇◆◇

 

 敵前衛部隊、全滅――。

 

 ティアンム中将が指揮を執る第2艦隊司令部は快哉を叫んだ。

 青い地球を背景に浮かぶのは、マゼラン級戦艦『タイタン』以下、大口径メガ粒子砲を有する艦艇の横隊。その合間にはミサイルフリゲートが雲霞のごとく随伴している。そのミサイルランチャーは通常弾頭ではなく、すべて最大出力1メガトンの熱核兵器である。

 

 が、この時点で8バンチコロニーの地球落着は避けられない。

 

 核パルスエンジンの装着・点火作業の阻止ができず、8バンチコロニーを落下軌道から外すことができなかった時点で、どうあがいても億単位の犠牲は決していたのである。







◇◆◇



次回、津波の描写がございます。

ご注意ください。



◇◆◇


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