デンドロな僕が行くデンドロ冒険譚 作:草々
□霊都アムニール・冒険者ギルド 【戦士】四季春太
「変な人達に捕まって怖かったよねぇ。
三つの人影の内の一つ、僕に一番近い位置に立っていた女性が僕の方を振り向いてにちゃりと……多分、本人からすれば「にこりと」なんだろうけど……笑って話しかけてきた。
ゲームのアバター故に、容姿は整っているからこそ不気味だ。
いや、変な人達なのはあなた達の方ですよと言いたくなる気持ちを抑え、僕は彼女に尋ねる。
「えっと、あなた達は一体……?」
「あら?そういえば名乗っていなかったわ」
「なるほど!確かに新人さん相手!拙者達が何者か知らなければ警戒もされるでしょうな!」
「では、ご存じの諸君には悪いが、名乗りを上げさせていただこう!」
今気づいたとばかりに驚く女性に対し、眼鏡をかけた男性……一人称が拙者の人が得心が言ったとばかりに腕を組んで大きく頷き、そして最後に筋骨隆々な男性が周りに申し訳ないとは欠片も思っていなさそうな堂々とした表情で宣言した。
多分これまでの発言を鑑みればあなた達のことを知ってても警戒するよとか、ご存知の諸君なんて言っているけどみんなポカンとしてるよとか、
そんな事をつい頭の中で考えてしまっていた間に、いつのまにか三人の立ち位置が変わっている。
さっきまで1番後ろ(僕から見ると1番近くだけど)に立っていた女性が、三人の真ん中に立ち、一歩前に出た。
そして、大きく息を吸ったかと思うと、
「私は子供を救う者!悪の手に囚われた、小さなその身を取り返す!“
と名乗りあげた。
キレキレの決めポーズと三人の動きの揃い具合からしてそこそこ練習されていることが伺える名乗りの仕上がりだ。
「取り戻す……なるほどな。俺が背負ってたはずなのに、いつの間にか、気付くこともない内にそっちに移動させられてたのは、テメーのスキルによるものっつーことか」
「その通りよ!少年をあなた達の魔手の中から救い出したのは私のエンブリオ【
「《ポート》っつーなら転移か。……なら、対象は子供限定。移動方向は遠くから近くへに限定することで消費を抑えてるってところだな?」
「そ、その通りよ!まさかそこまで見抜かれるとはね!」
自身の手の内すらも堂々と宣言したラピーメさんに対し、クセスさんはさらにそのスキルを詳らかにしていく。
一方で子供限定の《キッドナップ・ポート》以外の転移スキルがあることも考えているのか2人とも警戒を緩めることはなく、彼女の方を見つつ周囲にも意識を向けている。
転移は厄介で強力なスキルだ。
次の攻撃がどこから来るかわからないと対処もできないのは最初にゴブリンに囲まれて、なす術もなくやられていた時に僕も感じた。
彼女が子供以外にも……例えば短い距離でも自分自身なんかを転移させられるのなら、一人でその状況を作り出せるだろう。
(でも、スキル名もエンブリオ名も救い出すというより誘拐ね)
まあ、確かに。
名前はチコメコアトルの言う通り誘拐しますよって言っているようなものだけど。
「いやはや!何とも恐ろしいものですな!ここでは“眼”は使えないはずでは?」
「……“眼“がなくても、代わりにペラペラと自分の能力を話してくれるんだ。予想くれーついて当然だろ」
「ははぁ!確かに道理ですな!とはいえ、こちらにとってもこれは少年への自己紹介みたいなものでして!次は拙者の名乗りにも付き合って頂きますぞ!」
そんな警戒で張り詰めた視線の中を割って前に出て、口を開いたのは拙者の人だった。
「拙者は子供を守る者!無垢な子供に襲いくる、あらゆる害を防ぐ者!“
拙者の人……カストディさんが名乗りをあげ、バシッとポーズを決める。
そして、そのまま続けて、
「そして、拙者の能力はバリア!子供に迫るあらゆる脅威を防ぎ切ることができますな!こんな風に!《ペアレンタル・フィルター》!!」
そう言って何らかのスキルを行使する。
すると、僕の周囲は半透明の壁で覆われた。
「え?これは……?」
いきなり僕を閉じ込めた謎の壁。
押してみても、ガンガンと叩いてみても、この壁は何ともないみたいだ。
「ふふふ……ビックリさせたみたいで申し訳ありませんな。ですが、安心してくだされ。これこそが拙者の能力である《ペアレンタル・フィルター》!!このバリアは子供を包み込む形でしか展開できませぬが、中にいれば絶対安全!例え拙者が殴っても……」
そう言うとカストディさんは腕を引いて、思いっきりバリアを殴りつけた。
ゴンッ!と物凄い音が響く。
この音と舞う埃がその威力を物語っている。
一方で、バリアはわずかに揺らぎすらしない。
「この通り。びくともしませんぞ!」
このパンチの攻撃力とバリアの防御力。
この人も、やっぱり強いマスターだ。
(でも、内側にいるマスター君も阻まれてるあたり、これもバリアによる防御というより監禁な気がするわね)
まあ、それもそうなんだけどね。
とはいえ、僕が外に出ていたとして何ができるわけでもないし、ここではそんなに関係ないかな。
「そして、最後にこの俺だ!」
続けて、三人目。
三人組の最後の1人が前に出て、名乗りを上げる。
「俺は子供の代行者!この世に蔓延る子供の敵を、彼らに代わって倒す者!“
しかし、名乗りきろうとした直前でその言葉は途切れた。
それは、目の前に槍が……汚濁の槍が伸びてきていたから。
「名乗りは終わり?じゃあ、返してもらう」
どこからともなく作り出していたその茶色の槍を手元に引き戻し、どこから攻撃が来ても対象できるようにだろうか、すでにコプロさんは槍を形作っていた汚物をフラフープのような輪っかに変え、自らの周りに漂わせている。
「おかしいだろっ!絶対ここは揃える流れじゃん!俺も名乗って、能力を説明して、そっから戦闘だろ!」
一方で、名乗りを邪魔された彼は見るからに、というよりむしろ動きがオーバー過ぎてダンスかなんかに見えるほど激しく怒っている。
彼らにとっては、きっと結構練習した流れであっただろうし、邪魔されて怒るのは分からなくもないけど……
(そもそも、
彼らは攫っているとは考えていないんだろうけどね。
それでも、彼らにとっても相手は悪なんだからお約束を守ってくれるとは限らない気もするけど。
「悪だ悪だとは思ってたが、ここまでとは思ってなかった!」
……どうやら、そこには思い至ってなかったみたいだ。
結構考えなしに動くタイプなのかな?
まあ、僕をいきなり
「やっぱり、お前自身もクランのリーダーと同じ犯罪者だな!」
「は?」
そんなコミカルな雰囲気は、彼が放った次の一言で消えた。
一瞬にして、空気が凍りついたのかと思ってしまうほどの怒り。
それを放っていたのはコプロさんだった。
そして、さっきまで怒っていたはずの男は、むしろ笑っていた。
彼だけでなく他の2人も、この空気の中で笑っている。
逆に、コプロさんは彼女から発せられる怒りな雰囲気に反してピクリともしていない。周りに漂う汚物がゆっくりと回転しているのが怖いぐらいだ。
「え……クセスさん達のクランのリーダーが、犯罪者ってどういうことですか!?」
「おやおや、少年は知らなかったのですな。騙してクランに入れさせようとしていたとは、卑劣ですなぁ。まだまだ犯罪クランなのですかな?」
「うふふ。知らないなら私が手取り足取り教えてあげるわね。あ、手取り足取りって言っても実際に触ったりはしないから安心してね。私たちはそういうところは紳士なの」
「では、教えている間は拙者が引き受けますかな」
そう言って、カストディさんが一歩前に出る。
そして、両手を広げ、
「……バリアは、子供を囲うようにしか張れねーんじゃなかったのか?」
コプロさんの槍と、クセスさんの左手から生えた狐の脚……シトさんの脚をバリアで受け止めた。
「ええ。拙者のバリアは子供を囲うようにしか張れませぬ。ですのでこれは少年を囲う大きなバリアの一部だけを取り出しているのですな。丁度其方がガードナーの腕だけ顕現させて殴りかかってきたように……というか、地味に高等技術を使ってきますな。ガーディアン系の部分顕現はなかなか難しかったはずですぞ」
次々と繰り出される槍と脚をバリアで防ぎつつ、
彼は不敵に笑い、後方に叫んだ。
「クセス殿にまで攻撃されるのはまったくもって想定外!これではこっちは保って10秒ですかな!というわけで、説明と準備の方はお二人でよろしく頼みますぞ!」
そんな戦いを横目に、ラピーメさんが僕に教えるために、口を開く。
「さて、カスさんがあまり耐えられないみたいだから悪いけど結構早口で教えるわね。まず、あの2人は、
「<アドーラム>……ですか?」
「ええ、でも大議事堂前にある掲示板にそのクランの名前は今や載っていないわ。何故だと思う?」
大議事堂前……というと僕が最初に行った場所だ。
【アムニール】にしか目がいっていなかったからそんな掲示板があったことにも気が付かなかった。
そんなことを考えて答えずにいると、ラピーメさんはカストディさんの方をチラと見て制限時間を確認したのか、先を続ける。
「それはね。<アドーラム>のリーダーにして、レジェンダリア討伐ランキングにも名を連ねていた〈マスター〉……“災悪の“ボーラが」
そこで、彼女は一度言葉を切り息を吸って言った。
「ティアンを殺してその男の就いていた超級職を奪ったから。そして、それによって指名手配されたから」
「<アドーラム>は、ランキングから消されたのよ。犯罪者のクランとしてね」