デンドロな僕が行くデンドロ冒険譚 作:草々
一話 招待状 あるいは赤紙
□ 〈ジュード森林・奥部〉 【戦士】 四季春太
「植物性愛ってこたぁ……」
そう言って、クセスさんが僕の方を見る。
僕自身でも、自分が
ただ、不思議なのはわざわざ連れてくるようになんて指示を出しているところだ。
別に僕は強いマスターじゃない。
さっきは、僕のおかげでこの森を助けられたなんて言ってくれていたけれど、
例えば普通に戦闘をするなんてことになればコプロさんやクセスさんにかかれば瞬きほどの時間もかからずに倒されてもおかしくないぐらいだ。
チコメコアトルが生まれてきてくれたとはいえ彼女は決して戦闘向きの<エンブリオ>じゃないし、ステータスへの補正も少ないから多分今でも僕はゴブリンに負けられるだろう。
そんな僕を呼び出す必要がどこにあるというのだろうか。
そんな風に考えていると、チコメコアトルがコプロさんに質問した。
「それは、あなたの報告を聞いて、というわけではないわよね?」
「うん。私は報告していない。クセスは?」
「ああ、ハルタ達は見てただろーけど、俺もまだ報告を入れてねーな。けど、なんでコプロも報告してねーって思ったんだ?」
それを聞いて、チコメコアトルはやっぱりそうかと納得したような顔で話を続ける。
「そうね。もしあなた達から報告を受けていれば、『植物性愛の子』という呼び方にはならないでしょう?あなた達はマスター君をハルタと呼ぶから、連れてくるように指示を出したそのオーナーさんもハルタを、もしくは"その"植物性愛の子みたいな呼び方になるんじゃないかしらと思ったの」
なるほど。確かに二人は僕のことを名前で呼んでたし、報告を受けての指示だったら"その"みたいに僕を指定するように呼ぶのも当たり前か。
「だとしたら、そのオーナーさんはあなた達を何らかの手段で監視していたか、もしくは……マスター君がこの世界に来たのを何らかの手段で知ったかになるわ。……あなた達のオーナーさんにはそれを可能にする手段はあるかしら?」
「オーナーなら、広範囲の監視は可能」
「ただ、オーナーの監視手段は自分のレギオンを派遣するタイプだから、俺達を見てたなら流石にシトは気づける。だから、どっちかってーと、<アムニール>の中でハルタを見つけたんじゃねーか?」
そう言われて思い返してみると、
「確かに、僕はこの世界に来て最初に【アムニール】に会わせてもらおうと思って街の真ん中に向かってました」
すると、それを聞いたコプロさんが僕の方を見て言う。
「じゃあ、多分それを見られていた。さっきの念話に、その植物性愛の子に伝えろって言われた伝言もある」
「伝言?」
僕が聞き返すと、コプロさんは、
「そう、伝言。『アムニールに会いたいなら来い。会わせてやる』だ「行きます」って」
伝言を聞いた瞬間、僕の口は行きますと言い放っていた。
「あ、すみません。つい」
「それは別にいい。とりあえず、来てくれるってことでいい?」
「はい。行きます」
急いで僕は割り込んでしまったことをコプロさんに謝る。
そして、彼女からの来るかどうかの確認に首を縦に振って賛意を示すと、
コプロさんはちょっと引き気味だった。
……ちょっと激しく首を振りすぎてしまったのかも知れない。
「とはいえ、まずは<UBM>の討伐報告をしないといけねーから、一度<アムニール>に寄ることになるけどな……そうだ、報告にもついてきてくれねーか?ハルタが協力してくれたことで森の環境修繕ができたことも報告しときてーからさ」
「はい。そっちも大丈夫です」
割り入ってきたクセスさんの、霊都行きの提案にも僕は了承する。
こちらについては僕でも理由が分かる。
チコメコアトルのスキルを見せることで、コプロさんによる汚物化を何とか上書きできたことに信憑性を持たせたいんだろう。
僕たちができたのはあくまで植物が育ちやすい環境に整えただけだから、報告することによってもっと森を戻すことに長けた人が動いてくれるかもしれないことを考えれば、早く報告ができて、信じてもらえることにはとても意味があることだ。
「サンキュー。そいじゃ、まずは<アムニール>まで行くか」
そうクセスさんが言うと、僕の視点も急に上がる。
それはシトさんが立ち上がったからだ。
そういえば、ずっと乗っているままだった。
「ハルタはそのままシトに乗っていてくれ。チコメコアトルは悪いがハルタの紋章に戻ってくれ。俺とコプロは森を出るまでは歩きだな」
「ええ、分かったわ」
「すいません。僕だけ」
「レベルが高くなれば疲れにくくなる。だから私たちは歩きでもそんなに問題ない」
そう言って、クセスさんたちは歩き出す。
僕の方も、チコメコアトルに紋章の中に戻ってもらうとシトさんが歩き出した。
◇
□霊都アムニール 【戦士】四季春太
しばらく歩くと(と言っても、僕はシトさんの上に乗っていただけでほとんど運動していないけれど)、特に何もなく森から出る。
この森のモンスター達も、コプロさんやクセスさん、シトさんが戦って敵うような相手ではないことぐらいは分かるのか、一匹たりとも襲い掛かってきたりすることはなかった。
門を通って街に入ると人の目がこっちに集まってくるのが分かる。
……まあ、シトさんぐらい立派な狐の上に片足がない子供が乗っけられていたら、多分僕でも見るだろう。
「さて、まずは報告のためにギルドに行こうと思うが、ハルタもそれでいーか?」
そうクセスさんに聞かれて「はい」と返事を返すと、
クセスさんは、
「じゃー、こっちだ」
と言って大通りを僕(というよりシトさん)を先導するように進んでいく。
大通りはそこそこ人がいるけれど、シトさんが通るのに困るほど混みあっているわけではない。
……というか、人はこっちを避けるように割れていく。
まあ、こっちは人が乗れるほどの大きな狐型モンスター。
クセスさんの<エンブリオ>であり、危害を加えることはないだろうと僕には分かるけど、そうではない人々からしたら結構怖いのかもしれない。
そんなこんなで、僕たちは真っ直ぐに進んで、大きな建物の前まで来た。
「よし。ここが目的地の冒険者ギルドだ。ここで、今回の<UBM>討伐依頼の報告をするんだが……流石に建物の中まではシトも入れねーから、こっから先は悪いが負ぶわれてくれ」
「すいません。ご迷惑をおかけします」
「いーよ。これもこっちの我儘なんだからな」
そう言って、クセスさんがしゃがんだシトさんの横に来て、僕を持ち上げて背負った。
そして、シトさんを紋章の中に戻す。
「それじゃあ、行くぞ。コプロ」
「分かった」
コプロさんが扉を開けて中に入るのに続いて、クセスさんと背負われた僕も中に入っていく。
建物の中にはいくつかの丸テーブルが並んでおり、そこでは何人かの武装した人たちが分厚い冊子とにらめっこしながら何かを相談したりしている。
多分、彼らも何らかの依頼を受けようとしている冒険者なのだと思うけれど、あれだけ分厚い冊子から依頼を見つける必要があるのであれば大変そうだ。
ただ、そんな彼らもちらちらと、なにか注意深く観察するような目でこちらを見ている。
多分、この世界でも、片足が無くなった状態でギルドに来るようなことはそうそうあるものではないのかもしれない。
そんな視線の中、まるで気にも留めていないかのように二人は受付に向かう。
そして、受付に座っている女性にコプロさんが小さなカードを渡し、
「依頼の達成報告に来た。出たのは特典素材だけど、確認はどこでする?」
と言った。
すると受付の女性はスッと表情を作り、笑顔でコプロさんに応答する。
「達成報告ですね。ありがとうございます。では、まず討伐証明の確認の前に依頼内容の確認から行います」
受付の人はコプロさんが渡したカードを何かの機械に通し、表示されたウインドウに書かれた情報を読み上げる。
「まず、依頼内容ですが、クエスト難易度:八【討伐-<古代伝説級UBM>【鬱蒼煩猪 パエオニア】】で間違いなかったでしょうか」
「うん。正しい」
「ありがとうございます。では討伐証明の確認を行いますが……裏手で確認いたしますのでお手数ですが、ご同行ください」
「分かった」
そうして、受付の人はカウンターから出て、コプロさんを連れてギルドの外に出て行った。
「すみません。クセスさん」
「お?どうした?」
「討伐証明の確認って言ってましたけど、コプロさんたちは外に何をしに行ったんですか?」
「ああ、そうだなー、まず、デンドロのゲームシステムの話からになるんだが、【パエオニア】みたいな<UBM>は、倒したときに一番貢献した奴にそのモンスターの名前が入った特別なアイテムが渡されるんだ。"MVP特典"っつーやつだな。だから、UBMの討伐証明としちゃー特典を見せるってのが一般的なわけだ。他の討伐証明と比べると、特典を見せるだけでいいからUBMの討伐証明は楽なんだが……コプロの場合、出る特典が全部モンスターの糞になっちまうからな。一応軽食も出してるギルドの中で出されると困るから一旦外に出て確認してるって訳だ」
「そうなんですね。ありがとうございます」
確かに、何か食べているときに隣でうんちをチェックされだしたら嫌だ。
ギルドとしてもこれは当然の配慮だろう。
ただ、ここにいる熟練のマスターの内何人かは、今外で何をしているのか分かっているのだろう。
少し嫌そうな顔をしているのが分かる。
まあ、うんちのチェックなんて別に店の裏でされてても嫌だよね。
そんなことを考えていると、外から半分泣いているような顔の受付の人といつも通りのコプロさんが戻ってくる。
そして、また受付カウンターに戻ると、達成報告の続きを始める。
「は、はい。た、確かに、確認いたしました。では、まず討伐の報奨の1億リルですが……」
1億リル!?
チュートリアルで聞いた話では1リルが大体10円ぐらいだったはずだから……10億円!?
「やっぱ、UBMは報奨金が少なくても特典目当てでみんな狙うから、値が下がってきてんなー」
しかも、これでも安くなってるの!?
目の前でさらっと行われた超大金のやり取りに僕が慄く一方で、受付の女性が続ける。ただし、先ほどまでとは違い少しだけ震えている声で。
「その前に<ジュード森林>の汚染についてのお話になります。……汚染規模の確認はこれから行いますが、報奨金の支払いはその分を差し引いてになりますがよろしいでしょうか」
「……それは、事前にも話した通り、理解している。ただ、少し事情が違う部分もある」
それは、コプロさんの戦闘による影響に関しての話だった。
なるほど。森の管理を誰が行っているのかは分からないけど、コプロさんの戦闘跡を考えれば賠償請求が来てしまってもおかしくはない。
ならば、ここは僕の出番だろう。
クセスさんも承知しているようで、僕たちは受付の方に向かい、話に割って入る。
「すみません」
「あ、はい何でしょうか」
受付の人はこちらを見て、僕がクセスさんに背負われているのを見て一発で関係者だと理解したようで、割り入った僕たちに対しても話を聞く姿勢を向ける。
「<ジュード森林>の土壌と水質の汚染については一応僕のスキルで対処しました。なので、その辺も踏まえて賠償金は少し減らしてほしいんですけど……」
「えっと、あなたは?」
そう言えば、自己紹介も何もしていなかった。
カードを持っているコプロさんと違って、僕はここに来たのははじめてだし特に身分証もあるわけじゃない。
いきなり現れた人間に問題は対処したといわれても、確かに信じられないだろう。
「あ、僕は四季春太です。最近ここにやってきた初心者ですけど……」
「えっと、初心者と言いますと、まだギルドメンバーカードをお持ちではないという事でしょうか」
「はい。確かに持っていないですけど……」
自己紹介した僕に対して、受付の人はいまだに疑念の目を向けている。
うーん。どうすれば信じてもらえるんだろうか……
と、そんなことを考えていると、突然後ろから大きな「バンッ」といった音がした。
僕がとっさに振り返ると、そこには三つの人影がある。
「むむむ!噂は本当だったか!悪人が小さな男の子を連れまわしているという噂は!」
「実に、実に!いけませんねぇ。幼気な少年をかどわかすなど、拙者実に許せませんねぇ!」
「ショ……うねん!大丈夫だった!?私たちが来たからにはもう大丈夫だからね」
そして気が付いたときには、僕はクセスさんの背中ではなく、その三つの人影の後ろにあった。