赤腕の異世界転生事情   作:桂の星

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 月が天頂に掛かり、夜闇が深さを増す時間。墓場は吹き抜ける風によって肌寒く感じる。

 

「ね、ねえ、これってゾンビメーカーの討伐だったわよね?私の勘違いなら良いんだけど、なんだか嫌な予感がしちゃうんだけど」

「何でそう、お前はフラグが立つみたいな事言ってんだよ。別に危なそうなら速攻とんずらして馬小屋で寝る。んで、他の奴に任せりゃいいだろ」

 

 若干不吉な事を言うアクアを嗜めて、カズマは一つ息を吐き出した。

 懸念はある。一つは、今の時刻が夜であり、如何に街の外れといえども大きな音を立てればクレームの原因になってしまう点。そうなると、現状のパーティ最高火力のめぐみんの魔法が使えない。

 その対策として、カズマはミノルへと声を掛けたが現状ミノルの方もどの程度戦えるのかがわからない以上、よっぽどな状況は御免被りたいというのが正直な所だった。

 夜の墓場は、静寂に包まれている。ただでさえ、人の出入りが少ないというのに、加えて半ば無縁仏となっている様な場所だ。不気味さを覚えない方が無理な話。

 恐る恐る進む一行。

 

「……ん?」

 

 不意に、カズマが声を上げた。

 

「どうしました、カズマ」

「いや、何というかピリピリ来ると思ってな……敵感知に引っかかったっぽい」

「数はどうですか?」

「ええっと、一体、二体、三体……四体、五体……って、え?」

 

 一瞬呆けて、数え間違いではないか、とカズマは感知した敵の数を数え直してみる。

 しかし、結果は何も変わらない。

 状況が若干悪くなっていく。その最中、突如として墓地に青白い光が走ると、中央の広場の様になった区画に青白く輝く魔法陣が浮かび上がってきた。

 そして魔法陣の傍らにはフードを被った人影が。

 

「アレは……」

 

 四人の前に立って左腕を発動しようとしていたミノルは、そこである事に気が付いた。

 何だか、知った相手である気がしたのだ。ただ、()()がこういう事をするのか、と問われるとそこまで深い関りのある訳ではないミノルには答えられない。

 とりあえず、指示を扇ごう。そう決めて振り返り、

 

「あーーーーーー!!」

 

 横を水色が駆け抜けていった。

 慌ててもう一度振り返れば、アクアがローブの誰かに指を突きつけていた。

 

「リッチーがこんな所に居るなんて不届きよ!この私が、浄化してあげる!!」

 

 リッチー。それは、不死者の王であり、ノーライフ・キング。魔導を極めた者が更なる力を求めて不死へと転じた怪物。

 ハッキリ言って、こんな序盤の街に現れる存在ではない――――のだが、

 

「きゃあああああああ!?な、なになになになに!?や、や、やめてぇぇぇえええ!!どうして急に私の魔法陣を壊そうとするの!?」

「うっさい!黙りなさい、アンデッド!どうせこの怪しげな魔法陣で、何か悪い事でも企んでるんでしょ!?こんなもの!こんな――――」

 

 腰に縋りつくフードの誰かを引き剥がして、魔法陣をこれでもかと踏んずけるアクア。

 だが、次の瞬間彼女の姿はその場から掻き消えた。代わりに、そこにあるのは白銀の代物。

 

「……とりあえず、話をしましょう………………ねぇ、ウィズさん?」

 

 フードの誰か、ウィズへと声を掛けるミノル。

 彼の左腕は巨大な白銀の鉤爪へと変化しており、その手でアクアを掴む手を挙げるようにして空へと向けて伸ばしていた。高さは、十メートル程だろうか。

 あまりの光景に唖然とする三人。しかしその中でも復帰が早かったのは、カッコイイものが好きなめぐみん、そして事情(特典)を知るカズマの二人。

 

「み、ミミミミノル!な、何ですかその腕は!?魔法ですか!?それとも魔道具ですか!?というか、触ってもいいですか!?」

「えっ……あ、ああ、どうぞ?」

 

 目を輝かせて白銀の腕へと手を伸ばすめぐみん。ベタベタと無遠慮に触るが、ミノルはミノルでその場に片膝をついてめぐみんが触りやすい様に位置を下げている為に、甘いというか何というか。

 そんなミノルの右側へとカズマがやって来る。

 

「ええっと、ミノル。その人、リッチー?はお前の知り合いなのか」

「あ、はい。この人……あー、この方はウィズさん。アクセルの街で魔道具のお店を営んでる方ですよ。僕はこの街に来て少し縁があってお話する機会があったんです」

 

 ね?とミノルが水を向ければ、半べそをかいていたウィズも頷いた。

 カズマは顎を撫でて考え込む。

 アクアはリッチーだと、ウィズを断じたが彼女には敵意の様なものは見受けられない。それに、今後パーティメンバーとして所属してほしいミノルも気に掛けている様子。

 となれば、平和的解決を目指すのは必然。幸いと言うべきか、場を引っ掻き回しかねないアクアは、文字通りミノルの手によって上空十メートルの所で軟禁中。喚いているが聞こえない。

 

「あー、ウィズ、だっけ?」

「な、何でしょう……?」

「いや、何でこんなことしてるんだろうな、と思ってさ」

「それは……この魔法陣は、迷える魂を天へと送り届けるための物なんです」

 

 しずしずと語るウィズの言葉を肯定するように、その辺を漂っていた人魂が幾つか魔法陣へと入り、そのまま空へと昇っていく。

 

「私、こう見えてもノーライフキングなんてやらせてもらってますから、死者の魂の声なども聞こえるんです。それで……その、この共同墓地はお金が無くてろくにお葬式も上げてもらえなかったような魂が多く……毎晩彷徨っている魂が多いので……」

「それで、アンタが天へと送ってる、と」

「はい……」

 

 カズマは、眉間を揉みつつ空を見上げた。良い人だった。それも真面なタイプの。

 こうなると、やはり敵対は得策ではない。そう考えて、カズマは更に情報を得るべくその口を開く。

 

「でもさ、それって聖職者……プリーストの仕事だろ?」

「それは、その……この街のプリーストの方は……ええっと、拝金主義の方が多くて……」

「あー……」

 

 チラリと、カズマは上で喚いている酒カス(水の女神)を見上げた。

 ただ、一つ補足をするなら世知辛い理由もあったりする。

 プリーストは、他職業に比べてレベルアップをしにくい傾向にある。これは攻撃手段が限られており、特攻が取れるのがアンデッド系に限定されるため。

 レベルが上がらなければ割りの良い仕事にはありつけない。しかし、レベル上げは大変。この悪循環の結果、プリーストたちは己の得意分野で金を稼ぐことになる。主に、除霊や葬儀など。

 カズマの中でウィズへの評価は鰻登り。ただ、問題はまだ残っていた。

 

「それじゃあ、あのゾンビは何なんだ?アレさえなければ、仕事の依頼も無いと思うんだけど」

「アレは、私が墓場に来る勝手に出てきてしまうんです。私の魔力に反応しているだけで、私自身ではどうしようも……」

「成程」

「解決しようと思うのなら、ウィズさん自身がここに来ない様にするほかないのでは?」

「だよなぁ……つっても、どうするか。ウィズの行動は、完全善意だしな」

「流石に、共同墓地管理の為の資金を捻出するのは……無理ですね。もうそうなると、冒険者ではなくギルドや政治の問題になってしまいますし」

 

 二人揃って考え込む。

 そこに口を挟んだのは、今の今まで白銀の腕にべったりだっためぐみんだ。

 

「でしたら、アクアに頼んでは如何でしょう?」

「アイツに?……やってくれると思うか?」

「無償なら難しいでしょうけど、要は報酬があればいいんですよ。他のプリーストに頼む場合は足元を見られそうですが、アクアならパーティメンバーの一人です」

「成程、報酬か………………酒だな。よし、ミノル。アクアを下してくれ」

「分かりました」

 

 言われ、白銀の腕が縮んでくる。同時に、キャンキャン煩い声も近付いてきた。

 

「いきなり女神を掴むなんて!?高くて怖かったんですけど」

「すみません。話を聞いてもらえないと思ったので……」

「リッチーに話なんていらないわよ!とにかく、消し飛ばして――――」

「酒代一万エリス」

 

 下ろされて、速攻ウィズへと襲い掛かろうとしたアクアが、カズマの言葉に止まる。

 

「アクア。この共同墓地の彷徨う魂を天へと送る仕事をするってんなら、この酒代一万エリスをお前にくれてやる」

「はあ?何で私がそんな事………………本当?」

「状況打開を考えるなら、これ位しかない。受けるのか、受けないのか。どっちだ?」

「えっ……むむむむ……!」

 

 難し顔をして悩むアクア。彼女の脳内では、酒代と睡眠時間のそれぞれが天秤に乗せられて揺れていた。

 果たして、選ばれるのは――――

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