【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか―― 作:河畑濤士
……時間は、若干巻き戻る。
ア・バオア・クーの鼻先を通過し、厳重な警備下にあるであろうソーラ・レイを攻撃するために『エンタープライズ』が採った戦術は真正面からの超高速突撃であった。最大戦速。否、連邦宇宙軍で定義するところの最大戦速ではなく、理論上可能な最大速度を『エンタープライズ』は叩き出した。ルナツーから発進した『エンタープライズ』は数日間をかけて加速し続け、その後、ソーラ・レイの砲口目掛けて緩やかに軌道を変更していった。
そして加速しきった『エンタープライズ』からカタパルトによって射出される戦闘機とMSは、ジオン公国軍将兵がその身に叩きこんで覚えた相対位置の変化や偏差射撃では対応しきれない疾風迅雷の鉄槌となる。
加えて彼らが幸運だったのは、ソーラ・レイの砲口とその延長線上の守りが手薄だったことだ。ギレン・ザビは連邦宇宙軍を舐めていた、といっていいだろう。彼は必殺の一撃を放つと決めた瞬間に、速やかに長距離砲撃が可能になるよう、射線上の警備を最小限のものにしていた。
「
「ゲイザー9。こちらでも確認した」
待ち構えるジオン公国軍は、電子情報上からソーラ・レイの姿を隠すため、ソーラ・レイの近傍にだけミノフスキー粒子を戦闘濃度で散布し、そこから離れた周辺宙域にはいっさいミノフスキー粒子を撒いていなかった。これはソーラ・レイに接近する可能性のあるスペースデブリや敵艦艇を、レーダーにて捕捉するためである。
「敵編隊のうちから、1機突出!」
ゆえにソーラ・レイの守備を任された部隊司令部のスタッフたちからすると、レーダー上に急速に接近する艦艇が出現し、そこから十数の光点が現れ――そして、ひとつの光点だけが先陣を切るように突進するようにみえた。
「
「ジ・アースの高速突撃でこちらを掻き乱し、後続部隊が戦果を拡大する、いつものパターンだ」
「こちらアイランド。全火力を最先頭の1機に集中せよ。他は捨て置け」
司令部からの命令に従い、ソーラ・レイの直掩に就くムサイ級軽巡洋艦は視界外となるレーダー上のジ・アース目掛け、対空ミサイルを連射し始めた。
「ジ・アースを墜とせ、それで勝敗は決する!」
――最先頭の1機が、ジ・アースだ。
「と、思うじゃん?」
その認識を嘲笑うように、長砲身120mm無反動砲と4連装ガンランチャーが火を噴いた。
射撃、射撃、射撃――ソーラ・レイ周辺から押し寄せる純白の弾頭を捉えては、その異形は対空榴弾を連射する。この空間において、実体弾の射程は事実上無限。火球が連続して生じては消えていく。
「ゲイザー各ッ、こちらアイランド、何が起きている!?」
レーダーで事態をモニターしていた司令部は、その画面上で何が起きているのか理解に苦しんだ。
なにせ撃ち出されたミサイルを表す光点が、瞬く間に消滅していくのだから。
一方で光学センサーを装備した偵察型ザクから成る監視部隊もまた、事態が呑みこめていなかった。
「ミサイルはすべて空飛ぶ戦車にやられている!」
「空飛ぶ戦車?」
「そうとしか言えない!」
空飛ぶ戦車。
なるほどそのとおりである。
地球連邦戦略航空宇宙第1統合戦闘団が最先鋒に選んだのは、大型宇宙戦闘機に2門の長砲身砲と武器腕を備えたMSの上半身を搭載した――MSや戦闘機の枠からハジケとんだ機動兵器であった。
――RX-75SFスターガンファイター。
白、青、赤、黄の目立つ色彩の機体を操る操縦手はナイトー空軍中尉。
そして砲撃手は
しかもジオン公国軍側の将兵にとって運が悪かったのは、アイカワ空軍中尉が月替わりの座右の銘を“百発百中”にしていたことだった。北海道という広大なる大地が育んだ異常なまでの視力は、視界外の誘導弾を容易く捉えて無力化していく。
「ゲイザー各! その空飛ぶ戦車? に
「わからない!」
そんな会話が行われているわずかな時間に、戦略航空宇宙第1統合戦闘団はソーラ・レイとの距離を一気に詰める。他方、砲口前面に布陣する守備艦艇は指示を待たずに、MS隊を発進させていた。守りが手薄な分、これらの守備隊に配されているMSはリック・ドムやゲルググといった最新鋭機と、機種転換が間に合った中堅、熟練のパイロットたちである。
「スイッチッ!」
ヘッドオンで斬りかかってくるリック・ドムの斬撃を辛うじて
リック・ドムとの激しい剣戟の応酬、ヒートソード同士の激突によって減速するスターガンファイターを、RGM-79Gジム・コマンドとコア・ブースターの編隊が追い抜いていく。そして大威力の携行火器を有する敵MSと激突した。
互いに一撃ですべてが決まる破壊光線が閃くなか、ゲルググを駆る前線指揮官が叫ぶ。
「この雑魚どもにかかずるな――ジ・アースを捜せえ!」
捜すまでもない。
混戦の中を、1機の大型宇宙戦闘機が翔け抜ける。
コア・ブースターとは異なるシルエットと大推力――青と白を基調としたその大型機は、乱戦を置き去りにしてミノフスキー粒子のカーテンに突っこむとともに、その機体背面に備えられたメガ粒子砲と翼下に吊り下げた127mmロケットランチャーを連射した。
遅れてソーラ・レイの砲口下部にあるバーニアが爆散する。
「地球のエンブレム!」
トラファルガ級航空母艦『エンタープライズ』の長距離砲撃が閃き、太陽光パワーパックの破片が飛散する。メガ粒子と破片が反射する太陽光の燐光のなか、その大型戦闘機は直角に軌道を変えて敵の攻撃を躱すと、ソーラ・レイの砲身上方へ躍り出た。
「誰でもいい、奴の足を止めろ!」
大型戦闘機の進行方向に割りこんだリック・ドムは次の瞬間、127mmロケット弾の乱打を受けて爆発の中で四肢を失い、そのまま骸と化した。その脇から1機、2機と新手が突っこんでくる――。
「チェンジ、Gモード」
それを見たか、大型戦闘機はその翼と機首を脱ぎ捨てる。3秒とかからず滑らかな挙動で腰部ユニットが変形し、折り畳まれていた主脚部が展開――地球中から集められた寄せ書きから成る迷彩が施されたMSが、新手のリック・ドムの眼前に出現した。
「は?」
白地に統一性のない模様が描きこまれたMSは変形に伴って慣性を生じさせ、また僅かに減速したため、リック・ドムのパイロットが相対速度を読み切って放った斬撃は、虚空を切り裂いた。
「ビームサーベル、オープン」
リック・ドムが刃を返すよりも早く、“この刃が2秒以内に到着しなければ未来永劫無料――トミノ・ピザ”という祈念の言葉を柄に描きこまれたビームサーベルが、その胸部装甲を貫いた。
「新型――ガンダムだ!」
「噂どおりの重装甲タイプだ、囲んで墜とせ!」
地球連邦政府がジ・アース専用ガンダム開発に“劇場型”を選んだ旨は、先に述べたとおりである。そのためジオン側のパイロットたちは、ジ・アース専用ガンダムが重装甲型であることも、その装甲表面にロゴの掲出と引き換えにスポンサーを集めたことも知っていた。そして攻略方法もまた練っていた。
(距離をとって包囲網を形成、十字砲火で削る!)
重装甲といってもゲルググのビームライフルや、リック・ドムのジャイアントバズの直撃に耐えられるはずがない。奇跡的に致命傷を防げたとしても、1、2発が限度であろう。ゆえに機動力で劣るはずの重装甲タイプのガンダムを、四方八方から射撃するのが最適解のはずだった。
が、その狙いとは裏腹に、ガンダムはバーニアの連続稼働で対戦車榴弾の直撃を躱すと、進行方向のゲルググをビームライフルの一撃で撃破し、高速で包囲環を脱した。
「なんでだよ!」
腰部、脚部、背面のスラスターが放つ青い光を見て、思わず漏らしたジオン兵の声を置き去りにして、ジ・アースはソーラ・レイの側面に備えられたバーニアをビームライフルで射貫。さらにソーラ・レイの側壁に沿って翔び、続けて冷却装置に付随するパイプを破砕した。
「追え――え゛」
なおも追い縋ろうとするゲルググが、極超音速を超える速度で翔けてきたビームに貫かれた。
「敵本隊が来ているッ!」
ジ・アースを追撃しようとしたMS隊は踵を返さざるをえない。混戦を突破してきた数機のコア・ブースターが、メガ粒子砲を放ちながら急接近しつつあった。ここでジ・アースを追跡すれば、彼らに背中を見せることになる。
「連中、なに抜かれてやがる!」
ソーラ・レイの砲身半ばに配置されているMS隊は工兵部隊の護衛役であるため、ザクⅡC型やF型が主である。ザクマシンガンを巡らせて弾幕を張るが、そのすべてをガンダムは小石か何かのように弾き返した。
そしてビームが一閃、二閃。
爆散するザクⅡの残骸は、ソーラ・レイの側壁に叩きつけられて砕けた。その周囲ではメガ粒子砲と120mm対空榴弾が猛威を振るい、太陽光パワーパックとそれを護衛するはずのムサイ級軽巡洋艦を次々と破壊し、新たなスペースデブリを生み出し続けていた。
飛散する残骸。
その鋼鉄の襲雨の中を、1機のゲルググがガンダムに接近しつつあった。
「ジ・アース! ジオンの誇りにかけて貴様は私が墜とす――!」