赤腕の異世界転生事情   作:桂の星

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 新米冒険者に割り振られる仕事には、やはり一定の制限というものが存在する。

 その他にも、レベルによる制限。職業による制限等々。依頼ごとの適性も含めて、受ける事が可能な仕事は多種多様。

 それら数ある以来の中で、ポピュラーなものとして魔物の討伐依頼が挙げられる。

 

「スー…………よしっ」

 

 グッと腕を伸ばしてから、ミノルは眼前に広がる草原を見渡した。

 冒険者となり、彼はさっそく魔物の討伐依頼を受注していた。その理由は金銭もあるが、それ以上に現状の自身の力の把握をする必要があったからだ。

 見下ろすのは、左手。手袋を外して、その人外の様な赤い手を露出させる。

 一度左手の感触を確かめるように拳を握って、開いてから彼は一歩を踏み出した。

 草原を踏む靴の音が、吹き抜ける風に巻かれて小さく聞こえる。そして、その巨体はミノルの前へと姿を現した。

 

「………大きいですね」

 

 少し遠くに見える巨体は、ミノルの知るある生き物の形態と大差ない。強いて挙げればその色合いだが、この場合は余り関係ない。

 巨体の名は、ジャイアント・トード。その名の通り、馬鹿でかいカエルだった。

 ただのカエルと侮るなかれ。成体の山羊を一飲みにし、繁殖期には近くの村などから人が消えるとも言われている。

 ミノルの目算からしても、牛を超える大きさ。三メートルは下らないか。

 一つ息を吐き出して、ミノルは目を閉じた。

 そして、

 

「――――発動」

 

 自身の内にあるトリガーを引く。

 瞬間、変化は劇的だった。

 左腕が淡い光に包まれたかと思えば、次の瞬間には二メートルはあろうかという巨大な白銀の鉤爪へとその姿を変えているのだから。

 シルバーグレーのメタリックな表面に、手の甲部分に当たる場所には簡略化された赤い十字架が浮かぶ。

 腕と肩の接合部分にはエメラルドグリーンの炎の様な光の揺らめきが灯っており、その在り方が余計に無機物的な、しかし同時に動物的な独特の雰囲気を醸し出す。

 左腕の力が正しく発現し、且つちゃんと動く事を確認してからミノルは近くのジャイアント・トードへと足を向けた。

 当然、気付かれる。隠れる事もなく、ただ真っ直ぐに歩み寄れば当然だろう。

 ジャイアント・トードの機動力は魔物の中でも優れている訳ではない。寧ろ、どちらかといえばのろまな類だ。同時に、動きの一つ一つも決して速くない。

 驚異的な部分は、主に三つ。

 一つは、伸びる舌。カメレオンなどと同じで、その舌先が付着した対象を優しく包み込むと同時に粘液によって絡めとり拘束。そのまま飲み込んでしまう。

 一つは、打撃耐性。分厚い脂肪によって生半可な打撃ではダメージは愚か動きを止めさせる事すらできはしない。故に、討伐の際には剣などの刃物類を用いることを推奨される。

 一つは、跳躍力。彼らはカエルだ。その発達した後ろ足による跳躍からの、全体重をかけたボディプレスは一撃で冒険者を死に至らしめる事だろう。

 

「………行きます」

 

 最大限の警戒をしながら、ミノルは前へと駆け出した。左腕の鉤爪を肩の高さまで持ち上げ、掌を向けるようにして構えとも言えない溜を作る。

 交差は一瞬。近づいた所を噛み付かれる前に、その左腕を一気に振るう。

 その爪の鋭さは、鉄板すらも容易に切り裂く。如何に打撃に耐性があろうとも、生物の肉を引き裂くには十分すぎる切れ味だ。

 一薙ぎで、勝負は決した。

 崩れ落ちる巨体。そして、ミノルは左腕を見下ろす。

 

「命を奪う感触、か」

 

 慣れないと。これから先の事を考えて、ミノルは自分へと内心で言い聞かせながら次へと駆ける。

 彼の左腕はある程度の大きさを変える事が出来る。それこそ、ジャイアント・トードを鷲掴みにするような大きさにも可変可能で、十メートル程まで伸ばす事も可能。

 瞬く間に周辺に居た十体のジャイアント・トードが殲滅されていた。

 その中心で、ミノルは左腕を振るって付着していた血糊を払う。そして徐に取り出したのは、冒険者カードだ。

 

「ゲームみたいですね。本当にレベルが上がってる」

 

 レベルの欄に表示される6の数字。即ち、レベル6にレベルアップを果たしたという事。同時に、スキル欄に幾つかのスキルが黒く表示されてもいた。

 まずは、剣術と体術。どちらも基本的なスキルであり、習得する事で元々の鍛錬の下地が無くとも()()()()戦えるようになる。

 その他にも、集中や敏捷強化などの近接戦闘において有用な幾つかのスキル。

 それから、

 

十字架(クロス)、か……」

 

 それは左腕の名前。より正確には、左手の甲に宿った寄生型と称されるイノセンス(特典)の名前だった。

 これが、天使の施した仕掛けの一つ。最初から100の力を解放するのではなく、ミノルの成長に伴って()()()()()()()()

 少しの間をおいて、ミノルは十字架(クロス)へとスキルポイントを振り分けた。それから、体術と動体視力強化にも。

 試しに、その場で空手の型の真似事をしてみれば、ほぼ経験がないにもかかわらずその動きにはキレがあった。

 同時に、左腕を発動し白銀の鉤爪を出現させ振るえば、先程までの力任せとは違う動きのキレが生まれている。

 スキルという存在の凄さを実感し、ミノルは左腕の発動を止めてからアクセルの街へと足を向けた。

 考えるのは、今後の事だ。

 

(順当に行くのなら、ゆっくりとレベルを上げつつ()()()()()()()()()()を付けるべきでしょうね。時間がかかっても、地力の差は大きいでしょうから)

 

 ミノルの特典(チート)は、特別強い、という代物ではない。相性次第では必殺の武器だが、それはそれとしてミノル自身の体術含めた実力が必須。

 一応、剣術。もっと言うなら大剣術も必要になるかもしれないが、ソレはまだまだ先の話。

 その他にも、今後の宿であったり装備の候補であったりパーティを組むかどうかであったり。色々と考えて歩いていれば、いつの間にかアクセルの街の中。

 そのまま真っすぐにギルドへと向かう。

 木製の扉を押し開けて、足を進めるのはカウンター。

 

「すみません、良いですか?」

「!み、ミノルさん!もう御戻りになられたんですか?」

 

 赤毛の受付嬢は驚いた様子で目を丸くする。

 討伐クエストは内容によっては数日或いはもっと長い時間がかかる。如何にジャイアント・トードとはいえ、ミノルはソロだ。数日かかるものと考えていたのだ。

 だが、彼がカウンターへと乗せた冒険者カードにより疑念は消える。

 

「……確かに、十体の討伐が終わってますね。すみません……でも、余りにも早いものでしたから」

「気にしないでください。僕だって、同じ立場なら疑いますよ」

「そ、そうですか……?んんっ!と、兎に角、クエストの達成おめでとうございます。ジャイアント・トードの引き取りは如何いたしましょう?」

「お願いします。十体分、残ってますから」

「でしたら、お引き取り分を合わせて二十五万エリスの報酬をお支払いいたしますね」

 

 渡される報酬を受け取り、カウンターを離れたミノルの脳内で算盤が弾かれた。

 

(とりあえず、今晩の宿とそれから夕飯。装備は明日以降でも大丈夫……ですかね?)

 

 武器を必要としない以上、今優先すべき事は衣食住。

 まずは拠点を。そう考えたミノルは、不意に感じた視線に顔を上げた。

 首を傾げて周りを見渡せば、茶髪の少年が何やら自分を見ている事に気が付く。

 知り合い、ではない。だが、既視感を覚える顔立ちでもある。

 

(僕とご同郷、ですかね)

 

 何となく、ミノルはそう当たりをつけて、しかしどうしたものかと考える。

 挨拶の一つもした方が良いのかもしれない。だが、彼の対人能力はそれ程高い訳では無い。

 要するに、見ず知らずの他人に声を掛けるのは、少々ハードルが高いのだ。加えて、茶髪の彼のついた酒場のテーブルには、既に他の連れが三人居た。

 水色の髪をした女性。硬めに眼帯を嵌めたロリッ娘。金髪の黒いタンクトップにスカート姿の女性。

 綺麗処ばかりで、成程男たちのやっかみを受ける立場ではなかろうか。

 

(ハーレム願望、という奴ですかね)

 

 内心で納得しながら、ミノルはギルドの出入り口へと足を向けた。相手も珍しいから自分を見ていたのだろう、と判断して。

 しかし、甘い。

 

「なあ、ちょっと良いか?」

 

 声を掛けられた。

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