デンドロな僕が行くデンドロ冒険譚   作:草々

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三話 孵化 あるいは可能性

□??? 【戦士】 四季春太

 

僕が目を覚ますと、そこはさっきまでの森ではなかった。

そこは全体的にもやもやとした感覚で、真っ暗な場所だった。

そんな中で、一つだけとても光っているものが見えた。

 

それは丸くて、どこかで見たことがあるような気がした。

 

『ねぇ』

 

輝く何かは、ポツリと、溢すように僕に話しかけてきた。

 

『キミはどうしたい?』

「僕が、どうしたいか?」

 

その問いかけの意味が飲み込めず、おうむ返しのように問い返す。

すると、それは優しく説き上げるように答えた。

 

『うん。キミがどうしたいか。』

『キミが意識を失う前に感じていたように。この世界には苦しいことも沢山あるよ』

『もし、キミが耐えられないなら。キミはこんな世界にはもう来ない方がいい』

『私は……キミが痛みを負う必要はないと思うよ』

 

それだけ聞いて、僕はこの声が<Infinite Dendrogram>を辞めさせようとしているのだと気付いた。

それも、きっと僕のことを想ってのことだろう。

その優しげな声音からはそこまでも読み取ることができる。

でも、僕にもこの世界を諦めたくない理由はある。

【アムニール】と会いたいという望み以外にももう一つ。

たった今芽生えた理由が。

 

「そうだね。正直言って、僕もあの光景はきつかったよ。たくさんの木が、植物が死んじゃって。でも僕には何もできない。それは本当に辛かった」

 

思い返しただけで声が震えてしまう。

それでも、この気持ちを伝えなければならない。

だから、気力を振り絞って言葉を続ける。

 

「でもね、それはリアルでも同じなんだ」

 

輝く何かがまるで息を呑んだかのように明滅する。

この言葉に、とても大きな衝撃を受けたのだと伝えんばかりにチカチカと。

 

「確かに、僕が生まれる前よりはみんな環境とかを大事にしようって意識はあるって聞くよ。でも、それでも今なお多くの木が、植物が、切られたり焼かれたりして殺されていて、僕には何もできないんだ。今、この世界の僕と同じように」

「だから、僕は何もできない自分じゃなくなりたいんだ」

「向こうの世界ではまだまだ難しい。でも━━」

 

万感の想いを込めて、僕は言葉を紡ぐ。

そうじゃなきゃ伝わらないと、そうじゃなきゃ続ける意味がないと思うから。

 

「この世界で、君と一緒ならきっとできると思うから。だから、僕と一緒にこの願いを叶えてほしい」

 

僕は、僕の<エンブリオ>に、そう宣言した。

 

 

 

 

宣言を聞いて、どう受け取ったのか、<エンブリオ>は一段と強く輝いて僕に向けて語りかける。

 

『そう……なんだね。分かったよ。キミの、想いと覚悟は』

 

光はどんどん強くなっていく。最早、この空間が真っ暗な場所ではなく光に塗りつぶされた白い場所になるほどに。

 

『なら、私のすべきことは……在るべき姿は決まった』

 

そうしてどこまでも強くなっていた光が収まると、そこには1人の見知らぬ少女が立っていた。

少女は、公孫樹(イチョウ)の葉のように黄色く長い頭髪を掻き上げ、青々とした若葉色の瞳でこちらを見据えると、アステカ風のエスニックなドレスを揺らしてにこりと笑い、礼をした。

 

「私は、キミの願いを叶える為、力を尽くすよ」

 

僕に向けて宣言をし返した。

 

 

 

 

□ 〈ジュード森林・奥部〉 【戦士】 四季春太

僕が今度こそ本当に目を覚ますと、そこは気を失った時と同じ緑の森と茶色の地獄の間だった。

ただ、気を失った時とは違う部分もいくつかある。

一つは、僕の右足の出血が止まっていること。

なくなった部分が生えてきたりしている訳ではないけど、傷口を覆うように皮膚ができている。

もう一つは、人数。

僕の目の前には、クセスさんの他にもう1人、少女が立っていた。

彼女は先ほどまでこの地獄の中央にいた人物。

つまり、「コプロ」とクセスさんが呼んでいた人だ。

 

「クセスから聞いた。きみが"ハルタ”?」

「はい。そうです。あなたは、“コプロ“さんでいいですか?」

 

コプロさんから名前を聞かれたので答え、逆に名前を問い返すと、彼女はこくんと頷いた。

そして、すっと膝を折り、片足がなく木にもたれかかるように座っている僕と同じ目線まで下がると、

 

「まずは謝罪する。ごめんなさい」

 

と言って、ぺたりと土下座した。

 

「ちょっ、えっ?、いや、なにやってるんですか!?そんないきなり……」

「私も理解している。自分の“好き“を殺されたのだから、こんな土下座されたって許されるものではない。でも、これ以上の謝意を示す手段を私は知らない」

「いや、そういうことじゃないですって!とりあえず、頭を上げてください!」

 

いきなりの出来事で正直言って自分でも混乱しているみたいだ。

コプロさんのアバターの見た目年齢が夏姉と同じぐらいなのもあって、急に謝られるとびっくりする。

……普段は相当なことじゃないと夏姉から謝罪なんてされないし。

いや、今は夏姉の話はどうでもいい。

とにかく、コプロさんをどうにかしないと。

 

「えっと、僕も理解してます。クセスさんから聞きましたから。強いモンスターを倒すために必要なことだったんですよね」

「それは、その通り。でも……」

「なら、僕も仕方ないことだって割り切れます。あなたやクセスさんが僕の目の前で森を殺したことを悔やむように、僕だって木々を守るためでもそれで人が死んだりするのは嫌ですから」

 

そうやって僕の考えを伝えると、横で聞いていたクセスさんは納得してくれたようで、

 

「そうか。ありがとうハルタ。コプロも頭あげな。謝るのは大事だけど、それで相手を困らせちゃー仕方ねーからな」

 

と、コプロさんを一緒に説得する側に回ってくれた。

仲間であるクセスさんに言われたからか、コプロさんも頭を上げる。

 

「分かった。困らせるのは私も本意じゃない。でも、なんでもいいから償いはさせて欲しい。私の自己満足かもしれないけど。少なくとも、その脚の分ぐらいは」

 

でも、まだコプロさん自身は自分を許せていないようで、膝をつけて僕と同じぐらいの低い目線のまま、自分に何かできることはないかと僕に問う。

ただ、償いなんて言われても、特に思いつくことはない。右足がなくなったのだって、デスペナルティを考慮しても3日分程度。

あれほどの戦いが出来る上位のプレイヤーの時間を、僕みたいな初心者の時間でその分使わせるのは正直貰い過ぎているように感じる。

でも、多分その分を調整して短くしたらコプロさんは納得しなさそうだっていうのはここまでの短い間の印象でも分かる。

 

「じゃあ、今からのに協力して貰えばいいんじゃないかしら?」

 

どうしたものかと考えていると、どこからともなく声がした。

その声はクセスさんのものでもコプロさんのものでもない。

その声はあの気絶中に見た夢の中で聞いた声だ。

 

「初めまして。ご両人。それと、マスター君。キミにも“会う”のは初めましてね」

 

僕が振り返ると、そこには1人の少女がいた。

公孫樹(イチョウ)の葉のような黄色く長い頭髪は風に揺れ、

青々とした若葉色の瞳は僕たちを鋭く射抜き、

シルバーリーフのような白い肌はアステカ風のエスニックなドレスで覆われている。

 

その姿はあの気絶中に見た夢の中で見た姿。

 

「私は【森林乙女 チコメコアトル】。マスター君の、四季春太の<エンブリオ>、TYPE:メイデンwithチャリオッツ。キミの願いと覚悟から生まれたモノ」

 

彼女━━チコメコアトルはそう自己紹介をして、

 

「そして、今ここでキミの願いの第一歩を踏み出すための力よ」

 

僕の方に向けてにこりと、あの夢の中で見たのと同じように微笑んだ。

 

 

 

 

「このタイミングで孵化?それも、メイデンかよ!」

「メイデン……私達は比較的世界派が多いけど、メイデンを見るのはオーナー以来」

 

産まれた僕の<エンブリオ>、チコメコアトルを見てどうやら2人とも驚いているようだった。

特に、メイデンというところに驚いているようだ。

もしかしたら、メイデンというTypeは珍しいのかもしれない。

ただ、僕が気になっているのはそこじゃない。

 

「チコメコアトル。その、さっき言っていた今からのに協力してもらうってどういうこと?」

 

僕が気になっているのは、償いの内容について悩んでいたときに彼女が提案したものがなんなのかだ。

それについて尋ねると彼女は、

 

「単純に言ってしまうなら、この森を生き残らせるための応急手当といったところね。このまま放置しておいたら、この場所から変質した汚濁が流れ出たりして森ごと死んでしまうのは分かるでしょう?だから、そうならないようにここの汚濁をどうにかするのよ」

 

と答えた。

 

「おいおい、そんなことできんのか?変質した範囲はめっちゃ広いんだぞ?たとえそれに特化して高コスパ高回転率だとしても孵化したばかりのエンブリオじゃ厳しーと思うんだが」

 

一方で、クセスさんはそれは不可能だと言っている。

その横でコプロさんも頷いているところを見るに、ベテランである彼らにとってすれば産まれたばかりの<エンブリオ>が出来ることがどのくらいなのかは分かっているし、高が知れているのだろう。

 

でも、チコメコアトルにとってもそれは想定内の質問だったらしい。

予想通りとばかりに堂々と、彼女は宣言する。

 

「いいえ、出来るわ。私のスキルと……あなたの協力があればね」

 

彼女の伸ばした指の先には、

目を丸くしているコプロさんがいた。

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