【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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■52.ジ・アース(3)

「ソーラ・レイにとりつけ、行け行け行け!」

 

 機動部隊の前線指揮を執るジョセフィン・ベヴィス・ショーバー空軍少佐は、コア・ブースターを操って、主脚を失ったジム・コマンドに機体を寄せながら叫んだ。ジム・コマンドの側は左腕で機体背面にあるハンドルを掴むと、右腕のビームガンで突進してくるゲルググの頭部を撃ち抜き、続く射撃でその腹部を射抜く。

 すでに『エンタープライズ』の艦上機部隊からも、少なくない損害が出ていた。

 ショーバー空軍少佐はRX-75SFを『エンタープライズ』の直掩に割り当てつつ、自身と手勢は血路を切り拓き、切り拓いてそれを維持しようと努めた。この状況では、とにかくソーラ・レイの側壁に密着するべきであった。これによって飛来する敵弾の方向は水平方向と頭上からのみに限定されることになるし、敵艦艇はソーラ・レイへの誤射を恐れてメガ粒子砲による長距離砲撃を控えざるをえない。

 

「ショーバー隊長ッ、こっちです!」

 

 1機のジム・コマンド――シャウナ少尉機が冷却装置の影から射撃してくるザクⅡを、ビームガンの連続射撃で冷却装置ごと破壊する。その直上をコア・ブースターが翔け、翼下の127mmロケット弾を投射して前面の敵を焼き払い、張り巡らされた無数の配管を吹き飛ばす。

 が、反撃も凄まじい。黄金色のビームが殺到したかと思うと、ロケット弾を撃ち尽くしたコア・ブースターが瞬く間に橙の火球と化し、そのままソーラ・レイの側壁に激突した。

 さらに僚機が放つ120mm徹甲榴弾の雨霰に援護されたバズーカ持ちのザクⅡが、シャウナ少尉機を狙撃する。彼女は即座に反応し、緩やかな曲線を描くシールドを掲げてこれを防いだ。が、シールドの下端は砕かれたうえに、着弾時の衝撃で左手首が故障した。

 

「このまま包みこんで圧し潰せ! こいつらを叩き潰したら、態勢を整えて突っこんでくる『エンタープライズ』をやる!」

 

 指揮官機仕様のゲルググはハンドサインを連続して繰り出し、工兵部隊の直掩としてこの場に居合わせたザクⅡに、戦陣を組むように指示を出す。

 

「すぐにア・バオア・クーから増援が来る!」

 

 彼は自信満々にそう言った。

 勿論、嘘を言ったつもりはなかった。

 ところが実際のところ、現段階でそうなる見込みはほとんどなくなっていた。

 

「光学センサーに反応あり」

 

「敵艦隊統制射撃――」

 

「馬鹿な、早すぎる」

 

 同時刻、ア・バオア・クーの前面に展開するジオン公国軍の防衛部隊は、凄まじい量の実体弾とメガ粒子の束に直面していた。

 ヨハン・エイブラハム・レビル大将率いる地球連邦宇宙軍全力の火力投射。

 小細工なし、真正面からの長距離攻撃。命中精度はこの際、関係がない。敵艦を外れた227mmロケット弾や長距離艦対艦ミサイル(ファイアフライ)は、その後背に存在するア・バオア・クーに次々と直撃し、その外殻を抉った。

 グワジン級戦艦が接舷したレビル将軍の座乗艦、マゼラン級戦艦『フェーベ』もまたメガ粒子砲による長距離射撃を開始している。

 

「……」

 

「始まったか」

 

 そしてレビル将軍とデギン公王はともに『フェーベ』の被装甲区画にてモニターを眺めていた。

 現在、月面ではジオン公国首相のダルシア・バハロが、そしてここ『フェーベ』では公王のデギンが地球連邦に接触、停戦および和平交渉にあたっている。

 にもかかわらずレビル将軍が率いる艦隊が、集結と戦陣の形成もほどほどに全面攻撃に踏み切ったのには、理由があった。

 

「軍部は何をやっている、敵要塞を攻撃しろ! ゆっくりするな、すぐでいいぞ!」

 

 前線にて指揮を執るレビル将軍の上位組織である統合参謀本部が、それのさらに上位にあたる安全保障会議(議長は地球連邦首相)から攻略作戦を前倒しして強行するよう、命令を受けたからであった。

 

「よろしいのですか?」

 

 可能な限り作戦発動のタイミングを前線部隊の判断に任せたい統合参謀本部議長は、安全保障会議からのメッセンジャー――といってもただの使い走りではなく、安全保障会議に籍を置く議員のひとり――に食い下がろうとしたが、彼は躍起になっていた。

 

「小官としてはもちろん構いませんが……現在、地球連邦政府(われわれ)は彼らとの交渉中。そこで宇宙軍が新たに作戦行動を開始する――」

 

「な……」

 

「そうなれば問題「な、なに言ってだぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛!?」

 

「?」

 

「『エンタープライズ』がやられるほうが問題でしょおおおおおおおお゛!?」

 

「はあ」

 

 一方的に怒鳴られた統合参謀本部議長はひるむことなく、冷静にモニターに映る顔を見つめた。

 

「それにあのコロニーレーザーが破壊されるまでは、停戦もないぃいい゛い゛い゛い゛!」

 

 そう絶叫するモニターに映る丸顔の連邦議会議員、シャルル・ガブリエル・ユークリドスの言葉は、安全保障会議を構成する議員たちの共通見解に近かった。

 一時停戦と和平条約の締結に向けた本交渉が始まったとしても、彼らが一方的に地球を焼ける(可能性のある)コロニーレーザーを有している限り、安心はできない。そして彼らはこの期に及んで、殴りこんだ『エンタープライズ』とジ・アースが返り討ちに遭った場合に生じるであろう政治問題に気づいたのである。

 

「れ、れんぽうが、ちゅ、ちゅぶれ、潰れるう゛!」

 

 別に連邦は潰れない。

 

 潰れるのは行政に与する連邦議会議員の面子と、現連邦議会の顔ぶれだ。

 

 なのだが、とにかく全力で前線部隊はア・バオア・クーを攻撃し、敵戦力とその火力を少しでも誘引、『エンタープライズ』の一党を助けてやれ、というのである。

 

「はあ」

 

「はやぐじろ゛この゛すっとこどっこいがぁあああああ゛!(フランス語)」

 

 フランス語で罵詈雑言まで吐き始めた彼を前に、統合参謀本部議長は処置なし、と安全保障会議の意思をレビル将軍に伝えるほかなかった。レビル将軍が得意とする作戦と戦術はどちらかといえば、巧遅のそれであるが、民主主義の軍隊である彼らは連邦市民が選出した代表者に従わなければならない。

 

「ポイントJh5へ移動」

 

 地球連邦宇宙軍の大艦隊は射撃を打ち切ると、素早く予め定められた宙域へ転進する。

 その2、3分後、ジオン公国軍側の応射がミノフスキー粒子から成る分厚い暗幕を切り裂き、先程までマゼラン級戦艦をはじめとした宇宙艦艇の戦列が存在していた空間に殺到した。

 壮絶な空振り。

 対する地球連邦宇宙軍は再びア・バオア・クー目掛けて艦砲射撃を開始する。

 見事なヒットアンドアウェイ――。

 

「勝負ありましたな」

 

 ア・バオア・クーの中央司令部に詰めるキシリア・ザビは冷淡にそう言った。

 対する彼の兄は横目でキシリアを一瞥すると、ふん、と鼻で笑った。

 が、キシリア・ザビからすればそれは強がりにしか見えない。

 これから始まる戦闘の推移と勝敗以前の問題が多すぎた。

 

(すでにソーラ・レイの電力供給、冷却システムは機能しない)

 

 航空母艦『エンタープライズ』の殴りこみによって、ソーラ・レイは大損害を被った。

 そのダメージは2、3日で修理できるものではない。

 加えてデギン公王をはじめとした一部文官の和平工作。

 仮に公王や首相によって停戦や講和が成立したとしても、戦争遂行のうえではあまり関係がない。なにせジオン公国軍のトップはギレン・ザビ総帥であり、総帥は文官のコントロール下にはないため、停戦の合意がなされたとしてもジオン公国軍は戦争を継続することが可能だ。

 

(が、“国を割る”となれば、将兵に動揺が広がる)

 

 独裁体制下にあるジオン公国とはいえ、建前上、条約の締結は内閣が、条約締結の承認は議会が行うことになっている。丁寧に事を運ぶならば、与野党双方の議員に工作を仕掛け、条約締結を否認するように仕向けなければならない。

 

(それに――)

 

 キシリア・ザビは冷ややかな視線を、ギレン・ザビの横顔に向ける。

 

(通常戦力であっても我々は連邦宇宙軍に大きく水をあけられている)

 

「心配するな、策はある」

 

 対するギレン・ザビはそう言い切った。

 







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次回更新は1週間以内を予定しております。



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