【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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次回更新は9月24日前後を予定しております。



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■43.FF-3SX-MA1(2)

 トラファルガ級航空母艦『エンタープライズ』の駐機施設に並ぶ戦闘機は、異形というほかない。

 CFB計画の産物(■13参照)、空間戦闘機FF-3SX-A1エクスセイバーはFF-3Sセイバーフィッシュを原型機としているが、機首周りと主翼にしかその面影は残っていない。小型核融合炉を搭載するために機体は大型化されており、外見上の特徴だった4基のランチャー兼ブースターパックは廃されている。その代わりに機体上部、機体下部に設けられているのは長大な“腕”だ。

 

(まるで種のイージスだ)

 

 もしも『機動戦士ガンダムSEED』を視聴したことがある人間が見れば、イージスのMA形態を連想するだろう。ただしイージスは四肢を進行方向に向けているが、このエクスセイバーは4本の武器腕を後方へ伸ばしている。

 

――AMBACが可能な空間戦闘機。

 

 MSに対抗可能な戦闘機を開発するCFB計画の本命は、核融合炉とメガ粒子砲を備えた重戦闘攻撃機であったが、一方で宇宙における戦闘機という兵科の弱点、「限定的な機動性」「近接戦闘」の克服もまた模索していた。その結果として完成したのが、眼前のFF-3SX-A1だった。

 同機が有する4本のアームはAMBACに活用することを前提として開発されており、また複数のバーニアを備えている。これにより宇宙空間での戦闘機動の自由度が増した。またアーム先端には、鉤爪状の近接戦闘兵装が存在している。すれ違いざまの近接攻撃時のみ、武器腕はその逆関節じみた可動部を動かして、この鉤爪を前方、あるいは側方に展張させられるようになっていた。この武器腕に干渉してしまうため、セイバーフィッシュにあった垂直尾翼は廃されている。

 ただしこのエクスセイバーは、ザクⅡのヒートホークと足を止めて打ち合うことは考えられていない。主翼上部・下部に設けられた誘導弾と、機体下部の57mm速射砲で攻撃しながら接近し、すれ違いざまに近接攻撃。高速の一撃離脱戦法をもっぱらとする。

 さらに単独での対MS近接戦闘は推奨されていない。ジェネレーター出力の関係からビームサーベルが使えず、加えて真空かつ排熱が問題となる宇宙空間での運用となるため、ヒートサーベルの採用も見送られた。つまり、一撃で敵を撃破するのは困難であり、“鳥葬戦術”――複数機での波状攻撃が推奨されていた。

 

「MSでよくないですか?」

 

 ナイトー空軍中尉の言葉には、頷かざるをえない。

 宇宙空間の格闘戦はMSの領分であろう。FF-3SX-MA1――多目的(M)武器腕(A)を有するエクスセイバーは登場が遅すぎた。一応、コア・ブースターを範として、大型化した機体に熱核ロケット4基を積んでいるため、MSよりも加速力で優っている。

 

「……」

 

 長距離射撃を得意とする昼間の星(デイライトスター)、黒髪と漆黒の瞳が印象的なアイカワ空軍中尉もまた不満を隠そうとはしていなかった。彼女からすれば、メガ粒子砲を積んだコア・ブースターのほうが性に合っているのだろう。

 

(こんな“魔改造”セイバーフィッシュ、さすがに外伝作品にもないだろ……)

 

 奇しくもMAの名を冠しているこんな重戦闘機が宇宙世紀作品に登場していれば、ジオンのザクレロやビグロと比較されたうえに、散々ネタにされていたに違いない。俺が死んだあとに創られた外伝作品の登場兵器、という線もなくはないが……。

 

 またそういう意味では気になるMSが1機、この『エンタープライズ』に配備されている。特に戦闘機パイロット側には説明もされていないが、初期型ジムのバリエーション機であった。

 一言で言えば、重装甲。外見はジム・キャノンⅡに似ているが、性能はまったくの別物だろう。カラーリングは黒、あるいは濃紺。目を惹くのは肩に備えた2基の巨大なロケットランチャーと、異様なまでに巨大な盾。しかも2枚持ちだ。

 

(何を撃とうってんだよ……)

 

 何を考えているのかわからない上層部に、嘆息せざるをえなかった。

 

 ◇◆◇

 

 この時期のトラファルガ級航空母艦『エンタープライズ』は、サラミス級巡洋艦を引き連れて地球中軌道から低軌道にかけてを暴れ回っていた。

 地球連邦軍陸軍・空軍による包囲環が完成しつつあるオデッサ基地に対する補給に、ジオン軍は高価なHLVではなく、軍需物資を積んだ輸送船を軌道上に進出させ、そこからコンテナを投下するようになっていた。そこを連邦宇宙軍は狙うのである。敵の補給を断つ。それだけではなく、敵に輸送船の護衛を強要させることで、敵戦力を漸減することもまた目的のひとつであった。

 そしてそれは成功した。

 ジオン側のパトロール艦隊が擁するザクⅡの1個中隊は1個小隊となり、1、2週間もすれば艦上機はザクⅡではなくガトル戦闘攻撃機となった。それどころか『エンタープライズ』の猛攻によって数個のパトロール艦隊が消滅し、ムサイ級軽巡洋艦が次々と轟沈の憂き目に遭った結果、ジッコ級ミサイルフリゲートのみで構成されるパトロール艦隊まで出現することとなった。

 

戦闘機(ガトル)じゃ生き残れねえよ……」

 

 ムサイ級軽巡洋艦に係留されたガトルのパイロットたちは口々にそうぼやいたが、それを聞いていた“好戦家(ウォーパーティー)”テランス・オースティン・ルーズベルトと、その相棒のスサーナ・デ・アラゴン少尉は同調もせず、ただ白けた視線を彼らに向けていた。

 

(鍛え抜いた自らの戦技を全力で試したうえで、生きるか死ぬかを決める戦場という最高の環境を喜べない、と。なんと贅沢な……)

 

 テランスは本気でそう思っている。

 

 錬成に錬成を重ねるにもかかわらず、それを活かせないという生殺しの平穏。

 

 平和という虚無の拷問。

 戦争を想定しない、戦争のための訓練。

 人を殺すことを想定しない、人殺しの技術。

 

「俺たち戦闘機パイロットなんて、活躍しないことが理想さ」

 

 連邦空軍時代、同僚たちや上官がそう話すたびに彼は頷きながらも、内心では偽善者どもがと唾棄していた。本当は同等か、それ以上の敵を相手にして、殺し合いをしたいのではないか。現状は試合や大会が存在しないスポーツにもかかわらず、大会に出場することを想定して厳しい練習に臨むアスリートと同じだ。馬鹿馬鹿しい。本気でそう思っていた。

 

(生き残る?)

 

 勿論、生き残れるに越したことはない。

 生き残れば、次の戦場が待っている。

 つまり自らの技量と相手の技量をぶつけ合う、真剣勝負の場に再び立てるのだから。

 が、死の可能性が高いからといって、戦闘を忌避する理由にはならない。

 敗色濃厚だからといって試合を忌避するアスリートはいないだろう。

 

(……)

 

 一方でスサーナ少尉は同じ部隊の隊員が何を言おうが、特に興味はなかった。

 隊員にも、ガトルにも、ジオンにも、戦争自体にも彼女は白けた態度をとっている。とにかく彼女は自由に、そして速く飛べればいいのである。が、学もなければカネもない彼女が飛ぶには、スポンサーが必要であり、学もなければカネもない彼女が飛べる場所はジオン公国軍しかなかった。

 故に彼女からすれば、戦争は邪魔でしかない。

 理想とは裏腹に軍隊自体、自由とは言い難い飛行を強いる組織だったが、戦場はさらに不自由を強いる環境だった。戦闘においてその不自由を跳ね除けようとするエネルギーは、弾丸を飛ばして回避機動を強要してくる敵機に向く――。

 

 戦争を好む者と、戦争を嫌う者。

 

 本来ならば相反する彼と彼女は、なぜか戦場ではともに戦果を挙げてきた。

 

 地球(ジ・アース)と干戈を交えたこともあるふたり。

 ここにきて公国軍の上層部が彼らを放っておくわけがなかった。

 

――ジ・アースと『エンタープライズ』を討て。

 

 その命令とともに彼らの(もと)に廻されたのは、異形の戦闘攻撃機であった。

 

「これがザク?」

 

 ザク・ズビルド(SPEED)――ジオン訛りのもとではそう呼ばれるそれは、大型戦闘攻撃機であると同時にMSでもあった。

 

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