デンドロな僕が行くデンドロ冒険譚   作:草々

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四話 作戦 あるいは能力

□ 〈ジュード森林・最奥部〉 【戦士】 四季春太

 

【バアル=ゼブブ】によって変質させられた地面は、そのまま足を踏み出せばずぶずぶと沈むし滑ってまともに進めない。

それは、先の戦いで猪が足を取られて自分のステータスを発揮しきれなかったことからも分かる通りだ。

そんな中をするすると滑るように進むことができるのは、コプロさんがスキルを使って地面を操っているからだ。

地面の方を高速で動かすことによって、まるで動く歩道に乗っているかのように移動できているのだ。

ただ、リアルの方でよくあった動く歩道とは速さが全然違う。

僕は今右足がないのでクセスさんに背負われているが、それでも怖くなってしまうほどの速さだ。

 

僕とクセスさんとコプロさんの三人はそうやって汚物化した領域の中心部へと向かって移動していた。(シトさんやチコメコアトルは、コプロさんの消費を抑えるために紋章の中に戻っている)

そうしてしばらく移動しているとゆっくりと減速して停止し、コプロさんがこちらを振り返って口を開いた。

 

「臭いの残り方的に、中心はこのあたり。味も見ればもう少し正確に示せるけど、どうする?」

「い、いえ。時間的にもなるべく早いほうがいいし、このあたりでいいと思うわ」

 

いつの間にか紋章から出てきていたチコメコアトルが、さらに詳細に中心位置を特定しようとするコプロさんを止めると、コプロさんは「そう……分かった」と言って立ち上がり、指に付いたうんちを振り落とした。

……少し残念そうに見えたのはきっと見間違いではないんだろうな。

 

「さて!それでは始めるわよ。マスター君とコプロさんは大丈夫かしら?」

「うん。私は問題ない。大して消費してないし、準備もできてる」

「僕はクセスさんに背負われていただけだし、特に問題ないよ」

「じゃあ、行くわ。改めて言うけど、抗わないでよ」

 

空気を変えようとせんばかりに声を張って、チコメコアトルが作戦の開始を宣言する。

それを聞いたコプロさんは頷いて手を差し出し、僕がその手を握る。

今から行う作戦の肝であるこのスキルは接触が条件。

そして、出力の関係でレジストしようと思えば簡単に弾かれてしまう。

正直、使いにくいスキルであることは言い逃れできないけど、それでも今みたいに味方に使う分には問題ない。

 

「《他所の畑(パートゥ・ウー・ヴィ・プロント・)に種を播く(ヴ・フーリヤ・アーベッツ・グラース)》」

 

僕がスキルを宣言すると、胸のあたりから光が溢れ、握った手を通じてコプロさんの全身を覆う。

その光が数瞬で静まるとコプロさんはウインドウを操作し、

 

「《汚辱領域》……《膿めよ殖せよ痴に満ちよ(バアル=ゼブブ)》」

 

彼女の<エンブリオ>の銘を冠したスキル、すべてを汚物へと変え、自身の領域を広げ続ける必殺スキルを宣言した。

 

 

 

 

□ 〈ジュード森林・奥部〉 【戦士】 四季春太

 

時間を遡ること十数分。

話はチコメコアトルがコプロさんに協力を持ちかけた所まで戻る。

 

自分の協力があればこの汚物に変質した森をどうにかできると指し示されたコプロさんは、ポカンとしていた。

 

「信じられない。私の<エンブリオ>、【バアル=ゼブブ】のスキル《汚辱領域》は範囲内の全ての物をうんちやおしっこなんかに変質させる広域結界展開能力。変質をさらに進めてしまうことはあっても逆に戻すことなんてできない」

「それをできるようにするのが私の能力よ。マスター君、詳細ステータス画面で<エンブリオ>の項目を確認してもらえるかしら」

「あ、うん。分かったよ」

 

チコメコアトルに言われるままにウインドウを操作してみると、チコメコアトルの姿とパラメータが並んだ画面が表示される。

 

「その画面の下の方に、保有スキル一覧があるでしょう。そこに私のスキルが載っているわ」

 

画面をスクロールすると、『保有スキル』と書かれた項目が見つかった。

 

 『保有スキル』

 《他所の畑(パートゥ・ウー・ヴィ・プロント・)に種を播く(ヴ・フーリヤ・アーベッツ・グラース)》Lv1:

 接触した相手の<エンブリオ>にチコメコアトルが憑りつく。

 憑りつかれた<エンブリオ>は保有スキルの効果が環境の保護や植物の促成に利するように変化する。

 変化には対象のレベルと<エンブリオ>の到達形態に応じて抵抗が可能。

 変化の持続時間は対象のレベルと<エンブリオ>の到達形態に応じて短くなる。

 Lv1では一日に一回まで使用できる。使用回数は毎日大陸標準時における朝6時に回復する。

 アクティブスキル。

 

なるほど……他の<エンブリオ>に憑りついて、スキルの内容を変更してしまうスキル。

たしかに、このスキルを使ってコプロさんの<エンブリオ>によって変質させられる先を汚物から植物の生育に適した環境に変化させてしまえば、彼女が森を汚濁に変えたように、今度は汚濁を良い環境に変えることができる。

 

「どんなスキルなんだ?ハルタ。確認してもいいか?」

「はい。今見せますね」

 

訊ねてきたクセスさんの方にウィンドウを裏返して、クセスさんやコプロさんにも見えるようにする。

彼らもスキルの説明文を読んで僕に何ができるかを確認し、

 

「確かに、これならどうにかできるかもしれない。レジストが可能である制限も接触が必要な条件も私が抗ったり逃げたりしなければ関係のないもの。でも、問題点としては制限時間もある」

 

コプロさんがそのスキルから問題点を指摘する。

 

「先の戦闘では、私の必殺スキルも使用してる。必殺スキルは範囲内の汚物の総量に応じて《汚辱領域》の範囲を拡大する効果。書かれてないから持続時間がどのくらいかは分からないけど、第一形態の<エンブリオ>の性能から推定するなら1分あるかないか。そのぐらいの時間だと、たぶん変質した土地全体を覆えるほどには広がらない」

 

確かに、あの時は汚物の領域は徐々に広がっていた。

それを考えると、チコメコアトルのスキルとコプロさんのスキルを合わせても、外側の部分は変えきれずに残ってしまうという事になる。

それでも、汚物の量が減れば周りの森への影響も減るだろうから意味はあるだろうけど……

 

「例えば、移動しながらとかだとどうなりますか?コプロさんを中心にして結界ができるなら中間ぐらいでぐるっと一周すれば全体を覆えたりしませんか?」

「《汚辱領域》は展開した時点の私の位置を中心に展開される。でも展開中は私が動いても結界の位置は変化しない。一度解除して再展開するのもクールタイムの関係で難しい」

 

うーん……移動しながらっていうのもダメかぁ。

他に何か方法は……

と、考えていると今度はクセスさんが話し出した。

 

「確か、コプロの必殺スキルによる結界範囲拡張は固体の影響が一番大きかったはずだよな」

「うん。固体が一番大きくて液体、気体の順に続く」

「なら、なるべく範囲内に固体を増やしといたら拡張される速度が上がったりしねーか?」

「それなら、速度は上がる。でも、何をどうやって増やす?相当な量じゃないと意味がない」

「一番簡単なのは、外周にある汚物を範囲内に持っていくことか?コプロならジョブスキルでできるだろ。一周分ぐるっと内側に持ってければ広げる必要のある範囲も減って一石二鳥だろ」

「基本的に私のスキルで変質させたうんちは柔らかい。一周分掘って内側に持って行っても流れてその分の穴を埋めてしまう」

「そうか。じゃあ、それをやるなら再変質させた後になるな。消費については?」

「さっきの戦闘の分は装備効果とアイテムでもう回復した。これからの消費なら、私のスキルによる変質にも耐えられる高品質なポーションを持ってる。その分、1分の間ではポーションのクールタイムは明けないから、一回きりになる」

「なるほどな。じゃあ、展開後の移動については節約のためにシトに乗ってくれ。1分で一周ぐらいはできる。展開後なら臭いも問題ねーだろうしな」

 

かと思うとコプロさんとクセスさんによってものすごい勢いで作戦の詳細が詰められていく。

僕にはほとんど理解できていない。

これが熟練の、連携に慣れたマスターなのか。

 

僕が彼らの凄さに圧倒されていると、いつの間にか作戦は決まっていたらしい。

 

「そいじゃー、もっかい作戦をまとめるぞ。

まず、ハルタがスキルを使用して効果を変更させる。次に、コプロが結界を展開。

一応、俺とハルタは変質に巻き込まれねーようにレジストに特化した防具を装備しとく。

そんで、俺がシトを呼び出した後、コプロを乗せて結界外周をぐるっと回って結界の外にはみ出た分の汚物をコプロが操って結界内に入れていく。コプロの消費に関してはポーションと一応俺のパーティ支援スキルで対応。

変化の効果時間が切れそうになったら……まあ、残り10秒だな。そんぐらいになったら【テレパシーカフス】でハルタからコプロに伝達。カウントダウンして、1の時に結界を解除だ。

何か補足事項はあっか?」

「私からはない。ハルタとチコメコアトルは?」

「うん、僕からも特にないよ」

「ええ、私からも特には」

 

クセスさんがまとめてくれた作戦の内容を聞いて、自分がやるべきことを確認する。

チコメコアトルのスキルを使う事と、制限時間を伝えること。

この二点だけはちゃんとやらないと。

 

 

 

 

□ 〈ジュード森林・最奥部〉 【戦士】 四季春太

 

時間は戻って、作戦決行直後。

コプロさんのスキル宣言と共に一気に足元が糞尿から土と水に変わる。

 

「シト!」

「コンッ!」

 

クセスさんがシトさんを足元に呼び出してその背に乗り、いつの間にか手を放して立ち上がっていたコプロさんも飛び乗る。

そして僕は、自分のウインドウのスキル欄に表示された効果時間を読み上げる。

 

「70秒!」

【了解】

 

シトさんに乗って風どころではない超スピードで外周に向かったコプロさんから【テレパシーカフス】を通じて返事が来る。

とりあえず、これで僕の役割は残り10秒になったらカウントダウンをするだけだ。

外周を視界に入れれば、小さな丘のようなものが次々とできているのが見える。

ここから見ると、進みはゆっくりなようにも見えるが、実際には距離が離れているだけでものすごいスピードなのだろう。

 

そして、特に向こうから連絡もなく時間は過ぎ、

 

【10!】

 

残り10秒を過ぎる。

 

【9!】

 

一方で、丘のようなものはまだ1/5程度の範囲にはできていない。

 

【8!】

 

外周部まで移動した時間もあるが、それでも経過した時間は60秒。

 

【7!】

 

約1/7の時間に対して、大体1/5の範囲。

 

【6!】

 

もちろん、あれの目的はコプロさんの結界を拡張することだから、全体を覆えてしまえばそれでいいんだけど、

 

【5!】

 

でも、カウント開始してからも丘のようなものはでき続けている。

 

【4!】

 

つまり、まだ外側は汚物が残っているということだ。

 

【3!】

 

しかし、できる速度も上がり続けている。

 

【2!】

 

そして、

 

【1!】

 

1のカウントを行った直後、事前の作戦通りに、結界は解除された。

 

丘のようなものは、外周を覆い切れていない。

 

もしかしてと思った時、頭の中にコプロさんの声が響いた。

 

【作戦完了。……最後には結界の範囲が全体を覆った。成功だよ】

 

 

その一言に、僕は安堵して、ぽすりと柔らかな土に背中を預けた。

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