赤腕の異世界転生事情 作:桂の星
転生者、佐藤和真はウンザリとした様子で天井を見上げた。
元の世界で、少々周りに言うにはアレな死に方をした彼は転生の際にその転生をつかさどる女神に煽るに煽られた。
結果、特典として女神を無理矢理に強制連行。異世界転生を果たして今に至る。
一発屋のアークウィザードとドMのクルセイダーがパーティへと加入し、転生特典とした女神は役に立たない。
一発逆転をかけて、
だが、それはそれとしてパーティメンバーにテコ入れをしたいのも事実。無意識の内にギルド内へと視線を走らせて、ソロ且つ真面そうな相手を探していた。
「……ん?」
見つけたのは、受付カウンターの辺り。
男性冒険者に大人気の巨乳受付嬢の前には並ばず、赤毛のそばかすが目立つ受付嬢のカウンターへと並んだ後ろ姿。
自分よりも背が高そうであり、手足はすらっとしている。
一発屋アークウィザードと同じ黒髪に、しかし振り返ったその顔立ちはカズマの馴染みあるもの。
溺れる者は藁をもつかむ。無意識の内に席を離れたカズマは、ギルドを出て行こうとしていた背中へと声を掛けていた。
「なあ、ちょっと良いか?」
「はい?」
振り返った黒髪の少年。温和な顔立ちで、ハッとするようなイケメンではないがそれでも柔らかな雰囲気が声を掛けるのに躊躇いを持たせない。
「ああ、いや……お前ってさ、日本人、だよな?」
「ええ、まあ……貴方も、そうですよね?」
「だよな!いやー、同郷に会えると思ってなくてさ!」
困惑したような雰囲気を出す相手に、しかしカズマは逃がしてたまるかと言わんばかりにペラペラと口を回す。
「この後、予定あったりするか!?」
「い、いえ?特に何も……今日ここに来たばかりなので、宿を探そうとは思ってましたけど……」
「そっか……いや、同郷の好で耳寄りな情報があるんだけどな」
「何ですか?」
「このアクセルの街の宿って、大半が冒険者で埋まってる訳。んで、宿代がスッゲェ高いんだ」
「なる、ほど……つまり、今から探しても……」
「多分見つからない」
カズマの言葉を受けて、黒髪の彼は困った、と頭を掻いた。
そして、この隙をカズマは逃さない。
「それで、だ。俺がお世話になってる宿の、あー……馬小屋があるんだけどな?今から行くクエストに来てくれるなら、紹介しようと思うんだけど、どうだ?」
「馬小屋……」
カズマ自身、自分で言っておいてこの誘い文句は無いな、と心の中で思っていたりする。馬小屋は無いだろ、馬小屋は、と。
だが、
「……それじゃあ、お願いしても良いですか?」
「!ほ、本当に良いのか!?」
「はい。僕としても屋根のある場所で寝られれば良いので。動物も好きですから」
彼は頷いてしまった。
僅かに覚える罪悪感。しかし、背に腹は代えられない。
「んじゃ、決まりだな。俺は、佐藤和真。カズマで良いぞ」
「僕は、鈴木実です。ミノルで構いません」
「よろしくな、ミノル」
「はい、カズマさん」
@
街から少し離れた丘の上。
そこはお金の無い貧しい人々の共同墓地が設置されていた。
今回カズマ一行が受けたクエストは、夜な夜なこの墓地で奇妙な光が現れる事からゾンビメーカーが現れたのではないか、そしてその調査と討伐だった。
そろそろ夜になろうかという時間帯。一行は墓地の近くでキャンプ中。
「ちょっと、カズマ!その肉は、私が目を付けてた奴よ!こっちの野菜食べなさいよ!焼けてるから!」
「キャベツの件から、どうにもこの世界の野菜に苦手意識が……な。それより、ミノル。本当に良かったのか?バーベキューの食事代出してもらって」
「勿論。カズマさんのお陰で、宿代が浮きましたからね」
ギャーギャーと喧しい女神を押しのけて、カズマはせっせと網の上で食材を焼いているミノルへと声を掛けた。
そう、今回の食材の用意はミノルが金を出していた。
曰く、お近づきのしるしに、だそうだ。
穏やかに調理する彼の袖を隣に座った黒髪少女が引いた。
「ミノル、ミノル。次はカルビが良いです」
「はい、どうぞめぐみんさん」
欠食児童とまで称される、少女めぐみん。彼女にとって、このバーベキューは実に満足のものだった。
口の周りを油で汚す少女の口を、手拭いで綺麗にし、更に野菜などを少量盛り付けながらミノルは、金髪の女性に水を向ける。
「ダクネスさんも如何ですか?」
「ああ、頂こう。それにしても、ミノルは良い手際だな。コックでもしていたのか?」
「あはは……単純に、慣れの問題ですよ。家事をしていれば自然と身に着きますから」
「う゛っ」
「あっははははは!言われてるわよ、カズマさん!」
「チッ……おうおう、ミノルぅ。そこの駄女神に焦げ肉プレゼントしてくれや」
「食べ物で遊ぶのはダメですよ、カズマさん。焦げた肉なんて誰も幸せになりません」
「ぷぎゃー!カズマさん、おっこられてるー!」
ぴきっ、とカズマの蟀谷に井桁が浮かぶ。
徐に掌を空に向けるようにして盛り上げて、
「『クリエイトアース』」
サラリとした土が現れ、
「『ウインドブレス』!」
「ッ!?ぎゃあああああああ!?土が、目にぃいいいいいいい!?」
もんどりうってのたうち回るアクア。
カズマの用いた初級魔法。本来ならば、魔法使いですら使う事のない魔法を、彼は器用に使いこなしていた。
もりもりと肉を貪っていためぐみんは、本職の魔法使いとして複雑な表情を浮かべた。
「ちょっと!何で、本職の魔法使いよりも初級魔法を使いこなしているんですか!?というか、そんな使い方する人まず居ませんけど!?」
「えっ、こうじゃね?単体で弱いなら、組み合わせるだろ」
便利だしな、とカズマはマグカップにコーヒーの粉を入れて『クリエイトウォーター』と唱え水を入れ、『ティンダー』と小さな火を灯す事で火を起こす。
殺傷能力という点では他魔法に大きく劣る初級魔法。だが、日常生活においてはこれほど有用な魔法は無いだろう。
魔法を戦闘に用いるものである、という先入観を持つ者ではなかなか思い浮かばない。
焼けた野菜を食べながら、ダクネスは首を傾げた。
「ミノルは、この二人を注意しないのだな」
「注意、ですか?」
「先程カズマに、食材で遊ぶのはいけない、と言っただろう?ああもバタバタと暴れるのには何も言わないのだな、と」
「そうですね……さっきのアクアさんは煽りが過ぎましたから。それに、土埃も鉄板には向いていませんでした。風向き的に見てもアクアさんが暴れても特に何か起きないでしょうし」
ミノルはそう答えて、お肉を口へと運ぶ。
優男ではあるが、保護者ではない。その辺りのメリハリは確りとしていた。
騒がしい食事もそろそろ終わり。粗方の食材を消費しきった事で、後は片付けだ。
「カズマさん、お水を頂けますか?」
「おう。『クリエイトウォーター』」
カズマが出した綺麗な水を使って鉄板を磨くミノル。
油かすなどを落として、これまたカズマの出したサラサラの土と混ぜる事で肥料として近くの樹木の根に撒いた。
「それ、良いのか?」
「あんまり宜しくないでしょうね。一応、ギルドを通してこの一帯の管理者さんには許可をもらいましたけど」
「あ、あの時ってそういう訳か」
カズマが思い出したのは、このバーベキューを始める少し前。食材などを買い込んだ後に、ミノルがギルドの方へと少し立ち寄った時の事。
何というか、気遣いが細かい。そして、
「真面枠ゲット……!」
「はい?」
しみじみと拳を握ったカズマに、首を傾げたミノル。
良くも悪くも、カズマのパーティは何れも癖が強い。カズマ自身も割とトラブルメーカーな部分は否定できないが、ソレを差し引いても他の面子の奔放さよ。
そして、