デンドロな僕が行くデンドロ冒険譚   作:草々

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序章 First (Step / Choice)
一話 世界への あるいは目標への第一歩


□霊都アムニール中央 大議事堂前 四季春太

 

「えっ、これ以上近くには行けない?どうしてですか?」

 

レジェンダリアの首都であるアムニールの少し外に落ちてきた僕は、早速目の前に見える大樹、【アムニール】を目指して歩き始めた。

とてもとても大きく、天を衝くような【アムニール】は、街の外れからでもすぐに見つけられた。

街の中に入るための門は誰にでも解放されていたので何の身分証もない僕でも何事もなく通れた。

しかし、順調に行けたのはそこまで、その次にあった門の前で、僕はその両脇に立っていた門番に阻まれ、それより先には進めずにいた。

 

「なんで、と言われてもなあ……。これより先は俺たちの国の中枢、政治的にも宗教的にも重要な場所なんだよ。悪いが許可なしじゃあ例え〈マスター〉でも入れるわけにはいかないな」

「そんなぁ……ここまで来たのにこんな遠目にしか見ることができないだなんて……どうにか入れてもらえせんか?」

「残念ながら、俺の権限じゃ無理だからなあ」

 

一体どうすればいいんだろうか。

リアル視点にしたためか、【アムニール】がとても遠く見える。

こんなに遠くにいては、あの樹の肌もまともに見ることもできない。

まして根や、葉の一枚一枚といったものに至っては見えないし、

触れてその感触を感じることや、耳を当てて水を吸い上げる音を聞くこともできないじゃないか。

しかし、だからと言って僕が〈マスター〉である以上この門の奥に行けるような人になるのは、つまり政治や宗教に関われる立場になるのも無理がある。

もう諦めるしかないのだろうか……。

そう思って落ち込んでいると、

 

「まあ、兄ちゃんは〈マスター〉なんだろ?一応、この国に多大な貢献をした奴には稀に【アムニール】様が枝を下げ渡してくれるなんて話もあるんだ。そうでなくともある程度有名になったりすりゃあなんらかの大きな式典の時に誰か関係者が許可してくれるかもしれないぜ?〈マスター〉だったらそれ相応に力はあるんだろ。まずは、強くなってこの奥にいるような偉い人に認められるように頑張ってみたらどうだ?」

 

と、門番の一人が言った。

これはまさに福音かもしれない。

さっきまで僕と【アムニール】が会うことを妨げてくる悪魔のように見えていた門番さん達が、今ではまるでキューピッドであるかのように見えてきた。

 

「分かりました!頑張ってみます!ありがとうございます!」

「お、おう。頑張れよ」

 

激しく握手をして、めいっぱいの笑顔で僕たちのキューピッド二人にこの感謝の想いを伝え、僕は来た道を戻ろうと方向を変えた。

これで当面の目標は決まりだ。

まずは〈マスター〉としての実力をつけ、この国の偉い人や【アムニール】に認められること。

そして、【アムニール】に会うこと!

 

ああ、早く会ってみたいなぁ!【アムニール】!!どんな感じなんだろうなぁ!遠目で見ても美しいけど近くで見たらどんな肌をしてるんだろう。触ってみたらどんな感触がするんだろう。今からでもワクワクとドキドキで頭がいっぱいになりそうだ!

 

そうして【アムニール】の事を考えながら歩いていくと、すぐに後ろから、さっきの門番さん達から僕を呼び止める声がした。

 

「ちょっと待った!新人〈マスター〉君!外に出るなら先にジョブに就いておいたほうがいいよ!」

「あっ……はい!重ね重ねありがとうございます!キューピッドさん!」

「えっ?キューピッド?」

 

さて、じゃあまずはジョブに就くことからだね!

 

 

 

 

□〈ジュード森林〉 【戦士】 四季春太

 

初期装備がナイフであったからというだけの理由で僕は最初のジョブに【戦士】を選び、早速近くの狩場に来ていた。

初期セーブ地点だけあって霊都周辺は初心者向けなのか、道中周りを見渡してみれば僕と同じように初期装備のプレイヤーが何人も同じ方向へ進んでいた。

僕が狩場をジュード森林に決めたのは森だったからだけど、身の丈に合っていそうだ。

 

そうして、僕は森に着いた。

【アムニール】を初めて見たときの感動と比べれば及びはしていないかもしれないが、こんなに生き生きとしていて美しい木々に囲まれているというのはどうしようもなく気分を上げてくれる。

幹に手で触れれば、大地から水を吸い上げるその生命力を掌から感じるし、

枝に口付ければ、この木の爽やかな香りが体を駆け回るようだ。

やはりこの世界に来てよかった。

向こうではこんなに生きに生きている木々と一緒にいられることは旅行でもない限り滅多にない。

比較的田舎に住んでいる僕だけど、それでも森林と呼ばれるほどの土地はなかなか遠いからね。

そうやって良い気分のままに夢中で動き過ぎたからだろうか、僕は気付かないうちに森の奥へと入りすぎてしまっていた。

しかも、僕の周りで鳴っていたガサガサという音にも気が付かなかった。

その結果、

 

「ギャギギャギャッ!」

「うわぁぁ!!り、【リトルゴブリン】?」

「「ギギギィ!!」」

「「「グギャグギギィ!」」」

「う、後ろにも!?」

 

僕は6匹もの【リトルゴブリン】に囲まれていた。

いくらとっても弱いモンスターの【リトルゴブリン】が相手でも、レベル1の僕が、多数に襲われれば勝てる見込みはない。

ついでにこんな状態になって初めて分かったことだが、どうやら僕に戦士の才能はないらしい。

剣を振ってもまるで当たらないし、攻撃をかわそうとしても体がついていかない。

そもそも、動きのバラバラな6匹の敵を前にして、僕の目が追い付かない。

幸いなことに彼らの一撃の威力は低く、他の〈マスター〉のように特殊な〈エンブリオ〉が出てくるのを恐れているのか、それともただ連携が取れていないだけなのかは分からないけど攻撃が散発的なので今はなんとか耐えられている。

でも、このまま戦っていれば死んでしまうのは時間の問題だ。

HPもすでに半分ほど削られてしまっている。

せっかくこの世界に来れたというのに、また離れなくてはいけないなんて!

【アムニール】に認められるためにも早く強くならなきゃいけないのに!

しかし、現実は非情なのだ。

ぎゃいぎゃいと騒いだことで僕を殺す代表の1匹が決まったのか、ボロボロな僕にとどめを刺そうと【リトルゴブリン】の一匹が近づいてきて、

 

茂みから突然飛びかかってきた真っ黒な狐に吹き飛ばされた。

 

「ナイス!シト!さて、君は大丈夫かい?言ってみたけど、見た感じ大丈夫じゃーねぇみてーだな。だが、俺が来たからには安心してくれ!こいつらをパパッと片付けちまうからさ!」

 

そう言って、狐と共にやってきた男はニッコリと笑い、続けてこう言った。

 

「シトがな!」

 

そうして破顔し続ける男の横に、いつのまにか敵を全滅させていた狐が呆れたように座っていた。

 

 

 

 

「俺はクセス。こっちは俺の〈エンブリオ〉のシトだ」

「僕は四季春太って言います。助けてくれてありがとうございます」

 

僕を助けてくれた男性、クセスさんは相変わらずの笑顔で自己紹介を……ガードナーの〈エンブリオ〉の紹介を自己紹介の一部と言っていいのかは疑問だけど、した。

シトと呼ばれた狐もすましているように僕には見える。

でも、モンスターが近づいて来すらしないから何かしているのかもしれない。

そうして、クセスさんと話しながら森の奥から普段大勢のプレイヤーが狩場にしている浅いところまで歩いていく途中、

シトさんが一回コンと低く鳴いた。

すると、突然クセスさんの雰囲気が変わった。

 

「なあハルタ。ログアウトして一度街まで戻らねーか?」

「街までですか?どうして?」

「ああ……えっと、実は……」

 

理由を聞いてもクセスさんは口ごもっているだけでなかなか答えてくれそうにない。

でも、話してくれるのを待ってるわけにもいかなそうかなぁ。

だって明確に僕の五感が異常を伝えてきているのだから。

 

「それは、この臭いに関係することですか?」

「……やっぱ分かっちゃう?」

「そりゃあ、分かりますよ。だって明らかにおかしいじゃないですか。こんなに強い腐臭はあまり嗅いだことないですし、周りを見てもそういった匂いを出しそうな花や土は見当たらないですから」

「……」

「もちろん、僕はこの世界に来たばかりなので僕の知らない植物でこういった匂いを出すものがあるなら謝ります。でも、そうじゃないんですよね。だってもしそうならログアウトを進めてはこない、ですよね」

 

そうクセスさんを問い詰めると、彼は少し困ったような顔をしてからあきらめたように話し始めた。

 

「まー、気づかれちまっているなら仕方ねーか。実はな、ハルタ。俺がここでやっていたのはパトロールっつーか警備っつーか、まあとにかく奥に人が入っていかねーようにしてたんだ」

「入っていかないように……ですか?」

「ああ、そうだ。ここの森の奥地で見つかった<古代伝説級UBM>とうちのクランのサブリーダーの戦闘に初心者が巻き込まれねーようにな」

「<古代伝説級UBM>……?」

 

森に来るまでの間にヘルプ一覧をざっと確認していたけど、<UBM>はともかく古代伝説級っていう言葉についての説明は見当たらなかったはずだ……細かいところに書かれていたら自信はないけど。

 

「ああ。ざっくりいうと<UBM>ってのは世界に一体しかいない強力なモンスター。なんとか級ってのはその強さのランクのことさ。古代伝説級っつーと、場合によっちゃあこのゲームのトッププレーヤー、<超級>でも苦戦しかねねぇってレベルの奴だ。横入りしてきた奴ならともかく、初心者がこいつとの戦いに巻き込まれんのはあんまりだっつーことで、人払いを掛けてんだ」

 

なるほど。強力なモンスターとの戦闘に巻き込まないようにってことなのか。

それなら、納得できる。実際僕みたいなうまく戦えない人間がいても邪魔になるだけだろう。

でも、

 

「ごめんなさい。クセスさんが言っていることが正しいのは分かります。でも、僕は」

 

クセスさんの方をじっと見て、伝わるように思いを強く込めて言う。

 

「この耳に聞こえてくる木々達の助けを求める叫びを無視できないんです。だから、行かせてください」

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