【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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次回更新は1週間後を予定しております。

今回の戦闘も含めて主人公が戦うのはあと3回となります。



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■45.FF-3SX-MA1(4)

 

 私が艦隊司令部に居ては艦隊司令カイル大佐もやりづらいだろう、と空中前線指揮を執ることにしたシルヴィア准将は、現れた敵の大型戦闘攻撃機がアイカワ空軍中尉の猛射を躱す光景を目撃した。

 “地球(ジ・アース)”ほどの活躍はないが、アイカワ中尉もまたエースパイロットだ。遠方から敵を見つけ出せるだけの驚異的視力と、正確な距離感に裏打ちされた高い命中率を誇る射撃。それに加えてこの宇宙空間には、地球とは違って大気の動きをはじめとするイレギュラーな要素が少ない。

 

(にもかかわらず、容易く躱すとは)

 

 アイカワ中尉機の放ったロケット弾は、敵機が主翼上に備えているガンポッドによって迎撃され、ならばと未来位置目掛けて57mm徹甲榴弾から成る火線は空振りに終わる。敵機は主翼下に折り畳んでいた脚部ユニットを展開しての逆噴射でブレーキをかけ、まったく予想しない方向に動きを転じたためであった。

 

「……」

 

 アイカワ中尉は目を細めた。

 悔しがっているわけでもなければ、驚愕しているわけでもない。

 彼女の前で再度、脚部ユニットを折り畳み、完全な航空機形態に変形するザク・スピード。

 

(覚えた)

 

 変形機構、その細かい挙動のひとつひとつを彼女の瞳は捉えていた。

 

「敵も味方も開発畑、頭おかしいよ!」

 

 ウォーパーティーに背後をとられたナイトー空軍中尉は愚痴をこぼしながら、敵のガンポッド――その黒々とした砲口を見てから機体上方の武器腕を展張させる。その先端にある鉤爪は次の瞬間、近傍を高速で通過するムサイ級軽巡洋艦の残骸を掴んだ。そうしてナイトー中尉機はそのままムサイ級軽巡洋艦の残骸に引きずられ、強引かつ高速の直角回避運動を成し遂げる。遅れて発砲を開始したガンポッドは、その機影を捉えることができなかった。

 

「思い切ったやつ――!」

 

 自機をMS形態に変形させて慣性を殺しつつ、テランスは遠ざかるムサイ級軽巡洋艦の残骸に向けて90mmマシンガンを構えた。レティクルがナイトー中尉機の機影を捉える。一方でナイトー中尉もまた自機の体勢を立て直し、57mm速射砲の砲口をザク・スピードに指向した。

 

十字砲火(クロスファイア)!」

 

 ナイトー中尉がトリガーを引き、足下方向遥か遠くからハチノ大尉もまたトリガーを引いた。57mm徹甲榴弾の火網がザク・スピードに被せられる。

 テランスは即座に反応し、火力の中心から自機を外したが、それでも殺到する砲弾と炸裂して撒き散らされる破片は躱しきれるものではない。右肩部装甲が弾け、右脚部に収められているスラスターに破片が突き刺さる。それでも彼は口の端を吊り上げて、致命打となりうる射弾を躱しきった。

 

「これでもダメかよッ」

 

 ナイトー中尉は再び航空機形態に変形して飛び始めたザク・スピードを視認して、その進行方向に赤外線誘導弾を発射した。多少なりともダメージは与えられているはずであり、機体の各所は破損しているはずだ。にもかかわらず、未だに変形、飛翔が可能とは――。

 

(大気圏内だったら勝負はついてるってのに!)

 

 敵機は右主翼の一部を失っており、地球においては空気力学の関係からいって致命傷だといえる。が、ここは宇宙空間。主翼が破損したことで生じるマイナスといえば、主翼のパイロンが失われることくらいであろう。

 

「MS隊は指定したポイントにて、防御スクリーンを形成せよ」

 

 他方、航空母艦『エンタープライズ』と中核とする航空宇宙第1統合戦闘団の艦隊は、殺到する対艦ミサイルと280mm弾を躱し、迎え撃ち、跳ね返しながら、のたうち回っていた。

 

(なんで、こっちは優勢じゃなかったの)

 

 地球から脱出してきたHLVへの攻撃任務から急遽呼び戻されたシャウナ少尉は、すぐさま防空網の間隙を埋めることとなった。幸運にも『エンタープライズ』をはじめとする艦艇は1隻も失われていない。が、無傷ではなかった。特に『エンタープライズ』に攻撃が集中しているのか、彼女の対空砲は何基か吹き飛ばされており、主砲の装甲がひしゃげていた。そしていままさに、また純白の弾体が『エンタープライズ』に向かっているのが見えたが、『エンタープライズ』航空甲板の端に設けられたバルカン砲がばら撒いた徹甲焼夷榴弾に射抜かれ、小さな火球となった。

 

「“昼間の星(デイライトスター)”から敵情報! 後方より敵MS単機急接近! ザクタイプにあらず。繰り返す、後方より敵MS単機、ザクタイプにあらず!」

 

シャウナ少尉(ダンデライオン)!」

 

「え」

 

 シャウナ少尉は頭部を旋回させ、そこに青い噴射光を背負いながら突進してくるMSを見た。機体の色もまた青い。ザクではない。彼女はそれ以上何かを考える前に、バルカン砲のトリガーを引いていた。

 MSに対してジムの60mmバルカン砲は威力不足だとされるが、敵がこちらに向かってくる場合は、砲弾の発射速度に敵の運動エネルギーが加算されるため、ダメージを与えられるケースもあることを彼女は知っていた。

 が、青いMSは次の瞬間にはシャウナ少尉が見つめるモニターの外に消えている。

 

「え」

 

「新型ッ!?」

 

「違う、こいつ゛あ゛いっ゛――」

 

 僚機同士の会話が途切れる。

 ほんの数秒の出来事だった。シャウナ少尉が放った60mmバルカン砲の射撃を躱した敵機は、回避先から90mmマシンガンを構えていたシャウナ少尉の僚機をバズーカで射抜いたのである。

 

「こいつ、ザクより速い!」

 

「ヅダだッ!」

 

「くそったれ、敵のエースだ!」

 

 青い機影は足を止めない。

 残弾のなくなったバズーカを棄てるとともに120mmマシンガンに持ち替え、シールドを構えた初期型ジム目掛けて連射して牽制。ビームサーベルを展開させた隊長機が放つ必殺の斬撃を半身になって躱し、右主脚の蹴りで吹き飛ばしてから120mmマシンガンの射撃で胸部装甲をぶち破る。

 

「ダメだ、俺たちじゃ歯が立たない!」

 

 彼の狙いは初期型ジムから成る戦列の攪乱。

 続けてやってくるザクⅡからなる攻撃隊のための突破口を開くことが目的だった。

 実際、成功しつつある。

 

「“地球(ジ・アース)”を呼んでくれえ!」

 

「呼ばないで!」

 

 シャウナ少尉は鋭く叫んだ。

 

(呼んだどころで大尉が来られるとは限らないし――)

 

 彼女は90mmマシンガンで敵影の進行方向に射弾を送りこむ。

 

(いつでも守ってもらうわけにもいかない!)

 

 そうしながら常にシールドを構えた自機の正面を敵機に向けるように意識した。ジムがジオン製MSに対して明白に優れているのは、防御力だ。敵のマシンガンはどの角度からもこのシールドを抜けない。

 

「こちらシャングリラ・コントロール! MS隊はそのまま敵MSを拘束せよ。ボール隊は後続の敵攻撃隊を警戒。敵が単機で斬りこんで終わりのわけがない」

 

 航空宇宙第1統合戦闘団の艦隊司令部と『エンタープライズ』のクルーは、対艦ミサイルと対空砲弾が乱舞する渦中にいてもなお冷静であり、また航空宇宙第1統合戦闘団の上級司令部もまた敵の狙いを見抜いていた。

 敵艦上機部隊の攻撃は脇目もふらず、『エンタープライズ』に集中している。そのため地球連邦宇宙軍は手許のMS隊に敵艦上機部隊の横腹を衝かせ、重火器を抱えて移動する彼らを打撃させた。また敵の母艦となるムサイ級軽巡洋艦等の艦艇については、宇宙軍の大小艦艇が叩き潰す。

 

 かくして大勢は決まった。

 

 が、局所的な決着はどうなるかわからない。

 

 宇宙軍の高官たちの意識は『エンタープライズ』と“地球(ジ・アース)”に向いた。敵の集中攻撃に『エンタープライズ』が耐えられるか。そしてジ・アースらは敵エースを退けることができるのか。

 

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