【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

49 / 56
■49.ジ・アース、現る。

 エリー

 

 本当にすまない。

 今度の休暇はふいになった。

 

 予約のキャンセルを頼む。

 勿論、仕事だ。

 

 エリカとアルにジ・アースのガンダムを造ることになったと伝えてくれ。

 

 ガンダムが間に合えば、宇宙と地球の多くの命が助かる。

 

 そしてガンダムを間に合わせるのは、俺たちの仕事だ。

 

 代休の約束はできない。

 

 俺が約束できるのは、ガンダムを完成させてお前たちを守ることだけだ。

 

 

 

_____________________

 

 

 

 本来ならば秘匿性が高いジ・アース専用ガンダムの開発・製造にあたり、地球連邦軍宇宙軍・空軍は“劇場型”であった。ニュータイプ専用ガンダム――RX-78・NT-1の情報秘匿に万全が期されたのとは対照的に、ジ・アース専用ガンダムについては開発計画を最初から公のものにしてしまった。

 機体の内部構造や細かいスペックはもちろん軍事機密に指定されたが、存在自体をオープンにすることには大きな利点がある。

 機体の存在や開発計画自体を組織内にさえ隠すようにしてしまうと、開発・警備・輸送に廻せる人員に制限がかかるし、軍種間の連携も困難になる。逆に地球連邦の総力を挙げた一大プロジェクトとしてぶちあげてしまったほうが、軍種間もそうだが、背広組(文官)も、政治家も、民間企業も協力しやすくなる。

 

 加えて馬鹿にならないのが、関係者の士気だ。

 公言できないものを造っているよりも「ガンダムを造っている」と周囲に言えたほうがいいに決まっている。

 しかもただの高級ワンオフ機ではない――開戦劈頭から敵本土に殴りこみ、敵航空母艦『ホーヴヴァルプニール』、グワジン級戦艦『グワシュ』を沈め、地球上を転戦して戦線を大いに支えたスーパーエース、地球(ジ・アース)の専用機を造るのだ。士気は否応にも上がる。

 

 民間にしても同様だ。

 

「我々はヒーローにはなれないかもしれない。

 

 が、いまヒーローの剣を造ることはできる」

 

「いま私たちの協力が、ガンダムになる。

 

 私が、俺が、我々が、ガンダムだ」

 

 そんな陳腐な謳い文句とともに発行された戦時連邦債は、一瞬で売り切れた。

 これによりジャミトフ・ハイマン大佐が企てようとしていた妨害――地球連邦軍軍事予算経理局や財務省の一部の高級官僚をけしかけて、開発計画を財政上の都合から潰そうとする企て――は潰えることとなった。

 一方で、調子に乗った財務省の主流派は“企業協力枠”まで用意して、ガンダム開発のスポンサーを募るに至り、そしてこちらも地球上から中立のスペースコロニーに至る数多くの企業から申し出を受け、即座に満口となった。さらに愛称さえも競売にかけている。

 

要求(オーダー)はただひとつだ!」

 

 他方、ジ・アース専用ガンダム開発計画の旗頭となってしまったサヴェリオ空軍大将は、癖原少佐をはじめとした技術陣に対して檄を飛ばしていた。

 

「この宇宙と地球の人々を守るMSを造れ。以上」

 

 実際、彼は本気で言っていた。

 サイド3・3バンチコロニーで始まろうとしている集団疎開の目的が、戦禍を避けるためのはずがない。ならば他のバンチでも集団疎開が計画されていてもおかしくない。にもかかわらずそうしない――狙いは3バンチコロニーの兵器転用化、つまりコロニー落としの“弾”にほかならないではないか。

 

(やつが本気になれば、この宇宙に人類は5億と残らない――!)

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「ごめん、同級会には行けません」

 

「いま、ルナツーにいます」

 

「この宇宙と地球を守るためのガンダムを、私は造っています」

 

「本当はみんなに会いたい」

 

「みんなの笑顔も、声も、バカ話も」

 

「もう少しだけ、思い出さないことにします」

 

「私の作るガンダムは、きっといつか、みんなと、誰かのみんなを守るから」

 

「タキム重工」

 

 

 

(なにこれ)

 

 食堂のテレビから流れるCMをぼんやりと眺めながら、俺はそう思った。

 正直言って、周囲の変化にまったくついていけていない。

 航空母艦『エンタープライズ』艦橋大破から時は流れて1か月――戦略航空宇宙第1統合戦闘団司令部の再編はほぼ完了。

 続けて『エンタープライズ』のMS隊向けとして最新鋭機となるRGM-79Gジム・コマンドが、戦闘機隊向けとしてコア・ブースターが配備された。また連絡機としてFF-4Cトリアーエズが1機、補給されている。

 

 それから最後に1機のMSが『エンタープライズ』に到着した。

 

(ガンダム――)

 

 格納庫の隅、ガントリーに収まっているのはまさしくガンダムであった。黄金(こがね)色のツインブレードアンテナと、海緑色(かいりょくしょく)のセンサーカバー。アンテナの真下には60mmバルカン砲が収まっている。差し色として採用されているのは、濃青色(こいせいしょく)

 が、その首から下の格好は、異様であった。

 俺が知っているRX-78NT-1アレックスと同様、目の前のガンダムは下地の色が純白のガンダム専用増加装甲(チョヴァムアーマー)を纏っている。

 しかしながら本来ならば白く美しいはずのその装甲表面は、ところ狭しとイラストと文字が書描(しょびょう)されていた。

 

 

 “Demon Shipyards Group”

 

 “YASHIMA COMPANY”

 

 “Macrosoft”

 

 “Giants有限公司”

 

 “Warmart*”

 

 “Just Do It! ✓MIKE”

 

 “The Kara Cola”

 

 “HERVIC”

 

 “日夜化学発光体”

 

 “De Agostiny”

 

 “CODELGO”

 

 “扶桑屋~天皇陛下、法王猊下お助けください! 連邦50億総餓死ですぞ~”

 

 “MATHUM SONIC”

 

 “East Brasil Energia”

 

 “もっと稼ぎたい! お金超大好き! VANILLAN”

 

 “AIR UNA”

 

 “★Heinnkan”

 

 “連邦東日本鉄道株式会社”

 

 “BanNam”

 

 “東亜石油天然気集団公司”

 

 “Cargillz”

 

 “Katerpillar”

 

 “Kicker&Starter”

 

 “TOYOTA MOBILES CORPORATION”

 

 “NesselE”

 

 “がんばれ! 浜松市立大砂山小学校教職員・児童有志一同”

 

 “SAMSONY-C.I.M”

 

 “連邦銀聯”

 

 “REMOTER”

 

 “立川電磁工業”

 

 “Vistas WS”

 

 “SHINSYU UNIVERSAL OF INTERNATIONAL”

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 

 

「これだけの協力企業、協力団体が集まるとは――ジオンの連中の驚く顔が早く見てみたいものだ」

 

 並び立ったのは、シルヴィア・プロット・バックランド宇宙軍准将であった。

 

「こんなことになるとは」

 

 横目で見ながら洩らした俺に、シルヴィア准将は面白そうに笑った。

 

「……“こんなことになる”のは必然だったのだろう」

 

「はあ」

 

 彼女と目が合った。

 その瞳には、翳りも、濁りもない。

 ただただどこまでも紅色に輝く瞳があった。

 

「貴官がザクを倒すと決意した瞬間から、こうなることは決まっていた」

 

「……」

 

 微妙に会話が噛みあっていないことに後ろめたさを感じている俺を置いてけぼりにして、彼女は滔々と語る。

 

「いまならそう、私は確信をもって言える」

 

「……」

 

「戦うことを諦めない意志が、ガンダムを引き寄せた」

 

「そんな大げさな」

 

「ならば言い換えよう。これは貴官が救った命と稼いだ時間がもたらしたものだ。おそらく貴官がいなければ、私も、癖原も、クローバーも、もちろんこのガンダムも、この宇宙にはいない」

 

「そんなことは……」

 

「救われた者からのプレゼントだと思え。ちなみにこれの命名権(ネーミング・ライツ)も競売にかけられていたからな――私と父が買った」

 

「マジですか」

 

 この瞬間、俺は恐怖した。

 目の前にいるのは、長駆襲撃作戦を“ジオン死ね死ね作戦”と名づけ、眼前のガンダムが纏う増加装甲を

 

 “(CHO)ヴァリアブル(VAriable)ガンダム(gundaM)装甲”

 

――略してチョヴァム(CHOVAM)アーマーとした彼女である。

 

(スーパーウルトラハイパーミラクルロマンチックガンダムになってもおかしくない)

 

「まあ他社が遠慮してくれたから競り落とせたが……」

 

 いや、ヘタに商品名をつけられるよりはマシだろう――。

 

(ジオンスレイヤー。ジオンベイン。ジオンぶち殺すマシーンぐらいまでは許す)

 

 そう思って覚悟を決めた。

 

「それで、つけた名前は?」

 

地球(ジ・アース)だ」

 

「……?」

 

「RX-78E NT-FOUR G-EARTH(ジ・アース)だ。地球と宇宙の人々が手がけたきみへのプレゼントに、私と父が名づける名前はこれ以外にありえない」

 

「そ、そうですか」

 

「シンプルすぎて不満か?」

 

「最高です」

 

 不安そうに聞く彼女に、俺は食い気味に答えた。

 

「なら、よかった――」

 

 シルヴィア准将は安堵まじりの息を洩らした。

 珍しいものだな、と思いつつ、しかしながら俺はもうひとつ懸念を覚えていた。

 

「ちなみに次の作戦の名前は決まってます?」

 

「ああ」

 

 

 

――作戦名(オペレーション)“ガンダム鬼つええ! このまま逆らうやつら全員ブッ殺していこうぜ!”

 









◇◆◇




次回、■50.G-EARTH(1)は10月24日(木)ごろ投稿予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。