デンドロな僕が行くデンドロ冒険譚 作:草々
□ 〈ジュード森林・最奥部〉 【戦士】 四季春太
土の上に倒れ込んで横になった僕の耳に、ストンと誰かが着地した音が聞こえてきた。
そして、その音はてくてくとこちらに近寄ってくると、今度は声をかけてきた。
「おーい。ハルタ。大丈夫だったかー?」
「クセスさん!」
その音は、クセスさんがシトさんの背から飛び降りた音だった。
クセスさんは土を踏んで、「おお、確かにちゃんと土になってんなー」と呟き、早足で歩き出す。
シトさんもそれについていくように歩き出して、僕の近くまで来るとスッと足を曲げて体高を低くする。
そして、クセスさんも僕の隣まで来ると姿勢を低くして、
「そいじゃー、シトに乗っけるぞ。持ち上げるけど、大丈夫か」
「はい。僕は大丈夫です」
「オッケー」
僕を抱えるように持ち上げて、シトさんの背中に乗っけた。
そうして自分も乗ると、僕の後ろに腰を据える。
「よし。じゃあ、戻るとすっか。いくぞ、シト」
そしてシトさんに声をかけると、シトさんが今度はスッと足を延ばして立ち上がり、歩き出す。
さっきの作戦中の移動速度と比べるとずいぶんとゆっくりだけど、代わりにほとんど揺れていない。
僕に右足が無いので、落ちないようにバランスを取りながら歩いてくれているのだろう。
「そういえば、コプロさんはどうされたんですか?」
「ああ、シトが人を乗せた状態で走るなら二人までがいいからな。コプロには今外周を一回りして残っている物がないか確認してもらってる。糞でも飛び散ってたもんもあるかもしれねーし、尿とか液体だと流れ出ちまってるからな。その辺はあいつが回収するらしい」
「そうなんですね。ありがとうございます。後でコプロさんにもまたお礼を言わないとですね」
僕がそう言うと、クセスさんはポカンとしたような表情をして言った。
「お礼、お礼なぁ……そもそも、これは俺らがやっちまった事に対する謝罪替わりなんだぜ?こっちがお礼を言うなら分かるが、ハルタからお礼を言う必要はねーと思うぜ。もちろん言ってくれるなら嬉しく貰っとくけどよ」
「でも、今回の作戦も詳細を決めたのはクセスさんとコプロさんですし、ほとんどお二人がやっていて僕は座って数を数えていただけみたいなものですから」
「そんなことはねーだろ。そもそもこの作戦の肝はハルタのスキルなんだから、ハルタが一番活躍してるよーなもんだぜ」
「でも……」
「ちょっと待て。シト!」
「コン」
やっぱり僕がいるせいで迷惑をかけているのは変わらないのではないか。
今みたいに足のない僕を運んでくれているのもそうだし、そもそもこの作戦自体僕の我儘なんじゃないか。
僕のスキルが肝と言っても、それは僕じゃなくてチコメコアトルのスキルで、都合のいいことにたまたまそういったスキルを持つ彼女が来てくれただけではないか。
そんなことを言いかけた所でクセスさんは僕の発言を遮るとシトさんに一言声をかける。
すると、シトさんはひと鳴きして進む方向を変える。
「え。あの、どうかしたんですか?この先にモンスターがでたとか?」
「いや、そういうわけじゃねー。ちょっと寄っておかないといけない場所があってな。ちょっとペース上げるから、舌噛まねーようにしっかりつかまっとけ」
そう言われて、僕は口を閉じ、しっかりとシトさんに張り付くように掴まる。
余計なケガをしたり、ここで落ちたりしたらまた迷惑をかけてしまうからだ。
◇
□ 〈ジュード森林・奥部〉 【戦士】 四季春太
そうして、先ほどよりも早く流れる風景を横目に見ながら、速度が落ち着くまで待っていると、
しばらくしてシトさんが停止する。
そこは、変質した場所と変質しなかった森の境目ギリギリの地点だった。
「この辺で間違いねーな?シト」
「コン」
「よし、オッケー。サンキュー、シト。そいじゃー、ハルタ。ここが何処か分かるか?」
すると、クセスさんが僕に問いかけてきた。
何処か分かるかってことは、なにかあった場所なんだろうけど……。
そう思って、周りを見回してみると一本大きく傾いた木がある。
あの枝の形や木肌の姿は、確かに僕がこの〈ジュード森林・奥部〉に最初に来た時、倒れようとしていたのを見ていてもたってもいられずに支えに走ってしまった樹木だ。
「気づいたか?この木はハルタが助けた木だ。右足を捧げてまでな」
そうやって言い、クセスさんは傾いた木に触れると、こちらに振り返った。
「実は、ハルタが戻ってきたらこの木を見せてやろうと思って、俺たちは移動しないでここに残ってたんだ。
……あの時はコプロの奴がアレだったのと、ハルタの<エンブリオ>が孵化したこととかですぐには伝えられなかったんだが。
まあ、少なくとも、ハルタはこの木を自分の力だけで助けているじゃねーか。そんで、俺たちがこの森を助けようと思ったのも、ハルタがこうやって木を助けるために命を掛けれるほど植物を愛していたからだぜ?
正直に言うなら、ハルタがいなかったら俺たちはこの森を助けてねーよ。いつも通りに人払いして、終わったらそれまでだっただろうよ」
そうクセスさんは述べる。
「そうね」
するとは今度は後ろから声がした。
それは、チコメコアトルの声だった。
「私がこういった形で生まれたのも、私がマスター君を観察してきた結果……キミの経験と性格、そして望みからそれに合わせて生まれたからよ。キミが目の前の一本の木を助けずにいられないような人じゃなかったら、ここで森を助けるために何かができるようになりたいと願っていなかったら、私のスキルはああはなっていない。これも、キミがきっかけなのよ」
そっか、そう思ってもいいんだ。
僕は、僕の行動で、僕の力で、この森を助けることができたとまではいかなくても、
この木を僕の力で助けられたって、この森を助けるのに力を貸せたって、そう思ってもいいんだ。
いつの間にか、僕は涙を流していた。
嬉しくて流しているのかそれともまた別の何かの気持ちなのか、これが何の涙なのかは僕には分からない。
けれど、なんだか、この涙は嫌な気分がしなかった。
◇
「お、おい。なんで泣いてんだよ?なんか酷いこと言っちまったか?えーっと……その、なんだ、少なくともって言ったけどハルタの活躍それだけって思っているわけじゃなくてだな……」
「いえ、そんな、クセスさんたちのせいで泣いてるわけじゃなくて、なんて言ったら分かんないけど、自然と泣けてきちゃっただけで」
クセスさんが慌てて僕を慰めようとしてくるのを悲しいわけじゃないからと止めていると
横の茂みからガサガサと音がした。
すると、クセスさんはちらりと音がする方を見た。
僕もそれにつられてそちらに首を向けて音のする方向を見る。
すると、
「一周調査してきた。特に残っていたものは……クセス。ハルタを泣かせてる?」
そこにいたのはコプロさんだった。
「い、いや。そういうわけじゃないんです。クセスさんにこの木の事を教えてもらって、そうしたらなんだか涙が出てきちゃっただけで、別にクセスさんに何か酷いことを言われたわけじゃないんです」
何か勘違いしているようなので、コプロさんに対しても急いで両目の涙を拭って言い訳する。
「本当?……なら、いい。とりあえず報告するけど、ハルタも大丈夫?」
「はい。大丈夫です。もう、泣いてないです」
コプロさんにはどうやら言い訳が通じたようで、納得してくれたみたいだ。
一周回って見てきた結果を報告するみたいだから泣いてないでしっかり聞かないと。
そう思って、目をしばたかせて泣かないように抑える。
そして、コプロさんもこちらを見て大丈夫と思ってくれたのか、話し出した。
「まず、見てきた結果だけど、大きく残っている部分はなかった。ちょっと跳ねてたのはあったけどそれは全部回収した」
そういって、彼女は手に持った小さな箱を指さす。
たぶんその箱はアイテムボックスで回収したものはその箱の中に入っているんだろう。
そうして、彼女はその回収した箱を大事そうに袋にしまった。
……とりあえず、残っていないならこの森がどうこうなるってことはないと考えてもよさそうだね。よかった。
「次、丘ができた影響。これについては何処も細かな土だったから雨が降れば溝になった部分に流れて埋まると思う」
次、といって今度はできた丘のようなものについての影響を話し出した。
これについても、後々に影響がでなさそうならよかった。
できてしまった溝に関しても、自然に埋まるならまた元の地面に戻るのにもそこまではかからなさそうだ。
「最後、これは調査の結果じゃないけど……」
そう言って、コプロさんは少し言い淀んでから、僕の方を見て言った。
「オーナーから、念話があった。『