初対面なのに彼女面してくるノノミ&ミカ&カズサ&キキョウ………etc   作:ハッピーエンド大好きクラブ

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第二話「身に覚えのない愛」

 

 

出会ったばかりの人達に泣きつかれた気持ちは分かるだろうか。

初対面の人に抱き着かれて泣かれた経験はあるだろうか。大概の人は「そんなのあるか」と答えるだろう。

けれどカナタは今日二度も体験した。相手とは絶対に初対面。関わりなんかない、向こうが自分を知っていることもないのに。

 

現在時刻は11時47分。カナタは十六夜ノノミの隣の席に座っている。汗をダラダラと流し、彼女の一挙手一投足に大げさな反応を見せてしまう。

誰だって初対面の女性に左腕を組まれ恋人繋ぎをされると嬉しさより恐怖を感じるはず。

どんなに容姿が整った美女でも、腕に柔らかな胸を押し当てられたとしても。

 

ノノミは幸せで恍惚な表情を崩さない。五分前に始まった「定例会議」の内容が全く頭に入ってこない。

視線を右に動かすと、アビドス廃校対策委員会で委員長を務める小鳥遊ホシノがぐでっと机に突っ伏したままチラチラと自分の顔を見てくる。

 

視線が合うと「うへぇ」と変な言葉を口に出す。

 

 

"怖い。怖すぎる。せめてこの腕を解いてもらおう"

 

 

「十六夜さん、ごめんなさい腕を離してもらっても」

 

「だ〜め」

 

恍惚な表情は一瞬で崩れ落ちた。ほんわかした雰囲気は吹き飛んで強烈な重圧を感じる。

能面を思わせる感情の抜け落ちた表情にカナタは凍り付いてしまった。

額に脂汗が滲む。こちらの怯えように気づいたのか、ノノミはいつもの様子に戻った。

 

「汗かいてますよ〜」

 

ハンカチで額の汗を拭き取る。彼女のハンカチからは穏やかでフローラルな香りがして不覚にも安心感を抱いてしまった。

 

このままではいけない。カナタは手を挙げて司会進行を務めるアヤネへとある質問を投げかけた。

 

「あ、あの!アビドスには9億を超える借金があると聞きました。生徒の数を増やすよりもまずはそちらの解決策を考案したほうがよいのではないでしょうか!」

 

「借金のことでしたら大丈夫です。既に返済していますから」

 

「そうなんですか………良かったです。────はぁ!?」

 

あまりの衝撃に椅子から立ち上がってしまう。腕を繋いでいるノノミも釣られて立ち上がる。

 

アビドス高等学校は9億を超える借金を抱えている、はずだった。

日々進むアビドスの砂漠化を解決しようと資金を投入しても事態は好転せず、資金は借金へ変わってしまったのだ。

カナタはてっきり今回の定例会議は借金返済の解決策を考えるものだと思っていた。

 

蓋を開けてみれば借金はもう返済している。9億もの額をだ。

 

「え、えええ、ええ?ど、どうやって?なんでこんな急に返済なんてできたんですか!?いや返済できたことは喜ばしいことですけど……!」

 

カナタの疑問には先生が答えてくれた。カナタの右肩に手を置いて、諭すように口を開く。

 

「カナタ。世の中には知らなくてもいいことが一杯あるんだ。安心して、カナタが想像するような悪事はしていないから」

 

"あ、これ踏み込んじゃいけない話題だ"

 

カナタは静かに頷く。

 

「あの……お手洗いに行ってもいいですか?」

 

トイレに行って気分を落ち着かせよう。冷たい水で顔を洗いたい。

するとノノミが「それならいいものがありますよ☆」と手を解き、会議室の隅に置かれていたやたら大きなバッグの元へ。

 

チャックを開けて中から取り出したのは………目を疑うものだった。

 

「それ……………それって……」

 

震える指でノノミの持つナニカを指す。

 

「はい!おまるです!」

 

気を失いそうになった。何を食ってどんな人生歩めばそんな物を差し出せるのか。

カナタは首をブンブンと横に振り拒絶の意を示す。

 

「無理無理無理!男子トイレちゃんとあるんですからそんなの使う必要ないよ!トイレの場所知ってるから!ていうか僕達初対面でしょ!あ、あの、み、皆さんも何か言ってやって下さいよ!」

 

「駄目じゃないです!カナちゃんは一人でおしっこも出来ない赤ちゃんなんですから!私がしっかりお世話するって決めたんです!」

 

「どの面下げて言ってんですか!おまる使うくらいならオムツ履いたほうがマシですよ!」

 

「ノノミちゃん、カナちゃんの言う通りだからこれは戻そっかぁー」

 

ホシノは眠そうにしながらもノノミの持つおまるを下げてくれた。

流石はホシノ委員長、冷静に物事を判断してくれる。

 

ノノミは唇を尖らせて不貞腐れてしまった。

 

「いやいや後輩が迷惑かけちゃってごめんね。この子カナちゃんと会うの凄い楽しみにしてたんだよ」

 

「は、はぁ………?」

 

「セリカちゃん、カナちゃんをお手洗いまで案内してあげてくれる?」

 

「了解。カナタ、こっちだから付いてきて」

 

「いや場所把握してるんですけど………もういいや」

 

諦めたカナタはセリカの後ろをついて会議室を後にした。ノノミは席に座り直して、顎に手を当てて深い溜息を零す。

 

「私、距離感間違えちゃいました?」

 

全員が速攻で頷いた。言葉のない答えにノノミは再度ため息を吐く。

 

「流石におまるはドン引きですノノミ先輩。お気持ちは分かりますけど自制しないと」

 

「それが出来れば苦労しません!私は………私とカナちゃんは…………」

 

「ん、適当な空き教室に連れ込んで襲えばいい。それで万事解決」

 

「シロコ、それだとカナタは一生ノノミを軽蔑することになるよ」

 

ノノミ自身、ここまで気持ちが暴走するとは思っていなかった。

タイムリープ前の二人は友達以上恋人未満のような関係だったから、他の生徒よりも距離感は近かった。

時間を遡ってもカナタへの愛は変わらない。寧ろ日に日に膨れ上がっている。

 

あの絹のようにサラサラで艷やかな黒髪、水晶を思わせる磨き上げられた奇麗な瞳。優しさを全面に押し出した容姿から放たれる満面の笑顔は魂に響く。

24時間見つめていいのなら68時間は見つめてしまうほどにノノミは彼に夢中だ。

 

「寂しい……………」

 

カナタがトイレに行っただけでコレである。

 

「カナちゃんには私が必要なんです。私にはカナちゃんしかいないんです。好きなんです、大好き、愛してる。もうカナちゃんしか見れない。だから私が傍に居ないと…………死んじゃうんです」

 

ノノミがカナタに対して異常な執着を見せるようになった原因。

それは彼女のトラウマに関係している。

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

「ここが僕の死地かぁ」

 

食い千切られた左肩を手で押さえ、カナタは瓦礫の上に立っていた。

彼の頭頂部より少し高い位置には禍々しい漆黒のヘイローが浮かんでいる。

不規則に点滅を繰り返して一秒ごとに形が変わる。

 

カナタの視線の先。およそ100メートルより先には、破滅の力を取り込んだベアトリーチェが獣同様の咆哮をあげている。

これはカナタの油断が招いたことだ。そう自己分析をし、瓦礫の山から降りる。

先生が「大人のカード」を行使し、ベアトリーチェへ攻撃を仕掛けるも全くダメージは通らない。

 

徐々に生徒は倒れていく。トリニティ最高戦力の聖園ミカでさえ吹き飛ばされ戦闘不能となったのだ。

 

破滅のカードと接続したカナタの肉体の一部、左腕を取り込んだベアトリーチェはその他一切の神秘を無効化する力を有した。

彼女の神の如き無慈悲な能力を突破できるのは、同じ破滅の力を扱うカナタのみ。

 

目には目を、歯には歯を、破滅には破滅を。ベアトリーチェがカナタの存在に気づいた。綿密に立てた計画のすべてをいとも容易く壊してくれた憎き糞餓鬼。

 

ガナ”ダああ”あ”あ”あ”ァァあ”あ”あ”あ”!!

 

ベアトリーチェが所構わず暴れたせいで戦力が散り散りになっている。

 

後方には体力の尽きたノノミがいる。立っているのでやっとな状態だ。

 

「ノノミさん。これ、預けるね」

 

ノノミに渡したのはやたらと膨らみのある封筒一通。

 

「か、カナちゃん?これ…………」

 

「辞表。中に遺書入ってるから。僕の火葬が済んだら開けてね」

 

何気なしに渡された「辞表」。ノノミはソレを反射的に投げ捨ててカナタへ縋り付いた。

 

「だめ……駄目!行っちゃ駄目!!先生がきっと、きっと何とかしてくれるから!だからカナちゃんは私と一緒に逃げなくちゃ!」

 

「無理だよ。アイツを倒せるのは僕しかいない。なら僕が命を賭けなくちゃ」

 

「そんな必要ない!カナちゃんが犠牲になることなんかない!行かせない、絶対行かせませんっ!!私………私…………カナちゃんを失いたくない………!」

 

「ノノミさん。これは僕にしか出来ないことなんだ。ならやらなくちゃ。大丈夫だよ、僕は死ぬことなんて怖くない。これは嘘じゃない。アイツは死んでも道連れにする。破滅の力を、ここで終わらせる」

 

カナタはノノミの腕を力ずくで解く。彼女の叫びを無視してベアトリーチェの元へ突っ込んでいった。

 

 

 

カナタは嘘を付けない。人を騙すことも出来ない。誰かに嘘をつこうとすると左手で左耳を触る癖があるからだ。

よくその癖をノノミにからかわれてきた。

2万超えのプラモを黙って買ったことをセミナーの会計士に詰められたときも癖が出てバレてしまったことがある。

 

 

 

でももう左腕はない。

 

 

 

 

「嘘付いたらこんなに胸糞悪くなるんだ」

 

 

 

 

カナタはやっぱり嘘なんて付けなかった。

 

 






次回は十六夜ノノミのトラウマ回です。
ベアトリーチェVSカナタの壮絶なバトルが始まります。楽しみにしててね!

あとちょっとした情報の小出しですがタイムリープ前、洗脳された先生と生徒達+カイザーを相手にしていたカナタですが、基本的には黒服とのツーマンセルで動いていました。
黒服の立場は例えるなら呪術廻戦の脹相です。
ある程度進んだら上記のお話も書きたいと思ってます。いつになるか分からないけどね。

まあカナタと黒服が背中合わせでロボット兵士を相手してる姿でも想像してて下さい。


そんじゃワカモの尻尾に包まれて寝ます!おやすみ!
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