初対面なのに彼女面してくるノノミ&ミカ&カズサ&キキョウ………etc 作:ハッピーエンド大好きクラブ
「……………………」
こんなにも感情を失った日はそうないだろう。カナタは目の前で起きている紛争を眺めながら静かに思った。
というかほぼ視えない。全員動きが速すぎて何が起きているのか全く視えない。
爆音と発砲音が絶え間なく鳴り響き、時折「カナタを渡せ!!」と誰かの叫び声が聞こえてくる。
現状を細かく説明するのはとても難しい。何しろカナタを巡って各学園の生徒たちが争っているからだ。
闘争の舞台は百花繚乱紛争調停委員会作戦本部。
一つ確かなことを述べるなら彼女達の目的は「カナタの確保」であること。
では何故争うのか。カナタを一番先に救出したのは天井を破壊して現れた聖園ミカだ。
このままカナタをシャーレに引き渡せば一件落着、となるはずなのに何を思ったかミカは独り占めしようと企てた。
カナタを捕まえて連れ去ろうとしたが当然抵抗される。
「もう!お姫様の言うことが聞けないの!?だったら………!」
埒が明かないとミカはカナタの首に手刀を落とそうと左手を振り上げた。
首を折らないよう、うまく調節して気絶してもらうために。
「────っ、ごめんなさい殴らないでっ!」
咄嗟に喉から漏れた言葉。カナタは頭を守るように両手を挙げて身を丸くする。
カナタの反応を見たミカは、彼が母親から虐待を受けていたことを思い出す。
振り上げていた左手を即座に引っ込めて、弁明するようにカナタへ近付く。
「ち、違うの……暴力をふるうつもりじゃなかったの、あの、ええっと、あれ?私何やってんだろう………違う違う違う、た、助けに来たの!怖かったよね!?大丈夫だから!お姫様が守るから!ね!?………見てよ、私を見てよ!ねぇ、カナタッ!!!!」
泣いていたと思えば自分の頭をがんがんと殴り付け、虚ろな瞳を浮かべて怒鳴りつけるミカ。
情緒不安定にも程がある。カナタの全身が危険信号を発している。彼女は危険だ、これまで出会ったどの生徒よりも。
"彼女から逃げなければ。聖園ミカから距離を取らないと"
「私から逃げられると思ってるの?」
床が小刻みに揺れだした。ミカも振動に気づいたのか視線を下に向ける。
次に外からヘリコプターのプロペラが回転する音が聞こえ出した。
「ふーん………私の邪魔するつもりなんだ」
「目を閉じて耳を塞いで!」
何処からか聞き覚えのある声がした。カナタは反射的に目を閉じ、両手で耳を押さえる。
ミカはこれ幸いとその場に固まったカナタを連れ去ろうと手を伸ばす。
しかし、彼女は目の端で何かを捉えた。
それを目で追う。ピンの抜かれたスタングレネードが畳の上に落ちる。
"スタン・グレネード!?…………何処から………"
彼女が自ら破壊した天井には大きな穴が空いている。その穴へ投擲されたスタングレネードは強烈な爆裂音を轟かせながら眩い光を解き放った。
光はミカの視界を麻痺させる。その隙を、音もなく現れた小鳥遊ホシノが突く。
ミカを盾で殴り飛ばした後カナタを担いで縁側から外へ脱出する。
「まだ耳はキーンってしてる?」
「た、小鳥遊さん!?」
『カナちゃーん!助けに来ましたよ〜!』
なんと、アビドス対策委員会が総出でカナタを助けに来てくれたのだ。これにはカナタも思わず笑顔を見せる。
「雨雲号」と呼ばれるヘリをアヤネが操縦し、ノノミはメガホンを通じてカナタに声をかける。
『もう大丈夫ですからね〜!帰ったら私がよちよちしてあげますから!』
「それじゃ帰ろっか。皆心配してたんだよ」
「待て」
「………………アリウススクワッドさんだっけ」
ホシノの行く手を阻むのは四人のメンバーで構成されたアリウス分校の特殊部隊、「アリウススクワッド」。
リーダーと思われる顔の半分を覆うマスクを付けた生徒、錠前サオリが前に出て、手を伸ばした。その手の先はホシノではなくカナタへ。
「マスターを渡せ、小鳥遊ホシノ」
「素直に従うと思う?」
「だろうな。ならばこれ以上の会話は────」
「カナタ────!助けに来たわよー!」
ドガーンッ!と爆発を起こして登場したのは、かの有名なアウトロー集団便利屋68。
その次には「我らが主神カナタ様をお救いするのです!邪魔する者には鉄槌を!」と叫びながら壁を破壊し流れ込んできたシスターフッドの面々。
更にその次はぶちギレまくったせいで表情筋が死んだ剣先ツルギが乱入し、彼女の後ろを正義実現委員会が付いて来た。
少し遅れてゲヘナ風紀委員会が現着。これまた怒りとストレスが限界突破したせいで逆に絶好調になった風紀委員長の空崎ヒナが遮る生徒をなぎ倒しながらカナタの元へ進む。
更に更にトリニティのティーパーティーも拳を掲げて突入してきた。
漁夫の利を狙い、自らの手で空崎ヒナを仕留めようとパンデモニウムソサエティーが戦車に乗って動き出す。
戦車から降りた羽沼マコトは高笑いしながらヒナを探すも、背後から豪華な椅子で殴られ口にロールケーキをぶち込まれて気を失ってしまう。
百花繚乱作戦本部は闘争の場となり、紛争の舞台となってしまった。
ものの数秒で作戦本部は木っ端微塵に吹き飛んでしまい、今や瓦礫の山。
カナタは未だ争いを続けている生徒たちを前に動けずにいた。
砂塵が舞い上がり、そこからモブ生徒が面白いほど空高く吹き飛んでいく。
終いには戦車も出てくる始末だ。もはや紛争ではない、目的と手段が逆になってしまっている。
キキョウの姿は見えないし、ついさっき助けてくれたホシノはヒナと互角の勝負を続けている。
"一先ずここから離れないと。落ち着け…………活路を見出すんだ"
彼女等は目の前の敵を排除することに集中していてカナタには意識を向けていない。
──────動くなら今しかない………!
「退きなさいっ!!私はカナタのお姉ちゃんよ!!」
「ぐぇっ!」
意味のわからない言葉が聞こえたと思ったら、目の前を正義実現委員会の生徒が凄まじい速度で通り過ぎた。
吹っ飛んだ生徒は地面に減り込んでいて「きゅ〜」とのびている。カナタは声の主の方へ顔を向けた。
そこにはミレニアムのジャケットを着飾り、菫色の髪をツーサイドアップに纏めた早瀬ユウカが立っていた。
彼女はミレニアムサイエンススクールに通う二年生。カナタとはタイムリープ前だと姉弟のような関係を築いていた。
ユウカ自身もカナタのことを手のかかる弟と認識している。
それは次元を超えた今も変わらない。
「カナタ!無事!?怪我はない……わね。良かった、本当に良かった」
「あ、あの……はい、僕は無事です」
頬に手を当てられ、全身をくまなく弄られた。もうこういう事に慣れたカナタは先生は来ていないのかをユウカに尋ねる。
「先生は?先生は来てないんですか?」
「カナター!」
噂をすれば、先生が息も絶え絶えになって走ってきた。
「カナタ!大丈夫なのかい!?怪我は!?」
「落ち着いてください先生。カナタは無事ですから、私の弟がこんなことでへこたれるわけありません」
「…………………」
なぜ早瀬ユウカの弟になっているかは敢えて聞かないでおこう。きっと後悔することになる。
ノノミに匹敵にするほど頭のおかしい人だ。あまり関わらないでおこう。
「とにかくここから離れよう。ユウカ、カナタの護衛を頼む」
「任せて下さい先生。さ、カナタ、私と先生についてきて。いい子だから」
ユウカに手を引かれ、この場から避難する。振り返れば生徒達が死にものぐるいで争っている光景が目に入る。
────こうなったのは誰のせいだ?
「………………僕だ」
────どうして血反吐を吐きながら戦ってるんだ?
「………………僕のせいだ」
カナタはユウカの手を振り解く。二人に背を向けて瓦礫の山となった屋敷へ駆け出す。
雪のように積もった瓦礫をよじ登って、天辺まで到達したカナタは限界まで息を吸い込み、思いっきり声を張り上げた。
「みんなぁぁあああああああ!!」
カナタの叫び声に全員がビタッと動きを止めた。ほぼ同時に首だけがカナタの方へ向けられる。
カナタは恐怖心を呑み込んで自分のやらなければならないことを果たす。
「僕は知ってる!みんなタイムリープしてるってことを!」
生徒一人一人に激震が走ったのをカナタは見逃さなかった。
「これは桐生キキョウさんから聞いたことです!でも全部教えてくれたわけじゃない!なんで過去に戻ったのかは知らない!僕はそれを知ろうとは思わない!」
「僕はみんなを何にも知らない!けれどみんなは僕のことを知ってる!知り尽くしてる!…………ごめんなさい、何も覚えていなくて………」
自然と謝罪の言葉がこぼれる。そして涙もだ。カナタは目尻を手のひらで拭い、口を開く。
「みんな僕を助けに来てくれたんだよね!ありがとう!すごく感謝してる!だからお互い争うのはやめようよ!こんなの間違ってる!僕はこんなの望まない!」
涙が止められない。呂律も回らなくなってきた。キキョウやホシノにノノミや先生はこの世界線の結末を知っている。
よっぽど都合の悪いことが起きてしまって、タイムリープする手段を取ったんだろう。
事情は理解してる。だからこれ以上争わなくていい、そうカナタは訴えかけた。
「僕は何にも、何一つ覚えてないけど、思い出せるように頑張るから……力を貸して!僕はこの世界でみんなと生きていたい!」
心からの叫びは皆の胸を打った。それぞれが握り締めていた銃を地面へ手放す。
カナタは息を切らしながらも周囲を見回した。シスターフッドの団員と争っていたのか、頬に切り傷があるキキョウと目が合った。
彼女は優しく微笑みかけてくれた。カナタも笑顔を返す。
さっきまで争っていた生徒達は銃を捨て、闘争心に蓋をした。
────────ホルスは一瞬を逃さない。
誰よりも速く動き、最短ルートでカナタを担ぎ上げるホシノ。一蹴りで雨雲号まで跳躍し、機内へ飛び込んだ。
「アヤネちゃん出して出して!」
「はい!ではアビドスに帰還します!」
雨雲号は羽の音を響かせながら飛び去っていった。取り残された生徒達はこめかみに青筋を走らせ、怒りに満ち満ちた表情を浮かべる。
無事カナタを確保したホシノは装備を外してノノミ、セリカ、シロコ、アヤネへ親指をぐっと立てた。
「イェーイ!ミッションコンプリートォ!」
「ンなわけないわよっ!どうすんのよこれから!」
セリカの強烈なツッコミにホシノは耳を抑えて聞こえないふりをする。
「うへぇ、セリカちゃんが何言ってるのか全然わかんないやぁ」
我先にとノノミはカナタを抱きしめた。
背後から抱きしめられたカナタはノノミの強靭な腕力のせいで抜け出せないでいる。
「ちょっ、離して、やっと、やっとみんな落ち着いたのに……何やってくれたんだよ小鳥遊さん!やっと火が消えたのに、これじゃあ火種にガソリンを撒いたも同然だよ!」
「そんなに怒らないでカナちゃん。私が癒やしてあげますから〜」
「ん、ついでに先生も回収する。ホシノ先輩手伝って。先生と結婚してカナタを息子にする」
「シロコ先輩落ち着いて下さい!今はカナタ君の身の安全を最優先にしないと」
「そうだった。カナタ、もう安心。もうじき私の息子になる予定だから心の準備しておいて」
「はぁ!?え、む、息子!?はぁ!?なんで!?」
理由を尋ねるとシロコは頬を赤くして視線を逸らした。
「ダメですよ〜カナちゃんは私の赤ちゃんなんですから、他所の子になるのは許しません。あ、喉乾いてませんか?」
答える前にノノミはポケットから哺乳瓶を取り出した。哺乳瓶にはミルクが容器の半分ほど入っている。
カナタは全身の血の気が引くのを感じた。
「嫌だぁぁああああああああ!!」
カナタの叫びは誰の耳にも届かない。ホシノは哺乳瓶を無理やり飲まされているカナタの姿を見つめて「うへへ」と笑った。
大切な人を護ることが出来た実感を胸に抱えて。
皆さんにご報告があります。本作は20話辺りで終わらせるとか言ってましたけど、いい感じのユメ先輩復活ルートを思いついちゃったのでソレ込みでプラス6話くらい続けるつもりです。
なので26話か30話くらいで完結させます。ハッキリ言ってこれ以上話数を増やすつもりはありません。
カナタには地獄を味わってもらうつもりです。性的な意味ではない地獄をね。
ということで皆さん楽しみにしててくだせぇ。絶対完結させますんで。