ここはキヴォトス、D.U地区の路地裏。どこにでも存在する何の変哲もないこの路地裏を訪れる者は稀にしかいない。そんな路地裏に主を失った銃はその身を横たえて眠る。かつては丹念に整備されていたであろうその銃は今やその日暮らしの不良たちにさえ拾われることは無い。雨に打たれ、風に打たれ、時の流れに身をまかせて朽ち果てていく銃は語る。一人の少女の惜しく無残な戦いの物語を。
数か月前
「ヴァルキューレだ!お前たちは包囲されている!今すぐ武装を捨てて投降しろ!」
盾を構えた警備局の生徒たちの後ろから彼女たちの指揮官が拡声器で呼びかける。
「連中素直に出てきますかね?さっさと突入した方が早いと思うのですがカンナ先輩。」
『馬鹿野郎。手続きをすっ飛ばせるわけがないだろう。あと先輩じゃなくて局長と呼べ。』
「りょーかいしました。」
そう私は返答すると再び愛用の狙撃銃「 Sagittarius」に載せられた照準器を覗き込み、警備局の生徒たちのその向こう、銀行に立て籠もる銀行強盗の様子を眺めた。わたしを含めた4人、SRT特殊学園からヴァルキューレ警察学校への出向組によって編成された公安局特殊事件捜査係(SIT)に今回課せられた任務は狙撃による支援である。
「今回は出動要請早かったね。いつも我々にまわってくるのはもっと後の段階なのに。」
そうボヤくのは私の横でスポッターを務める風間カロン。SRTに入学してすぐの頃からの付き合いであり、訓練も共にしてきた私の相棒だ。
「上同士で何かやり取りでもあったんじゃないか?いくらお客さんの私たちでも毎回火消しにまわされてばかりなのはあまりよくないだろうし。」
ヴァルキューレへ出向してから研修を受けていくらか刑事らしい捜査も出来るようになったが元々はSRT所属。どちらかというと荒事専門だ。皆口には出さないがフラストレーションはたまっていたのかもしれない。穏便に事が済めばいいが、ここはキヴォトス。それが甘い甘い理想に過ぎないことは誰もが理解していた。
「いつもは地味な捜査。時折出動があっても警備局の連中の後始末とはね…」
「文句言うなカロン。私は結構気に入ってるぞ?元々はヴァルキューレ志望だったから。」
「うへー。同期トップクラスの成績なのにヴァルキューレへの出向者の募集に名乗りを上げたのはそれが理由だったんだ。」
「そういうカロンこそ私が志願したら一緒に行くと言い出したじゃないか。」
そんな雑談をしながら事態の推移を見守っているとカンナ局長からの無線が入る。
『特捜係、発砲用意。突入部隊の脅威になる機関銃持ちとランチャー持ちを優先的に排除しろ。』
「バード1了解。」
『バード3了解。』
『撃て!!!』
バシュン!!!!!!!
私たち二人ともう一組による発砲と同時に警備局の部隊が突入を開始する。
サプレッサーを着けていても尚大きい.338ラプアマグナム弾の銃声が響く。銃口を飛び出したその弾丸は寸分の狂いもなく外を伺っていた強盗の頭へと吸い込まれる。
「グゲッッッッ!!」
条件さえ揃えば2km先の標的をも狙撃可能な銃弾がたった200mの距離から強盗犯を襲う。標的となった彼女はのけぞるようにして倒れこみ頭上のヘイローが消える。
「命中。次、右に5m。軽機関銃をもった黒ヘルメット。」
「了解。照準よし。」
「撃て。」
余計な感情を排除し、淡々と銃弾を撃ち込んでいく。突然の狙撃に浮足立った銀行強盗達は突入してきた警備局の生徒に次々と拘束されていった。
『特捜係撃ち方辞め。』
局長からの指示が飛ぶ。我たちの仕事はここまでのようだ。
「なんてことない任務だったね。」
「任務が楽なのはいいことだろう。私たちが本気を出すような事件ならSRTが直々に出張ってくるさ。」
軽口を言い合いながら撤収の準備を進める。
「バード3、バード4、そっちも撤収の準備を。あとは警備局に任せよう。」
『バード3了解。』
『バード4も了解だよー。』
晴れ時々銃撃。そんな冗談が冗談にならないこのキヴォトスでの日常。それでも元SRT、現ヴァルキューレ所属の私にとってかけがえのない日々。いつまでも続くと思っていた日々はある時ほんの些細なことから崩壊していくことになる。まるで些細な亀裂が広がり墜落する飛行機のように。