【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

6 / 56



◇◆◇

次回更新は5月11日を予定しております。

◇◆◇





■6.FF-3S(1)地球圏ピンポンダッシュ作戦!

 宇宙世紀0079年1月12日、トラファルガ級航空母艦『エンタープライズ』を旗艦とする我々航空宇宙第1統合戦闘団は、サイド3周辺宙域を長駆攻撃する“地球圏ピンポンダッシュ作戦”のため、ルナツーを発した。

 

(シルヴィア准将が提案した作戦名“ジオン死ね死ね作戦”は、親連邦派のスペースコロニーにもサイド3出身者がいることを鑑み、政治的な問題が生じる可能性が否定できないため、作戦名はシルヴィア准将が続いて提案した“地球圏ピンポンダッシュ作戦”に変更となっている)

 

 トラファルガ級航空母艦『エンタープライズ』に配備されている航空戦力は、FF-3Sセイバーフィッシュが11機。それとは別に小型核融合炉を背負い、4基のミサイルランチャーを電子機器に換装した、電子戦仕様機FF-3EAエレクトロニックセイバーが1機配備されている。が、電子戦仕様機であってもミノフスキー粒子散布下では、どの程度の働きができるかは不透明である。

 

「ハチノ大尉、マーキングはばっちりですぜ」

 

 駐機場に向かってみると、1機のFF-3Sの尾翼――それから主翼下にようやく見慣れてきたマークが描かれていた。地球を模した青い星と、走る黄色い流星。ご丁寧にもその下には追加でTHE EARTHと大書されている。

 が、大事なのはそこではない。オーダーどおり、セイバーフィッシュの塗装は全機、連邦軍標準の白を基調としたものではなく、濃紺をベースとしたものになっていた。ミノフスキー粒子が濃い環境での視界内戦闘では、純白の機体はあまりにも目立ち過ぎる。

 

「一日で仕上げてくれるとは、ありがたい限りです」

 

 礼を言うと、機付長のトレイシー軍曹は困惑気味に笑った。

 

「いえ、大尉。俺たちにはこれしかできませんからね――連中のケツ、蹴り上げてきてくださいよ」

 

 人好きのする笑顔のトレイシー軍曹。

 が、その瞳の奥には憎悪が燃えている。

 この1週間で、あまりにも多くの人が死にすぎた。

 

「……慣熟訓練に行ってくる」

 

 いたたまれなくなって、駐機場を後にする。

 

 ◇◆◇

 

「あー。エリアAA91からAA81へデブリが移動中。数は4。速度は……」

「エリアAA92からAA81も同様。これもスペースデブリ……」

「馬鹿ッ! 空襲警報ッ!」

 

 宇宙世紀0079年1月15日。サイド5において地球連邦軍とジオン公国軍の前哨戦が始まった頃、前線から遥か後方――未完成のソロモン宇宙要塞の周辺宙域にて、1メガトン級熱核兵器が炸裂した。

 超音速の爆風が生じないとはいえ、人工的に生み出された太陽は熱線を以て対空陣地や建設中のミサイルサイロを蒸発させた。それのみならず熱線は広範囲のセンサー類を灼き、わずか1秒で無力化してしまった。

 続いてメガ粒子の奔流が襲いかかる。係留されていたパプア級補給艦が白桃の閃光に貫かれ、次の瞬間には白い光を発しながら爆散した。

 

「緊急発進ッ!」

「1番スペースゲート開け!」

「ダメです、第2次攻撃来ます!」

「もう開けてますけど、どうすんですか!」

 

 メガ粒子砲の斉射がソロモンの地表を焼き、露天式の対空砲座が爆散していく。その間隙を衝き、1機の戦闘攻撃機が飛来――ミサイルランチャーと一体化している下部バーニアを展開して逆噴射をかけ、その場に滞空した。

 その先にあるのは、中途半端に開いた発艦用ゲート。

 

「くそったれ、青い星だ――!」

 

 25mm機関砲4門が火を噴いて発艦用機械類をズタズタに破壊し、上部コンテナから発射された2発の有線誘導式ミサイルが、駐機中のザクⅠに直撃する。大破した胸部をそのままに仰け反ったかと思うと、後方の隔壁に激突して崩れ落ちた。

 

「なぜここまで敵の接近を許したッ!」

 

 ソロモン内部の戦闘指揮所ではいまするべきではない議論が始まっていた。

 航空宇宙第1統合戦闘団がここまで発見されずに長駆進出できたのは、半分は幸運だ。たった4隻の宇宙艦艇は、この1週間戦争で撒き散らされた無数のデブリの動きに偽装しやすい。そして彼らは実際、大艦隊が補給艦を引き連れて抜けるには狭すぎる暗礁宙域を経由しながらやってきた。

 故にサイド5へ移動するジオン側の主力とかち合うこともなく、無秩序に拡散したミノフスキー粒子によって無人哨戒機の監視もパスすることができたのである。

 

「こちら『エンタープライズ』放送局・エレクトロニックセイバーでーすっ」

 

 ミノフスキー粒子散布下では戦闘管制ができない電子戦仕様機FF-3EAは、誰が聞いているかもわからないチャンネルに雑音を垂れ流している。

 

「ソロモンのみなさーん、本日の天気をお伝えしまーす。繰り返しまーす。こちら『エンタープライズ』放送局。本日の天気をお伝えしまーす。本日のソロモンの平均気温はーなんとっ! セ氏6000度と史上最高のド真夏日でーす。えー、現在の天気は核ときどきメガ粒子、明日は曇りのち晴れ」

 

「クソガキがぁ゛あ゛あ゛!」

 

 怒りのままに1機のザクⅡが、露天係止場からザクマシンガンを撃ち放ちながら飛び上がる。FF-3EAの翼を、曳光弾が擦過する。が、その2秒後には横合いから飛んできた複数発の70mmロケット弾を浴び、ソロモンの突出部に衝突して爆散した。

 

 その後、11機のセイバーフィッシュは宇宙要塞ソロモンを空爆して回った。

 とはいえ、寡兵には違いない。艦上攻撃隊はソロモンを周回して、即座にサイド1の暗礁宙域へ撤退。『エンタープライズ』はこれを収容し、後退を開始した。

 

 ジオン側はこの時点では、事態をまだ楽観視していたといっていい。

 油断から建造中の宇宙要塞ソロモンに対する攻撃を許したが、所詮は小艦隊の奇襲にすぎない。それが彼らの分析だったし、それ以上『エンタープライズ』なる艦艇に思考力のリソースを割くことはできなかった。なにせいまルウム5周辺宙域では、大規模会戦が生起しているのだから。

 

「こちら地球連邦軍航空宇宙第1統合戦闘団『エンタープライズ』放送局でーす。サイド3のみなさーん、えー、臨時ニュースです。繰り返します。こちら地球連邦軍航空宇宙第1統合戦闘団『エンタープライズ』放送局でーす……」

 

 電子戦機による民間放送に対する電子攻撃が始まるまでは。

 

「サイド3のみなさーん。これから24時間以内に我々航空母艦『エンタープライズ』は、サイド3内の宇宙港を攻撃しまーす。我々地球連邦軍は人道的ですから、避難勧告をいたしまーす。また航行不能宙域をお報せしまーす」

 

 この電子攻撃に、サイド3は官民ともに混乱状態に陥ったといっていい。

 

 が、結局サイド3のコロニーに対する攻撃は行われなかった。

 

「空襲警報ッ!」

 

「なんで、連中の標的はサイド3じゃなかったのかよ――!」

 

 月面都市グラナダ郊外にあるジオニック軍需工場に対して、レーザー誘導爆弾が放たれた。

 黒々とした弾体は月の重力に曳かれるまま軍需工場の上空に達すると、弾頭の外殻を棄てる。そこから撒き散らされるのは、50発の子弾。内、半数は瞬時に炸裂し、焼夷剤と破片で破壊の限りを尽くす。残る半数は時限式信管が採用されている――勿論、嫌がらせのためだ。

 少数の対空ミサイル陣地が戦闘を開始しようとしたが、こちらもまたセイバーフィッシュが先んじて発射した対レーダーミサイルの直撃を受けて沈黙の憂き目に遭った。

 

 宇宙要塞ソロモンとは異なり、グラナダはジオン側が占領したばかりの拠点。故に防衛体制はさほど整っていない。それどころか頼みの綱ともいえる機動部隊――突撃機動軍の過半数はサイド5・ルウムに投じられており、残る有力な部隊はサイド3方面に出張っていた。

 現在はジオン側が占領している旧地球連邦軍駐屯地にメガ粒子砲の斉射が浴びせられ、隊舎が次々と蒸発していく。

 

「緊急発進!」

 

「カタパルトは使えない! 各機は自機のスラスターで上がれッ!」

 

「緊急発進機以外も上げろ!」

 

 地球連邦軍航空宇宙第1統合戦闘団の先制攻撃から逃れた駐機場から、ザクⅠがスラスターを全開にして急上昇する。地表にいてはやられるのを待つだけ。中にはヒートホークしか装備していない機体もあった。

 

「艦隊対空ー戦闘ォー! 艦隊内目標割当開始」

「艦隊対空ー戦闘ォー! 艦隊内目標割当開始」

 

 それを舌なめずりして待っていたのは、サラミス級巡洋艦の砲雷科員たちである。

 ミノフスキー粒子がまったく散布されていないこの空間に、MSが上がってくるのは自殺行為でしかない。

 瞬く間にレーダーに捕捉され、超音速の対空ミサイルが発射される。

 マッハ5の高速飛翔体を避けることかなわず、爆散する数機のザクⅠ。

 月の重力に抗いながら虚空を舞い、ザクマシンガンを構えたザクⅠは次の瞬間、単機で突撃してきたセイバーフィッシュが放ったミサイルを浴び、火を噴きながら墜ちていく。

 

 グラナダの軍事施設から立ち昇る煙の合間を縫い、セイバーフィッシュの編隊が翔ける。

 

「誤爆はするなよ!」

 

 編隊長を務めるドミニク大尉は、そう怒鳴って視線を周囲に遣る。

 純然な軍事施設であった宇宙要塞ソロモンとは異なり、眼下に広がる人工物の大半は民間人が暮らす市街地だ。核兵器が使えないのは勿論のこと、無差別的な航空攻撃はできない。

 

(とはいえ、欺瞞か)

 

 ただドミニク大尉は良心が咎めるのも感じていた。

 いくら市街地を避けて攻撃しているとはいえ、軍需工場の労働者は死ぬし、先程撃墜したザクⅠの残骸はもしかすると罪なき人々を圧し潰したかもしれない。

 

(だが、この感傷、自己満足こそが人を人たらしめるのかもしれん――)

 

 ドミニク大尉は迷いと敵の対空射撃を振り切った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。