初対面なのに彼女面してくるノノミ&ミカ&カズサ&キキョウ………etc 作:ハッピーエンド大好きクラブ
「────────ッ」
知らない天井だ。カナタは昨夜のことを思い出しながら体を起こす。
ベットの下に隠れてやり過ごそうとした所を桐生キキョウに見つかってしまい、腕を掴まれて引き摺り出された。
殺される恐怖でパニックになったカナタは叫び声を出すが、口を開く前にハンカチを詰め込まれた。
声を出せず、腕はいつの間にか縄で縛り上げられる。縛られた腕に気を取られていると今度は両足もきつく結ばれてしまった。
助けを呼ぶ手段は完全に潰されたも同然。満足げな表情のままカナタを担ぐキキョウ。
そこから先の記憶は無い。恐怖が限界を超えて気絶したのだ。
カナタは立ち上がって自分の服装に目を通す。パジャマじゃなく、男性用の着物に変わっていた。
床は畳で四方は襖で囲まれている。恐らくここは何処かの屋敷で、カナタが眠っていた部屋は数ある和室のひとつだろう。
スッ、と襖が開く音が聞こえた。陽光が射し込み、カナタは目を細める。
襖を開けたのは、食膳を持ったキキョウだった。カナタは生唾を呑み込んで後ろへ後退する。
「目が覚めたようね。丁度良かった、朝ご飯持ってきたから食べて」
黒い二又の尻尾を揺らしながらキキョウは口を開く。
カナタは返す言葉を発せない。この状況、彼女に拉致られたのは嫌でも理解できる。
目的は殺人…………と思っていたがそれなら自宅の玄関を開けた瞬間に可能だったはず。
では人質……?。カナタは訝しむ。そんな彼の様子など気にもしないキキョウは部屋に入ってきて食膳を畳の上に置いた。
顔をカナタへ向けて「座りなさい」と一言告げる。
逃げる算段はまだ立っていない。そもそも状況すら掴めてないのに逃走なんて不可能だ。
ここは彼女の言うことを従うしか無い。
カナタはキキョウと向かい合うように座る。
食膳には白ご飯に厚焼き玉子、焼き鮭にアサリの味噌汁にほうれん草の和物とたくあんとのり数枚が乗っていた。
朝食には十分過ぎるラインナップ。しかし違和感を抱いた。
箸がキキョウの方へ置かれている。キキョウは朝ご飯を用意したから食べろと口にしたはず。
疑問に思っていると、キキョウは箸を手にとった。もう片方の手はほうれん草の和物へ。
小皿を持って、箸で一口分摘み上げる。
「ほら、口開けて」
ほうれん草の和物をカナタの口元へ運ぶ。距離、タイミング、間、これら全て完璧過ぎた。
あまりに自然な流れで和物を口元へ運ばれたのでカナタは無意識に食べてしまった。
「………………美味しい」
ちゃんと美味かった。味の感想を漏らすと、彼女は満更でもない表情で「そう」とだけ言った。
────頬を朱色に染めて。
────────ノイズが走る。ほんの一瞬、脳に痛みが駆け抜けた。
何故だが懐かしさを覚えた。カナタはこれを気の所為だと決めて考えないようにする。
「あ、あの…………これは僕に用意された朝食ですよね?」
「ええそうよ。私があんたのために作ったもの」
「自分で食べるので………箸を渡してもらえますか?」
カナタは箸を受け取るために手のひらを差し出した。
「…………ええそうね。あんたは自分一人で食べられる。でも……その、いや、嫌よ」
「嫌って言われても………腕が折れてるわけじゃないし」
「なら腕を折ればいいのかしら」
「──────!」
背筋が凍り付く。キキョウからすればカナタの腕を折ることなんて枯れ木をへし折ることと同じ。
先の発言から察するに彼女は朝食を何が何でも食べさせたいのだろう。
意図は分からないが、これ以上の抵抗は身を滅ぼすことになるかもしれない。
カナタは現実を甘んじて受け止め、朝食を食べさせてもらうことにした。
「それでいいの。あんたはこうやって私に世話されてればそれで…………」
箸の動きが止まった。キキョウは俯いたまま視線のみをこちらに向ける。
「何か思い出すことはない?」
「思い出す?」
「私のこと。何も思い出せないわけ?こうやってご飯を食べさせるのは初めてじゃないわ」
「いや、ちょっと待って下さい、分からないよ……貴女のことなんか」
「なんか?私のこと、なんか?」
箸がへし折れた。キキョウは怒りに顔を歪ませてカナタを睨みつける。
不味い、彼女を怒らせてしまった。拉致された立場にある以上、桐生キキョウの逆鱗に触れる発言は絶対にしてはならない。
カナタはその逆鱗にもう触れてしまった。さっきまで緩やかに揺れていた尻尾が今は毛は逆立ち、真っ直ぐ伸びている。
冷や汗が頬を伝う。心臓の鼓動は不規則に波打ち、体中がかっと熱くなる。
「反吐が出る…………私以外の雌は思い出したってわけ?」
「め……!そもそも思い出したってことが分かんないよ!貴女に急に自分は恋人だって言われて、今度は知らないことを思い出したって………訳分かんないよ!」
「……………私はあんたのことなら何でも知ってる」
「なら僕しか知らないことでも語ってくださいよ!ていうか何で僕を拉致したんですか!ここは何処なんですか!みんな狂ってる!会う度会う度泣き付かれて…………それでっ」
「あんたの誕生日は?」
言葉に詰まった。キキョウの質問にカナタは口籠ってしまう。
……………一秒、二秒、三秒、四秒、五秒。自分の誕生日をやっと思い出したカナタは「7月4日」と小さく答える。
カナタの返答に、キキョウは首を傾けながら言葉を続ける。
「誕生日を答えるだけで五秒も黙り込むの?」
「そ、それは………」
「それもそうよね。だってあんた、自分の誕生日知らないんだから」
キキョウの発言にカナタは目を見開いて驚く。彼女の言う通り、カナタは誕生日を知らない。だからこれまでは年末年始に一歳歳を重ねるようにしてきた。
過去に連邦生徒会へ提出した履歴書にある生年月日は適当に考えたもの。
カナタは本当の誕生日を知らない。
「香水が大嫌い。というよりきつい匂いが駄目」
──────合っている。
「あんたの両親が使ってた香水、かなり匂いの強い物だったんでしょ?だから嫌いになった」
──────それも、合っている。
「お腹、内臓あたりだったかな。切り傷あるでしょう?」
「ちょっと待ってなんでそれを」
「母親に切り付けられて出来た傷跡。それも六歳のとき。普通なら警察沙汰なのに誰も手を差し伸べてくれなかった」
「なんでそれを知ってるんだ!!」
立ち上がって声を荒げる。なぜ彼女はカナタしか知らないことを次々と口にするのか。
解らない。解らなすぎて鳥肌が立つ。一秒でも速く彼女から離れたい。
その思考すらも読んでいたのか、彼女は妖艶な笑みを浮かべ立ち上がる。
猫のように素早くカナタとの距離を詰め、彼の唇へ触れた。
「………奇麗な顔。まるで宝石みたい。そっか、この時期のあんたは私より背が低いのか」
「なんで………なんで僕のことを………」
「全部あんたから聞いたことよ。私はあんたのことなら何でも知ってる。他の雌なんかとは比較にならないくらい私とあんたは親密だった」
先生からカナタへ教えてはいけないと言われたある事。キキョウはカナタにとって最大の禁忌を犯す。
もう後には戻れない。ならば、この身が果てるまで走り続けるだけだ。
カナタの頬に手を当てる。手のひらから彼の温もりを感じる。氷のような冷たさはもうない。
生きている。カナタは確かに生きている。
「タイムリープって信じる?」
キキョウのこの一言で、カナタが感じていた違和感は全てつながった。
はーいカナタくんにとっての地獄の始まりで〜す。ナグサ、レンゲ、ユカリの三人は第六話で出てきますのでお楽しみに。
なお、シュロについてはタイムリープ前だと画策した計画を全部カナタに破壊されどれだけ痛めつけても這い上がってきては地獄の果てまで追いかけられる恐怖体験をしています。
そのためかかなりのトラウマを抱いており現在引き籠もってます。
なので原作のような脅威にはなり得ません。