【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか―― 作:河畑濤士
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ギャグ要素が強いです。
次話は1週間以内を予定しております。
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「ハービック社――この騒ぎはバックランドの娘が発端ですな」
シルヴィア准将の陳情は、地球連邦軍統合参謀本部における議題をひとつ増やしたといっていい。もちろん彼女はいきなり統合参謀本部に話を持ちこんだのではなく、空軍および宇宙軍の上級司令部に対してガンダムの配備を要請したのだが、彼らは「自分たちでは判断できかねる」として、また上にと話を通したのであった。誰もが知っていることだが、彼女は地球連邦軍の利権に
「また彼女か」
統合参謀本部議長は、頬杖をついた。
その表情からは快も不快も感じとれない。外野からは彼が賛成なのか、反対なのか、まったくわからなかった。そのため、他の将官たちは小首を捻ったまま口を開こうとはしない。
本来ならばこの統合参謀本部で扱われる議題は、当事者による根回しと調整、事前のレクチャーが完了していることが多い。この場は議論を戦わせる場ではないのだ。が、今回ばかりは違っていた。なにせ当事者であるシルヴィア准将は、一装備品の話がここまで上がるとは思っていない。
「しかしながら、まっとうではあります。我々が彼らに任せる作戦は、それほどにまで重大かつ困難なものですから」
しかたなく、統合参謀本部副議長――サヴェリオ・デ・モル大将が声を上げた。彼は空軍出身ということもあり、シルヴィア准将をはじめとする戦略航空宇宙第1統合戦闘団に対して同情的である。加えて、彼には恐れがあった。
(通常戦力で敵の企図するところを挫けなかった場合、シルヴィア准将は50メガトン級核弾頭の使用を躊躇わないだろう)
彼の内心に、核に対する忌避感は微塵もない。
その証明として南極条約締結前に実施された1メガトン級核弾頭による航空宇宙第1統合戦闘団のソロモン奇襲を止めなかった。
が、50メガトンという史上まれにみる馬鹿げた威力の核弾頭を使用することによって生じるであろう政治的混乱や、ジオン側のリアクションを予測できなかった。
対して、ひとりの男がさっと挙手をした。
「前例を作っていいものですか?」
そう声を上げたのは地球連邦軍軍事予算経理局を代表し、この場に参加しているジャミトフ・ハイマン大佐であった。
「……」
サヴェリオ大将の目つきが鋭くなる。
それに気づかないまま、あるいは気づいていないふりをしながら、ジャミトフ大佐は自らの意見を述べた。
「これを許せば、あらゆる前線部隊が強力なワンオフ機――ガンダムを求めるようになると小官は愚考しますが」
ジャミトフ大佐は陳腐だが周囲の同意を得られるであろう一般論とともに反対の姿勢を明白にした。が、これは表向きの理由にすぎない。彼の本心、思想を知れば、地球連邦軍の高官たちはみな一様にのけぞるであろう。
自分が小ギレンともいうべき男と議論しているとも思わず、サヴェリオ大将は苦々しげに言った。
「敵本土に殴りこんで、大量破壊兵器を無力化する。そんな任務にあたる前線部隊が他にあるものかよ」
ふーむ、と毒気を抜くように統合参謀本部議長は、首回りをさすった。
それから彼はモニター越しに会議に参加している男に視線を遣った。
「本土決戦を指揮するレビル将軍はどう思われるかね?」
「……」
ヨハン・エイブラハム・レビル大将は「可能ならば」と前置きしたうえで、賛成する旨を口にした。
「しかしそれです」
その“可能ならば”という言葉に強く反応したのは、同じくリモートで参加している補給管理官のリ・ドゥカ少将であった。彼は紙資料を収めたファイルを手許に引き寄せると、それに視線を落としながら喋り倒して他の幹部たちを辟易とさせたが、要は戦略航空宇宙第1統合戦闘団に廻すガンダムのアテがない、ということだった。
「……プロならおわかりでしょうが、あと1か月でガンダムを新造し、なおかつそれを戦闘可能なコンディションまで整備するのは不可能というものです」
「では――」
と、ジャミトフ大佐が結論を急ごうとしたとき、珍事は起きた。
「出来らあっ!」
なに、と眠たげな表情をしていた統合参謀本部議長が目線を上げた。
見ればモニター越し、補給管理官のリ・ドゥカを押し退けて、毛量の多い金髪を丸くまとめた髪型とサングラスが見る者に強い印象を残す男――クローバー・ボー・セブン宇宙軍大尉が怒鳴っていた。
しかしながらジャミトフ大佐は特に驚きもせずに聞く。
「いまなんといった?」
「1か月でガンダムを新造して戦力化までやってやろうってんだよ!」
「これは面白い。この統合参謀本部にケチをつけるとはな」
ジャミトフ大佐の嘲りに、数名の将官が追随する。
「これはどうしても1か月でガンダムを造ってもらわなくてはな」
「え」
と驚きの声を上げたのは、なぜかクローバー大尉自身だった。
「――1か月でガンダムを!?」
「言ったのはきみではないのかね……」
呆れたように突っこんだのはレビル将軍で、続けてジャミトフ大佐は鼻を鳴らした。
「まったく。このような者の乱入は言うまでもありませんが、一前線部隊の陳情で
彼はわざとらしく溜息をついた。
「とにかく彼女の陳情は認めん。統合参謀本部の権威に傷がつくからな……」
「なにが統合参謀本部の
次の瞬間、頭を上げようとしていた補給管理官のリ・ドゥカを押し退けて、ひとりの女性が怒鳴っていた。
「1週間戦争以来、
「なにぃ……」
「耳元でうる「申し遅れましたぁあああ! 私は連邦空軍少佐で京大航空宇宙学研究科博士のぉおお!
「馬鹿馬鹿しい」
統合参謀本部議長はそう断じた。
それからオンラインセッションに参加する補給管理官のアカウントをミュートにするように目線で促した。
「では」
ジャミトフ大佐はこれで議論が決したと思った。
彼だけではなく、レビル将軍やサヴェリオ大将でさえそう思っただろう。
が、次の瞬間、彼は再び眠そうな表情を浮かべて、言った。
「できるというなら、やらせてみればいいんじゃないか?」
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統合参謀本部議長がやらせてみればいい、と消極的賛成の声を上げたのには理由があった。
第一に敵の大量破壊兵器に対して核兵器を使用すれば、熾烈な報復核攻撃を受ける可能性が高く、それを防ぎきる手段がなかったためだ。サイド3からの連邦宇宙軍への核攻撃は勿論のこと、未だ北米に立て籠もるジオン地球攻撃軍は大量のNBC兵器を抱えていることだろう。NBC兵器にはあたらない敵の大量破壊兵器を見過ごすわけにはいかないが、さりとてこれを核攻撃すれば、地球上で再び大惨禍がもたらされることになる。
第二に、官民問わずある噂が広まりつつあることを、彼が察知していたからだった。
――困難な作戦を前にして、ジ・アースが困っている。
下地は確かにあったのだ。
地球連邦軍と連邦政府は、正規の職業軍人である“ジ・アース”と、浜松基地防衛戦以降、地球連邦軍が開発した新兵器“ガンダム”をプロパガンダに利用してきた。つまり彼らの存在は軍民問わず人口に広く膾炙している。そうでなくともジ・アースやガンダムに救われた将兵は多い。
――ジ・アースに、ガンダムを。
それに誰かが火を点けた。
おそらく偶然ではない。
その誰かは『エンタープライズ』からジャブローを結ぶラインのどこかにいて、そしてわざと機密中の機密となる敵コロニーの兵器転用絡みの話を削り、意図的に噂を流したに違いなかった。
最初に口火を切ったのは、旧日本国の一地方都市である浜松市の首長にすぎなかった。続けて極東エリア選出の地球連邦議会議員が噂に言及し、彼と交流のある連邦議会議員たちも「なぜジ・アースをガンダムに乗せないのか」と声高に叫び始めたのである。
そうなるとマスメディアもこれを扱わざるをえない。
「空軍、宇宙軍にガンダムがないならば、ウチのガンダムではダメか」
なぜか続けて反応したのは、陸軍の一前線部隊だった。
自部隊に配備されている陸戦型ガンダムを供出し、宇宙戦仕様に改装すればどうか、というのである。これを名案だと考えたのか、陸軍は組織として空軍、宇宙軍に提案した。一方で、空軍、宇宙軍側としては有難迷惑であり、丁重に断った。
一応、戦略航空宇宙第1統合戦闘団を監督する空軍、宇宙軍にはアテがあった。
「RX-78NT-1はWB隊に充てることを前提にしていますが、一方でオーガスタにはデータ収集用同一仕様機を組み立てるための部品があります」
そしてクローバー大尉と癖原少佐が、それを素直に組み立てるはずがなかった。