1944年中頃。
戦局は確かに未だ我々の有利で推移しているが、確実に逼迫の一途を辿っていた。
去年、43年12月末には米軍はマーシャル諸島、トラック諸島に空襲を仕掛けてきた。
この米軍による攻撃は苛烈であり、エセックス級航空母艦四隻、インディペンデンス級航空母艦二隻の計六隻による高速空母機動艦隊、そしてカサブランカ級護衛空母二十六隻という凄まじい数で来襲したのである。
とにかく足りない正規空母を、護衛空母を大量に数を揃えて来ることで解決したのだ。
我々日本には決して真似できるやり方では無い。
護衛空母だけで1000機を超える艦載機で、そこにエセックス級四〇〇機、インディペンデンス級二隻の九〇機が合わさって約一五〇〇機もの航空兵力となったわけである。
幾ら兵力を配備していたと言っても、一五〇〇機を超える敵機を満足に迎撃出来るだけの兵力はトラック、マーシャル共に存在しない。
先ずマーシャルが空襲を受け、マーシャルにあった全航空兵力と対空砲、対空機銃が迎撃に当たったが最終的な結果は敗北だ。
零戦、烈風、零式局戦、九九式双発汎用機、全て合わせて二六〇機全てを迎撃に上げたものの圧倒的なまでの数的不利は覆すことは出来ず、しかもソロモン諸島から飛来したB‐24、B‐17爆撃機三〇〇機をも迎撃せざるを得なかったマーシャル航空隊は二手に別れざるをえなかったのである。
結局護衛戦闘機が無かった重爆相手は零式局戦と九九式双発汎用機が迎撃に当たり、一五〇機程を撃墜、撃破するに留まった。
敵艦載機は零戦、烈風が迎撃し練度差に物を言わせて三〇〇機ほどをどうにか撃墜、撃破したのみで重爆の爆撃を先に許していたこともあり、飛行場を完全に破壊されてからは迎撃が出来ず、蹂躙されるに至った。
それに加えてサウスダコタ級、就役したばかりで訓練もまともに積んでいないアイオワ級、そして詳細は不明ながらも砲塔四基を備えた大和型戦艦よりも全長の大きい戦艦二隻をも用いて艦砲射撃を行ったという。
この艦砲射撃でトドメを刺されたわけである。
どうやら敵はモンタナ級と見られる戦艦をも建造して送り込んできたらしい。
三連装砲塔が背負い式に四基存在したということから間違いないだろう。
サウスダコタ級二隻、アイオワ級が少なくとも六隻、モンタナ級二隻。
質では圧倒的に我々を凌駕している戦艦部隊だ。
モンタナ級は西海岸での建造が我々による空襲で出来ないことから、どうやら東海岸で建造したものをわざわざ我々が手を出せない南米大陸を大きく回ってまで回航したものらしい。
なんともまぁご苦労なことである。
基地航空隊搭乗員は敵機が飛び去った後に着陸、或いは島の上空や環礁内で脱出して機体は放棄、搭乗員達は潜水艦で本土に後送されることになった。
次に襲われたのはトラックだった。
結局トラックもマーシャルと同じように敵重爆と敵艦載機の二つを迎撃することを強いられて、重爆一五〇機撃墜破、敵艦載機三〇〇機撃墜破をするもマーシャル同様に飛行場や桟橋、燃料タンク、パイプラインと言った基地機能に必須な全てを破壊されてしまったのである。
こちらにも戦艦による艦砲射撃が行われ、トドメを刺された。
トラックの基地航空隊搭乗員は潜水艦によって本土へ一度戻され、そして機体を受領した後に再び戦線に送られることになる。
二か所は基地、泊地としての能力を完全に失った。
集められるだけ搔き集めた空母兵力と戦艦で殴り込みを掛けてきて南太平洋に対する我々の拠点を完全に破壊したのだ。
どうやら米軍は大西洋に回す護衛空母を少なくしてでも太平洋にカサブランカ級護衛空母の全てを回したらしい。
搭乗員の払底は余程の大問題らしく、今回の二箇所に対する空襲で実戦経験を積ませようという魂胆だったらしかった。
少なくとも米本土ではエセックス級六隻、インディペンデンス級六隻の十二隻の航空母艦が建造中らしく、これだけでも十分脅威だがそれ以上にアイオワ級二隻、モンタナ級八隻ほどが建造されているらしい。
確かに戦争の主役は空母に移っているが、これだけの数の戦艦を並べれば否応無しに強い。
各戦艦に六本の航空魚雷を叩き込まねば沈まないと仮定して、既存の一〇隻と合わせると二〇隻。
一二〇本の魚雷を命中させねばならない計算になる。
しかも当たり所によってはそこまでの損傷とならない場合もあるし、米海軍は水雷防御をかなり強化しているというからそれを勘定して計算しても二〇〇本の魚雷を命中させないと安心できない。
魚雷の命中率は誘導魚雷では無いため運と練度に依存するが、我が海軍の練度で言えば基本的に一〇~二〇%程度になる。
そうなると敵戦艦を全て撃沈するには必要本数の約一〇倍である二〇〇〇本ぐらいの魚雷を用意する必要がある。
撃墜されて敵艦隊に辿り着くことが出来ない機体やエンジン不調などで引き返してくる機体も考えると二五〇〇本程度は必要になるだろうか。
これだけの数の魚雷なんてすべての空母を合わせても到底足りない。
魚雷搭載数が一番多い改翔鶴型でも、五〇本しか搭載出来ないので改翔鶴型航空母艦を五〇隻は用意する必要がある。
現実的ではない。
1945年に建造と訓練が確実に間に合うのは建造中の一〇隻の内、八隻と見積もられており、残る二隻は建造が間に合わないのではないかとされている。
これらの建造中艦艇は粗方1945年の中頃までには建造と訓練を終えて戦線に送られてくると予想されているので、少なくとも現状であれば我々に戦力的に分がある。
だがこちらが取れる戦略的な作戦は精々継続して西海岸の港湾施設や造船所、パナマ運河を破壊することぐらいしかない。
敵艦隊も今は力を蓄えているのだろう、出て来なくなっている。
流石にタスマン海や東海岸、大西洋に出向くわけにはいかないし、かといってインド洋もこちらが掌握しているのでイギリス海軍の動きは無い。
イギリス海軍はどうやらアフリカ大陸に戦力を置いているようだが欧州での戦いが激しさを増している関係でアジアに送られる兵力は微々たるものだ。
だが1945年になれば米海軍は22隻の高速空母機動部隊が揃うし、それだけでなく護衛空母だけで四〇隻を超える兵力を整えて来る。
戦艦も十八隻となるからこちらの兵力を圧倒していることになる。
このマーシャル空襲、トラック空襲の時、主力艦隊は全てハワイにあり、主力艦隊は西海岸に対する作戦に従事していたことから完全に手薄になってしまっていたのだ。
しかも運が悪い事にこの時トラックには停泊していた輸送船11隻がおり、巻き添えを食らって沈められてしまったのだ。
この11隻は全て一万トン級の輸送船であるから損失はかなり大きい。
護衛艦隊は泊地の外で潜水艦狩りをしていた事で被害は無かったが、輸送船損失の影響はかなり大きい。
運んだ物資は全て無事であったが、それ以上に輸送船が沈められたということが重大時だ。
この11万トン分もの輸送船にはこれからも輸送任務が多くあったわけで、余裕を見て計画はしてあるが丸々11隻も沈められたとなると流石に狂いが生じる。
この辺りの調整もしなければならない。
基地航空隊も確かに機材を失ってはいるが、幸いにも搭乗員達は生きているので良しとしよう。
流石に米軍も上陸するほどの余力は無かったのか、或いは何か別の狙いがあるのかは分からないが、上陸は行っておらず占領まではされていない。
しかしマーシャルとトラックは泊地や後方拠点としての機能を完全に失っている。
再び使えるようにするには、環礁内に沈んでマストなどが少し頭を出したりしている輸送船の残骸などをきれいさっぱり撤去してから修理となるので丸々二~三年は掛かる。
駆逐艦や巡洋艦ぐらいの喫水の浅さならばある程度、上部構造物を撤去するぐらいで良いが、正規空母、戦艦ともなれば沈んでいる船体まで、完全に撤去しないと座礁する可能性がある。
それだけの大作業を行う余裕は海軍にはない。
「トラックとマーシャルをどうするかだが……」
米内さんが切り出した一言は、重々しいものだ。
なんせ今のところ米軍の反攻が強まっている南太平洋や南方方面に対して作戦を行う場合、艦隊の拠点として重要な二か所が丸ごと、事実上失われたに等しい損害を受けたというのだから発する言葉も重くなる。
だが、だからと言ってそこが無ければ何も出来ないと言うわけではない。
「この際ですから、いっそ全面撤退してマリアナとパラオに拠点を移して全力を注いでそこを防衛することにしましょう」
「何を馬鹿なことを!トラックとクェゼリンは重要拠点ですぞ!」
黒島参謀が食って掛かってくる。
しかしその重要拠点を態々復旧させるためにただでさえ余力の無い我々のリソースを割く必要性は乏しい。
「だがその拠点は復旧させようとすれば向こう三年は使えない。今のトラックとマーシャルは仮に復旧をしようとしても益にならないただの重りだ。態々そんなものを抱えてこちらが疲弊して、敵に利してやる道理はない」
「トラックとマーシャルが無ければ防御縦深が稼げませんぞ」
その一言を聞いて、米内さんのところに寄る。
小さな声で現在軍が得た米軍新型長重爆撃機、史実で言うB‐29の情報をここで開示しても良いかを小さな声で聞く。
「どうしますか、例の敵の新型超重爆のことを話しますか」
「致し方無かろう。それぐらいせねば納得はしまい」
「分かりました」
「参謀に限らず聞いてほしい。今現在我々が入手した情報によれば、米軍は新型超重爆撃機を実戦配備状態にしたと言う情報を得ている」
会議室が騒めく。
B‐17やB‐24ですら強敵なのに、それを遥かに凌ぐであろう爆撃機の存在は誰でも警戒心を強める。
「詳細な性能は判明していないが、少なくとも確定しているのは最高速度は時速六〇〇kmという高速性能に、未確認ながらも飛行可能高度は一万mを優に超えるという情報まである」
「なっ……」
このB‐29の性能は、この時代で考えると、現代で言うところのチートといっていいぐらいの性能を誇る。
それどころか、異星文明の宇宙船と言っても良いぐらいの性能なのだ。
この時代の軍用機は取り合えず一万mぐらいの高度まではどうにかこうにか、息切れになりながらも上昇が出来る*1、ぐらいの性能しかない。
今の日本の戦闘機、それこそ艦載戦闘機である烈風や陸軍の疾風では、1万mの高度で来襲されると戦うのが難しい相手だ。
九九式双発汎用機や零式局地戦闘機があるからまだ対抗は出来る。
だが生産数はどうしても今のところ艦載機や主力戦闘機に集中せざるを得ない状況で、しかも九九式汎用機の生産を次点で優先しているので零式局戦の生産数は毎月二個航空隊分、80機程度を生産するのが限界なのでどうしても配備数は絞られてくる。
配備は基本的に本土防空隊が主で、それ以外の外地には零式局戦を装備した航空隊を一個か二個配備するのが限界なのである。
これでも生産されている方だが、ここ最近はビルマ方面、大陸方面で連合軍の動きが活発化し始めている。
そのためにそちらを主戦場とする陸軍は地上部隊、航空部隊関わらずそちらに熟練戦力を送り込んでおり、本土防空は練度に不安のある搭乗員ばかりで、質、量共に手薄になってしまっている。
太平洋でも豪州とソロモン諸島を拠点として米軍の動きが活発になっており、艦隊での活動こそ無いものの、連日重爆による爆撃が行われている。
トラックとマーシャルに対する攻撃だけでなく、それよりも前から既にラバウル航空隊は連日の迎撃戦で機体の損耗が激しく、搭乗員は居るが機体が無くて出撃出来ない、という状況が続いている。
どうにかこうにか補給だけは維持しているが機体の損耗に補給が追い付いていない。
「どうやら航続距離もかなり長いらしく、マリアナ諸島辺りからであれば日本本土の何処でも爆撃半径に捉えているようだ。どちらにしろ敵は日本に直接攻撃を行うにはマリアナを奪う必要がある」
「ならばトラックとマーシャルはより重要なのでは?」
「いいや、敵は今回上陸してこなかった。ということは敵はトラックとマーシャルを奪うのではなく無力化して素通りし、直接マリアナに王手を掛けようとしていると考えている」
「敵はトラックとマーシャルを後方拠点として活用しないと?」
「米軍には豪州とソロモン諸島という立派な後方拠点が既にある。距離は確かに離れているがトラックとマーシャルを態々犠牲を払って奪わなくても問題無いのだろう。その余力の分をマリアナやフィリピンにぶつけることも出来る」
「マリアナを奪われれば……」
「そうだ。どうやってもこの戦争で米国相手に講和を行う事は出来なくなる」
トラックとマーシャルは別に失っても痛くも痒くもない。
それどころか長い補給線の内の二つを放棄することになるから寧ろこちらとしては有難いことなのだ。
ハワイは米西海岸への攻撃拠点として今後も活用出来るが、ソロモン諸島や豪州に対しての攻撃から退いた我々からすれば無くてもいい、あるならニューギニアへの中継拠点、小さい偵察哨戒用戦力を置く、ぐらいの価値でしかない。
「ハワイへは来ないのでしょうか?」
「ハワイが無くても米軍は豪州を丸ごとそのまま後方拠点として使える。ハワイがどうしても無ければならないと言うわけでは無い。それどころか我々が固めたハワイの防備を考えれば米軍は出血を嫌ってこない筈だ。ハワイが無くてもマリアナを奪えばそこから日本本土に直接爆撃を行えるし、ハワイに対する補給線を側面から脅かして孤立させることだって出来る」
「これらを考えるに恐らく米軍はマリアナに全力を注いで来る筈だ。そんな中でトラックとマーシャルを呑気に復旧させようとしていたら酷い目に合うのは分かり切っている。ならばマリアナやパラオの防備を固めて迎え撃つしかあるまい」
B‐29以外にマリアナをどうやってでも守り切る必要がある理由がある。
原子爆弾という存在があるからだ。
米国が原子爆弾を開発しているのは確かだが、どれぐらいの進捗率があるのかは分からない。
ただまだ完成していないのは確かなようではあるらしい。
原爆の存在がある以上、何が何でもマリアナは守り切る必要があるのだ。
どれぐらいの予算を振り分けているのかは分からないが、史実ではB‐29を運用するのに設計から量産設備の設置などに至るまで三〇億ドル*2、原爆を開発したマンハッタン計画が19億ドル*3とされている。
これに搭乗員の育成や機体の値段、所謂ユニットコストは一機当たり63万ドル*4とされており、B‐17の3.5倍、B‐24の3倍である。
搭乗員はパイロットが最も高く、5万ドルぐらいだったと思う。
全ての搭乗員がそうではないが11人の搭乗員が必要なので最大55万ドルぐらい。
搭乗員と機体の値段だけで最大118万ドル*5もの大金が掛かっている計算になる。
そこに燃料弾薬、爆弾、機雷、バッテリー、潤滑油、部品と言った消耗品類の値段もプラスされる為、最大で130万*6~150万ドル*7ぐらいは掛かったのではないだろうか。
で、米軍にはB‐29とマンハッタン計画に大量の金を注いでいられるだけの余裕が今は無いわけである。
なんせ軍隊の中でも特に金を食う海軍の立て直しが急務だからだ。
だから少なからずこれら二つの計画を一時的に遅らせてでも海軍の為の予算を確保している筈なので、どれぐらいの進捗率なのかが分からないのだ。
マンハッタン計画は史実より遅れているというのは確かだが、それでも1946年か1947年までには完成させてくるだろうし、かと言ってもB‐29は既に開発を終えているので量産されるのを待つのみ、という状況ではないだろうか。
だからこれらが完成して投入される前に何が何でも戦争を終える必要があるのだ。
トラックとマーシャルをどうするか、という議論は丸々一週間激論が交わされ、最終的には放棄が決定されることになった。
放棄と言っても幾らかの兵力が残されることが決定した。
トラックとマーシャルは哨戒偵察拠点として活用され、兵力は全部合わせてもそれぞれ三〇〇名ぐらいの大隊規模の兵力が置かれている。
重装備は野砲が二門づつと重機関銃一〇艇、それ以外は軽機関銃が幾らかと迫撃砲が何門か、あとは小銃のみだ。
あとは偵察拠点としての本分を発揮する為に水偵か陸上偵察機があるぐらいだ。
食糧は現地である程度生産可能な状態を整えているので、運び込む食料の量を絞ることが出来る。
補給には大っぴらに輸送船を用いることが出来ないし、部隊規模としても輸送船が必要なほどの規模ではないことから、水上機を搭載可能な潜水艦一〇隻を改造して輸送潜水艦とすることで送ることとなった。
水上機の搭載可能な潜水艦には格納筒、と呼ばれるものが装備されている。
そこにコンテナで規格化された物資を積み込むことで輸送潜水艦とするのだ。
三〇〇名程度なら潜水艦での少ない補給でも問題無い。
整備兵や基地要員なども含めて三〇〇人であるから純粋な戦闘要員は一〇〇名かそこらだ。
兵力と哨戒偵察用の水上機を一〇機ほどに対空電探も置いてあるので哨戒基地としては随分立派なものに仕上がっている。
それ以外の航空兵力、地上兵力、火砲は全てそっくりそのままマリアナ、パラオに送られることとなり、三つの地域の防備をより固めるという方針になったわけである。
「主力艦隊は引き続きハワイに駐留し米西海岸に圧力を加えつつ、潜水艦隊は敵輸送船を積極的に狙い敵補給線遮断を第一とする。これでいいな」
「はっ」
「さて、踏み込んだ話をしよう」
「なんでしょうか」
山本さんに呼び出され、海軍省の一室で米内さんを含めた三人で話をしている。
「米国との講和、上手く行くかもしれん」
「本当ですか?」
「あぁ。だがこれにはどうにかしてルーズベルトを大統領の座から引き摺りおろして、講和派の人間に大統領の座に座って貰う必要がある」
「なるほど」
「この点、米国世論の問題は解決したと言っていい。なんせ君が情報を流したお陰で米国政府が隠していた戦争での詳細な戦死者や捕虜の数を知るところになったからな。お陰で米国世論は反戦に大きく傾きつつある」
「ですがそれだけではまだ足りないと」
「その通り。米国世論を反戦一色、講和一色に完全に塗り固めて尚且つルーズベルトを大統領の座から引き摺りおろさねばならん」
今現在、ルーズベルト政権の支持率はこちらが色々と情報を流したというのにそれでも四〇%を少し超える程度の支持率を持つ。
今のところ米国世論は講和派と主戦派で二分されている状況だが、このままだとルーズベルトが四選を果たす可能性がある。
現在野党となっている共和党は議会で現政権に対する責任を厳しく追及しており、それに加えて多くの戦死者を出している米海軍への追及も厳しくなっている。
確かにアメリカの根幹を揺るがすことは無いだろうが、それでも相次ぐ敗北と嵩む犠牲に主戦派は数値上の支持率はかろうじて過半数を超えていても、窮地に立たされているのは確かなようで事実、講和派の声が大きくなってきている。
共和党から立候補しているトマス・E・ヒューイは声高に、ソ連からのスパイによって開戦させられた、避けることが出来る戦争だった、日本との講和を結んでナチス・ドイツでの戦争に注力すべき、という姿勢を取っている。
この情報もこちらがヒューイ側に流したものだが有用に活用してくれているようでなによりだ。
米国国内で暗躍しているソ連の回し者はこちらが流した情報のお陰で逮捕されたりして、米国内では反共産主義の流れが出来ているらしく、共産主義者相手にかなり過激な事も起きたりしているようだ。
それに加えて反共産主義が高まってきている米国内ではソ連への援助物資打ち切りとかも検討されているとか。
事実ソ連に対する援助物資の量は明らかに低下しているという。
数十隻単位での援ソ船団は、今や数隻が偶に送られるぐらいだそうだ。
ここで決定的な一手を叩き付けることが出来れば、ルーズベルトを大統領の座から引きずり降ろして講和、というのも現実的なものになる。
少し話は逸れるが、独ソ戦について幾らか触れておく。
この世界での独ソ戦はかなり長引いている、というかドイツ軍が若干優勢の拮抗状態、と言ったところで膠着状態になっている。
だがこの世界では現時点でもノルマンディーに米英軍の上陸は無く、ドイツ軍は頭部戦線に主戦力を残している。
ドイツ本土爆撃は行われているが、アメリカの輸送船不足などが重なって低調だ。
だからドイツの産業、経済、工業などはダメージらしいダメージは全く受けておらず、むしろ各種武器兵器の生産量は毎月生産量を増やして更新し続けている。
それに加えてMe262ジェット戦闘機など新兵器が多数実戦配備されていると言う。
このMe262ジェット戦闘機を始めとした各種兵器の技術や情報、図面は既にドイツと史実通り潜水艦を用いてやりとりしており、日本での実用化、実戦配備を急いでいるところである。
1944年時点であれば、連合軍がノルマンディー上陸に成功して西部戦線、東部戦線の二正面作戦をせざるを得なくなった両方からドイツ軍は急速に崩壊していった時期である。
フランスなどは損耗を負った部隊や師団の休養地であるとともに、それらの部隊に配属された新兵の訓練地でもあったのだ。
それに軍需物資の生産なども行っていたので、そこに敵がやって来た、奪われたとなれば戦力の大幅な低下は必然だ。
しかしそうはなっていない。
独ソ戦が膠着状態にある大きな理由は、アメリカからのソ連へ送られる援助物資量が低下しつつあること、米英軍がノルマンディー上陸戦を未だ実施しておらず第二戦線の構築が出来ておらず戦力のほぼすべてを東部戦線に送り込むことが出来ているからである。
というのも史実では援ソ船団として凄まじい量の物資をソ連に送り込んでいたアメリカだが、この世界のアメリカは日本相手に負け続きの上、艦隊戦力を喪失し続けていることで海軍戦力の立て直しが急務となっていることが大きな原因の一つだ。
それに加えて我々の通商破壊戦によって輸送船そのものが足りていないというのもある。
輸送船団の護衛の主軸となる駆逐艦は太平洋に殆ど回され、護衛空母も足りない空母を補う為に太平洋へ。
こうなっているお陰でドイツ潜水艦相手にも後手を強要されざるを得ず、輸送船の被害は1944年になっても大きいまま。
戦闘艦艇の建造を優先しているから輸送船は減るばかり、という悪循環が出来てしまっているのだ。
図らずしも、我々はナチスドイツを援護しているという形になっているわけである。
輸送船を互いに沈めあっている状況で、ソ連へ物資を運ぶことが出来る輸送船はかなり限られており、しかもUボートの通商破壊戦によって大西洋でもかなりの数の輸送船を失っている。
物資を運ぶために必要不可欠である輸送船の建造数も、失った戦闘艦艇の建造に圧迫されていて史実のようにリバティー船を大量建造、とは行かないようだ。
それどころか西海岸は軒並み我々の空襲や砲撃に晒されて艦艇建造が出来そうな造船所は全て廃墟になっているから東海岸だけでどうにか工面するしかない。
なので戦闘艦艇も輸送船の数も揃っていない。
そこに加えて反共主義になりつつあるということで、送られる物資はイギリス向けが最優先になり、結果的に援ソ物資は低下の一途を辿る。
だから独ソ戦は膠着状態に陥っており、互いに消耗を続けているのである。
情報によればサンクト・ペテルブルク、スモレンスク、ハリコフの三箇所を巡ってドイツ軍とソ連軍は熾烈な、地獄の消耗戦を繰り広げている。
しかしながら史実と違って健在なドイツ軍は後退を一歩も許しておらず、攻勢に転じているソ連軍を相手に現在は第三次サンクト・ペテルブルク防衛線、第四次スモレンスク防衛線、第三次ハリコフ防衛線が繰り広げられている最中だ。
米海軍は戦艦は旧式とは言え軒並み喪失状態、新型戦艦も少なくない数を失っているし空母なんて就役したばかりのものが幾らかあるだけ。
護衛空母は数があるが、こちらの主力空母と直接殴り合うことが出来る戦力とは言い難い。
巡洋艦、駆逐艦の数はそもそも全く足りないし、潜水艦はこちらが見つけ次第片っ端から沈めて回られているので同じく数が無い。
輸送船も競うように我々の潜水艦隊が狩りまくっているので足りない。
それに加えて航空機搭乗員、艦艇乗組員もベテランは数える程度で九割九分は訓練期間も碌に足りない新兵ばかり。
ここまで海軍がボコボコにされている上に、ハワイは我々が占領中、西海岸は連日砲撃と空襲に晒されている。
しかも足りない輸送船を補う為に民間船舶会社と契約を結ぼうにも、米国の船会社は米軍との契約をしない、あるいはしたがらないという情報も入ってきている。
というのも通商破壊によって商船などに被害が大きく出ていることから、乗組員や船を失うことを嫌がっているとのことだ。
だから米軍の輸送能力はこちらの通商破壊だけでなく、民間商船の協力も取り付けられない、という事情も相まって深刻さに拍車をかけているようだ。
これに加えて西海岸で我々が暴れ回っているというのも大きく効いてきている。
市民には極力被害を出さぬように軍事施設に攻撃は限定しているが、それでも目の前で自分達の国の本土が、しかも軍事基地が火の海になっているというのはショッキングなものだろう。
ましてや米国が直接本土侵攻や攻撃を許したのは過去に遡ればせいぜい米英戦争ぐらいで、実際一三〇年ぐらいは自国本土を明確な外敵からの攻撃されていないのだ。
そこに我々が西海岸限定とはいえ暴れ回り、しかも反攻に必要な戦力を送り込む上で最重要ともいえるパナマ運河は定期的に破壊されていて使えない。
太平洋上の重要拠点で本来なら対日戦略上必要不可欠であったハワイは開戦初頭に奪われていて南太平洋では勝利を掴んだものの、生じた犠牲とは釣り合っていないし、奪われた領土は全く奪い返せていない。
ここまでくれば当然世論も納得しないのは分かる話だ。
ここでどうにかして大きな打撃を与えることが出来れば、米国を完全に講和に引き摺り込むことが出来る。
まぁそれが難しいと言う話なんだが。
護衛空母だけで四〇隻近い戦力を当たり前のように揃えて来る相手なんだぞ、1945年の中頃から終わり頃に決戦を想定するとしたら、正規空母を一〇隻以上、軽空母一〇隻以上、護衛空母も五〇隻以上揃えてきても何らおかしくはない。
そうなれば護衛空母だけで一五〇〇機を超えるような航空兵力だ、正規空母と軽空母を合わせたら三〇〇〇機を超えていてもおかしくはない。
こちらが用意出来るのはどれだけ多く見積もっても、基地航空隊を合わせて二六〇〇~二七〇〇機が限界だ。
アメリカは戦艦建造に主眼を置いているというのに二の次となっている航空兵力ですら完全に戦力差を覆されてしまっていても不思議はない。
「敵の兵力は揃いつつあるという情報は耳に入っていると思うが、これを徹底的に叩いて、その勝利を以て講和に引き摺り込もうと考えている」
「分かりました。となれば昭和二〇年中頃から終わり頃が勝負の時ですね」
1945年に入れば、追加で建造中である大鳳型装甲空母二隻が建造と訓練を終えて配備可能になる。
駆逐艦などの建造数こそ少なくなってしまったが、それでも数は揃っているから艦隊を編成することも問題無く行える。
そうなれば空母二十六隻体制を整えることが出来る。
正規空母だけで二十六隻であるから、ここに軽空母や改造型空母である龍驤、瑞鳳、龍鳳、千歳、千代田、龍鳳、隼鷹、飛鷹の八隻を加えれば三十四隻にもなる。
護衛空母を含めれば四十六隻もの空母戦力を有することになる。
実際には護衛空母を空母機動部隊として運用することは無いので、どれだけ多くても三十四隻で戦うことになるが、それでもこれだけの戦力があるのは有難い。
この航空兵力で、マリアナにおいて決戦を挑むということである。
悲願の講和の為であるから、是が非でも成し遂げなければならない。
「そうだ。頼むよ、日本の未来が掛かっているんだ。最悪、講和の時に私が腹を切らねばならんというなら、首と一緒に差し出す覚悟はある」
「その時は私もお供致します。散々米国に辛酸を舐めさせたのですから、それぐらい要求されてもおかしくはありません」
「そうなったら米内もかな」
「三人もか?そりゃぁ、ちと敵さんにやりすぎやしないか」
「確かにそうですね。戦後を任せられる方が必要です」
二人は笑っているが、実際問題戦後に軍部の権力や権限を大きく削ぐ為には必ず二人の力が必要になる。
だからどうにか二人には生き残って貰わねばならない。
首を差し出す、となるのならば米軍から最も恨まれているであろう私が最適だ。
講和に関しての条件は、最初は取り合えず強気に出て相手の様子や反応を見つつ少しずつ譲歩する、という形を取った。
とは言っても実際にこちらが飲まなければならない条件は厳しいものになる、と考えておいた方がいい。
・開戦後に日本が占領した地域の返還
・満州からの全面撤退、或いは門戸開放
・賠償金の要求放棄
・委任統治領(南洋諸島)の放棄
・ドイツ、イタリアとの同盟破棄
これぐらいの譲歩はする覚悟でいないとならない。
あとは外務省の交渉手腕次第となるだろう。
上手いこと共産主義の脅威を説くことが出来れば二つ目や、南洋諸島の放棄はしなくても済むかもしれないが、満州に関してはやはり米国資本流入は避けられないだろう。
かなり厳しいものだが、米国本土への直接侵攻をやって屈服させるとかが出来ないのだからこれぐらいの条件での決着は付けるべきだろう。
日露戦争の時と同じようにならないように陛下には直接国民に語り掛けて頂くようにお願いしてある。
会議以降、艦隊は基本的にはハワイに置きつつ、西海岸に継続して打撃を与える、主力艦隊は交代で燃料が豊富なブルネイ泊地に駐留している。
ここはバリクパパンから敷設されたパイプラインで送られてくる豊富な重油、航空燃料があるので、じゃぶじゃぶ使いながら訓練を行うことが出来る。
艦隊が拡張されていくにつれて、幾ら戦闘で人員を失っていないと言っても相対的に新兵の数が多くなる。
だから次々と配属される新兵を含めて艦隊の練度を向上させるにはうってつけだ。
これらに伴ってマリアナ、小笠原、パラオの防備は以前よりもより固められた。
44年11月になると大陸打通作戦を終えた陸軍部隊の一部がマリアナに転用され、いよいよ陸海軍の総力を挙げての対米決戦準備が一層進められた。
艦隊が破れた場合に備えて、第1次から第5次に渡って延べ70隻もの輸送船を用いてマリアナ諸島へ物資が運び込まれた。
合計六十五万トンもの武器弾薬燃料、食料水医薬品などの物資はサイパン島、テニアン島、グアム島に送り込まれ、特に飛行場の適地が多いテニアン島には陸軍2個旅団約八〇〇〇名が新たに送り込まれた。
マリアナ諸島の防備はサイパン島約十三万名、テニアン島約八万名、ロタ島約四万名、グアム島十一万名、総計三十六万名の守備隊が配備されている。
各島の火砲配備状況はサイパン島約八〇〇門、テニアン島約六〇〇門、ロタ島一五〇門、グアム島六〇〇門、総計二一五〇門となる。
日本軍が此処までの大兵力を同じ地域に投入した例は少なく、しかも火砲だけで一つの地域に二一五〇門という数はこれが初めてである。
陸軍の火砲は海軍が生産したものが多くを占めており、駆逐艦や軽巡洋艦の建造隻数が減った理由の一つだ。
陸軍は大陸打通作戦を実施しており、そちらに兵力の大部分を割いてしまっている現状で、歩兵兵力は捻出出来たものの、戦車や火砲の類は元々の生産数などもあってどうにもならなかった。
そこで陸軍側にマリアナ諸島へ配備することを条件に海軍が火砲と戦車の生産を請け負ったのである。
迫撃砲、野砲、重榴弾砲だけなら海軍でも生産しているので、海軍の艦艇建造数を大幅に減らしてその分の資材を丸ごと陸軍向けの火砲生産に回したのである。
というかこれぐらいやらないと万が一マリアナ沖で負けた場合、マリアナ諸島守備隊は戦えなくなってしまう。
パラオには三個師団と二個旅団、一個連隊が置かれ、約約五万八〇〇〇名が守備に就く。
アンガウル島には一個旅団約七八〇〇名、ペリリュー島には一個師団と二個連隊の計二五〇〇〇名、コロール島、バベルダオブ島には二個師団が置かれている。
残る二個連隊はそれぞれ一個大隊を出してウルクターブル島、マカラカル島に守備隊を置いて連隊本隊はバベルダオブ島に置かれている。
火砲六四〇門が配備されており、マリアナ諸島と比べると大きく劣るが、それでも師団辺り一五〇門、旅団辺り七十五門、端数の一個連隊には四〇門もの榴弾砲、野砲の配備数を誇る。
これは他地域に配備されている陸軍部隊と比べるとやはり多いと言える。
これらの配備計画は、「兵力再配置計画」として遂行され、マリアナとパラオを敵侵攻地点の最有力候補とし、次点で小笠原諸島と定めている。
これらの地域に配備する兵力は主に日本本土と満州から引き抜かれて転用されている。
装備は優良だが練度はやはり不足気味で、マリアナ諸島現地で決戦までの間実地訓練を積むことが予定されている。
そのための射撃訓練分の弾薬や砲弾、身体を作る為の食糧はたっぷりと送り込んであるのであとは決戦までにどれだけ仕上がるかだ。
こうして太平洋での戦いの決着が進められている最中、中国大陸では大陸打通作戦、正式名称一号作戦が発令され実施されているのは前述の通りである。
四月頃から始められていたこの作戦は、最終的に作戦目標を達成したものの、陸路における補給線が余りにも長過ぎていたことで、慢性的に物資不足が発生している。
この作戦のお陰で陸軍の精鋭部隊は軒並みマリアナに回すことが出来なくなってしまった。
取り合えず数字上の兵力は揃えられたがやはり練度不足は否めない。
それに加えて大陸打通作戦の陽動作戦として行われたインパール作戦では、補給能力を確保する為に二個海軍陸戦隊が投入されてしまい、島嶼戦における貴重な部隊が丸ごと二つ無くなってしまったのである。
インパール作戦自体は成功したものの、同地域の防衛の為に陸戦隊は英軍による反撃や奪還が予想される為に引き続き駐留することとなってしまったため、本来予定していたマリアナへの投入が出来なくなってしまったのである。
こうなった背景には、陸軍の補給能力不足、という大問題がある。
というのも陸軍は機械化が大きく遅れていて物資輸送には殆どの場合輓馬輸送を用いていたことが理由となっている。
インパール作戦を実施するうえで、ビルマ方面軍や牟田口中将はトラック中隊一八〇個分を増援として送るように大本営に進言したが、陸軍は大本命である大陸打通作戦に持ち得る戦車やトラック、装甲車を全て注ぎ込む予定で、最終的に届けられたのは僅か二十七個中隊だけであったらしい。
これでは補給という観点から作戦遂行は困難であるとしたが、上からは陽動作戦を何かやれ、と言われているのでやらないわけにはいかない。
インパール作戦自体には援蒋ルートの遮断や防御縦深の確保など明確かつ妥当な目的があったにせよ補給が無ければ出来ない。
そこで陸軍が目を付けたのが海軍特別陸戦隊である。
陸戦隊は全部隊が機械化されており、数百台ものトラックと装甲車を有している。
それがあれば補給問題が一気に解決すると考えた陸軍は海軍に陸戦隊を貸してくれと言って来たのである。
そもそも陸戦隊はマリアナへの進出が決まっていた部隊だ。
マリアナには二個陸戦隊が既に展開しているがより強固なものにする為に本土で待機状態だったものを送る計画だったのである。
ハワイは別に素通りしてマリアナに王手を掛ければ、ハワイへの補給線寸断も、日本本土への直接攻撃や直接爆撃も、フィリピン奪還も、南方方面海上輸送航路の破壊も全て出来る。
こちらの認識での米国が講和の席に出てくると予想される条件は敵戦力に大打撃を与える事の他に、
・ハワイを我々が抑えている事
・西海岸に大打撃を与えている事
・パナマ運河の使用不能状態が続いていて太平洋への兵力流入を防げている事
・ハワイ、パラオ、マリアナ、小笠原、フィリピンのいずれをも失陥していない事
以上の四つになる。
なのでこれらを満たす為にはどうしてもマリアナの防備を今以上に固めておく必要があったのだ。
パラオは既に島々の大きさに対して最大規模の部隊が展開しているし、ハワイも兵力は十分なうえにハワイ要塞を復旧させてしかも強化してある。
小笠原も特に飛行場の適地である硫黄島に強力な部隊を置いてある。
講和を結ぶことが出来るだろうという条件と照らし合わせれば陸軍からの提案はおいそれと断る事も出来なさそうというのが実情だ。
それにこのままいけばインパール作戦は史実通りの結果を迎える可能性が高い。
陸軍の輸送能力は史実よりはマシではあるが、やはり実情としては悲惨なものだ。
数少ないトラックなどの車両は軒並み大陸打通作戦に回されてしまっていて、物資輸送は殆ど輓馬に頼っている。
太平洋の小さな島なら輓馬や人力でも良いかもしれないが、これが広大な大陸戦線やビルマ、フィリピン、ジャワ、カリマンタン島と言った場所だと高温多湿の熱帯気候や亜熱帯気候も相まって馬は適していない。
陸軍で最も運用されている運搬手段は駄馬*8となる。
父の会社で駄馬として徴用されたのはペルシュロン、と呼ばれる重量級の馬を1000頭ほどだ。
この馬は兎に角デカく、大きいものだと体高2m、重量1tにもなる馬だ。
他の競走馬などに比べると正確は大人しくて動きは鈍重だが、その分非常に力が強い。
しかしながら自動車と比べてしまうとどうしても馬は非力になってしまう。
各種輸送手段の輸送能力を、船舶輸送を100とした場合、鉄道11、トラック1程度、馬や人力では小数点以下の割合にしかならない。
太平洋の島々には船舶輸送を活用すればいいし内陸部には大きいと言っても大した大きさでない事が殆どだから少ないトラックでも問題無いが、大陸沿岸部はまだしも内陸部には船舶輸送は勿論使えない。
大きな河川を活用して運ぶことも出来るが、結局河川でしか活動出来ない。
鉄道も確かに大量の物資を運ぶことは出来るが線路の敷設を行わなければならないし、作戦参加兵力に随伴しつつ鉄道敷設をやるなんてそんな能力を当然日本軍は持ち合わせていない。
となると必然的に内陸部への物資輸送はトラックか、馬牛、人力と言う事になってしまう。
だが日本軍は軍全体の必要物資量を運ぶだけのトラックは無いし、そもそもトラック生産能力自体が無い。
中国戦線なら駄馬を用いての輸送が出来るが、それ以外の南方方面やビルマ方面だと高温多湿と言う気候も相まって馬での輸送は難しい。
しかしトラックは数が全く足りないし、牛も品種改良されて物資運搬に適しているわけでも無いから数を用意しなければならないが、そんな数を用意出来る訳も無く、そうなると必然的に人力輸送とならざるを得なくなる。
しかも輸送という問題がある。
馬は高温とストレスに弱く、輸送中に熱中症や伝染病に罹って死んでしまうし、ストレス故に自傷行為や暴れる、他馬と喧嘩するなど輸送するだけで消耗してしまうのだ。
しかも専用の飼い葉を用意しなければならないし、それに加えて馬は蹄を定期的に手入れしたりしないと腐ったりしてしまう。
しかも現在軍に従軍している軍馬の殆どは戦地で死んでしまう。
どれぐらいかと言うと損失率九九.九%程度という悲惨な数字になる。
今のところ約50万頭が従軍しているとのことなので、四十九万九五〇〇頭は戦地で死んでしまうということになる。
事実父の会社の馬も殆どが死んでいる。
まぁ、一応買い取りということなので八〇万円程度は支払われるがそう言う事では無いのだ。
馬は兵器としてみた場合、整備性、生産性などは圧倒的に悪く、馬が成長して使い物になるまで4~5年程度掛かるわけだが、これをトラックと比較するとトラックの方が圧倒的に有利だ。
トラックは陸海軍の総月産数一五〇〇両がとなる。
ハーフトラックは総月産数六五〇両となる。
馬よりも生産性は圧倒的に上なのだ。
因みにこれらトラック月産一五〇〇両のうち一三〇〇両が海軍生産分であり、ハーフトラックに至っては月産六〇〇両が海軍生産分となる。
陸戦隊の損失分補充用を除いて、合計一四〇〇両のトラック及びハーフトラックを陸軍に納入しているわけだが、これでも到底足りないのが現実である。
結果、陸軍の輸送能力は馬も消耗して数が揃わない。
結局少ないトラック及びハーフトラックと人力輸送が輸送手段の大部分を占める、となってしまっているわけだ。
海軍のトラック生産能力は確かに陸軍向けとして増産をしているがそれでも必要数には到底足りていないし、ましてや中国戦線に大部分を送り込んでしまっているということでビルマ方面や南方方面に送られるトラックは極少数にとどまっている。
そこで陸軍は完全機械化されていて大量のトラックやハーフトラックを保有している海軍陸戦隊に目を付けたというわけである。
一個陸戦隊だけで数百台ものトラックを保有している陸戦隊を送り込むことが出来れば、完全とは行かないまでも補給能力問題はかなり改善することが出来る。
結果、陸軍の要請に渋々ながら答えて待機状態にあった二個陸戦隊を送る事となったのだ。
しかしながら陸路だけではどうやっても補給を行い続けるということは難しく、陸戦隊だけなら別になんてことはないが、陸戦隊や直轄部隊、後方支援部隊を合わせて十万近い兵力に補給するには到底能力が足りない。
そんなので将兵を死なせるのは御免被る。
そこで米内さん達と話し合った結果、陸戦隊だけでなく本土防空の任務に就いている戦闘機二個航空隊と、対地支援攻撃用に九九式汎用機を二〇機、零式重爆の輸送機仕様を二〇機送り込むことが決定された。
インパール作戦の失敗要因は幾つもあるが、その内の一つに制空権が拮抗状態だったことも一つであろう。
第五飛行師団の兵力は英航空部隊とほぼ拮抗しており、地上支援と敵機との戦闘に余力を割かれて結果的に増援を送り込んでいた輸送機を叩くことが出来なかったというものがある。
あれさえ墜としておけば少なからず増援を送り込むのに支障を来たしてもしかすると作戦が成功していたかもしれない可能性さえある。
実際この世界の第五飛行師団もこれまでの戦いで損耗しており、新型戦闘機である疾風の配備はされておらず未だに零戦と零式局戦で戦っている状態だった。
九九式双発汎用機もあるにはあったが数は十機ほどと少なく、疾風は大陸打通作戦とマリアナ諸島の防備を固める為にそちらへ振り分けられてしまっていたので旧式機である零戦で戦わざるを得ない。
しかも全体の航空兵力は一〇〇機にも満たない状態だ。
なので空輸による補給も行うことを念頭に、日本本土の防空を担当していた零式局戦と烈風を一個航空隊づつの合計して九十六機、九九式双発汎用機三十六機を送り込む。
それに加えて、零式重爆を輸送機仕様として生産した零式重輸送機を三十二機送り込む。
電探装備の零式重爆四機も追加だ。
零式重輸送機は積載量に余裕がある。
四トン分もの物資を積んで飛ぶことが出来、尚且つ空中投下が可能と言うものだ。
これが三十二機であるから最大で一度に128トンの物資を運ぶことが出来る。
物資はそれぞれ物品事に規格化されたコンテナに入れられている。
今までは木箱に入れてそれを積んで運んでいたのだが、これだと一々管理が面倒臭く手間が多かったのと、どれだけの物資をどれだけの量運んでいるのか把握し辛かったという問題があった。
これだと梱包を解いて中身を確認しないとなにがどれだけ入っているのか分からなかったのだが、そこで未来の世界で物流で用いられているコンテナを使うことで解決を図ったのである。
コンテナには何がどれだけ入っているのかが記されており、それを確認するだけで作業は終わる。
このコンテナは船舶輸送用と航空輸送用の二種類に分けられ、船舶輸送用は鉄道輸送にも対応出来る。
航空輸送用と分けたのには、単純にあれだけの大きさのものを現在の航空機だと運ぶことが出来ないので、小さくしたものを用いることとなったのである。
潜水艦輸送には特注サイズのコンテナが用いられるがその話はおいておこう。
これによって物品をどれがどれなのかというのを一々確認する必要が無くなった。
なんせ一つのコンテナには同じものしか入れられていないからだ。
Aコンテナには7.7mm弾が、Bコンテナには6.5mm弾が、Cコンテナには迫撃砲弾が、Dのコンテナには12cm榴弾が、というようにすぐに分かるようになったわけである。
これらコンテナには明確に判別出来るように封入されている物品の名前をペイントしてある。
だからコンテナを開けずとも分かるのだ。
このコンテナは大きさと重量の関係でトラックにそのまま載せることは出来ないが、それでも中の物品は同じなので、開封したらトラックにそのまま中身を載せればいいだけだ。
中には木箱で収められているので積み替えも容易だ。
なので管理のしやすさ、という点でも輸送能力は向上している。
海軍がビルマ方面に派遣する兵力は二個陸戦隊、航空機152機となったのである。
話を戻し、どうやって敵艦隊と敵輸送船団を撃滅するか、という重大な話をしなければならない。
1944年の米大統領選挙は辛うじてルーズベルトが四選を果たしたものの、対抗馬であったトマス・E・ヒューイとの差は殆ど無いに等しいものだった。
結果として当選したものの、その首は皮一枚で繋がっている状態で何かあれば簡単に首が飛ぶという危うい状態だ。
そんな状況を打開しなければならないルーズベルトの焦り具合を考えれば、艦隊と共に輸送船団を一気に突っ込ませてくる可能性が高い。
現場指揮官が大統領からの命令を無視してでも艦隊と輸送船団を分離すると言う選択をしたならば、というのもあるがあの焦り具合だとルーズベルトは反対する指揮官を更迭する可能性さえある。
ラバウルはこちらの基地航空隊の精鋭を集めているから、ラバウルだけでなくニューギニアそのものをスルーしてくるだろう。
ここには我々のそれなりの兵力があって攻略に時間と手間、犠牲が大きく出るのにも関わらず奪ってもメリットが少ない。
何度も言うが、マリアナを奪うことが出来れば、確かに突出する形にこそなるものの各方面に圧力を加えて補給線遮断を行うことが出来る。
そうなれば敵が取って来る戦略は我々が有する諸島を飛び石のように北上してくるものだ。
だがトラックとマーシャルは丸ごと泊地機能、基地機能の両方を失っていて態々奪うほどの価値はない。
敵だってここを復旧して活用するには年単位での時間が必要だと分かっている筈だ。
そうなれば、無人のトラックやマーシャルを無視して、より戦略的価値の高いマリアナに来襲するだろう。
ハワイはこちらの大規模な基地航空隊や地上部隊が存在しているから奪還に成功しても手痛い損害を食らうだろうし、ルーズベルトからしたらそれで首が飛ぶかもしれない。
オーストラリアを後方拠点として整備している米軍からすれば態々自分の首が飛ぶ可能性と犠牲を払ってハワイを奪い返しにくるよりも、豪州を後方拠点に北上してマリアナを抑えて日本本土に直接爆撃を仕掛けると言う方法を取って来るだろう。
ハワイなんぞ日本を降伏させれば戻って来ると考えているだろうし、何よりマリアナを拠点にすればニューギニアやハワイに対しての我々の補給線を脅かすことだってできる。
となれば全兵力を挙げてマリアナに来る筈。
ルーズベルトから見ればここに飛び付きたくなるだろう。
そうしたくなるように情報を流してあるし、こちらも行動している。
だからこのままいけばルーズベルトはマリアナ、という目の前の自分にとって都合の良い餌に飛び付いてくる。
そこを艦隊と基地航空隊で徹底的に叩けば良い。
難しいがやらねばならないのは事実だ。
戦争を終わらせることが出来るかはまだ分からないが、少なくともこれで戦いには勝てる。
ハワイの防衛は基地航空隊と守備隊に一任せざるを得ず、それ以外は潜水艦となってしまう。
万が一米軍がハワイに来襲した場合は艦隊をハワイに急行させる手筈を整えてある。
基地航空隊が壊滅して、上陸を許したとしても守備隊ならば艦隊の到着まで耐えることぐらいは出来よう。
マリアナ沖での決戦に備えて第五艦隊には新造の大鳳型航空母艦の五番艦、六番艦を新しく編入して、装甲空母六隻体制を整えた。
練度は他の四隻に比べれば劣るが敵艦隊の攻撃を受け流しつつ耐えると言う事を考えれば、一隻でも多く空母が欲しいところだから有難い筈だ。
母艦搭乗員は各艦隊や基地航空隊から可能な限り選りすぐって集めた精鋭ばかりだ。
この部隊は艦載機の殆どを戦闘機で固めているので打撃力こそ無いものの、防空能力は高い。
敵艦隊来襲の際は、第五艦隊が敵攻撃隊を吸収しつつその後方に布陣する第一、第二、第三、第四、第六、第七艦隊、基地航空隊が反撃を行う。
これとは別に戦闘中に兵力補充の為に硫黄島経由で航空機を送り込む手筈を整えている。
機数は二〇〇機と多くは無いが、貴重な兵力だ。
第一艦隊
空母 赤城(九〇機) 加賀(九〇機) 飛龍(七〇機)
戦艦 金剛 霧島
重巡 三隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第二艦隊
空母 翔鶴(九〇機) 瑞鶴(九〇機) 蒼龍(七〇機)
戦艦 プリンス・オブ・ウェールズ レパルス
重巡 三隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第三艦隊
空母 伊勢(七〇機) 日向(七〇機) 扶桑(七〇機) 山城(七〇機)
戦艦 長門 陸奥
重巡 三隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第四艦隊
空母 大龍(九〇機) 昇龍(九〇機) 隆龍(九〇機) 豊龍(九〇機)
重巡 三隻
防巡 二隻
軽巡 三隻
防駆 八隻
駆逐 十二隻
第五艦隊
空母 大鳳(七〇機) 慶鳳(七〇機) 禄鳳(七〇機) 神鳳(七〇機) 赫鳳(七〇機) 蒼鳳(七〇機)
戦艦 大和 武蔵 天塩 摂津 榛名 比叡
重巡 六隻
防巡 六隻
軽巡 六隻
防駆 二五隻
駆逐 二二隻
第六艦隊
空母 青龍(九〇機) 白龍(九〇機) 赤龍(九〇機) 黒龍(九〇機)
重巡 三隻
防巡 二隻
軽巡 二隻
防駆 一〇隻
駆逐 二〇隻
航空機 1920機
以上が主戦力である。
よくもまぁ、これだけの兵力を整えたものだ、と今更ながらに思う。
第五艦隊には榛名、比叡、天塩、摂津の四隻を護衛として分遣してある。
天塩、摂津は元より榛名と比叡の2隻も空母護衛の為に能力をしっかりと向上させてある。
この作戦に参加するにあたり新造された重巡三隻と、防空軽巡四隻、軽巡四隻、防空駆逐艦一〇隻、駆逐艦一〇隻、合計二十九隻の艦艇は全て第五艦隊に配属となっている。
代わりに去年修理を終えて配備されたPoWとレパルスを第二艦隊に配備してある。
PoWは41cm3連装砲3基、レパルスも同様なので41cm砲装備艦は4隻となる。
装甲空母一隻辺りに戦艦一隻、重巡一隻、防空軽巡、軽巡それぞれ一隻、防空駆逐艦と駆逐艦を合わせてざっくり七隻づつの駆逐艦が護衛に付くことが出来る計算だ。
盾として一〇〇〇機を超える敵機に一度に襲われる可能性があるのだから少しでも防空能力は厚くしておいてやりたい。
新造された重巡は伊吹型重巡洋艦となるものだ。
建造経緯は空母護衛戦力をより分厚くするためのものである。
新造された阿賀野型軽巡は確かに能力は高かったが、どうしても指揮通信能力に限界があった。
それに加えて水雷戦や砲雷撃戦の際に突撃する場合軽巡率いる水雷戦隊を援護する役割を持つ重巡がどうしても足りないと提起されていた。
そこで既存の18隻の重巡に加えて、空母護衛戦力の層を厚くするために新たに三隻の建造が決定されたのである。
スペックとしては、全長210m、最大幅23.5m、速力35ノット、主砲は60口径20.3cm連装砲4基8門を主武装として備える。
対空兵装は以下の通りとなる。
10cm連装高角砲6基12門
40mm連装高射機関砲10基20門
37mm連装高射機関砲6基12門
25mm3連装機銃10基
25mm単装機銃10基
20mm4連装対空機銃8基
ボフォース社製の40mm高射機関砲を国産化したものを搭載している。
37mm連装高射機関砲はドイツのFlak43のライセンス生産品である。
25mm機銃は我が国お馴染みのものだ。
20mm4連装対空機銃はこちらもドイツのFlak Flakvierling 38をライセンス生産したものだ。
元々人力での旋回であったものを電動方式に改造し、弾倉型の給弾方式はそのままに30発弾倉に増やした改良型である。
第一護衛艦隊
護空 大鷹(三〇機)
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第二護衛艦隊
護空 神鷹(三〇機)
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
第三護衛艦隊
護空 雲鷹(三〇機)
軽巡 一
駆逐 八
海防 十二
給兵艦 六隻
高速油槽船 二〇隻
高速輸送船 八隻
潜水母艦六隻
龍驤(四〇機)
瑞鳳(四〇機)
龍鳳(四〇機)
千歳(四〇機)
千代田(四〇機)
龍鳳(四〇機)
隼鷹(六〇機)
飛鷹(六〇機)
潜水艦六〇隻
主力艦隊とは別に三個護衛艦隊が主力艦隊に対しての補給の為に作戦に参加し、これに航空機補充の為に軽空母八隻が護衛艦隊と共に後方に展開する。
主に戦闘行動で燃料を激しく消費することが予想されるので高速油槽船二〇隻、激しい消耗が予想される砲弾薬を補給する為に高速輸送船十二隻を用意して艦隊への補給を担い万全に戦えるようにする。
これとは別に航空爆弾と航空魚雷を空母に補給する為に、新型給兵艦を六隻配備している。
新型給兵艦は室戸級給兵艦と命名され、一番艦室戸、二番艦襟裳、三番艦富津、四番艦大瀬、五番艦楯ヶ崎、六番艦知念が就役、任務に就いている。
普段は各地に武器弾薬を運搬しているが、今回は消費が凄まじいと予想される航空魚雷を空母に補給する為に六隻を全て補給部隊に配備しているわけだ。
補充用艦載機三六〇機を合わせて2264機が母艦航空隊の総兵力となるわけである。
基地航空隊五〇〇機を合わせれば2700機以上もの航空機を揃えることが出来る。
潜水艦六〇隻を偵察、哨戒用戦力として置きつつ、敵艦隊襲撃任務も帯びる。
航空攻撃終了後、少なからず混乱している敵艦隊に魚雷を放つのだ。
酸素魚雷を搭載出来る潜水艦も二〇隻ほどいるので上手く行けば敵空母か戦艦を潜水艦隊の手によって仕留めることも可能だ。
今回に関しては総力戦なので、魚雷は撃っただけで陽動になるからさっさと撃ち切ってもいい、撃ち切ったら補給すればいい、特に敵艦隊が味方航空隊との戦闘中か戦闘終了直後を積極的に狙って消耗させよ、と各潜水艦艦長に通達してある。
潜水艦隊に対する補給の為だけに魚雷一〇〇本の搭載が可能な潜水母艦を六隻待機させてあるので、ざっくり各艦に一〇本ずつぐらいの魚雷の補給が可能となるので心配は要らない。
九九式双発汎用機の内の一〇〇機ほどは夜間攻撃が可能なように訓練と装備を施してある。
これで夜間対艦攻撃を、例え命中しなくても行う事で敵に休息を与えず消耗させることが出来るという利点がある。
練度はこの為だけに夜間雷撃訓練を積んできた最精鋭と言っていいぐらいの搭乗員達だから、まぁ一〇〇機出撃すれば夜間であっても数本ぐらいの命中は期待出来るだろう。
以上が投入戦力である。
ーーーーーーーーーーー
1945年10月。
米軍がビアク島に来襲、上陸した。
この島は連合軍にとってはマリアナ諸島攻略の、我々にとってはマリアナ防衛の戦略上の要衝であるから必ず来襲してくると踏んでいた地点だ。
ここを占領されるとマリアナに対して米軍が直接爆撃を行えるようになってしまう。
だから何が何でもマリアナ諸島での戦いが終わるまではビアク島を確保しておく、或いは飛行場が使えないようにしておかなければならない。
そのためにビアク島には陸軍の精鋭4個歩兵連隊と火砲100門以上、戦車も新鋭の三式中戦車(史実での四式中戦車)25両を配備している。
陣地も飛行場を見下ろす高台や山中に構築し、そこから飛行場を撃ち下ろせるようにしてある。
そう易々と粉砕されるとは思えないが、米豪軍の規模が4個師団と聞かされている。
これでは流石に守るのも難しいかもしれないから、フィリピンから1個連隊ほどを増援として送り込んだ方が良いだろう。
増援が送り込まれればビアク島守備隊の士気も上がるし、ニューギニア島は我々が占領しているから、一番近いマノクワリから継続して物資や兵員を送り込むことも出来る。
「山本さん、米軍がビアク島に来ました」
「マリアナに来るのも近いか……」
「はい」
「よし、全艦隊に準備を取らせろ。陸軍の方にも連絡しておく」
「はっ」
フィリピンからの増援は三川さん率いる臨時編成護衛艦隊に守られ、特に障害も無くビアク島に送り届けられた。
護衛空母が一隻編成されていたので、機銃掃射をしたようだがどうもビアク島近海には巡洋艦程度までの米艦隊しかいないらしい。
撃滅しようと思えば簡単に出来るが本命はお互いにマリアナだ。
撃滅を狙わなくても飛行場がマリアナ沖の戦いの決着が付くまで使えなければそれでいい。
陸海軍の方針はその方向で一致している。
こうしてマリアナ沖での決戦が近付いてきていた。
ーーーーーーーーーーー
1945年11月。
「司令、米艦隊が豪州を出港したとの報告が入りました」
「……宜しい。マリアナ守備隊に報告せよ」
ブルネイで訓練中にその報告を受け、艦隊にはすぐに訓練中止、補給作業始め、出港準備を下令した。
補給は燃料弾薬、食料水その他物資を全て満タンにし、二日で作業を終えると停泊中の艦も一〇時間以内に出撃準備を整え終えた。
敵艦隊豪州出港の報はマリアナ守備隊にも既に伝えられており、来襲までは二週間程度と見積もられる。
かなり長いがやはり敵艦隊は幾らか後方に大規模な輸送船団を伴っているようで、速度が遅い。
すぐに全マリアナ守備隊と基地航空隊に対して戦闘準備命令が下令され、敵艦隊の情報は逐一潜水艦から伝えられていた為、出港の報告から一週間後には総員戦闘配置命令が下った。
豪州からマリアナ沖までどれだけ遅くても一週間もあれば到達出来るし、艦載機の攻撃半径を考えれば実際には四日程度の時間しか残されていない。
艦隊にはマリアナへ向かうよう命令し、マリアナ諸島前面に第五艦隊が展開、マリアナ諸島を盾にするように他主力艦隊が展開する陣容となった。
「司令、トラックより入電です」
「内容は?」
「『トラック、カロリン中間地点ニテ敵艦隊発見。大型空母約一〇隻、軽空母約五〇隻、戦艦十八隻、随伴艦一〇〇隻以上認ム』以上です」
これで敵艦隊の陣容が分かった。
にしてもやはり数が随分と多い。艦橋内もその数を聞いてどよめきが起きている。
まぁ、軽空母50隻なんて日本じゃどうやっても実現出来ない数だ。
「カロリン諸島より入電!」
「読み上げろ」
「『我敵輸送船団発見ス。輸送船五〇隻ヲ優ニ超ヘルモノ也。護衛空母数隻ヲ認ム』以上です!」
「いいや、輸送船はもっといる筈だ」
「同意します。米国は輸送船を大量建造していると聞いております。下手をすると100隻を超えていてもおかしくは無さそうです」
参謀の一人が言う。
恐らくリバティー船のことだろうが、これは事実だ。
大西洋の方、東海岸であの手この手で造船所で大量建造しているという情報を得ている。
民間造船所も総動員してのものらしく、毎日数隻が就役していると聞く。
「宜しい。恐らくあと四日程度で敵艦隊と戦闘になる。明朝七時から各艦は燃料を補給せよ」
「はっ」
敵艦隊の速度は輸送船団を伴っているとあって遅く、四日後に敵艦隊は輸送船団を分離。
兵力の殆どを我々との戦いに差し向け、四隻ほどの護衛空母を輸送船団に張り付けているとのことだった。
「総員戦闘配置。この作戦の成否で我が国の未来が決まる。子供達の平和な未来の為に我々は何としてでも勝たねばならない。皇国の荒廃此の一戦にあり。各員一層奮励努力せよ」
Z旗が掲げられ、各艦乗組員はそれぞれ自分の持ち場に就き、戦いに備える。
「索敵機を放つ。敵艦隊の所在を突き止めるぞ」
「はっ。既に準備は整えております。何時でも発艦可能です」
「艦首風上に向け。索敵機を発艦させよ」
まず索敵機を放って敵艦隊の所在を突き止める必要がある。
どこにいるのかも分からないのでは戦い方が定まらない。
索敵機は彩雲と名付けられている。
この彩雲は他の艦戦や艦爆、艦攻と違ってより速く長距離を往復し、情報を味方に齎す事をコンセプトとして設計されている。
そのため機体には現在最も馬力のある二二〇〇馬力もの大馬力エンジンを備え、そして高速化を図る為に必要な強度を残して可能な限り軽量化が図られている。
防弾装備は搭乗員席の周りに限定されている。
因みにこれでも零戦よりも遥かに頑丈であることだけは言っておく。
航続距離は零戦21型に迫る三〇〇〇kmであり、機体はかなり大柄だ。
巡航速力で一五〇〇kmもの長大な距離を往復することが出来る。
敵の戦闘機はF6FやF4Uと言った高速重武装重防御に完全に更新されているが、戦闘機ではない偵察機がこれらから逃げるには速度で勝っている必要がある。
結果として彩雲はエンジン馬力に見合わぬ機体の軽さで最高速度651km/hの発揮が可能となっている。
それに加えて敵機の迎撃を振り切ることだけでなくそもそも迎撃させない、を盛り込んだ結果、操縦席は与圧コックピットとなったのである。
エンジンにはターボチャージャーを備えており、艦載戦闘機ながら高高度飛行性能が高いという状態になっている。
速度があれば高高度飛行性能は要らない、と言ったのだがどうやらターボチャージャーと与圧コックピット、それに加えて機上電探のテストベットとしても彩雲を運用したかったらしい。
まだ機上電探、ターボチャージャーや与圧コックピットを大量生産することは出来ないが、偵察機と言う種類である以上、少数生産で良い彩雲は大量生産に向かない装備や設計をしていてもある程度なんとかなるという利点がある。
そこで彩雲は各地から集めた熟練工員や熟練技術者によって丁寧に製造されているので、性能が高いという側面もあるわけだ。
高高度を飛ぶ為にターボチャージャーをエンジンに備えている為、最高高度一〇〇〇〇mを飛ぶことが出来る。
というよりも寧ろ彩雲はターボチャージャーを備えていることで低空だと性能が低下する。
本領発揮をする為にはそもそもの前提として一〇〇〇〇mの高高度で飛行する必要があるのだ。
だから最高速度を発揮出来るのはその高高度だけだ。
武装は徹底した軽量化を突き詰める為に一切存在しない。
機上電探は精度の関係で対艦用のものでしかないが、開発陣曰く一応対空用としても使えなくはないらしい。
ただやはりまだ未熟というのもあって艦艇ほどの大きさのものを探知するのがどうしても限界になってしまうそうだ。
そんな偵察特化の性能を持ったのが彩雲という飛行機なのである。
「敵艦隊発見、南南東325海里(約六〇〇km)。エセックス級空母一〇、インディペンデンス級軽空母及びボーグ級、及び未確認軽空母数十隻。戦艦十八隻」
「軽空母数十隻とはどういうことだ?詳細は?随伴艦の数も無いではないか」
参謀が聞き返す。
だが事前の敵情報告から考えると、恐らく数えられていないのではないだろうか。
合計五〇隻もの空母に随伴艦の駆逐艦や巡洋艦なんて敵からの対空射撃の中では正確に数えられなくても仕方が無い。
そんな状況でもエセックス級とインディペンデンス級の判別を付けて情報をしっかり送って来たことだけでも称賛に値する働きだ。
それはそうとしても、未確認の軽空母というのはなんだろうか。
この時期にボーグ級、インディペンデンス級以外の米海軍護衛空母となると、コメンスメント・ベイ級ぐらいだろうか。
建造隻数的に大部分はインディペンデンス級とボーグ級であると考えられる。
となると残りの未確認軽空母はコメンスメント・ベイ級と考えるのが妥当だな。
確か1944年に一番艦が就役していた筈だから、十数隻ぐらいは用意してきているだろうか。
「恐らく数え切れないということだろう。最初の報告では約五十隻とあったからな。護衛空母も全て含めた数なのだろう」
「詳細な数を報告させますか?」
「いや、ざっくりでいい。存在が分かっているだけで十分。ただし接触は続けるように。万が一敵機の迎撃があった場合はすぐに退避するように」
「はっ」
輸送船団に張り付いている護衛空母を差し引いても、エセックス級一〇隻、インディペンデンス級一〇隻、ボーグ級とコメンスメント・ベイ級を合わせて四十隻は下らない。
もしこれら護衛空母が戦闘機のみの搭載であった場合、護衛空母だけで九〇〇機もの戦闘機が存在することになる。
それも想定して作戦を立てなければならない。
我々は補給用の烈風を入れても一四三六機しか存在しない。
基地航空隊は約六五〇機。
その内の四〇〇機ほどが零式局戦と烈風、二五〇機が九九式双発汎用機となるが、それを入れても約ニ一〇〇機程度。
九九式双発汎用機の一〇〇機は夜間攻撃用なので、実際に迎撃に使えるのは一五〇機の九九式汎用機。
補給用の戦闘機と零式局戦を除いて、最初に戦闘に用いることが出来るのは一七〇〇機程度。
ギリギリ拮抗出来る程度の戦闘機の数だ。
エセックス級で五〇〇機は戦闘機を有すると思われるので、一四〇〇機は戦闘機が存在すると見て良い。
露天繋止をしていると仮定して、エセックス級二〇機、インディペンデンス級二〇機、護衛空母で一〇機で計算しても、追加で七〇〇機も存在することになる。
合計して二一〇〇機もの戦闘機だ。
こうなると話はまるっきり変わって来る。
こちらよりも米軍の方が戦闘機の数が多いことになる。
練度はこちらより低いとしても、数の差が四〇〇機もあるのは如何ともしがたい。
取り合えず敵がこちらよりも手数が多いと判明しているのであれば先手を取って一隻でも多くの敵空母飛行甲板を破壊する必要がある。
今まで通り、守りと受け身に徹して敵航空兵力を徹底的に叩き落してからという戦法も通用するか分からない。
米軍だって今までの戦いから戦訓として学んでいるし、そうしてくると想定しているだろうから護衛戦闘機を多く付けて来る筈だ。
ならば先手を取って主導権を握り続けるしか勝ち目は無い。
「攻撃隊の発艦準備はどれぐらいで整うか?」
「四〇分頂ければ武装を終わらせられます」
「よし。準備を始めろ。攻撃隊には可能な限り多くの護衛戦闘機を付けるように。こっちは基地航空隊の応援があるし、第五艦隊もいる。艦隊防空は多少手薄になっても構わん」
「了解しました」
「彩雲には継続して敵艦隊と接触を保ちつつ、敵情を報告させよ」
彩雲は入れ替わり立ち代わり、敵艦隊上空に進出して敵情を報告させる。
攻撃隊の準備が整って発艦を終えた頃、彩雲から報告が入った。
「彩雲より入電!敵艦隊攻撃隊発艦中!」
「分かった」
敵は防御に徹するという策を捨てたらしい。
あるいは戦闘機だけ突っ込んできて戦闘機の数を減らすという策を取って来るのかだが、守りに徹されるよりはやり易い。
「基地航空隊に応援を要請。艦隊対空戦闘用意。レーダーに捉えたら迎撃機を上げるぞ」
「はっ。準備を整えます」
敵艦隊との距離は約六〇〇km。
敵艦隊と最も近い第五艦隊上空に到達するまでを考えても、我々と第五艦隊は五〇km離れているから米軍機が艦隊に到達するには凡そ一時間半~五〇分と言ったところだろうか。
一時間後ぐらいに迎撃機を上げれば十分だろう。
サイパン島との距離は約一五〇kmなのでもう三〇分後ぐらいに迎撃機を上げるように指示すれば時間誤差をそこまで生まずに済む。
サイパン島だけでなくマリアナ諸島にある航空兵力は現在艦隊の下にあり指揮系統の統一が図られている。
連絡も敵発見後に綿密に行うように手筈を整えている。
バラバラにやるよりもずっと上手くやれる。
「第五艦隊はどうなっているか?」
「既に戦闘準備を整えております」
その言葉に頷きをもって返す。
幾ら装甲空母と言っても一〇〇〇機を超える敵機に何度も襲われてはタダでは済まない。彼らが盾としての役割をどれだけ長く果たせるかで作戦の成否は大きく変わる。
だからどうにかこうにか今日一日の間は第五艦隊が健在であって貰わねばならないのだ。
既に本土には応援を要請してある。
硫黄島を経由すればマリアナへ航空機だけとは言えども、送り込める。
この作戦の為に本土に二〇〇機もの烈風、九九式双発機が待機しているのだ。
燃料の関係上、速度を上げることは出来ないからマリアナに到着するまで一〇時間以上は掛かってしまう。
流石に十数時間もの長距離飛行をした後にすぐに戦闘に参加させても疲労で碌に戦えないので休息を含めても戦闘に参加出来るのは明日になってしまうだろう。
とは言えそれでも投入出来うる戦力を全て投入しての、本当に乾坤一擲と言える作戦なのである。
一時間半後、放った攻撃隊から敵機の迎撃を受けていると言う報告が来る。
どうやら敵戦闘機の数は想定よりも少ないらしいが、それでも攻撃隊に随伴している戦闘機よりも多いのは確かだそうだ。
数は多くても練度はそこまで高くないようなのでどうにか攻撃隊を守れている状況だそうだ。
実は敵迎撃機を誘引する為の策が一つあったのだが、配備が間に合わなかったのである。
というのも、その秘策というのがアルミニウム箔をワイヤーで等間隔に連ねて艦攻で引っ張るというもので、所謂チャフの応用をしたデコイを作ろうと思ったのだ。
ところがアルミニウムを多量に用いるので、航空機生産を最優先にしている現状とそれ以外のことに私自身が時間を奪われてしまい、結局間に合わなかったのだ。
アルミニウムは兎に角あちこちで必要となる戦略重要物資の一つだ。
特に陸海軍で用いられる零式重爆なんかは戦闘機十数機分の資材を使う。
それ以外にも海軍の烈風、陸軍の疾風と主力戦闘機の生産も進めて各部隊に配備されている零戦を早急に更新していかなければならないこともあって、アルミニウムは兎に角あったらあるだけいいと言う状況なのだ。
疾風開発と生産に関しては、烈風の改良型を提案したのだが断られている。
というのも元々艦載機の烈風よりも最初から陸上機として開発するほうがいい、と言われてしまったのだ。
とは言えエンジンを始めとした、各部や部品の共用化などの条件は合意することが出来たので良しとしたのである。
疾風の性能は史実のものに比べ、初期型の一型でも全備重量状態で670km/hを発揮することが出来、それ以外にロケット弾を両翼合わせて20発、或いは250kg爆弾2発、500kg爆弾1発、60kg爆弾2発とロケット弾10発、250kg爆弾1発に60kg爆弾2発とロケット弾10発など色々な武装の組み合わせが可能となっている。
武装の性能として近しいのはFw190やF4Uなどであろう。
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二〇分後、攻撃隊が敵艦隊へ攻撃を開始する電文が発された。
一時間丸々攻撃を行い続け、ようやく攻撃を終えると帰投電文が発せられた。
攻撃に一時間も掛かったのは合計第四波まで合わせて一四〇〇機もの攻撃隊だからだ。
各空母は三十八機の烈風を搭載し、二機の彩雲、それ以外は天山艦攻と彗星艦爆となる。
一番多い搭載機数である九〇機であれば三十八機が烈風、三機が彩雲、二四機が天山、二十四機が彗星となる。
第六艦隊と第四艦隊には雷爆撃機である新鋭機流星に換装されているがそれ以外は旧式の天山と彗星のままだ。
本来であれば天山と彗星は全て後継機である流星に換装されている予定だったのだが、開発が若干遅れていた事による生産開始遅延が原因で全てを換装すると言うわけには行かなかった。
だが八隻分、384機を揃えられただけでもマシだ。
開発が遅れていることを聞かされたときは天山と彗星だけで挑まねばならないことを覚悟していたからな。
敵艦隊上空を飛ぶ彩雲によれば、少なくともエセックス級八隻が被弾炎上中、インディペンデンス級七隻被弾炎上中とのことだ。
攻撃隊はエセックス級とインディペンデンス級に攻撃を集中させたのでこのような戦果となっているようだ。
しかしながらボーグ級とコメンスメント・ベイ級四〇隻は全くの無傷であるらしいので二の矢を番える必要があるのは確かだ。
米海軍が主力だと認識しているのは戦艦だからこのままだと護衛空母に戦闘機だけ収容して後の攻撃機は投棄して突っ込んでくる可能性がある。
米海軍の戦艦数はこちらよりも圧倒的に多いししかも全てが16インチ砲装備のものだ。
こちらに米戦艦と撃ち合って勝ち目があるのは41cm砲装備艦は長門、陸奥、プリンス・オブ・ウェールズ、レパルスの4隻、46cm砲装備の大和、武蔵の6隻しかいない。金剛型四隻を入れたとしても10隻なので約2倍の敵戦艦と殴り合う必要がある。
これでは砲撃戦を挑まれたら一溜りも無い。
だから敵空母を全て無力化した上で、敵戦艦にも打撃を与える必要がある。
一時間後に各空母から全ての迎撃隊が飛び立っていった。
その三十分前にはサイパン、テニアン、グアム島の各基地航空隊が飛び立って第五艦隊を守る為に出撃している。
「第五艦隊より入電!電探に感あり!距離一五〇km、約三〇〇機の梯団が四つ!」
「来たな。迎撃隊は?」
「既に第五艦隊の頭上を通り越しております。彩雲による誘導でもう二〇分後には戦闘が開始されるかと」
「よし。我々は敵機に備えつつ攻撃隊の収容準備を進めるように」
「はっ」
敵攻撃隊には彩雲が遥か上空に張り付いて逐一位置情報を発しているので迎撃隊が邂逅するのも容易だ。
墜とされていないのはただ単純に気が付かれていないか、或いは気付いていながら戦闘機をただ一機の為に割いて攻撃隊を守る戦闘機を減らしたくないかのどちらかだ。
恐らく前者の可能性の方が高い。
敵攻撃隊の侵入高度は三〇〇〇~四〇〇〇mで、彩雲が飛ぶのは一万mだから敵機からすれば、機体下部を濃紺で塗装している彩雲を目視で見つけるのは至難の業だ。
対して彩雲からは、敵機を見付けるのはたやすい。
なんせ数百機もの敵機が群れているわけだから見失う方が難しい。
迎撃隊が敵攻撃隊との戦闘が開始される。
その一〇分後ぐらいには別の敵梯団と基地航空隊の戦闘が始まった。
四つの敵梯団だから一二〇〇機は居ると考えていい。
どれだけ練度に差があっても、どれだけ迎撃を頑張っても数が多いから半数は迎撃を抜けて第五艦隊に襲い掛かる筈で、対空砲と対空機銃で撃墜出来るのも一〇〇機撃墜出来れば良い方で、どれだけ少なくても五〇〇機は第五艦隊に襲い掛かるだろう。
第五艦隊は無事では済まないだろうな。
「第五艦隊、対空戦闘開始しました」
「迎撃隊の収容を急げ」
攻撃隊が返ってくる前に迎撃に出た烈風を大急ぎで収容して再び敵機に備える必要がある。
4つの梯団と連続して戦ったのだから燃料弾薬に不安があってもおかしくはないし、被弾している機は早急に収容する必要がある。
攻撃隊が返って来るまで一時間はあるから急げば半数は出撃出来る状態を整えられる。
「電探に感あり!我が方に敵機編隊向かいつつあり!」
「数と包囲、距離は!?」
「南西方向より約三五〇機の梯団が一つ!距離75km!高度約五〇〇m!」
随分と低い。
恐らく電探に探知されないように低空を飛んできていたのだな。
「迎撃機は間に合うか?」
「間に合わないでしょう。補給もしなければ満足に戦えるかどうかも分かりません」
「致し方ない。迎撃隊には報告を入れておけ。最悪、我々だけで切り抜ける必要がある。総員対空戦闘用意」
「総員対空戦闘用意!」
対空戦闘用意を告げる喇叭が響く。
各機銃、各対空機関砲、各対空砲から次々に準備良しの報告が上がってくる。
第五艦隊の方も芳しい状況ではないらしい。
六隻の内、碌鳳と蒼鳳が魚雷2~3本の被雷、装甲甲板に五〇〇kg爆弾を十数発食らっている。
二隻とも戦闘能力こそ保持しているものの速度は低下しているので、特に右舷のみに被雷が集中している蒼鳳は現海域に留まるのは危険と判断されて退避。
大鳳、慶鳳、神鳳、蒼鳳の四隻は被雷こそないものの、魚雷回避を最優先としたために装甲甲板に多数の被弾を許しており制動索などの航空機運用に必要不可欠な装備類に損傷が目立っており、それらの修理には数時間を要するとのことですぐさまの戦闘行動を取るのは難しいとのことだ。
航空機の運用が出来なくても囮としての役割を果たせることが出来るのならそれでいいのだが、果たして第五艦隊はどれだけ保つだろうか。
少なくとも一回は敵からの攻撃がある筈だし、二回ぐらい攻撃があってもおかしくはない。
第五艦隊の空母全滅ぐらいは覚悟しておかないとならないだろう。
と、第五艦隊の心配ばかりしている場合ではない。
一番脅威が迫っているのは我々なのだ。
戦闘機の迎撃も満足に出来ない中でどれだけ被害を減らせるか分かったものでは無い。
「司令、攻撃隊から損耗の概算が送られて来ました」
「どれぐらいだ」
「二〇〇機ほどが被撃墜。二三〇機程度が損傷しているそうです。既にマリアナに救助要請は出してあると」
それならば安心だろう。
マリアナ諸島には二式飛行艇、いわゆる二式大艇が25機配備されているから、間断抱く救助作業を実行出来るはずだ。
必要であれば、潜水艦隊にも救助活動を行わせることも出来る。
「よろしい。潜水艦隊はどうか?」
「未だ報告無し。もしかすると攻撃をし損なったのかもしれません」
「或いはより良い機会を狙っているかだな」
攻撃兵力の要である潜水艦隊が全く報告してこないということは攻撃を行っていないということだ。
恐らく攻撃中ではなく、敵攻撃隊を敵空母が収容しているところを狙っているのではないだろうか?対空戦闘中に比べて危険は遥かに大きいが航空機を収容している空母は直進するしかない。
そこに魚雷を叩き込もうという算段なのかもしれない。
無電封止中の潜水艦隊の状況は分からないのでどうにもならないが、少なくとも彩雲からの電文は受け取っている筈だから彼らも時期に行動を起こすだろう。
「電探に感あり!距離四〇〇〇(40km)!高度三〇〇(三〇〇〇m)!」
「戦艦、重巡は三式弾射撃用意。射撃命令待て」
敵機が来る方向に向けて銃身、砲身を向けて射撃命令を待つ。
艦隊は空母を中心にして輪形陣を描いており、右舷から迫る敵機に備える形となる。
160隻を超える艦艇による輪形陣だ、中々敵機を通すことは無いだろうが戦場は何があるか分かったものでは無い。
しかも迎撃を一切受けていない、無傷の敵機編隊だ。
数を減らすことはおろか編隊を崩すことも出来ていない。
空母の周りを守る六隻の戦艦の主砲が空を向いて放たれる。
遥か三〇〇〇〇mの空に真っ黒な花火が次々と炸裂するとその中の十機ほどが、三式弾炸裂の近くにいた敵機はバラバラに砕け散ってジュラルミンの破片となって落ちていき、或いは片翼をへし折られてくるくると錐揉みしながら落ちていく。
運が良い機体は黒煙を吐きながら高度を下げていくだけで、二機ほどが引き返していく。
長門、陸奥、金剛、霧島は八発、プリンス・オブ・ウェールズとレパルスは九発、合計十七発の三式弾が敵編隊に向けて放たれた。
結果的に三〇機前後を撃墜破することとなったが、未だ三二〇機程度が編隊を維持したままこちらへ向かってくる。
次に重巡の主砲が火を噴いた。
彼らも三式弾を搭載しており、一発当たりの威力は戦艦に劣るが戦艦よりも短い時間で数を撃てる。
だがそこまで有効打とはならなかったようで十数機を撃墜破した程度に終わった。
より接近すると、防空駆逐艦、駆逐艦の主砲として、各艦が対空砲として装備している10cm連装高角砲と12.7cm連装両用砲が一斉に撃ち始めた。
射撃速度は戦艦、重巡の主砲の比ではなく、一分で一門当たり十五発*9が敵機に向かって次々と飛んでいく。
敵機が飛ぶ空は一瞬にして黒煙に覆われて南洋の穏やかな青空を次々と染め上げていく。
そんな凄まじい弾幕の中に突っ込んだ敵機の運命は想像通りになった。
至近距離で炸裂した砲弾によって機体のバランスを崩して落ちていく機体、運悪く直撃を食らってバラバラに吹き飛んだ機体。
魚雷を抱いた雷撃機は海面に叩き付けられて水飛沫を上げる機体もあれば、低く飛び過ぎて回避しようとして翼端を海面に擦って海面に突っ込む機体もある。
次々と撃ち出される砲弾に加えて、次はドイツから輸入して国産化したボフォース社製の40mm高射機関砲やラインメタル社からライセンスを購入して生産した37mm高射機関砲が独特の射撃音を響かせながら拳ほどの大きさに見える弾頭を敵機に向けて撃ち上げていく。
有効射程に入ると25mm、20mm機銃が続いて射撃を開始する。
20mm機銃は4連装のFlak38だ。
こちらもライセンス生産で生産しており、しかも生産設備を輸入したことで、5発に1発の割合でしか含まれていないが薄殻榴弾を撃ち出すことが出来る。
命中すれば防御力が高い米軍機でも大ダメージは免れない。
連続した射撃音が響き渡り、硝煙が段々と濃くなっていく。
金剛 赤城 伊勢 青龍 大龍 翔鶴 霧島
長門 加賀 日向 白龍 昇龍 瑞鶴 PoW
陸奥 飛龍 扶桑 赤龍 隆龍 蒼龍 レパルス
山城 豊龍 黒龍
どうやら敵機の狙いは最も南西側を航行している翔鶴、瑞鶴、蒼龍らしい。
確かに敵機の数を勘定すれば狙いを二~三隻に絞って確実に損害を与えることが望ましいだろう。
しかしながら南西側には最も対空火力の強いプリンス・オブ・ウェールズとレパルスを配置している。
そう易々と突破されないと思いたい。
第五艦隊の空母六隻と違って我々の乗る空母は飛行甲板に装甲を施されていないから一発でも被弾すれば暫くは戦闘に参加出来ない。
修理には三〇分~一時間程度を有するだろう。
しかしどれだけ弾幕を張っても、必ず隙は生まれる。
ましてや三〇〇機もの敵機がたった三隻の空母に突っ込んでいくとなれば尚更だ。
「よし、上手いぞ」
開戦以来の歴戦ともあって、三隻の空母にはそれぞれの空母に慣れ親しんだ乗組員が殆どを占めている。
乗組員同士の連携も良く、今のところ全ての爆弾や魚雷を躱している。
「右舷より魚雷接近!」
「三隻を狙って外れたものだ。注意しておけば当たらない。見張り員、魚雷から目を離すな。他艦に警報を出すように」
時折、外れた魚雷がこっちにくることがあるがどれも命中するものではない。
注意して回避すればいい。
艦長もそれを分かっているからか、慌てた様子も無く冷静に対処している。
回りの艦に流れた魚雷があることを通報して警戒させる。
あんな流れ弾に当たったらそれこそだ。
敵機の攻撃が始まってから十五分ほど経った頃、見張り員の一人が声を上げた。
「翔鶴被弾!」
「なにっ!」
全員が一斉に双眼鏡を覗く。
驚くのも無理は無い、海戦以来我が艦隊の主力艦は損傷らしい損傷を殆ど負ってこなかったのだから。
双眼鏡を覗くと確かに翔鶴からもうもうと黒煙が立ち上っており、被弾したのは明らかだった。
翔鶴の最初の被弾から一分と経たずに回避行動を取っていた翔鶴の左舷に水柱が二本、せり上がった。
敵にも手練れがまだいたのか、翔鶴が被弾して動きが鈍った瞬間を逃さずに更に爆弾が三発命中した。
敵は雷爆同時攻撃をお粗末ながらも仕掛けてきて見事に成し遂げたのである。
「翔鶴被雷!速力低下します!」
魚雷が二本に爆弾が四発。
あれぐらいの被弾なら艦の防御力と、鍛え上げた各員のダメコン能力で沈むことは無かろうが、翔鶴の戦闘能力が失われたのは明らかであった。
四発も命中弾を食らっているのだから飛行甲板は原型を留めていないぐらいに吹き飛ばされて使い物にならないだろうから本格的に修理をする必要がある。
翔鶴型の防御力は、少なくとも水雷防御に関してはかなりのものだ。
積層装甲も採用しているし、実験では最低でも片舷に四~五発の魚雷を命中させる必要があるとされている。
これに適切なダメージコントロールが加われば、六発ぐらいまでならばギリギリ耐えられるとしている。
だから、弾薬庫などに誘爆しない限り魚雷二発を食らった程度で沈むわけではない。
「翔鶴より入電!『我飛行甲板中央、及ビ後部ニ爆弾各二発、合計四発被弾。左舷中央部被雷二発。火災発生ナレド鎮火ノ見込ミアリ。傾斜発生ナレド注水ニテ復元ス。ナレド発揮シ得ル速力15ノット。艦載機発着艦不可能ニ付キ、我戦闘行動不能ト判断ス』以上!」
「沈まないのならばそれでいい。翔鶴へ返電。『艦ノ保全ニ努メ、万一ノ場合ハ人命ヲ最優先トスベシ。翔鶴ハ現時刻ヲ以テ戦闘海域ヨリ離脱、退避セヨ』。送れ」
「はっ!」
幸いにも、というべきかやはり翔鶴が沈むと言う事はなさそうである。
もし何かあれば、サイパン島にどうにかして自力航行か、或いは曳航していって座礁させるという手段もある。
そうすれば後々排水と応急修理だけすれば本土に戻ってちゃんとした修理を受けられるし、それが出来ない損傷だったとしても海に脱出するよりは生存率がぐっと高くなる。
再び双眼鏡を覗いて様子を見る。
どうやら三隻の受難はまだまだ続くらしい。
双眼鏡で覗いている間にも、三隻の周りには外れた爆弾が炸裂した事で発生する水柱が幾つも乱立しており、中にはかなり見当違いのところに着弾している爆弾もあった。
すると翔鶴の飛行甲板から炎が吹きあがった。
それと同時に蒼龍の右舷に一発の水柱が立ち上る。
一瞬反応が遅れたところを狙われて四発の爆弾が蒼龍の飛行甲板に叩き込まれた。
「翔鶴より入電!『我被弾孔ニ更ニ爆弾命中、格納庫内ニテ炸裂。航空燃料漏レ発生。緊急投棄実施。緊急退避ス』以上!」
「蒼龍より入電!『我魚雷一発、爆弾四発被弾。航行ニ支障無シ。ナレド艦載機運用ハ困難、戦闘能力喪失』以上!」
「蒼龍にも退避を命じる。駆逐艦をそれぞれ四隻護衛に付けてサイパン島方面に退避させる」
「はっ」
このまま二隻を戦場に留まらせても沈んでしまうだけだ。
ならばさっさと退避させてしまった方がいい。その方が乗組員の命も艦も救える。
「瑞鶴はどうだ……?」
そう言いながら双眼鏡を覗く。
どうやら瑞鶴は今のところ被弾は無いらしい。
「敵機、最後の編隊が瑞鶴に向けて急降下!」
三十分以上続いた戦闘もいよいよこれで最後らしい。
だが瑞鶴の幸運も最後までは続かなかったようだ。
「瑞鶴被弾!」
「第二艦隊は全部やられたか……!」
苦々しく、呻くような声で誰かが漏らす。
瑞鶴の飛行甲板上では二度の爆発が起こり、左舷に水柱が二本そそり立つ。
あの様子では戦闘に参加し続けるのは厳しいだろう。
敵機の攻撃が終わり、一〇分ほどして損害の集計が終わった。
「翔鶴、瑞鶴、蒼龍は戦闘力喪失です」
「瑞鶴もか」
「はい。魚雷の被弾がかなり近いところで連続しており、速力を一〇ノット以上に上げると隔壁が破壊されてしまうと」
「そうか。それならば瑞鶴にも駆逐艦四隻を護衛に付けて退避命令を。攻撃隊の収容は何時頃になるか?」
「三〇分後です。再武装と再出撃までには三時間頂く必要があります」
「よかろう。その間に失った分の機体を後方から補充する。連絡を」
「はっ」
後方の隼鷹を始めとした空母群から航空機と搭乗員を補充する。
二〇分ほどで艦載機を補充すると、その一〇分後には攻撃隊の収容が開始された。
攻撃隊も撃墜された機と、損傷によって廃棄されたり修理の必要がある機を含めると全体の1.7割、三〇〇機程度を失った程度で、艦隊防空の際に撃墜された機を含めれば三八〇機、約2割の損失といったところになる。
練度の低下があるのにも関わらず、ここまで損害が出るとは米艦艇の対空能力はやはり高い。
実際にはこの三八〇機のうち、一五〇機程度が撃墜されたに留まり、残る二五〇機は損傷が大きく廃棄されたり修理すれば使えるが、次の攻撃には参加出来ないという機体だ。
これら修理待ちの機体は取り合えず飛べる状態にまで修理をした後に後方の隼鷹以下空母や飛行場に後送されてそちらで修理を行う手筈を整えているので、我々が補給と修理で同時に慌ただしくする必要はない。
しかも実際には後方から艦載機と搭乗員の補充を受けた為、損失は回復したと言っていい。
「司令、損傷機全機後方空母への着艦を確認致しました」
「途中で落ちたりした機はいないか?」
「三機ほどが不時着水をしたようですが、既に搭乗員は救助済みです」
「補給と再武装の状況は?」
「予定より一〇分ほど早く済ませられそうだと言っております」
「敵艦隊の様子は?」
「接触を続けている彩雲によりますと、攻撃隊を我々より一時間ほど後に収容したようです。恐らくは生き残った護衛空母群の艦上で再出撃の為の手筈を整えているころでは無いでしょうか。損傷して退避中の敵空母の位置もしっかりと把握しておりますので、第二次攻撃隊でこちらの撃沈を狙えるでしょう。敵戦艦は依然として空母と共に行動を共にしております」
「何故戦艦と空母を分離しない?あれだけ損害を被ったなら、米海軍の思想的に分離して突撃してきていてもおかしくはなさそうだが……」
参謀の一人が不思議そうに言う。
「敵指揮官はよほど冷静なのでは?幾ら米海軍が誇る戦艦群と言えども航空支援無しでは不味いと判断したのでしょう。恐らく敵指揮官か、或いは参謀に航空機の脅威を正確に分析できる人物がいるのかもしれません」
「なるほど。であれば再攻撃の準備が整う前に先手を取る必要があるな」
参謀達と次の攻撃の予定を話し合いつつ、敵戦艦への対処も検討しなければならない。
戦艦同士での殴り合いは以ての外だが、かといってあれだけの数の戦艦を航空機だけで全て沈められるかと言われると難しい。
全てを航空機だけで沈めようとするとどうしても波状攻撃を仕掛けねばならなくなるし現在時刻を考えると二日は掛かる。
敵戦艦の速度は情報が正しければ30ノットは発揮可能なものだというから、逃げ足も速い。
基地航空隊の九九式双発汎用機を攻撃に投入しても手数は足りない。
可能な限り攻撃を集中させて確実に一隻一隻を撃沈するか、或いは全体に万遍無く損害を与えて逃げ足を衰えさせるかの二択ぐらいしか採れる手段はない。
潜水艦隊もそう多くの艦艇にダメージを負わせることは難しいだろうし、主目標は空母と伝えてあるので生き残ったエセックス級や軽空母、護衛空母への攻撃に専念する筈。
となると敵戦艦は航空攻撃のみでどうにかするしかない。
「司令、攻撃隊の準備、が整いました」
「攻撃隊発艦用意。各空母艦首風上に立て」
「艦首風上に立て、宜候」
巨艦が次々と艦首を風上に向けてぐぐぐっ、と向けていく。
艦載機発艦用のカタパルトはまだ開発中だからこうして発艦させる必要がある。
ついぞ戦争に間に合わなかったが、致し方ない。
「攻撃隊発艦始め」
「攻撃隊発艦始めぇ!」
各空母から次々と飛び立っていく。
それと同時に潜水艦隊から一斉に敵空母への攻撃を開始した旨の電文が発された。
それによれば数十隻で一斉に襲い掛かったので、戦果は判別が付かないが各潜水艦は四本づつの魚雷を発射し、少なくとも二割程度の命中は確認したとのことだ。
攻撃に参加したのは恐らく四〇隻程度の潜水艦であったらしく、これを基に計算するならば一六〇本ほどを発射し。命中率二割であるから三〇~四〇本程度の命中があった、とすることが出来る。
誤認も含まれたり同一艦艇に複数本命中というのもあるので、全体としては五隻程度の撃沈破があれば良いだろう。
運良く全て空母に命中したとすれば敵護衛空母は四〇隻とされているので残るは三〇~三十五隻。
その周りの戦艦や護衛艦艇に命中していたとしても敵の対空火力や対潜能力がその分下がるので問題無い。
やはり攻撃隊は敵護衛空母に目標を絞るべきだろう。
戦艦は後回しにする他無いな。
「潜水艦隊に打電。潜水艦隊は以後積極的に敵艦隊を襲撃し戦力を漸減せよ。攻撃隊に打電。攻撃隊は敵空母を最優先目標とする」
「了解しました」
何はともあれ、敵輸送船団への攻撃もしなければならない。
敵輸送船団の船上には少なくとも陸兵が一〇~二〇万名はあるだろうから、そうなると敵艦隊を丸ごと全滅させるよりも、この数十万もの海兵隊や陸軍兵を載せた輸送船団を洋上で全滅させるほうが遥かに効果がある。
要は敵地上兵力を洋上で戦わせることも無く散った、となれば米国世論は米政府に対して凄まじい不信感と反発を覚える。
そうなれば少なくとも対日戦においての意見が反戦や講和に一気に傾いてもおかしくはないのだ。
第二次攻撃隊帰還後は、時刻の関係で第三次攻撃隊の出撃は翌日明朝に見送られた。
それまでの間、日本本土から増援として送られて来た、補充用の艦載機と基地航空隊機を受け取り、再び幾らか戦力を回復させ、搭乗員と乗組員の休養に充てた。
基地航空隊の一部は夜間対艦攻撃訓練を積んだ精鋭部隊であることを考えて、九九式双発汎用機は敵艦隊への波状攻撃を行っている。
夜は基本的に航空機の活動が出来ない、というのが常識であるが汎用機には全機とは行かなかったが、一部には電探を装備している機を用意してあるので、夜間でも対艦攻撃が可能となっている。
米軍も夜間機上レーダーを装備している機があるというのは知っているが、どうやらこちらと同様に双発機ぐらいまでしか装備させられていないようで、当然空母艦上にはそんなもの存在しないので基地航空隊と共同作戦を行える我々に分がある。
彩雲には機上電探が装備されているからその点、敵艦隊上空にいれば同行が分かり易い。
それに開戦初日からの天候も影響している。
マリアナ近辺には多いと言うほどではないが、幾らかの雲があるのでそれに隠れたりしながら偵察を続ければ、見つかる確率も減るし撃墜されるリスクも大きく減る。
「敵艦隊の位置は?」
「未だ変わらずです」
「一時は焦ったが、距離を取っておけば困らんな」
「はい」
実は夜になってから敵艦隊の一部、具体的には戦艦と巡洋艦を中心とした敵艦がこちらに向けて突撃する動きを見せたのだ。
どうやら夜戦でこちらに大打撃を与えようという魂胆だったらしいが、態々応じてやる必要も無いので進路上に潜水艦を三〇隻ほど展開させていたので、艦隊は敵艦隊と距離を取りつつ潜水艦で襲撃を掛けると接近は難しいと判断したのか反転して護衛空母群と合流した。
潜水艦の魚雷の命中は十数本程度で撃沈出来た艦は無い、とのことだが打撃さえ与えられたのならそれで十分だ。
敵はどうやら我々の潜水艦の脅威を排除することに手を付けられていないらしく、こちらの潜水艦がかなり自由に動けている。
実際海戦が始まってから撃沈された味方潜水艦は僅か六隻であり、こちらが予想していた潜水艦隊の損害四〇隻を大きく下回っている。
理由は定かでは無いが、何か技術的な要因でもあったのだろうか?
この時期の米海軍はドイツ海軍の潜水艦の脅威がある為、対潜装備はかなり充実していた筈なのだが。
とは言っても大西洋でドイツ海軍を相手する為に、ヘッジホッグを始めとした対潜装備は充実している筈だ。
ソナーや電探も高性能なはずだ。なのにこれだけ損害が少ないのは何か別の要因があると考える方が自然だ。
考えられる中で最も大きな要因なのは乗組員の練度不足だろう。
特に対潜戦闘の要である聴音員や電探員は専門性がかなり高く、かなりの時間を訓練に費やさなければならないのだが米海軍はそれが殆ど出来ていないと言う情報がある。
練度不足とすれば確かに納得が行くところだ。
ともあれあのまま敵戦艦の接近に気が付かずにいたら、数の差で一気に押し切られていた。
幾ら大和、武蔵が居ると言ってもこちらは戦艦十二隻だけで、しかもその内の六隻は36.5cm砲、長門と陸奥も艦齢二十数年の老齢艦だ。
戦力比は二倍、まともに撃ち合っていたら全滅していただろう。
危ないところであったが間一髪だった。
これに気が付いた彩雲には後で何か褒美をやらねばならない。
夜の間、マリアナ諸島に待機していた六〇機程の夜間攻撃に特化した九九式双発汎用機がそれぞれ一〇機づつぐらいに分かれて時間差を付けて夜間雷撃を夜の間、ずっと行い続けた。
これには敵を休ませないという目的があったが、成功裏に終わったと言っていい。
機上電探の性能がまだまだ未熟故に、七回の出撃で命中魚雷約十本と少ないが、それでも本来なら休める筈の夜に攻撃を受け続けるというのは心理的にも身体的にも大きく追い詰められることになる。
こちらは敵潜水艦を警戒しておけばいいだけで休めているわけだから、単純には図れない部分での戦闘力はこちらが圧倒している。
翌朝、日の出と共に第四次攻撃隊を放つ。
敵はかなり疲弊しているようで回避運動や敵機の動きも昨日よりも精細を欠いている、と攻撃隊各機から報告が上がっている。
護衛空母群に狙いを絞る。
この日だけで第五次攻撃隊まで放ち、敵護衛空母群の殆どを撃沈破することが出来た。
こちらも艦載機の半数を失う結果になったが、完全に敵艦隊のエアカバーを剥がすことに成功した。
これによって敵戦艦をなんの障害もなく叩くことが出来る。
強力な対空砲火はあるが敵機と比べると大した脅威ではない。
というのも米軍は大戦中期頃からVT信管を対空火器に用い始めており、攻撃隊の報告では我が軍のものと比べて対空砲火の命中率が高い、と報告が前々から上がっていた。
だがこのVT信管、単体ではあまり効果を発揮しない。
迎撃機と電探と組み合わせて効果を発揮するものなのだがエアカバーは剥がされているから効果は半減していると考えていい。
「敵艦隊の様子は?」
「敵護衛空母は防空に徹するようで、しきりに戦闘機を直掩に上げているようです。総数は不明ながら最大でも五〇〇機程度と見積もられます」
「雷撃機や爆撃機を全て投棄して、戦闘機だけを収容したんだな」
「恐らくは。如何致しますか?攻撃隊を放って敵護衛空母を撃滅した後に敵戦艦群を航空攻撃と潜水艦隊で叩くというのが現実的なところだと思われますが」
「それぐらいしかあるまい。攻撃隊の準備は何時頃完了する?」
「それが、少々問題がございまして」
「問題?」
何やら言い辛そうな顔をしながら切り出してくる。
「既に魚雷を使い果たしております」
「あぁ……、確かにそうだ。あれだけ攻撃隊を放っていてはな。それで、爆弾はどれだけ残っている?」
「一回分が辛うじて残っております」
「それなら夜の間に魚雷や爆弾、機銃弾を補給してしまおう」
「給油もしてしまいますか?」
「各艦に残燃料を直ちに報告させてから決める。恐らく駆逐艦や軽巡辺りはそろそろ燃料に不安が出て来る頃だろうから給油は少なからず必要にはなるだろうが」
「了解しました」
すぐに艦隊全艦に燃料状況を報告させると、戦艦と空母はまだ余裕があるものの駆逐艦、軽巡辺りはやはり燃料に不安があるとのことだった。
そのため、後方からすぐに油槽船と輸送船を呼び寄せて補給を開始した。
夜中の二時まで補給を行い燃料弾薬を満載することが出来た。
これで今日の昼間は航空攻撃を仕掛けることが出来る。
三日目になっても米海軍は撤退する様子は無い。
どうやら六隻の護衛空母に戦艦二〇隻があれば、我々を撃滅してマリアナ諸島を奪えると考えているらしい。
確かに戦艦は一隻も沈められていないし、米海軍の主戦力は空母では無く未だに戦艦だ。
だから勝てると思っているのだろう。
実際輸送船団にはまだ手出しが出来ていないわけだし、戦艦と輸送船団が無事であるならばマリアナ諸島の攻略は可能だと判断しているのかもしれない。
空母の殆どを失っていても撤退の判断をしていないと言う事は米軍には米軍なりの勝算がまだあるということだ。
とは言ってもこちらは夜の間に燃料、魚雷、爆弾、機銃弾の補給を受けているから気にしないで戦えるので、二日ぐらいは全力で戦える。
「夜の内に補給をしておいて正解でしたね」
「あぁ、補給していなかったら今日の攻撃は出来なかったところだ。攻撃隊は何時出せる?」
「一時間も頂ければ出撃可能です」
「ならば出撃時刻は八時とする。搭乗員は休養を取れているか?」
「夜間の補給作業中は整備員、搭乗員共に十分に食事と睡眠を取らせました。帰投時が六時過ぎで食事と入浴を済ませて搭乗員は七時頃、整備員は十一時頃には就寝しておりますから、六~十時間は寝れている筈です」
その答えに頷いて返す。
搭乗員はもとより、機体の整備などを担う整備員達は戦闘となればとにかく激務極まる。
しかも二日間連続で合計五回も敵艦隊へ攻撃を仕掛けているからその疲労は計り知れないものがある。
だから可能な限り休ませてから出撃させたい。
起床時刻は六時半にしてあるので、十五分で食事を終わらせるとしても一時間ちょっともあれば武装の取り付けや給油、弾薬の補充は十分に終えられる。
そして整備員達はその期待通り一時間でそれら全てを終えて飛行甲板にものの十分程度で機体を並べ終えると七時五十八分には発艦準備完了が伝えられた。
八時になると一斉に各空母から次々と攻撃隊が飛び上がり、空中集合を終えると密集隊形を整えて敵艦隊へ進軍していく。
敵艦隊との距離は昨日と変わっていない。
敵は防空に徹することにしているとの事前情報の通り、敵攻撃隊が艦隊にやって来ることは一度も無く、代わりに敵艦隊の上空には数百機の戦闘機が張り付いているようだ。
しかし昨夜も夜間対艦攻撃を九九式双発汎用機が行っていたのもあって、疲労はピークに達しているようで動きは緩慢だそうだ。
こちらは敵機に襲われる可能性が低い事から、防空に一〇〇機ほど残しておけば良く、それ以外の戦闘機は全て攻撃隊に付けることが出来る。
第六次攻撃隊は敵戦艦に張り付く護衛空母を全て撃沈破させ、戦艦二隻も撃沈して見せた。
続く第七次攻撃隊は三時頃になって出撃することとなった。
第七次攻撃隊も見事敵戦艦への攻撃を成功させ、四隻を撃沈、二隻大破という大戦果を叩き出し、基地航空隊の九九式双発汎用機も攻撃に加わった為、第七次攻撃隊の二〇分後に敵艦隊上空に到達した九九式汎用機は一〇〇機ほどで三隻の敵戦艦に集中攻撃を加えた為、各戦艦に魚雷六本命中を叩き出し撃沈した。
この頃になると敵戦艦の対空砲は彗星による急降下爆撃で殆ど沈黙状態になっていると報告が上がってきている。
回りの随伴艦の射撃はまだまだ旺盛だが狙いが甘く低空飛行をすれば早々当たることは無いという。
それでも二回の攻撃で一三〇機ほどの損失が出ている。
敵はようやく撤退の動きを見せているが、既に展開済みの潜水艦隊に何度も襲撃を仕掛けられているようで、この様子なら敵艦隊を追い掛けながら敵輸送船団を叩くことも出来る。
「敵艦隊を追撃する。潜水艦隊には引き続き敵艦隊を徹底撃滅するように打電せよ」
「了解しました」
二時間もすると敵艦隊への攻撃を開始した旨の電文が多くの潜水艦から発され始めた。
数十隻もの潜水艦に同時に攻撃されてはどれだけ優秀な対潜装備を持っていても対潜攻撃能力は飽和してしまう。
結果的に潜水艦の生存率は各段に上がるわけだ。
四日目も追撃戦が続けられている。
「敵艦隊へ攻撃隊を出しますか?」
「出す。敵艦隊を蹴散らした後に敵輸送船団に砲雷撃戦と航空攻撃を仕掛ける」
「了解しました」
まずは敵艦隊を叩いてからだ。
この日は敵艦隊へより距離を詰め、片道二時間程度の距離になり、一日で三回もの攻撃隊を放つこととなった。
これにより六隻の敵戦艦を撃沈することに成功し残る敵戦艦もこれで二隻となる。
二隻なら砲撃戦を挑んでも勝てる。
敵戦艦へ砲撃戦を挑むのは大和と武蔵、そして念の為に長門と陸奥で、残る六隻の戦艦は敵輸送船団に差し向けよう。
「大和、武蔵、長門、陸奥、プリンス・オブ・ウェールズ、レパルスに敵戦艦を仕留めるように打電。残る戦艦は敵輸送船団への攻撃を行う。潜水艦隊は引き続き敵輸送船団を襲撃せよ」
「了解しました」
敵戦艦との撃ち合いが出来るのはこの6隻ぐらいだ。
PoWとレパルスは砲火力こそ41cm砲だが、対41cm砲防御を施しているわけでは無いので防御力に不安がある。
それでも4隻で戦うよりも戦力比3倍を維持することが出来る。
最終的に敵艦隊の大部分を沈めることに成功した。
残った二隻のモンタナ級戦艦も航空攻撃で損傷を負っているところを大和、武蔵、長門、陸奥、PoW、レパルスに砲雷撃戦を挑まれてマリアナ沖の海へと消えていった。
このマリアナ沖夜戦ではモンタナ級戦艦二隻、重巡洋艦四隻、軽巡洋艦二隻、駆逐艦七隻を撃沈するという戦果を挙げる事となった。
こちらはの損害は以下の通りである。
大破:大和、PoW、レパルス
中破:武蔵
4隻はこれ以上戦闘に参加することは厳しいと判断され、駆逐艦と後方の空母千歳、千代田の護衛を受けながら本土に回航、それぞれ横須賀、呉、佐世保の工廠に入渠しすぐに修理されることとなった。
この夜戦のあと、日の出からすぐに敵輸送船団に対しての攻撃が開始され、航空攻撃だけでなく精々十ノット程度しか出せない逃げ足の遅い輸送船団相手には、戦艦と重巡、軽巡、駆逐艦を主力とした水上打撃部隊を即席で再編成し殴り込みを掛けさせた。
敵輸送船団にはこれまでの敵艦隊の駆逐艦の生き残りが合流していてそれなりの数ではあったが、勢い付いている我々を一機の直掩戦闘機も無く守る事は到底出来なかった。
護衛艦艇の殆どを航空攻撃で叩き、無防備になったところに水上打撃部隊で殴り込みをしたのだ。
航空攻撃で輸送船団を守っていた四隻の護衛空母やその他護衛艦艇が沈められてエアカバーを完全に剥がされると、待っていましたと言わんばかりに我々の戦艦部隊、重巡部隊が距離六〇〇〇mからの零距離射撃を行うに至った。
この時、徹甲弾を最初は使用していたのだが狙うのが駆逐艦や輸送船という装甲なんてものは欠片も無い、ぺらっぺらな目標だったものだから貫通力があり過ぎて、命中させたは良いものの反対側まで完全に貫通して何処かに飛んで行ってしまうと言う事態が多発した。
これにより射撃砲弾を三式弾に切り替えて射撃を行うに至ったわけである。
重巡の砲撃は効果的ではあったものの、戦艦の砲撃で一番活躍したのはまさかの高角砲だった。
主砲よりも射撃速度があり、そして目標に対する貫通力もほどほどに良い。だから一番戦果を挙げたのは高角砲だったのだ。
なによりも活躍したのは軽巡、駆逐艦達であった。
というのも輸送船相手に一番効果のある主砲を搭載しており、それに魚雷も搭載している。
だから輸送船団への攻撃が終わった頃には駆逐艦の残弾数は各砲塔20発を数える程度になっていたのである。
駆逐艦は魚雷を全て撃ち切り、それ以降は殆ど抵抗の無い敵輸送船団に砲弾を叩き込み続け、最終的に潜水艦隊もこの攻撃に加わることとなったわけだから敵輸送船団の絶望具合は凄まじいものがあっただろう。
結果として敵輸送船団は逃げる事も出来ず、百隻以上いた輸送船の半数を撃沈され、残る半数も被弾炎上によって放棄されるか我々に拿捕される運命を辿った。
敵艦隊と敵輸送船団から発生した戦死傷者及び捕虜は二〇万を軽く超える事となり、米国世論はそれはもう凄まじいほどの、現代風に言うならば大炎上をしたわけである。
輸送船団に乗っていた十数万は陸地で戦うことも無く海に散り、艦隊は殆ど一方的に叩きのめされてしまった。
西海岸は既に我々の攻撃で主要港湾や飛行場は軒並み年単位で使い物にならない。
結果、ルーズベルトは大統領選に負け、トマス・E・デューイが第33代大統領となったわけである。
ルーズベルトは、今現在重要な作戦が進められているがその作戦を進めている最中に大統領が交代すると言うのは避けるべきで少なくとも作戦が終わるまでは選挙を延期してもらいたい、として大統領選挙を無理矢理延期するということまでやっていたこともあって、選挙では歴史的大敗と言えるほどの負けとなったわけである。
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デューイは大統領になるとすぐに日本との講和交渉を開始した。
交渉は長引き、1946年3月になってようやく纏まったのである。
それまでの間、特に米軍との戦闘が続いていたビアク島に機動部隊を差し向けて上陸していた米軍地上部隊を砲撃と爆撃によって粉砕し、最後の勝利を飾ったのである。
端的に交渉の結果を言うとするならば以下の通りになる。
・日本政府は1950年12月31日までに開戦後に占領したフィリピン、ハワイを米国に返還するものとする
・日本政府は米国政府に満州国を認める条件に於いて、米国政府及び企業の満州国に対して資本出資を許可するものである
・日本政府は日独伊三国同盟を正式に破棄するものである
・日本政府は米国以外の連合国とも可能な限り速やかに講和条約を結ぶこと
・米国政府は日本によるマリアナ諸島全域及び、パラオ、トラック諸島、マーシャル諸島の領有を全面的に認めるものとする。
・米国政府はハワイ諸島を非武装中立地帯とし、一切の軍備を禁ずる。
・米国政府は日本の船舶がパナマ運河を通行する場合、優先優悦権を認めるものである
・米国政府は他連合国と日本との講和の際、如何なる干渉もしないと宣言するものである。
・両国政府は互いに賠償金請求を放棄するものである。
・両国政府は可及的速やかに捕虜の送還を行うものである。
・両国政府はハワイを基準とし、それぞれ西太平洋、東太平洋で勢力圏を分割し、相互干渉をしないものとする。
以上のようになった。
米国が満州国の建国を認めたのは随分と以外には思ったが、米国政府の考えとしては共産主義に染まるよりはマシ、何よりも対独戦に速やかに集中したいという狙いもあったのだろう。
それに手を引かせなくても資本出資なども出来るから、ということで渋々認めたらしい。
日本によるマリアナ諸島、パラオ、トラック、マーシャル諸島の領有を全面的に認めた理由はハワイ割譲とどちらを選ぶか、という選択を迫ったらしい。
まぁ、ハワイ割譲を認めるよりもマシな選択ではあっただろう。
私が想定していたものよりも遥かに緩やかなものであったが事実米国相手の戦争は日本が終始勝ちのまま進めていたから、ある意味では妥当であると言えるだろう。
特に領土や賠償金、軍縮などに関しての条件が無い、或いは緩いものであるのは中々有難いものだ。
軍縮に関しては戦争終結に伴って段階的に陸海軍共に大幅に縮小していくつもりではあったので、いずれにせよと言うところはある。
しかし米国と講和が叶ったからと言っても、それはあくまでも米国単体とのものでしか無く、それ以外の連合国、英仏蘭中などとは未だに戦争状態が続いているというのが現状なのである。
特にインド、ビルマ方面では英軍とまだまだ戦っている状況で、我が軍有利ではあるものの、インパールを中心として消耗戦が続けられており、それに加えて日中戦争は未だ終わりが見えない状況にある。
どうにかしてこれらを収めなくては。
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結局、アメリカ以外の連合国との講和は1946年12月半ばに実現したわけである。
というのも結局やはり欧州での戦争が長引きに長引いている状況下で、ドイツ軍が核兵器の開発の最終段階に踏み入ったという情報が手に入ったからである。
ドイツ軍の原爆開発は途中でイギリスによって施設を破壊されたことで頓挫していたのだが、どうやらその後に復旧したりして進めていたらしい。
しかもその開発を進めているとされているのは悪名高き武装親衛隊、SSと呼ばれる組織であるらしく、そんな連中に核兵器なんぞを持たせたらそれこそ世界は破滅すると思ったらしく、こちらが講和を呼びかけようとしていたところ、それよりも先に向こうから講和を呼び掛けてきた。
そう言った喫緊の事情もあってアメリカは欧州各国に圧力を掛け、イギリスを始めとした欧州各国は早急に対ドイツ戦を終わらせる必要があるとして日本との講和、終戦を急いだという事情がある。
結局イギリスを始めとした各国との講和条約は日本に有利な形で進められ、インドの独立やシンガポール割譲と言った条件こそ無かったものの、南方資源地帯の割譲を幾らか許すこととなり大戦の影響で力が弱まった連合各国は、1950年代後半から60年頃にはアジア諸地域で次々と独立運動、独立戦争が勃発し、独立を次々と許すという結果になり、欧州各国は結果として植民地を失うことになったわけである。
講和条約締結の際、日本は天然ゴム、鉱物資源、石油産出地域を始めとした幾つかの資源地帯の割譲を要求し、全てではないがそれを呑ませることとなった。
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中国との講和条約は、満州国の容認及び海南島、上海、青島半島、遼東半島、北京を割譲しそれ以外の地域からは撤退することとなった。
中国がこの条件を呑んだ背景は、共産党との内戦という問題があったからである。
というのも日中戦争時は手を組んで戦っていたが、戦争が終わった後に中国共産党と戦闘状態になるのは明らかであったことで、中国国民党政府は割譲を呑む代わりに日本に対して共産党との戦争の支援を要求してきたのである。
日本側はこれを容認し、講和条約締結後に倉庫で眠っていた三八式歩兵銃を始めとした歩兵装備を中心として国民党政府に売却を開始。
重装備の売却はまだ決定されていないものの最終的には認められることになるだろう。
講和条約締結直後から既に国民党、共産党の対立は激しく、いよいよ1947年末ごろになるとこれ以降数十年に渡って続く国共内戦が再び勃発し、ソ連からの援助を受ける中国共産党と日本、アメリカ、イギリスから支援を受ける中国国民党との熾烈な、泥沼と化した内戦が1980年以降に入っても続くことになる。
この内戦によって中国は荒廃の一途を辿ることとなり、それら難民は日本領となっている海南島や上海、青島、遼東、北京、そして満州国に押し寄せることとなるが余りにも数が多い事、経済がお世辞にも良いとは言えない戦後復興の中であることなど理由は様々あるが、結局難民の受け入れは行われず、追い返すことになった。
日本政府は難民に対して細々とした支援を行うに留まったのである。
国共内戦は互いの戦力が拮抗状態にあることでこれからもまだまだ長く続いていくと見られている。
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欧州における戦争は、結局1950年6月14日まで続き、最終的にはドイツの敗北によって終わったのである。
それまでに東部戦線で4700万人、西部戦線では200万人以上の戦死者が発生し、民間人の犠牲や、PTSDを始めとした精神的な戦傷者や戦傷者を全て含めると東西合わせて一億五千万は超えるであろう犠牲者となるとされており、その詳細な数字は判明しない。
ドイツ降伏までの流れをざっくりと説明すると、結局対日戦には投入されなかったB‐29が投入され、イギリスから飛び立ったB‐29がドイツ工業地帯を焼き払った。
史実でのB‐29は太平洋での高温多湿に悩まされたものだが、平均気温が10度以上下がる欧州ではその性能を十分に発揮したようである。
詳細は判明していないが一度の爆撃で数百機単位のB‐29が襲来し、それに加えてB‐17も投入されていたから史実よりも爆撃はより大規模な被害を齎したようで、現地の写真を大使館が送ってくると、役人、軍人、民間人問わずに戦争を辞めていてよかった、と顔を蒼褪めさせるほどのものだった。
この戦略爆撃によってドイツの主要都市、主要工業地帯は全て焼き払われたがそれでも戦争は終わることは無く、東部戦線も全く動く様子を見せなかった。
というのもドイツは事前に工業施設などを山岳地帯地下に全て移しており、爆撃では被害らしい被害を被らなかったのである。
そんな中、ノルマンディー上陸作戦が1948年に実施されたのだが余力のあるドイツ軍相手に押し切ることが出来ず上陸地点周囲100kmほどで戦線は停滞してしまった。
あの手この手で防衛線を破ろううにも、全て成功せず、失敗に終わり損害が嵩むばかり。
史実では1944年には殆ど能力を失っていたドイツ空軍も健在で、迎撃による爆撃機の損害も凄まじく、対地攻撃でも連合軍は凄まじい損害を被っていた。
これに対してアメリカは戦局打開の為に、終ぞ開発に成功した原子爆弾を、ドイツ軍が頑強に守る防衛線に投下したのである。
これに続いてドイツ本国のルール工業地帯、ライン工業地帯に原爆が投下された。
フランスとドイツに合計3発の原爆が投下されることになったのである。
これによって原爆で壊滅状態となった防衛線を一気に突破した米英軍は一気にドイツ本国にまで進軍し、ドイツは頑強に抵抗するものの1950年6月14日にベルリンが米英軍の手によって陥落、ヒトラーは自殺しドイツは降伏したのである。
東部戦線はどうやらかなり持ち堪えていたらしいのだが、西部戦線に空いた穴を埋める事は出来なかったのである。
この世界では被爆した国は日本では無く、フランスとドイツになったのだ。
アメリカの原爆開発は対日戦争に巨額の戦費を注ぎ込み、それに加えて失った艦艇を揃える必要もあって遅れていたがドイツによる原爆開発、という情報を聞きつけて海軍の予算をかなり減らしたうえで推し進められることになった。
ドイツが連合国相手に降伏してから、アメリカを主体とした連合国は欧州への進駐を進めてポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアまでの進駐がされた。
私の知る歴史では、ソ連に組み込まれる筈だった四つの国はこの世界では戦後に民主主義国家としてそれぞれ独立し、欧州冷戦の最前線となったのである。
ソ連は最終的に史実で得られる筈であった領土ほどは得られず、しかもアメリカからの軍事援助が全く送られることも無くと言う事で史実のような一人勝ちという状態では無くなった。
戦後ソ連は共産主義拡大の為にあの手この手で各国と揉めているし、領土的野心を全く隠しもしないような動きを見せていると言うのもあって、日本もその揉めている国の一つとなっている。
ここ最近では樺太における日ソ国境、満州国境、千島列島、オホーツク海などで度々揉めている。
つい最近では樺太国境線で小規模な武力衝突が発生し双方に十数名ほどの死傷者は発生する事態となったりと緊張度は増している。
欧州でも同じような死傷者十数名程度の衝突が続いており、軍事的緊張度は史実よりも高いかもしれない。
なんせ明確に第三次世界大戦の火種になるような場所が欧州とアジアの二か所もあるのだからな。
米国もソ連との対立を深めており、日本対vs欧米vsソ連の三つ巴の冷戦対立構造になってしまっているのだ。
ーーーーーーーーーーーーー
戦後の日米関係は、比較的良好と言える。
当初は対立が大きく目立っていたものの、ソ連の脅威が明確になり始めた1955年に日本とアメリカは融和姿勢を互いに取るようになった。
というのもこの頃、1952年にソ連が核実験に成功したという情報を日米両国はそれぞれ掴んでおり、その三年後の1954年には実戦使用可能な水素爆弾をソ連が開発したと言う情報を手に入れたからである。
アメリカは既に水爆実験、水爆配備に漕ぎ付けておりそれらが齎すものを理解していたわけである。
日本も同様に核兵器の実戦配備こそ行っていないものの、核兵器の実験自体は成功していた。
正式な保有こそしていないものの、何時でも核武装は可能という状態を維持しているわけである。
アメリカは欧州で、日本は満州国境と樺太国境、千島列島国境でソ連と大きく対立しているわけだ。
その対立の中に核の脅威、という何物にも勝る大きな理由を受けて日米は手を組んだのである。
これに欧州各国も加わり対ソ包囲網が形成されることになった。
軍事交流も盛んに行われており、1960年にはハワイ沖で日米海軍合同軍事演習が行われ、1963年には欧州にて日米欧陸軍合同大規模演習が行われた。
これらもあって日米欧による関係は良好なものと言えるだろう。
経済的な対立は少なからずあれど、少なくとも軍事的対立は無いのが現状だ。
欧州各国とは1953年になって相次いで国交回復、或いは国交樹立を行い、対ソ戦略においては一致し歩みを共にするということが決まっている。
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最後に日本の戦後についてである。
日本は戦後、大幅な軍縮を進めた。
予算の大部分を占めていた軍事予算は殆どを削られ、それらの予算は国内経済に回された。
財閥を始めとした大企業は解体され、自由競争経済に移行し新たな会社の参入が進んでいる。
数百万を数えた軍人や兵士も段階的に退役し民間社会に復帰、緩やかな経済成長に大きく貢献することとなる。
これにより史実における高度経済成長のような、バブル経済のような経済成長は成さないまでも、1980年代には世界第8位の経済を記録することになり、2000年代には世界第3位にまで登り詰めることになる。
憲法も色々と曲解して暴走した関東軍などの前例がある為に、早々に見直しと改憲が図られた。
軍に於ける体制は、基本的には防衛を主眼としたものに置き換えられた。
今までは外征型の軍隊であったが、内征型のものに編成を変えたのである。
ソ連という脅威がある以上、徴兵制を廃止するという事にはなって居ないが、男女共に一年半の徴兵が課されることとなる。
徴兵は公開くじ引きによって決定される。
二〇歳になったら自分の氏名住所を書いた紙をくじ引き会場に行って提出し、それを箱の中に入れて軍の担当官が引くのである。
因みに例え金持ちの息子や娘であろうと強制参加であるので、格差は無い。
女性を徴兵するのはどうなのか、という意見があったが男女平等とするならば兵役も男女平等に受けるべきであるということで可決された。
兵役免除の条件は以下の通り。
・大学に入学していること
・身体的或いは精神的に不調又は問題を抱えていること
免除される項目は以上になるが、大学に通っていても卒業後に徴兵くじ引きに参加する必要がある。
あくまでも就学中は一時的に免除されているだけであって、そうでなければ35歳までに必ず一度はくじ引きに参加する必要がある。
なので中には就職した後に徴兵されることが決まる者もいる為、その辺も取り決めている。
・徴兵に際し、就業している者は徴兵される間、勤めている会社を休職扱いとなるが徴兵を理由とした直接的、間接的に関わらず不当な解雇をしてはならない。
・徴兵に際し、就学している者は徴兵される間、通っている学校を休学扱いとなるが徴兵を理由とした直接的、間接的に関わらず不当な解雇をしてはならない。
・徴兵に際し、就業に関して本来得られる筈である給与の三分の一を会社、または組織が支払うものとする。
・徴兵に際し、国は徴兵された者に対して給与を満額支払い、兵役満了後は50万円の特別給与を支払うものとする。
・徴兵に際し、徴兵された者は職業軍人と同様の待遇と、階級相応の責務と権利を有するものである。
徴兵に関しては以上になる。
陸軍は平時に於いて35万名を最大兵力としている。
南方資源地帯の防衛に合計五万名、大陸領の防衛に合計五万名、朝鮮半島三名、台湾三万名、日本本土三万名、満州国境十万名、樺太三万名、千島列島三万名という配置になっている。
南方資源地帯と大陸領、満州は特に危険が及ぶ可能性が高いとの理由で配備される兵力が大きい。
満州とは軍事同盟を結んでいるので、日本軍の駐留が認められているわけである。
戦車 1000両
自走砲 600門
牽引砲 900門
ロケット砲 600両
固定翼機 一〇〇機(対地支援攻撃機)
回転翼機 二五〇機
装甲車 2000両
対空戦車 520両
架橋戦車 300両
戦車回収車 500両
NBC車 700両
トラック 3万台
兵員 35万名
戦車や火砲、装甲車の多くは対ソ国境線に配備されており、満ソ国境防衛の為に満州国にも派遣されている。
というのもソ連地上軍の脅威が余りにも大き過ぎる為である。
海軍は終戦後、大規模な軍縮に伴い既存艦艇の退役や予備役編入などが相次ぎ、現在は8個艦隊体制を整えている。
第1~第7艦隊までが存在しており、それぞれに空母が1~2隻配備されている。
空母は9隻の体制を取っており、米国に次いで世界第2位の空母保有数を誇る。
第一艦隊 横須賀 太平洋方面担当
空母 1隻
巡洋艦 2隻
駆逐艦 7隻
潜水艦 4隻
第二艦隊 函館 オホーツク海担当
空母 2隻
戦艦 5隻
巡洋艦 2隻
駆逐艦 12隻
潜水艦 6隻
第三艦隊 舞鶴 日本海担当
空母 1隻
戦艦 5隻
巡洋艦 2隻
駆逐艦 10隻
潜水艦 9隻
第四艦隊 呉 太平洋方面担当
空母 1隻
巡洋艦 1隻
駆逐艦 8隻
潜水艦 4隻
第五艦隊 佐世保 東シナ海担当
空母 1隻
巡洋艦 2隻
駆逐艦 10隻
潜水艦 4隻
第六艦隊 ブルネイ 南シナ海及びシーレーン防衛担当
空母 1隻
巡洋艦 1隻
駆逐艦 10隻
潜水艦 6隻
第七艦隊 トラック 太平洋方面
空母 1隻
巡洋艦 1隻
駆逐艦 7隻
潜水艦 3隻
第八艦隊 バリクパパン 南方方面シーレーン防衛担当
空母 1隻
巡洋艦 1隻
駆逐艦 8隻
潜水艦 4隻
掃海艦隊 駆逐艦 2隻
掃海艇 20隻
哨戒艦隊 駆逐艦 4隻
哨戒艦 20隻
空母9隻を要する。
基本的にはソ連との対立がある日本海とオホーツク海方面の戦力が厚い。
現時点で最も脅威として捉えているのはソ連であり、当然と言える戦力配置と言えよう。
大戦終結以降、ソ連はドイツに勝ち切ることが出来ず、史実と違って獲得出来た領土も随分と少ない。
それでも膨大な人口と有り余る天然資源で軍拡を急速に進めつつある。ここ最近ではソ連・太平洋艦隊も着実に増強されつつあり、各地に海軍基地が建設され大規模な上陸作戦を想定しているのであろう、多数の揚陸艦なども偵察衛星からの情報で確認されている。
カムチャッカ半島にも潜水艦基地が建設されており、どうやら原子力潜水艦の基地として建設が進められているらしい。
史実でも同じようなことがあったので角度の高い情報であるだろう。
次に資源地帯と日本を結ぶシーレーン防衛や警備なども担う艦隊の戦力が最も大きい。
これには理由があり、担当地域が広大であることが挙げられる。
各艦隊は本土沿岸のシーレーン防衛を担うが、第六艦隊だけは南方方面全域のシーレーン及び領土の防衛を担う為戦力が大きく配備されている。
戦時中における護衛艦隊の立場をそのまま引き継いだのが第六艦隊だ。
逆にアメリカとの対立が無くなって、互いに融和姿勢を取っている太平洋方面の戦力は少なくなっている。
主力艦艇一四九隻が配備状態にある。
これ以外にも哨戒艇、掃海挺や敷設挺などの補助艦艇、輸送船や輸送艦を含めると二〇五隻になる。
固定翼対潜哨戒機 一三〇機
固定翼電子戦機 二十三機
回転翼哨戒機 二二〇機(艦艇配備一三〇機 地上配備九〇機)
掃海・輸送回転翼機 二〇機
これらの他に哨戒艦隊、掃海艦隊が存在する。
それぞれ哨戒任務と掃海任務を担っており、航空兵力も若干有する。
以上のようになっている。
戦時中に建造された輸送船は民間に売却され、日本の海運業を大きく支える存在となっている。
輸送艦などは戦車の大型化などに伴って順次退役と解体、新型のものに置き換えられていく。
軍事費の割り当ては対ソ戦略を念頭に置かなければならないため、陸軍と空軍が多く、海軍はかなり少ないほうである。
余談ではあるが、対潜初期に鹵獲した英軍戦艦2隻は装備を元に戻した状態で徹底した整備と清掃の上で英国に対して返還されており、大きな貢献をしたとして勲章も授与されている。
それ以外の鹵獲艦艇も各国に対して返還されており、中にはそのまま日本が引き取った艦艇もあるが、少数だ。
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空軍は海軍基地航空隊、陸軍航空隊を統合独立させたものだ。
戦闘機 1200機
攻撃機 340機
爆撃機 219機
早期警戒管制機 44機
早期警戒機 26機
電子戦機 21機
捜索救難機 41機
空中給油機 63機
特殊部隊作戦機 31機
輸送機 75機
回転翼機 322機
練習機 40機
戦闘機などは国産開発したジェット機である。
日本は終戦までにドイツからジェット戦闘機の技術を手に入れていたこともあり、アメリカとの講和の翌年、1946年10月に初飛行に成功していた。
以上のように各軍はなっている。
1946年に講和条約を結んでから実に60年が経った。
今は21世紀に入って6年も経っており、時代の流れを大きく感じるものだ。
山本さんや米内さん達はもうこの世には居なく、当時を知る者は段々と少なくなってきている。
それまでの間、世界大戦と呼ばれるものこそ無かったが、地域レベルでの紛争は度々起きていたりしている。
日本もソ連と度々武力衝突が起きることもあったが、ここ10年は平穏だ。
史実と違ってソ連は1999年になって崩壊することになったわけだが、ロシアとなった今でも脅威度の高い国であることには間違いない。
海軍は海賊対策でインド洋やアフリカ沖に派遣されたりしているし、陸軍と空軍も同様に小規模ながら派遣されている。
それ以外は特に問題らしい問題も起きず、緩やかな経済成長と共に国も豊かになっていっている。
私も今年で106歳になる。死に損ないだがこれでもまだまだ身体は元気なようだ。
「お爺ちゃん、取材の人来たよ」
「そうか、通しなさい」
戦後、1947年に結婚する気も無かったのだが弟達の薦めもあって見合い結婚ということで当時28歳の女性と結婚することになってしまった。
嫌では無かったが、年の差がかなり開いていると言うのもあって乗り気では無かったのだがこれが気立てのよい美人さんだった。
妻も今年で79歳になるわけだが、年の割には元気な方である。
お陰で子宝にも恵まれ4男3女、7人の息子と娘という大家族になった。
子供達もそれぞれ独立して孫が生まれ、今となってはひ孫までいるんだから驚きだ。
会社の方は結局、継ぐのを弟に譲り私自身は76歳まで軍人一筋だった。
退役して暫く経つが、年金や持っている株の配当金などで裕福な暮らしをさせて貰っている。
海軍も随分と変わった。
今ではイージス艦と空母、潜水艦が主力として配備されており、1980年代まで改装を重ねながら配備されていた戦艦と巡洋艦は記念艦、予備艦となった。
戦後の度重なる改装の名残で、対空ミサイルや対艦ミサイル、レーダー、CIWSが多数載せられていたりもするわけである。
それぞれが造船された場所で記念艦や予備艦として係留されており、年に数度行われる航海は国内外問わず大人気イベントとなっている。
他の国の戦艦は英国のプリンス・オブ・ウェールズとレパルスを除いて殆ど解体されてしまっているから当然とも言えよう。
2隻が解体されずに残った理由は、日英両軍で戦い抜いた数奇な戦艦として保存運動が行われたからだ。
一応2隻とも英海軍に未だに籍は置いてあるものの、大戦終結以降実戦参加には至っていない。
今年行われる国際観艦式では、鎮魂の意味も込めて、講和条約締結60周年記念ということで日本とイギリスからそれぞれ戦艦を派遣して参加させることが決まっており、既に話題となっている。
私も来賓として乗艦してくれないか、とすることが決まっており、普段通りの服装か、スーツか、それとも海軍制服で行くべきか悩んでいるところだ。
まぁ、無難に制服で来てくれと言われそうだが、こんな爺には似合わんだろうて。
国際観艦式も無事に終わった。
自分の足で歩くことが出来るというのはいいものだ。
意外と格好良く居れたのではないかな、と思う。
久しぶりに袖を通した制服は、こんなに重かったかな、と思った。
階級章は元帥のままだったので、現役兵の人達に一々敬礼されるのが大変だった。
敬礼されたら当然、答礼をしなければならないわけだがこの年齢になると幾ら元気だ、元気だと言っても堪えるものがある。
「おじいちゃん、どうだった?」
「……そうだな。良かったよ。久々に大和達に乗ることも出来た」
「そっか」
「もし声を聞くことが出来るなら、何と言っているのか聞いてみたいもんだ」
彼女達は綺麗に手入れされており、建造されたばかリの頃を思い出すような姿だった。
あの時ばかリの手入れでは、あぁはならないだろうから、日頃から大切に扱われているのだろう。
どこか嬉しく感じた私は、思わず手を這わせてしまった。
ふぅ、と一息吐いて思いを馳せてしまう。
色々とあったが、まだまだ死ぬ気は無い。
老人の些細な願いとして、出来うるだけ長く生きて、子供達の歩みを見守っていきたいものだ。