1900年、2月19日。
まだまだ寒空が広がり雪が降ることもなんら、珍しくもない季節。
大抵の人にとってはなんでも無いその日。
両親を始めとした家中の皆々にとっては喜ばしい日であったという。
私こと、山田隆敏が二度目の生を受けた記念すべき日である。
私が生まれたのは東京、上野である。
都会と言って差し支えなく、我が家もかなりの大きさを誇る。
何を隠そう私が生まれたのはある名家であり長男であると言うのだから驚きだ。
全く、前世は一般家庭の生まれだったのだから赤ん坊の私に頭を下げたりしてくる使用人の人達が当たり前のようにいて甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのだから、その違いに困惑せざるを得なかったのは確かだ。
なんにせよ、不自由無い暮らしを送れるだけの資産があり、我が家が行う商売も好調。
強いて問題点を挙げるならば現代に比べて娯楽が少ない事だろう。
まぁ一人孫であるからと祖父が何かと色々と買ってきたりしては与えてくれたものだから退屈とはほど遠かったのは間違いない。
いつの世も、いつの時代でも孫に甘い祖父と言うのは共通らしい。
父はメリハリある性格の人物であった。
厳しい時は厳しく、優しい時は優しく、であった。
祖父から引き継いだ会社をここまで大きくしただけあって優秀だ。
母の尻に敷かれており、仕事をしている姿は格好が良いと言うのに家では頭が上がらない様子だ。
祖父は本来ならば厳しい人だったらしいのだが、私が生まれてからと言うもの、ただの孫馬鹿爺になってしまった。
祖母は祖父とは違い、菩薩のような人だった。
優しく、何か悪さをしたとしても怒鳴るような事はせず、正に教え諭すと言った感じで物事を教えてくれる人であった。
とまぁ三人を紹介したわけであるが、こと、とにかく厄介であったのは母であった。
近所の子供達に雷女と言われるぐらい厳しくおっかない人である。
ある時近所でやんちゃ小僧達と殴り合いの大喧嘩をした時なんかは、
「お前はとにかく人に比べて力も体格も良いのだから」
とそれはもう、前世含めて初めてであるような剣幕で怒鳴られ大号泣したことがある。
頭にごちん!と凄まじい威力の拳骨を一発落とされもしたし、私にとって母は正に恐怖の象徴であったように思う。
父と母は十歳離れており、父三十歳の時に母二十歳で私を産んでくれた。
その前に二度、流産を経験していたのもあってか待望の、である。
そんな母の印象ががらりと正反対に変わったのは、春先に庭に向かう廊下の縁で眠りこけていた時だ。
うつらうつらと頭を揺らしながらガラス張りの襖のへりに頭を預けていると人の気配がした。
特に気にするでもなかったが、細く優しい手つきで頭を撫でられてから母であるとすぐに分かった。
わりかし荒事に耐性があり得意な母であるが、手はとても綺麗であったからよく覚えている。
そんな母が、私に怒鳴ってばかりの母に頭を優しく撫でられるなど初めての経験で緊張したものだ。
少し撫でてから抱き上げてあやされると、今の姿が本来の母であったと遅まきながら気が付かされた。
母はどうやら私を思ってわざと厳しく接していたらしい。
流産を二度も経験しながら子を想い厳しくするなど並大抵の覚悟ではなかっただろう。
それ以後、現金かもしれないが母を良く慕うようになった。
私が生まれてから十六年後、私には双子の弟と妹がいた。
両親がハッスルした結果であるが、私からすれば年齢が離れているのもあって可愛くて仕方がない。
まだ三歳になったばかりでようやく言葉を喋れるようになったかと言ったところで、にいさま、にいさまと寄ってくる姿はなんとも愛らしくて仕方がない。
しかし家族と過ごしていられる時も長くはない。
海軍兵学校への入校が決まったからである。
まだ暫くあるが、軍に入ってしまえばおいそれと帰省する事も叶わないであろうから、それまでの時間を噛み締めるように過ごしたのである。
ーーーーーーーーーー
1937年末。
日本にとっていよいよ運命が決定付けられることとなる年に入った。
既に大佐の階級となっていた私は山本さん達に呼ばれて海軍省の一室に居た。
山本さんに始まって米内さん、井上さん、古賀さんといった所謂対米開戦反対派、海軍左派の面々がずらりと並んで座っていた。
彼らとは面識がある。
あちこちに人脈作りや技術研究開発の際に顔見知りとなり、付き合いがある。
「満州事変に始まって北支事変。そしてついぞ日中全面衝突となってしまったわけだが……」
「山田君、君はこれをどう見るかね」
「どう、とは?」
随分な質問だ。
気心知れた、と言うほどではないがここにいる皆さんでない、他の相手だったら返答次第では下手したら首が飛んでいたかもしれない。
「海軍一の天才と名高い君の正直な意見を聞かせて欲しい。どんな意見でも構わん」
そう言って井上さんが私に聞いてくる。
どうやらこの集まりはそういうことらしい。
「では率直に申し上げます。まず間違いなく戦争は長期化、泥沼となるでしょう」
「その根拠は?陸軍は短期間で終結すると言っているが」
「そんな訳はありません。結局戦争と言うのは政治で終結するのであって、軍事で終わることはありません。その点、敵がどれだけ負け続けようとも広大な土地の奥へ、奥へと撤退すれば降伏でも講和でも、私達が望む結果を得る為にはその分我々は奥地へ足を進めなければなりません」
「そうすれば民衆や兵士に大きな被害が出る。果たしてそれを所要するか?」
「するでしょう。最終的に勝てばいいのですから」
結局のところ、戦争で被った犠牲や被害なんてものは勝ってしまえば幾らでも受けた損害や損失は帳消しに出来る。
「そうなると、これからはどうなると思う?」
「戦争が拡大し、肥大化し、日本の国力の限界を遥かに超えた戦争となるのは火を見るより明らかです。特に問題になるのは戦争が日中だけで終わらないであろうことです」
「欧米諸国か」
「はい。中国は市場として見れば、世界恐慌の影響がある各国は喉から手が出るほど欲しい市場です。他の国ならばまだしも米国はまず間違いなく反対の立場ですから、満州の建国すらも許していない米国が黙っている筈がありません。何等かの条件を突き付けてきて、それを突っ撥ねれば日米開戦となるかと」
「アメリカか……」
「米国は元より、アジアに植民地を持つ欧州各国との関係性は悪化の一途を辿っております。何か一つ、決定打となる事象が起これば、五年以内に事が起きるのは間違いありません」
「五年以内だと」
「外からの輸入に頼る我が国の最大の貿易相手は米国です。もし米国が対日輸出全面禁止という措置を取れば、我々の首は一日ごとに締まり続けるのは明白です。近代国家に必要不可欠な石油も軍艦や大砲を作る為の屑鉄も我が国は米国依存です。そうなれば政府が取れる方針は主に三つ。米国の要求を呑むか、対米開戦とするか、別の貿易相手を探すかの三択以外に他ありません」
この三択は選択肢があるように見えて実は殆ど一択に等しいものだ。
「なんだ、その選択肢は。我々が取れる選択など殆ど一択じゃないか」
「その通りです。政府としては戦争を避けられるならばと思うかもしれませんが軍と世論がそれを許さないでしょう」
「それこそ五.一五事件や二.二六事件と同じようなことが全国で発生しかねません。あの時に加担した将校達を銃殺刑にでもしていれば話は変わっていたかもしれませんが、今の政府にそれを抑えようという気概は無いでしょうから」
「別の貿易相手を探すと言う手段も、我が国と近い資源地帯を植民地としてアジアに抱える国々も米国の圧力に屈しなければ貿易は可能でしょう。しかし欧州情勢も日に日に雲行きが怪しくなってきておりますから、これも確証は得られません。となると結局開戦止む無しとなってしまうわけです。そもそも米国が本当に外交で物事を決めようとしているのならばまだしも、戦争をやる腹積もりでいるのならばこちらがどれだけ外交努力をしても意味はありません」
「普通の相手なら外交で通じるが、米国はそうではないと」
欧州では戦争の足音が着々と近付いてきている。
ヒトラー率いるナチスがドイツの実権を握り、このまま順当に進めば歴史の通り二年後には欧州全土が戦火に包まれている事だろう。
米国にしても、過程はどうあれ戦争になれば最終的に勝てると予想しているだろうし、態々講和に挑む理由も無い。
「日中の戦争が長期化すればアメリカは石油に始まりあらゆる物資の輸出を禁止して我々の首を絞め付けてきます。その際に物資を手に入れる為にまた別の戦争を開くことになります。そうなればアメリカは黙っていません。我々がどう出るかによっては戦争を回避出来るかもしれませんが突きつけて来る条件は、少なくとも政府や陸軍、右派が容認出来るようなものではありません」
あくまでも個人的な意見であるが、日中戦争が無ければワンチャンスぐらいはあるのが対米戦だ。
とは言え、米国からしたら欧州が本命であって対日戦はもののついででしか無い。
そのついで、で戦って勝てる相手が日本なのだ。
「どのような条件を突き付けてくると思う?」
「少なくとも中国、満州からの完全撤退は確実でしょう」
私の知る歴史でもハル・ノートが提出される前から我が国は米国と協議を重ねていたが、最終的に提出されたものは少なくとも当時の日本が呑める要求ではなかった。
その裏にソ連の回し者がいようが最終的に出されたものでこちらはやるしかない。
この世界の政府はそれを突き付けられてどうするのかは分からないが少なくとも要求を呑むことはしないのは確実だ。
そうなれば必然的に開戦一直線である。
今のところ日本の共産主義者は政治家、軍人に至るまで片っ端から捕まえられて牢獄に放り込まれているがアメリカはそうではない。
寧ろ政府上層部にソ連の回し者が居ると予想する方が難しい。
「軍縮は勿論のこと、最悪南洋諸島も手放す事を視野に入れるぐらいは覚悟しておくべきです。米国は太平洋に覇権を争う相手を作りたく無く、更には世界恐慌の影響もあって市場を求めている。言うなれば太平洋の覇権国家は一つのみでいい、と言ったところでしょう」
「確かに呑める要求では無いな……」
「それでも回避は出来るのではないか?それに国民が許すかね」
「はっきり申し上げて、その考えはかなり甘いと言わざるを得ません。今の日本は独伊との同盟を締結するかしないかで揉めておりますが十中八九、同盟を結ぶことになると考えております。すると米国はナチスと手を組んだ私達を悪役に仕立て上げるのです。ナチスと手を組んだ悪を罰する為の戦争だ、これは正義の為の戦争なのだと」
「モンロー主義を貫いておりますが、実のところ政府や企業は戦争が始まれば参加したくてたまらないでしょう。なにせ自分達の目的が達成されるのですから。その為には自作自演すらやりかねません」
「そうなれば戦争を支持する声も大きくなるでしょう。結局のところ我々はすべての要求を受け入れると言う形でしか回避には至らないでしょうし、どれだけ外交努力を重ねたところで、我々がどれだけ戦争をしたくなくても相手が戦争をする腹積もりでいるのならば、殴り掛かって来ますし、そうなれば嫌でも戦わざるを得ません」
山本さんの言葉に、強めに否定を入れて言う。
若干む、っとしたが説明を聞くと苦い顔をして頷いた。
今のアメリカにはソ連の回し者が大量に流れ込んでいる。
大統領府にすら多数いるのだから、少なくともまともに話し合いをしようとしたらそれらを排除するしかない。
「どうすれば勝てると思う?」
「勝つ、というのは正直事実上不可能だと考えます。皆さんならばかの国と我が国の国力差はご理解しておられる筈です」
「やる前から勝てぬ、と言うのか」
「はい。米国と我が国をあらゆる面で比べても、日本が勝てるところはありません。私が思うに、米国相手に勝とうとするならば最低でも各分野において対米比1:4、欲を言えば1:2ぐらいの力関係に持ち込んで漸く、と言ったところです」
「対米比1:2だと!?」
驚くようだが、それもそうだ。
日本が米国に国力として勝っている点など何一つとして存在しない。
それを1:2まで持ち込んで漸く勝てるかどうかというところだ。
過大要求でもなんでもない。
目の前にいる人達は少なからず米国に渡り、その目で彼の国を見た事があるからよく理解している筈だ。
故に対米比1:2という数字がどれだけ無茶苦茶なものなのかを分かっている。
「それぐらい我が国と差があるのです。しかしこれはもし対米戦不可避となり予想される開戦時期を考えれば到底短期間で達成出来るものでは無く、ましてや既に戦時下にある我が国では卓上の空論、夢想事でしかありません」
部屋の空気は重く、誰もが押し黙っていた。
私を含めて彼らもまた軍人であるから、やれと言われればやらねばならぬ、と戦うことになるだろうが、端から負けが見えている戦に挑まねばならぬと言うのは無茶苦茶だった。
「アメリカを牽制する為に、どこかと同盟を結ぶのはどうだ?」
「どこと手を結ぶかにもよるでしょう。下手な相手と手を結べばそれこそ、火に油を注ぐことになります。ドイツ、イタリアと手を結べと叫んでおりますが、そうなったら間違いなく米英どころか今はまだ比較的関係がマシなオランダなどとも関係悪化は避けられません。資源地帯を握っているわけですから米国以外との貿易も不可能になります。そうなれば戦争一直線になりどうにもならないでしょう。後戻りが出来ないというわけです。個人的には英国辺りと同盟を結んでおくのが妥当でしょうが、今の日本はそれを許される状況ではありません」
ドイツ対イギリスの戦端が開かれた場合、イギリスと同盟を結ぶことは出来なくなる。
単純にイギリスの場合は対独戦を戦い抜くにはアメリカの支援が絶対に必要不可欠だからだ。
物資でも兵力でもイギリスはアメリカを頼らざるを得ないのは前提条件であるし、そうなったら太平洋でアメリカと敵対中の日本と手を結ぶとは考えにくい。
「……もし、だ。もしも対米開戦となったら、君ならどうする」
「私も軍人の端くれですから、やれと言われればやらざるを得ません」
甚だ不本意であるが、軍人と言うのはそう言うものだ。
軍人が暇な世界と言うのは何時訪れるのやら、分かったものでは無いな。
「そうじゃない、具体的にどう戦うか、勝てないにしても終着点をどうするかと聞いているんだ」
米内さんの言葉に返すと苦笑いを浮かべながら井上さんが言い直した。
具体的にどう戦うか、か……。
「大前提として対米戦となれば、仰られたように勝つのは難しいでしょう。最善としましては我が国がある程度妥協した条件での講和か、そうでなければ負けに負けを重ねたうえでの敗戦かと。後者の場合、最悪無条件降伏すら有り得ます」
そう答えると誰もが苦い顔をして押し黙った。
とは言え米国が講和を結ぶかどうかはかなり怪しいところだ。
強烈な一撃を加えれば講和に応じるだろうという、一撃講和論は無理な話で、結局のところ一度の戦いでとんでもない損害を米国に与えたとしても一年もあればその損害は回復させることが出来る力を持つのが米国だ。
国力差を考えて長い目で見た場合米国の勝利と言うのは間違いない。
どれだけ序盤に戦術的、戦略的勝利を重ねても戦力が揃う中盤終盤で戦局をひっくり返せると踏んでくるだろうし、我々が得た序盤の勝利など中盤終盤で負け込んでしまえば意味は無い。
アメリカはそれを分かっているから、まず間違いなく一撃を与えた程度では講和に応じないと言うのが私の意見だ。
「それにまずそもそも、我が国は米国と戦える状態にありません。国力で負けているのならばせめて組織や体制だけでも変える必要があるかと」
純粋な国力はどうやったってアメリカ相手に勝つことなど出来ない。
ましてやそこに組織などの能力値が加わってくるとなれば目も当てられない状態になる。
「組織や体制を変える?」
「今はまだ問題は無いでしょう。しかしより戦争が拡大した時では話が変わります」
「具体的には?」
「効率化を図るべきです。例に挙げると今の艦艇建造や海軍搭乗員の育成には数年もの期間を擁しますが、戦争となれば消耗は避けられません。そんな時に悠長に何年もかけて建造し、人材を育てていては補給や補充が間に合わなくなり、最終的には空母はあっても艦載機も搭乗員も無いただの鉄の箱、戦う艦も無い、となってしまいます」
「搭乗員育成や艦載機の生産、艦艇建造過程を見直せ、そういう事か」
「生産などは陸軍にも言えることだな」
「今の陸軍にそんな余力はありません。足りないものは旧来の生産ラインを増やしたりして対応するしかありませんし、そんな状況で効率化をやれと言っても、良くて中途半端で終わるか、或いはそんな余裕は無いと突っ撥ねられてしまうのがオチです」
陸軍の生産ラインはそれはもうごっちゃになっている。
とくに酷いのは大砲関係の生産ラインで、旧来の野砲や榴弾砲などの更新の為に新旧ごちゃまぜになっている状況だ。
これを整理しようとすると、恐らく日中戦争が始まるまでにはどうやったって整える事は出来ない。
寧ろ余計に混乱して悪化する可能性がある。
今の艦艇建造は大型艦だと数年、駆逐艦などの小艦艇でも一年は掛かる。
そんなに時間を掛けていては戦力補充が間に合わなくなり、最終的に圧倒的な数的差を付けられて押し潰されてしまうだろう。
陸軍は開戦前から軍全体の機械化などを図っていた。
しかし日中開戦となったことでそれらは全く達成されぬままで、砲兵も貧弱、機械化なんて夢みたいなものだ。
予算に恵まれていた海軍と違って陸軍の予算は少ない。
正直に言って日本陸軍砲兵隊は目も当てられないぐらいの惨状と言っていい。
そもそも陸軍の大砲生産能力は低い。
史実日本の三八式野砲や三八式野砲改ですら生産門数は精々三〇〇〇~四〇〇〇程度だと言われている。
それ以外の野戦重榴弾砲や野砲などは数百門が精々で、モノによっては下手をすれば百数十門なんてこともある。
砲弾の生産数も酷いものだ。
末期にはそもそも小銃すら不足していたなんて状況だったのだから、まぁ当然と言えば当然だろう。
しかも計画段階で二転三転したりして資材と時間を無駄にしたりと酷いものである。
で、肝心の砲自体はどうだったのかと言うとこちらもこちらで旧式砲を使い続けざるを得ない状況だった。
九〇式野砲や機動九〇式野砲も性能自体は優れていたがそもそもの生産数が少なさ過ぎる。
野砲、重砲の生産数ですら酷いのに砲弾の生産数も少なく貧弱だ。
しかも各野砲の砲弾は全く互換性が無く、それだけならばまだいいが同時期に開発された砲同士の互換性が無いのだ。
結局編成自体も色々と妥協したりして最早原型がどうだったのかすら分からないような代物に成り代わっている。
「そう言えば君は陸軍とも繋がりがあったんだったな」
「はい。実戦部隊の方々が主ではありますが、山下少将を始めとして交流させて頂いております」
陸軍と親しいお陰で色々と後ろ指を指されているが、今目の前にいる人達に守って貰っているお陰で左遷されたりせずに済んでいるのが事実だ。
でなければとっくに左遷されていただろう。
まぁ山本さん達も陸軍のことは良く思っていないのは事実だ。
まぁ陸軍と海軍の仲が悪いのは日本に限った話では無いのだが日本の場合はそれが行き過ぎている。
『陸軍と海軍で争い、その余力を以て米英軍と戦う』
などと言われるぐらいだ。
実際海軍に身を置いてみれば分かるが、陸軍と仲が良いのは本当に回りを見てもまずいない。
それでも陸海軍で対立していてどうこうなるような情勢では無いのだ。
「それと人事や艦隊の編制において、連合艦隊に自由裁量権を軍令部から捥ぎ取ってくることも必須でしょう。旧来の編制に拘っていては柔軟な作戦行動が取れません」
「そりゃぁ、君言ってることがどれだけ困難なことか分かっているだろう。連中は手放さんぞ?」
「それはそうですが、しかしだからと言って効率的な編成などが行えないばかりに負けるのとでは、苦労を重ねてでも捥ぎ取って来る方が随分とマシでしょう」
「作戦立案は向こうに任せると?」
「任せると言うより、人事と編成の自由裁量権を要求している中でそこまで要求すれば要求が通らなくなります。なので最初は作戦立案権、人事権、編成の自由裁量権を要求し、交渉を重ねるフリをしながら人事と編成の自由裁量権を捥ぎ取れば良いのです。それぐらいならば最終的に認める筈です」
欲を言うならば、艦艇の建造に関する辺りも欲しいところだがそれこそ無理な話だろうから捨てるしかない。
テコ入れぐらいは出来るだろうからそれでどうにかするしかない。
「君、政治家の方が向いているんじゃないかね?」
「しかし人事と艦隊の編制の自由裁量権か。俺達だけじゃどうやったって無理だぞ」
「年功序列、年功序列では本当に優秀な人達を無駄に腐らせるばかりです。平時はまだしも戦時になれば悪癖の一つになりましょう。無茶でもやらねばなりません」
陸海軍共通で言えるが、兎に角年功序列に拘る。
これでは優秀な人材を無駄に腐らせるだけに終わってしまう。
「艦隊編成はまだしも、人事権を認めるかな?間違いなく猛反発を食らうぞ」
「そこは我々側の皇族のどなたかに御協力をお願いするしかありません。私も我々だけでやれるとは到底思っておりませんから」
そう言うとその場にいた全員が、事は既に海軍内だけで済む大きさの話では無く、国全体を巻き込んでの事態であることが理解出来たらしい。
彼らが頭を抱えて悩むのが手に取るように分かった。
話を重ねる上で必ず議題にせねばならないことの一つに海上輸送航路防衛の話がある。
他にも潜水艦の運用方法だとかもあるし、やらねばならないことは山のようにある。
「人事やらだけでなく、海上輸送航路を始めとした防衛をどうするのかというのも大きな課題です」
「海上輸送航路?」
首を傾げる米内さん達に説明するべく、部屋にあった地図を許可を貰って卓上に広げる。
「開戦となった場合、最大の貿易相手である米国からの物資輸入は出来ません。そうなると別の場所から得る必要があります」
「別の場所……。南方か」
「はい。十中八九資源地帯を得る為に作戦行動を起こすことになります。満州には鉱石は豊富ですが今のところ石油はとれません。大慶のほうで石油が取れる可能性があるそうですが、仮にあったとしても技術的に採掘可能なのかは未知数です。となると必然的に南方へ向かう必要が出てきます」
所謂大慶油田の存在はかなり前から知られている。
実際試掘などが行われて石油の存在自体はかなり昔から知られていた。
だがこの大慶油田、採掘に必要な技術レベルが到底今の日本では実現不可能な代物なのだ。
アメリカがその辺りの技術を持っているのだがその技術を得ようとすれば確実に米国資本の流入を認めるぐらいのことはしないとならない。
そうなるとなれば、反発は必須だろうな。
陸軍、特に関東軍なんかは猛反発するだろう。
そうなるとどうしても南方に向かわねばならない。
南方にはパレンバン、バリクパパンと言った石油が豊富に産出される場所に加えて希少金属類も多数存在する。
それらは戦争だけでなく国家の運営そのものにも関わってくる物資であり、絶対必要なのだ。
「それ以外にもニッケル、クロム、ボーキサイト、錫、銅。様々な重要な資源を得ようとすれば必然的に南へ向かう必要があります。しかしここで問題になってくるのは南方と日本の距離です。直線距離で五〇〇〇km以上。実際はもっと長く、六〇〇〇kmを下ることはまずありません。戦争が拡大し、戦線が肥大化すればするほどその距離は鼠算のように伸びます。その間全く無防備に輸送船を行き来させれば、敵はそこを確実に突いてくるのは明白です」
「確かに、兵法の常道だ」
「主力艦相手では脅威にもならない旧式機や小さな爆弾でも、物資を大量に積載している輸送船などからしたら一発だけでも脅威になります。ましてや潜水艦に狙われたら魚雷一発で轟沈。そうならないようにするべきです」
指で指しながら、その距離を説明する。
対策も無しでいれば第一次世界大戦でのイギリスのように我が国は干上がることになる。
イギリスは一歩手前で踏み止まれたが、あれはアメリカをはじめとした支援があったからだ。我々にはアメリカの支援などない。
国内自給率も父の会社を通して化学肥料を広めたり、東北などに投資して解決を図っているが、始めてから一〇年ちょっととあって、期待以上の成果は出しているが要求される物量にはまだまだ及ばない。
やはり外から物が得られるのと得られないのでは天と地ほどの差がある。
第一次世界大戦の折は我が海軍からも輸送船団護衛の為に十数隻ほどの戦力を英国からの要請に応じて派遣したが、その時に得られた貴重な戦訓は全く見向きもされなかった。
山本英輔退役大将達を始めとした一部の人間はこの辺りにしっかりと気が付いていて対策をしようと居ていたが当時の日本海軍はユトランド沖海戦にばかり夢中で潜水艦による通商破壊、輸送船の護衛などと言ったものには全く目もくれなかった。
山本英輔退役大将と繋がりを持ってそれらの情報や戦訓を腐らせないようにしていなかったら今頃海軍の対潜兵科は地獄を見ていたに違いない。
対潜兵科は丸ごと対潜学校として統合されており必要な人員の養成は出来ている。
そんなだから史実日本の海上輸送航路は悲惨極まりなかった。
日本の船舶保有量は総トン数百トン以上の商船を639万総トン。
この数値は米英に次ぐ第3位の保有量を誇るわけである。
これらの保有量に加えてこれから建造される分を加味すれば総トン一〇〇〇万総トンを超える事だって出来る。
しかしながら終戦時に残っていたのは極々僅かであり、それが海上輸送航路防衛、船団護衛と言ったものを軽視した結果だ。
日本軍関連の記録を読むと必ず登場するのが飢えと病気だ。
これは十分な医薬品、食料があれば決して恐ろしい病気では無く、治療を施して全快することもできる。
しかしながらそれら補給を軽視した結果、マラリア、赤痢、コレラと言った伝染病の羅漢率は凄まじいの一言に尽きるレベルにまで達してしまい、飢えと病魔と闘ってその余力を以て戦争をする、なんてレベルの話なのだ。
特にニューギニア方面に投入された兵士達は悲惨なんてものでは済まされないほどだ。
投入された兵力の内、約九割が飢餓と戦いそして七割が病死したとさえ言われるほどのものなのだ。
比較的マシと言われていた大陸戦線でも似たような状態であるからどれだけのものなのかは押して図るべし、だ。
一説によれば日中・太平洋戦争における兵士、軍属の死者の内、餓死病死の割合は最大六割にも達すると言う研究結果すら発表されている。*1
一番マシな研究結果ですら3〜4割を下回ることは無いとされているぐらい悲惨なものだった。
それを考えれば対潜装備、対潜戦術、護衛艦隊の整備は急務だろう。
資源を求めて南下したのに、その肝心な資源を運ぶことそのものを軽視するのは本末転倒だ。
物資は港や倉庫に積まれているのに前線に届かない、届いても物資を必要とする部隊の下へ的確に送られないと言うのは大問題なんてものでは無い。
この辺りは専門兵科が組織されるぐらい、専門知識が必要となる。
戦争に於いて、その内容は殆どが物資を送る為の書類と計算の戦いだと言っても過言では無い。
だから海上輸送航路の防衛と商船護衛を軽視するわけには行かないのである。
「欧州でドイツの潜水艦がやったように、か」
「はい。イギリスはそのせいで飢餓地獄一歩手前にまで追い込まれました。我が国はイギリス同様、島国であり資源に恵まれず、その殆どを仮想的としているアメリカに頼ると言う矛盾を抱えています。もし開戦となればその前々からあらゆる物資の輸出は止められ、いざ開戦となれば輸送航路の封鎖に掛かり兵糧攻めに打って出て来るでしょう。補給を断つのは兵法の常道です。アメリカの工業力を考えれば潜水艦を数百隻作ることは雑作もないでしょうし、航空機に至っては毎日数十機が当たり前のように作られる。そんな数の潜水艦や航空機に無防備な輸送船や商船が襲われれば一溜りもありません。外からの物に頼っている我が国は、物が入ってこなければ国民は飢えに苦しみ、軍は燃料不足や資源不足で戦えなくなります」
食糧自給率も8割程度。
それ以外の肥料や家畜用飼料は大陸からの輸入に頼りっきりだ。
これが断たれることがあれば地獄を見る。
「それは、大問題だな。今こうして言われるまで全く気が付かなかった。いや、気にしていなかった、顧みなかったと言うべきだな」
「それにいざ戦うとなれば、太平洋上に散らばる小さな島々の奪い合いになるでしょう。その分そちらへも補給を続けねば戦う前に飢えと渇きで全滅です。陸の戦いは陸軍の担当で、陸軍を戦地まで運ぶのは我々海軍の役目です。それを無防備に敵の脅威に晒して、碌に守ろうともせず大勢の陸軍将兵を海に漂わせ、挙句に船と共に丸ごと海中に没したとなれば末代まで語られる恥です」
「そうなったら地獄だな。陸軍だけに限った話では無い。海軍だって前線に燃料が無ければ船を動かすことも出来ない。まともな戦力も揃わない、補給も無いでは戦うどころじゃない。その前に飢えと渇き、病魔に倒れる」
史実のガダルカナル島がそうであったように、日本陸海軍はあまりにも補給を軽視し過ぎた。
いや、陸軍はその辺考えていたがなんせ海軍が全く強力しなかったから自前で用意するぐらいしか解決手段が無かった。
正面戦力にばかりこだわり過ぎて、気が付いた時には取り返しのつかないレベルの商船損害が出ていた。
ようやく海上護衛総隊が編成された時には手遅れ感が否めず、ましてや指揮系統が独立していたわけでは無いから戦力不足となった連合艦隊に戦力を引き抜かれたりする始末だ。
海軍は外地への陸軍の補給と言う点でも責任を果たさねばならない。
正面戦力ばかり整えていても、結局補給が無ければ何も出来ないのだから。
日本の場合長期戦になったら負けると言う事が分かっていた。
だから短期決戦にばかり傾倒して正面戦力ばかりを整えることになった。
だがそれでは短期決戦で事が済まなくなった場合はどうするのか、という大問題が欠片も解決されていない状態だ。
少なくともそれぐらいは解決されなければならない。
「ですから、海上輸送航路を守る為の戦力も必須なのです。資源獲得の為に戦端を、というのにそのくせ資源の流通を全く以て軽視しています。陸軍も海軍も良く言えば勇猛果敢ですが、それは裏を返せば攻撃偏重で守りを疎かにしているということです。これは外地だけでなく内地、日本本土にも同じことが言えます。我が国は有史以来敵に本土を攻め込まれたことは精々元寇ぐらいなもので、それが今や悪い方に作用してしまっています。本土の防衛防空体制の確立、連合艦隊とは独立した護衛艦隊の創設は急務でしょう」
「君の言いたいことはよくわかったが、連合艦隊から独立させる必要があるかね?」
「連合艦隊と同じ指揮系統だと、間違いなく連合艦隊の戦力が減った際に戦力を全て持って行かれます。それでは創設した意味がありません。そうなれば中身の無い名前だけになり、それを補う為に戦力に数える事すら出来ない漁船まで徴用する羽目になります。それを防ぐ為に独立させ、指揮系統や司令官を同格の人物にする必要があると考えます」
実際、史実において連合艦隊が海上護衛総隊から駆潜艇などを取り上げてしまうと言う事態があった。
護衛艦隊の戦力はそこそこ纏まった戦力として運用したいので、その時に連合艦隊に戦力を引き抜かれるような事態にはしたくないのだ。
「君は輸送船団を守る為にはどれぐらいの戦力が必要だと考える?」
「護衛艦隊は小型空母を主力として駆逐艦、海防艦が数的主力を担います。軽巡は指揮通信能力を持たせたもので良いでしょう。敵艦隊に突っ込むわけでは無いのですから、対潜装備と対空装備があれば良い。魚雷は載せなくて問題ありません」
「水雷屋の連中が騒ぐな」
まぁ、敵艦に魚雷をぶち当てる為なら死んでも構わないと言うのが水雷屋連中だ。
魚雷が無ければ軍艦にあらずとか言い出しかねない。
「海上航路に関しては分かった。ならば本土防衛に関してはどうだ?」
「本土防衛に関しては敵機や敵爆撃機を迎撃する為の戦闘機を用意すれば良いでしょう。それも最終的には一万mの高空を自由に飛べる高速重武装重防御の迎撃戦闘機が」
「一万m!?そりゃぁ、君、流石に過大と言うか、飛躍し過ぎやしないか」
俺の言葉に米内さんは驚きながらそれはない、と言うがそれこそ有り得ない。
私はB‐29と言う存在を知っているからだ。
「いいえ、今日の航空機の発展は目覚まし過ぎると言っても過言ではありません。我が国では難しくても、米国ならば高度一万mを飛ぶ爆撃機を作り量産することは出来るかと。既に米国は4発の重爆撃機を開発し初飛行もとっくに済ませていると聞きます」
B‐17の初飛行は1935年で、運用開始は1938年だったはずだ。
B‐17だけでなく、B‐24もB‐29には及ばないにしても航続距離、爆弾搭載量、武装、防御力は脅威的なものだ。
B-29も1942年頃には初飛行を済ませていたはずだから、実戦投入まで時間は無い。
それを考えれば早急に迎撃手段を整えておく必要がある。
「その時に迎撃戦闘機が無かったら……」
「手も足も出ず、ただ上を見上げるばかりで本土は火の海を経て焼け野原になるでしょう。それも爆撃で炎に巻かれて死ぬのは軍人では無く女子供、年寄りです」
その光景を想像したのだろう、青い顔をしている。
実際、俺の知る歴史では日本全土に対して繰り返し爆撃が行われ、主要な都市は全て焼け野原になっていた。
それを少しでも回避する為には、今から開発をせねば間に合わない。
「勝っている間は良いですが、負けた時のことを考えなければなりません。それまで連戦連勝を重ねていても一回の負けで全てが覆ることは歴史上何度も存在します。かのナポレオンもそうでした。皆さんも将棋や囲碁でも一手間違えただけで価値を覆された経験はお有りでしょう?」
「確かにその通りだ。この前指し間違えて随分酷い負け方をしたな」
「ですから、一つの作戦を立てるだけでなく次善、そのまた次善さらに次善と策を重ねて、それだけでなく、それぞれの策が失敗した時どう補うか。そこまで考えてこその作戦立案なのです」
陸軍も海軍も失敗があった場合のことを全く考えていないのだ。
だから予想外の負け方をした時に対応が取れないで、その影響が常に影響し続けてその間により多くの損害を被り、立て直しが聞かないまま、何も決められないまま最終的には負けてしまうのだ。
「仮に君が海上輸送航路を守るとして、どれぐらいの戦力が欲しい?」
「搭載機が20~30機程度の小型空母を六隻、指揮通信能力に秀でた軽巡六隻、対潜対空能力に秀でた駆逐艦とそれよりも小型の新しく設計した海防艦を少なくとも六〇隻づつぐらいは」
「随分と多いな」
「もし戦争が拡大し占領地が拡大した場合、我々が守らなければならない地域は本土近海、南洋諸島、南方、北方と大きく四つに分けられます。それを十分に守るには四隻の小型空母が必要ですが、それでは損失したり戦いで傷を負って修理や点検を行うとなった場合に穴が出来てしまいます。それを補い交代で任務に就くことが出来るように配慮した結果、申し上げた数を提示させて頂きました」
本当はハンターキラー部隊を編制して潜水艦を積極的に狩りに行くこともやりたいが、そこまでの戦力を整えられるのかがそもそも分からないのだ。
だから取り合えず護衛するのに必要なだけの戦力を挙げた。
「とするとかなり現実的ではあるな。むしろ少ない方か」
「小型空母を必要とする理由は?軽巡と駆逐艦、海防艦だけでは駄目なのか」
「純粋に航空機の脅威は日増しに大きくなっております。先程申し上げた通り主力艦には大した脅威ではない複葉機でも、一〇〇㎏程度の爆弾を抱えて輸送船やタンカーに爆弾を命中させれば効果は大きい。更には航空機には索敵範囲の広さと言う圧倒的な利点があります。船の上からでは大した距離は見渡せませんが、航空機であればより遠くをより早く見ることが出来ます。極論、輸送船団さえ守れれば別に敵の潜水艦や敵機、敵艦隊と戦わなくても避けて通れば良いだけの話です。それが出来なくても相手が潜水艦なら先んじて発見し、船団に接近される前に爆雷を落として撃沈するなり追い払うなり出来ますし、もし接近を許したならば駆逐艦や海防艦で追い払うなり沈めるなりすれば良いのです。数百機もの航空機相手だと、三〇機程度では何も出来ませんが、船団を攻撃する程度の規模の敵機群ならば、殆どを防空用の戦闘機にして八機程度を対潜哨戒と索敵用に艦攻や偵察機を載せれば、求められるだけの仕事は出来る筈です」
「その小型空母を主軸に、輸送船を守ろうと言う訳か」
「はい。とはいえ実際我が国の現状のままの建造能力やリソースを考えれば、今から建造に取り掛かっても1940年までに半分揃えられれば御の字、と言ったところでしょうか」
何度も言うが我が国の工業力や生産力は低い。
割り振ることが出来る能力にも限りがあるし、今の時期最重要機密ではあるが、後々大和型戦艦となる新型の超大型戦艦の建造も始まっている。
そんな中で護衛空母などに工員を割く余裕は理解を得られなければ少なくなるどころか、一隻も作られないままに終わってしまう。
いざ重要性に気が付いた時に建造を始めても後の祭りだ。
「建造期間を大幅に短縮できれば、全部揃えられるかもしれんな」
「あーしろこーしろと意見を一々取り入れながら内部の構造を変えたりと色々無駄にやっていますからね、その度に設計図を変えていては当然工期は長くなります。それを省いて量産性に重きを置いた設計にして、ブロック工法を用いれば護衛空母、駆逐艦や海防艦なら短期間で纏まった数を建造出来るかと思います」
「それよりもブロック工法と言うのはなんだ?」
まぁこの時代、ブロック工法と言うのは余り知られていないからな。
今のところブロック工法で船を大々的に作っているのは私は知る限り父の会社の造船部門だけだったはずだ。
父の会社はブロック工法を採用しているから建造費そのものが安い。
技術に関してはドイツを始めとした各国から技術者や設備を輸入したり呼んできたりして技術伝達を行って自社の工員でも問題無く出来るようにしてある。
だから外国製の機材が無くても自社のもので十分なものが作れる。
「ブロック工法と言うのは、簡単に言えば船体を幾つかのブロックに分けて同時に製造して最後に一か所に集めて繋ぎ合わせて完成させる方法です。例えば船体を五分割、艦橋、煙突と言うように分けてそれらを同時に作るのです。全部完成したら一気に溶接して完成です。艦政本部の遠山光一技術中佐と日本鋼管の石井利雄中尉、それと魚住順治少佐達が熱心に研究しているので詳しい話は彼らから聞いた方がよろしいかと」
あちこちにパイプを作っているから、彼らとも知り合えた。
私よりも専門知識が豊富だし、中核に据えるなら彼らが適任だろう。
「しかし、ブロック工法か。これは大型艦や中型艦の建造にも使えるのかね?」
「少なくとも空母ぐらいまでの建造には問題無く使えるかと。私の父は造船所などを経営しておりますが、そこで建造される船は全てこれで建造されています。建造費も安く、重量も軽く済みますし、強度不足も今のところ報告はされていません。問題と言えば他の造船所や工廠に技術が無いことぐらいで、そちらは技術を習得させればよいだけですから、最初は潰しが利く駆逐艦や海防艦で経験や技術習得の為にやって次に大型艦とすればよいのでは?」
「それもそうだ。しかし君は航空機にも船の設計にも精通しているのだな」
「いえ、ある程度齧った程度ですから本職には負けます。ただ、助言ぐらいは出来ると自負しております」
それから幾らか話し、次の議題に移る。
「開戦となった場合、間違いなく初動が肝心となります。敵に最初の一撃でどれだけの損害を与えられるかで後が決まります」
「となると、太平洋艦隊の司令部があるサンディエゴを叩くのか」
「遠過ぎるぞ、それは。下手をすれば到達する前に発見されて袋叩きだ」
現在太平洋艦隊の司令部があるのはサンディエゴだ。
東京からサンディエゴまで凡そ9000km、敵の目を考えればもっと遠くなる。
これでは流石に遠過ぎるし、言ったようにサンディエゴを叩けるだけの大艦隊で移動すればまず間違いなく見つかる。
「恐らく開戦前にアメリカは司令部をより日本に近い場所に移す可能性があります。具体的には、中間地点にあるハワイあたりに。フィリピンでは近過ぎますが、ハワイならば距離もあるし艦隊を停泊させるに足る泊地と港湾施設が整っておりますので」
「そこをどうやって叩く?」
「皆さんは私が航空主兵を唱えているのはご存知ですか」
「あぁ、それは山本達も同じだからな。それで、どうする」
「空母とその艦載機を以てハワイを叩きます。艦艇だけでなく、燃料タンク、飛行場、港湾施設のすべてを。可能なら戦艦で対地砲撃まで実施するべきです」
ハワイには軍が作戦を行う為に必要なものが揃っている。
仮にハワイに司令部を移さなくても叩いてしまえば敵は米本土まで戻って修理や補給を受ける必要が出てくるから叩く価値はある。
距離と言うのは防御を行うという点に置いて重要なのだ。
「……そんなことが出来るのか?無茶苦茶ではないか?」
「可能です。そもそも対米戦そのものが無茶苦茶なのですから、それに比べれば大したことではありません。作戦実行には幾つか達成しなければならない課題がありますが、困難と言うほどのものでは無いと考えております」
「ハワイが駄目だったらどうする?」
「フィリピンか台湾辺りに誘き寄せると言うのもあります。第一撃をフィリピンで、第二撃をハワイとするのも可能です。私としてはハワイに全力を注いで叩いた方が後が楽だと考えます。ハワイさえ叩けばフィリピンを孤立させるのも可能ですし、最初の一度切りならば奇襲と言う形で通用するかと」
「どれぐらいの兵力で叩くと言うのだ、あそこは本拠点では無いにしても既にかなりの防御で固めている。航空機の数だって千機に達するやもしれん。生半可な兵力では通用せんぞ」
「我が海軍が保有する空母は鳳翔、赤城、加賀、龍驤の四隻ですが、鳳翔は最前線で敵主力と戦える性能はありません。新兵訓練か船団護衛任務に就く事が精々でしょう。訓練中の蒼龍と、建造中の飛龍、それに建造が始まったばかりのと、まだ建造すら始まっていないのを入れても事実上七隻しかいない訳ですが、これでは奇襲を仕掛けても勝てません。そもそも二隻は間に合うかどうかすら不明なので戦力として数えて良いものかと思いますが」
この時期、日本海軍は実戦投入可能な空母を三隻しか保有していない。
新しく建造された蒼龍は習熟訓練中、飛龍はまだ建造中で、後の翔鶴、瑞鶴と命名されることになる二隻は一番艦の翔鶴が建造が始まったばかり、二番艦の瑞鶴は建造すら始まっていないのだ。
ありもしないものを戦力に勘定をするのは馬鹿のやることだ。
「どれぐらいの戦力が必要だ?」
「最低でも空母六隻、確実に行くならば空母八隻に、戦艦四隻は欲しいところです」
「空母だけでは駄目か」
「先程も言った通り、空母だけでも良いのですが空母の護衛も兼ねております。より確実にするために航空攻撃を行った後にダメ押しの艦砲射撃です。やるならば徹底的に行かねばなりませんから」
戦艦も時代遅れになりつつあると言うだけで、まだまだ運用次第では十分な戦力になる。
空母の護衛、対地支援など。
流石に扶桑型は速力が遅くて空母機動部隊には追従出来ないし、伊勢型と長門型の四隻は二十六ノットと若干遅い。
鈍足戦艦を使うのは難しいが、高速戦艦である金剛型四隻ならば十分に通用するはずだ。
しかし機動部隊に追従可能な戦艦は最も古い金剛型の四隻しか存在しないことになる。
幾らなんでも最も古い戦艦がというのは、これは流石に不味い。
つい最近起工したばかりの新型戦艦、俗に言う大和は速力が約二十七.五ノットと空母に比べればそこまで速い訳では無い。
私としては扶桑型と伊勢型を解体して得られた資材で空母の護衛を主眼に置いた巡洋戦艦を二隻ぐらい揃えるか、それが出来ないなら四隻とも空母に改装してしまいたい。
現実的なところを行くなら空母へ改装することだろう。
解体するにも時間が掛かるし、そこから建造となったら今のままだと実戦投入までに五年は掛かる。
しかし空母へ改装するならば工期も短くて済むし、なにより纏まった数の艦載機を載せられる中型空母として足りない空母戦力を補うことが出来る。
四隻とも蒼龍より全長が短いが、改装で全長を伸ばすなりしてしまえばいい。
問題は軍令部や大艦巨砲主義の連中をどうやって黙らせるか、だ。
世の中はまだまだ大艦巨砲主義全盛期と言える。
航空機の威力を正確に認識している人間など殆どいないと言うのが実情だ。
旧式と言えども貴重な戦艦を四隻も空母に改装することをどうやって納得させるかが鬼門だ。
「それで、仮に攻撃が成功した場合どれぐらいの期間優位を確保出来る?」
「現実的なところを申し上げれば半年程度は確実に優位を維持出来るでしょう。上手く行って尚且つ戦力を必要以上に失わなければ一年は何とかなるはずです。二年目は我が軍の優位から拮抗程度となり、三年目では逆転されつつも何とか戦えるぐらい、四年目からは太刀打ちできないぐらいに戦力差が広がるかと」
「その優位を保っている期間に米国と交渉しつつ駄目なら二の矢、三の矢をつがえると言う事か」
「はい」
「一年以上優位を保つのは無理か?もしやるならせめて一年半、欲を言うなら二年は優位を保てないものか」
山本さんを筆頭に米内さんや山口さんが聞いてくるが、少し考えるふりをして難しいと答える。
実際問題、太平洋に面している西海岸には要港としてサンディエゴの他にサンフランシスコ、ロサンゼルス、シアトル、アンカレッジと場所が多くある。
それを全て潰して回るのは戦力も時間も足りない。
やれるかどうかは別としても、仮にやるとなったらば東海岸からの戦力流入を防ぐ為にパナマを叩くぐらいだ。
パナマを叩けば南米を大きく回って太平洋に戦力を回さねばならなくなるから戦力補充は困難になる。
「太平洋に面する敵の重要拠点を全て叩けば可能でしょうが、北はアラスカ、南はパナマと余りにも広大過ぎます。やれなくはないですがやれば再建不能になるぐらいの多大な被害を被るのは間違いありません。そこまでやっても得るものは少ないかと。ましてや米本土を直接叩いて厭戦気分を煽れればいいですが、逆にやる気にさせてしまったら本末転倒です」
まぁ真珠湾攻撃自体も結果としては米国世論の対日感情を大きく悪化させることになるのだが、漸減邀撃作戦よりはまだ未来がある。
米本土攻撃も実のところやった方がいいが、やれるかは別だ。
「ならばハワイに全てを賭ける必要があるか」
「ハワイが駄目なら海上輸送航路を確保するのと、敵艦隊誘因を目的にフィリピン攻略に着手し、その最中に迎撃に来た敵を叩くのが次善案として現実的なものでしょう。提案した私が言うのもおかしな話ですが、ハワイですら博打なのに米本土まで打って出て行くのは流石に博打が過ぎるかと。現実的な作戦を行うならフィリピン沖で敵艦隊撃滅後にハワイ攻撃、あるいは占領となるでしょうか」
史実では山本さんは一年半は暴れてやると言っていたらしいが、実際はそんなに甘くはない。
ミッドウェーで大敗して暴れ回る為の戦力の半分以上を失い、結局それ以降海軍も陸軍も局所的には幾つか戦術的な勝利を得てはいたが戦略的には負け続きだった。
上手いことやれば出来るかもしれないが一年と見ておいた方が良い。
「しかし空母八隻か。新しく建造するしかないか?」
「いえ、旧式化して久しい扶桑型と伊勢型の四隻を空母へ改装してしまえば工期は一から建造するよりも短く済む筈です。大型空母と同様とは行かずとも六十機程度の搭載機を得られますから、中型空母と同じ働きは期待できます。資材は一から建造するより少なくて済みますし、浮いた分の資材は護衛空母や駆逐艦などに流用すればいいわけですし、機関部もその際に変えてしまえば速力問題も解決します」
「金剛型を空母に改装するのでは駄目なのかね?」
「金剛型は空母に随伴可能な高速戦艦です。空母の護衛として運用したほうがいいかと。その点、扶桑型と伊勢型は速力が遅く、空母の護衛には向きません」
「なるほどな。だがそうなれば軍令部は貴重な戦艦を空母にするなどと黙っていないぞ?どうするのだ?」
「一応の代替案はあります」
「どんな案だ?」
「二隻を解体しそれで得た資材を新型の、空母を護衛することを念頭に置いて設計した高速巡洋戦艦として建造するのです。護衛目的とは言え戦艦は戦艦です。そうすればもう二隻を空母に改装することぐらいは飲ませられるのではないかと」
これは苦肉の策だ。
戦艦を新しく作る資材があるならその分全力で空母増産に乗り出すべきだ。
しかし如何せん大艦巨砲主義の声が大き過ぎる。
陸海軍ですら方針を巡って争っているというのに、更に海軍内でも争っていては本当にどうしようもなくなる。
だから妥協する必要もある。
武装は空母の護衛が目的だから主砲は35.6cm砲ぐらいでいい。
金剛型戦艦用の主砲身が倉庫に余っているからそれを流用すれば一から砲身を作るより金も掛からない。
あとは対空兵装と電探、通信設備などを山ほど載せてやればいい。
これで艦隊護衛型戦艦の出来上がりと言うわけである。
「なるほど、確かにそれなら軍令部の連中を納得させられそうだ。しかし、空母の護衛の為の新型巡洋戦艦か。考えたな」
「金剛型の四隻は艦齢が金剛24歳。私が想定する開戦時期には30歳手前です。戦中に三〇歳を迎えてしまう老齢艦です。その四隻に空母の護衛と言う大事な役割を全て任せるのは些か荷が重いでしょう。新型を合わせて高速戦艦六隻、空母八隻。これだけの戦力が開戦時にあれば、取り合えずはなんとかなる筈です」
「確かに海軍の艦艇、主力艦は軒並みかなりの年齢になるからなぁ……」
米内さんがぽつりと言った言葉には重みがあった。
巡洋艦などはまだしも、戦艦は金剛型や扶桑型、伊勢型に至っては一次大戦中に建造、就役されている。
長門も1940年には艦齢二〇歳になる。
1940年になれば重巡もマシとは言え古鷹型で十四歳。
最上型、利根型は五歳未満で済むが高雄型はネームシップの高雄で八歳になる。
軽巡なんかは阿賀野型以外は軒並み言うまでもないだろう。
正規空母だって今ある中で新しいと言えるのは飛龍、蒼龍ぐらい。
米軍が戦時中にあらゆる艦種をじゃんじゃか建造していたのに比べればなんとも言い難い。
「戦艦改造の空母の件は分かった。こっちでどうにかしよう。新型巡洋戦艦に関してもどうにかしよう」
「有難うございます」
結局空母は新規に建造することが間に合わなさそうだから改装で用意するという、我が国の国力の限界を表しているかのようなプランだ。
本当なら翔鶴型航空母艦か飛龍を簡略化したものを数隻用意出来れば良いのだが、時間が無い以上そうも言っていられない。
無い物強請りをしても欲しい物がどこからともなく現れるとか、神様がぽん、と出してくれるだとか言うわけではないのだから、どうにか揃えて無いなら無いであるもので戦うしかない。
暫くして交渉が纏まり、建造計画が定められた。
まずこの段階で決定されたのは、扶桑、山城、伊勢、日向の四隻を空母へ改装することが正式に決定された。
設計図を引くのに幾らか時間が掛かったが、二ヶ月で完成させるとすぐに四隻はドックに入れられて改装が開始された。
速力向上の為に機関部も入れ替えたりするので工期はそれぞれ二年を予定している。
主な改装項目は機関部の改装による速力向上、艦載機数を確保する為の船体延長などだ。
格納庫は艦首ギリギリまでに延ばしている。
速力三〇ノット、艦載機は七〇機程度を見越しており十分に一線級の性能を誇ると言える。
四隻纏めて二八〇機もの艦載機を擁するので一個艦隊分の航空打撃力としては十分なものだろう。
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私の意見を元に、色々と計画書や草案を作り、翌年1938年八月二十七日、皇族の方々のご助力を得て諸々の事を取り決めることが出来た。
かなり時間が掛かったが根回しや説得など米内さんや山本さんには奔走してもらった。
しかし予想外だったのは私が諸々の計画の責任者になったことだろう。
計画書を出して色々とやらせたのだから、実際にやるとなったら発案者で一番理解があるお前が責任を持って指揮を執れ、と言われては頷く以外に他はない。
それを理由に階級を少将に上げられ、円滑に進めるべく38年中までに中将に押し上げると言っていた。
山本さん達もそれぞれ役職に就くことが色々と決まったらしく、来年辺りに山本さんは海軍大臣に、米内さんが連合艦隊司令長官に就任することが内々に決定され、陛下は対米戦回避に全力を尽くすと同時に万が一対米戦となったら山本さんと米内さんをトップに据えてやる御意向だそうだ。
そして私だが、諸々の責任者になったと言う事で今までが嘘のように激務の日々を送っている。
航空本部や艦政本部、商工省などにも規格、品質統一の件で連日行ったり来たりで休む暇などトイレと風呂、睡眠時間ぐらいだ。
少なくとも海軍においては規格統一と品質統一はされなければならない。
陸軍の方にもこれらを導入させたいが既に日中戦争に突入している現状で、ただでさえ増産をしなければならないのにそこに生産ラインの効率化やらをやれるほどの国力は日本にはない。
海軍の方は戦争とは言うものの出番らしい出番は全く無く、精々が河川での砲艦運用、それと駆逐艦や精々軽巡までによる大陸へ兵員や物資を送る輸送船の護衛と海域における制海権維持ぐらいなもの。
しかもこれらは貧弱、というかそもそも海軍戦力らしい戦力を持たない中国軍相手なら駆逐艦が居れば問題無い。
なので海軍の近代化計画はまぁまぁ順調に進んでいると言えよう。
そんな中で先ず最初に取り掛かったのは組織や体制を大きく変えることだった。
商工省に出向いてまず工業規格を取り決め、製造される物の品質や大きさなどを一定以上の物にすることを方々の協力を得てどうにかこうにか実現させた。
今まではそれぞれの会社がそれぞれの規格で物を作っていたから、例えば同じ飛行機でもその会社の部品しか使えませんでしたなんてこともあるわけだ。
それでは同じ飛行機である意味も理由も無くなってしまう。
品質を一定以上のもの以外は納入してはならない、軍や政府は規定の規格を満たしていない場合それらを買い取ることはしないとした。
戦時になれば諸々の需要の増大で粗製乱造が繰り返されるのは私の知る歴史の日本で起きていた事だった。
そうなれば性能を発揮することも出来ないし、そもそも動かすことすら出来ないなんて事に成り兼ねない。
それを防ぐ為に規格を統一したのである。
建造や武器弾薬の製造に関しても、三交代制で二十四時間フル稼働ということで要求を満たし、そのために全国各地で工員の募集を行うことになった。
どうにか搔き集めた工員でドックの建設、艦艇建造に着手することが出来、開戦となればその時までにどうにか戦力を揃えられるという段階に漕ぎ付けた。
最初は体制改革や組織全体の改革と並行し、軍令部から恨みを買われながら捥ぎ取った人事権や艦隊編成自由裁量権をフル活用し、まず最初に艦隊編成の見直しを図った。
既存の艦隊は一度全て解体し再編成となる。
空母三隻、戦艦二隻、重巡洋艦一隻、防空巡洋艦二隻を主力とした艦隊となり、それに軽巡洋艦と駆逐艦が加わった編制となる。
取り合えずのところ主力として編成されるのは三個艦隊だ。
まだ決定されただけなので実際に編成される訳では無い。
第一艦隊
空母 赤城 加賀 飛龍
戦艦 金剛 霧島
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第二艦隊
空母 翔鶴 瑞鶴 蒼龍
戦艦 榛名 比叡
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第三艦隊
空母 伊勢 日向 扶桑 山城
戦艦 長門 陸奥
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第三艦隊だけは空母四隻を編成している。
艦載機数が他に比べて少ないのが理由だ。
速力は改装により30ノット発揮可能。
改装予定の長門、陸奥も機関改装によって29ノット発揮を予定していから十分に随伴出来る。
純粋な戦闘艦艇以外でも各艦隊にはそれぞれ給油艦と補給艦が数隻ずつが組み込まれることになる。
龍驤や改装型航空母艦として就役予定の飛鷹、隼鷹は建造中の新型空母と共に艦隊を編成するか、或いは遊撃戦力と言ったところで未決定だ。
この三隻は単純に戦力としてみた場合、遊撃戦力として各地を駆け回って貰った方が良いような気がする。
毎度毎度主力艦隊を動かすわけにも行かないので、そういう時に活躍してもらう為だ。
このほかに新規に建造した艦でもう一個艦隊の編制が予定されている。
正規空母三隻と巡洋戦艦二隻、護衛空母を三隻建造することが新たに決定され、計画中の第一三〇号艦、後の大鳳と合わせれば四隻になるが大鳳は1942年にならなければ完成しない。
他の三隻の空母は四二年中には完成して艦隊に組み込むことが出来る予定だ。
阿賀野型軽巡を手直しした5500t級の防空軽巡洋艦、多数の駆逐艦、海防艦の建造が計画され、駆逐艦と海防艦については既に設計を終わらせ各地の工廠や造船所で建造が進められている。
これに際し私の父の造船会社から各工廠や造船所にブロック工法による建造技術が伝授されている。
三隻の空母は翔鶴型航空母艦の設計を踏襲しつつ量産性や運用性などを考慮して手直しをしたものだ。
溶接を多用し軽量化と強度を上げている。
煙突の位置を艦橋と一体化させ、史実の大鳳や信濃と同じような艦橋となっている。
本来煙突が置かれていた場所には対空砲と対空機銃を装備している。
機銃座や対空砲座も加工の手間が掛かる曲線から、直線的なものに置き換えられた。
これで鋼板を簡単に曲げるなり溶接するなりするだけでいいから時間も手間も掛からない。
この空母は改翔鶴型と呼ばれ、大きく変更されたのは主に四か所。
1:艦橋と煙突の一体化。
2:搭載する対空火器の数を大幅に増加。
3:艦載機格納庫を前後に延長し搭載機数を一〇機ほど増加させたこと。
4:飛行甲板を前後左右に延長。
5:エレベーターを三基から二基へ減らしエレベーターの大きさを大きくしたこと。
6:居住性の改善。
以上である。
第一は単純に運用能力の向上を図る為である。
今までの翔鶴型までは排煙が邪魔をして風向きなどによっては着艦の障害になることがあった。
それを解決する為に海側に煙突を斜めに迫り出した形で解決したのである。
第二は空母単体の防空能力を向上させるためである。
元々翔鶴型などの煙突配置ではそのスペースに対空火器を搭載することが難しかったが、それを解決し元々煙突があった場所には対空砲や対空機銃を搭載することが可能となった。
第三にギリギリまで格納庫の長さを前後に延長することで艦載機数の増加を図った。
これにより一〇機づつほどの搭載機数増加を図ることが可能となった。
第四に飛行甲板の延長。
これには単純に一度の艦載機運用能力の向上の為である。
数mでも伸ばすことが出来れば、それだけ一度に発艦することが出来る艦載機が増えるし、増やさなくてもその分余力をもって発艦出来る。
或いは単純に艦載機を並べたりすることがやり易くなる。
第五にエレベーターの数を2基に減らしたこと。
これは単純に建造に掛かる手間を減らすことと弱点を減らすことが主目的だ。
今のところ舷側エレベーターは開発中であるから中央エレベーターに頼らざるを得ないのは痛手だが、待つしかない。
大きさを大きくしたのは単純に今後開発される新鋭機は重武装高速化、そして何よりも大型化することが予想されるのでそれに備えてエレベーターの大きさと耐荷重能力を大きめにとってある。
第六に居住性の改善である。
これは純粋に今までの日本海軍艦艇の居住性がかなり悪いことが原因だからだ。
誰だって住みやすい方が良いのは間違いない。
これを解消しつつ、乗組員の数を増やすことでダメージコントロール専門班を設立しダメコン能力の向上を図っている。
細かな場所の変更は、対水雷防御力向上の為に重層装甲の採用と、特にあげられるのはダメージコントロール能力を大きく向上させたことだろう。
従来の海軍艦艇はダメコンを軽視しがちであった。
米軍艦艇は頑丈であった、とよく史実では言われることがあるが、あれは艦の単純な防御力以上にダメージコントロール能力が卓越していたからに他ならない。
日本海軍でもダメコン能力があったならば救えた艦艇も少なくなく、かのミッドウェー海戦においても少なくとも空母赤城はちゃんとしたダメコン能力があれば沈没は免れて、曳航して本土で修理を受けていれば戦線復帰は可能であったと思う。
それを知っているのならばそこを徹底的に上げる必要がある。
消火装置の複数設置、電源の複数設置など、チャンネル数を増やして一系統が駄目になったとしても別系統でどうにかすることが可能としている。
新型正規空母は勿論のことだが既存空母にも改装によってそれを適用している。
ハンモックでは無く三段ベッドの採用によって乗組員の数を増やしている。
人員が増えればその分ダメコン班に回せる人数が増えて専門班を設立することも出来る。
各艦には新たにダメコン司令部が設置され、ダメージコントロールに際しては艦内全てを指揮下に置くことが可能としている。
ダメコン司令部には直属として専門のダメコン班が置かれる。
内訳は消火班、応急修理班となる。
それぞれが専門知識と専門技能を習得させる。
それとは別に艦内のあらゆる人員がダメコン教育が必修となり、兵学校などでは初等教育において徹底的に学ぶことが規定された。
消火用ポンプや電源などは基本的に1チャンネルしか存在せず、それが駄目になったらダメコンが出来ないという状態だったのを、複数のチャンネルにすることで被弾時のダメコンをより効率的に実施できるようにした。
他にも火災発生時に危ないとなったら航空燃料を捨てられるよう緊急投棄装置を設けたり、魚雷格納庫や爆弾格納庫、機銃や対空砲の弾火薬庫の防御力を装甲と装甲の間に水、スライム状の衝撃吸収材を挟んで被弾時の危険性を大きく減らしている。
艦の水雷防御は翔鶴型も優秀であったが、より本格的な重層防御装甲を採用する事になった。
衝撃吸収材としてスライム、浮力確保の為のコルク、不燃性ガス、重油と、装甲含めて5層の重層装甲にすることでより防御力を高めている。
建造には溶接が主に使用され、リベットは可能な限り使わない。
こちらの方が艦を軽量にすることが出来るのと船体表面を滑らかにして抵抗を減らしつつ強度を確保出来るからだ。
工期は一、二番艦が技術習得と慣れることを目的として一年半を予定しており、それ以降は一年ほどを予定している。
ブロック工法を大々的に使い、設計にも色々と工夫を凝らすことでどうにかこうにか一年程度に短縮出来た。
一番艦と二番艦の建造期間が一年半と長いのは技術習得やこの空母の建造におけるノウハウを得てもらうことが目的だからだ。
図面は全て同じであるから、一度建造すればあとは同じようにすればいい。
手順も全て同じだし、各地で分割された状態で運ばれてくるパーツ毎に分けられた船体などを組み立てて溶接していけばいいだけの話だ。
輸送船建造によるノウハウもあるので習得にはさほど時間は掛からないだろう。
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巡洋戦艦は主砲を35.6cm三連装砲三基としながら金剛型戦艦よりも砲火力で勝っている。
とは言えその主眼は空母護衛の為の対空能力に重点の殆どを置かれており、副砲は搭載せず、代わりに対空能力と通信能力、そして索敵能力を大幅に向上させている。
対空火器は10cm連装高角砲を両用砲として一〇基搭載する。
アイオワ級戦艦のようなものだ。
機銃の数も超大型戦艦よりも圧倒的に多い。
最初から電探を搭載することを念頭に置いて設計されてある。
対空電探、対水上電探が搭載されているので艦隊防空の要となる。
バルバスバウも採用されており、バウの中にソナーを搭載している。
シルエットとしては金剛型戦艦を縦横に幾らか大きくした船体と大和型戦艦に似た艦橋と主砲配置を持っている。
搭載機は水上観測機を2機持つだけで、それ以外のスペースは機銃と高角砲、射撃指揮装置などの対空兵装、そして電探を載せている。
水中探信儀なども最適な位置に搭載しているので索敵だけではあるが対潜能力も向上している。
防御力は水雷防御を主眼に置き、改翔鶴型と同じように5層の積層装甲を施しているが、砲撃戦における防御力は対35.6cm砲防御に留まる。
簡単に言えばアメリカが建造している新型戦艦には完全劣ると言うわけで、万が一砲戦になれば撃ち負けてしまうだろう。
それでも空母を護衛する分には十分な性能だ。
対空兵装も測距儀から始まって細々としたものなど全てが最新式のものを装備している。
工期は一年半を予定している。
二隻同時に建造が開始され、同時就役となる予定だ。
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護衛空母は百六十m程の全長に抑え、搭載機数を稼ぐために全幅を三十五mに取った。
艦載機は折り畳み翼を採用することを予定しているのでこれぐらいの大きさでも、防空用の戦闘機と対潜哨戒用の艦攻や艦爆だけに絞るとなれば四〇機ぐらいの搭載機数は見込める。
問題は現在搭載予定の零戦に本格的な折り畳み翼を搭載するのが難しいことであるが、その辺は次期主力戦闘機の開発が既に進んでいるので艦載機の方に問題さえ起きなければ問題無い。
速力二十四ノット、積層装甲こそ採用しているものの防御力は紙同然だ。
爆弾一発で大破確定だし、魚雷を一発食らっただけで戦闘能力は喪失するだろうし2本も食らえば簡単に沈むだろう。
最前線に出ることを想定しているわけでは無く後方兵站線の維持が目的だから当然と言えば当然で、無理に能力を盛っても意味がない。
最前線で戦うことを捨てると割り切っただけの話である。
武装は対空機銃のみを装備しており、対空砲は無くそちらは駆逐艦などに任せている。
対空電探と対水上電探を一基づつ、水中探信儀や水中聴音機も搭載している。
艦載機数は今のところ三〇機に抑えられ、哨戒と偵察、対潜目的に九七艦攻と九九艦爆どちらか或いはどちらもを4機、戦闘機26機となる。
爆弾も魚雷も搭載しておらず載せているのは機銃弾と対潜爆弾のみ。
主力艦同士の戦闘に参加させるのが目的ではなく、あくまでも船団護衛が主任務であるからこれ以上の艦載機も防御力も攻撃力も必要無しと割り切ったわけだ。
工期は七ヶ月を予定している。
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これらの戦力以外で特筆すべきものは潜水艦であろう。
潜水艦は中型のものだ。
海中型潜水艦と命名されたものが建造されることになる。
それに伴い新型潜水母艦二隻の建造も決定されている。
これに至った経緯は、そもそもの海軍の戦略の変化に伴い潜水艦戦力の見直しが図られたわけである。
漸減邀撃作戦だけでなく、潜水艦で主力艦を狙うと言うのは中々に無駄遣いと言うか、効率が悪い訳である。
とくに酸素魚雷などを一々輸送船相手に使うのも費用対効果などを考えれば馬鹿らしい。
となれば長大な航続距離を持つ潜水艦は必要とされず、どちらかと言うと敵の大部隊を載せた輸送船団を叩くことに重点を置く必要がある。
敵が反撃の手を強めたり、防衛強化を行う為には必ず輸送船を送り込まねばならず、それを撃沈してしまえば労せずして勝つことが可能となるわけである。
そのためには建造に時間が掛かる潜水艦よりも、短期間で大量建造が可能な潜水艦と安価な魚雷が大量に必要とされる訳である。
結果として潜水艦戦略がつい先日の会議で大きく転換し、新型の中型潜水艦が設計建造されるに至るわけだ。
この会議で潜水艦は哨戒、偵察、通商破壊を主任務とすることが正式に決定されてもいる。
哨戒偵察は当然であるとして、それに敵輸送船を最優先目標としたのだ。
当然潜水艦乗りからは反発があったが、戦略上重要なことであると説き、どうせそれでは納得しないであろうから戦時における潜水艦が挙げた戦果のスコア表を作った。
敵輸送船を最も高いスコアである四十点として、空母三十点、駆逐艦二十点、戦艦十五点、巡洋艦十点としたのである。
輸送船は沈めれば沈めるほどこちらに有利に働くし、何より空母などよりも輸送船の方が数も多く、速度も遅いから稼ぎやすい。
スコアによっては艦長以下乗組員全員に昇進、特別報酬や特別配給、特別休暇が与えられる。
こうすることで輸送船を積極的に狙わせつつ、やる気も出させるのだ。
人間は目に見えたスコアやそれに応じたご褒美があると、俄然やる気が出るもなのだから、それを利用しただけの話で難しい事では無い。
それに伴い潜水艦用酸素魚雷の生産数が縮小され、代わりに電池魚雷の増産が命じられることになる。
輸送船相手に酸素魚雷は流石にコストパフォーマンスが悪く、ましてや酸素魚雷は維持整備にとんでもない労力を必要とする。
洋上を進む艦ならばまだしも、水中に逃げ隠れすることが必然となる潜水艦と言う狭い空間で酸素魚雷を搭載すると言うのはそれだけ魚雷の為のスペースを取り居住性などを余計に悪化させるだけのものなのである。
そこで今までに建造された潜水艦には8:2の割合で酸素魚雷を搭載し、新型の中型潜水艦には酸素魚雷は搭載しないことが決定されたのである。
これならば同じ数の魚雷を載せてもスペースは小さくて済むし、何より居住性の大幅な改善となる。
航続距離も要求される任務を考えても十分な性能を備えている。
吸排気管などの装備も開発中だから、1942年以降に建造される潜水艦には標準装備とし、それ以前の潜水艦にも改装で装備させる。
特に日本海軍の潜水艦の問題点の一つであった騒音問題は従来型に比べても凄いの一言に尽きるぐらいに向上している。
この静穏性が最大の変化だろう。
艦型も従来のものよりも随分違ったものになり、水中での抵抗などを極力少なくする為にあちらこちらに工夫を凝らしている。
艦橋の形を流線型に寄せたり、甲板上にあった機銃や高角砲を搭載しないなど、かなりの変化がある。
抵抗が減った分、水中速力も向上しているし潜水艦の性能としては破格と言っていい。
最初の建造では二十隻を纏めて建造する事になっている。
輸送船や補給艦、工作艦などの補助艦艇の建造も進められる。
輸送船は敵制空権下の突破や高速空母機動部隊に随伴可能である事が目指され、建造される内の幾らかが高速輸送船、高速油槽船、高速補給艦として建造される。
工作艦なども戦時に不足することが想定されるので、建造予定に入っている。
最前線では常に損傷艦が発生し、それは小規模なものから大破に分類されるようなものまで様々だ。
そんな中、小さな損傷や摩耗した砲身の交換のために一々本土まで回航して修理など時間は掛かるし兵力の無駄だ。
その為に小規模な修理や砲身交換、幾らかの改装に対応する為には工作艦が必要になるのだ。
中破や大破したら本土まで回航して修理すればいい。
これにより海軍は空母と潜水艦、駆逐艦を海軍の主戦力とする方針を固めたのである。
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これら主力戦闘艦艇とは別に輸送船や油槽船*2の建造をも進めている。
万が一開戦となった場合、必要な船舶は軍需用だけで陸軍110万トン以上、海軍で180万トン以上の合計300万トン程度と見積もられている。
そこに民需用の300万トンが加わり600万トン以上の船舶量が必要になると見積もられている。
日本の保有船舶はだいたい630万トンと言われるのでギリギリ足りる、と言ったところだ。
余裕は殆ど無いに等しい。
しかもこれを維持しなければならないと言うのだから、最低でももう100万トンぐらいは無いとならない計算になる。
ましてや戦時ともなれば民間商船は徴用されて民需用に必要なトン数は到底満たすことが出来ない。
日本の船舶保有量は多いほうなのだが、実情は明治大正に建造された古い船が保有トン数の殆どを占めている。
直近で建造された新しい商船などは100万トンが精々でこれでは不味い。
ましてや戦時となれば軍にそう言った商船などは徴用されてしまうし、ある程度速力が出せる船は艦隊随伴油槽船などとして持って行かれてしまう。
可能な限り徴用しなくても海軍が保有する輸送船分で可能な限り賄えるようにする必要がある。
いまのところ日本が戦時に必要な石油量は年間556万キロリットルと見積もられている。
これらを輸送するには最低でも50万トン分の油槽船が必要と計算されるが、日本が持つ油槽船は47万トン。そもそも足りない。
しかも軍に徴用されたり小型過ぎて輸送に使えない船舶があることも考えると、資源地帯と本土を往復して石油を運ぶことが出来るのはどれだけ多く甘く見積もっても20万トン。
必要とされている数値の半分以下しかない。
となると需要を全く満たすことが出来ないのである。
そうなると艦隊の作戦行動や航空隊の作戦行動にも大幅な制約が付けられることになり、国内の燃料事情も逼迫し工場などを稼働させることが出来なくなってしまう。
そうなれば到底戦うどころの話では無くなってくる。
これらの問題を山本さん、米内さんに書面と一緒に説明すると顔を蒼褪めていた。
なんせそもそも必要な石油量を本土に運ぶことが出来ないのだから当然だろう。
マトモな脳みそを持っていたらどう考えても不味い事態であることは分かる。
そこで主力艦建造を幾らか、それこそ戦艦建造を後回しにしてでも良いから油槽船、輸送船の建造を早急に進めるようにと言質と書類を受け取って来たのである。
これがあれば反発はされるが正式な命令文だから新型戦艦の建造を後回しにしようが反対は出来ない。
今の日本にとっては一隻の新型戦艦よりも二〇隻の油槽船、二〇隻の輸送船の方が重要なのである。
これらの輸送船舶量問題を解決する為に、新しく油槽船と輸送船を建造することが決定された。
現在第一次戦時標準船と呼ばれる船舶が建造されているがこれらははっきり言って量産性などは無い。
これを改める為に新しく戦時標準船を設計し建造することが決定された。
建造を進める輸送船は五種類。
輸送船、油槽船、兵員輸送船、戦車揚陸艦、揚陸艦となる。
輸送船と油槽船は積載量1万トン級のものであり、十分な大きさを誇る。
兵員輸送船は一個連隊を武装と共に輸送が可能なもので、スペースもちゃんと取ってある。
無理矢理ぎゅうぎゅう詰めにして載せるようなものでは無い。
ぎゅうぎゅう詰めに載せたら被弾などで避難するとなった場合、避難出来なくてそのまま海没死、なんてことになる。
船の数が少ないからそうなってしまうのであって、数が多ければそうする必要も理由も無い。
戦車揚陸艦と揚陸艦は陸軍にも協力してもらって上陸戦研究を共同で行うことで合意し、必要ならばこれら艦艇を互いに供与することが出来るように合意書を交わした。
これにより将来的に必要とされる揚陸艦や戦車揚陸艦の暫定的な能力を鑑みての設計と建造も出来るようになる。
陸軍はこういった補助艦艇の建造に全く乗り気でなかった今までの海軍と違って、上陸戦や兵員輸送の為の船舶建造を本気でやると言ったら喜んで協力してくれたのである。
なんなら今までは陸軍は海軍が協力してくれないから自前で船舶を用意して保有していたぐらいだからな。
船体の基本的な設計は同じであるが、これが輸送船仕様か油槽船仕様なのかを選べることが出来る。
必要な専用設備が幾らか違うだけで殆どの設計は同じだから幾らでも流用出来る。
ちょっとの改造期間でどちらにでも出来る優れモノだ。
兵員輸送船は特性上、どうにもならないが船体の設計は同じで内部の構造が人間を載せて運ぶことが出来るようにしてあるだけで、しかもそれらはパッケージ化されているので損傷などの修理や部品交換も容易に行える。
戦車揚陸艦と揚陸艦は輸送船とは全く違う特殊な設計になっているが、それでも生産性は今までの船舶に比べればずば抜けて高い。
戦車揚陸艦に至っては大きさがそこまででもないと言うのもあって一か月あれば建造出来るようにしてある。
これらの船舶はカタログ化されている。
トン数は一万トンと五〇〇〇トン、そして三〇〇〇トン、一〇〇〇トンの四種から選ぶことが出来る。
基本的には一万トン級と五〇〇〇トン級、三〇〇〇トン級は外洋航行用として、一〇〇〇トン級は内海などでの短距離輸送用として用いられる。
トン数を選んだらそこから油槽船、輸送船、兵員輸送船の3種から選べるようになっており、それらの船舶に速力、荷下ろし能力と言った能力をどれだけ付与するかを決められる。
これらは民間にも適用され、これから建造される船舶をこの3種から選んでくれれば海軍が建造費を幾らか負担するとし、幾つかの造船所ではこの船舶の建造のみを行うように命令が下った。
この命令が下った理由はブロック工法の早期会得を目的とした理由もある。
輸送船ぐらいのブロック工法ならば、装甲なんて無いので溶接も問題無く行えるし失敗しても最悪解体して鋳潰してまた新しく作ってしまえばいい。
海軍が配備予定の油槽船、輸送船は大まかに二つのグループに分けられている。
二〇ノット以上の高速力を発揮出来る艦隊随伴型などを筆頭とした船舶は第一グループ輸送船と呼ばれ、巡航速力16ノット、最高速力25ノットを発揮可能なように設計してある。
機関部は陽炎型駆逐艦のものを流用することで高速力の実現を図っている。
資源地帯や前線基地への輸送を目的とした輸送船は第二グループ輸送船と呼ばれる。
こちらは巡航速力10ノット、最高速力15ノットとなるものだ。
この速度ならば南方の資源地帯と日本本土を結ぶ航路だけで28~35日、積載物の積み下ろしを考慮したとしても全船が完了するのに4~6日と見積もっても往復35日程度で済む。
ニューギニアなどにしても往復40日程度。
平均的な速度ではあるだろう。
こちらは護送船団方式を採って、護衛艦隊に十分に守られながらの運用が前提とされているものなので低速力だが、兎に角量産性を高いものとしている。
生産性を高める為に簡略化されているとは言えちゃんと二重底を採用しているので安全性などを度外視しているわけでは無い。
建造には最短一か月、最長2ヶ月となった。
最初に建造が進められるのは艦隊に随伴可能であり、敵潜や敵機の攻撃に晒されても逃げられるように一万トン級の第一グループだ。
油槽船と輸送船が主となる。
これに続いて資源地帯と日本本土を結ぶ航路で就航する第二グループ輸送船が大量建造される。
こちらには兵員輸送船や揚陸艦、戦車揚陸艦の建造も含まれる。
艦隊用の第一グループが取り合えず用意出来れば後は細々と艦隊分と建造しつつ、大々的に第二グループを建造し護衛艦隊と共に輸送船団として運用すればいい。
船足は同じだから運用が楽だ。
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輸送船騒動から時は少し戻り、建造計画を進めている最中、山本さん達に再び呼び出された。
何の用件だろうか、と首を傾げていると部屋に入って来る。
「忙しい中で呼び出してすまんな」
「いえ。どのような用件でしょうか?」
「いやな、つい先日の演習、覚えているか」
「はい」
「そこで露見したのが空母の脆弱性だ。確かに空母は戦艦を凌ぐ強さがあるが、なんせ飛行甲板に爆弾を一発でも喰らえば戦闘力喪失は避けられない」
「まぁ、空母とはそういう艦種ですから」
「そこでだ。どうにかして空母の防御力を、特に飛行甲板のを向上させる手立てを考えていたわけだが、英国が装甲空母を建造しているのは知っているな?」
「勿論ですが、まさか」
「そうだ。我々も装甲空母を建造出来ないか、と考えてな」
なるほど、山本さん達は先日の演習で空母の飛行甲板が脆弱過ぎることを懸念してどうにかして解決しようとしているのだな。
そこで目を付けたのが装甲空母、と言う事か。
「出来なくはないですが、予算の事を考えれば厳しいかと。大型艦の改装も幾つかキャンセルする必要もあるでしょうし」
「……どれぐらいの予算が要るかな?」
「うぅん……、その建造する装甲空母の装甲をどれだけのものにするかによるとしか言えません。ましてや装甲空母ともなるとトップヘビーになるのは避けられませんので、安定性のことも考慮するとバルジもかなり大きなものに」
「どうにか出来なさそうか」
「建造予定の艦艇を減らすか、いっそのこと超大型戦艦の2番艦をキャンセルすればどうにか1隻か2隻は建造出来るかと思います。ですが新型戦艦の建造を了承してこちらの空母建造を頷かせた手前、戦艦は難しいですね」
駆逐艦や潜水艦の建造数を減らすと言うのは、将来的な戦略構想を考えると出来ればやりたくないのが本音だ。
翔鶴型空母が建造費約八千万円なので、そこに重装甲の飛行甲板と安定性を考慮して大型バルジを装備する装甲空母ともなれば一億円ぐらいにはなるだろう。
戦艦に一億円も使うよりは遥かにマシだが、基本的に数の勝負になる航空戦だから装甲空母を用意するよりは量産空母を沢山用意した方が良いのだが、空母が攻撃に対して脆弱と言うのも確かな話だ。
どうにかして抑えても九千万円を下回ることは無理そうだし、となると結局建造予定の艦艇の中から幾らかをキャンセルするしかないのだ。
「予算はどうにか捻出する。取り合えず設計だけは進められるか」
「分かりました。であれば今ここでどの程度の防御力を飛行甲板に施すか窺っておきたいのですが、宜しいでしょうか」
そのあと、意見を聞き取りざっくりとした要求は以下の通りになった。
・全長260m~270m程度
・速力32ノット以上
・艦載機60機程度
・急降下爆撃による五〇〇kg爆弾を防ぐことが出来る装甲を施した飛行甲板
かなりざっくりしているが、まぁ要は史実の装甲空母大鳳と同じようなものを作ればいいだけの話だ。
今から設計、建造をするとなると就役時期には折り畳み翼を備えた艦載機を用意出来るだろうから、搭載機数も幾らか多くなるだろう。
この要求を元にすぐに設計を開始。
結局飛行甲板には100mmもの装甲が施されることになり、少なくとも急降下爆撃による500kg爆弾の直撃には問題無く耐えられる設計になった。
運用方法も色々と検討された。
結局通常の他空母よりも打たれ強いことから味方よりも前に出て敵の攻撃を吸収する、と言うので一先ずは落ち着いた訳である。
そうなると艦攻や艦爆は必要にならないので、魚雷格納庫や魚雷調定室、爆弾格納庫と言ったものは必要が無い。
必要になるのは弾薬庫と燃料庫、対潜爆弾用の小さめの格納庫だけでいい。
艦載機も戦闘機と偵察機、対潜哨戒用の艦攻か艦爆を数機。
こうなると折り畳み翼を採用した艦戦を搭載するならば搭載機数を七〇機ぐらいにまで増やせそうだ、と言われている。
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最終的な結果として、交渉を重ねた結果我々の建艦計画は③計画内にあった大和型戦艦の一番艦は予定通り建造が進められ、二番艦は建造を後回しにされることとなる。
後回しされた分の人員は翔鶴、瑞鶴の二隻の建造に回され、二隻の建造を大きく進めると共に扶桑、山城、伊勢、日向の四戦艦を航空母艦へ改装することが計画に追加された。四戦艦の改装工事が行われるのは武蔵を建造予定であった三菱重工業長崎造船所で進められることとなる。
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続いて④計画には巡洋戦艦二隻、空母四隻、護衛空母三隻、阿賀野型軽巡四隻、陽炎型及び夕雲型駆逐艦二〇隻、秋月型防空駆逐艦十五隻、鵜来型海防艦を参考にした海防艦二〇隻、中型潜水艦三〇隻。
直接的な戦闘艦艇の建造計画は以上の通りとなり、これに高速空母機動部隊に随伴可能な輸送船一〇隻、油槽船一〇隻が建造される。
補助艦艇として敷設挺、駆潜艇、掃海艇を各一〇隻。
それ以外に輸送船二〇隻、油槽船二〇隻、戦車揚陸艦一〇隻、揚陸艦六隻が建造される。
敷設挺、駆潜艇、掃海艇は基本設計が同じだから大量建造が容易に行える。
小さいから小型の造船所でも大量建造が可能なので必要とあれば建造数を増やすことが出来る。
艦艇は以上になるがそれに加えて航空隊の大幅な増強を目的として、二十五隊の航空隊が新設。
その内の十五隊は母艦航空隊となり、残る十隊のうち五隊は陸攻隊として編成され、残りの五隊は飛行救難隊として編成される。
後々に川西航空機が開発中の大型飛行艇を装備する。
母艦航空隊として新設される航空隊は戦闘機、艦攻、艦爆で一纏めに編成されており、空母が完成したらすぐに訓練に発着艦訓練などに移れるように整えてある。
陽炎型と夕雲型の建造費に関してであるが、実は三艦種とも建造費が史実より安くなっている。
これにはれっきとした理由があり、その内の一つがブロック工法を用いたこと。
もう一つが陽炎型と夕雲型は魚雷発射管を一基に減らし、秋月型防空駆逐艦は魚雷発射管を装備しない関係上史実のものより安くなっている。
その空いたスペースには別の兵装を搭載することが決定している。
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⑤計画では装甲空母二隻、護衛空母三隻、軽巡一隻、夕雲型及び陽炎型二〇隻、秋月型駆逐艦二十五隻、海防艦四〇隻、中型潜水艦三十五隻。
大型艦艇が少ない分、各地の小さな造船所でも駆逐艦や海防艦は大量建造が出来る為、数を揃えることになっている。
敷設挺、駆潜艇、掃海艇はそれぞれ十五隻。
これに加えて輸送船十五隻、油槽船十二隻、兵員輸送船八隻が建造予定に入る。
戦車揚陸艦十五隻、揚陸艦三隻づつほども加えられている。
更に航空隊を二十六隊が新設される。
この内の十五隊は局地戦闘機を装備する防空を目的とした航空隊であり、残りの五隊が母艦航空隊、三隊が陸攻隊、三隊が飛行救難隊として編成される。
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現在⑥計画までが策定されている。
装甲空母二隻、航空母艦四隻、護衛空母四隻、軽巡二隻、夕雲型二〇隻、秋月型駆逐艦二十五隻、海防艦四〇隻、中型潜水艦三十五隻が計画されている。
補助艦艇は水上機母艦二隻、駆潜艇、掃海艇、敷設挺を各一〇隻。
戦車揚陸艦十四隻、揚陸艦四隻、輸送船二〇隻、油槽船一〇隻、補給艦三隻。
航空隊二十三隊、内一〇隊母艦航空隊、六隊防空航空隊、四隊陸攻隊、三隊飛行救難隊。
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これらの建造計画とは関係無く輸送船は建造出来るだけ建造される。
なんせ損耗も計算に入れたらどう考えても足りるわけが無いのだ。
全国中の造船所で建造される訳だから、損失分はともかくとして取り合えずの数は用意出来るだろう。
正規空母と巡洋戦艦、護衛空母に関してはどれだけ工期短縮を図っても建造にどうしても一年以上は時間が掛かることから、資材調達が完了する来年始めから建造が開始されることが決定され、続いて巡洋艦、駆逐艦、海防艦、潜水艦の建造が始められる。
それまでの間は翔鶴、瑞鶴の建造と戦艦四隻の空母化改装を昼夜を問わず行われることになる。
まずはこの六隻をどうにかしないと船台が空かないので次の④計画で建造が決定された艦艇の建造に取り掛かることが出来ないからだ。
兎に角開戦となったらその時には空母十四隻を揃えて置く必要がある。
これだけの数の空母があれば二~四隻程度の損失も所要範囲として捉えることが出来る。
そのために八時間三交代制24時間フル稼働である。
なんせ機関部までもを取り換えると言う大工事なわけだから今まで通りのんびりやって居たら三年は掛かる。
だからこそ大量の人員を常に動かし続ける必要があるのだ。
改装予定期間は一年で、訓練は半年を予定している。
建造、改装に関しては八時間勤務の三交代制を組織する事となるが、それに伴い各地で工員の募集を始めている。
戦艦から空母への改装は呉海軍工廠、佐世保海軍工廠で改装が行われる。
横須賀海軍工廠は空母建造が行われるので、その為の準備が進められている。
舞鶴海軍工廠は駆逐艦、海防艦の建造が専門的に行われる。
元々舞鶴には大型艦を建造する為の乾ドックが無く、小型艦艇建造用の小さいドックがあるだけだから当然と言えば当然の話である。
海防艦は民間造船所でもブロック工法さえ習得出来れば大量建造が可能になるので舞鶴と合わせて大量建造が可能だ。
舞鶴では建造の為に現在ある3つのドックの他に更に3つのドックの建設が進められる。
④計画の始動にまでは時間があるので、それまでの間に各地にドックそのものを大量建設を行うのである。
建設されるドックは駆逐艦や海防艦の造船ぐらいしか出来ない小型ドックばかりだが兎に角数的主力を担う駆逐艦と海防艦を建造する為だけでいいのでこれならば建設機械を大量導入することでドックの建設に時間を掛けなくて済む。
必要ならば大型艦の建造も可能なドックの建設も行われるが今のところどうにかなりそうであるし、何よりもドックがあったとしても資材と金が無ければ建造そのものが出来ないのである。
現状、日米間の関係は悪化の一途をたどっているのは間違いない。
どこかで、どちらかが妥協する必要があるがどちらも妥協することは無さそうである。
どうにかして交渉を纏めて戦争を回避して欲しいものである。
各海軍工廠以外の大規模民間造船所では大型艦の建造が進められ、中小規模民間造船所では重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦、海防艦、輸送船の建造や改装が大規模に進められる予定だ。
他には各工廠で新型中型潜水艦や工作艦、高速輸送船や戦車揚陸艦などの建造が進められ、それ以外のタンカーや輸送船は駆逐艦や海防艦と共に民間造船所に任せられる。
私の想定では扶桑型辺りを解体して新型巡洋戦艦を建造することになると踏んでいたのだが、驚いたことに戦艦四隻は全て空母に改装することが容認され、すぐさま実行せよと命令が下ったのだ。
これでは巡洋戦艦分の資材が足りなくなるが、大和型戦艦の三、四番艦の建造を中止とすることで資材を用意することとした。
本来なら大和型戦艦の二番艦も解体し、その資材を空母建造などに回したいところであったが軍令部と艦政本部に我々の建造計画を認めさせる変わりに大和型戦艦二隻の建造を容認する必要があったので三番艦と四番艦の建造中止で手を打った訳である。
防空重巡洋艦は古鷹型、青葉型、妙高型の八隻を改装することになった。
流石に新造するのは我々のリソースが足りなく、予算もどうにもならなかったので短期間で出来る改装と言う手段で手を打った。
主砲を全て撤去し、その代わりに採用されたばかりの九八式一〇糎連装高角砲と射撃指揮装置、そして父が開発研究資金を私からの懇願で投じた八木博士と宇田博士によって新しく開発された電探を装備することで防空任務をしっかり果たせるようにしている。
電探は空母と戦艦に装備が優先され、後々他の艦艇にも装備することを予定しているが、現状は防空巡洋艦分を揃えるまでが精一杯とのことだ。
電探の性能はまだまだ低いと言わざるを得ないが、無いよりはマシだろうし開戦頃には性能はより向上している筈だ。
防空駆逐艦は新造とし、それ以外の駆逐艦は吹雪型以降の駆逐艦を充て、数が足りなくなることが予想されるので陽炎型と夕雲型駆逐艦の建造数を大きく増やし、最終的には夕雲型駆逐艦を軸にして、駆逐艦戦力を配備する予定である。
それまでの間、特に護衛艦隊に関しては基本的には旧式となる峯風型、神風型、睦月型を対空対潜に特化させる改装を施して配備し対応する。
それでも一~二隻程度の新鋭駆逐艦を配備することが決定されており建造が軌道に乗ればこれらの旧式駆逐艦は順次退役、解体され得られた資材は新型駆逐艦建造とその内の何隻ぶんかの資材は陸軍へ回される。
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これと並行して進めなければならないのが工作機械の確保だ。
日本の工作機械の大部分はアメリカからの輸入に頼っている。
一部はドイツ製であったりもするが、やはりアメリカ製のものが多い。
陸海軍共にそんな状況であるわけだから、輸出規制を強めてきている現状でも厳しいのに、禁輸となれば新規導入どころか既存の工作機械のメンテナンスすら出来なくなる。
それを解決する為にかなり早い段階から色々と動いていたのだが二十年来の事業がついに実を結んだ。
父の会社で十分な性能を持つ各種工作機械を製造することが可能となったのである。
多くの苦労もあったが、国内で自給自足出来ると言うのは戦争に関わらず良い事だ。
父の会社が作り上げた工作機械の最も特筆するべき点は、工員一人に付き、五台の工作機械を与え一台を操作し四台を連動させて同時に部品を作れるようにしたことだ。
通常の工作機械などだと、工員一人に付き一つの工作機械で部品を一つづつしか製造することが出来ない。
100個の工作機械があっても同時に作れるのは100個の部品だけということになる。
しかしながらこの工作機械を用いれば、一人で同時に五個の部品を製造することが可能になるのである。
元々この構想で開発設計を進めていたのだが、最初は兎に角酷かった。
連動させると言っても、ミリ単位以上の精度を要求される部品ばかりで連動させると制度が荒くとても使えたものでは無い部品しか作れなかった。
それを地道に地道に改良し続け、計算機などの精度を上げる為に政府や軍に売り込んであの手この手で資金を搔き集め、漸く形になったわけだ。
お陰で会社の経営が傾きかけたりもしたが、どうにかなった。
既に陸海軍の造兵廠や工廠などで導入が進められつつあり、どうにかこうにか開発資金を回収出来そうであると言っていた。
これで生産能力も根本から底上げする為の算段も目途が立った。
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護衛艦隊は、海上護衛総司令部が連合艦隊司令部とは別に置かれ独立した指揮系統と戦力を有することになる。
単純な護衛戦力だけでなく、海軍が建造した高速輸送船や高速油槽船と言った高速船舶は艦隊随伴を除いて直接編成指揮下に置かれる。
こうすることで民間商船の徴用をせずとも軍の分の輸送を賄うと言う算段だ。
民間商船に関してだが戦時の場合単独航行は全面禁止とし、護送船団方式の全面採用とすることと正式に法案を通した。
効率が悪いとか色々と反発はあったがその辺は被害が出てもこっちは知らないぞ、と言ってやると渋々納得させることが出来た。
意外だったのは陸軍がこの護衛艦隊の創設にかなり協力的であったことだ。
陸軍は既に揚陸艦である神州丸を就役させ、それに続いて量産型の揚陸艦建造を計画しているが彼らの頭を悩ませたのは実際に戦地へ行くまでの道中、自分達が乗ることになる船をどうやって守るかという点だった。
今までは海軍にそれを相談しても取り付く島も無く無視されたり鼻で笑われたりしていた訳であるが、そこに来て船団護衛を専門に行う艦隊を創設するとなったのだから喜ぶ他にない、と言う事らしかった。
護衛を行う艦艇の建造を陸軍は自前で真剣に考えていたぐらいだから、それがどれだけの事か分かるだろう。
海軍がしっかりとした戦力で護衛を担当してくれることになり、陸軍は護衛艦艇建造に回す予定の資機材を全て戦車や大砲、自動車などに回せることになると言う事で、陸軍の方から公式ではないものの私の方へ直接感謝が伝えられるぐらいの大事になったのだ。
資材を船舶建造以外に回すことになったお陰もあってか、主に野戦砲や野戦重砲、戦車などに充てられることになる。
はっきり言って日本陸軍の砲兵火力はどの国と比べても性能も数も貧弱であるし戦車もそうだ。
その点今回の一件で数をある程度揃えることが出来ると言うのは良い事だ。
護衛空母は大鷹型護衛空母と命名され、これを主軸に軽巡と駆逐艦、海防艦で護衛艦隊が編成される。
護衛空母と軽巡を中心とした護衛艦隊が編成され、その戦力は護衛空母一隻、軽巡一隻、駆逐艦十隻、海防艦十隻となる。
駆逐艦は前述の通り旧式駆逐艦を改装して当面の間は凌ぎつつ徐々に建造された新型駆逐艦に置き換えていく。
軽巡は戦闘能力よりも指揮通信能力を大きく持たせ艦隊司令部能力を大きく付与する改装が行われる。
艦橋を指揮通信能力を十分に持たせる為に大きなものに改装して、電探の装備も行う。
武装は主砲と魚雷を全て降ろし、対潜兵装と対空兵装を装備する。
そこに艦隊の指揮通信能力向上の為の設備を備え付けるのだ。
幾ら小艦艇しかいないと言っても数が多いので従来のままだと指揮通信に影響を及ぼす可能性が指摘されたためだ。
軽巡は天龍型と長良型から改装された上で編成され撃沈されたり、護衛艦隊の数が増えて足りなくなるなど、必要になれば新造された軽巡を編成に組み込む。
これらの新造小型艦に関して設計陣には対空と対潜を大きく意識し防空駆逐艦や防空軽巡に至っては魚雷は搭載せず、兎に角量産性と必要な性能を兼ね備えたものを設計せよと厳命してある。
艦隊の数的主力を担うのは駆逐艦や海防艦だから、数を揃えられれば揃えられるほどいい。
この点造船にも口出し出来る権限があるのは有難い。
別に普通の駆逐艦に魚雷を載せるのは良いが、防空を主任務とした防空駆逐艦や防空巡洋艦に魚雷は要らない。
その分機銃を載せたり、砲弾や弾薬を沢山載せた方が役割を果たせるのだから、敵艦隊に殴り込んで魚雷を叩き込んで戦うなんて言う役目は普通の駆逐艦に任せておけばいいのだ。
これらの護衛駆逐艦は敵艦と殴り合うのが目的では無い。
輸送船を敵潜水艦と敵機の脅威から守ることが出来るのならばそれでいいのである。
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全国の造船所や工廠、工場は綿密な計画を立てて建造を進めており、てんてこ舞いの大忙しだ。
各地の工場でブロック工法を元に作られたパーツや分割された船体は、昼間に組み立てを担当する造船所に船舶輸送で運ばれて行き、夜間に揃ったパーツを接合する。
何故夜なのかと言うと、これは建造方法に由来する。
溶接を全面的に使用する都合上、特に潜水艦なのだが、昼間に比べて夜の方が気温差が少なく安定しているからだ。
金属は常温、気温においても冷やされるか温められるかで膨張や縮小をする。
これは寒暖差が大きければ大きいほどに膨張と縮小の差は大きくなる。
当然これは昼間と夜間の気温差も影響してくるもので、昼間から夜間に掛けて建造するとかなり差が出来てしまうのだ。
パイプなどが破断したり、船体に歪みが生じたりすると船そのものの安全性や性能に関わる。
それを極力抑えるようにするには、気温差が少ない夜間に組み立てるのが理想なのだ。
そうすることで金属の膨張や縮小を最小限にすることで組み立てたときの溶接ズレが可能な限り起きないようにしているのである。
大きなドックを持たない造船所でも、駆逐艦や海防艦、小さめの輸送船ならばサイズが小さいのでドックが小さくても問題無く建造が可能だし、組立が出来なくても分割した船体を作ることも出来る。
造船所でなくても金属加工や製造が可能な企業や町工場であれば造船所は無くてもブロック工法で分割された船体や、細かい艤装、パーツ、部品ごとの製造は可能になる。
それに伴って流通から始まり、品質や規格と言ったあらゆる面でこれらの計画に関わる組織の体制を従来のものから、根底から見直さざるを得なくなり、各省庁や各企業にも出入りする必要が出たので忙しさに極みが掛かっている。
こうして小さな造船所から大きな造船所、海軍工廠での建造を任せているわけだ。
お陰で造船業やそれに関わるところは大儲け出来て喜んでいるがそうも言っていられないのが海軍だ。
日に日に対米英戦の足音は大きくなってきており、新聞も対英米戦を煽るようになってきている。
海軍省、連合艦隊、一部の陸軍と言った面々の表情は日に日に厳しくなっていく。
どれだけ計算をしても、どれだけやり方を変えてもアメリカ相手に負ける以外の結果が見えないのにも関わらず、戦争へと突き進んでしまっているのだから表情が厳しくなるのは当然だろう。
大型艦の建造や改装は海軍工廠と大型造船所を持つ大きな民間造船所に任せ、分業制としている。
これらの戦闘艦艇の他にも、兵站を支える高速油槽船や高速輸送船が多数発注されているから各地の造船所で建造が進められている。
兵站を支える為に必要不可欠だが海軍が独自に保有している輸送船やタンカーなどは、本当に無かった。
民間船舶に輸送を頼らなくても、自分達の持つ船舶だけでどうにか出来るというのはそれだけで大きな意味を持つし、何より空母機動部隊に随伴可能な速力を有していたりもするので何か緊急で輸送しなければならないだとか、敵勢力圏下への強行輸送も速力があればそれだけやり易くなる。
船の速度は速ければ速いほど回避しやすいし、敵も狙いを付け辛くなる。
史実通りの開戦日時ならば二年半は猶予があるから、それまでにどれだけの戦力を揃えられるかが勝負だ。
陸軍の協力も得て、戦車揚陸艦の建造にも着手しているのでより兵站維持の為の戦力が整いつつあるのは確かだ。
この戦車揚陸艦は最大で戦車一〇両、兵員二〇〇名程度を同時に搭載可能な性能を目標にしている。
量産性が高いので一隻当たり一か月半で建造出来るし、何より砂浜や岸壁に直接乗り込んで揚陸が出来るのは大きな意味を持つ。
一々ボートや小型艇に物資を移してなんて面倒なことをしなくていいし、戦車揚陸艦が砂浜に直接乗り上げてはしけを下ろして車両や兵員、物資を揚陸することが出来るのはそれだけ揚陸に必要な時間を減らせる。
揚陸しているときが一番危険だから、その危険を減らせると言うのは大きな意味を持つ。
上陸作戦だけでなく、港湾設備が貧弱な地域などに対する物資輸送にも活用されることだろう。
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造船だけでなく、作った艦艇に乗る乗組員の育成、航空機の搭乗員の育成も一気に進めている。
あれだけ艦艇を増産すると直面する問題が乗組員問題である。
建造が予定されている艦だけで空母と戦艦十四隻を数え、護衛空母に至っては最終的に一〇隻が建造される予定なのだ。
空母や戦艦一隻当たり二〇〇〇~二五〇〇名もの人間があらゆる役割をそれぞれ持って乗り込んでいるわけである。
駆逐艦でも二三〇名、海防艦でも一五〇名程度は乗っている訳で、それが何十隻、何百隻と建造されればどうしても人員不足は否めない。
なんせ戦艦と空母だけでも三万名近い乗組員が必要となり、護衛空母一万名程度、駆逐艦でも三万名、海防艦一万五千名。
専門知識が必要な潜水艦乗組員六〇~七〇名を抱え、七〇〇〇名が必要になる。
単純計算で八万二千名もの人員が必要になってくるわけで、これに輸送船やタンカーなどの乗組員を加えたらもっと増える。
しかも恐ろしいのが、この数字には交代要員や補充要員は含まれていないということだ。
それらを含めると最低でも1.5倍の人員は必要になる。
こんな膨大な人数を今まで通りちんたら育成していたら、いざと言う時に人手不足になってしまう。
特に育成に時間の掛かる航空機搭乗員はより深刻な問題だ。
そこで私がやったのはカリキュラムの見直しだ。
今までの新兵訓練は兎に角時間が掛かった。
特に顕著なのは航空機の搭乗員、所謂パイロットで、数が要求されるのにも関わらず士官候補生の教育のように何年も掛けて養成していたのだが、これでは駄目だ。
平時ならばこれでも良いが、戦時に損耗が広がった際にこれでは失った搭乗員や乗組員を迅速に補充出来ない。
そうなれば碌に訓練も施せないままに実戦に投入されて無駄死にするだけなのだ。
その結果が史実日本の航空隊である。
それを無駄な教育や訓練を無くしてパイロットとして必要な教育のみを施せるようにしたのだ。
こうすることで六~七ヶ月、最長一〇ヶ月程度で必要な訓練を終えて実戦投入が可能になる。
それ以外の兵科でも同様で、まず最初に適性検査を行い、その適正に合った兵科に最初から割り振って所属とすることで、一から専門知識を備えた兵士を育てることを可能としたのだ。
基本的な訓練はそれぞれの専門兵科学校で行い一ヶ月で終わらせ、三ヶ月かけて専門教育を施して配属となる流れだ。
これで年三回の補充が可能となる。
元々の人員が少ない、それこそダメコン班や聴音機や電探を操作する人員をこれで十分に確保する狙いがある。
それに伴って海軍全体で鉄拳制裁、私的制裁の全面厳禁と言う命令を発令してもらった。
あんなもの欠片も意味は無いし、私的制裁の行き過ぎで上官が部下を殴り殺すなんて事例も実際にあるのだ。
それを命令、という形で全面禁止にし、行った者には厳罰を科すことで撲滅を狙う。
精神注入棒なんぞ全部半分に切って陸軍向けの薪にしてやった。
煮炊き用の薪や炭は幾らあっても足りないからな。
航空隊の編制と戦術も大きな改変が入った。
編成に於いては今までが三機一編隊であったのを、四機一編隊に改編したことだ。
これに伴い基地航空隊は3個中隊で一個航空隊を編成するが、有する戦力が二十七機から三十六機に増加した。
純粋に戦力増強の目的だけでなく、戦術面での有効性を増す為の編制改変だ。
その戦術においてはロッテ戦術と呼ばれる二機一組で戦う戦法と、それを拡大したシュヴァルム(四機一組)を大々的に取り入れた。
今現在陸海軍の編隊戦術と言えば三機一組、所謂ケッテで行っているがこれには明確な欠点がある。
空戦の際、編隊による連携は勝敗の鍵を握り、編隊空戦は相互支援のタイミングが重要であるがケッテはそのタイミングを取りつつ連携する事が難しいという明確な欠点がある。
今現在第一線で戦う飛行時間が下手をすれば二千時間を超えるような超が付くレベルの熟練搭乗員で編成された編隊ならばまだしも、入隊してパイロットになったばかりの新兵には到底難しい。
だからケッテ戦術を正式に廃止し、ロッテ戦術、シュヴァルム戦術を全面的に取り入れたのだ。
基本的にはシュヴァルムで戦いつつ、状況によってロッテ戦術に移行するような形になる。
特に爆撃機迎撃の際は大きな効果を発揮するものと思われる。
B‐17やB‐24と言った4発重爆相手は単機だと撃破すら困難であるほどに頑丈だ。
それをロッテやシュヴァルムで袋叩きにしてやるのだ。
こうすることで一機当たりの消費弾数も少なくなり弾数が同じでも単機で戦うよりも継戦能力の向上が見込まれるとのことだ。
これらの編隊戦術の指揮は中隊長が全体を俯瞰する位置どりをしつつ指揮し、場合によっては遊撃として危なくなった味方機があれば一時的に突入して敵機を剥がした後に再び指揮に戻るという戦術だ。
当初は基地航空隊、母艦航空隊全てから反発があったものの編隊戦術を事前に磨いた教導部隊との模擬空戦でボロ負けとなるとこれを受け入れ始めた。
数か月も訓練すると、元々の高い練度に加えてそこに若年搭乗員でも十分な連携が取れる編成と戦術によって見間違えるほどのものになった。
編隊空戦はどちらがより連携を確実に取れるかに掛かっているので、少なくとも現在の母艦航空隊の、特に戦闘機搭乗員達の練度は掛け値なしに世界一と言っていい。
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研究開発も進められている。
航空機などの主力兵器だけでなく通信機などの補助兵装など多岐に渡る。
防空を担う局地戦闘機、陸上爆撃機、艦上戦闘機、艦上攻撃機、艦上爆撃機とそれぞれ五機種に分けて開発されている。
実を言うと既に機種統合の流れと意見がある。
艦爆と艦攻を一緒に出来ないか、戦闘機と艦爆を一緒に出来ないかということだ。
それが出来れば画期的なのだが、いかんせんエンジン馬力の関係で暫くは待つ必要がある。
研究と開発は引き続き行われるが実用化されるまでには少なくとも2000馬力級エンジンの完成を待たなくてはならないのと、単純に開発の為の経験値が足りないのだ。
だからそれらの技術蓄積などを行う為に暫く時間が必要となるのだ。
艦上戦闘機は今のところ三菱の新型戦闘機、俗に言う零戦であるがこれが採用されている。
とは言えこれを主力として使うのは最初だけだ。
零戦は確かに優秀かもしれないが実際はエンジン馬力、武装、防御が貧弱過ぎる、過大な航続距離、極限まで削ったことで発展性が無いなどの大きな問題を多数抱えている。
格闘戦を好む搭乗員達は喜ぶかもしれないが、用兵側からすれば零戦は諸刃の剣もいいところだ。
そこで零戦の採用すらも決定していない内に新たな艦上戦闘機の開発を各社に命じたわけである。
こちらが要求したのは空母で運用出来れば大型化しても良いから、「根元から折り畳みが可能な折り畳み翼」と「引き込み足」、そして二二〇〇km程度の航続距離を備え、速度は六〇〇km/h以上、12.7mm機銃に対する防御力を有しつつ、二〇mm機銃を最低四門備えていることとした。
この要求を元に幾つか性能を要求し新型艦戦の開発を各社に伝達した。
参加を表明したのは零戦に続き採用を勝ち取りたい三菱、艦載機事業に食い込みたい中島と川西の三社だ。
中島も九七艦攻が正式採用されているが、結局のところ航空機注文で最も数が多いのは戦闘機だ。
だからどうしてもそこに加わりたいわけである。
零戦のように無茶苦茶な要求性能をしていないと言うのもあって、零戦が未だ開発中の1940年初めには設計図と共にモックアップが作られた。
エンジンは私の父の会社が開発していた一五〇〇馬力発動機を各社は選定した。
日本にある戦闘機用として開発された一五〇〇馬力級エンジンはこれだけだから、要求性能を満たそうとするとこれ以外には無いらしい。
このエンジンの直径は栄エンジンよりも遥かに大きく、発展性が高い事が特徴だ。
史実では零戦がそうであったように、小型大馬力エンジンに拘り過ぎて、結果後継エンジンであった誉エンジンも無理な小型化によって実用化はされたものの、信頼性に難があると言うのが実際だ。
それ以外にも工業力不足だとか要因は様々あるが、少なくとも無理に小型化していなければ信頼性は幾らか向上していたのではないかと個人的に思っている。
そこで戦闘機用の大馬力エンジンと言う事だけを目標として小型化は無理の無い範囲に収めることにしたのである。
結果、最初に開発されたのは直径1550mmにもなる大型エンジンで、馬力こそ一五二〇馬力と強力なものだったが、流石に大き過ぎた。
爆撃機、局地戦闘機、陸上戦闘機用ならば問題無いが、艦載戦闘機用ともなると幾らかの小型化は必須だったのである。
この大型エンジンは海軍呼称YK4、陸軍名称ハ47、正式名称テ1型エンジンと呼ばれ、主に爆撃機と局地戦闘機に用いられることになった。
これを艦載機用に小型化したものはテ2型エンジンとなり、最終的な直径は1350mmになり、小型化によって馬力は幾らか下がったがそれでも一四二〇馬力の発揮が可能となっている。
このエンジン直径の大きさはF6Fに匹敵する大きさだが、艦載戦闘機用としては十分な小ささだ。
栄エンジンが小さ過ぎたとでも言うべきだろう。
このエンジンを搭載した艦載戦闘機は、零戦が正式採用された1940年7月頃には既に試作機の製作に各社は取り掛かり始めており、翌年1941年3月に中島飛行機が完成させた試作一号機を皮切りに各社は次々と試作一号機を完成させることになる。
艦攻と艦爆も各社に対して開発を命じているので、早い内に九七艦攻や九九艦爆の代わりとして登場することになるだろう。
既に2000馬力級エンジンの開発にも乗り出しているから早ければ1941年までには完成する見通しだ。
新型機は1942年か1943年までに実戦投入出来るだろうとされている。
局地戦も防空を主任務としていることから航続距離を考慮せず、犠牲にして武装と速度、そして防御力に能力を振った。
艦載機のように必要装備は少なくて済むし、運用上に何かしらの制限が設けられる艦載機よりも順調に進んだ。
着陸速度も速くて問題ないし、艦載機に必要な装備が軒並み必要無くなるからその分軽量になる。
陸上にある航空基地で運用するわけだから艦載機よりも構造は幾らか単純で良い。
要求性能は以下の通りである。
・単発戦闘機であること
・全金属引き込み足を採用すること
・全備重量状態で最高速度630km/h以上
・最大上昇高度一万二〇〇〇m
・高度一万mでの爆撃機迎撃戦闘行動が可能であること
・格闘性能は低くていい。対爆戦を最優先とし、対戦闘機戦闘能力は最低限でよい
・燃料タンク、操縦席における12.7mm機銃に対しての十分な防弾性能
・武装は20mm機銃四門装弾数各門150~200発、或いは13mm機銃を六門
・生産性、整備性、信頼性を可能な限り向上させること
・航続距離は最低一〇〇〇km、最大一二〇〇kmであること
局地戦闘機としての性能だけを追い求めればいいし、対戦闘機戦闘は最初から考慮に入れていない。
ほんの一年で、1939年9月末に局地戦闘機の試作機が中島飛行機から提出され、性能試験の結果その性能は空虚重量状態に置いて最高速度650km/hを記録し、全備重量状態でも633km/hを発揮することとなった。
これには理由があり、戦闘機用のエンジンでは要求性能を満たすことは難しいと判断した中島飛行機によって、父の会社で開発されていた爆撃機用エンジンの搭載がされたからだ。
これによってずんぐりむっくりしたような、どっしりとした印象を受ける外観を持ち、ともすれば艦載戦闘機共々米軍機に近しい見た目になったわけである。
艦載戦闘機とこの局地戦闘機を比べると、幾らか艦戦の方がすらっとしている。
局地戦闘機だから航続距離をある程度無視し対爆撃機戦闘を最重視せよとお達しが出ていたことで、各社は馬鹿みたいな火力を持った機体を出してきたりと、これはこれで頭を抱えるような機体が幾つもあった。
兎に角弾数で勝負という機体は13mm機銃一〇門なんていう逆にどう載せたのか分からない状態だったり、一番頭を抱えたのは7.5cm対空砲を単発機に載せようとしている機体があったことだ。
対空砲を載せるとなると少なくとも双発機にはなってしまう訳で、単発迎撃戦闘機を望んでいるこちらからしたら流石にそれは違うということで却下された。
その前に射撃したら機体が空中分解してしまうし、仮にそこがクリア出来ても命中弾を得るのは至難の業だ。
モノによっては単発機、と言っているのに双発機を持ってきたりでどうすればいい、状態だった。
しかしながら愛知航空から提出された機体が優れた性能を発揮した。
要求されたものとは違って双発機だったが性能は高い。
最高速度は630km/hと迎撃戦闘機と殆ど変わらない性能を発揮しており、尚且つ双発機であるということで燃料搭載量や武装を載せる余裕が大きいという利点があった。
驚いたのは迎撃双発戦闘機として開発されているのにも関わらず爆弾と魚雷の装備も可能という割と万能機に近い性能を有していた事だ。
航続距離も2500kmと十分で、尚且つ防弾性能も秀でている。
対地攻撃、対艦攻撃、対爆撃機迎撃と単発戦闘機相手の戦闘以外は十分に熟せる性能があると判明したのだ。
流石にこれを放っておくのもどうか、とされ数機の増加試作の発注が命令され、試験をパスすると100機の生産が取り合えず命令されるとこの双発機を装備した第351航空隊が編制された。
機銃は機首武装20mm機銃四門、翼内四門の計八門。
搭乗員は二名と双発機にしては少なく珍しい。
爆弾は500kgまでのものを搭載可能で、元々迎撃戦闘機として設計されていたから急降下爆撃も250kg爆弾一発だけならやれる。
六〇kg爆弾を八発、五〇kg爆弾一〇発、一〇〇kg爆弾五発、二五〇kg爆弾二発、五〇〇kg爆弾一発、航空魚雷一本。
魚雷も従来の魚雷も搭載可能だったが、生産数の関係で従来の航空魚雷より二回りほど小型であるが安価で大量生産が可能なものが新しく開発されると二本の搭載が可能となり打撃力に秀でることになる。
愛知航空から提出されたこの双発機は、1939年に正式採用となり九九式双発汎用機と命名されることになる。
最終的に単発迎撃戦闘機は三菱、中島の合作となった機体である。
武装は主翼内に左右2丁づつの20mm機銃4丁、機首武装13mm機銃2丁、航続距離一二〇〇km、防御力もコックピット、燃料タンク、通信装備共に12.7mm機銃を防ぐことが出来る程度と高い。
自動消火装置の開発がまだ終わっていないので搭載されていないが将来的には自動消火装置を搭載することも決定している。
量産性と整備性、信頼性も考慮され、ブロック工法を取り入れられる設計になっている。
こちらの要求性能を十分に満たすものであった。
1940年2月に零式局地戦闘機として正式採用され、1940年7月から三菱と中島飛行機は共に量産を開始した。
今はまだ生産ラインが揃っていないので月産五十機程度だが、ラインが整えばその内月産二百機、他社が製造に参加し始めればもっと多くの数を生産することが可能だ。
高高度迎撃用の与圧コックピットは技術的にまだ採用されていないが、既に研究開発は大々的に進められているので三~四年以内にはどうにかなる。
それまでの繋ぎとして酸素吸入器と電熱線を通した搭乗員服の採用をしている。
この局戦は航空機開発が難航していた陸軍にも私経由で中島飛行機が売り込んだところ、まさかの一発採用であった。
元々に多様な性能の航空機を別々に開発するのは如何なものかと苦言を呈していたのだが、幾ら私が陸軍とも仲が良いとは言え陸海軍の仲の悪さは折り紙付きで、そんな仲で統一された機を開発すると言うのは実現し得なかった。
しかしここに来て、開戦が迫りつつあると言うのに陸軍が計画している南方作戦に投入可能な戦闘機や爆撃機が全くない状況に流石に焦りを感じていたのだろう。
披露された性能に完全に魅了された陸軍は手のひらを返して採用を決定。
すると驚いたことに零式局戦の後に正式された零式艦上戦闘機にも関心を示し、中島が開発中であった戦闘機を蹴って採用してしまったのだ。
中島飛行機には申し訳ないことをした。
とは言えこれも仕方が無いような気もする。
中島飛行機が開発中であった戦闘機は初飛行こそ1938年だったが要求性能に満たないなど問題が多発し未だに解決されていなかった。
特に1940年になると日独伊三国同盟がついに締結されてしまい、ドイツと戦争状態の英国は勿論、米国との関係は完全に悪化し、開戦が日に日に現実味を帯びて来ていた。
そんな中で南方作戦と言う長距離作戦に参加可能な航空機を全く持っていなかった陸軍首脳部は大いに焦っていた。
1940年夏にもなると南方侵攻の意思が完全に固まっていたのだが、その作戦に参加可能な航空機が一機も存在しないのだ。
陸軍戦闘機の主力を担う九七式戦闘機は陳腐化しているし、そもそも航続距離が短くて作戦云々以前の話だった。
後継機として採用される予定だった中島のキ43は開発の目途が全く立っておらず、仮に間に合ったとしても機数を揃えられるか分からない。
状況としては金も碌に無いのにデカい賭け事に挑もうとしているようなものだ。
そんな窮状の目の前に、完成していて要求していた性能を完全に満たしている航空機がぶら下がったら飛び付いてしまうのも無理は無かった。
ここで色々と陸軍に便宜を図ったり協力していた私と言う存在も合わさってあっさりと採用してしまったのだ。
既に零式艦戦は量産体制に移っており、母艦航空隊に必要な数と補充用の数さえ揃っていれば取り合えずのところ問題無いと言う事で各航空機メーカーに製造を命じる形になった。
後継の艦戦もこのまま順調にいけば1942年中には量産体制を整えられるのではないかと考えられている。
戦闘機に関してはこうなったが、爆撃機の方も順調に開発が進められて1940年12月に正式採用されることとなった。
当初は双発機で開発されていたのだが、要求された性能が双発機では難しく零戦のようなものになってしまうのは明白だった。
そこで元々双発爆撃機の開発を命じられていた三菱重工の本庄技師に頭を下げながら双発ではなく4発爆撃機を開発してほしいと依頼すると、今までの苦労は何だったのかと言いたいぐらいの速度であっさりと完成したのだ。
4発大型機であるから馬力に余裕があるので防弾性能、防御火器も13mm機銃と十分だし航続距離も爆弾を積んだ状態で2600kmを超えている。
爆弾搭載量が2tと4発機にしては些か少ないがそれでも爆弾を抱えて片道1300kmを飛べるのだから十分なものだろう。
海軍は元々中島に4発機の開発を命じていたのだが難航していたし、反発もあったがリソースの振り分けのことを考えれば中島は中止、こちらを採用することも仕方が無かった。
勿論爆撃機を欲していた陸軍もこの零式重爆撃機を採用し、1941年末までに一個乃至二個飛行戦隊分を配備することが決定された。
余談ではあるが1940年に採用された航空機全ては名前に零式が付くので、非公式ながら海軍では零式シリーズと呼ばれている。
余力のある中島には代わりに新型迎撃戦闘機の開発を命じた。
補助兵器の仲でも特に力を入れて開発を行っているのは通信機器と照準機器、対潜探知機、潜水艦用兵装などだ。
はっきり言って元々ある日本軍のこれらの兵装は性能が低い。
通信距離は短いし、雑音が入り過ぎてろくに意思疎通が取れないし、そもそも信頼性が低すぎて稼働しないなんてことがザラだったのだ。
しかしながら編隊空戦をやるには機上無線が無いと連携を十分に連携することが出来ないし、艦隊防空指揮においても空中指揮統制機からの通信が得られずに迎撃に出た戦闘機隊を有効に指揮することが出来ない。
それらの大問題を解決する為に予算を捥ぎ取って来て取り合えずはマトモに使えるレベルのものを用意した。
通信距離が短いと言う欠点があるが、無いよりは遥かにマシだ。通信距離に関しては後々伸ばしていけばいい。
これら通信機を全機に装備することが必須とし既に配備されている機体に関しても改修を進めている。
照準器は対空用、対艦用、対潜用、戦闘機用、爆撃機用、雷撃機用と様々だ。
対空用、対艦用、対潜用は艦そのものに載せてしまうから技術的には問題は無い。
ただ問題は航空機用照準器だ。
こっちは航空機に載せる必要があるからある程度の小型軽量化が必須となる。
4発重爆や双発機用の照準器は特に問題らしい問題は無かったのだが単発機へ搭載する為の照準器が問題だった。
爆撃機用照準器はノルデン照準器を元に新開発したもので、性能は劣るが従来のものに比べれば遥かに高い性能を持っている。
命中率も大きく上がったことで正式採用がされて量産が開始されると海軍機だけでなく、高い性能の照準器に目を付けた陸軍からの打診もあって陸軍機にも供給がされ始めた。
雷撃機用と戦闘機用の照準器の開発を進めているのだが手間取っているのが現状なのは前述の通りだ。
この照準器は計算機と連動し、雷撃機用のものであれば敵艦の速度と進路を撃ち込めば投下する位置やタイミングの数値を弾き出してくれるというものだ。
戦闘機用も同じようなものだ。
メリットは単純に訓練が不十分な若年搭乗員でも一定値の命中率を確保出来るということ。
戦争となれば人的資源は徐々に擦り減っていくのは当たり前のことで、中には長い時間訓練を積んだ熟練搭乗員達もいる。
その穴を埋める為にこれらの計算機の開発が開始されたのだ。
しかしながら単発機用の照準器
この照準器と連動する計算機の小型軽量化に手間取っていることだ。
なんせ単発機の中に装備しなければならない訳だから、出来る限り小さく軽く作る必要があるのだが、そうすると性能が低く実戦投入が出来ないものになってしまう。
かといって大きいとそもそも載せられないか、重量過大で機体の性能そのものが著しく低下してしまう。
これの解決が為されない限りは搭載は出来ないのである。
そして計算機に用いる真空管の確保が難しいことだ。
真空管の製造にはニッケルやクロムを始めとした希少金属が大量に必要になるが、希少金属は何処でも必要なので確保が難しいのだ。
対潜用兵装に関しては航空機搭載用磁器探知機、電波探知機、対潜攻撃用兵装の研究開発が進められている。
磁器探知機と電波探知機に関しては双発機に搭載することを目的としたものと艦艇搭載を目的としたものの2種に分けられる。
対潜兵装は単純な爆雷投射機などだけではなく、より確実に対潜攻撃を行えるように史実におけるヘッジホッグを丸々そのままコピーして生産し、艦艇に搭載しつつある。
探知機などは1940年までには試作と量産体制を整えられるように進めている。
ただこれらの探知機などにも大量の真空管が必要になってくるので最終的には纏まった数の真空管を確保することが出来るかという問題がある。
生産能力向上は図っているが、それでも需要を満たすには足りないと予測されているので真空管工場を増設することが決定された。
潜水艦用兵装は潜水艦搭載レーダーなどの兵装を研究している。
敵艦を探知するものや敵の通信や電探から発される電波を探知する逆探知機など。
こういった兵装の有無で勝敗が分かれるのだから疎かには出来ない。
これらの決定に伴い、陸海軍に於いて熟練工員徴兵免除法が可決された。
今までは軍需工場を始めとした造船所などで働く工員は、どれだけ経験豊富で腕が優れているといっても、兎に角兵員数確保の為に片っ端から根こそぎ徴兵されてしまっていたが、そうなると品質悪化と生産量の低下は酷い物になる。
女子学生や小中学生、婦人達が生産したような部品などの品質は史実で語られるように酷いものだ。
そうならないように熟練工員の徴兵を免除することを明記して、確保することが目的としている。
海防艦の設計図が完成し、最初の七隻が起工してから三か月後、一番艦鵜来から七番艦竹生までが就役することになった。
この海防艦は鵜来型海防艦と名付けられ、その設計は史実における鵜来型海防艦を踏襲しており、若干大型化した九十mの船体を持ち、それでいて量産性と艦の性能を高めたものになる。
工期は一隻当たり一か月半であり、小さな造船所や製作所でも艦の一部を作ることが出来るよう効率的に分割がなされており、今のところ海軍の中で最も量産性に優れた艦と言えるだろう。
安価で量産可能な十二cm連装砲を二基、二十五mm三連装機銃九基、二十五mm単装機銃六基、爆雷投射機十六基、爆雷一四〇発。
水中聴音機三基で、電探こそ未だ装備していないが、護衛空母には電探が装備されるので当面の間は何とかなるだろう。
航続性能は十六ノットで五一〇〇海里、約9500kmを誇るので殆ど無補給で日本本土と南方の資源地帯を往復することが可能となる。
船団護衛の為に作られたと言っていい性能を有している。
この七隻は海軍に引き渡され次第、訓練に移る。
既に各地の造船所では数十隻単位の海防艦が建造されることが決定されており、この七隻を建造した造船所もドックから船体を出した時点ですぐに同形艦を既に建造開始している。
開戦までに最低でも六〇隻の建造が予定されている。
それだけ量産性に優れているということだが、問題は乗組員を確保することだ。
既に海軍は志願可能な年齢上限を十七歳~五十歳にまで広げているほどに、艦の増産計画は人員不足問題を大きくしている。
四十隻は既に護衛艦隊四つに編成されることが決定されており、残りの二十隻はさらに護衛空母が建造された場合や戦力不足となった場合に既存の護衛艦隊に編成されることになる。
海軍の方はどうにかこうにか順調に進んでいるが陸軍が問題だった。
陸軍航空隊は同じ機体を採用していたりとあって、なんとかなったが陸上戦力が問題山積みだ。
中国との戦争が始まったことによって陸軍の近代化計画が軒並み潰れた事が何よりも問題なのだ。
あらゆる兵科において機械化は全く進まず、陸戦の要である砲兵もいきなり師団数を増やしたものだから旧式砲を増産するしかなく、新型砲はいつまで経っても完成しないし、完成しても既存砲の生産ラインが逼迫し過ぎて生産が出来ない。
しかも弾の互換性が全くないか、中途半端に流用出来るかという状態に陥っている。
そんな現状だから火力も足りない、数も無い、弾もない、無い無い尽くしが陸軍だ。
これは海軍陸戦隊にも言える。
陸軍より予算に恵まれているから装備などの面で言えば恵まれているのだが、それでも全体的な能力で言えば貧弱であると言えよう。
しかしながら既に戦争に突入している陸軍には生産ラインを整理する余力も時間も無いのだ。
これらを成す為には最低限、満州国境ぐらいまでには撤退する必要があるがまぁ、認められる訳も無い。
そして上陸戦における綿密な連携も必要不可欠だが、とにかくこれが出来ない。
今は通信機器の発展でどうにか形になっているがそれでも全く進んでいないと言っていいほどだ。
「山本さん、一つ相談が」
「どうした、また無茶振りか」
海軍大臣になられた山本さんのところを訪れて陸軍に関して相談をする。
「このままでは戦争が出来ません。結局戦争は陸地の奪い合いですから陸軍に勝ってもらわねばなりませんが肝心の陸軍が貧弱ではどうにもなりません」
「しかしなぁ、こっちもこっちで建造計画分の資材しか用意出来ん。流石にどうにも出来んぞ」
「いえ、陸戦隊用に製造する分があります」
「……まさか君」
「はい、今から生産して陸軍の大砲が足りなくなったら恩を売る形で渡せばいいのです」
「本当に悪いことを考えるね、君は」
呆れた顔で俺を見る。
こうすれば陸軍に何かあった場合部隊を出させることも出来る。
極々自然的な考えであると思う。
「資材は?」
「解体した旧式駆逐艦で得られた資材で足りるかと。牽引車自体はありますから、主砲はそのまま榴弾砲に改造してしまいましょう」
既に峯風型駆逐艦は艦齢は軒並み二十歳を超えるか、或いは開戦が予想される時期に二十歳を超えてしまうかなりの旧式駆逐艦となる。
いくらなんでも古いし艦艇の老朽化が目立ち、性能自体も戦えるようなものではない。
12cm単装砲が四基四門搭載されているから、60門の重榴弾砲となるから陸戦に置いてはかなりの火力になる。
神風型も戦力が整うまでは解体されないが、新型駆逐艦が揃い始めれば順次退役、解体されて資材として流用される予定だ。
睦月型は対潜能力と対空能力を上げる為に既に12cm単装砲は改装によって下されているから、予備保管となっている砲自体を牽引式でも自走式でもいいから榴弾砲に改造してしまった方がいい。
神風型で36門、睦月型で48門、三艦種合わせて144門もの火力になる。
これを放っておくにはあまりにも勿体無い。
それ以外にも最上型巡洋艦から武装換装の為に取り外された15.5cm砲も残っているので、これも丸ごと野戦榴弾砲にしてしまえばいい。
そもそもこれらの砲は対空戦闘能力が限定的だから海防艦に載せることも出来ない。
15.5cm砲に至っては搭載予定の艦艇が存在しないのに、今まで製造した分が倉庫に眠っているのである。
どうせ使わないのならば野戦重砲として改造して運用してしまった方が良い。
「なるほど、確かにそうかもしれん。しかし改造は間に合うかね?間に合ったとて牽引する車両がなければ移動もろくに出来んだろう」
「それはアテがありますので問題ありません。許可を頂ければすぐにでも」
「うむ、分かった。やってくれ。長官には俺が話しておこう」
「ありがとうございます」
頭を下げて退室する。
これにより砲兵不足が幾分か解消されるだろう。
解体した資材もあればかなりの数の榴弾砲を揃えられる筈だし、少なくとも海軍が生産した分には十分な通信機器などの機器も付けられる筈だ。
この決定により海軍陸戦隊の近代化計画が一気に進むことになる。
15.5cm野戦重榴弾砲、12cm榴弾砲として後に改造されて運用されることになる。
父の会社の自動車製造部門はアメリカ式の大量生産可能な自動車生産工場を持っているからそこからトラックを用意できるし、建設機械や建設車両も同様だ。
問題は装甲兵員輸送車だった。
ただでさえ陸軍の方からもっと生産しろ、もっと生産しろとせっつかれているのにそこに海軍の需要まで出てきたら到底答えられるほどの生産能力を盛っていない。
しかしながら改造によって得られた牽引式の十二糎榴弾砲を運ぶことは出来ない。
輓馬でも引けなくはないのだが、そもそも輓馬は増やせば牽引力が上がるわけでは無い。
引けたとしても到底機動能力なんてものは無い。
そこで日野重工からライセンス生産をする為にライセンス権を購入してもらい生産ラインを増設して大量生産をしてもらっているのである。
父の会社以外に生産ラインを増設し、しかもアメリカ式の自動車製造工場を建設出来る能力が無い。
技術指導によって生産性は向上してはいるが、それでもまだまだだ。
榴弾砲の牽引は半装軌車、所謂ハーフトラックと六輪トラックが担うことになり、砲弾はハーフトラックやトラックを改造し給弾車としたものが当てられる。
最大七〇発の積載能力があり、信管も七〇個載せられる。
砲弾そのものは海防艦などに搭載される新開発の十二糎高角砲と砲弾の互換性があるので生産設備は同じでいいから大量生産と大量供給が可能になる。
砲兵の強さと言うのは、他の兵科と比べても予算と用意出来た砲と砲弾の数がそのまま直結する。
GPSだなんだと最新のテクノロジーを山ほど駆使しても結局最後は用意出来た砲弾の数と砲の数で決定される兵科になる。
砲兵隊の火力を保証するには数を用意するしかないのである。
その点、艦載砲と砲弾が同じで互いに流用することが出来ると言うのは生産面でも兵站面でも大きな、重要な意味を持つ。
それを考えるに日本砲兵は弱い。
なんせ元々予算は海軍優先で陸軍には回ってこないし、機械化を構想してはいたものの日中戦争の開戦によって戦費を注ぎ込んで近代化は頓挫。
そうすると残されたのは急増した大砲の需要を満たす為に無駄に増えた生産ラインと大砲、互換性が全くない同じ口径の砲弾が溢れている。にもかかわらず肝心の砲の生産数も砲弾の生産数も少ない。
そりゃぁ弱くて当然だ。
なので陸軍側にもテコ入れをしようと思っていたのだが、ちょっと無理かもしれないというのが実情だ。
なんせ大陸での戦争でいきなり常設師団に加えて戦時編成の師団を加えて一〇〇個師団態勢にするとか言い出しているのだ。
そうなると先に言った通りどうしても装備人員の全てが足りなくなる。
足りない装備は今ある生産ラインを増やしてやるしかないが、あらゆる装備が無駄に増えた生産ラインで非効率に生産が続けられている状態なのだ。
実情としては砲兵火力どころか小銃すら不足気味という状態で、三八式小銃の後継である九九式小銃の生産すら足りなくて三八式小銃を生産していると言うのが現状だ。
そんな陸軍が効率化と生産ラインの整理なんて出来る余裕があるわけがない。
これらの陸軍の事情を考えて、海軍は海軍で自前の装備を用意する必要があるのだ。
この計画に基づき、海軍陸戦隊の近代化計画が立ち上がった。
これは砲兵火力の増強をするぐらいなら、いっそのこと全部やってしまえ、というものである。
この計画には陸戦隊を上陸戦用兵力として整備することを最終的な目的とされており、米軍のように上陸戦時の面倒なあれこれを海兵隊に全て丸投げしたように、こちらも陸戦隊に上陸戦の面倒なあれこれを全て丸投げしてしまおう、という思惑がある。
そこに加えて高い戦闘能力と建設能力の付与が最優先目標としている。
海軍陸戦隊近代化計画に伴い、まず最初に整備されたのが砲兵火力である。
これが一番最初に指定されたのには単純に砲兵装備の手に入れやすさが他装備などに比べて、圧倒的に簡単であるからだ。
なんせ重砲の全てを改装などで必要とされなくなった余剰砲で補うわけであるから、既存の砲身などを丸ごとそのまま野戦重砲に設計、改造してしまえばいいだけの話だ。
既に陸軍でも大口径野戦榴弾砲の運用実績はあるのでそちらの設計や諸外国のものを参考にするだけでいい。
ましてや移動しながらの艦砲射撃の要領よりも固定目標であったりと、簡単なので人員の養成も特に難しいものではなく、纏まった数も一気に用意出来るので一番最初に整えられることになった。
これらの砲兵戦力は重砲重量の関係から機械牽引が前提のものとなる為、高度に機械化された部隊として編制する必要がある。
これに必要なのは重砲を牽引する為のトラックや牽引車であるが、不整地走行能力を加味して陸軍で研究が進められている半装軌装甲車に牽引に必要なものを一式装備させたものにすることが決定された。
幸い陸軍に比べて鋼材の配分量は多く、数を揃えるのは特段難しい事ではない。
この車両の生産には父の会社が生産能力と余力の関係から選ばれた。
アメリカ式の大量生産に向いた自動車工場を持っているのは父の会社ぐらいだ。
なのでトラックと半装軌装甲車の大量生産が海軍から命令された訳である。
トラックは月産二〇〇台、半装軌装甲車は月産一〇〇台の生産が可能で、しかも工場二つでこれである。
なので工場そのものを増やせば生産数は倍々ゲームのように増えていくわけだ。
陸軍からも打診があったが、ならばその分の工場増設の為の資金と資材を寄越してくれるのならば応じられると言ってある。
陸軍が本気ならば資金と資材の提供が行われた数か月後には陸軍向けの車両が大量生産されるし、必要とあれば生産ラインの増設や他社の生産ラインに手を加えることだって可能なのだからな。
上記の計画に則り生産が行われるのが下記の大砲である。
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十五.五糎榴弾砲は、そもそもの重量の関係から機械牽引が前提のものとなっている。
日本軍でよく見られるスポーク車輪ではなく、パンクしないゴム式タイヤを履いている。
十五.五糎榴弾砲はそのまま砲身を使ったので六十口径もの長砲身になっているので重量五.四tに達する。
四輪のゴム式ノーパンクタイヤで支えられ、開脚支持脚を持つ。
砲弾は45.5kgの対艦用砲弾も使用出来るが、こちらは徹甲弾としてトーチカなどの堅牢な目標に使用されるので配備数が少ない。
その代わりに配備されるのが貫通力を大きく減らして、その分炸薬量を大幅に増やした榴弾が主に使用される。
この二種類の砲弾は規格が同じなので艦載砲でも野戦重砲のどちらでも使用可能だから弾が足りなくなったら相互に流用が可能だ。
信管は複合信管であり、着発射撃、炸裂遅延射撃、曳火射撃と全ての砲撃を設定によって行える。
十二名の人員で操作、運用される。
ハーフトラックによる牽引で三〇km/hで走行可能だ。
一門を運用するのに牽引の為の半装軌装甲車一両、弾薬運搬用トラック一両が必要になる。
これに伴い通信装備、観測装備などは丸ごと新式のものを行き渡らせている。
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十二糎榴弾砲の重量は45口径で三.五tに収まり、15cmクラスの榴弾砲が5tを超える重量もあり、機動九〇式野砲が口径75mmで1.6tであるから12cmクラスの榴弾砲としては平均的だろう。
スポーク車輪では無くゴム式ノーパンクタイヤ二輪を備え、開脚支持脚を持つ。
砲弾重量は最大20.4kg。
これは艦砲と同じ対艦用の砲弾であり、この砲弾はトーチカなどの目標に用いられ、通常は貫通力を減らして策薬量を大きく増やした榴弾が用いられる。
時速三〇kmまでの牽引に耐えられるように設計されており重量から考えれば必要十分な性能を誇る。
艦載砲である一二糎高角砲と砲身、砲弾は全く同じものを使用するので、作って倉庫に積んでおけばどちらに送ったとしても使える状態にされている。
それだけでなく通信機器や観測機器なども丸ごと新式のものを配備しており戦技研究と戦技教育もやる必要がある。
十二糎榴弾砲は十名の人員で運用され、ハーフトラック一両に牽引され、弾薬運搬の為にトラックが一両随伴する。
砲を牽引する車両にはそのまま砲自体の操縦要員が搭乗し、弾薬を載せた運ぶ車両には通信機器、観測機器と合わせて砲弾を載せる。
信管は艦載砲と同じ複合信管を用いているので双方に流用が可能だ。
牽引車一両、弾薬運搬車一両の計二両で運用される。
通信装備、観測装備などは丸ごと新式のものを行き渡らせている。
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上記二種の重榴弾砲に加えて陸軍でも採用されている機動九〇式野砲が採用される。
機動九〇式野砲は一両のトラックで牽引され一両のトラックで砲弾を運搬する。
一門辺り八名の人員で運用される。
通信装備、観測装備などは丸ごと新式のものを行き渡らせている。
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砲装備は既存艦砲の流用によって配備と運用開始までの時間短縮が可能だったために最優先で配備が進められ、それと同時並行で整備が進められたのはこれら重砲を牽引する為のトラックと半装軌装甲車である。
何を始めようにも牽引車である半装軌装甲車が無ければ始まらないし訓練も覚束無いと言う事で、第一に半装軌装甲車の生産を優先するべし、として生産ラインに組み込み、その次にトラックが生産ラインに入れられた。
これら二種の車両は二か月で取り合えずの数を揃え、そこから連絡や偵察用のバイク、四輪車が若干数調達された。
半装軌装甲車は牽引車としての役割が大きく、取り合えずその分があればいいのでそれ以外にはトラックを充てると言うのが当面の計画だ。
トラックの生産数を確保する為に生産ラインを二つに増やして対応している。
月産四〇〇台のトラック生産数があれば陸軍への供給も行えるし損失分も補填出来る。
これらを特別陸戦隊に配備し、通信連絡などの戦技教育を徹底すれば威力を発揮する筈だ。
榴弾砲と牽引車両の都合は付いたので特別陸戦隊の編制に取り掛かることにする。
海軍特別陸戦隊はばらつきがあるが、一〇〇〇名~一五〇〇名程度で構成される。
ここに大隊一つあたり一五.五糎榴弾砲一〇門、十二糎榴弾砲二十四門を配備する。
現在確実に用意出来るのは一四四門なので二十四で割ると六個大隊分となる。
機動九〇式野砲は四〇門の配備が予定されている。
基本的には四門一個砲兵小隊として編成され、これには機動九〇式野砲が配備される。
それぞれの小隊に一つの短距離通信機と観測機器が与えられ、小隊に長距離通信機が一つ与えられる。
これが集まって十二門一個中隊を形成し、これが基本火力単位とされる。
中隊指揮所には直接の砲兵火力は無く、指揮の為の設備と人員で構成される。
砲兵中隊の更に上には上級単位として砲兵大隊が組織される。
砲兵大隊には二十四門の十二糎榴弾砲が配備され、砲兵中隊三つの機動九〇式野砲と合わせて三〇門の砲兵火力を有する。
砲兵大隊には直接砲を持たずに各小隊、各中隊、大隊火力の統合運用を目的とした独立した砲兵司令部が置かれる。
この司令部は歩兵隊からの支援要請を統合して各砲兵小隊、中隊に目標を割り振って伝達したりという役割を持つ。
司令部そのものは砲兵火力を持たないのだ。
特別陸戦隊の砲兵火力の中心はこの連隊辺り三〇門の野砲、榴弾砲となり、歩兵部隊が持つ迫撃砲は別だ。
これらの火砲の調達は陸軍から分捕るなどと言うことはせず、こちらはこちらで生産ラインを用意している。
こうすれば軋轢は生まれないし海軍の余力を考えれば問題無く用意出来るレべルだ。
では何故二種類の砲を配備するのかという疑問があるかもしれない。
射程の長さが被っていることを考えると十二糎榴弾砲だけでも良いのでは、と思うだろう。
これに対する回答は単純に役割分担の問題だ。
榴弾砲には前線付近で直接歩兵などを火力支援するダイレクトサポートアーティと、敵砲兵に対するカウンター、要塞や敵梯団へ長距離攻撃を仕掛けるジェネラルサポートアーティの二種類に分けることが出来る。
そこで私は十二糎榴弾砲をジェネラルサポートアーティとし、機動九〇式野砲をダイレクトサポートアーティとすることを考えた。
これには単純に役割を分ける以外にも重要な要素が幾つかある。
その一つが対戦車火力を補う為だ。
日本軍の対戦車火器と言うとまぁ碌なものが無い。*3
ましてや現状マトモな対戦車戦闘を意識している戦車すらない陸戦兵力からしたら対戦車火力を整えると言うのは喫緊の課題であるのは間違いない。
その点、この機動九〇式野砲は対戦車能力に秀でている。
後々米軍が開発し正式採用されるであろうM4中戦車に対しても有効打を与えることが十分に可能であるから配備することにしたのだ。
砲弾は二種類だけでよく、兵站に与える影響も少ない。
極端な話、機材人員は別にしてもそれぞれの砲弾を輸送船一隻分ずつ運べばそれで完結するのだ。
少なくとも十二糎榴弾砲の砲弾は山ほど備蓄されているのですぐに無くなると言う事は無い。
機動九〇式野砲の砲弾数の問題は、当初陸軍と協議したがそもそも陸軍ですら砲弾が足りないのにそこに海軍にまで供給となったらどちらも共倒れになるのは目に見えている。
そこで海軍側から陸軍に生産ラインをこちらで新しく用意するから、ということで決着を付けた。
この生産ラインは一つしか建設されていないが旧来の陸軍のものよりも生産効率が五倍に跳ね上がっているレベルの代物だ。
陸戦隊用の砲弾生産、大砲そのものの調達は目途が立った。
なんせ自前で用意出来るようにしたのだ。
これでようやく一息吐けると思ったところにまた一悶着あった。
というのも陸軍側から野砲生産と砲弾生産に関して打診と言うか、要求があったのだ。
野砲と砲弾の生産ラインを増やしてこっちにも供給して欲しいと言われたのである。
この打診には、陸軍の砲弾不足という大問題が絡んでいた。なんせ無駄に種類のある大砲はそれぞれ別の砲弾を必要とするわけで、そうなるとただでさえ少ないリソースをあちこちにより少ないリソースとして振り分ける必要がある。
勿論陸軍にはこれらの生産ラインの整理や効率化を図るような余裕は到底無い。
そんなところに海軍が自腹で生産ラインを作って大砲と砲弾を用意すると言って、しかもその生産ラインの生産効率は陸軍のものとは比べ物にならない生産能力を誇ると言うのだからこれに目を付けない訳が無い。
とは言えこちらも新造艦の建造や既存の艦の改装などが主目的であってあくまでもこちらは浮いた装備を有効活用する為に拵えたと言うだけなのだ。
だからこれ以上生産工場、生産ラインを増やしたりするのは……、となるわけだ。
「陸軍からの要求だが、どうするかね?」
「そもそもこちらに砲弾と大砲を作る生産ラインを増設する余力はあるのか」
「無いと言えば嘘になります。ですがあると言うのも微妙です」
「と言うと?」
「資材の問題です。我々が用意出来た分の資材は我々の分だけでそれ以上用意するには新造艦の中から何隻かを中止する必要があります」
こちらが身銭を切らないと用意出来ないのが実情だ。
辛うじて陸戦隊分は用意出来るだけの資材を調達出来たと言うだけで陸軍分とまでなると全く足りない。
「具体的にはどの艦種から何隻ぐらいだ?」
「駆逐艦ならば三隻~四隻。軽巡なら二隻です」
「……些か手痛いな」
「護衛艦隊に配備される予定の旧式駆逐艦をこれに充てると言うのも手段ですが、そうなると正規艦隊に配備する駆逐艦の数をその分護衛艦隊に回す必要があります」
「うーむ……」
「山田君はどう思うか?」
「陸軍に恩を売る、という点で言えばやった方が良いでしょう。後々に作戦であるとかで一度か二度ぐらいは協力させるか譲らせることが出来ますので」
「駆逐艦の解体と配備に関してはどうか?」
「確かに数隻分は痛いですが、その分正規艦隊には防空巡洋艦や戦艦が配備されますから当面の間は補う事が出来ると考えます」
そう答えると米内さんと山本さんは腕を組んで考える。
「よし、陸軍の要求に答えてやろう。ここで恩を売っておけば後々何かと良い方に働く筈だ」
「宜しいのですか?」
「あぁ、構わん。もとより新型駆逐艦が出来たら解体される旧式駆逐艦なのだ、時期が早くなったと思えばいい」
「分かりました。では生産ラインの増設で進めさせていただきます」
「頼むよ」
陸軍からの要求である、砲弾と機動九〇式野砲の生産ラインの増設が決定され、そのための資材は旧式駆逐艦から数隻を解体することで捻出。
ついでに解体で得られた十二糎榴弾砲は砲弾供給の関係で海軍が運用することとなったが、まぁもう一個陸戦隊の編制が出来るぐらいの感覚で居ればいい。
どちらにせよ解体で得られた資材は新型駆逐艦の建造に回されるが砲は両用砲を搭載するので元の十二糎砲は使い道が無いからな。
固定砲台にするか、榴弾砲にするかの二択しかないので有効活用してやろう。
砲と砲弾製造の為の資材は陸軍から調達するが、まぁ当然と言えば当然だ。
小火器の生産増も打診されたが流石に無理、と断っておいた。
まぁ余剰分を供給する分には問題無いから余剰分があったら売ってやるぐらいの感覚だ。
特別陸戦隊は以下のように編成される。
陸戦隊編成概要
司令部 砲兵司令部
↓ ↓
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
歩兵大隊 砲兵隊 工兵中隊 衛生中隊 輜重大隊 通信隊 葬儀小隊
↓ ↓
歩兵大隊 観測隊 架橋小隊 輸送中隊
↓ ↓ ↓ ↓
歩兵大隊 重砲隊 道路小隊 整備中隊
↓ ↓
歩兵大隊 軽砲隊
陸戦隊は四個歩兵大隊と砲兵隊が基幹戦闘部隊であり、戦車は有さない。
ーーーーーーーー
歩兵隊 人員一五〇〇~二〇〇〇名程度
各歩兵大隊の装備は基本的には小銃と軽機関銃、輸入したドイツ製MP40となっている。
既に同盟を結んでいるので、それを盾に製造機材一式を三セット、ドイツが欲しがる希少金属類と交換したのだ。
戦争に備えてある分には困らないと言ったところか。
こっちは随分と安上がりで優秀な装備が手に入ったのでホクホク顔だ。
まあ戦争回避が出来るなら即行で手を切るが。
ダイレクトサポートアーティーとして迫撃砲を中隊から10門程度づつ有する。
戦力は最大で二〇〇〇名。
基本戦力の単位は従来の小隊では無く、中隊からが基本戦力単位だ。
ーーーーーーーー
砲兵隊 人員約八九〇~九五〇名
機動九〇式野砲 四〇門 320名(各門八名)
十二糎榴弾砲 二十四門 240名(各門一〇名)
一五.五糎榴弾砲 二〇門 240名(各門十二名)
牽引用トラック 四十四両(四両予備)
牽引用半装軌車 五十二両(八両予備)
弾薬運搬用トラック 九十六両
砲兵隊は砲兵隊司令部が砲兵指揮に於いて連隊司令部と同格の権限を持って設置されている。
砲兵隊の戦力は八十四門の大砲が主力だ。
二十四門の十二糎榴弾砲を持つ重砲隊と、三〇門の機動九〇式野砲を持つ軽砲隊に分けられる。
砲兵は十二糎榴弾砲を重砲、機動九〇式野砲を軽砲と分類しておりそれぞれを装備する部隊を重砲隊と軽砲隊と分類して呼称している。
軽砲隊は対戦車戦闘も担っている。
それら砲を牽引する為のトラックと半装軌車が半々程度装備され、弾薬給弾車が更に付く。
これとは別に観測隊が存在する。
こちらは一〇〇~一五〇名程度で編成され、各種砲に付き約三〇~五〇名づつの人員が付く。
ーーーーーーーー
工兵中隊 人員二〇〇名
四個小隊からなり、工兵小隊、戦闘工兵小隊、架橋小隊、道路小隊を有している。
彼らの任務は基本的には戦闘工兵の任務と通常の工兵の任務を行うものである。
架橋小隊の任務は部隊がそのままでは移動困難であると判断された川や溝などに橋を架けたりすることで、九七式中戦車を改造した架橋戦車や、それでは長さが足りない場合に備えて周辺から調達した木材等を用いた橋を建設する為の機材を有する。
基本的にはプレハブ化された橋を組み立てるだけで済むのだが、これだと長くても二〇mが限界で川幅や水深のある川だとどうにもならない。
そう言った場合に備えて海軍が有する大発動艇を指揮下に加えて橋とすることが出来る権限も付与しておいた。
周辺で資材を調達しなければならない場合に備えて電動鋸や組み立てた橋の一部を持ち上げる為の小型クレーン車も保有する。
機材運搬と人員移動の為に一〇両のトラックを有する。
道路小隊は道路を敷設したり整備することが任務である。
重建設機械、ブルドーザー、パワーショベル、ホイールローダーを装備している。
工兵小隊は通常の工兵で構成されており、野戦築城任務が主であり各工兵小隊に人員を貸し出すこともある。
道路小隊と同じ機材に加えて七t程度のものを持ち上げる能力がある小型クレーン車を持つ。
ここまでの工兵は兎に角土木作業員を必要とする為、米海軍のシービーを参考に編成している為、それら土木作業に慣れている人間が主に集められたためシービーと同じように最高齢五十七歳の人間も所属している。
武装は小銃のみで工兵としての能力があれば良いとしているので射撃訓練はしているが実際はマトモな戦闘能力は殆ど無い。
人員を集める際、徴兵と言う形で招集したのではなく、全国各地の建設会社にアポイントメントを取って、私が直接出向いて力を貸してもらえないか、と丁寧に説明して回ったわけである。
全員が全員志願したわけでは無いし、志願した全員が受かったわけでもないが、採用された人物がいた会社には退役兵を紹介して補填をしている。
これらの工兵小隊は編成が完了した瞬間から建設機械などの操作を学び、陸軍の演習などに実地訓練として参加して練度を高めている。
その際に陸軍工兵からあまりの仕事の速さと建設機械を大量投入しての仕事ぶりから羨ましがる声が多数上がったとか。
戦闘工兵小隊は上記の工兵小隊とは全く毛色の違うものだ。
彼らは上陸戦では上陸地点の障害物除去、敵地雷原除去、障害物除去、破壊任務など、敵部隊からの抵抗が予想される場面などで工兵任務を行う部隊だ。
なので老兵は一人も居らず、戦闘工兵小隊は歩兵として優秀な成績を持った者が志願と言う形で収集し、尚且つ工兵としての能力を付与された特異な部隊だ。
なので純粋な歩兵としての能力も高く、通常の工兵任務の場合は他工兵小隊の護衛も兼ねている。
これらの工兵小隊はそれぞれ専門性が高いと言うだけで、それぞれが各種工兵が必要な任務に従事し、その場合はその専門性に応じて指揮を執る小隊が変わるようにしてある。
なので連携して飛行場を建設したりすることも出来る。
飛行場設営にはいままでであれば一か月とか掛かっていたが、この陸戦隊を以てすれば陸戦隊全体を指揮下に入れて建設した場合二日で飛行場を拵えることが可能で、四日もあれば舗装された滑走路を持つ飛行場を建設することが出来る。
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衛生中隊 人員一五〇~一七〇名
衛生中隊は読んで名の如く、戦地における負傷兵の治療や前線での負傷兵の回収を担う。
軍医二〇名、衛生兵一五〇名が属する。
軍医にはそれぞれ五名の衛生兵が付き従ってその仕事を補佐し、五〇名の衛生兵は前線での兵士の救護や必要によっては前線から後方の野戦病院へ運ぶ任務を帯びる。
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通信隊 人員三〇名(交代要員込み)
各部隊の通信兵とは別に統合された指揮通信を担う通信隊が置かれる。
各部隊にはそれぞれ通信兵が居るが、それとは別に通信隊が置かれている訳である。
これらの部隊は綿密に連携を取るべく、高い通信能力を持ち維持しなければならない。
そのためには専門の通信兵が必要となって来るのである。
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輜重大隊 人員約三〇〇名(交代要員込み)。
トラック 一〇〇台
半装軌車 五〇台
燃料輸送車 四〇台
輜重大隊には専門知識と高い計算能力が必要なデスクワークを主とする大隊本部と、トラックや半装軌車を主に装備し物資人員の輸送を担う輸送中隊、そして各部隊の有する車両の整備を担う整備中隊に分けられる。
特別陸戦隊が持つ物資や装備などの全てを管理する任務を帯びており、重要性は高い。
輜重中隊は車両が使用不可能になった場合は歩兵大隊から人員を借りての人力輸送を行う権限を与えられている。
基本的な装備はトラックであり、精々自衛用の小銃があるぐらいだ。
彼らが部隊で最も重要と言っても過言では無く、彼ら無くして部隊は成り立たないと言える。
燃料輸送車は他にも多数配備されている六輪トラックの荷台を取り外し代わりに燃料タンクを載せたものだ。
整備中隊は車両や装備の野戦整備では無く、本格的な重整備を行う。
整備は野戦整備と、ネジの一本に至るまでの重整備に分けている。
この整備中隊は重整備を主任務としており、砲兵が持つ重砲を整備する為の小型クレーン車を筆頭に各種整備用機材を有する。
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陸戦隊は最大で約三七〇〇名もの大所帯となった訳である。
陸軍だと火力の事も考えれば旅団を凌駕する規模の戦力だ。
それぞれの兵科は十分に訓練され、上陸戦から防衛戦まであらゆる任務遂行が可能となっている。
陸戦隊がここまでの機械化と装備に恵まれているのは、配備したりするための部隊が少ないからに他ならない。
各特別陸戦隊は統廃合されてこのような規模に膨れ上がっているだけで、陸軍はこのような装備充足率や機械化率は規模が違い過ぎて全く実現不可能だ。
あくまでも少数精鋭規模の部隊数しか編成されていないから出来たことなのだ。
陸軍と比べても最も装備優良な部隊だと言える。
なんせ砲兵火力だけで八十六門、迫撃砲を加えれば一八〇門を超える上に全ての部隊が機械化されている。
これだけの能力を誇るのは陸戦隊だけだ。
勿論陸軍にも少なからず建設機械や機材は存在するが、戦線に展開している戦力に対してそれらの数が圧倒的に少ないと言う欠点がある。
それに対して特別陸戦隊は編成改変に伴い、6個特別陸戦隊が編成されている。
総兵力にして最大約二万三千名程度。
編成や規模が拡大したとしても三万名、余力を見ても三万四千名ぐらいにしかならない。
というかそれだけの兵力があるなら艦艇勤務者を増やしたいから、陸戦隊は新しく編成されたとしても一~二個陸戦隊が精々だろう。
これだけの兵力に行き渡らせればいいだけの話だから、陸軍の大陸方面軍に行き渡らせるより遥かに簡単だ。
砲兵火力は一門辺り二個分隊~三個分隊程度に対し火力支援を提供することが出来る戦力を有する。
少なくとも日本軍の中ではこれだけの火力支援を受けられる陸上兵力はまず無いだろう。
後にこれらの編制に、九七式中戦車から砲塔と旋回装置を外して砲塔があった部分に天板を設けて25mm機銃を無理矢理載せてくっつけただけの対空戦車が配備されることになる。
他の試製対空戦車は回転砲塔を備えたりしているが、そもそもちゃんと配備されたりしなければ幾ら優秀だと言っても結局全く役に立たない。
不格好でも必要な時に必要な場所に存在し、使えればいいのだ。
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武器や戦術の開発、部隊編成だけでなく、後方兵站の方もしっかりとやらねばならない。
どれだけ優秀な編成をしていても、どれだけ優れた兵器を持っていても、どれだけ優れた部隊だったとしても兵站無くして存在することは出来ない。
日本軍の致命的欠陥を上げろと言われれば、ある程度軍事を齧った人間であれば即座に兵站にある、と答えるだろう。
簡単に言えば国家規模の物流システムを構築しなければならない訳である。
幾ら護衛艦隊の編制と整備を進めたとしても物流システムがちゃんとしていなければ意味が無いのである。
兵站専門部署の整備と拡充、軍単体での輸送能力の確保、徴用した場合と徴用していない場合での民間船舶の輸送能力の確認と把握。
これらを最初に始めて物流システムを構築していく。
戦時における輸送船の運行規定の制定なども決めておかねばならない。
戦時下になった場合護送船団として纏めて運用することを定めたり、どの物資を何処へどれだけ運ぶ必要があるのか、どのような編成やスケジュールを組むのか。
どの物資や資源にどれだけの船舶を割り当てるのか。
昼夜問わず事細かにそれらを決めて行かなければならない。
そうして多くの準備などを進めていると、一月中頃に私は山本さんに呼び出されていた。
そこには私だけでなく、大西瀧次郎少将の姿もあった。
「山田中将、お久しぶりです」
「大西さん、敬語は止めてくださいと何時も言っているじゃありませんか」
「私が先輩だからと言って階級が上の人に敬語も無しにとは行きますまい」
大西さんとは一年ほど一緒に勤務していた時期があり、その時から交流が続いている。
私よりもだいぶ先輩なのだが、軍令部から人事における自由裁量権を得られたことで私は言われた通り、諸々の責任者を任されることになり去年中将に昇進していたことで大西さんよりも階級が上になったのだ。
だから敬語を使ってくれている。
待っていると、遅れて山本さんと米内さんが部屋に入って来た。
「いやいや、遅れてすまん。海軍大臣ってのは忙しくて忙しくて敵わんな」
頭をわしゃわしゃと掻きながらソファにどっかりと腰掛けてこちらを見据えた。
するとすぐに本題に入った。
「さて、君らを呼んだのは他でもない。対米戦争に向けての話だ」
「外交交渉を重ねているが、成果は芳しくないものでな。このままだと山田君が言ったように冗談抜きで来年か再来年辺りには対米戦争をやらなければならない可能性が出てきた」
「そこでだ、君らには開戦した場合に備えて真珠湾に対する航空攻撃作戦と、それが駄目な場合のフィリピン沖辺りでの敵艦隊撃滅作戦を立案してもらいたいのだ」
予想してはいたがやはり来たか。
「山田君、君は何か意見があるかね?」
「……私としてはフィリピン沖で敵艦隊を撃滅することを提案します」
「おいおい、そりゃ最初に君が言っていた真珠湾攻撃を第一撃とするべきという意見と違うじゃないか」
「まぁ、いい。理由を言ってみないか」
「確かに真珠湾に対して第一撃を加え敵艦隊を撃滅することが出来たのならば、その後の作戦が大いにやり易くなるでしょう。ですがこれはあくまでも軍事面での話であって、政治の話を加えて考えると第一撃で真珠湾をやるとなったら状況がかなり変わってくるでしょう」
「確かにそうだが……」
政治の世界に身を置いている山本さんは指摘されると唸った。
「しかし、ではどうするというのだ?」
「フィリピン沖で敵艦隊を撃滅し、その後に真珠湾を叩くと言う方向に変えては如何でしょうか?」
「それで成功するのかね?」
「私が真珠湾攻撃を提案した際には手持ちの戦力が少なく、それでやれることを考えなければなりませんでしたが、今は3個艦隊の主力空母十三隻に戦艦八隻が揃っております。兵站を支える護衛艦隊も既に準備が出来ております。当時の三倍以上の戦力を抱えているわけですから、フィリピン沖での戦いでも問題無いでしょうし、上手いこと話せば陸軍に貸しを作れます」
「私としてはハワイをやりたいが、君は反対なのかね」
「反対という訳ではありません。問題は敵太平洋艦隊がハワイを攻撃した時に存在しているか、ということです。日米関係が怪しい以上、諜報で得られる情報も確実とは言えません。空母を取り逃せば後々脅威になりますし、幾ら鈍足とは言え戦艦を取り逃がせば後々の作戦で立ちはだかってくるでしょう。鈍足戦艦とは言えども輸送船などからしたら太刀打ちできない脅威です」
「その点、フィリピンに誘引してしまえば必ず叩くことが出来るわけですから、最初にフィリピン沖で敵艦隊を撃滅し、南方作戦などが一息吐いた頃に、ハワイを攻撃すると同時に占領してしまえば宜しいかと」
米国民への心理的影響で考えれば開戦と共にハワイ諸島を占領してしまうのが一番なのだが、ハワイだけ占領すると言う訳にも行かない。
そこに行くまでの島々を占領しないとこちらの補給線が叩かれてしまう。
なので道筋立てて行くと資源地帯との海上輸送航路を確立させ、島々を占領しつつそして最後にハワイとなるのだ。
「敵だってハワイの守りは疎かにはせん筈だ。艦隊を撃滅したとしても落とすのには苦労するだろう。あそこの要塞は最強と言っても差し支えない」
「そこは情報戦を仕掛ければ良いのです。ハワイにおける敵戦力は大きく、防御力が高く攻撃する利は無し、それよりも資源地帯の安全確保の為に縦深を確保する為南下を進めると嘘の情報を流すのです。そうすれば全てとは行かずとも幾分かは兵力が減るでしょう。あるいは潜水艦をハワイ近海に放って干上がらせるのも一つの手です」
ハワイ要塞は16インチ砲を始めとした数多くの大砲を備え、それらは堅固な要塞に守られている。
46センチ砲を直撃させたとしても無力化出来るか分からないような場所さえあるし、地上要塞の大砲と戦艦が撃ち合えば十中八九戦艦が負ける。
仮に上陸が出来たとしても要塞からの砲撃に晒されてハワイ攻略など覚束無い。
だからそれらを無力化するか、相手をしなくても良いように作戦を練る必要がある。
「なるほど、それならば労力少なくして敵を最大限疲弊させられるな」
「そうすれば先程も言った通りハワイ占領も十分現実的な範囲に捉えることが出来るでしょう。ハワイ要塞の攻略は別途考える必要がありますが南方作戦で陸軍に恩を売りに売っておけばその際に兵力を出してもらうことも可能です」
戦争はただ主力部隊がぶつかり合うだけのものではない。
戦争とはいかにして情報を集め、いかにして補給を行うかが問題なのである。
情報戦と言うのはただ単純に敵の動きを読めばよい、という訳では無い。
偽の情報を流し、敵の動きを誘導するのもまた情報戦の一つなのだ。
それに、私としてもハワイは出来る事なら手に入れておきたい。
ハワイを獲って、そこを基地に潜水艦を西海岸に大量に放てば米国世論に大きな圧力を加えられる。
上手く行けば不利な条件になる可能性があるとしても講和も結べる筈だ。
被害が大きくなる可能性が高いから余りやりたくは無いが必要なら米本土に艦隊で直接攻撃を仕掛けるのも視野に入れておくべきだろう。
最悪一過性の攻撃として上陸戦も視野に入れる必要がある。
我々には米国本土へ上陸するだけの能力と余力がある、と米国世論へ知らしめることさえ出来ればそれでいい。
「敵の動きをこちらが出した情報で誘導する、そういう事か」
「はい。戦争はあらゆる方法で、多角的に戦う必要があります。ただ軍隊の主力同士が殴り合えば良いのではありません。そこには政治が絡み、世論が絡み、それぞれの世情や情報が幾つも絡んで複雑なのです。それらを迅速かつ正確に分析した方が勝者足り得るのです」
そう説明すると、少し悩んでからうむ、と腕を組んで頷いた。
「分かった。第一撃をフィリピン沖での撃滅として、第二撃をハワイへの攻撃、占領としよう。だが、万が一にでもやるとなったら何としてでも成功させねばならんぞ。いいな?」
「勿論です」
「大西君は第十一航空艦隊を率いて作戦に参加してもらう。色々と思うところもあると思うが山田君の手伝いをしてやってくれんか」
「分かりました」
そうして外交によって解決が成し得なかった時に備えて作戦計画とその準備を進めていったのである。
「しかし、フィリピン作戦ならまだしもハワイ作戦となると色々と足りないものが多過ぎますな」
大西さんが悩む。
それもそのはずで、フィリピンで敵をやるならば今の装備などで事足りるがハワイ、正確には真珠湾に停泊する敵艦を叩くとなれば足りないものが多過ぎる。
「航空戦を指揮出来る司令官が十人は欲しいところだが……」
「艦隊を任せられるだけの階級の人間に航空戦の指揮を執れる人物は殆どいませんし、そうなると砲雷などから転科希望か、或いは引っ張ってくるしかありませんな」
「そこは米内さんや山本さんに任せておきましょう。一応航空の指揮を執りたいと望んでいる人が何人かいるには居るから、その人達には早めに航空部隊の指揮官になって貰って経験を積ませたいし、何より搭乗員と乗組員の訓練も早急にやらないと。新造艦が揃っても乗組員が居ないのでは話になりません」
「要相談ですな」
人材の話から、兵器や戦術の話まで様々である。
何人かは既に転科をしたいと手を挙げてくれている。代表は山口多聞少将だろう。
これを発表した時、わざわざ私のところに殴り込んで来てまで航空に転科したいと言ってきたのだから、よっぽどなのだろう。
まぁ有能には間違いないので構わないのだが、それはそうと空母に乗せろと言う催促を毎日するのは止めて欲しい。
「真珠湾の深さは10m前後、今ある魚雷は投下した時に水深50mまで沈降しますから、海底に突き刺さってしまう」
「新規開発は間に合わないでしょうから今ある魚雷を浅深度魚雷に改造するしかありません。空技廠に魚雷の改良を早急に行うようにさせましょう」
技術的な問題は技術者に任せるとして、作戦の方はこっちでやらねばならない。
「大西さんのところの一一航艦の練度はどれぐらいでしょうか」
「中将が開発に携わったという四発重爆、零式重爆の評判は上々ですな。九九式双発汎用機の方も場合によっては攻撃に参加させられます。台湾からなら零式重爆でフィリピン北部の殆どを爆撃範囲に収められます。米軍の頭を押さえて出鼻を挫くのも容易でしょう。中には双発機と比べておる馬鹿者もおるようですが、そもそもの役割が違うと言うのに比べてどうするのだとと言っておきました。あれだけの量の爆弾をあれだけ遠くに運べるのならば、重爆の名に恥じない活躍を期待出来ます。戦果を挙げれば文句はありますまい」
「それなら良かったです。あれを使って、大西さんの部隊は台湾からフィリピンへ爆撃をやってもらうことになる可能性が高いかと。フィリピンの飛行場が使えるようになったら進出してもらいます」
大西さんの指揮下には一一航艦と九九式双発汎用機を装備する三五一航空隊と同じく九九式双発汎用機を装備する三五二航空隊の三つの部隊が入っている。
総兵力は零式重爆八〇機、九九式双発汎用機一四四機、零戦八〇機も含めれば三〇〇機を超える大兵力だ。
彼にはこれらの兵力でフィリピン北部の米軍飛行場を潰してもらう役目を担ってもらうことになる。
幾つか話を重ねつつ、ハワイを占領する場合どうするかという議題になった。
「最低でも陸軍から三個か四個師団は出してもらう必要があるな。初戦で米艦隊を徹底的に叩いておくことが出来れば、その時にはハワイの基地航空隊だけが懸念で米艦隊は殆ど障害にはならない筈」
「可能ならフィリピン沖で米空母を全て撃沈することが出来れば後は鈍足戦艦が相手です。空母機動部隊と潜水艦隊でタコ殴りにすることができますな」
エアカバーさえどうにかしてしまえばあとは楽だ。
空母艦載機でも、潜水艦による群狼作戦でも、どちらででもいい。
「英東洋艦隊は?あれの脅威は米艦隊程とは言わずとも放っておけるものではありませんぞ。空母もいるかもしれませんし放っておいたら米艦隊を相手にしている間に輸送船団が襲われる可能性も」
確かに東洋艦隊の脅威が存在するのは事実だ。
この時期はまだ増援を受けていない状況だが、開戦前には確実に有力な部隊を送り込んでくる筈だ。
「潜水艦隊と航空機で偵察をしつつ動向を探ります。恐らく輸送船団を攻撃しようとしてくるものと思いますが、護衛艦隊はあくまでも船団護衛が主任務ですから戦艦相手は逆立ちしても勝てません。三つか四つぐらいの汎用機か陸攻部隊と陸軍から零戦の部隊を2つ用意して備えさせます」
「東洋艦隊攻撃ですか、失敗すれば輸送船団壊滅も有り得る大役だ。しかし護衛艦隊だけで足りるでしょうか」
「あれはあくまでも潜水艦と輸送船団を攻撃してくる程度の航空機に対しての備えであって流石に戦艦などの相手は出来ないですから、万が一に備えて第三艦隊から長門と陸奥を派遣します。新型戦艦は開戦には間に合わなさそうですし、新型巡洋戦艦も敵戦艦との撃ち合いは不利。陸軍から戦艦の援護を望む声が上がっています。士気高揚の事も考えれば長門と陸奥ならば問題はないでしょう」
「第三艦隊の守りはどうされるので?戦艦二隻が抜けたとなれば防空網にかなりの穴が出来てしまうかと」
大西さんは以前自らが率いる十一航艦と、新しく編成された第一艦隊とで実際に模擬魚雷を用いて演習を行った際に直接攻撃隊の指揮官として部隊を率いて第二艦隊に攻撃を敷けたことがある。
演習内容は攻撃隊に護衛戦闘機無しと有りの二つの状況で行われた。
どちらでも攻撃隊の損害は大きく壊滅判定、艦隊への損害は護衛をしていた霧島に魚雷を一発命中させて中破させただけであった。
理由は個艦レベルと艦隊レベルでの対空火器運用能力の工場によって、対空能力が大幅に向上したことが主な要因だ。
面積の小さい単発機ならばまだしも双発機で突っ込んでも効果的な攻撃は困難だということが原因だと言うのは明らかであった。
その時の記憶が鮮明に残っているのか、艦隊が敵機に攻撃を受けたら戦艦が抜けた穴を突破されてしまう心配をしているのだ。
「もう少し後に防空駆逐艦と防空軽巡が連合艦隊に引き渡される予定ですので、それで取り合えず埋め合わせをします。艦隊には艦戦隊も十分な数を配備するのでそう易々とはやられません」
説明すると成程、と頷いた。
空母二隻ぐらいの損傷は所要範囲として考えておけばいい。
防空、と頭に付く艦種は基本的に雷撃戦を一切考慮せず、その設計は防空にのみ徹底的に重点を置いたものになる。
新開発の九四式高射装置などの最新ともいえる装備を搭載しており、それに加えて10cm連装高角砲を防空駆逐艦は四基八門、防空軽巡は八基十六門装備する。
機銃も三連装機銃から単装機銃まで多数装備しており、対空火力と言う点に置いては現状世界トップクラスと言えるものだ。
当然それだけのものを搭載しているのだから別のところにしわ寄せは行っている。
前述の通り、雷撃戦を一切考慮していないと言うのは全くその通りで、重巡ですら装備している魚雷発射管をこの二艦種は一つも装備していないのである。
仮に魚雷を搭載するとしても、通常魚雷や酸素魚雷に限らず魚雷と言うのは扱いが難しく、なにより一発の機銃で大爆発を起こして轟沈することもあり得るのだ。
ましてやこれからの海戦は航空機が中心になり砲雷撃戦の機会は殆どと言っていいぐらいに訪れる事が無くなる。
史実での、特にガ島を巡る一連の砲雷撃戦は制空権を取り切れない海軍が夜間と言う航空機運用が困難な状況で一発逆転を狙う為に生起した、いわば苦し紛れの行動の結果ともとれるわけである。
制空権を確実に握ることが出来ていたのであれば態々砲撃などしなくても、艦載機や重爆による爆撃で済んだ話だからだ。
この防空駆逐艦、巡洋艦の採用や設計の際には、兎に角雷撃馬鹿の多い日本海軍の上層部や現場を抑える事の方が大変だった。
重巡にすら魚雷を載せ、挙句酸素魚雷なんて言う代物まで生み出すような魚雷馬鹿達だ、ましてや航空機の有用性が実戦に置いて証明されていない現状は、駆逐艦に魚雷を載せないとは何事か、とそれはもう大反発を食らったわけである。
まぁあっちこっちを走り回り、方々にもご協力を多く得られたお陰でどうにかこうにか建造にまで漕ぎ着けたのである。
因みに言っておくと砲戦に置いてはこの二艦種はかなりの能力を発揮すると見積もられている。
というのも搭載している主砲の射撃速度が兎に角早く投射火力量が優れているからだ。
射撃速度が早く砲身寿命を迎え易いと言う欠点もあるが、その分射撃速度が速いと言うのは短時間における火力投射量が優れていると言う事に他ならない。
だから巡洋艦程度の相手にならば遅れは取らない筈だ。
個人的には航空戦で戦闘を終結させ、砲戦などやりたくないのが正直な話だが何事も可能性はある。
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そうこうしているうちに日独伊三国同盟が結ばれ、1941年になると仏印進駐が行われ、日米関係は決定的な亀裂を生じることとなった。
こうなっては対米戦は避けられぬものとなっていた。
今更ドイツとイタリアとの同盟破棄や、大陸からの撤兵など望めるべくもない。
陸海軍や国民がそんなもの認める筈も無く、それを実現しようものなら5.15事件や2.26事件の再来になる。
あの時に当事者を徹底的に処罰していれば話が変わっていたかもしれないが後の祭りだ。
問題は現在の内閣が東条英機内閣であるということだ。
碌な計画も無いまま、希望的観測と精神論、根性論だけで戦争をやろうと言うのだから狂気の沙汰である。
それでも東條自身は陛下から直接言われて対米戦回避の為に動いているのだが今更だろう。
そんな中で和平交渉は中々に進まず、海軍の人事や体制などはこの一年で完全に戦時に移行している。
主力艦隊は呉、横須賀、佐世保の3か所に分けられて配置されており作戦発動となればすぐさま作戦行動に移すことが出来る状態を整えている。
護衛艦隊には最新の対空対潜装備が行き渡り、旧式駆逐艦混じりとは言え護衛空母も含んだ立派な船団護衛戦力として数えられる。
特に問題なのは陸軍の方で東條が行った人事にある。
史実でも言われたように、陸軍には三奸四愚と呼ばれる人物たちを要職に置いたことは余りにも酷過ぎた。
有能な人物、山下さん、今村さん、栗林さんを始めとした将官は大陸戦線の前線指揮官に悉く左遷されているのだ。
これで戦争をやると息巻いているのだからどうしようもない。開戦前であると言うのに陸軍の人事はもう滅茶苦茶の一言に尽きる。
どうにかして彼らを中央に戻せないか画策しているがやはり海軍はまだしも陸軍となると畑が違い過ぎて思うようには行かない。
私は御前会議に出席し、海軍における戦争計画立案に携わった者として永野さんから陛下にご説明するように言われている。
御前会議が開かれると、陛下はまず最初にどれぐらいの期間で片付ける確信があるのか、そしてどのように戦争を終わらせるのかと尋ねられた。
するとそれに対して陸軍大臣東條英機と杉山元参謀総長が答えた。
「南方方面だけは三ヶ月で片付けるつもりであります」
すると陛下は、
「杉山は支那事変勃発時の陸軍大臣であり、その時は陸軍大臣として一ヶ月くらいにて片付くと言ったように私は記憶している。しかしながら四年の長きに渡りながら未だに片付いていないではないか」
と仰られた。
それに対して杉山参謀総長は、
「支那は奥地がひらけており、予定通り作戦がうまく行かなかったのであります」
そう答えた。
すると陛下は表情を厳しいものに変え、
「なに!支那の奥地が広いと言うならば、太平洋はもっと広いではないか。如何なる確信を持って三ヶ月と申すのか!」
と強く叱責された。
それに対して杉山参謀総長は全く弱り、頭を下げたまま何も答えられなかったのだ。
そのまま一分と少しほど沈黙が流れ、永野軍令部総長が助け舟を出すという始末だった。
「陛下、本来ならば私が責任を持ってご説明させていただくべきでありますが、今回は私ではなく海軍一と言われる頭脳を持つ山田中将からご説明させます。私よりも彼に御説明をさせた方が陛下もよりご理解頂けるでしょう」
永野さんに言われ、予定通り私が陛下へご説明をさせて頂くことになった。
「海軍は、対米戦に置いてどのような展望を持っているのか」
「嘘偽りなく申し上げれば、勝ち目はまず無いとしか申し上げられません。陛下も御存知の通り、我が国と米国との間にある国力差は余りにも大きいものです。ましてや国力で勝っている中国相手にも勝ち切れていないと言うのに更に国力で圧倒的に我々に勝る米国とも先端を開こうなど、無謀も良い所です」
「ではもし開戦となれば、負けると言うのか」
「少なくとも一~二年の間は我が方が確実に優位戦えるように準備を進めております。ですがそれ以降は我々が押され始め、三年目で拮抗状態に、四年目で米国有利、五年目ではもはやどうしようも無い負け戦と言うように戦争は推移すると考えております。この展望ですらかなり甘い見通しでございます」
「回りくどいことはいい、正直に答えよ。戦争になったら日本は負けるか?」
「……戦略や戦術次第では負けないようにすることぐらいはどうにか出来るでしょう。しかしながら勝つことは不可能です。良くて五分五分の講和か、現実的なところを申し上げますと四:六か、三:七ほどの不利を飲んだ条件での講和を結ぶ必要がございます」
「それは何故か」
「敵を降伏させるには、常道として敵の本拠地に乗り込んで白旗を掲げさせる必要がございます。ですが、遥々太平洋を渡って米国本土に上陸するほどの力は我が国にはございません。ましてや米国本土を占領するなど夢のまた夢となりましょう。その逆に米国は日本本土に上陸し占領するだけの能力がございます。米国はその工業力が全力稼働するまでの間を耐えてしまえば、それ以降は時が経てば経つほど有利になるのですから講和に応じる理由もありません」
そう説明すると陛下は頷いた。
しかしながら陛下が納得されても、これに納得しない奴が必ずいるのだ。
その連中をどうやって黙らせるかが、戦争回避の一つだが、残念ながらその連中の声が大きくなり過ぎた。
この御前会議の結果、陛下は最終的に話し合いによる解決を第一とし、万が一に備えて陸海軍は全力で準備に当たる事とご指示を出された。
ーーーーーーーーー
御前会議が終わり、私からの説明によって陛下は外交によって解決するように命じられたが日米共に譲歩せず、日本から提示した代替案も米国は悉く拒否。
結局日米交渉は決着が付かず、1941年11月26日にハル・ノートが提示され、遂に翌月1日、再び開かれた御前会議にて開戦が決定されたのであった。
相変わらず東條を始めとした陸軍首脳部の対米戦における展望は楽観的であるとしか言えないものだ。
頭を抱えるしかない。
アメリカどころか、イギリスやオランダなどとも戦争をやろうと言うのだから終わりである。
どちらの国も国力は日本より上であるし、そんなのを同時に相手してどうやって勝てると考えているのか全く理解が出来ない。
こうなれば海軍全体でボイコットやストライキでも起こしてやろうかと考えたがやろうとしても出来ないのでこの案も流れた。
「いよいよ開戦だな……」
「いいえ、まだ最終交渉が行われております。希望はあります」
「そうだな、殆ど無いに等しい希望だがな」
溜息を吐き、吐き捨てるように言った。
ーーーーーーーーー
時間は数ヶ月戻り、陸海軍で南方作戦に関する会議が開かれ、既に紛糾していた。
大まかな流れである、第一段作戦、ボルネオ島やスラウェシ島などの蘭印攻略を目的とした第二段作戦、スマトラ攻略の第三段作戦は決められていたが問題は第一段作戦であった。
「陸軍としてはシンガポール早期攻略を企図し、マレー作戦を先攻、重視するものである」
「海軍としては資源地帯の蘭印中心、ジャワを最終目標としフィリピンを先にやるべきだと主張する」
陸軍はマレー半島への作戦を先攻として譲らず、対する海軍は対米戦を重視する観点からフィリピンを先にやるべし、と主張していた。
海軍の作戦はフィリピン沖で敵艦隊撃滅図り、それが成功すればハワイ攻撃を実施するとなっている。
全くもってここまで来て、未だに作戦実施において纏まらないとは……。
陸軍部隊を率いる山下さんや本間中将、今村中将達も呆れているらしく、顔色にありありと現状の不満が浮かんでいた。
二人とは他の面々も含めて事前に何度も作戦について話しているから余計なのだろう。
ましてや今は陸軍の支配は東條が握っているわけだし、山下さんは左遷させられたうえにドイツ視察で書き上げた報告書を実質握り潰されたりもしているわけだ。
正直な話、東条内閣の戦争指導は杜撰も良い所だ。
「山田君、君はどう思うかね」
「私としては米英艦隊を叩けば上陸作戦は妨害されずにうまく行くと考えておりますので、どちらの作戦が先であろうと問題は無いと考えます」
投入戦力は編成してある四個艦隊全てに加えて陸軍を輸送する輸送船団は四個護衛艦隊が守る。
マレー半島へ向かう山下さん率いる第二十五軍部隊と、フィリピンに向かう本間中将の第十四軍を我々は運ばねばならないが、マレーには英軍が、フィリピンには米海軍の主力艦隊に加えて潜水艦や魚雷艇が多数配備されているからそれらから輸送船団をしっかり守る必要がある。
どちらかずつなら護衛艦隊を集中させられたが、私が米艦隊を叩けばどちらの作戦も問題無く遂行可能と言った言葉を、どうやらマレーとフィリピンを同時にやれると陸軍首脳部は都合よく解釈して受け取り、そっちが言ったんだからそうすると言っているらしく、これはどうにも覆らなさそうであると言うのが山本さんからの情報だ。
その為に護衛艦隊を二つずつに分けなければならない可能性もあり、より計画を入念にする必要がある。
これは私がはっきりと言わなかった責任だ。
紛糾しつつもどうにかこうにか決着となり、マレー半島への作戦に対しては海軍は二個護衛艦隊と潜水艦隊、基地航空隊として一七〇機程の航空機を参加させることで決着が付き、フィリピン攻略作戦では輸送船団を二個護衛艦隊で守り、主力である第一~第四艦隊は敵艦隊撃滅を担うことになった。
一応護衛艦隊がもう一つ訓練中だが流石に戦線投入が出来るレベルではないので
もし米艦隊が出てくるとなったら、四個艦隊でこれを捕捉撃滅と言う流れだ。
出てこないなら出てこないで上陸させてフィリピンを攻略してしまえばいい。
マレー作戦には陸軍から三万五千を超える陸上戦力と、双発爆撃機と四発重爆合わせて一五〇機、零戦七十二機、零式局戦七十二機、偵察機なども含めて陸軍機四〇〇機程が参加する。
作戦に参加する陸軍将兵は三十三隻の輸送船、揚陸艦、戦車揚陸艦に分譲し、その内の七隻は前々から開発されていた大型の戦車揚陸艦である。
兵員輸送船十四隻に加えて野戦重砲などの重装備を運ぶ揚陸艦が一〇隻、九隻が戦車揚陸艦となる。
それとは別に艦隊への補給任務用に油槽船が六隻、陸軍用の燃料輸送の為に油槽船五隻が加わるので合計して四十五隻の大船団になる。
海軍と陸軍が建造を進めて保有していたもので編成されており、民間商船の徴用はされていない。
民間商船には資源地帯占領後の資源輸送をすぐに担当してもらうことになっているのでこちらはこちらで物事を進める必要があるのだ。
作戦中は第二、第三護衛艦隊が輸送船団の護衛を務め、英艦隊との戦闘に備えて長門と陸奥、駆逐艦八隻が編入される。
陸軍は戦艦二隻、それも長門型戦艦が護衛に就くとあって大喜びしていた。
長門と陸奥は単純に護衛と言うだけでなく、作戦全体を艦砲射撃によって支援しつつ、更に士気高揚の意味もある。
フィリピン作戦には三万五千の陸軍部隊に加えて、二〇〇機程の陸軍機、そして島々の間を移動する為に陸軍船舶部隊が凡そ五千。
海軍は台湾から第十一航空艦隊、三五一航空隊、三五二航空隊の三個航空隊を主力とした基地航空隊三〇〇機以上、米艦隊に備えて海軍は空母機動部隊と潜水艦隊を全力出撃させる。
輸送船団はマレー作戦同様五〇隻近い輸送船団となり、これを守るのは練度の高い第一。第四護衛艦隊である。
米艦隊に備えて海軍は主力艦隊を全て出しての備えとなる。
蘭印作戦はこれらの兵力を転用しつつ行う。
陸軍約十万、マレーから陸軍機二五〇機。
海軍も二個艦隊を出して行われる。
参加兵力も決まり、外交での戦争回避が実現しなかった場合に備えて着々と準備は進められていった。
ーーーーーーーーーーー
既に陸軍部隊は三亜湾に集結し、出撃を待つ状態だ。
艦隊も既に展開し、第一~第四艦隊までの主力艦隊がタンカーや艦隊への補給物資を満載した輸送船を伴って何時でも行動を起こせるように沖縄で待機している。
陸軍輸送船団には第一~第四護衛艦隊がマレー作戦とフィリピン作戦にそれぞれ二艦隊ずつ参加している。
特に戦艦二隻の増援を受けたと報告があったイギリス東洋艦隊の脅威に直接晒されることになるマレー作戦部隊には敵戦艦の脅威に備えて戦艦長門、陸奥、駆逐艦七隻の九隻が臨時で加えられた。
部隊集結前に本間中将や今村中将、山下さん達とも、もう一度顔を合わせており、必要があれば支援の準備は出来ているから遠慮無く要請して欲しいということ、くれぐれも戦争犯罪になるようなことは自分だけでなく指揮下にある将兵以下にも徹底させるよう言い重ねておいた。
私はと言うと艦隊指揮官として四個艦隊を束ねることになって流石に驚きを隠せなかった。
多分山本さんか米内さんに言われて適当なところで参謀をやるか、或いは護衛艦隊のどれかの指揮を執るぐらいが精々だろうと踏んでいたから、主力艦隊四つの総司令官になるとは思っていなかった、というところである。
山本さんに聞いたところ、
「この作戦を考えたのは君だ。だから君に任せるのが適当だと考えている。後ろのことは我々でどうにかするから前のことは君に全て任せる」
とのことだった。
まぁ山本さんと米内さん、他の人達に殆ど無理矢理挙げられた階級だけならあるから、ある意味では適当と言えば適当なのだろう。
それぞれの艦隊指揮官には第一艦隊に小沢治三郎、第二艦隊山口多門、第三艦隊角田覚治、第四艦隊南雲忠一が据えられている。
彼らは開戦前よりそれぞれの艦隊の指揮官をやっており、その間航空戦の知識などを徹底的に叩き込んでいる。
艦隊指揮官として階級が足りないと言う場合、階級を上げられる。
特に山口さんと角田さんは人事権を分捕っていたことと航空部隊指揮官になりたいと自分から手を挙げてやって来たこともあって中将に押し上げられての艦隊司令官への着任だ。
些か敢闘精神が旺盛過ぎるかもしれないが、能力は高いし状況を見極められると考えている。
それに航空戦に詳しい人間を航空参謀として側に付けてある。
戦艦などの指揮はそれぞれ栗田健男、木村昌福、宇垣纏が勤め、臨時護衛艦隊の長門と陸奥以下の指揮は西村祥治が勤めている。
護衛艦隊総指揮を執るのは宇垣纏中将となる。
作戦に参加する全一〇〇隻の潜水艦隊を指揮するのは清水光美少将が勤める。
空母翔鶴に各艦隊司令官や参謀達を集めての作戦会議を開く。
翔鶴は新しい艦であると同時に通信設備に優れ電探も載せてあるので旗艦にするには十分な能力がある。
「この作戦が発令された場合、敵艦隊の撃滅も重要な任務の一つですがもう一つ重要なことがあります」
「それは何でしょうか」
「敵に航空機の有用性を気が付かせないことです」
会議でそう言うと騒めきが起きる。
それはそうだ、普通なら有用性を示してやると息巻くところなのだから。
食ってかかって来たのは山口、角田の二人だ。
二人の性格からすれば当然と言えば当然だろうな。
ましてや実戦ともなれば、自分達の訓練の成果と有用性を示す為に躍起になるところだ。
それをやるな、と言われているのだから食ってかからないわけが無い。
「それは、いったいどういう意図故なのでしょう?まさかこの期に及んで戦艦同士で決着を付けるなどとは言いますまい」
「それは勿論ありえない。私の意図は、ただ単純に敵に対して未だに海の王者は戦艦であると誤認させることにある。皆さんは既に演習によって航空機が戦艦をいとも容易く撃沈する様はご存知のはず」
半年ほど前、図上演習だけでは検証不十分であるとして、ここにいる殆ど全員が航空機で戦艦は果たして本当に撃沈可能なのか、と言う事を示す為に戦艦八隻と空母十三隻による演習が行われた。
参加したのは戦艦と空母の他に、戦艦側には旧来の艦隊決戦の主力たる重巡や軽巡、そして駆逐艦が合わせて40隻は参加する大規模なものだった。
対して空母側はトンボ釣り、所謂着艦や発艦に失敗して海に落ちてしまった機体や搭乗員を救助する為の駆逐艦を各空母2隻づつという圧倒的な戦力差である。
接近されれば一溜りも無いぐらいの戦力差と言える。
ところがそれだけの戦力差をものともせずに高速力に物を言わせて接近を許さず全艦載機による波状攻撃を叩き付け、駆逐艦に至るまで撃沈判定を叩き付けたのである。
空母と駆逐艦で編成された我が方は、高速空母機動部隊の名に恥じない速力で駆け回り、速力に劣る戦艦部隊を二〇〇km程離れた距離で一度の接近も、索敵機にも接触させずに大勝利となったわけである。
ましてやこの時期は対空兵装の拡充を図るべし、という意見によって対空火力を強化していたのにも関わらず、である。
新型防空駆逐艦なども配備されていてさらには五〇隻を超える大艦隊が空母艦載機だけにボコボコにやられて重巡以上の艦艇は文字通りの全滅判定、軽巡と駆逐艦も大部分が損害を被った判定を叩き付けられたのである。
これにより海軍の大艦巨砲主義者は叩き折られ、時代が全く変わったことを認識するに至った。
元々母艦航空隊は当たり前のように三〇ノットを超える速力を出して、しかも操艦に置いて高い技量を持つ森下が舵を取っている対空能力特化に設計建造された戦艦天塩、摂津相手に訓練を積んできたのだ。
それよりも対空火力が貧弱で速力も劣る目標なんぞ命中させるのも楽勝なのである。
森下曰く天塩と摂津は、
「この艦は良い艦ですな。操艦性能も高くて思ったように動いてくれる。これなら幾ら魚雷や爆弾を落とされても全部避け切る自身がありますよ」
と自信たっぷりに言うほどだ。
何度も言うがそんなのを相手に訓練を積んでいるのだから、結果から言えばそこまで不思議なものでは無い。
この演習は母艦航空隊にとても良いものとなった。
演習前は少なからず戦艦を航空機で撃沈出来るのかとか不安があった各艦乗組員や搭乗員達も、演習相手の戦艦部隊に文字通りの全滅判定を叩き付けたこともあって自信を付けることができた。
自信過剰は困るが、適度な自信を持つことはとてもいいことだからな。
この演習における命中率は急降下爆撃で81%、魚雷も50%を記録していた。
なによりも空母が戦いの主力になると決定付けた事実は、ただ単純に勝ったと言うだけでは無く、目標とした戦艦が戦艦は全て戦闘行動を取り、速度も最高速度に近い速度で戦闘行動していたところを、である。
こうすることで航空機の力を証明し、どれほどの脅威となるのかを叩き込んだのである。
一種のパフォーマンスであるがそれで航空主兵に思考を転換させられるのならば十分である。
「であるならば、その力を遺憾なく発揮して米艦隊を撃滅するのは当然なのでは?そのために搭乗員達は連日の厳しい訓練を乗り越えてきたのです」
「それは重々承知しています。この目で幾度となく見ましたから」
「ではなぜ」
「良いですか、米国の国力は航空機の生産能力一つをとっても三〇倍を超えるものです。それがもし、航空機と言う存在の力に目覚めたのならば、米国は総力を挙げて空母を建造し、航空機を製造し、大量の搭乗員を養成するでしょう。そうなればこの十四隻と言う空母も数をすり減らしていくことになるし、二年もすれば米海軍は高速大型空母を二〇隻も備えた空母機動部隊にそれを支える数十隻もの小型空母の群れを完成させるでしょう。だからそれを少しでも遅らせる為に敵に空母の有用性を気が付かせるのを遅らせる必要があるのです」
空母十四隻と字面では確かに強力なものであるし、実際の戦力としても大きなものだろう。
少なくとも現時点では世界最大の空母戦力であると言っていい。
しかし内情は新しく建造された空母の数は少なく、赤城と加賀を含めれば六隻は戦艦から空母へ改造された艦だ。
最初から空母として設計された訳では無く、戦艦を改造するぐらいしないと空母の数を揃えられないと言う日本という国の国力を表しているような存在だ。
現在は各工廠で空母の増産が進められているが、それでも戦力化するのは一番早いものでもまだ一年は掛かる。
しかも増産されていると言ってもその数は少ないままで、今ある空母十四隻のうち数隻を失えば戦力は殆ど変わらない。
米国は二年もあれば容易く新型空母を揃えられるだろうし、軽空母はその倍は簡単に揃えて来る。
そうなっては勝ち目はまずない。
「であるならば、その工業力を全く無駄な方向に注ぎ込んでもらう事も重要なこと。米国が航空主兵に目覚めれば、我々は一年以上絶対優位を保って戦う事は出来なくなる。それを避ける為に、米国には無駄に戦艦を作り続けて貰わねばならない、という話なのです」
「なるほど、それは重々理解しました。ですが具体的な作戦はどうされるのですか?今フィリピンに展開する米艦隊の戦艦の数は十隻を数えます。まともに撃ち合っても勝ち目は無いでしょう」
「艦載機で広く損害を与えた後に潜水艦で攻撃を仕掛けます。恐らくこれで敵は航空機による攻撃で沈められたとは思わないでしょう。ここで米艦隊の戦艦を全てとは言わずとも、半分以上を撃沈し、それ以外にも損傷を与えれば米主力艦隊は戦艦と言う艦種の補充の為に向こう二年は戦力不足にあえぐことになる」
「では徹底して敵戦艦をギリギリ航空機で撃沈出来ないぐらいに狙うと」
「その通り。しかし敵空母やそれ以外の随伴艦には容赦はしなくて問題有りません。確認されているのはレキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズの四隻。これは徹底的に攻撃を加えて、全て確実に沈めます」
艦隊の最優先目標は空母となる。
その次にこれら主力艦や輸送船の随伴や護衛を務めることも出来る駆逐艦、巡洋艦を集中的に狙う。
数的主力である駆逐艦や巡洋艦を多数失えば、主力艦を多数失うのと同程度の損失を負うのと同意義だ。
そうなればそれ以降のあらゆる任務に支障を来たすであろうし、艦隊再建もその分だけ時間が掛かる。
作戦としては、第一に敵の空母を全て行動不能、或いは撃沈させる。
エアカバーを引き剥がすのが最優先課題だ。
これと同時にフィリピンに展開する敵航空兵力を大西さん率いる基地航空隊の攻撃で数日程度行動不能に陥らせる。
完全に飛行場を破壊してしまっても良いが、取り合えず一日か二日だけでも敵機が活動出来なければそれでいいから広く薄く飛行場に損害を与えればいい。
そうすることで陸海どちらのエアカバーも剥ぎ取ることが出来る。
エアカバーの無い戦艦は無力に等しいのは幾つかの事例が物語っている。そこに艦載機が波状攻撃を仕掛け、戦艦に魚雷を一~二本程度命中させられれば十分。
余力は周りの随伴艦を攻撃し、位置情報を通報して集結させた潜水艦隊に攻撃を命じる。
多分、これで上手く行けば航空攻撃で速力が低下した戦艦を二隻か三隻ぐらいは沈められる筈だ。
潜水艦と航空攻撃を繰り返し行いつつ、撃沈していって最後の最後に戦艦で砲撃を加えてあたかも戦艦が主役であるかの様に演じるのだ。
戦争は盛大なブラフを演じるものでもある。
恐らく潜水艦と航空攻撃で死に掛けぐらいにはなっているだろうが、敵からすれば戦艦に砲撃されて沈められたということの衝撃の方が大きい筈だ。
砲火力では間違いなく劣っているが、別に米軍が戦艦と潜水艦によって味方戦艦が撃沈されたのだと誤認してくれればそれでいい。
そうすれば戦艦を無駄に作ってくれるだろうし、その間に我々は空母と巡洋艦、駆逐艦、潜水艦の数を揃えればいい。
空母は何が何でも全て沈める必要があるが戦艦は半分も沈められれば構わない。
どうせ被害によっては二年以上のドック入りは確実だからその間は戦力にはならない。
脅威になり得る可能性があるのならば真珠湾で修理なりをしているところを叩けば良い。
簡単な話、海軍が想定していた漸減邀撃作戦を活用するわけである。
戦艦を作るには二年は掛かるが、航空機は一日に数十、数百と作れる。
ましてやアメリカともなれば毎日数百機のあらゆる機種の航空機を送り出すことが出来る。
作戦を説明し、日米の交渉がどうなるのかを待つ。
交渉の結果は暗号電文によって送られてくることになっている。
交渉によって話が纏まり、明日には何事も無く日本へ向けて全将兵が帰国することが出来ることを願ったが、その願いも空しく本土から送られて来た暗号は日米交渉決裂、作戦行動を開始せよ、と言うものだった。
暗号は既に従来のものから変更されており、少なくとも現時点では米軍に解読されている兆候はない。
元々あった暗号は敵に聞かせてやることを前提に欺瞞用に用いられる。
「駄目だったか……」
翔鶴の艦橋で、伝令が持って来た解読された暗号電文を読み、顔を左手で覆った。
戦争回避の為に色々とやって努力をしたのに、そのすべてが無駄になると言うのは、そしてこれから先数十万、数百万の血が流れることを考えるとやるせない気分だ。
「司令……」
小沢さんが側で同情するような声音で、こちらを窺っているのが分かった。
少し深呼吸をして、前を向いた。
「各艦はラジオをつけて艦内放送で流せ。正式に米国に対して宣戦布告をした旨の放送が流れる筈だ。作戦行動はそれを確認してから行われる」
「は、各艦にも伝達してまいります」
通信参謀に言ってラジオを受信させる。
それから一時間後、十二月八日一八時。
ラジオ放送にて英米に対して宣戦布告の文面が読み上げられた。
「宣戦布告を確認。これより我々はM作戦を発動、作戦行動を開始する。艦隊抜錨、進路フィリピンへ」
その号令と共に、艦隊は錨を巻き上げ次々と日本を発った。
事前に情報を流して置いたお陰で太平洋に存在する米艦隊の殆どがフィリピンに集結している。
目論み通り行っているのでこのまま作戦を進める。
仮に情報に乗ってこなくてもその時は大した障害も無くフィリピンを攻略出来るだけの話だ。
ーーーーーーーーーー
フィリピン攻略作戦に参加する艦艇は以下の通り。
参加兵力
第一艦隊
空母 翔鶴 瑞鶴 蒼龍
戦艦 金剛 霧島
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第二艦隊
空母 赤城 加賀 飛龍
戦艦 榛名 比叡
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第三艦隊
空母 伊勢 日向 扶桑 山城
戦艦 長門 陸奥
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第四艦隊
空母 大龍 昇龍 隆龍 豊龍
戦艦 天塩 摂津
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
新鋭空母四隻も加わり、十四隻の空母と八隻の戦艦が主力として参加する。
これ以外にも潜水艦隊が偵察と、航空攻撃後の混乱している敵艦隊を虎視眈々と狙っている。
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フィリピン攻略部隊
第一護衛艦隊
護空 大鷹
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第四護衛艦隊
護空 海鷹
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
輸送船団
兵員輸送船 十五隻
揚陸艦 七隻
戦車揚陸艦 一〇隻
艦隊用油槽船 十二隻
陸軍用輸送船 六隻
計五〇隻
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マレー半島攻略部隊
戦艦 長門 陸奥
駆逐艦 八隻
第二護衛艦隊
護空 神鷹
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第三護衛艦隊
護空 雲鷹
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
輸送船団
兵員輸送船 十四隻
揚陸艦 一〇隻
戦車揚陸艦 九隻
艦隊用油槽船 六隻
陸軍用輸送船 五隻
計四十五隻
ーーーーーーーーーー
宣戦布告と同時に艦隊は沖縄を発ち、二日後フィリピン沖に到達。
その数時間前にフィリピン、ルソン島の米軍飛行場は台湾から飛来した、零戦に守られている重爆によって爆撃されており、これによって敵の基地航空戦力は封じた。
我々は敵艦隊さえ警戒しておけばいいことになったのである。
索敵機を放ちつつ、敵艦隊を捜索。
四時間後敵艦隊発見の報告が艦隊に舞い込み、敵は戦艦10、空母4、他随伴艦五〇隻以上と報告された。
我々の兵力は一〇〇〇機ほどの艦載機であり、内訳は半数が艦戦となる。
残りの半分は艦攻と艦爆であり、防空と攻撃隊に直掩機を多く付けられるように各空母の艦載機比率を、艦戦五:艦攻三:艦爆二としている。
艦攻の数が少ないのが問題なのではないかと言われたが、簡単な話、艦攻が魚雷を命中させやすい環境を作ってしまえば数の不足は補える。
敵戦闘機を排除し、敵の対空砲火を沈黙させ、魚雷を叩き込むのだ。
「制空隊の準備は整っているか?」
「問題ありません、今すぐにでも発艦可能です」
「宜しい、制空隊発艦始め」
命令を下すと全ての空母の艦首が風上に向けられ、零戦が次々と飛行甲板から離れていく。
各空母から十二機づつの零戦がほんの一分半で発艦を済ませると、三〇分遅れて後ろに控えていた第一波攻撃隊が次々と発艦を始めた。
これから敵に仕掛けるのは航空撃滅戦だ。
敵戦闘機さえ墜としてしまえば攻撃隊を邪魔するものは敵対空砲火しかない。
そうすれば攻撃隊の数が少なくても最大限の戦果を叩き出せる。
制空隊は約一七〇機ほどの零戦で編成され、数機の艦攻に誘導されながら敵艦隊に向かう。それがまず迎撃に上がって来た敵戦闘機を引き付け、叩き攻撃隊の進路を開削。
その間に念の為に五〇機程の零戦に守られた攻撃隊が進む手筈になっている。
所謂航空撃滅戦を行うのである。
敵戦闘機さえ居なければ、攻撃隊の脅威となるのは対空砲ぐらいなので空はこちらのものだ。
敵戦闘機の数は多めに見積もっても四〇機ずつ搭載していたとしても一六〇機。
こちらの方が数で勝っている。
第一波攻撃隊が発艦して三十分後、すぐに第二波攻撃隊が飛行甲板に並べられて発艦していく。
連日の訓練の賜物とも言うべき練度であり、一機の事故も無く無事に発艦を終えた。
エンジンや機体の不調で引き返してくる機が何機かあったが問題では無い。
二時間もすると、制空隊が敵機と戦闘を開始したと言う電文が誘導を行った艦攻から発せられた。
この世界の零戦には短距離無線機が全ての機体に載せられている。
零戦は、史実のものとは違って欠点を可能な限り徹底的に改良し速度と格闘性能を幾らか犠牲にして機体強度を向上させている。
搭乗員からは不評であったが、少なくとも現時点では米軍機には格闘性能では勝っているので問題にはならない。
とは言えこの無線機は短距離、障害物が無ければ二〇km、山などの障害物を挟むと一気に短くなって6~8kmぐらいという本当に短い距離でしかやり取り出来ないものだが、空戦に置いては殆ど関係の無い距離だ。
制空隊隊長の下で小隊や中隊ぐらいの単位での連携が取れればそれで十分なのだから。
デカくて陸戦には不向きだが、航空機に載せる分には問題無い。
すぐに制空権を握ったことが報告され、それの二〇分ぐらい後に空域に攻撃隊が到着し、更に少しすると敵艦隊へ突入開始の電文が打電された。
一時間ほど待つと第一波攻撃隊からの戦果報告が届く。
「空母二隻撃沈確実、一隻大破、一隻撃破確実!他随伴艦多数に大きな被害を与え、敵空母艦隊の能力は喪失と認む、再攻撃の要無しと認む!」
艦内に放送が流れると、艦橋だけでなく、いや、翔鶴だけでなく艦隊中で歓声が沸き上がった。
これで敵空母は少なくとも艦載機の運用は出来なくなった。
エアカバーを完全に剥がしたわけだから、あとはもう恐れるものは無い。
「司令、大成功です!」
「宜しい。すぐに第一波攻撃隊収容準備、再武装の準備を整えておけ」
第一波と第二波に全兵力を割いての攻撃だから攻撃隊を収容して再武装させるまでは攻撃隊を出すことが出来ない。
「はっ、了解しました。申し訳ありません、浮かれてしまいました」
「気持ちも分かるが、我々は浮かれてはおられんのだ。艦隊の頭なのだからな」
浮かれるのも仕方が無いだろうが、それでも我々艦隊司令部に浮かれている暇は欠片も無い。
常に考え続けねばならないのだ。
思考停止は即ち敗北である。
「攻撃隊を収容して、再出撃にどれぐらいの時間が掛かる?」
「帰投してくるまでに一時間半、収容に三十分、再武装に一時間、三時間も頂ければ再出撃可能です」
「宜しい。敵艦隊の位置は?」
「敵空母艦隊より南西一九〇度の方向に位置するようです」
「距離は?」
「敵空母艦隊から五十km前方に位置すると」
海図の上に敵艦隊の位置関係を記し、彼我の距離を考えつつ、次の命令を考える。
「索敵機を放って継続して接触、詳細を報告し続けつつ潜水艦隊に敵艦隊の位置を継続して打電、潜水艦隊は敵艦隊攻撃の為に集結せよ。第二次攻撃隊の攻撃が終了したタイミングで潜水艦隊の攻撃を行わせる。攻撃隊収容後は敵随伴艦艇群に対して攻撃を行う。第一波は艦爆と艦戦を中心に編成、敵の対空砲火と対潜能力のある随伴艦を黙らせる」
広く浅く損害を与える都合上、敵の対空砲火は何としても黙らせるか、それが出来なくても減衰させる必要がある。
高い高度から鋭い角度で突っ込んでくる艦爆の方がまだ撃墜確立は低い。
別に沈める必要は無いのだ。
損傷を与えて、雷撃機が進む道を切り開けばいい。
それよりも潜水艦が雷撃し易いように敵の駆逐艦などを叩いておく必要がある。
これらの存在が居ると反撃を食らう可能性がある。
駆逐艦さえ仕留めてしまえばあとは対潜能力の無い戦艦や重巡洋艦が相手だ。
「雷撃機は編成に入れないのですか?」
「敵の航空支援は全て剝がしてあるし空母も暫く使い物になるまい。艦隊直掩で待機している中から三十機ぐらいを選抜して艦爆の後を追わせる。艦爆を敵戦艦一隻当たり四機づつぐらい入れて、対空砲火を陽動させる」
敵の対空能力はそれぞれの艦が搭載する対空火器だけになる。
敵が戦艦群と空母群を全く分けて艦隊運用をしたことが完全に裏目に出ている。
空母群の撃滅を成功させた今、少なくとも敵戦艦群には護衛空母などを配備していないのが索敵によって判明しているのと、フィリピンの飛行場も台湾からの爆撃で叩いてあるから制空権は完全に我々が握ったといえるだろう。
敵空母群には既に第二波攻撃隊が攻撃が行われつつあり、それを考えれば撃破に留まっている空母二隻も特に問題無く撃沈か、確実に撃破することが出来る。
そうなれば輸送船団にとっても我々にとっても、接近されれば圧倒的な脅威となる戦艦群を撃破せねばならないわけである。
どれだけ旧式戦艦でもどれだけ速度が遅くても、最大で16インチの主砲を持ち戦艦故の防御力は一定数の脅威度を持つのは間違いないのであるから、これを撃破する為にはこちらも相応の戦力を用意し、損害を覚悟して挑まねばならない。
しかし脅威らしい脅威かと言われると、首を横に振ることが出来る相手だ。
エアカバーの無い戦艦がどれだけ航空攻撃に対して脆弱なのかは史実のマレー沖海戦や戦艦大和の最後を知っていれば分かる筈だし、何よりこちらは三〇ノットを発揮出来る高速空母機動部隊だ。
接近しようとしても相手は精々二十五ノット、こちらは優れた速力に物を言わせてあっちへこっちへ逃げながら攻撃隊を放ち続ければいいのだ。
第一次攻撃隊の攻撃成功の打電から一〇分後、基地航空隊がフィリピン北部の各飛行場に殺到。
数日間使用不能に陥れ、作戦の第一段階は成功したと言っていい。
基地航空隊は継続して敵飛行場や防衛施設、陣地、車両などに攻撃を加えるので敵艦隊への攻撃には参加しないが、母艦航空兵力だけで問題は無い。
三時間後、攻撃隊の収容と再武装を終え飛行甲板に再び攻撃隊が並べられ、飛び立った。
敵戦艦群との距離は二五〇kmにまで迫っており、この距離でしかも敵戦闘機を軒並み空戦に巻き込んで叩き落しているので空戦の可能性も無いので攻撃隊は残燃料を考えずにかなり速度を上げて飛んでいける。
格納庫内は帰投した第二波の再武装と補給、敵戦艦への攻撃隊を出すと言う二つの作業が同時に行われており、大忙しだ。
四回の攻撃隊を敵戦艦群に加えると、戦艦の撃沈こそ全く無いものの、全ての戦艦に中破程度の損傷を与えた。
特に被害を被っているのは周囲を守っていた随伴艦の巡洋艦や駆逐艦で、殆どの艦に爆弾一~二発は命中させている。
撃沈となった随伴艦も十数隻出ているとのことで、このまま夜戦を挑んでも問題無く勝てる状況だ。
今頃敵の司令官はやはり航空機では戦艦は撃沈出来ないのだ!と喜んでいる事だろうか。そうであれば嬉しいんだがな。
既に集結を終えて敵艦隊を囲んでいる潜水艦隊に後のことは任せてしまえばいい。速度を落としてぼろぼろの敵艦隊に数十隻もの潜水艦をどうこう出来るような力は到底残されていまい。
最後の航空攻撃が終了する少し前に潜水艦隊に命令を下した。
「潜水艦隊に命令。敵艦隊を攻撃、撃滅せよ」
「はっ、了解しました」
ただでさえ速度の遅い米戦艦群は航空攻撃を食らってより速度を落としているところに作戦に参加している潜水艦の内の数十隻もの潜水艦が襲い掛かったのだからタダでは済まない。
次々に魚雷命中の報告が上がって来る。
被弾と被雷で精々一〇ノット程度しか出せていない戦艦に魚雷を命中させることなど彼らからすれば雑作も無い。
結果、戦艦五隻撃沈他撃破の報告が上がった。
巡洋艦以下の戦果は数えられない、である。
「凄まじい大戦果ですな」
「これだけ入念に準備を進めてやったのだから成功するのが前提なのだ。なんにせよ、これで敵艦隊の脅威は失せた。フィリピン攻略に本格的に取り掛かろう。陸軍に何時でも上陸出来ると伝えてくれ」
「了解しました」
残った敵艦隊を航空攻撃と潜水艦隊によって追撃し、戦果を拡大しつつ二日後、艦砲射撃と艦載機による支援を受けた陸軍はフィリピンへ上陸を果たした。
フィリピン戦は順調に進んだが、最終的に極東米陸軍はバターン半島とコレヒドール島に立て籠もり徹底抗戦の構えを示した。
補給を試みた米輸送船は潜水艦と航空機によって片端から撃沈されるか拿捕されて、周辺海域の対潜掃討、航空撃滅戦も徹底して行った結果、敵は思っているよりも早く降伏することとなった。
なんせ洋上からは戦艦や重巡が毎日毎日砲弾を撃ち込んでくるし、漸くやって来た増援や補給物資を載せた輸送船は遥か遠くの洋上で捕まるか沈められ、運良く接近出来ても目の前で同じように鹵獲されたり沈められたりする。
ましてや空からは爆弾を抱えた爆撃機や、機銃掃射をしている戦闘機が四六時中飛んで回っているのだから、戦意が失われて行くのも仕方が無い。
このバターン半島とコレヒドール要塞を巡る戦いで我々は七隻もの敵輸送船とそれに積まれていた武器弾薬物資を丸ごと鹵獲し、十三隻の輸送船撃沈戦果を得る事となる。
どうやら敵は潜水艦を使って夜間に細々と補給をしていたようだが、それで運べる物資量は精々数トンか良くて一〇t程度。
立て篭もる米軍の必要とする物資量には到底足りない。
各地から撤退したりしてコレヒドール島二〇〇〇〇名、バターン半島には七万を軽く超える敵が立て籠もるそれぞれの要塞に必要な物資量は水食糧だけで一日辺り最低でも数百トン。
到底満たせる訳も無く、しかも太平洋艦隊は壊滅状態で救援は望めない。
結果、一ヶ月後になるとようやく立て籠もっていた極東米陸軍は白旗を掲げ、全面降伏。
その中には最高司令官として存在していたコーンパイプを加えていることで有名なダグラス・マッカーサーもいるそうだ。
どうやら脱出を計画していたらしいが潜水艦も航空機も水上艦艇も軒並み沈めて回っていたことで脱出出来なかったらしい。
結果極東米陸軍最高司令官として白旗を掲げて降伏したということである。
最終的な捕虜は八五〇〇〇名を超える数となり、それ以外にも多くの米軍装備を鹵獲することになる。
これにてフィリピン戦は決着することとなった。
しかし困った。
マッカーサーが司令官では無い米軍の動向は予想が付かない。
確かに嬉しいと言えばそうなのだが、相手の動きが不明になるとするならマッカーサーは敢えて見逃しても良かったのだが。
フィリピン戦において鹵獲したフォードトラックなどは現地陸軍部隊に員数外装備として配備された。
小火器などはトンプソン短機関銃、スプリングフィールド小銃と言ったものは大部分は陸軍でそのまま運用されることになったが研究用と敵軍武器の鹵獲時における運用教育、と言ったものに使用する為にそれぞれ一〇〇丁分が海軍に引き渡され、各陸戦隊に十五丁分が教育用、そして残りの一〇丁が研究用に回された。
それ以外の装備や機材も大量に鹵獲しており、同じように大部分は陸軍が運用し少数が海軍に研究と鹵獲武器運用教育に回されている。
捕虜は輸送船に載せられて分散してフィリピン北部に一時勾留とし、時間が経った後に日本本土の捕虜収容所に送られることになった。
マレー作戦も問題無く進んだ。
結果だけを先に話してしまうと、海戦においては英東洋艦隊の戦艦二隻と駆逐艦三隻を鹵獲するに至った。
これに至る経緯を説明すると、英東洋艦隊も重爆による度重なる爆撃と雷撃、護衛空母に幾らか載せられていた二十五番徹甲爆弾を十数発づつも食らいながらも接近を試みていたが、太平洋艦隊を叩いた我々主力艦隊がマレー半島沖に進出し始めると航空支援を始めとしたあらゆる支援を欠いていたレパルス、プリンス・オブ・ウェールズ率いる英東洋艦隊は輸送船団攻撃を断念。
この時点でどうやら輸送船団に長門、陸奥が護衛に就いている事を掴んでいたらしくそれも攻撃断念の判断の一因らしい。
とは言え致命傷となる魚雷は一発のみと戦闘行動を取ることは可能だったのだ。
英極東航空部隊はコタバルから撤退し失陥していたことで索敵と東洋艦隊のエアカバーを行うことが出来なかったのもこの損害を受ける要因となっているのは間違いない。
しかしながら南下すればエアカバーを受けることも可能だし、シンガポールまで撤退すれば要塞へ立て籠もる事も十分に可能だったので撤退しようとしたところを付近を偵察哨戒していた潜水艦の雷撃を食らってプリンス・オブ・ウェールズが被雷。
幸いだったのはこの魚雷を放ったのが潜中型潜水艦伊三〇七であったことだ。
潜中型潜水艦は設計段階から酸素魚雷を搭載することを目的としておらず、伊三〇七も当然搭載してなかった。
搭載していたのは電池魚雷と通常魚雷だけであり、命中したのは全て電池魚雷で破壊力に劣っており二本が命中したが速度が低下したぐらいでそれでも致命傷にはなっていなかった。
とは言え速度低下と誘爆の恐れがあった為に弾火薬庫への注水などの対応を取っていたことで後部四連装主砲と前部連装砲が動かせず、反撃も儘ならぬ状況に陥っていた。
そこに長門と陸奥による砲撃を食らうことで降伏するに至ったわけである。
長門と陸奥はこれよりも前、味方潜水艦と偵察機によって英艦隊接近の報告を受けた時点で輸送船団に対する英東洋艦隊の脅威を確実に排除する為、護衛艦隊の艦載機による航空支援を受けながら接近していた。
既に付近の偵察で警戒すべきは敵潜水艦のみ、と言う事が分かっていたのである。
これを受けた長門と陸奥は英東洋艦隊を基地航空隊と共に撃滅するべく、前進していた。
実のところ英東洋艦隊にはまだ生き延びる可能性があった。というのもこの時点で天候不良と南方特有のスコールの発生で基地航空隊は攻撃が出来ずにいたのだ。
スコール内に逃げ隠れしたりと東洋艦隊は上手いこと逃げていたのだ。
その技量は中々に目を見張るものがあった。
しかし英東洋艦隊にここで思わぬ誤算が生じた。
というのもプリンス・オブ・ウェールズの潜水艦による雷撃で受けた破孔が速度を上げたことで隔壁が破壊されてしまい浸水が拡大したのだ。
これがレパルスであったならばフィリップス提督も艦を見捨てる覚悟も付いたかもしれないが、PoWだったというのが災いした。
更には改装によって長門と陸奥の速力が上がっていたことも不幸だった。
元の速度であればまだ逃げられたかもしれない。
この事故によって艦隊は速力を3ノットにまで低下させざるを得ず、フィリップス提督は新鋭艦であり、しかも英国皇太子の名を冠するPoWをどうにかシンガポールまで帰らせるべく苦心していた。見捨てていれば或いは、レパルスと駆逐艦は助かってシンガポール要塞に辿り着き立て籠もっていたかもしれない。
しかしPoWを救う為に苦心していた、そこに長門と陸奥が砲撃を仕掛けたのである。
東洋艦隊の兵力はレパルス、プリンス・オブ・ウェールズ、そして駆逐艦四隻の六隻しか無く、これでは哨戒も出来ない。
しかも航空機の脅威から逃げる為に六隻全部がスコールの中で作業していたことで長門率いる一〇隻の艦隊を発見するのも遅れていた。
発見が遅れたことで発見した時点で駆逐艦二隻が被弾。英東洋艦隊の後方から長門、陸奥が接近していたことで、後部主砲塔が使用不能状態に陥っていたから反撃が出来ない理由の一つになった。
駆逐艦六隻が三〇ノットで主砲を撃ちながら突っ込んできており、長門と陸奥の二隻も反撃が無いのを良いことに一五〇〇〇mからの距離で砲撃を開始、周囲に水柱が聳え立っていた。
その時点でどうにかこうにか航行し逃げようとして、レパルスに陸奥の砲弾が命中。
艦首に被弾したことで艦首付近が丸ごと吹き飛び速力を上げることが出来なくなった。
PoWも隔壁の修理が終わっておらず速度を上げられない。
しかも敵駆逐艦が主砲を撃ちながら突っ込んできていて雷撃を受けるのも時間の問題。
駆逐艦四隻の内、一隻は既に沈みつつあり、残りの三隻も被弾炎上中。
ここでフィリップス提督は自沈して脱出しても助かる見込みや救助される見込みは薄く、乗組員の命を優先。
降伏することを決意し、日本艦隊に対して降伏する旨の電文を打電。
これを受け入れ、巡洋戦艦レパルス、戦艦プリンス・オブ・ウェールズ、駆逐艦エレクトラ、テネドス、ヴァンパイアの三隻を鹵獲するに至る訳である。
確かにフィリップス提督の判断は賞賛に値するが、こちらとしては後始末が面倒極まる、と言うのが正直なところである。
英戦艦二隻、駆逐艦三隻の鹵獲は敵味方にとって全くの予想外だ。
軍令部は戦艦二隻の鹵獲と言う大きな戦果に大喜びだったが、問題はこの二隻をどうするかにある。
現場の人間としては曳航はとりあえず後にしておきたいというのが本音であった。
なんせ軍艦の数は色々と手を尽くしたお陰で史実よりも随分と数が増えているが、やはり実情としては余力がそこまであるわけでは無い。
損傷した鹵獲戦艦を曳航する為には、やはり同じぐらいの戦艦や巡洋艦を必要とするが、戦艦や巡洋艦を割くのも戦力的には現実的とは言えない。
曳航中はどうしても無防備で、敵潜に狙われでもしたら回避も何も出来ない。
しかしながらそんなことはお構いなしにさっさと曳航して来いと言われるものだからこちらは相応の戦力を曳航に割かねばならなくなった。
台湾まで曳航して応急修理を施した後に本土で修理、戦力化を行うと軍令部は言ってきたが、曳航するほどの余力があるかという問題と曳航中に敵潜水艦に攻撃されたら一溜りも無いと言うのもあって、我々は一旦近場に座礁させて浸水を防ぐために応急修理を施してマレー作戦とフィリピン作戦が終わってから曳航してはどうかと提案したのだ。
すると軍令部は命令という形で曳航を強行させる手段を採って来た。
流石に命令と言われれば拒否することも出来ず、現場将兵も反発していたが渋々、仕方なく天塩と摂津の二隻に曳航命じて台湾まで曳航させることになった。
道中の安全確保は主力艦隊から駆逐艦六隻、それに加えて龍驤が担当することとなった。
ついでに何隻かの民間商船も同伴である。
英東洋艦隊は降伏の際、戦艦二隻、駆逐艦三隻に乗っていたフィリップス提督以下乗組員三〇〇〇名以上もの捕虜を出すことになり、この捕虜を抱えることになった攻略部隊の負担も大きなものになった。
なんせ一度に増えた連隊規模の人間に飯を食わせねばならなくなったのだから計算に大きな狂いが生じるのは当然のこと。
慌てて本土から輸送船を何隻か派遣して当面の間は事無きを得たが、やはり根本の解決には至っていない。
その対応の為に上陸した陸軍が乗っていた輸送船六隻に捕虜をそれぞれ分乗させ、曳航中の戦艦二隻と共にフィリピンの捕虜収容所に一旦入って貰い、そこから日本本土の捕虜収容所に移ってもらう事となった。
作戦中に捕虜を伴ってとなると制約が大きくなる可能性を考えた結果である。
後のことは本土の連中に任せる他あるまい。
マレー海戦の二日後。
戦艦による準備砲撃が行われ、艦載機や輸送機による支援を受けながら陸軍部隊は次々と上陸を果たし、驚くほどの速度でマレー半島を南下。
道中は早過ぎる進軍によって陸路での補給が安定せず、空路と戦車揚陸艦による洋上機動補給が主に行われ、補給線を安定させ、海軍から二線級の複葉機を陸軍に供与して鹵獲した機関銃を幾つか装備した複葉機が対地支援を行うなど、旧式複葉機ですらも八面六臂の活躍を見せた。
これによって旧式の複葉機でも制空権を確保していれば様々な活躍が出来ることが証明され、これ以降様々な作戦で活躍することになる。
正式に海軍に余っていた旧式機は陸軍に貸与され、良い感じに在庫処分が出来た海軍と、意外と使える飛行機を纏まった数貰えた陸軍前線部隊は、意外にも互いにホクホク顔であった。
沿岸部を進む陸軍部隊は戦車揚陸艦や大発動艇を駆使して洋上機動攻勢を行い、敵地後方に上陸し敵部隊を包囲するなど、快進撃と言えるような働きをした。
「司令官、陸軍から大発を貸して欲しいと連絡が来ております。如何致しますか?」
「大発?特大発動艇でも戦車揚陸艦でもなんでも貸してやる。いくらでも好きなように使ってよろしい」
「はっ」
「宜しいのですか?」
「構わん。我々が持っていても今は仕方がない。戦とは必要な場所に必要なものが使える時になければならん。ならば今我々には必要の無いものを持っていて、それを友軍が欲している。貸し与えない理由も道理もない」
大発を貸してくれと頼み込んできた陸軍に大発だけでなく特大発、戦車揚陸艦を丸ごと貸すとより洋上機動戦に拍車が掛かったらしい。
ついでに長門、陸奥を暫く支援にそのまま出しておくと伝えると山下さんからわざわざ直筆の感謝状を持ってきたのである。
戦艦は陸軍に追随し、沿岸部の敵陣地や上陸地点に砲撃を加えるなどの支援を続け、長門と陸奥の二隻、随伴した駆逐艦八隻には陸軍の各師団や山下大将、参謀本部から感状が幾つか送られるぐらいの働きぶりであった。
制海権を握りつつ、しっかりと守られた輸送船によって海空からの補給をしっかりと受けながらの作戦は『成功するべくして成功した』と陸軍が豪語するほどの大成功を収めることとなった。
空海の大規模な支援もあり、僅か二か月でシンガポールを含むマレー半島を攻略し終えることとなる。
輸送船への被害も無く上々の滑り出しと言える。
余談ではあるが、この時の陸軍支援の為に行った長門、陸奥の艦砲射撃を陸側から写した写真と絵葉書が発行され飛ぶように売れたという。
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南方作戦の半年後、主力四個艦隊は内地で補給と整備、休養を挟みつつ失った搭乗員と機体の補充を受け、次の作戦に備えていた。
その次の作戦とはハワイ攻略作戦である。
ハワイ攻略作戦までの間も、太平洋に散らばる島々の攻略は進められていた。
そこまで敵戦力が大きいわけでも無かったので、新兵達の実戦経験がてら一個艦隊づつ程度か、軽空母を中心とした艦隊を派遣し作戦に従事させていた。
その間私を含めて艦隊司令部の面々はハワイ攻略作戦に備えて物資から人員と様々な準備に奔走している。
しかもこの間に新鋭艦として装甲空母二隻が各種試験を終えて海軍に引き渡されたものだからそちらの艦隊編成や訓練でも大忙しである。
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第五艦隊
空母 大鳳 慶鳳
戦艦 大和
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第五艦隊が新編され、訓練を完了したばかりの大和が編成に組み込まれている。
最終的に第五艦隊は装甲空母四隻、戦艦二隻を主力とし、駆逐艦も更に一〇隻ほど追加される予定だ。
しかし大和型戦艦二番艦である武蔵は空母建造の為に工員や機材を別に回しているので建造が遅れている。
彼らの運用は様々な意見があったが、全体的に打たれ強いと言う事で、第五艦隊を前面に出しその後方に第一~第四艦隊を置くと言うものになった。
要は敵機の攻撃を誘引吸収し、その間に第一~第四艦隊が敵艦隊に攻撃隊を放つ、というわけである。
いわば盾の役割を担ってもらうのだ。
これにより第五艦隊に属する空母の艦載機は対潜哨戒用艦攻と索敵機以外は全て戦闘機で編成される。
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ハワイを攻略してしまえば米海軍は西海岸まで下がらざるを得ない。
ただ無力化するだけならハワイ周辺や西海岸からハワイへの輸送航路を潜水艦で封じてしまえばいい。
のだが、西海岸から豪州への輸送航路遮断を目的とするならばトラック以外にもう一か所ぐらいはあった方が良い。
ニューギニアやソロモンくんだりまで行くのは何かと勘弁願いたいが、ハワイを抑えるとその辺りの問題が全てとは行かないまでもある程度は解決する。
太平洋艦隊程の規模を誇る艦隊が停泊出来るのはアメリカ本土の西海岸ぐらいしかなく、次の候補らしい候補と言えば一個艦隊程度の停泊地として南太平洋のニューカレドニア、豪州にある港ぐらいだが備蓄燃料量や規模を考えればハワイを失うのは手痛いレベルでは済まない。
事実上西海岸に縛り付けられる形になるし、何より痛手なのは燃料だ。
日本海軍もそうであったが米太平洋艦隊も同じように燃料と言う足枷を嵌められた存在であるのだ。
真珠湾に比べてそれらの港は規模も設備も大きく劣っており、大規模な艦隊を運用するとなるとかなり無理がある。
しかも備蓄されている燃料は到底大規模な艦隊を動かせるほどの量は無い。
そこで敵の太平洋における作戦行動を大きく制限する為と、太平洋全域に対する潜水艦基地を得るためにハワイ攻略作戦が計画、実施される運びとなった訳である。
既にハワイへの道中にあるミッドウェー島とジョンストン島は我々の占領下にある。
ミッドウェー作戦に関しては史実のように全く特筆すべき点は無い。
というのもそれまでに敵艦隊を叩き過ぎたせいで、攻略の為に艦隊が出撃しても敵艦隊が現れることもなく、敵潜水艦も護衛艦隊の一つをハンターキラー部隊として転用し、あちらこちらで潜水艦狩りを実施しているからか、道中で敵潜にすら遭遇しなかった。
いや、正確に言うなら哨戒程度の潜水艦は居たのだが早々に沈めるか追い払ってしまったし、数隻程度の哨戒戦力でしかない潜水艦も脅威にならなかった。
島には大隊程度の守備隊に爆撃機と戦闘機、哨戒用のカタリナ飛行艇が幾らかあっただけで攻撃隊の迎撃をしてきたものの、数で圧倒する戦闘機隊が終始有利に戦いを進め、敵機に撃墜された艦爆や艦攻は一機もいなかった。
対空砲火によって何機か撃墜されたが、脱出していたので海に落ちたら飛行艇が、敵地に降下したら占領後に無事救出されたのである。
勇気があるのは良いが、何故かやたらと突っ込んで行って自爆する者が多かったから、これでは不味いと前々から「生きて帰って来ること、そして戦い続けること」を厳命しておいて良かった。
六回に渡っての爆撃と艦砲射撃を加えると、上陸時に散発的な抵抗が幾らかあっただけで大して苦労もせずに勝ってしまったのである。
そんなわけでミッドウェー島は史実と違って損害も航空機十機程度に抑えられているし、上陸した陸戦隊にも被害は出たが、十名程度の死者に四〇名ほどの負傷者が出たぐらい。
戦死者は丁寧に包まれて本土へ送られた。
ミッドウェー島とジョンストン島は主力艦が多数停泊するには無理があるが、潜水艦が停泊して補給と整備を受けるには十分な広さを備えている。
特にミッドウェー島の西に100kmほどの位置にあるクレ環礁と共に運用すれば、かなりの数の潜水艦か、或いは一個艦隊、飛行艇が停泊するぐらいなら問題無い程度の環礁がある。
だから艦艇用と航空機用の燃料タンク、潜水母艦を送り込み、飛行場を整備すればハワイに対する前線基地、ハワイ攻略が出来たならば後方補給拠点として十分に使うことが出来る。
ここを潜水艦の拠点としてハワイ方面への偵察行動をしたり、北太平洋への睨みを利かせたりと補給線の長さと言う問題はあるが、有効活用している。
お陰で欲しい情報を得られている。
1942年、六月七日。
第一~第五艦隊はその後ろに護衛艦隊に守られた輸送船団を伴って北太平洋を進んでいた。
既に作戦は一か月前より始まっており、陽動作戦として龍驤、隼鷹、飛鷹の三隻が艦隊を組んで中部太平洋やニューギニアなどの方面に対しての攻勢を強めていた。
各飛行場などからも度々出撃して敵に対しての圧力を強めている。
この方面への航空機の展開も大きく進んでおり、島伝いに飛び石のように航空機を飛ばして送り込むという方法と輸送船を用いての二つで配備を進めている。
航空機を輸送船で運ぶと言うのは殆ど無く、もっぱら自力で飛んで行ってもらっている。
というのも輸送船は他物資の輸送の為に殆ど出払っており、戦力とは言え航空機輸送に割けるほどの余力が無いからだ。
これには山本さんや商工省などの、海上輸送航路が攻撃に晒された場合に備えて国内での各種物資備蓄量を大きく増やすと言う目的達成の影響も大きい。
それに自力で飛ばしていくと言うのも欠点だけではない。
輸送船で運ぶとなると機体とエンジン、各部分を分解して運ばねばならず、機体の組み立てやエンジンの調整と言った複雑な作業を設備のあまり整わない前線の野戦飛行場でやらなければならない。
設備が必ずしも整っているわけでは無い、それこそ夜戦飛行場レベルの設備しか持たない現地でやり直さなければならないが、自力で飛んでいけば日本本土の工場で熟練工員や整備員によって丁寧にチューニングされたものを一々分解せずに済むからそれらの作業は無くなる。
現地の整備兵の負担はその分軽くなるわけだ。
勿論到着したらある程度の整備をしなければならないが、一から機体やエンジンを組み立てて調整をするのに比べれば何時もの慣れた整備業務であるから負担は少ない。
圧力を強めていると言っても空襲と艦砲射撃で圧力を強めているというだけで、実際にどこかを占領したりというのはない。
輸送船の数を増やして大規模な戦力を送り込んでいる、圧力が強くなっていると思わせることでこの方面で我々が何かしらの大規模な作戦をする可能性があると思わせることが出来ればよいだけの話で、こちらの暗号や平電なども解読されること前提で旧式暗号を用いてしきりにこちらの方面への言及や通信量を増やしている。
だから実際は現地部隊向けの補給物資を載せた輸送船以外は何も載せていない空の輸送船を行ったり来たりさせているだけ、なんて事もよくある。
戦争なんていうのは盛大なブラフの張り合いでもあるのだ。
それに比べて主力五個艦隊は徹底してその存在を秘匿しており、ハワイ方面に関しては偵察ぐらいでしか触れていない。
敵も南のどこかには居るのだろうが、どこにいるのかは分からないと言う状態らしい。
実際に駐留していたのは日本本土では無く、作戦開始前の一か月前からトラック泊地に隠れていた。
しかも航空偵察に備えて丁寧に偽装まで施して小島に見えるようにすらしている徹底ぶりだ、空からでは易々とは分かるまいし、仮にバレたとしてもトラックにあるからこっちで何かやると思わせる効果も期待出来る。
敵を騙し、敵に騙されない事。
情報戦という重要な戦いの一つだ。
作戦目的はハワイ諸島の占領、そして大規模艦隊泊地及び航空基地として整備運用すること。
これにより米西海岸に対し潜水艦を中心とした艦隊を派遣し通商破壊を徹底実施するとともに必要であれば主力艦隊による敵基地襲撃も行う。
ハワイ攻略には陸軍から四個師団、海軍から六個特別陸戦隊全てが参加する。
総兵力十万五千名を超える。
これらの兵力は四十五隻の兵員輸送船、揚陸艦二十隻、戦車揚陸艦四十三隻に分乗し、そこに油槽船十五隻が加わって一二三隻もの大船団となる。
これら大船団は六個護衛艦隊と二四〇機の艦載機に守られる。
護衛空母は一〇機を露天繋止によって搭載機数を四〇機に増やしている。
戦闘機一八〇機、艦攻三〇機、艦爆三〇機の陣容となる。
これら輸送船団とは別に艦隊への補給用に油槽船二〇隻、輸送船十二隻が任務に就く。
作戦が長期に渡った場合に備えて数は多めだ。
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ところ変わってビルマ方面、インド洋方面を少しばかり説明する。
インドにおける英軍は欧州での対ドイツ戦の影響もあって極東方面に配備していたのは、二線級の碌な装備も持たない部隊ばかり。
航空機も足も短く速度も遅い旧式の複葉機が幾らかあるだけの状態に過ぎず、陸軍はこれを圧倒した。
最高の状態と最低の状態がぶつかれば結果は明白だ。
そもそも爆撃で飛行場は悉く破壊して回っているから敵機は気にしなくていいし偵察機も好き放題偵察を行える。
お陰で九九式双発汎用機が敵陣地に自由に爆弾を落として機銃掃射をしているらしい。
ビルマ全域を制圧しインド国境にまで前進するとそこで作戦は終了。それ以上の攻勢はそもそも計画に無かったのと兵站上の理由から行われなかった。
それでも史実における陸軍大敗の代名詞と語られるインパールにまで前進し占領している。
インド洋には潜水艦を派遣し通商破壊を実施しており、既に多大な戦果を叩き出している。
この方面の敵海上輸送網は酷く、特に大西洋の戦いに注力せざるを得ない英国からすれば白目を剥いて倒れたいところだろう。
チャーチルの毛根が全滅したらこれのせいだと思っておくことにする。
いや、確かチャーチルは愛人とか居なかったか?
……リークしてやろう。
これで本当に禿げ上がってついでにメンタルがダメになってくれれば良いが、流石に無理か。
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ハワイ攻略作戦に於いて懸念すべきは敵基地航空隊と、幾らか存在する太平洋艦隊と潜水艦である。
潜水艦に関しては護衛艦隊の存在とハンターキラー部隊の存在もあるのでそこまで心配するものではない。
次に敵基地航空隊。
これは先制攻撃を仕掛けることで制圧する。
とは言え米軍の航空兵力はニューギニアなどの方面で大規模作戦の予兆あり、と判断するようにこちらが散々色々とやったお陰で南太平洋に航空戦力の大部分を送り込んでいるという情報を掴んでいるので、ざっと三〇〇機程度と見積もられている。
次に太平洋艦隊。
米海軍、特に太平洋艦隊に動かせる主力艦の数は高が知れている。
フィリピン沖海戦でレキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズの空母四隻を失い、戦艦五隻撃沈、残った四隻も大破して真珠湾のドックで長期修理中。
史実に沿って行けば1944年ぐらいまではドック入りしているぐらいの損傷を負っていると推測される。
空母は正確な艦名は突き止めていないがどうやら大西洋から二隻が送り込まれ、ノースカロライナ級戦艦二隻とサウスダコタ級戦艦二隻の四隻を回航したらしい。
確かにぱっと見は立派な戦力として写るだろうが、こちらと比べてしまうと到底及ばない。
確かに戦艦は条約後に建造されたものであるから、こちらの戦艦と比べると長門、陸奥、金剛型四隻、天塩、摂津よりは確実に性能は上回っているだろう。
金剛型、天塩型と比べると相手が攻守の点で勝り、速力は向こうは二十四ノット程度なので三〇ノットを出せる我々が勝る。
しかし正面から撃ち合えば米側に有利となるだろう。
長門型戦艦と比べると攻撃力は向こうに分があり、速力ではこちらが勝る。
防御力は五分五分か若干不利と言ったところか。
大和型戦艦と比べると、単純な攻守で我々が勝り、速力は大和が二十八.六ノットで同程度。
しかし照準器などの光学機器や射撃用電探などの機械類という点ではまず間違いなくアメリカ側に利がある筈だし、それを考えれば同程度の戦力と捉えておいた方がいいだろう。
とは言え空母戦力が圧倒的に我々に有利なわけだから、戦艦戦力なんて比べても意味は無い。
輸送船団にとっては脅威だが、仮に輸送船団に攻撃を仕掛けようとしても索敵機に発見されるだろうし、主力艦隊との距離は一五〇kmとそこまで離れているわけでは無い。
攻撃隊を編成して一番足の遅い九七艦攻の最高速度に合わせても三十分程度で到着出来るし、それに長門と陸奥の二隻がこれまた船団に張り付いている。
砲戦を挑まれても航空隊が到着するまでの間、持ち堪えることは十分に可能だ。
戦力比は多く見積もっても空母十六:四、戦艦は一〇:四となる。
基地航空隊も少なく、障害らしい障害はハワイ諸島に建設されている要塞ぐらい。
これも無力化する算段は付いている。
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因みに先の海戦で鹵獲したPoWとレパルスであるが、この二隻は修理が終わればシンガポールを母港として活動することとなるだろうから、空母と戦艦のどちらも三倍の戦力を我々は有していることになる。
しかし鹵獲戦艦が実際の戦力となるのは修理完了までに少なくとも一年半、乗組員の訓練に半年を必要とするので二年は掛かる。
鹵獲戦艦二隻が戦力に数えられるのはどれだけ早くても1944年になるので現時点では戦力には数えていない。
二隻の修理がここまで修理が長くなるのには理由がある。
第一に損傷の度合いが深刻であったことだ。
曳航中の浸水によって機関部が殆ど使い物にならず、残った機関部も使えなくなった分をカバーする為にかなり酷使した結果、機関部は総取り換えしなければならない状態になったのである。
機関部の総取り換えと言うのは、艦橋や武装など全てを取っ払って甲板も装甲も全てひっぺ剥がして、という大工事になるのだから時間が掛かるのも納得である。
しかも現在日本本土の大型ドックでは空母が続々と建造されつつあるわけで、損傷艦の入渠の為に空けてある分を除いたら戦艦二隻を新たに入渠させられるだけの余力はないのだ。
資材も空母などの建造に最優先で回されているから、修理にも時間が掛かるのだ。
第二に武装を装備していたイギリス製のものから、日本製の装備に換装しなければならないこと。
本来ならば損傷箇所の修理だけで済むのだが、我々の戦艦が搭載する主砲とは砲弾の種類が違う。
なので我々が製造することが出来る砲弾を撃つことが出来ないのだ。
これで本来ならばシンガポールの弾火薬庫に備蓄されていた砲弾を鹵獲して活用すれば事はそれで収まったのだが、ここで予期せぬ問題が発生した。
そもそも戦艦二隻の鹵獲自体が全くイレギュラーだったのだが、それに加えて二隻の砲弾や搭載する機銃や機関砲の弾薬を備蓄する倉庫などが爆撃と砲撃で丸々吹き飛んでしまった事である。
これでPoWとレパルスに対する砲弾の補給が出来なくなってしまったことだ。
艦砲射撃と爆撃を行った時に張り切り過ぎたのだ。
機銃や機関砲の砲弾は幾らか残っていたのだが、それも精々一回分の補給量しか存在しないのもあって、それらの武装の弾薬の製造という問題が出てきたのである。
とは言えただでさえ消費する砲弾やそれ以外にも大量に作らねばならない航空機用の爆弾、魚雷、特に多く消費する機銃弾を製造するのにリソースを割いているのに、そこにさらに二隻分の異なる主砲弾や対空砲弾の生産など「できない」とは言わないが、生産ラインの事を考えればやりたくないが実際だ。
そこで長門、陸奥用として保管されていた41cm砲に白羽の矢が立ったわけである。
35.6cm砲の砲身などは天塩と摂津の建造の際に使ってしまっており、砲身交換などを考えると実戦機会が兎に角多いと予想される為、ある程度数が余っていた41cm砲が選ばれた訳である。
結果として主砲と副砲を丸ごと全取り換えとなり、これも工期が伸びる大きな原因となった。
機銃や機関砲の銃弾は幾らかが生産されることが決定している。
これは鹵獲した艦に搭載されていた武装を試験した結果、良好な成績を収めた為に工期短縮の意味も含めてそのまま搭載し続けるのに加え、機関砲や機銃そのものが生産され幾つかの艦艇にも搭載することが決まった為だ。
戦艦、防空巡洋艦、一部の防空駆逐艦と護衛艦隊の艦艇に幾らか装備される。
防巡も防駆も魚雷を装備していないからスペースには余裕がある。
陸軍の方にも対空砲として幾らかが納入されることが決まっており、飛行場などの対空火器として大いに役立つことだろう。
プリンス・オブ・ウェールズは長門型戦艦と同様に四基八門の41センチ砲を搭載する。
艦中央に置かれていた水上機カタパルトは撤去され、後楼塔はその分前に移して後楼塔があった場所に砲塔を一つ追加する。
対空火器は一〇センチ高角砲八基に換装、四〇mm高射機関砲、通称ポンポン砲は八基に増設される。
更に25mm機銃を載せるのだ。
重量増加による安定性確保の為にバルジも追加され、それに伴い水雷防御の向上もバルジによって行われる。
単純な装甲だけでなく、バルジ内には不燃ガス、衝撃吸収材、浮力確保の為にコルク材を用いた四層の装甲からなる大型バルジだ。
他艦艇のように重油は入れられていないが、それでも水雷防御に関しては大きく向上する見込みだ。
レパルスは四基八門の41センチ砲を搭載する。
搭載位置はPowと同じように艦中央に置かれていた水上機カタパルトは撤去され、後楼塔はその分前に移して後楼塔があった場所に砲塔を一つ追加する。
一〇センチ連装高角砲六基、魚雷発射管は撤去され四〇mm高射機関砲は八基に増設。
同じく25mm機銃を載せる。
艦の安定性の為に大型バルジも追加される。
それに加えて鹵獲された三隻の駆逐艦は同じように装備を換装した後に、護衛艦隊に配備された。
駆逐艦三隻は戦艦とは違って不足している駆逐艦分を補う為にすぐに修理と改装を受けているので、既に護衛艦隊で任務に従事している。
働きは十分で、既に潜水艦の撃沈と敵機数機の撃墜戦果を出している。
彼女達の働きに今後も期待するばかりである。
ーーーーーー
稼働戦力に加えて我々は⑥計画までの艦艇建造に着手しつつあり、⑥計画の艦艇は1943年中頃から終わりに掛けて次々に戦力化される。
それに加えて装甲空母一隻と改翔鶴型空母五隻が新たに⑦計画として建造計画の中に組み込まれている。
⑦計画で建造予定の艦艇は訓練を含めて一九四四年末には戦力化されるだろう。
他には数的主力である駆逐艦も多数建造中で、軽巡も幾らか建造中となる。
戦艦の建造計画は無いので逆転されるだろうが特に問題は無い。
その点、鹵獲戦艦二隻は貴重な戦艦戦力と言える。使い道はやはり空母の護衛ぐらいだな。
ただ米海軍の最も深刻な問題は駆逐艦や巡洋艦、そして潜水艦の数が圧倒的に足りていないことだろう。
なんせ出くわしたら片っ端から攻撃を加えて沈めるなり損害を与えるなりしたから、今の米海軍には碌な艦隊を編成する能力が残っていない。
恐らく太平洋艦隊司令部は戦力が余りにも無さ過ぎて頭を抱えているのではなかろうか。というか私だったら匙を投げている。
編成できるのは精々我々が有する一個艦隊分程度の寄せ集めが精々で、艦艇が足りていないのは勿論、何より人員不足が顕著だ。
乗組員不足問題も深刻と見ている。
片っ端から撃沈したりしたものだから、乗組員は海を漂わざるを得ず、常にこちらが攻撃を仕掛け続けたものだから救助の余裕も無く、結果多数の海面を漂う要救助者は溺死するか捕虜として我々に救助されてしまったのである。
極東米陸軍共々、凄まじい数の捕虜を出したことになり、人員不足が深刻過ぎて碌に訓練も出来ていない新兵ばかりが前線に配属されていると聞く。
実際捕虜の中には実戦的な訓練を一度も受けていない、という兵士も多かった。
だから暫くは米軍に碌な反攻戦力が整うことは、陸海空共に無いだろう。
ただその程度でアメリカが我々と講和をしようだとか、ましてや白旗を揚げるだなんてことは全く無く、その膨大な人口と生産力工業力をフル活用し、失った艦艇や人員を補充するべく動いている。
情報によれば戦艦を筆頭に空母の大きな建造計画を立てているらしい。
掴んだ情報によればアイオワ級戦艦一〇隻に、それよりも強力なモンタナ級と呼ばれている戦艦を一〇隻建造する計画だとかでこちらの思惑通り戦艦ばかりを建造する計画を立ててくれているらしい。
にしても何というか、アメリカなら実現させられそうな建造計画である。
それに比べて空母は現在判明している建造計画だけでも少なく、エセックス級航空母艦七隻以外には、軽空母ないし我々と同じような護衛空母を二〇隻ほど建造する以外に計画は無いらしく、その護衛空母もイギリスからの要請で大西洋に回されるらしい。
なんともまぁ、大艦巨砲主義を極めていらっしゃる。
このまま上手く行ってくれれば空母の数の差は大きく広がる一方で、少なくとも航空戦力と言う点に置いて二年は優位を保てるだろう。
大西洋に回される分を考えれば太平洋に回されるのはエセックス級と合わせても空母は全部で十隻程度と言ったところ。
この戦争は敵に、如何にして空母や航空機の有用性、戦略性を気が付かせないかに掛かっている。
その点今のところ戦略目標は達成出来ていると言って間違いない。
その有利をさらに拡大するべく、ハワイへの大規模な攻勢作戦実施となったわけである。
作戦としてはまず先んじて太平洋艦隊司令部の所在も突き止めているので、それを吹き飛ばし、敵司令部の能力を奪う。
こうすれば混乱によって暫くは太平洋全域に置いて碌な反撃も立てられないだろうし上手く行けば敵司令部人員を丸ごと吹き飛ばせる。
並行して敵飛行場を無力化し制空権を握る。
他に対空砲座や対空機銃、防御陣地などを徹底的に叩き上陸する陸軍の障害になり得るものは可能な限り排除する。
これが一過性の攻撃なら在泊艦艇や工廠や燃料タンクと言った施設なども徹底的に叩くところだが、今回は六百万バレルとも言われる大量の燃料や十分な設備を備えた工廠などをそっくりそのまま頂くことにしているので攻撃はしない。
これで作戦続行不可能、占領が出来ないと判断された場合は燃料タンクだけには何があっても爆弾を放り込むことにしている。
上手くこれらを獲得することが出来れば燃料不足の懸念がある我々の懸念を解消しつつ、迅速にハワイを米西海岸に対する攻撃拠点とするのだ。
そして最重要懸念事項であるハワイ要塞には徹底的に攻撃を加える。
上陸部隊にとってこれが最も脅威であり、これの排除は何があっても成功させねばならない。
なので航空機による攻撃だけでなく、破壊が困難と見積もられるものには陸戦隊から戦闘工兵小隊が抽出されて、この部隊によって破壊工作を実施する。
この戦闘工兵小隊の輸送と上陸には潜水艦を用いる。
航空機格納筒を持つ伊号潜水艦にボートを載せて接近し、ある程度接近したところで潜水艦から出撃、秘密裏に上陸して浸透させる。
ゴムボートは隠蔽して敵の目から隠し、航空攻撃が開始されてから行動を開始する。
各人一〇kgの爆薬を携行し、それを用いて航空機による破壊が困難な砲台を吹き飛ばす。
武装はMP40短機関銃と銃剣取り付けが出来ないように改造された九九式軽機関銃、そして狙撃銃のみである。
携行弾数は短機関銃二四〇発、軽機関銃五〇〇発、狙撃銃一二〇発。
それ以外の武装は精々ナイフぐらいで他には無く、可能な限り軽量化されている。
作戦中止となった場合は上陸時のボートを用いてそのまま潜水艦に収容、撤退する。
ーーーーーーーーー
「ハワイに動きはあるか?」
「いいえ、現在潜水艦隊からは如何なる報告も入っておりません」
「よし、敵はこちらの動きには気付いていないな」
「何故そう言い切れるのです?」
「気付いていたら通信量増大などの何かしらの動きがあるが、それが無いと言う事は気が付かれていないと言う事だ。気付いていたとしても艦隊を南に派遣しているから何も出来ないだろうがな」
豪州のほうからハワイまでどれだけ急いでも一週間は掛かる。
戦闘の事を考えれば一度補燃料給を受ける必要もあるし、ハワイ近海で有力な敵艦隊が活動している中で燃料補給なんて出来ようもない。
だからハワイに我々が全く知らない艦隊がいない限りは敵艦隊を心配する必要は無いと良い気っていい。
「なるほど」
「このまま一気にハワイを叩く。出撃準備を進めるように」
「了解しました」
攻撃隊は夜間の内に発艦し、夜明けと同時に空襲が実施される。
その際ハワイまでの誘導は潜水艦に搭載した切り離し式の電波発信機を用いて行う。
電波発信機の電波を辿りながら接近し、ハワイを視界に捉える頃には夜明けだ。
潜水艦は電波発信機を切り離した後はすぐに離脱し、安全を確保しつつ索敵を実施する。
潜水艦隊はハワイを取り囲むように設定した索敵警戒線で索敵任務を行う索敵部隊と、今回の作戦で真珠湾から脱出する敵艦隊がいた場合はそれを狙う襲撃艦隊に分けられている。
七隻で一つの部隊を編制し潜中型潜水艦が殆どを占め、索敵の為に水上機搭載可能な潜水艦が配備されている。
彼らはこの作戦終了後は、占領成功の場合半数がハワイに残り交代要員として、もう半数は米西海岸に移動し船舶や敵施設への攻撃を実施する。
航空攻撃の第一波は対地爆弾を装備した艦攻と零戦を主力として艦爆四〇機ほどを加えて編成される。
先ずは敵飛行場を叩く必要がある
航空撃滅戦を仕掛け、それによって攻撃隊の進路を切り開く。
基本的に航空戦は相手よりも先に仕掛けた側が有利になる。いわば先手必勝が前提のものであるが、日本軍機は被弾に弱いと言うのは総じて周知の事実である。
なので可能な限り敵戦闘機の迎撃を排除しておきたいと言うのが考えにある。
そこで戦闘機だけで編成された制空隊の出番である。
零戦の航続距離と二〇〇発の携行弾数なら攻撃隊が到着するまで粘って戦うことが出来る。
戦闘工兵小隊によって敵レーダー施設の破壊も検討されたが戦闘工兵小隊の戦力の関係上、ハワイ要塞と敵レーダー施設を天秤にかけることになった。結果としてハワイ要塞に注力することになり敵レーダー施設は第一波攻撃隊の艦爆による急降下爆撃によって破壊することになった。
第一波攻撃隊の成否にそれ以降の作戦推移は掛かっていると言っていい。
なので艦隊直掩の為の零戦以外は殆どを第一波攻撃隊に付けている。第二波三十二機、第三波二十八機の零戦が護衛に就く。
まだ夜も明けぬ四時頃、飛行甲板上に辛うじて飛行甲板が見える程度の電灯を灯しながら発艦が始められた。
周囲は真っ暗で、灯りと言えば艦橋から漏れる非常灯の薄いオレンジの光と甲板に並べられた小さな電灯、そして艦載機の翼端と垂直尾翼の後ろ側にある航行灯ぐらいなものである。
発艦が終了するとすぐに第二波攻撃隊を飛行甲板に並べ、発艦させる。
第三波攻撃隊まで格納庫の中が直掩機以外は空っぽになったところで飛行甲板の電灯は消される。
するとすぐに周囲は暗闇に覆われた。
三時間後、攻撃隊から攻撃開始の打電が続き、米軍のものと思われる混乱した平電や無線が大量に傍受され始めた。
こちらの攻撃隊からの電文によれば無事に全ての敵レーダー施設と飛行場を叩くことに成功したようである。
さらには米太平洋艦隊司令部の破壊成功と言う大きな戦果も飛び込んできた。
これには艦隊中がお祭り騒ぎになり、万歳三唱が叫ばれるほどである。
第二波攻撃隊は飛行場にダメ押しを加え、第三波は各地にある対空砲、防御陣地などを攻撃して回り、その能力を奪った。
要塞でも騒ぎが起きているというし、露天状態の砲塔は早々に八〇〇kg徹甲爆弾を命中させている。
弾薬や装薬に誘爆したらしく、凄まじい轟音と共に吹き飛んだそうだ。
それらの攻撃が完了した後に、敵要塞砲の脅威が排除されたのを確認した後に白昼堂々戦艦八隻はオアフ島に接近し弾着観測機を発進させ、残るオアフ島要塞に砲弾の雨を落下させ始めた。
無力化してあるが念の為と言う奴である。
反撃も無かったし、砲撃を終えると上陸地点の海岸周辺に砲撃を始めた。
その砲撃支援を受けながら、輸送船団はオアフ島に接近し陸戦隊が真っ先に揚陸艦、戦車揚陸艦、大発動艇を用いてが次々と海岸線に殺到し水際での敵の抵抗を早々に排除すると海岸保を確保。陸軍が上陸した。
陸戦は一か月にも及んだが、無事に作戦完了、それに加えてドック入りしていた敵艦を鹵獲、それに加えて八〇〇万バレルもの燃料を手に入れることが出来た。
修理の進んでいない艦は解体の上で本土に屑鉄として運ばれ、鹵獲艦用の弾薬などもそっくりそのまま頂くことが出来たので運用に支障はない。
乗組員の訓練の為と検分の為に一旦本土に回航されることとなった。
作戦中米軍の動きは精々潜水艦による細々とした補給を目的としたであろう行動ぐらいで、それ以外のアクションは無かった。
南太平洋ではハワイでの意趣返しのつもりなのか、トラックに敵空母から放たれた攻撃隊が来襲したが精々二〇〇機程度の艦載機ではトラックにある二五〇機もの戦闘機の迎撃を掻い潜ることは出来なかったようで、トラック諸島に被害は無く、代わりに一五〇機以上の敵機撃墜を報告。
敵はただ単に貴重な搭乗員を失い、捕虜に取られただけに終わったのである。
ハワイ諸島における捕虜は陸海軍合わせて十万を超し、民間人合わせて五〇万近い数となった。
大々的に報じられる戦果であることに間違いなく、国内外を大きく色々な意味で賑わせた。実際ムッソリーニ、ヒトラー両名から公式声明として祝電が発表されるぐらい、逆にイギリスとアメリカは、特にアメリカは国内の混乱を収めるのに苦労しているらしい。
とはいえ勝った勝ったと喜んでばかりいられないのが実情で、陸海軍全体を悩ませて頭痛の種になっている。
その悩みというのが捕虜となったり、ハワイに残っている民間人をどうやって食わせていくかだ。
ハワイは食料燃料医薬品の殆どを外からの輸入に頼っているところが大きく、輸入が無ければ食っていくことが出来ないのである。
勿論我々にはそんな五十万、六十万もの人間を食わせて行くだけの余力はなく、早急な対策が求められた。
本土に一度戻ると、ハワイ諸島住民の処遇に関する会議が開かれた。
「ハワイ住民の扱いをどうするかだが、何か意見はあるかね」
「これだけの人間を食わせていくだけの能力はありません」
単刀直入に言うしかない。
言葉を並べても嘘をついても意味は無く、こちらを苦しめるだけだ。
「では飢えさせろと?」
「いいえ、ここはもうすっぱり彼らを米本土へ送ってしまいましょう」
「何!?」
その提案に当然会議室の面々はざわつく。
この会議には陸軍や各省庁の代表も出席しているが、彼らも顔を見合わせて騒めいている。
それも当然と言えば当然だろう。
占領地の民間人を丸ごと敵国に返すなど、前代未聞に近いことだからだ。
しかしながら現実問題として、我々の兵站状況を考えるとこの五十万もの民間人と捕虜を食わせ続けるだけの余裕が無いのだ。
護衛艦隊や各艦隊による潜水艦狩りによって敵潜水艦の動きを封じ込められているとはいえ、それもいつまで続くか分からないし、必要量を満たし続けられるかどうかは話が別だ。
「大蔵省の者です。我々は山田大将の意見に賛成します。ハワイ住民の生活を維持する為の金銭は天文学的数値になるもので、ただでさえ戦費で逼迫している中ではどうやっても捻出は不可能です」
大蔵省を始めとした省庁はどうやらこの意見に賛成らしいのか頷いている。
だが陸軍は渋い顔をしている。
まぁ前代未聞と言えばその通りだ。
だが前代未聞だからと言ってこちらが飢えるのを座して待つよりは遥かに良い。
「民間人だけを送るのです。万が一米軍がハワイ奪還の為に来襲して戦闘になったとしても巻き込まれる可能性は無いですし、なによりこちらの負担は軽くなります」
「しかしだな……」
「ではこのまま首が絞め上がるのを待つのですか?民間人をも飢えさせると?」
「……分かった分かった、実際問題我々には余裕がないのも確かだ。だが米政府が飲むかな?」
「問題無いでしょう。これで断れば民間人を見捨てたというレッテルを張られる可能性もありますし、そうなればルーズベルトの落選はより近いものになります。選挙票を獲得出来るなら無難に要求を呑むでしょう」
「分かった。民間人の米国送還に関するその辺の調整は任せておけ。省庁とも調整する必要があるし、何より戦争状態の国と直接交渉をする必要がある。少し時間をくれ。今すぐにとは行かん」
「ありがとうございます」
「捕虜は残すのだろう?」
「勿論です。送還して戦力化されても困りますし、何より米国は熟練した乗組員などが圧倒的に不足している現状ですからそのままにさせておきたいところなので。かといってこのままハワイに置いておくのもどうかというところですから本土の捕虜収容所に送ってしまいましょう。本土ならば捕虜の分の物資を運ぶ手間が少なくて済みます」
この会議の結果、米軍捕虜は日本本土の捕虜収容所へ運ばれることが決定され、捕虜移送は一週間後には開始された。
会議より1か月後、第三国経由で交渉を纏め、民間人は順次米本土へ送られることが日米間により決定され、その決定の一週間後には第一便として6隻の客船が米国より派遣された。
米政府もここで頷かなければ民間人を見捨てたというレッテルを張られることになり、不信任に繋がることから飲んだのだろう。
ルーズベルトは三期目の当選を目論んでいるしそれは避けたかった筈だ。
ハワイの防衛は陸軍三個師団と二個海軍陸戦隊が担当し、飛行場は陸戦隊によって作戦中に一週間ほどで全面使用可能状態に復旧されており陸海軍の各航空隊も順次進出。
最終的に陸海軍合わせて六〇〇機程度の基地航空戦力が整えられる手筈となっている。
各艦隊は交代で一度本土へ戻って整備と休養を挟み、その後にハワイに前進。
第一~第三艦隊までがハワイ駐留となり、第四艦隊と第五艦隊は本土で休養をとり、その後に第一艦隊などと交代でハワイに進出する。
ハワイには5個艦隊全てを駐留させるが、一旦休息と整備の為に本土に戻らせるのだ。
潜水艦隊は西海岸全域に二〇〇隻が交代で展開し通商破壊に従事した。
ーーーーーーーーーーーーーー
ハワイ作戦以降の我々の動きは南太平洋にあった。
既にビルマ戦線や南方資源地帯の制圧は完了し日本本土へ資源輸送を行っている最中である。
太平洋の防備の主眼はマリアナとパラオに集中し、次いで小笠原諸島と資源地帯と日本を結ぶ航路の途中にある沖縄に集中させている。
所謂絶対国防圏は第一線をマリアナからフィリピン、ボルネオ島に定め、第二線を小笠原諸島、台湾、沖縄に定めたのである。
これらの地域には、特に中部太平洋を中心に資機材が運び込まれ要塞の建設と兵力の配備を進めている。
陸軍の話になるが対ソの防備も進められつつあり、ノモンハンの戦訓を取り入れた防衛線が敷かれている。
国境線から幾らか後方に重砲や対戦車砲、機関銃を備えた多数の永久陣地が備えられ、対戦車地雷なども多数埋設されている。
航空基地も置かれており、旧式とは言え戦闘機や双発爆撃機が配備されている。
現有戦力
第一艦隊
空母 赤城 加賀 飛龍
戦艦 金剛 霧島
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第二艦隊
空母 翔鶴 瑞鶴 蒼龍
戦艦 榛名 比叡
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第三艦隊
空母 伊勢 日向 扶桑 山城
戦艦 大和型戦艦二隻 長門 陸奥
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第四艦隊
空母 大龍 昇龍 隆龍 豊龍
戦艦 天塩 摂津
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第五艦隊
空母 大鳳 慶鳳
戦艦 大和
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第一護衛艦隊
護空 大鷹
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第二護衛艦隊
護空 神鷹
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第三護衛艦隊
護空 雲鷹
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第四護衛艦隊
護空 海鷹
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第五護衛艦隊
護空 沖鷹
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第六護衛艦隊
護空 宝鷹
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第七護衛艦隊
護空 福鷹
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第八護衛艦隊
護空 瑞鷹
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
(現在建造中の護衛空母は大鷹型護衛空母とされ、九番艦以降が建造中である)
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1942年十月八日、第三、第四、第五艦隊はインド洋にあった。
インド洋での作戦目的はインド洋に展開するイギリス東洋艦隊の撃滅及びセイロン島の攻略だ。
インド洋へは一過性の攻撃に止めるべき、という主張も陸軍からのインドへの圧力増、という主張もあって空しく終わり、勢いそのままに、と殆ど無理矢理と言う形で行うことになってしまった。
実際海空軍力の殆どを失っていた英軍はビルマを放棄しインドまで撤退している。
そのインドでの防衛線構築も英本土でのドイツ軍との戦いに戦力や物資を割かれていることであまり進んでいないのが現状だ。
確かに今なら簡単に奪えるかもしれないが、懸念しているのは攻撃失敗では無く、攻略後の兵站線をどれだけ維持し続けられるのかという問題だ。
海軍は確かにテコ入れによって兵站線維持能力を向上させたが陸軍はそうではない。
だから反対したのだが、今ならばと軍令部でも作戦を推す声が大きくやることになってしまった。
作戦立案権は軍令部にあるからこっちは取り合えず従うしかない。
そんな懸念はよそに作戦自体は順調に進んだ。
英東洋艦隊は空母は少なく、イラストリアス級が三隻に戦艦も二隻。
随伴艦が二〇隻ほどで質、量共に今の日本海軍の敵では無かった。
確かに装甲空母の名に恥じない防御力を持った三隻の空母は中々沈まなかったが、それでも魚雷を六本も命中させてしっかりと撃沈することが出来たし、それ以外の艦艇にも大なり小なり損害を与えている。
それに加えてイギリスの重要拠点であったディエゴガルシアを叩くことが出来たことも大きな戦果の一つだろう。
これで少なくとも向こう二年はイギリスはインド洋で碌な戦力も無くまともな作戦を行うことも出来ない状態に追いやることが出来た。
大西洋から戦力を回す以外に方法は無く、戦力があったとしてもイギリスは紅海の方に撤退するか、或いはキリンディニ港辺りを根拠地とするはずだ。
まぁ幾らなんでも流石にそっちの方までは出て行くことは距離の関係上難しい。
セイロン島を占領したことによってコロンボやトロンコマリーといった軍港が使える事となり、インド洋での作戦行動により柔軟性が増すこととなったがそれと引き換えに補給線の増大、陸軍からのインドへの上陸作戦や、ビルマ方面からの攻勢作戦などが主張され始めることとなった。
流石にこれには答えることは出来ず、海軍は猛反対。
というかもう補給線がかなりギリギリなのに、これに加えてインドにまで軍を進めたら幾ばくもせずに補給線が崩壊する。
ギリギリのところで作戦を行わずに済んだのである。
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インド洋での作戦が終わると艦隊は一度本土へ戻り入渠と休養を終えると、艦隊はすぐにトラック泊地へ移動する旨の命令を受け、それの一か月後にニューギニア戦線の火蓋が切って落とされた。
ただでさえハワイやインド洋のセイロン島まで上陸して占領しているというのに、これ以上戦線を広げるというのは余りにもこちらの兵力と兵站能力を考えていないというのが明らかだった。
それでも戦勝ムードが漂って仕方が無い軍令部はよっぽど米豪遮断をやりたくて仕方が無いらしい。
確かにハワイを獲って、インド洋にも一定以上の楔を打ち込んだのは間違いない。
だがそれとこれとは話が違うのだ。
私を始め、陸海軍の一部は戦線が拡大し過ぎることを理由に反対したが、結果として殆ど無理矢理作戦を強行させられることとなった。
どうやら大本営は豪州を陥落させることを狙っているらしく、単純な補給線の長さだけでなく必要とされる戦力の問題からあまりにも無茶苦茶が過ぎると言ったのだが聞き入れてもらえなかった。
大本営は豪軍主力は欧州に出払っているから、と言っていたが豪州脱落を狙えばイギリスもアメリカも黙ってはいないどころか、本気になって防衛を行うだろう。
主要連合国の中の一つが陥落することだけは米英軍も、何が何でも阻止するだろうし、戦力不足で悩んでいるというのは米海軍に限った話で米陸軍はまだまだ余力を残している。
アメリカ本国から数十万、下手をすると百万を超える陸軍戦力が豪州に送り込まれるのは確実だろうし、ましてや豪州は食料を自給自足することが出来るから我々の通商破壊も効果が半減する。
そうなればオーストラリアと言う広大で縦深防御に優れ、更には複数の拠点を持つ土地を活用出来る敵に対して、こちらの不利は明らかだ。
しかも軍令部はニューカレドニアまで出て行くつもりらしく、それを強硬に主張して譲らない。
一過性の攻撃ならばまだしも占領など兵力でも補給能力でもどうやったって実現不可能な作戦であることには変わりなく、どうやって計画を断念させるかが私達の話題の種だった。
どうにかして占領自体は断念させたが、それでもニューカレドニアを攻撃するのは決定らしい。
それをやる前に各戦線の安定化を図るのが最優先だろうに。
ニューギニアへ投入される陸軍の第十八軍が編成され、艦隊がトラックへ移動した一か月後に作戦が開始されるとニューブリテン島占領を程なくして成し遂げ、更にニューギニア島への上陸を開始。
ポートモレスビーを目指して進軍を始めたがすぐに進軍は止まった。
理由は島中央を走る山脈に阻まれたからだ。
米軍と豪軍はこの山脈に沿って防衛線を引いて守りを固めているのが判明している。
尾根沿いの見晴らしのいい高台に機関銃陣地や野砲陣地、迫撃砲陣地、そしてそれらの観測陣地を設けて進軍する陸軍部隊を攻撃している。
偽装も十分に施されていて守りはコンクリート製トーチカなどがあるから強固、発見は簡単では無く、損害は膨らむばかりなのに落とした陣地は丸一ケ月掛けてたったの2つ。
そこで陸路での攻勢を諦め、海路によるポートモレスビーへの上陸計画が立案されるとポートモレスビー強襲上陸作戦が発令され、陸戦隊と陸軍を合わせて四万四〇〇〇名の投入が決定した。
これを輸送し、道中に障害があれば排除、無事に送り届けその作戦を支援することが私を始め、艦隊に与えられた新しい任務であった。
「司令は何故この任務に否定的なのですか?我々は勝ちの波に乗っているのですから、その流れに乗って一気に進むべきでは?」
「やれと言われれば私も軍人の端くれだ、やるとも。だがな、現実をよく見て考えてみろ」
「現に我々は勝ちを重ねています」
側に控えていた士官が不満そうな顔をしながら語気を強めに言う。
確かに今は勝っているが、敵地に乗り込んで占領して勝つと言う事はその分だけ負担が増えるということだ。
護衛艦隊があると言ってもその数は数百隻もあるわけではなく、高が知れているし、その内大量に投入される敵潜水艦によって擦り減らしていくだろう。
そんな中でただでさえ補給線が伸び切っていると言うのにこれ以上補給線を伸ばしても敵に叩いてくださいと言っているようなものだ。
結果は私の知る歴史通り、その殆どが飢えと渇き、そして病に倒れ、海没して死ぬことになるだろう。
そうならないように最大限努力はするが、結局我が国の国力の限界がある以上はそれ以上の事は出来ないのだ。
「お前は分かっていないな、我が国の国力を」
「国力、ですか?」
「日中戦争から始まって、既に我々の国力を遥かに超えた状態で戦っているんだ。どれだけ勝ちを重ねても、このままではその内負ける。今勝てているのは偶然と言うか、奇跡に近いものだ。ましてや西に東にこれだけ占領地を広げても、補給は追い付かない。もう日本は息切れしているのだ」
「ではどうすれば勝てると?」
「そもそもの考えが間違いだ。米国相手に勝つなど到底無理だ。講和を結ぶか、或いは判定負けを捥ぎ取るのが精々だろう」
「司令は悲観的過ぎでは?」
「私が言ったようにならないよう最大限努力はするが、米軍が空母の力に気が付いて建造を大きく進めたら、二年、いや一年も経たずに戦線に綻びが生じて崩壊するかもしれん。そうなったら早いぞ。そうなった時、君はなんというかな」
そう指摘された士官は押し黙った。
トラック泊地から出撃した第四、第五艦隊は特にこれと言った障害に阻まれることも無かった。
敵艦隊が現れることも無く、無事にポートモレスビー沖に到達するとまず降伏勧告が行われた。
これから行われるのは戦艦による徹底的な砲撃だ。
防衛線を敷いている海岸線、飛行場周辺、周りの山地などに三式弾を用いての砲撃だから、数秒とは言え摂氏三〇〇〇度の地獄を作り出す砲弾をこれでもかと叩き込むと言うのだから降伏勧告をまず行う。
それと同時に民間人等の非戦闘員を市街地中心に向かわせ、砲撃に巻き込まないようにビラと放送を繰り返した。
陸軍からは敵の防衛体制が整ってしまうとせっつかれたが必要な事だと押し切っている。
強制的に敵に民間人と言う荷物を背負わせた形だから、これで戦闘しようものなら非難を受けるのは敵になる。
それに、事前に海域周辺に潜水艦を多数放って通商破壊を実施していたことで補給を絶たれて久しいポートモレスビーは、戦艦八隻の砲撃を一気に食らえば戦意を失って敗走するか降伏するだろう。
頼みの綱の飛行場とそこにあった戦闘機や攻撃機も前々から行われている重爆による爆撃と、ついさっき行った艦載機による爆撃で吹き飛んでいる。
彼らの戦う手段は自分達が持つ小銃や機関銃、野砲などだけだ。
我々が待つ、と予告していた時刻になったのを確認し、接近し砲撃の用意を整えていた戦艦に砲撃命令を下す。
「砲撃始め」
それぞれの戦艦が一〇発づつほど砲撃を終えた後、ポートモレスビーを守る豪軍から降伏をする旨が伝えられた。
豪軍の武装解除は速やかに終わり、彼らは輸送船に載せられてフィリピンへ送られた。
市街地へ入城し、飛行場をブルドーザーなどの建設機械を用いて速やかに使用可能にすると陸海軍の戦闘機が次々に配備された。
未だに山中に逃げた敵が抵抗を続けているが、一か月もすると物資不足による飢えや乾き、伝染病などが広まり始め、そうなると次々に投降し、一時的にポートモレスビーの捕虜収容所に入れられた後に南方へ送られた。
ーーーーーーー
ニューギニアでの作戦と平行してパナマ運河破壊作戦も実施がされると、太平洋側、大西洋側の全ての閘門や閘室、橋、港、道路、鉄道、そしてそれに付随する施設の破壊が行われた。
艦隊はハワイに向かうと燃料補給をしてすぐにパナマに向かったのだ。
作戦目標は勿論パナマ運河の破壊による米海軍艦艇が通行出来なくすることと、長期間の修理期間を強要することだ。
パナマ運河は今でも米海軍艦艇や大量の輸送船を大西洋から太平洋へ送り込む為に使われているので、ここを破壊することが出来れば大西洋から太平洋に艦隊を移そうとなったら丸々一か月は掛かる。
勿論その後に整備と乗組員の休養も取らねばならないので移動だけで二か月は作戦行動が出来なくなる計算になる。
新規艦艇を建造しても訓練をやるのは我が軍の潜水艦が跋扈している西海岸近海で、おちおち訓練もやっていられない。
だからパナマをやる必要がどうしてもあるのだ。
ハワイから一週間掛けてパナマ沖に到達すると、空母艦上にある艦載機の総力を挙げてのパナマ空襲が開始された。
米海軍にはこれまでの戦いで我々に対抗可能な戦力は残されていないから心配すべきはパナマ周辺の敵飛行場と、そこにあるであろう敵機、そしてパナマ運河を無事に破壊することが出来るかという三つだけが考えるべきことだ。
無事にパナマ運河の破壊を終えると艦隊はハワイへ戻った。
ーーーーーーーーーーー
1943年。
艦隊は去年に引き続きニューギニア方面にて行動をしていた。
ニューギニアに続くソロモン諸島での作戦は、最初は上手く行っているように見えた。
だがそれは見えただけであった。
ガダルカナル島の占領、飛行場建設、豪州への圧力増と我々の戦略目標は達成したかに思えたがそう上手く事が運ばないのが世の常というものである。
我々がオーストラリアに対して圧力を強めると米国は、負け続きであることに加えて連合国の主要国の一国である豪州陥落を何としてでも阻止したい一心で、豪州への絶対的支援を宣言しそれを実施。
我々が手を出せない南米大陸をぐるっと大きく回って、ニュージーランド以南の海域を通る大回りの航路を使って大量の兵力と物資を送り込み続けた。
手が出せない訳では無いが、かといって距離の関係上手が出しづらいと言うのが現状だ。
だから潜水艦による通商破壊も探すべき範囲が大き過ぎて戦力が足りず、効果的に行えていない。
米西海岸やパナマ運河周辺は我々の潜水艦によって締め上げられている現状で、実際かなりの数の敵船や敵艦を撃沈している。
だからそちらを通らずに南米大陸を回る航路にしたのだ。
勿論我々も黙って見ている筈も無く、通商破壊作戦を実施した。
しかしながら欧州でUボートとの戦いを通して対潜水艦戦に慣れている熟練兵を送り込んできたのに加えて、米西海岸でも潜水艦作戦を展開している我々には投入出来る潜水艦の数には限りがあった。
建造されているとは言っても、訓練を終えるまでは投入できないし、何より広大な海域に対して潜水艦の数が足りない。
相手に与えた損害も護衛空母一隻を含めて輸送船数十隻以上撃沈と言う大きな戦果であったが、こちらも二十三隻の潜水艦を失い十三隻が損傷するという甚大なものとなっている。
大きな影響を与えるほどの戦果を得られたとは言い難い。
今のところ補給状況は問題無いが、これが続くとなると話は変わる。
潜水艦隊による通商破壊作戦は現在も続いているが、到底豪州を締め上げることは出来ない。
多分、このままいけば泥沼化の挙句に、こっちが勝っても負けても損害は大きいものになるのは間違いない。
どうにかして早々に撤退させる方向にしなければならない。
ーーーーーーー
1943年四月頃、ソロモン諸島での戦いが激化の一途を辿る中、ようやく艦載機が新型に置き換えられていた。
艦載機を新型のものに置き換えたことで、その能力はより向上し、本格的な折り畳み翼を採用した艦載機だから、空母によっては一〇〇機もの艦載機を搭載し、運用出来る能力を備える。
今のところ失った戦力も少なく、主力艦隊は全くの無傷のままで戦力も十分な数が揃っている。
ハワイ沖で習熟訓練を終えた装甲空母二隻がまず第五艦隊に編成されると、改翔鶴型航空母艦四隻も次々とハワイ沖で習熟訓練に入った。
更には護衛空母四隻も海上護衛総隊に引き渡され、十個護衛艦隊と一個対潜艦隊が編成されている。
現有戦力
第一艦隊
空母 赤城(九〇機) 加賀(九〇機) 飛龍(七〇機)
戦艦 金剛 霧島
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第二艦隊
空母 翔鶴(九〇機) 瑞鶴(九〇機) 蒼龍(七〇機)
戦艦 榛名 比叡
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第三艦隊
空母 伊勢(七〇機) 日向(七〇機) 扶桑(七〇機) 山城(七〇機)
戦艦 長門 陸奥
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第四艦隊
空母 大龍(七〇機) 昇龍(七〇機) 隆龍(七〇機) 豊龍(七〇機)
戦艦 天塩 摂津
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第五艦隊
空母 大鳳(七〇機) 慶鳳(七〇機) 禄鳳(七〇機) 神鳳(七〇機)
戦艦 大和 武蔵(建造中)
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 十五隻
駆逐 十二隻
第六艦隊
空母 青龍(七〇機) 白龍(七〇機) 赤龍(七〇機) 黒龍(七〇機)
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 二隻
防駆 一〇隻
駆逐 二〇隻
空母 二十二隻
艦載機 一六二〇機
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海上護衛総隊
第一護衛艦隊
護空 大鷹(三〇機)
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第二護衛艦隊
護空 神鷹(三〇機)
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第三護衛艦隊
護空 雲鷹(三〇機)
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第四護衛艦隊
護空 海鷹(三〇機)
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第五護衛艦隊
護空 沖鷹(三〇機)
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第六護衛艦隊
護空 宝鷹(三〇機)
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第七護衛艦隊
護空 福鷹(三〇機)
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第八護衛艦隊
護空 瑞鷹(三〇機)
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第九護衛艦隊
護空 龍鷹(三〇機)
駆逐 一〇
海防 十二
第十護衛艦隊
護空 瑞鷹(三〇機)
駆逐 一〇
海防 十二
第一対潜艦隊
護空 翔鷹(三〇機) 福鷹(三〇機)
軽巡 二
駆逐 十六
海防 十二
護衛空母 十二隻
艦載機 三六〇機
主力艦隊は空母二十二隻体制となり、艦載機は全て合わせ1620機が定数となる。額面上の戦力的には問題無い。
これらの艦載機は新型機に置き換えられており、新型艦上戦闘機である烈風、新型艦攻天山、新型艦爆彗星となっている。
機体性能、艦隊規模を考えれば世界一と言って間違いない。
ただし問題が一つ。
搭乗員の練度低下である。
これまでの戦いは確かに有利に進んでいたが、損害は勿論だしている。
特にニューギニア方面での戦いが激化し始めると主力艦隊だけでなく護衛艦隊も損害を出し始めている。
ある程度の練度低下は飲まざるを得ないが、それでも損害が小さくても嵩み続ければ大きなものになる。搭乗員と機体の補充は追い付いているが敵が航空兵力を侮っていて戦艦建造にリソースを大きく振り分けているからに他ならない。
本格的に航空戦をやらなければならないとなったら、幾ら生産力向上をしているとしても追い付かなくなるかもしれない。
烈風の機体の大きさは史実のものより胴体の太さが大きい。
理由としては無理に小型軽量エンジンを開発し、搭載するのではなく技術力を考え多少大型でもより馬力のあるエンジンの開発に切り替え、それで開発された直径の大きいエンジンを搭載したことによる。
どれぐらい太いかというと、米軍が最近配備を進めて会敵することが時折あるF6Fと同じぐらい、と言えばどれぐらいのものか分かるだろう。
搭載エンジンは1840馬力を発揮し、武装、防御、速度に性能に重点を置いている。
武装は機首に13mm機銃2門、翼内に20mm機銃を4門装備し、速力は627km/h、防御力は米軍艦載機の主武装である12.7mm機銃を防ぐことが出来る程度のものだ。
今の日本は南方資源地帯とのシーレーンが十分に繋がっており、天然ゴムや希少金属類なども陸海軍共にたっぷりと得られていることもあって、燃料タンクは防弾ゴムを装甲で挟んだ三層構造、主に操縦席周りは装甲板と防弾ガラスで十分に守られている。
折り畳み翼を採用しているから機体が大型化しても十分な数の搭載機数を確保出来る。
搭乗員達は格闘性能が低いことを理由に嫌っていたが、最近米軍に配備されつつある新型機と戦った時に零戦で苦渋を舐めていたことで、その後に烈風に乗って戦うとその意見は一転した。
格闘性能が低いと言っても零戦には劣るだけであり、ある程度の格闘戦は十分に行える。
しかもいままで訓練を積んでいた戦術との相性も良く、急降下耐性も零戦の比にならないぐらいだ。
烈風の配備によって航空機の損害は確かに小さくなった。
消耗戦の様相を呈しているこの戦争では、既に熟練搭乗員の多くを失っているこちらからすれば有難い事この上ない。
基本的な戦術としては零戦のように敵機を格闘戦に引きずり込んで、と言うものでは無く四機一組で行動し、それが二機一組に分かれ相互支援をしつつ一撃離脱、場合によっては格闘戦というものだ。
個での戦術では無く、群れとしての戦いに主眼を置いているのだ。
数か月の間、ブルネイやバリクパパンに停泊していたが、航空隊も艦隊もその豊富な燃料を使って十分に訓練を積んだから練度は高い。
陸軍でも烈風と同じエンジンを採用した新型戦闘機の疾風が正式採用を控えている。
設計自体は違うが、エンジンや部品の互換性はあるし武装、弾薬の融通も利く。
どうせなら海軍と同じように烈風を採用した方が生産の面では有利だったのだが、政治だかなんだかの都合らしい。
それを気にして戦える戦争では無いと本当に分かっているのだろうか。
護衛艦隊も一〇個護衛艦隊体制にとなり補給線維持は盤石に思われ、潜水艦隊による敵輸送路に対する通商破壊作戦も継続されていてこのまま進めば敵補給線に甚大な損害を与えられることも夢ではない。
それもあってか米軍の反攻作戦は全く始まらずにいた。
敵の後方拠点となっているニューカレドニアに対する攻撃も空襲と艦砲射撃によって大成功に終え、敵の拠点の殆どを破壊して回りこちらの優勢は明らかに思われた。
しかしながら戦線破綻の足音は着実に近付いていたのだ。
大きく広がった占領地とそれを支える為に伸び切った補給線と言うのは、敵からすれば恰好の目標であった。
我々がそうしたように、敵も我々の輸送航路の破壊に乗り出したのである。
すでに二十隻もの輸送船が、護衛艦隊が護衛しているのにも関わらず撃沈され二十八万トンを超える物資が失われた。
幸い陸軍兵士を載せた輸送船は一隻も失われていないが、戦地に無事送られても武器や弾、燃料が無いという状態が発生したりしている。
まぁすぐに補給の手配をして送り込んでいるので問題にはならないが、これで敵潜水艦による本格的な通商破壊活動が始まれば被害は雪だるま式に増えていく。
激戦海域に突入して敵潜と敵機の攻撃を掻い潜りながら目的地に到達することが出来る高速輸送船の数にも限りがあるので、通常の低速輸送船がやはり主力として輸送任務に従事せざるを得ない。
そうなると数に余裕のある低速輸送船団は敵潜と敵機の恰好の獲物にしかならないわけである。
それを補う為に輸送機を使って送り込んでいるがその輸送量は高が知れている。
軽量な武器弾薬、食料水燃料なら双発機や重爆を改造して輸送機にすればある程度纏まった数を運び込めるが、肝心の野砲や榴弾砲、戦車、野戦築城に必要不可欠な建設機械などの重量物は航空機では中々運べない。
ましてや牽引が前提の野戦重砲などは分解しても航空機では運ぶことは困難で、運べるとしても航空機輸送だと基本的には迫撃砲ぐらいで、分解して二機の輸送機に分乗させてどうにかこうにか九〇式野砲や九一式十糎榴弾砲辺りが限界だ。
こういった重量物は船舶輸送が前提の代物だから輸送船が必要不可欠となる。
特にもっとも遠いソロモン諸島への補給線は日々米軍による圧力を受け続けており、何時瓦解するか分からなかった。
まだ補給線は維持出来ているが、何時まで続くか分からない。
敵も正面戦力を整える時間を稼ぐ為に、必死なのだろう。
「このままではいずれ補給線は崩壊し、大量の餓死者を出すことになります。ですから今の内に戦線縮小を図るべきです。少なくともソロモン諸島の放棄を速やかに認可頂きたい」
「護衛艦隊は?」
「連日の任務で消耗しきっており既に補給と整備、休養中です。護衛艦隊があっても全く手が足りず主力艦隊ですら船団護衛に駆り出されている状況なのです。主力艦隊も同様でこれでは敵艦隊が出て来た時に十分に動けません」
「……陸軍が納得するか?」
米内さんの言葉通り、撤退における最大の問題は陸軍上層部が納得するかどうかだった。
陸軍からすればニューギニアは海軍の戦略に巻き込まれた、とでもいうようなものだから、そこに戦力を突っ込んだ挙句戦果も碌に無しに撤退するなど参謀本部が認める、というのはいかにも難しいものだ。
「そこは山本さんの力量次第、としか。私は最前線で戦っておりますので、背中をお任せしたい」
「……分かった、どうにか交渉しよう。ソロモンは何とかする。だがニューギニアを放棄できるかは分からんぞ」
「構いません、一〇〇〇kmも補給線が短くなればそれだけ大幅に負担は減りますから」
トラックで米内さんと話を進めた。
どうにかこうにか交渉してもらえるように説得できたが、軍令部が頷くかどうかは分からない。
そうこうしている間にソロモン諸島の戦況は一気に悪化した。
1943年五月三日、突如として陸海軍が飛行場を置き、部隊を置いていたガダルカナル島に米海兵隊が上陸を開始。
展開していた陸海軍合わせて130機の航空機は夜間砲撃によって粉砕され、守備隊を率いていた栗林中将以下ガ島守備隊2万3000名は山中に逃げる他無かったのである。
とは言え失った戦力は少ない。
挙げられる理由は以下の通りだろう。
ガ島に配備されていた部隊にはトラックなどの車両を多数配備した機械化部隊に近い性質を持つ部隊であったこと。
これにより物資や兵員を迅速に退避させられることが可能だったのだ。
展開していた哨戒網によって敵艦隊及び敵船団接近の報告を受けていたこと。
これは潜水艦を多数展開させ、尚且つ航空機による哨戒網を構築していたから可能となった。
事前に栗林さんと話し合いを行い戦艦や航空機の火力を事前に我々の戦艦を用いて実証し、水際での防御は不可能であることを理由に山中に陣地構築と物資の搬入を進めていたこと。
等々幾つもの要因が重なった結果なのだ。
元々、島嶼戦を想定している我々にとってマリアナやパラオ、トラックなどの島々の防衛方法と言うのは大きな課題でもあり議題でもあった。
というのも陸軍が想定し、策定している戦術マニュアルには大陸と言う広大な土地での戦闘のみであり、対米戦を主眼としつつあった戦前でも、一部の陸軍と認識を持たせることに成功した海軍ではどうやって防衛を行うか、というのが論争の種だった。
そこでどのように攻略をするか、してくるかというのを実験してみようとなったわけである。
攻略に関しては事前の艦砲射撃や爆撃を徹底して、尚且つ大発動艇や戦車揚陸艦を用いれば抵抗が予想される敵前上陸でもある程度何とかなると実証されていた。
問題は防衛に関してである。
そこで実験する為に、とある程度の大きさのある無人島を買い取り、そこに想定されていた水際防御戦術に従って陸軍部隊が防御陣地を構築し、海軍が艦砲射撃などで上陸支援を行ったと想定したわけである。
結果はマリアナ諸島での戦いを知っている者ならば納得出来るもので、構築された水際防御陣地は九〇%が完全に破壊され、敵上陸前に無用の長物に成り果てた訳である。
ましてやこれに部隊を展開していたら、戦闘前に砲撃で粉砕され混乱しているところに敵上陸となったら全く抵抗出来ずに占領されることが明らかになった。
それを元に水際防御は全面的に廃止し、構築するのは囮の無人陣地のみとし、主陣地は全て内陸部に置き、それも地下に埋設すること、と定められた。
内陸部と言っても小さな島が殆どで戦艦の艦砲であれば特に問題無く射程に収められることも考慮され、設置される防御陣地は地下陣地であること、トーチカなども通常のものだと厚さは精々30cm程度であるが、艦砲を耐え得る厚さのコンクリート厚は直撃を想定し最低でも1mとされた。
結論としては水際防御を捨てて、艦砲射撃の届かない内陸部に隠蔽防御陣地、或いは全島が射程範囲の場合は地下防御陣地を築き、防御に徹すること、と新しく戦術書に策定され、全軍に配布された。
史実の日本軍の問題の一つに、マニュアルを作ってそれを周知させれば問題無く対策出来たことをやらなかったことがある。
特に海軍の酸素魚雷の運用方法、陸海軍共通として島嶼戦における防衛方法が挙げられる。
これらは将校の意識もあるかもしれないが、少なくともマニュアルを作り、それを戦術として訓練して徹底させれば史実ほどの被害などを受けることはなかった筈だ。
それを実施しただけの話なのである。
地質調査の結果、防御に適した地質を有している島々に兵力を集中することなどが定められた。
パラオ、マリアナ、硫黄島は固い地質で地下防御陣地を構築するのに適しているとされ、広さなどを考慮した場合沖縄なども向いているとされている。
広い範囲に兵力を分散するよりも狭い範囲に兵力を集中させるというのは常道である。
現在防衛用の兵力と資材は4か所に集中されている。
勿論陸軍から反発はあったが、それらの実験結果を突き付けて無理矢理納得させたわけである。
ガダルカナル島はまずそもそも守らなければならない場所が多い事、地質が柔らかく防御陣地を構築するのには適していないことなどから内陸部に防御陣地が作られた。
そこに逃げ隠れているのである。
話が逸れるが、この世界の日本の医薬品や医療関係の技術事情は史実のものに比べて随分マシになっている。
戦争を睨んで若い頃、25年ぐらい前に製薬部門を父の会社に設立してマラリアを始めとした伝染病、感染症の治療薬研究開発を進めていたのである。
マラリア治療薬は基本的にはキニーネになるが、これは木から採れるもので生産量にどうやっても限界があること、そして副作用が強いと言う欠点がある。
なのでそれを解決する為に薬を解決する必要がある。
幸いにもアメリカやイギリスが開発に成功していたマラリア治療薬の科学的構造は覚えていたので、正解を元にして逆算して行き、それに製造設備を整えれば良いわけである。
一から全くの手探り状態でやるのと、答えを知っていてやるのとでは難易度が天と地ほどの差がある。
そこでどうにかこうにか殺虫剤であるDDTの大量生産が可能な状態に持ち込み、マラリア治療薬であるクロロキン系抗マラリア薬とメフロキン系マラリア治療薬を開発することに成功したのである。
日本軍が従来まで用いていた塩酸キニーネ系治療薬よりも効果が高いうえに副作用も少ないと言う完全上位互換だ。
史実ではビルマで流行した変異型のマラリアに対して日本のキニーネ剤は効果が無かったのに対して英軍が用いていたメフロキンは症状を抑えているという話もある。
ようは科学技術の競争、技術戦争、医学競争に於いても他分野と同様、日本は全く米英に太刀打ち出来なかったのである。
それを20年掛かりで解決したのだから、ここまでの道のりは長かった訳である。
DDTの供給量はかなり多いが、マラリア治療薬の供給量はギリギリどうにか足りている、というぐらいの供給量を維持するのがやっとだ。
それでも無いの途では話が違うのは他と同じだ。
だから南方方面やニューギニア、ガダルカナルでの状況は史実とは違って随分と良いものになっている。
無事に逃げ延びた彼らは決して良好な状態とは言い難かった。
山中に逃げ延びたとは言え、重装備を含めて殆ど、兵士の損耗も運悪く撤退中に砲撃を食らった百名程度に留まった。
運び込めた燃料弾薬水食糧と言った消耗品の量は高が知れていた。
兵力としての数字は殆ど無傷であるが、実際の戦闘能力は物資の都合上乏しかった。
物資の搬入は開始したばかりで、弾薬や砲弾の殆どが敵の砲撃によって失われているからだ。
爆薬も飛行場の復旧を遅らせる為に設置し吹き飛ばして使い切ってしまっている。
食料と医薬品を中心に運び込んでいた事で、戦車や榴弾砲、高射砲の砲弾は撤退時にトラックに無理矢理詰め込んで運んだ各門三十発づつ程度のものしかなく、高射機関砲に至っては各基二〇〇発あるかどうかと言ったところだ。
新型の二式中戦車も配備されていた30両前後全てが無事に逃げることが出来たとは言え、燃料は各車に搭載している分と燃料が入った200Lのドラム缶が幾らかに整備部品も幾らかあるだけ。
機関銃や小銃の弾も各員が携行している分と逃げるときにトラックに載せた幾らかしかなく、それだけでは戦えない。
撤退するにしても撤退を偽装する為と彼らを救う為に物資を運び込む必要がある。
先日ガ島に送り出した輸送船団が大損害を被った。
この輸送船団はガ島への兵力増強前の準備として物資を送り込むことを目的とした輸送船団であり弾薬輸送船八隻、輸送船十二隻、戦車揚陸艦六隻、合計二十六隻で編成されている。
これら輸送船は全て総トン数一万トンのものだ。
弾薬輸送船には小銃弾、迫撃砲弾、各種砲弾を積載しており、輸送船には保存性を優先した為に基本は乾パンと缶詰にされた米、牛肉、鶏肉、豚肉、野菜類の食糧である。他には飲料水、医薬品、各種機材が大量に積載されていた。
戦車揚陸艦は戦車と車両用の燃料を二〇〇リットルドラム缶で積載していた。
タンカーではない理由は燃料輸送の為の、沖合から海岸までの艀、海岸から内陸までのパイプラインが無かったことから戦車揚陸艦にドラム缶で、となった訳である。
この輸送船団は第八護衛艦隊と第九護衛艦隊からなる、護衛空母二隻、軽巡二隻、駆逐艦七隻、防空駆逐艦八隻、海防艦十三隻で編成された計三十二隻もの護衛艦隊で守りを固めていたのだが、敵は潜水艦だけでなく太平洋に展開していた空母二隻に新たに二隻の軽空母の機動部隊で輸送船団を襲撃したのである。
どうやら軽空母はインディペンデンス級と思われ、最大速力三十一ノットの発揮が可能だから実際はちゃんとした陣容の高速空母機動部隊と言える。
航空兵力約二五〇機もの相手で新型機に一新されている。しかも空を守るのは旧式の零戦三十二機が主力で、新型機である烈風はたったの十二機しか持たない護衛艦隊では多勢に無勢だったのは言うまでもない。
敵はどうやら輸送船団相手なら航空機だけで十分に撃破可能と考えたのか、戦艦は無かった。
敵戦艦が居たら恐らく砲撃も加えられていただろうし、そうなったら護衛艦隊も大損害を被っていただろう。
結果として空戦と対空戦闘によって敵機一一〇機の敵機撃墜を報じるも弾薬輸送船六隻、輸送船一〇隻の合計一六隻が撃沈されてしまった。
戦車揚陸艦は最後に狙われたことによって、それまでに撃沈された輸送船の護衛に就いていた護衛艦がそっくりそのまま戦車揚陸艦の護衛に就いた。
それに戦車揚陸艦は速力にも余裕があったのも生き残った要因の一つだろう。
最終的に生き残った輸送船と戦車揚陸艦には一隻当たり三隻もの護衛艦が就いたことになる。
護衛艦隊の損害も無視出来るものでは無く、護衛空母は飛行甲板に直撃弾を食らい発着艦不可能。
駆逐艦六隻、防空駆逐艦四隻、海防艦三隻大破。
駆逐艦一隻、防空駆逐艦二隻、海防艦四隻中破。
幸いだったのは敵潜水艦からの攻撃が無かったことだろう。
それがあったら護衛艦隊もこれ以上の大損害を被っていた。
この海戦はラッセル諸島沖海戦と命名された。
損害無しで乗り切ったのは防空駆逐艦二隻と海防艦六隻だけだったのである。
かれらは海面に漂う生存者を救助した後に生き残った輸送船と戦車揚陸艦を送り届け、どうにかラバウルまで戻って来ている。
この惨状を見れば護衛艦隊に撃沈された艦が出なかったのは凄いとしか言いようが無い。
実際この後に日本本土まで回航された隊は駆逐艦の内四隻と海防艦三隻は損害が酷く解体が決定されている。
その資材は建造に回された。
護衛空母を始めとした損傷艦は一か月で修理を終え、ラバウルで待機していた各護衛艦隊の戦力と、新たに増派された第一、第四護衛艦隊と共に激戦極まる輸送船団護衛任務に従事することになる。
現在飛行場を手にした米軍と、山中に構築した陣地に立て籠もる我が軍とで睨み合いが続いている。
ラッセル諸島沖海戦で輸送船団壊滅後、その場凌ぎの為に弾薬輸送船二隻、輸送船四隻、戦車揚陸艦三隻で編成された高速輸送船団を送り込んで輸送を成功させた。
どうやら先の海戦で米軍は艦載機を半分以上すり減らしたことで作戦行動が出来なくなったらしく航空機による妨害は無く、すんなりと成功した。
敵の活動は潜水艦に限られているので相手が潜水艦ならこっちのものだ。
食料医薬品、水だけでも最低限必要な量を運び込めたことは幸いで、これだけの量があるならば切り詰めれば一か月は持つだろうと栗林さんからの回答がある。
と言う事は我々は一か月以内に準備をして救援に行かねばならないということだ。
「敵戦力は空母四隻、戦艦八隻、随伴艦三〇隻が洋上にあります。それに加えてガ島飛行場の陸上機が約一〇〇機に、上陸した米海兵隊、陸軍合わせて四万程度が敵の総兵力です。それに後方には詳細は不明ながら空母二隻、護衛空母も数隻展開していると」
「飛行場がもう使える状態なのか!?」
「米軍の建設能力を考えれば不思議ではありません」
米海軍にはシービーズと呼ばれる建設工兵隊が存在する。
これは機械化された工兵隊で、ブルドーザーなども潤沢に保有しており、我々陸軍の平均的な工兵隊とは能力差が凄まじい。
陸戦隊が有する工兵隊はシービーズと同じぐらいの能力があるが、米軍は何よりも数を投入出来るという圧倒的な強みがある。
それを考えたら特段驚く様な話でもない。
飛行場どころか道路も燃料輸送の為のパイプラインだって出来ていてもおかしくはない。
「そうなるとガ島に配備される戦力は日ごとに大きくなる。生半可な増援では太刀打ち出来んな。主力をすべて出すぐらいの対応は必要だろう」
「はい。ですが第三、第五、第六艦隊は本土で休養と整備中で二か月は動きが取れません。そうなるとトラックに存在する第一、第二、第四艦隊のみで対応せねばなりません。戦力不足は否めないでしょうがこれを好機と捉えております。この際一気に撤退をしてしまいましょう」
「それなんだがな、陸軍が相当渋っているんだ。あれは中々難しいぞ」
それは容易に想像が出来た。
なんせ今のところ日本軍は勝ち続けている。
ガダルカナルもなんとか補給出来たし、兵力を送り込めば簡単に奪還出来るだろうと楽観的に見ているのだろう。
それに陸軍からすれば海軍の戦略に巻き込まれたと思っているだろうから、そんなところに戦力を送り込んで犠牲も払ったのにそう易々と撤退出来るか、と言ったところだろう。
「ですがこのままでは遠からずガ島の陸軍将兵は飢えと渇き、病気で倒れていくだけです。今ならまだ間に合います」
「補給は?」
「どうにか。ですが距離が長過ぎて時間が掛かる上に敵潜水艦の活動もここ最近活発になってきております。ガ島周辺には飛行場から飛び立った敵機も居りますので護衛艦隊で守っていても損害が嵩んでおります」
ガ島ヘンダーソン飛行場は既に稼働状態にある。
戦力は空母一.五隻分程度とは言っても、護衛艦隊からすれば十分脅威なものだ。
全てを防ぐことは出来ない上に輸送作戦をやれば必ず一~三隻の輸送船に損害が出る。
「どれぐらい時間稼ぎが出来る?」
「撤退を前提としたものならば二か月が限度です。あれだけの敵を追い返すのは並大抵のことではありません」
「敵より戦力が多くても、か」
「今はまだ我々に有利な戦力比ですが、これだけ補給線が長く守るべき場所が多くては、艦隊は東奔西走しなければなりません。戦線が太平洋だけならばまだやりようはありますが、インド洋でも我々は戦わなければならないのです。そうなれば補給も整備も訓練も間に合わなくなる。同数同士の戦いで勝てぬ相手だから相手より多い戦力を用意してどうにか戦っているというのに、戦力逆転となればいつ大敗してもおかしくはありません。私にはソロモン諸島が無理をしてまで、兵士達を死なせてまで維持し続けるほどの価値は無いと思います。ましてやこれから米軍の大反攻が予想される中でこんな場所で陸海軍共々無駄に戦力を失う余裕はありません」
確かに豪州脱落と言うのはこちらからすれば有難い限りであるが、アメリカが本腰入りを入れて支援をしている以上そう簡単に攻め落とすことは出来ないだろう。
それこそ豪州に直接上陸して占領するぐらいの事が必要だ。
「私や山本達は良いとしても、軍令部が頷くかどうかだ……。米豪遮断は肝入りだから向こうがうんと言わねば出来ない」
結局のところ、作戦立案権は我々に無く、それがあるのは軍令部や大本営だ。
そこを納得させられなければ動くことが出来ないというジレンマを抱えている。
編成や人事権はこちらにあるからある程度自由にやれるとは言え、やはり作戦そのものの立案を握られているのでは中々思うようには行かない。
「交渉はしてみよう。山本もその辺を説明すれば理解はしてくれるだろう。だが、確約は出来んし見通しは暗いものだと思っていてくれ」
「ありがとうございます。交渉して頂けるだけで、話を理解して頂ける方がいるだけで心強いものです」
頭を下げて礼を言う。
「まったく君は上官使いが荒くて敵わんな。戦争が終わるまでにどれだけ貸しを作れることやら」
「お二方には何時もご迷惑をお掛けします。戦争が終わったら私の奢りで浴びるほど飲みに行きましょう」
頭を下げる私を見ながら米内さんは笑いながら良い良い、と言いながら頭を掻くと、煙草を一本吸いながら命令書をしたためた。
「それはそれとして、交渉の成否に関わらず作戦準備は整えておくように」
「了解しました」
命令書を受け取ってすぐにトラックに戻った。
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結局ガ島を巡る陸海軍同士の交渉は纏まらず、撤退案に対して強硬に反対の態度を取る陸軍と軍令部に押されて新たにガダルカナルへ増援を送り込むことが決定された。
陸軍にも勿論撤退案に賛成している人達もいるのだが、撤退に反対する勢力の方が力が強く、結局押し切られてしまう形になった。
山本さんや米内さんを始めとした中将、大将級の面々は補給能力や艦隊が整備などで一部抜けることも考えて戦線縮小が望ましいと考えているのは勿論であるが、海軍内でも撤退を良しとしない将官級の人間も勿論いる。
特に軍令部は米豪遮断作戦を主導している手前、撤退に反対しているわけで、それを山本さんがどうにかこうにか言い包めたりして留めているだけだ。
結局のところ、日本の国力を考えても米豪遮断作戦は無理難題だったのだ。
これならば米国西海岸に対する攻撃に注力するべきだった。
少なからず世論に圧力を与えられて、上手く行けば講和に繋がったかもしれない。
そう言ったこともあって、更なる増援を送ることになった。
これには現地司令官である栗林さんからの、
「撤退か、さもなくば増援と補給を」
という趣旨の電文が連日送られてきているというのも増援を送ることが決定された要因の一つではあるだろう。
それだけ現地の状況が宜しく無いということだ。
現地からの報告を元に更に一個師団の兵力と現地の部隊向けの物資を送り込むということらしい。
すでにガダルカナル島には栗林中将率いる二万三〇〇〇名が展開しているので、併せて四万四〇〇〇の兵力となる。
敵軍は凡そ四万とされるが、敵は兵力を送り込み続けているから当初よりは多くなっている筈だ。
多分、これでは少ない。
ギリギリイーブン程度の兵力ではあるだろうが、単純に陸軍だけでは飛行場を奪い返すことは難しい。
そこで海軍も艦隊を出して、制海権、制空権の奪取に加えて対地攻撃に参加することとなっている。
ガ島に展開する友軍戦力は砲兵や戦車の数は他の地域に展開する部隊に比べて優れているが、それはあくまでも日本陸軍の中で比べたらというだけだ。
正式採用され配備されている中では最も新しい二式中戦車が主力であるが、結局数は三〇両程度で砲兵も対空砲など全て合わせて一〇〇門ちょっとと言う程度だ。
その程度では圧倒的な火力を誇る米陸軍や海兵隊を相手にするのは困難だ。
そこで戦艦や重巡によって飛行場周辺の防御陣地などを艦砲射撃で吹き飛ばして支援することになった。
史実と違って敵戦力の過小評価からの兵力逐次投入という流れは避けられたことを取り合えず喜ぶべきか。
なんにせよ、海軍も勿論協力するのだがガ島周辺の制空権は完全に敵の手に渡っている。
飛行場には数十機とは言え戦闘機が存在しているらしく、
しかも敵艦隊も近海を遊弋しているらしく、潜水艦から敵艦影多数確認の報告が度々上がってきている。
その中を敵艦隊を相手にしながら無事に送り届けるとなると、少しばかり策を考えなければならない。
動かせるのは三個艦隊、空母九隻と戦艦六隻だ。
輸送船の都合は海軍が保有する高速兵員輸送船一〇隻と高速輸送船一〇隻、戦車揚陸艦一〇隻が投入出来る。
暫く分の物資も丸ごと送り込む計画なので全て合わせて三〇隻の輸送船団だ。
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戦車揚陸艦の元設計は史実における第百一号型輸送艦を元に拡大発展させたものだ。
それを戦前、かなり前から設計して上陸戦研究に熱心であった日本軍に父の会社名義で売り込んでいたのである。
当初は陸軍のみが興味を示し、発注し日中戦争などに投入されていたのだが、戦争が拡大し上陸戦や整備された港以外への強襲上陸などが度々行われるようになると海軍からも発注がされることになった。
これには海軍は海軍で少なからず自前の輸送能力を整備する必要があると考えていたのでプッシュさせてもらった。
戦車揚陸艦自体は特に難しい設計や特殊な設計などを持っているわけでは無い。
それどころかブロック工法や、構造などは安全性を考慮しつつ可能な限り簡略化されているので大量生産に向いている。
なのでどうにかこうにか数を揃えられているが、それでも要求数は全く満たせていない。
名前自体は戦車揚陸艦、とそのままであるが、全長が八〇mから一二〇mに、全幅十二m、戦車を二〇〇t、戦車用燃料や弾薬水食糧、その他物資を合計二五〇t搭載可能と、全ての能力において拡大発展したものだ。
これは将来的に戦車を始めとした車両が大型化することを念頭に設計開発を行った結果である。
対空機銃を三連装機銃四基、同単装六基、十二cm高角砲二基を搭載している。
この戦車揚陸艦に戦車や兵士達を乗せて直接砂浜を持った海岸に揚陸することが可能となっている。
早い話、艀を必要とする輸送船と違って戦車揚陸艦は直接砂浜に乗り上げて物資を揚陸したり負傷兵などを収容出来るという明確な利点がある。
なので輸送船で物資を運んで輸送船に搭載されている特大発動艇や戦車揚陸艦に物資を載せ替えて送り込むと言う手段が採用されている。
というのも輸送船用の艀を前回の輸送が完了した後に設置したのだが米軍の空襲で破壊されてしまっていると言う事情があるわけである。
そこで戦車揚陸艦で直接砂浜に乗り上げて送り込んでしまおうと言う算段なわけである。
各輸送船には甲板上に四隻の特大発動艇を搭載しており、八〇隻の特大発動艇が存在するということになる。
これに戦車揚陸艦を加えて沖合からピストン輸送をしてしまえ、というわけだ。
戦車揚陸艦には増援部隊の一つとして戦車一個連隊を載せているので、最初にそれらを揚陸し終えたら物資揚陸に回るわけである。
試製三式中戦車、史実で言うところの四式中戦車が実地テストの名目で十二両派遣されている。
どうやら陸軍は新型戦車の性能を確かめる為に今回増加試作を行って実戦に投入すると言う事らしい。
実際に二式中戦車では対抗が難しい
二式中戦車は史実で言う三式中戦車であるが、武装は75mm砲であるとはいえ攻撃力は些か不足気味、車体は八九式戦車の発展型でしか無く、しかも防御力は無いに等しい。
米軍の戦車相手には、特にM4中戦車が出てくれば正面からの戦闘は難しく、側面か背面に回り込んで攻撃しなければ撃破は難しいという程度。
M3軽戦車やM5軽戦車相手ならまだしも、ある程度纏まった数がガダルカナル島に投入されているM3中戦車相手では性能自体は拮抗と言ったところではあるが撃破するには幾らか手間が掛かる、という報告が上がっている。
前々から開発が進められていた試製三式中戦車であるが、陸軍の上が開発中の戦車がどれだけ通用するか確認する為に送り込んだのだろう。
これで通用しないなら別のモノを用意するしかなくなるから、早い段階で通用するか否かをはっきりさせておきたかったのだろう。
この試製戦車以外は二式中戦車で編成されている。
戦車の開発などにもいろいろと手を貸しているというのもあって、陸軍側にも色々と顔が利くのだが、私は現在艦隊司令官と言う立場にあり基本的には前線にいるので結局直接的な交渉は山本さん達に頼むほかないのだ。
三式中戦車だけでなく、現在新型戦車の開発も父の会社で行われており、戦車製造は三菱重工や川崎重工を始めとした各工場とそして父の会社で大幅に進められている。
九五式軽戦車を筆頭に順次置き換えられているが、製造能力を考えても全てを置き換えるには行かないだろう。
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陸軍部隊を載せた船団を無事にガダルカナルに送り届け、そして敵艦隊を排除しなければならない。
二か月待てば、四個艦隊を投入出来たが共通認識として、敵兵力増大のこともあるのでやるならば早い方が良い、と言う事でラバウルとニューギニアから師団を引き抜き、戦車連隊は本土で編成され、訓練がつい最近終わったばかりのものを投入することになった。
「輸送船団は第四、第七護衛艦隊が守り、その露払いに我々が前に出ます」
「敵戦力は?」
「空母が新たに正規空母二隻、小型空母二隻が確認され、正規空母四隻、軽空母四隻の合計八隻となっております。戦艦は変わらず八隻ですが、新型戦艦が幾らかいるとの事です。航空機は全て合わせて三〇〇~三五〇機程と見積もられます」
エセックス級航空母艦は既に一番艦のエセックスが就役し訓練を終えて実戦配備済みであることが確認されている。
今のところ建造予定数は片手の指で足りるぐらいの数だが、既に二~四番艦も実戦配備間近と言ったところで、エセックス級の脅威は着々と迫っている。
それに対して戦艦の建造予定数はその倍を行く数であり、現在対峙する九隻も40cm三連装砲を四基装備する新型戦艦が多数確認されている。
旧式戦艦三隻、新型戦艦五隻の内訳で、旧式戦艦はハワイで損傷が比較的軽微、と言っても大破に近い物であったがそれを突貫工事で修理したらしい。
確かにあれから一年半も経っているのだから、戦艦優先のアメリカならば余裕で復帰させてくるだろう。
「ガ島飛行場の敵航空兵力はどれぐらいだ」
「現在確認されているもので凡そ一四〇~一七〇機と見積もられます。敵艦隊と合わせて最大で六〇〇機程度は存在するかと」
「飛行場の兵力がかなり増えているな……。大体我々の六~七割、と言ったところか」
あまり良い数字ではない。
やはりもう一個艦隊を参加させたかったところだが、致し方ない。
基本的には敵飛行場を叩かないと我々は二正面作戦を強いられることになる。
敵艦隊よりも撃破が容易なのは飛行場であるので第一目標はガ島飛行場に設定された。
これの撃破にはラバウルからの重爆が担当することになっており、護衛戦闘機は改装型空母隼鷹と飛鷹搭載の烈風が担当する。
機種転換が間に合わず、零戦と烈風の混成になってしまったのだ。
敵にはF6FやF4Uが艦載機として配備されつつあり、数は少ないとは言え二機種とも侮り難い敵であることには間違いない。
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作戦参加艦艇
第一艦隊
空母
赤城九〇機(烈風三九機 天山三〇機 彗星二一機)
加賀九〇機(烈風三九機 天山三〇機 彗星二一機)
飛龍八〇機(烈風三〇機 天山三〇機 彗星二〇機)
烈風一〇八機 天山九〇機 彗星六十二機
戦艦 金剛 霧島 天塩
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第二艦隊
空母
翔鶴九〇機(烈風三九機 天山三〇機 彗星二一機)
瑞鶴九〇機(烈風三九機 天山三〇機 彗星二一機)
蒼龍八〇機(烈風三〇機 天山三〇機 彗星二〇機)
烈風一〇八機 天山九〇機 彗星六十二機
戦艦 榛名 比叡 摂津
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第四艦隊
空母
大龍八〇機(烈風三〇機 天山三〇機 彗星二〇機)
昇龍八〇機(烈風三〇機 天山三〇機 彗星二〇機)
隆龍八〇機(烈風三〇機 天山三〇機 彗星二〇機)
烈風九〇機 天山九〇機 彗星六〇機
戦艦 大和 武蔵
重巡 一隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
潜水艦二十七隻
第二航空戦隊
空母
隼鷹七〇機(烈風四〇機 天山一六機 彗星一四機)
飛鷹七〇機(烈風四〇機 天山一六機 彗星一四機)
烈風八〇機 天山三十二機 彗星二十八機
軽巡 一隻
駆逐 一二隻
輸送船団
戦艦
長門 陸奥
第四護衛艦隊
護空 海鷹三六機(零戦二四機 九七艦攻十二機)
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第七護衛艦隊
護空 福鷹三六機(零戦二四機 九七艦攻十二機)
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
高速兵員輸送船 一〇隻
高速輸送船 五隻
第百一号型輸送艦 九隻
総艦載機数
烈風三八六機 天山二七〇機 彗星一九二機
零戦四八機 九七艦攻二十四機
天塩、摂津、長門、陸奥、大和、武蔵の六隻を各艦隊から一時的に引き抜いている。
さす
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米軍はこちらの動きを察知すると、それに対抗する為にガ島で睨み合う海兵隊に増援を送り込むために向こうも輸送船団を編成したらしい。
メルボルンから豪州に送り込まれていた米軍の一部がガ島に向けて移動するらしく、偵察に出ていた潜水艦から情報がもたらされてる。
ニューカレドニアもハワイも我々の攻撃で使い物にならない状態なので、米軍は艦隊の泊地などを豪州に頼っているのだろう。
輸送船団を艦隊の後方六〇海里に配置し、夜明けと同時に新鋭機である艦上偵察機彩雲を放つ。
彩雲はつい最近艦隊に配備されたばかりのものだが性能は申し分無い。
敵船団に対しては付近の潜水艦に命令し、攻撃を仕掛けられる場合は攻撃を行うように命令してある。
運が良ければ海上で敵輸送船団を撃滅することが出来る。
それを艦隊は第一、第二艦隊の空母に八機づつ、他艦隊は二式艦偵を配備している。
偵察機が敵艦隊を発見したらまずは空母を叩く。
敵は戦艦には航空機は脅威足り得ないと認識させているが、輸送船相手ならば航空機は十分な脅威であると捉えている筈だ。
実際その通りで、一〇〇kg以下の爆弾であっても大した防御力も無い輸送船からすれば被弾は命取りになる。
だから、先に発見し、先制攻撃を加えて敵空母を何としてでも仕留める必要がある。
「攻撃隊発艦準備完了、何時でも行けます」
「宜しい。目標ガ島飛行場、攻撃隊発艦始め」
ハワイをやった時と同じように、夜明けの二時間半前に攻撃隊を発艦させる。
飛行甲板には小さな誘導灯が置かれ、攻撃隊が出て行くのと同時に撤去される。
ハワイ空襲とはちょっと違い、今回は完全に夜間空襲による敵飛行場無力化を図る。
夜明けと同時に攻撃するのではなく、夜間の内に攻撃するのである。
機上電探を装備した機体はまだ開発段階であるので、搭乗員の技量頼りになってしまうが、やらねばならない。
もう暫くすれば機上電探を装備した夜間双発迎撃機が配備が始まる予定だが、単発機にはまだ搭載出来ない。
夜間空襲は我々の十八番ではあるとは言えども、敵も備えているだろう。
しかし夜間戦闘機が開発されて配備され始めるのは少なくとも1944年中頃よりも後になるはずだから、それまでは我々は航空戦に置いて夜と言う存在を味方に付けられる。
この夜間空襲には陸軍の協力が不可欠だった。
そのために栗林中将の指揮下にある砲兵には予め砲兵用の照明弾を送り、攻撃の前に照明弾で敵飛行場を照らしてもらう手筈になっている。
本来ならばこちらで、艦載機に照明弾を搭載し投下しながらやれば良かったのだがそれを運んでいた輸送船がトラックに向かう途中に敵潜水艦によって撃沈される大事故が発生したのだ。
そのために急遽陸軍に強力を依頼したのである。
遮光眼鏡を攻撃隊には配り、照明弾の強烈な光があっても問題無いようにしてあるのでしくじったりなどはしないだろう。
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海軍による敵飛行場攻撃が開始される少し前、砲兵隊によって照明弾が撃ち上げられた。
予め海軍の十数人ほどの者達が誘導電波を発信しているので攻撃隊は迷わなかったようであった。
照明弾は光る時間が二十数秒程度だが、断続的に撃ち込むので技量抜群の彼らは全く苦労しなかった。
数十分に及ぶ攻撃でガ島飛行場は使用不能となり、あの様子では米軍の建設能力があったとしても少なくとも数日は使用不可となるのは間違いなく、それまでには戦いの趨勢は決している。
続いて戦艦による砲撃が実施され、敵の防御陣地なども軒並み破壊され、残っているのは僅かであり、陸軍の飛行場奪取の為の攻撃もあの様子なら問題無さそうである。
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飛行場への攻撃が成功に終わり、我々が相対するべきは敵艦隊のみとなった。
戦力は我々が勝っているが何が起こるか分からないと言うのが戦いだ。
「索敵機からの報告は?」
「今のところありません。ですが潜水艦がスコールの中に艦影らしきものを確認した、との報告がつい先ほど上がって来ました。どうやらスコールに紛れて索敵機をやり過ごしたのではないかと。潜水艦の報告によると、どうやらガ島西端より北のマライタ島との間にあるようで、我々との距離は約一四〇海里ほどです」
「攻撃隊は収容したばかりだ。補給と再武装にあとどれぐらい掛かる?」
「少なくとも一時間は掛かるかと。発艦も含めれば一時間半は掛かります」
「よろしい。では攻撃隊発艦はこれより一時間四〇分後とし、それまではこれ以上敵艦隊との距離は詰めずに維持する」
「了解しました」
敵の攻撃隊は我々の方へ来ることは無い筈だ。
というのもスコールを隠れ蓑にしているのならば艦載機の発艦が出来ないからだ。
全く可能性が無いと言う訳では無いが、攻撃隊が来ない可能性の方が高い。
一応備えてはいるがそれでも問題は無いだろう。
仮に発艦させるためにスコールの中から出てくれば味方潜水艦に発見される筈なので事前に知ることが出来るから対処も十分な余裕を持って出来る。
海図を見て、敵艦隊との距離を考える。
この距離なら一時間半もあれば敵艦隊に到達出来る距離だな。
「潜水艦隊に敵艦隊の凡その位置を打電し、二時間半後に敵艦隊に攻撃せよと送れ。スコールに隠れられては攻撃隊も手出し出来ないだろうから追い出してやろう」
攻撃隊発艦後、艦隊はサンタイザベル島とマライタ島に向け、インディスペンセイブル海峡を通る航路を取った。
攻撃隊を発艦してから十分後ぐらいに対空電探が敵偵察機と思われるものを捉え、直掩隊が撃墜している。
その際に敵機からのものであろう電文を捉えたので、恐らく敵は我々の位置をラッセル諸島の北東だと考えているだろう。
しかしながら実際は一気に東進してマライタ島の方に向かったのである。
マライタ島を含めてまだ我が軍が占領しているので敵に発見されるリスクも低い。
精々敵潜水艦がいる可能性があるぐらいだ。
敵も攻撃隊を出しているらしく、発艦しているとの報告を潜水艦がしている。
どうやら二波に分かれているらしくその総数は四〇〇機を超えると言う。
二時間ほどで艦隊に到達すると予想される。
敵機来襲よりも早く攻撃隊から攻撃開始が打電された。
その結果、敵大型空母三隻撃沈、軽空母二隻撃沈、敵大型空母一隻大破、軽空母二隻中破の損害を与えた。
戦艦四隻にも大破乃至中破の損害を与える事が出来た。
これで米海軍はざっと半年ぐらいは作戦行動が出来なくなる。
敵攻撃隊に対しても二〇〇機前後の撃墜破を与えたが、我々も無傷とは行かず翔鶴、加賀の二隻が大破し、飛龍と昇龍が中破、艦載機一一三機損失で終わった。
撃墜された機の搭乗員は潜水艦やラバウルから飛んで来た二式大艇で救助され、五十名ほどが即時戦線復帰が可能な状態で救助され、二十三名が重軽症を負いながらも無事に帰還することが出来た。
救助された搭乗員は暫くの間、怪我の有無に関わらず1週間~2週間程度の療養を命じてある。
帰投した攻撃隊を収容し、再び攻撃隊を編成して敵艦隊に向かわせた。
戦艦四隻大破乃至中破、二隻小破となり大破して漂流していた敵空母一隻にも止めを刺し、敵大型空母は四隻とも撃沈することが出来たわけである。
残る軽空母二隻にも爆弾を一発づつ命中させ大破に追い込んだ。
流石の米軍も戦艦だけでは再び大打撃を被ると考えたのか撤退。
敵艦隊の脅威を排除した我々は無事に輸送船団をガ島に送り届け、部隊や物資の揚陸を済ませると艦砲射撃を皮切りに飛行場奪回を開始。
飛行場周辺に立て籠もっていた敵は粘り強く一週間ほど抵抗を続けていたが、二度目の艦砲射撃と爆撃を終えると降伏したのである。
艦砲射撃や爆撃で防御陣地や防御における要のトーチカや野砲などを殆ど破壊されてはどうしようも無かったようだ。
一連の戦いの結果としては、戦略目標である陸軍部隊の輸送は無傷で完遂され飛行場も奪還することとなり我々の勝ちとしていいだろう。
しかし失われた輸送船の数や物資量を考えれば素直には全く喜ぶことは出来ない。
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先の増援を送り込む、ケ号作戦が終わってから三ヶ月が経つがガ島のみならずソロモン諸島方面の戦局は厳しさを増す一方だった。
まず敵はこちらの補給線を徹底的に叩くところから始めた。
戦術に置いて敵の補給線を叩くと言うのは常道中の常道であるのだから当然だろう。
ソロモン諸島へ向かう輸送船団は毎回数十隻もの潜水艦に襲われ、護衛艦隊は行きだけで爆雷や対潜爆弾を全て使い切ってしまうほどに苛烈なものだった。
護衛艦隊に損害は無いが、それでも輸送船は三ケ月で三十九隻が撃沈され、十二隻が損害を負った。
ガ島に進出した航空隊も船団護衛の為に尽力しているが燃料不足で満足に機能出来ていない。
豪州からB‐17やB‐24と言った重爆撃機が連日来襲してくるので飛行場は常に穴がどこかしらに空いている状態。
ましてや補給量が明らかに減った陸軍部隊はもっと過酷な状況下に置かれている。
今では一日の食事量は二食に減らされており、このままでは三週間後には一日一食になるという。
それだけでなく二日に一回程度の割合で敵の潜水艦が浮上して砲撃を仕掛けてくるし、しかも潜水艦だけでなくB‐24やB‐17と言った重爆も度々来襲しており、その度に飛行場の修復や陣地の修復などをやらねばならず、肉体的にも精神的にも追い詰められつつある。
陸軍からもっと輸送船を送り込め、と言われたがこちらの船舶数には限りがあるのと、そう簡単に都合など付かない。
他の方面での輸送船の必要量の増大もあるし、首を縦に振ることは到底出来ないのである。
結果として五ヶ月が経った頃に山本さん達の交渉の成果もあって、ソロモン諸島からの全面撤退が決定された。
翌週からケ2号作戦は始まった。
撤退するにもただやればいいというわけではない。
総力を挙げて攻撃を仕掛けてくるだろうし、そうなれば全滅だ。
そこで敵にはこちらが再び増援を送り込み、更なる作戦を展開すると誤認させる必要がある。
そのため空母や戦艦を軒並み動員し、囮とすることで注意を引き付けその間に輸送船や揚陸艦をソロモン諸島の各島々に送り込んで兵員や機材を回収するのである。
その後どうにかしてソロモン諸島からの撤退を陸軍に取り付け、ソロモン諸島撤退作戦であるケ号作戦が実施され、島々に散らばる傷病兵を含めて八万七〇〇〇名の陸軍将兵と装備を全て撤退させることに成功した。
装備の放棄をさせた方がより迅速に、確実だったのだが陸軍にただでさえ足りない装備を放棄することは認められないと言われた結果、三次に分けての撤退作戦となった。
確かに大砲や戦車を丸ごと失うのは製造能力から考えても避けたいことだ。
なので作戦には虎の子の高速輸送船と戦車揚陸艦を全て投入し、陸軍もあきつ丸や神州丸と言った揚陸艦を十数隻も投入してのものだ。
撤退に際して運び込んだ弾薬砲弾を全て飛行場の爆破に用いているので人員と機材だけでいい。
燃料は適当に撒いて火を付けて森やら飛行場設備やらを燃やすのに全て用いた。
その後に輸送船や揚陸艦に分乗し撤退。
失った人員は無かったが、栗林さんを始めとして航空隊の搭乗員達ですら痩せ細ってふらふらと覚束無い足取りであった。
彼らは本土に無事に送られ、治療を受けた後にそれぞれ本土で待機、必要に応じて各戦線へ送られることとなった。
「いやいや、久しいね。半年、いやもうちょっとぐらい経っているかな」
「そうですね、最後にあったのは栗林さんがガ島に着任する前でしたから」
「家族の調子はどうかな?」
「中々元気で参っております。妹は何とか相手が見つかったらしいのですが、弟の方は全くです」
「はっはっは。まぁ、壮健そうでなによりなものだね」
「栗林さんの方はどうですか?」
「うん、こっちも元気にやっているよ。つい先日見舞いに来てくれた」
「それは良かったですね」
「君も、会えるうちに家族には会っておいたほうがいい。職業柄、いつ会えなくなるのか分からないからね」
「はい」
本土に艦隊と共に戻った後に陸軍病院に栗林さんの見舞いに来ているのである。
撤退時よりは随分と顔色、肌色も良くなっているがそれでもまだ痩せたままだ。
ベッドの上で背もたれに体重を預けながらの会話だ。
「それでどうだね、海軍の方は」
「正確なことは申し上げられませんが、正直に言って我々にも余裕はありません」
「そこまで追い詰められつつあると」
「戦力的には我々に分があります。ですが米軍は今回の一件を受けて戦艦だけでなく空母も大量に建造する方針を取ったようで、一年後には高速空母機動部隊を揃えて来ることでしょう」
「海軍はどれぐらい制海権を維持出来そうかね?私としては一年保てれば良いと思っている」
「そうですね……。こちらが戦力を必要以上に失わなければ一年か二年はどうにかなると思います。ですが二年後以降には戦力比は完全に逆転しているでしょう。乗組員や搭乗員の問題がありますが米国の人口を考えたら一年もあれば我が艦隊に対抗可能な数の艦を問題無く揃えてしまえるでしょう」
「……とんでもない戦争に突入してしまったものだな」
「戦争をやれやれと言うのは米国の能力を直接見たことの無い者達ばかりですから」
「今村さんもラバウルに赴任したと言うじゃないか」
「えぇ……。今村さんぐらい能力があるならば中央で働いて貰った方がよっぽど良いと言うのに」
「君は、どうやったらこの戦争を回避出来たと思う?」
「……かなり強引な手段を取ればあるいは」
「そうか、君が言うのだからそれぐらい強硬手段を取らねば無理だったか……」
遠い目をしながら窓の外を見て納得した。
恐らく俺が言いたいことが分かったのだろう。
正直なところ、対英米戦回避となるにはかなり不利な条件を飲む必要があった。
勿論そんな条件を飲むほどこの時代の日本は大人しくない。
我々が空母を一隻も失わず、尚且つ艦載機、搭乗員の損耗を極力抑えられれば或いは、と思うがそう上手くは行かないようだ。
治療を受けた後にもう一度栗林さんとを合わせたが、どうやらまだ確定したわけでは無いらしいがマリアナか硫黄島、パラオのどこかへ総司令官として赴任する可能性が一番高いと言っていた。
あれほど優秀な人ならば中央に残して戦略を練らせたりするほうがよっぽど良いというのに、東條の人事に置ける采配はやはり無能極まりない。
今村さんも山下さんも正しい事を言ったという、当然の事をしただけで東條に嫌われるというのだからやりきれないだろう。
なんにしても、今は現実的な問題と向き合う必要がある。
米国相手にどうやって戦争を終わらせるか、だ。
正直なところ、満州と朝鮮半島は完全に切り捨ててもこちらとしては問題無い。
第三国経由だとしてもアメリカと同格程度の発言力などがある国は軒並み日本と戦争状態にあるから頼れない。
となると自力でどうにかするしかない訳であるが、そうなると兎に角米国世論に圧力を加える方向でどうにかするしかない。
基本的にアメリカは民衆の発言力が強い。アメリカに忍ばせてある情報源によるとどうやら米国政府は日本との戦争で被った詳細な人的損害を正確に公表していないらしい。
公表されている数字はかなり小さなものになっているようだ。
米国市民からすれば、特に東海岸では海外領土を一時的に失っている、ぐらいの認識でしかないらしい。
西海岸は我々による爆撃や通商破壊で認識は厳しいものらしいがそれでも楽観的なものである、というのは変わりないようだ。
なので明確に米国世論に対して、現実は全く違うものだと思わせる必要がある。
ついでに言っておくとソ連からの回し者もかなり政府内に入り込んでいるとのことなので、ソ連からしたら我々には戦争を続けていて欲しいのだろう。
どうにかして米国内に情報を流す必要がある。
あらゆる手を用いらなければならないな。