【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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■55.地球人類を守る戦いが始まった。

 地球連邦軍の核報復体制が整っているにもかかわらず、ジオン公国軍全軍に核攻撃を命じようとしたギレン・ザビが、キシリア・ザビによって射殺された――その同刻、地球連邦軍戦略ロケット軍中央司令部から地球連邦軍の一部将官と、50メガトン級核弾頭を装備する戦略航空宇宙第1統合戦闘団司令部に、量子通信による暗号文が飛んだ。

 

 ピースメーカー計画の下で整備されつつある大出力核弾頭は弾頭の活性化において、柔軟性・生残性とセキュリティの両立を目指している。

 

 地球連邦首脳部、あるいは制服組トップが居並ぶジャブローが全滅したとしても、戦略ロケット軍中央司令部から発される通信に諸軍種の将官複数名(少将以上)が承認のもとで返信をすれば、起動コードが前線部隊に発行され、核弾頭に“火が入る”仕組みとなっていた。

 

 諸軍種の将官複数名の承認を必要とするのは、核弾頭を個人的な企みや一部の派閥の決断のもとで使われないための措置である。

 

 そのため平時ならば、地球連邦軍にひそむ“小ギレン”が戦略ロケット軍中央司令部の人間を焚きつけたとしても、容易に核弾頭の起動コードが発行されるはずがない。

 

 しかし。

 

 否、ゆえに。

 

 憎悪と復讐で連帯する彼らは、みな一同に承認をしていった。

 

 それでも戦略ロケット軍に属する多くの核弾頭保有部隊司令部は、サイド3に対する全面核攻撃実施命令と発行された起動コードの送付を確認するなり、核攻撃の準備と並行して武官のトップにあたる統合参謀本部とそれをコントロールする安全保障会議に正式な命令か否かを確かめる作業を実施した。

 

 これは西暦時代から連綿と続く伝統である。

 

 仮に大統領や首相から正式な核攻撃命令が下ったとしても、ギリギリまでその核攻撃命令の真偽を確認し続ける義務が、彼らにはあり、ゆえに踏みとどまることができた。

 

 が、唯一の例外があった。

 

 戦略航空宇宙第1統合戦闘団司令部、である。

 

 同司令部に全面核攻撃実施命令と発行された起動コードが届くなり、作戦司令を務める連邦戦略ロケット軍のシルビオ・パブロ・フック少将は、マニュアルどおり核攻撃の準備を始めつつ、戦略ロケット軍中央司令部を無視し、統合参謀本部と安全保障会議に命令の真偽を確かめる作業を開始した。

 

 が、真偽が判明するよりも早く、安全装置が解除された50メガトン核弾頭2発を積んだMS――RGM-79ATM核運用仕様ジム(■43参照)は発艦していた。

 

 搭乗者は、シルヴィア・プロット・バッグランド宇宙軍准将である。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「命令は間違いだというのに――シルヴィア准将は、な、なぜ引き返さないっ!」

 

 俺が呼ばれたとき戦略航空宇宙第1統合戦闘団司令部は、すでに混乱状態にあった。というよりも作戦司令のフック少将だけが取り乱していた。艦橋に詰めるほかのスタッフは焦燥に駆られていたが、それでもベストを尽くすべく思考を巡らせている。

 

「一応、レーダーでシルヴィア准将の機体の位置を確認はできていますが……。このあたりはミノフスキー粒子とスペースデブリで、従来型の無線通信もレーザー通信も遮られているのかも。レーダーに映っているからといって、こちらの呼びかけや避退命令を受信できているかはわかりませんよ」

 

 航空母艦『エンタープライズ』をあずかるビクトル・デ・ボルゴーニャ宇宙軍大佐の説明に、フック少将は憤りで顔面を真っ赤にしたかと思うと、次の瞬間には顔面を蒼白させていた。

 

「閣下、戦略ロケット軍では遠隔操作で、弾頭を非活性化状態にはできないのですか」

 

 そう問うたのは、艦隊司令のファン・アン・クォウ宇宙軍准将である。

 地球から宇宙までほぼタイムラグなく通信できる時代に、遠隔操作ができないということがあるわけがない、というのが彼の認識だった。

 ところがフック少将は力なく、

 

「母機のほうからしかできない……」

 

 と溜息まじりに言うだけであった。

 

 新規に製造された50メガトン級核弾頭は、悪意のある電子的遠隔操作で弾頭が活性化することがないようになっている。

 あるのは、戦略ロケット軍中央司令部が発行した起動コードに対して承認が下りると同時に、弾頭側の活性化に必要な起動コードが、量子テレポーテーション技術によって発行されたものに確定される機能だけだ。

 必ず人間が起動コードを読みこませ、あるいは人間がコードとともに非活性化を命じなければならない。

 戦略ロケット軍は伝統的に人間の善性を信じている節があった。

 人間こそが、最後のセーフティ――それが裏目に出たというか、人間が強い意志とともに核攻撃に踏み切るとは、愚かにも思っていなかったのであろう。

 

「通信がきかない、遠隔操作ができない――」

 

 クォウ准将もまた顔をしかめたが、代替案の提示は早かった。

 

「なら、こちらが追いかけるしかない」

 

「この満身創痍の『エンタープライズ』で?」

 

 無理です、とビクトル艦長は手短に説明した。

 とにかく『エンタープライズ』では、カタパルトから発艦したジムに追いつく手段がない。なにせ相手は母艦の速度に、カタパルトからの射出速度が加わっている。それに発艦後にジムがスラスターを吹かせて加速していた場合、『エンタープライズ』が急加速したとしても追いつくのは難しかった。

 

「ここからいちばん近い友軍――レビル将軍の艦隊を頼るのは?」

 

 作戦参謀のひとりが、宙域マップを指し示した。

 

「もう連絡を入れている……!」

 

 フック少将は恐怖していた。

 現在のポストも、キャリアも水の泡だ。

 が、それ以上にこの数十年ともにしてきた人類社会が、脅かされようとしている。

 

「もう連絡を入れているのだ。だが彼の艦隊でさえ、ア・バオア・クーを挟んで反対側にいる。いちばん近いのは我々だ。我々が間に合わないなら、誰も間に合わない。おそらくジオン側にも、連邦政府は事態を説明しているだろう。最悪の場合、ジオンの連中に彼女を止める――否、彼らは彼女の機体を撃墜するだろうな」

 

 嘆息とともに語るフック少将の言葉。

 そして数秒の沈黙が流れる。

 そこで、手を挙げた。

 

「よろしいでしょうか」

 

「なにか案があるのかね。英雄のハチノ大尉でもこの状況ばかりは――」

 

「艦上機を出せば間に合うのでは?」

 

 こちらの問いに、ビクトル艦長と航空参謀のオギオ少佐は顔を見合わせた。それからニューギニア島出身でこの場で最も敵愾心をもつであろうオギオ少佐は、諦め半分といった口調で言った。

 

「ダメだ。戦闘機隊もMS隊も――もちろんガンダムも、修理と補給が間に合わない。言っておくが、これは私怨ではない。『エンタープライズ』に係留して、あるいは直掩として防空戦闘に従事させられる機体はあっても、いまカタパルト射出に堪えられる作戦機はない」

 

 そう断言するオギオ少佐の浅黒い表情を見つめ、俺は首を横に振った。

 

「えーっとですね。とりあえず、ありますよ」

 

 ……。

 

 その数分後、俺は万全の状態にある銀翼の機体外部点検(ウォーアラウンド)を終え、操縦席に潜りこんでいた。

 

 もう慣れたものだ。

 

 特に意識せずとも緊急脱出装置とノーマルスーツの装着からペダルの点検までをこなす。

 

 操縦席左側にあるコンソールに左手をやり、エンジンスイッチを“バッテリー”に入れた。

 

「機外灯、灯りました?」

 

「ジ・アース、大丈夫です! 灯ってます!」

 

 整備員が親指を立てるのを視認するとともに、俺はエンジンスイッチを“メイン”に入れた。

 

 ここからは無線通信のテストも兼ね、通信機を使いながら出撃準備を整えていく。

 

 続けて燃料供給スターターシステムのスイッチを押し、続けてスロットルレバーを操作した。

 

 途端にハービック社謹製のエンジンが始動し、機体全体が振動し始める。

 

「何もトラブるなよ……」

 

 異変があればすぐにエンジンを切るつもりだったが、エンジンは勿論、機体のすべてが絶好調だった。

 

 異常を示す警告灯はなにひとつ灯っていない。

 

「こちらジ・アース、問題なし」

 

 まさかこの局面で愛機(こいつ)に乗ることになるとは、というのがいまの偽らざる心情である。

 

「ジ・アース。こちらシャングリラ・コントロール、了解した。FF-4C射出発艦段階に移行する」

 

 FF-4Cトリアーエズ。

 

 戦力外の連絡機としてこの(フネ)に配備されていたこの機体が(■49参照)、最後の希望となるとは、まさか思ってもみなかった。

 








◇◆◇



■56.FF-4C(5)翔ける銀翼、墜ちる太陽。

の投稿は1週間以内を予定しております。

更新を急ぐ理由は私が死にそうだからです。



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