【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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■54.ジ・アース(5)

 迫るゲルググ。

 相手を委縮させることを狙った威嚇か、回転する金色(こんじき)の光刃。

 フェイントと渾身の斬撃に繋がるであろう挙動、虚実入り乱れたゲルググの剣戟は、見た者誰もが熟練の域と認めるであろう――対するハチノ大尉は射撃での迎撃を諦めた。ジオン公国軍のネームドパイロットならば、こちらの砲弾をビームナギナタですべて蒸発させる程度のことをやってのけてもおかしくない、という映像作品における見慣れた描写を思い返しての判断。

 

(足場がいる)

 

 前世の経験に引きずられているのか、地に足がつかない虚空での格闘戦は苦手だ――そんな自己判断の下、ガンダムはソーラ・レイの側壁に着地させながら、背負う柄頭(つかがしら)に両腕を遣った。弾ける赤桃(せきとう)のメガ粒子。展張する光刃。

 構えは二刀。

 左主腕で保持する刀身は頭上に掲げられ、右主腕で保持するビームサーベル、その剣先(けんせん)は真っ直ぐにゲルググへ指向された。

 

「む――」

 

 ゲルググもまた両主脚をソーラ・レイの側壁に接地させた。そしてビームナギナタを携えたまま、動かない。そのまま正面から突っこめば、ガンダムが右主腕で保持するビームサーベルから放たれる刺突を浴びることになる。

 

(だいたいわかった)

 

 対するハチノ大尉は、先程ゲルググが行った無意味なデモンストレーションを見て、ビームナギナタの実態を理解した。

 

「……往くぞ、ジ・アース」

 

 ゲルググはビームナギナタの柄を垂直に立てるように構えた。

 そして下段の切っ先を少し()り出させながら、ガンダムへゲルググはにじり寄る。

 上段にそびえる刃、下段から脅かす刃。それをハチノ大尉は、電子の瞳を通して睨んだ。

 

(現在の構えから最も早く出されるのは、下段からの斬り上げ、下段からの脚部に対する突き――)

 

 先に動いたのはやはりゲルググだった。

 数歩、急加速。選択されたのは下段からの斬り上げ。

 その刃の軌道上には、ガンダムの右手首がある。

 

「……」

 

 この時点で勝敗は決した。

 敵の挙動を読み切った御者に操られたガンダムは、この宇宙に存在するMSにおいて最速となる反応で右腕を引き戻す。黄金色の刃は虚空を斬り――それに擦れ違うようにガンダムの左主腕が必殺の斬撃を振り下ろした。

 

「ジーク――」

 

 ゲルググのパイロットが何かを言い切る(いとま)はなかった。

 赤桃(せきとう)の刃はゲルググの鉄兜を触れただけで融解させ、頭部ユニットを両断し、胸部上面装甲と正面装甲を貫徹し、装甲に(よろ)われている操縦系統や機関部を膨大な熱量で破壊した。

 

 ……さて。

 

「敵秘密兵器コロニーレーザーの破壊に成功――!」

 

 マゼラン級戦艦『フェーベ』に設置されている作戦司令部は、沸いた。

 敵の切り札は『エンタープライズ』とジ・アースを筆頭とした戦略航空宇宙第1統合戦闘団が潰した。

 その一方で、宇宙要塞ソロモンを灼いた自軍の手札は残っている。

 

 ア・バオア・クー周辺宙域を巡る血みどろの空間の奪い合いは、連邦宇宙軍の優勢で推移した。ソーラ・レイの照射が阻止されたことによって、指揮系統の一時消滅と艦隊30%蒸発の悪夢がない以上、連邦側が原作よりも早々に優位に立てるのは当然のことである。

 レビル将軍が採ったのは、整った艦隊統制と絶大な火力を活かした長距離砲撃戦で敵の機動戦力を釣り出して叩き、平押しで徐々に敵を圧迫する戦術であった。

 彼の構想においては、とにかく敵航空母艦やMS隊の漸減が重要だった。

 そうして目立った機動戦力を潰して、敵に要塞に拠っての防衛戦しかないと決断させるまで追い詰める。この段階になると地球連邦軍側は十分な縦深を確保できているため、戦域最後方で約400万枚のミラーユニットから成るソーラ・システムを展開させることが可能になる(原作ではソーラ・レイの照射によってソーラ・システムは、輸送艦ごと消滅している)。

 敵はソーラ・システムの所在に気づくと同時に手持ちの予備戦力を投入したり、衛星ミサイルによる長距離攻撃を開始したりするかもしれないが、前者を跳ね除けることは容易であろう。後者は弾頭の質量からいってこれを無力化させることは難しいが、一方で衛星ミサイルは運動エネルギー弾にすぎないため、ソーラ・システムを構成するミラー群に突っこんだとしても、衛星ミサイル1発あたり数枚前後のミラーが破壊されるにすぎない。

 そしてソーラ・システムはその原理上、連続使用が可能である。

 

 一方のジオン公国軍、その頭脳ともいうべきギレン・ザビにも、未だ切り札はあった。

 地球連邦軍が核戦力の拡充と再整備を進めている以上、ジオン公国軍もまた報復の手段を持たねばならない――そんな大義名分の下に、ギレン・ザビは核運用体制を北米にて抵抗を続ける地球攻撃軍と、ア・バオア・クーの駐留部隊に再構築していた。

 

「……」

 

 ギレン・ザビの横顔を、キシリア・ザビは盗み見た。

 

(正気か?)

 

 そして彼はいま、再び決断を下そうとしていた。

 ア・バオア・クーが保有する核弾頭はすべて『グレート・デギン』と、連邦宇宙軍が展開しようとしているソーラ・システムに指向する。と、同時に北米の地球攻撃軍に対しては地球上の主だった大都市に向け、核攻撃を実施するように命じる。

 勿論、ジオン公国軍が核攻撃に踏みきり、実際に核弾頭が起爆するような事態となれば、今度こそ地球連邦軍は核報復を実施するに違いない。

 それも苛烈な――。

 

(兄上は人類を滅ぼしたいのか)

 

 キシリア・ザビが自身の兄の正気を疑ったのは、当然であった。

 なにせ両者、目指すゴールが異なっている。

 ギレンの野望とは、人類の存続と地球環境の回復にとって障害となる増えすぎた人類を可能な限り減少させ、そのうえで優れたスペースノイドが限られた数の人類と地球環境を管理する、という代物である。そして人類と地球の管理者は、自分でなくても構わないと思っている。実際のところ、この戦争を通じて人類の総数を減らし、スペースノイドのさらなる台頭をもたらすような深刻な打撃を地球圏に与えることができれば、それでよい。

 他方、キシリア・ザビが目指すゴールはより保守的だ。ジオン公国が地球連邦を降し、その前後で自身がジオン公国における権勢を盤石なものにしていく。つまりその身と祖国もろとも相手に心中を強要すれば、目的を半ば達成できるギレン・ザビの手法を看過はできない。

 

「『ドロス』、『ドロワ』を前進させよ。敵の攻撃が両艦に指向した瞬間を見計らい、核攻撃部隊は――」

 

 左右に指示を出すギレン・ザビの背後に、キシリア・ザビは立った。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

――戦争は終わる。

 

 約400万枚のミラーユニットが集束させた太陽光を浴び、純白に輝くア・バオア・クーはここ航空母艦『エンタープライズ』からも見えた。

 戦略航空宇宙第1統合戦闘団の状況といえば、満身創痍。『エンタープライズ』も、ガンダムも、MS隊も、戦闘機隊も傷を負いながらも再集結することに成功した。ソーラ・レイの無力化後も退却戦は続いたが、それもぱったりとやんでいる。

 ジオン公国軍に対しては公王と首相の連名で、地球連邦軍に対しては地球連邦首相によって停戦命令が出たのである。これによってア・バオア・クー周辺宙域の部隊は、ア・バオア・クーに拠って最後まで戦おうとする徹底抗戦派と、停戦命令に応じて事のなりゆきを見守ろうとする統制派に分かれた。

 

(が、とにかくこれで一年戦争は終わるはずだ――)

 

 俺はガンルームの壁にもたれて、溜息をついた。

 どっと疲れたが、最後の最後にソーラ・レイの照射を防げたのはよかった――。

 

 後から思い返せば、こうして俺が安心しきっているうちに、事態は進展していたのであろう。

 







◇◆◇



あと2、3話で完結です。



◇◆◇
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