初対面なのに彼女面してくるノノミ&ミカ&カズサ&キキョウ………etc 作:ハッピーエンド大好きクラブ
鮮明に覚えている。あの惨劇を。洗脳から解かれたキキョウはまず最初にカナタを探した。殺すためではなく、抱き締めに行くために。
抱き締めて、謝りたかった。痛めつけ、嬲り、弄んだことを心から詫びたかった。
しかしもう何もかも遅かった。カイザーPMC理事が「協力者」と仕掛けた洗脳装置の解除条件は「青蓮寺カナタの死」。
意識が正常に戻ったということは、つまりそういうことだ。
あちこちから聞こえる生徒達の絶叫。文字通りの地獄絵図がキキョウの視界に広がっていた。
それでも、キキョウは信じた。カナタは生きていることを。
救護騎士団が顔をぐしゃぐしゃにして担架に乗せた遺体袋を運んでいた。
団員の後ろを十六夜ノノミが茫然自失な様子でついていく。
キキョウはその場に割り込み団員を殴り飛ばして遺体袋を引き裂いた。
──────言葉にならない声が喉から漏れる。
遺体袋にはカナタが入っていた。もう息をしていない、無惨な姿となったカナタが。
砂粒ほどの小さな希望はいとも簡単に打ち砕かれ、彼女に現実を知らしめる。
死因は失血死。全身の血液は流れ出ていた。血抜きされた魚のように。
カナタの死により生徒と先生の洗脳は解除されハッピーエンド。なんてなるはずがなく、33日に渡るカナタとの戦闘によりキヴォトスはもう都市としての機能を失っていた。
復旧なんて不可能。先生は生徒達のメンタルケアに勤しんだが、そもそも先生の精神も壊れかけていた。
一週間が経過すれば、カナタを死に追いやった事実を受け入れられず、命を絶つ生徒が現れた。
一人、また一人、次の日には数十人の生徒が自殺。
もはやキヴォトスが滅ぶのは時間の問題。
キキョウはどうして自分がのうのうと生きているのか分からなかった。
カナタは死にたくて死んだわけじゃないのに。苦しんで、苦しんで、苦しみぬいて逝ってしまった。
もっと生きたかったはずなのに。未来を、夢を叶えるための時間を、大好きなどら焼きを食べる些細な幸福すら奪ってしまった。
────後悔がキキョウの心を真っ黒に染める。
「本当は…………あんたに会うつもりなんてなかった」
""…………泣くつもりなんてないのに""
カナタを畳の上に押し倒したキキョウ。涙を止められず、ポタポタとカナタの頬に滴り落ちる。
「あんたに会いたくなかった。私にそんな資格はないから。でも………でも……………我慢できなかった。あんたの声が聞きたかった…………あんたにこうして触れたかった…………あんたの体温を感じたかった…………ごめんなさい…………怖がらせるつもりはなかったの。自分でも、どうすればいいのか分からなくて…………ただ………ただ私は………あんたに…………謝りたかった…………!」
悔恨ばかりが積もる。それは涙となってカナタの頬を伝う。
"あぁ…………もう無理だ。カナタは私を恐れてしまった。取り返しはつかない。こんなはずじゃなかったのに。どうすればもっと上手くやれただろうか"
カナタがスッと手を伸ばした。キキョウの目尻から溢れる涙を、指で拭う。
彼のこの行動にキキョウは目を見開く。
「……………泣かないで」
ぎこちない微笑みを浮かべてカナタは口を開く。こんな状況で、カナタはキキョウの心配を優先した。
「なんで………あんたはそんなに優しいのよ。怖いんでしょ?私のことが」
「怖いよ。でも、貴女は泣いてる」
きっとこの涙には意味がある。だからカナタは恐怖を堪えて彼女と向き合う。
「答えてほしい。さっき言った、タイムリープのこと」
キキョウはぽつりぽつりとタイムリープについて語り始めた。
大事な部分は伏せて、記憶のみを過去に逆行させたことを伝える。
タイムリープ前のカナタは誰かが側に居ないと生きていけない状態にいたこと、その誰かは殆どキキョウだったことを。
他の生徒よりも深い関係にいたこと。カナタ自身もキキョウを頼りにしていた。
それらをこの時間軸のカナタへ伝えた。全て聞き終えたカナタは一言「そっか………」とだけ口にし、納得したような表情を浮かべた。
「だから先生やアビドスのみんなは泣いてたんだ」
そりゃ泣くに決まってる。どういう理由でタイムリープしたかは敢えて聞かないが、もしカナタも同じ立場にいたならばきっと大泣きするだろう。
にしてもタイムリープが起きていたなんて。正直信じられない内容だ。けれど証拠が多すぎて無理矢理にも呑み込まざるをえない。
カナタは頭の中で情報を整理する。
①この世界は数ある並行世界の一つに過ぎず、先生を含め特定の生徒達は記憶のみをこの時間軸、いわば過去に移動させた。
②なぜタイムリープを行ったかは今は言えない。
③その理由はカナタにある。
④タイムリープ前のカナタは一人では生きていける状態ではなく、常にキキョウの支えを借りていた。
⑤未来の記憶を保持していないのはカナタだけ。
キキョウへの警戒心はすっかり失せていた。もはやそれどころではないのだ。
ここでカナタは昨日の夜のことを思い出す。玄関に立っていたキキョウが口にした一言。
「桐生さん、質問してもいいですか?」
「何でも聞いて。聞きたいことは山ほどあるはずだから」
「僕と貴女ってこうなる前はお付き合いしてたんですよね?」
「──────────え?」
「え?」
キキョウは目を見開いて気の抜けた返事をした。
「いや……だから私はあんたの恋人よって言ったんですよね?それに、えっと、未来………なのかな。未来の僕の傍にいたのは貴女だって」
「え、ええそうよ、私とあんたは恋人同士だった。それが何?言っておくけど別れるつもりなんてないから」
立場が逆だったなら、カナタもキキョウに会いに行ったかもしれない。
彼女はただ気持ちを抑えきれなかっただけだ。この際拉致られたことには目を瞑ろう。そうするべきだとカナタの心は言っている。
許す許さないじゃない。傷ついた桐生キキョウに寄り添うべきだとカナタは思った。
「でも嫌だな。僕だけ何も覚えてないのは。せめて、せめて貴女のことだけでも………」
未来で共に生きていた人くらいは忘れたくなかった。
「…………………」
キキョウは笑いそうになるのを必死で堪えていた。それこそ死にものぐるいで。
最悪の結果に転ぶかと思えば、タイムリープ前では二人は付き合っていたとカナタは勘違いを起こしている。
先程の怯えや警戒心は微塵も感じない。寧ろ何も覚えてないことを悲しんでいる。
────差すならここだ。キキョウはカナタの手を優しく包み、胸元まで持ち上げる。
「これから思い出せばいい。私が傍にいる。あんたは一人じゃない。それとも………あんたは私と別れたい?」
「僕は………責任を果たさなきゃいけないと思うんだ。皆のことを思い出せるように頑張らなきゃ。そして、そして貴女のことを────」
カナタはキキョウの柔らかな両手をぎゅっと握り返す。
「貴女のことをもう一度好きになる。その責任が僕にはあると……思う」
カナタは未だ事態を呑み込めてはいない。それでも「未来」があったことは理解出来ている。
彼にとっての現在は、彼女等にとって「過去」にすぎないことも。
責任感がこの事実から目を逸らすことを許さない。強すぎる責任感が、未来をなぞらないといけないと思わせる。
だから桐生キキョウを好きにならないと。彼女の想いに応えなければ。
「あんたは…………それでいいの?この世界のあんたは私以外の誰かを好きになる権利があるのに」
「権利はあるかもしれない。でも僕は貴女を想う義務があると思うんだ」
────────────勝った。
間違いなく──────勝った。
「フフッ」と怪しげな笑みが溢れてしまった。そういえば朝食の最中だったことを思い出す。
キキョウは新しい箸を取ってくるとカナタに伝えて居間を後にした。
一人残されたカナタは頭を手で押さえる。さっきから痛みが酷い。こんなに頭を働かせたのは生まれて初めてだ。
「未来だとあの人が僕の彼女……か。あんなに美人な人が……………ほんっとうに信じられないなぁ」
頭痛が酷くなってきた。それに目眩も。カナタは横になって目を閉じる。
────────────
箸を取りに行く最中、廊下で御稜ナグサ、不破レンゲ、勘解由小路ユカリの三人と立ち合った。
彼女達は百花繚乱紛争調停委員会の所属部員。
きっと三人はカナタに会いに行くつもりなのだろう。
キキョウの表情が険しいものに変わる。
「カナタに会うつもり?」
「そう怖い顔すんなってキキョウ。ちょっかいかけたりしないから」
軽快な口調で話すのは百花繚乱の切り込み隊長、不破レンゲ。鬼のような一本角と龍を連想させる大きな尻尾が特徴的な赤髪の少女。
「キキョウ、カナタの様子は?」
「落ち着いてます」
「そう。あなたが強引にカナタを拉致したからきっとパニックを起こしてると思ったんだけど……」
「問題ありませんから」
雪女のような白い肌、雪花の色を表した純白の髪をした少女はキキョウの返事に口をつぐむ。
彼女は百花繚乱の委員長代理、御稜ナグサ。タイムリープ前ではカナタの手によって救われた生徒の一人。
というより、百花繚乱自体カナタがいなければ解散していた。
カナタが代わりに委員長代理を務め、ナグサは副委員長として彼の右腕となった。
「もう行きますね。箸を取りに行かないと」
さっさと箸を取ってきて朝ご飯をカナタに食べさせないと。お腹を空かせて待ってるのに。
キキョウは会話を切り上げて三人の横を通り過ぎた。
「あ、あの……ナグサ先輩、青蓮寺カナタさんはどのような御方なのでしょうか?」
何も知らず、何も覚えていないユカリは恐る恐るナグサへ尋ねる。
「とても誠実で優しい人よ。ユカリはすぐに懐くと思う」
──────────地震。ぐんっと屋敷全体が激しく揺れ動く。次に聴こえたのは木々が割れる音。
ナグサ達のすぐ近く…………カナタがいる居間からだ。
「ぁ"あぁぁあぁあああああ!!!?」
居間からカナタの張り裂けんほどの叫び声が聴こえた。
──────────
カナタが横になって二分ほど経過。うとうとし始めた所で天井を何かが貫通して降ってきた。
飛び起きたカナタは巻き上がる土煙に咳をしながら辺りを見渡す。
土煙から人影が現れた。女性らしきシルエットをした、羽の生えた──────
「あーあ、王子様に会うから気合い入れて化粧してきたのに汚れちゃった」
鮮やかな桃色の髪、丁寧に手入れされた羽、お姫様のような美しい顔立ちの少女、トリニティ総合学園三年生の聖園ミカが天井を突き破って現れた。
突然のことにカナタは言葉を発せない。ミカは乱れた前髪を手で整える。そしてカナタへ目を向けた。
「あ!やっほー王子様!助けに来たよ☆」
「え?あ、た、助けに?」
忘れていた、今自分は拉致られた立場にいるんだった。
「あの時とは逆だね。でもお姫様が王子様を助けるストーリーもあっていいと思うの」
「ええっと………あなたは一体…………」
「私?私は聖園ミカ!あなたのお姫様で、将来を誓い合った彼女だよ!」
「────はぇ?」
嘘か真か次回予告!
突如現れたカナタの彼女を名乗る聖園ミカ!カナタは自分は二股をしていた最低なクソ野郎なんじゃないのか?と訝しみ絶望に襲われる。
そんな時、次々と各学園の生徒たちがカナタを取り戻すため百花繚乱作戦本部へと乗り込んできた。
髪をポニテにして防弾チョッキを付けたガチギレのホシノ、怒りを通り越しこれ以上ないくらい冷静なヒナ委員長、大切な社員を取り戻すため立ち上がったアル社長その他面々。
「どけ!私はお姉ちゃんだぞ!」と叫ぶ早瀬ユウカ。状況はカオスと化していき、もはや収拾がつかないことに。
さて、この地獄をカナタはどうやって収める!?
補足ですけど「協力者」というのはワイのオリキャラとなります。目的のためなら手段を選ばない拷問好きなとち狂ったマッドサイエンティストです。
コイツのせいでカナタ君は……………まあ近いうちに登場しますんでお楽しみに。
あと本作品は20話かそこらで完結させるつもりです。タイムリープ前の話は書くつもりはないですけど、それは一先ず終わらせてから考えます。
さてじゃあこれにて失敬。次回の更新をお楽しみに。
1000引く7は?