「こんにちわ。ゆっくり霊夢だぜ」
「こんにちわ。ゆっくり霊夢だよ」
「前回の陸戦隊の解説に続いて、今回は陸戦隊の戦史について解説していく。ただし今回はハワイ作戦は省くぜ」
「それはどうして?」
「尺の都合だ」
「メタいわね」
「だから今回はインパール作戦について解説しようと思う」
「お願いするわ」
「早速解説に移るぜ」
「陸戦隊は、陸海軍の不仲を象徴していると言われがちだが、それはちょっと違う」
「確かに陸海軍は仲が悪かったが、かと言って戦略や戦術レベルに影響するほどではない。寧ろ海軍から装備が提供されたり陸軍から武器弾薬の融通をしたりと普通に協力しているし、開戦初期には本土防空の為の陸海軍合同で設立された防空総司令部を設置している」
「なら陸戦隊はどうして編成されたの?」
「陸海軍は開戦前から島嶼線での戦いをどう進めていくか、と言うのが共通の問題だった。この時期には日米関係は悪化の一途を辿ってもはや開戦間近と言われていたぐらいだ」
「防衛に関しては島内に強固な地下陣地を構築し、持久戦闘を展開、敵兵力を叩きつつ空海兵力を用いて敵洋上兵力撃滅を狙う、としていたが問題は攻める時だ」
「日本陸海軍が対米戦で想定しているのは太平洋に島々の奪い合いだ。となると必然的に海を隔てているわけだから上陸戦は必須になる」
「だが上陸戦ってのは陸海空が緊密に連携しなければならないが、ただでさえ同じ組織内でも緊密にに連携をするのは難しいのに、別組織となんて頭が痛くなるレベルで難しいんだ。ましてや今ほど通信技術や観測技術が発達していたわけじゃないからな」
「確かに日本軍の通信機器は米軍よりも一歩遅れていたしね」
「だから海軍はその辺の面倒なやり取りを省く為に陸戦隊を設立、編成したんだよ。陸軍と仲が悪いから陸戦隊を作ったってのは嘘だよ。少なくとも山田大将は戦後にそう語っているからな」
「さて、次は陸戦隊の戦いを見ていこう」
「陸戦隊が本格的に戦線投入され始めたのはハワイ作戦ってのは有名な話だ」
「陸戦隊はハワイ作戦が実施されるよりも前に、大陸の方で陸軍支援の為に砲兵や工兵、輜重大隊が出向いていたぐらいで明確な実戦経験は無く、それまで主力たる歩兵大隊は日本本土や南方、北方各地で訓練に明け暮れていたんだぜ」
「そしてハワイ作戦以降、陸戦隊は内地で訓練に明け暮れつつ平穏な日々を送っていたんだが、そんな状況が一転したのは1944年から1945年に掛けてだ」
「そのころになると米軍の反攻も日に日に激しさを増し続けていたんだぜ。連合艦隊と軍令部や陸軍との意見の衝突があったりしたが組織だった撤退が、可能なうちに連合艦隊の独断でソロモン諸島の事実上の放棄が行われ、トラックやマーシャルなんかも一応日本軍が保持していたが米軍の攻撃で泊地、基地機能は完全喪失状態だ」
「南方資源地帯と、日本本土を結ぶ航路の二つは以前守られていたが戦況逼迫は明白で、次に米軍が来襲する場所は以下のように定められたぜ」
「第一にマリアナ諸島とパラオ、第二に硫黄島、第三にフィリピン、最後に沖縄の四箇所とされた。そしてこれら諸島に兵力配備と資材を運び込んでの防衛強化は必須となっていたぜ」
この設定に従って海軍は陸軍と協議を重ね、フィリピン防衛は陸軍に一任し、それ以外のマリアナ、パラオ、硫黄島、沖縄の4箇所については海軍からも兵力と資材捻出を行うことにしたぜ」
「それぞれマリアナ諸島に対しては松輸送作戦、パラオには楓輸送作戦、硫黄島には杉輸送作戦、沖縄には檜輸送作戦と命名された大規模な増援輸送作戦が決行され、成功を収めている」
「マリアナ諸島には各陸軍部隊の他に、海軍から二個陸戦隊と零式局地戦闘機と烈風、九九式双発汎用機の三機種約430機が主兵力として送り込まれ、この兵力は後々にマリアナ諸島沖での海戦で艦隊と共に戦っている。大量の陣地構築用の鉄筋コンクリート、車両用の燃料もかなりの量が運び込まれており、食料水、弾薬医薬品、嗜好品なども大量に運び込まれて長期持久戦に備えているぜ」
「火砲の数は2個陸戦隊が360門と纏まった数を保有していて尚且つ観測機材や砲弾薬も大量に有していた事から防衛戦における主力となっている。これ以外にも対空戦車や対空トラックを保有していたぜ」
「硫黄島に対しては陸軍2個師団と4個旅団の約四万三三〇〇名と、海軍から二個陸戦隊約七五〇〇名、合計五万千名が抽出されたぜ。硫黄島防衛の主兵力は陸海軍共通して砲迫部隊を大規模に送り込んでいたぜ。マリアナ諸島の砲兵部隊の主力が海軍陸戦隊だったことを考えれば対照的だな」
「硫黄島には山田中将と親しかった栗林中将が小笠原兵団長として前々から赴任しており、海軍陸戦隊指揮官には市丸少将がいたぜ。前々からの防衛方針として地下陣地の構築、及び長期持久戦を掲げていた事から既に地下坑道や陣地の構築は進められていたが、これを機に大量の資機材が運び込まれたことで一気に進んでいる。運び込まれた資機材の中には空調設備や脱硫装置なども多数含まれていて硫黄島と言う過酷な環境下でも戦えるように配慮されているのが分かる」
「航空兵力は局地戦闘機を主兵力として200機が置かれていたぜ」
「沖縄には陸軍第32軍が主兵力として置かれていた。これに加えて大規模な増援計画で最終的に地上兵力だけで陸軍十四万四二〇〇名、二個海軍陸戦隊七五〇〇名が配備されたぜ。これには多数の砲兵が含まれていて、やはり陸戦隊の火砲数は二個陸戦隊360門だから主力になっている」
「地上兵力以外にも陸軍の戦闘機130機、海軍の戦闘機約170機、偵察機40機、九九式双発汎用機約200機の約550機もの航空兵力が配備されていたぜ」
「とは言ってもこれらは結局マリアナ沖での決戦に大勝利を収めて講話となったから幸いなことに実現には至っていない」
「じゃぁ、実際に戦いが行われたビルマの話をしよう」
「海軍のビルマ戦線との関わりは、シーレーンの維持と物資輸送ぐらいだったんだが、これが変わったのは1944年のことだ」
「まずそもそも、海軍はアメリカ軍との最終決戦場としてマリアナを選んだぜ。この決戦計画に基づいて海軍は艦隊戦で敗北した場合に備えてマリアナ諸島の防備を固めていたんだ。これには陸軍も全面的に強力していたぜ」
「他にもフィリピンや硫黄島、沖縄の防衛強化を図っていたのよね」
「そうだ。いずれにしろ艦隊戦で負けた場合、艦隊を再建するまでの時間稼ぎをどこかしらで行う必要があったんだが、マリアナはそれに備えての一つの最重要地点だったわけだ。まぁ海軍は何が何でもこの決戦で勝つためにマリアナ諸島には艦隊戦援護の為の基地航空隊を多数配備していたし、主力艦隊後方には隼鷹を始めとする軽空母で構成された支援艦隊が存在し、燃料弾薬食料だけでなく、本土や硫黄島からも含めて消耗した艦載機や搭乗員の補充を戦闘中に受けられるように整えていたぜ」
「それでも艦隊戦で負けるって可能性はあるにはあった。なんせこのマリアナ沖海戦の時、米海軍は主力空母の数をある程度揃えつつ、不足している分はその工業力に物を言わせて建造した護衛空母を数十隻も揃えて来ていたんだ。実際日米の艦載機数を比較するとアメリカの方が多い」
「なるほどね。数で負けている以上、艦隊戦で負ける可能性があれと考えた山田中将は万が一に備えていたってことね」
「その通りだ。彼は次善、そのまた次善の策までを考えてこそ戦いに勝てるという考えだったんだ。この考えは普通なんだが、特に開戦前の日本陸海軍では欠如した思考だったんだぜ。まぁ国力的にそれが厳しいってのもあるんだがそれでも不味いことには変わりない。その辺の意識改革をやってのけたのが山田中将の凄い所だ」
「海軍はマリアナの防備をより強固にするために日本本土で待機中だった二個陸戦隊をマリアナに送り込む計画を立てたぜ。この陸戦隊の輸送作戦は松八号作戦と作戦名まで命名されて、陸戦隊を運ぶ為の輸送船団も既に準備されていたんだ。しかしここで思わぬ事態が発生したぜ」
「思わぬ事態?」
「陸軍から本土の陸戦隊を貸して欲しいっていう要請が入ったんだ」
「陸軍はなんで海軍にそんな要請をしたの?」
「色々とあるんだが、大きな理由はビルマ方面軍の補給能力だ。当時陸軍は大陸打通作戦をやろうとしていたんだがビルマ方面軍には、陽動のために何かしらの作戦をやれ、と命令が来ていたんだ」
「そこでビルマ方面軍はこの命令の為にインパール作戦を行うことにしたんだ。だがここで大きな問題が一つ。ビルマ方面軍に限った話でも無いんだが、必要とされた補給量を満たす為に必要な輸送能力が欠如していたんだ。なんせ陸軍は基本的な輸送手段は馬や牛と言った輓馬に大きく依存していたし、ビルマの高温多湿な気候じゃ馬はすぐに駄目になってしまう。それも合わさって輸送能力は壊滅的だったんだぜ」
「なるほど、その輸送能力の欠如をどうにかして補う為に完全機械化された海軍陸戦隊を貸してくれって要請を出したのね」
「その通りだ」
「インパールは多くの川に囲まれた小高い地形をしている。やや北側にあるコヒマと合わせて英領アッサムへの重要な入り口の一つだな」
「アッサムは直接インドに進出することが出来る平坦な地形が広がっている。インパール、コヒマ、ディマプールの三箇所は事実上の英領インドに進出する正面玄関になるような地形だぜ」
「山脈、川、ジャングルが連なっている場所だ」
「イギリス軍から見たインパール、コヒマ、ディマプールはシンガポール失陥以降、インドまで防衛線を下げていたイギリス軍にとっては最後の砦となっていたぜ」
「とは言ってもイギリス軍は日本軍にはインドに進出する余力は無いと判断して、かなり余裕を持って後退していただけなんだがな」
「実際ビルマ全域を制圧してはいたが、日本にはそれ以上進むだけの余力は無かったんだ。そもそもインパール自体を奪取する必要性が薄い上に、インパールにはスリム中将率いる強力なイギリス第14軍が展開していたからな」
「だが、そんな状況が丸ごと一変する事態が起きたぜ」
「丸ごと一変するだなんて、かなりの大事じゃない。何があったの?」
「インパール付近に新たな援蒋ルートが発見されたんだ。これによってインパールの戦略的な価値は一気に跳ね上がる事になったぜ」
「この援蒋ルートを通って毎月六万トンもの物資が中国に送られていたんだ。インドシナルートは日本軍が遮断していたから、このインパールルートは中国にとって大動脈だったんだぜ」
「ビルマで進軍を停止していた日本軍がいきなり手のひら返したのはそれが理由だったのね」
「そこで参謀本部は昭和17年8月、インパール進出を目的とした作戦を立案したぜ。これは二十一号作戦と呼ばれるものだ」
「しかしながらこの計画はインパールに至るまでのルートが余りにも厳しいものである事、兵站能力の限界、地上兵力がマレー作戦での損失を補充し切っていない実情があったことから保留にされたんだぜ」
「事実、インパール攻勢の主力に抜擢された第18師団師団長、後々にインパール作戦の司令官となる牟田口は特に猛反対したぜ」
「しかし昭和18年になると時代が変わったぜ。英軍ウィンゲート中将率いるチンディット部隊、いわゆるゲリラ部隊によってビルマ方面軍は大いに苦しめられていたんだ」
「この部隊は徒歩で展開し、総兵力3000に満たないが破壊活動に従事している。最終的には感染症や風土病で半数を失う結果になったが、南方軍に大損害を与えている」
「チンディット部隊は補給を空輸に頼っていて、尚且つ少数だった事からすぐに撤退してしまうんだが、日本軍はチンディット部隊の侵入路を逆算してインパールまでの進軍ルートを突き止めたぜ」
「インパールへの進軍路が無いって言う一つの問題が解決したわけね」
「更には今までインド防衛に徹していたイギリス軍がビルマ奪還を計画している、という情報がもたらされる。当時の日本軍の防衛線はシビュー山を中心に引いたものだったが、防御縦深が足りないと考えた牟田口は、防御縦陣を確保するために前線の前進を考え始めたぜ」
「まぁ、この考えは自然なものよね」
「あぁ。実際さっきのチンディット部隊はチンドウィン河を渡河してシビュー山を迂回して展開していたぜ。だから旧来の防衛線だと迂回されて素通りされる可能性があったんだ」
「イギリス軍はビルマに対しての圧力を強めていて、昭和17年末には第一次アキャブ作戦と呼ばれる反攻作戦を実施していた。この作戦自体は日本軍による側面迂回と機動防御によって失敗したんだが、イギリス軍が本格的な反攻作戦を計画しているのは明らかだったぜ」
「この辺りからインパールに進出してはどうか、と言う意見が増え始める」
「でもイギリス軍の攻勢って言っても本当に正しかったの?欺瞞情報とかじゃなくて?」
「正しかったぜ。陸軍だけでなく海軍もその情報を掴んでいて、ビルマ方面軍を早急に増強する必要があったってことで本土から3個師団が送り込まれる計画が既に立案されていた。総兵力は7万名もの増援だ」
「イギリス軍の攻勢計画は大規模なもので、ビルマ奪還の為にゲリラコマンド6個旅団を浸透させた上でアンダマンに強襲上陸を仕掛け、フーコン方面攻勢、雲南方面からの中国軍支援攻撃を行い、最終的にはアラカン方面から大攻勢を仕掛けると言うものだ。当時のビルマ方面軍にはそれだけのイギリス軍の攻撃を弾き返せるだけの戦力は無かったぜ」
「とまぁ、これらの理由に加えてさっきも言った通り、大陸打通作戦の実施に当たって陽動としてビルマ方面軍も何かしらの作戦をやれ、と大本営から命令が来たんだ」
「そこで保留になっていたインパール進出が使えるのではないか、と議題になる。確かに立案当時ではデメリットが大きかったが、戦局が変わっていって十分に有用な作戦として再浮上していたんだ。以下がインパールに進出した際のメリットだ」
・防衛線の進出が可能
・在インド英軍に対して圧力を与える
・大陸打通作戦の陽動に使える
「まぁ、確かにこれだけ見れば一石三鳥に見えるけど、そもそも陸軍の補給が厳しいって事自体は変わっていなかったでしょ?海を隔てた諸島部の方が補給が遥かにマシ、なんてレベルで大陸方面の補給事情は厳しかったわけだしさ」
「その通りだ。だからこの時点で牟田口はインパール作戦を躊躇していたんだ。兵站維持における難易度は相変わらず困難なままだし、なにより牟田口は東條派の軍人だったから些細なミスで出世に響くかもしれない、と恐れていて作戦をやる踏ん切りがついていなかったんだぜ」
「なるほどね」
「そこで取り合えず、中国南部の大理に攻撃を仕掛ける大理作戦で済ませて、行けそうならインパールも、ということで陽動作戦が実施される。見て貰えば分かるが、この時点でかなり紆余曲折があるんだな」
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「昭和19年二月になると、より好条件が舞い込んできた。同時期に行われたハ号作戦が成功したんだ。英軍呼称「第二次アキャブ作戦」というもので、ビルマ西部から勢力圏を少しずつ伸ばしていた英軍を日本軍が迎撃した戦いだ。この作戦における日本軍の目的は英軍の東進阻止を目的としていたぜ」
「しかし日本軍は進出して来た第七インド師団を包囲するに至るも、イギリス軍は強固な防御陣地と空中補給、航空支援で頑強に抵抗し最終的に日本軍は敗北して交代する」
「日本軍が負けたのに作戦が成功って、どういうこと?」
「この作戦の本当の目的はイギリス第14軍を陽動することだったんだ。第七インド師団は勝利したは良いものの、損耗が激しくて同師団の救援を行う為に第14軍から主力が引き抜かれてしまったんだぜ」
「なるほどね。ってことはインパールがガラ空きになってるってことね」
「その通り。陽動としてハ号作戦は完璧に成功していたんだぜ。英第14軍はアラカン方面に誘引されてしまって、インパールまでの道のりはがら空き状態になってたんだぜ」
「この時点で牟田口は英印軍を見事に出し抜いていて、英軍司令官スリム中将を手玉に取ったんだ」
「こうなると、兵站維持が難しくても目標地点のインパールまではほぼ無人地帯、手持ちの食糧で無理矢理踏破して浸透してしまえば抵抗らしい抵抗を受けずにインパールを奪取出来る。敵が貧弱且つ少数なら輸送が難しい重砲や弾薬は最小限でも問題はないしな」
「これはコヒマとディマプールの無力化も同時に意味していた。イギリス軍への牽制、防衛線拡張、大陸打通作戦の陽動、さらには航空基地があったアッサムへの進出と正に一石四鳥だ。理屈の上じゃ完璧な作戦だ」
「ビルマ方面軍はこのチャンス到来にインパール進出派一色になったぜ」
「そりゃこれだけの千載一遇のチャンスが来たらそうなるのも無理無いね」
「だが前線指揮官たちは幾ら無人の野を行くだけだ、と言われても部下の命を預かる手前、兵站に不安があるのならば、と反対していたんだ」
「日本陸軍は組織内での権力差が大きくて、叩き上げだと上に出世できないようになっている軍隊だったんだ。実際、陸大出身のエリートは「学も無いくせに」と見下して、前線指揮官は「戦場も知らんくせに」と互いが互いに見下し合って嫌い合っていたんだぜ」
「この軋轢は用兵上かなりの悪影響を及ぼしているのは戦史を見れば明らかだ」
「だが、英軍もインパールが無防備状態であるってことは当然理解していたし、兵力を捻出してインパールの穴を塞ごうと必死になっていたんだ」
「なるほど」
「インパールが陣地として再稼働してしまえばイギリス軍に比べて特に重装備が貧弱な日本軍ではどうやったって制圧は不可能になる。それに雨季のタイミングもあった。自然の驚異は国だとか主義だとかそう言うのは一切関係無く互いに襲い掛かるからな」
「そこで牟田口は反対していた師団長を罷免して人事を掌握したぜ。これには成功した時に都合の良い味方で傍を固めたかった、って言う事以外にもタイムリミットがあって反対する人間を説得するよりもこっちの方が早く済むからじゃないか、と考えているぜ」
「インパール作戦に参加予定だったのは3個師団が予定されていた」
「まず地形の話をしなければならないんだが、インパールに至るまでの全てが険しい山岳地帯かというと、そういうわけではない」
「踏破の厳しい山脈が存在するのは主に北部にある。これ以外は整備された街道があったりする」
「そんな北部を前進する役目は第31師団に任された。この師団は兵員1万6千名、駄馬3千、駄牛5千、重砲無し、重機関銃と連隊砲、速射砲は半分、食料三週間分という内情だ。可能な限り軽量化したわけだ。第31師団は最も北に位置するタマンティとホマリンを攻勢発起点にしており、最短だが最も厳しい進軍路を進む役目を負っていたぜ」
「次にバウンビンを攻勢発起点とする第15師団。兵員1万6千、重砲無し、重機関銃、連隊砲、速射砲は半分、山砲10門追加。そして食料は一か月分だ」
「この師団の任務はインパールを背後から攻撃し、コヒマを攻撃する第33師団を援護するというものだ。進軍路上には幾らか整備された道や集落があったから、31師団に比べればそれなりに楽な道だったと言える」
「しかしながら距離があったので、機械式牽引能力に劣る陸軍は到着時間を調整する為に重装備を減らしているぜ」
「次は攻勢主力の第33師団だ。高い砲兵火力と機械化充足率を誇る精鋭で、当時としてはビルマ方面軍どころか日本軍全体で見ても最も恵まれた師団の一つになる」
「兵員1万7千、重砲、銃器、連隊砲、速射砲、輸送用自動化車(トラック)だけでなく戦車連隊も持っていて、食料は一か月分。他二つの師団と比べても明らかに装備が優良だ」
「インパールと言えば山道だとかジャングルだとか、幅広い河川だとかのイメージが強いが、南部のモーレイクやフォートホワイトに掛けてはよく整備された自動車道路が通っていたんだぜ。つまるところ時間を掛ければ安全かつ十分な兵站を維持しながらインパールまでの補給が可能だったんだ」
「しかしさっきも説明したが、時間が掛かるのは日本軍にとっては致命傷になる。だからこそ危険な山や河を無理矢理踏破してコヒマとインパールに展開し、南部から道路を通って北上する33師団が到着するまでの時間を稼ぐ、という方法を取ったんだ」
「合流後は33師団から重火器を受け取って英軍を撃破しディマプールまでを制圧すると言うのがインパール作戦の最終目標だったわけだ」
「しかしここで問題が一つあった。貧弱な軽量化師団ではディマプールから英軍予備兵力が進出してきたらどうやって耐えればいいのか、というものだ」
「確かに英軍がインパールに増援を派遣して33師団が到着するまでに他の師団がやられてしまう可能性は十分にあるわね。しかも重火器を碌に持たない軽量化師団だし」
「これの答えは牟田口がこの時期に作戦決行を強硬した理由になる。というのもこの時期は雨季が到来する頃なんだ」
「雨季の到来でジャングルが泥濘と化せばディマプールからコヒマへ移動する英軍はどうしても進軍速度が遅くなる。その間に機動力で勝る機械化された33師団が31師団と合流する。そうすれば英軍の増援が来る前に合流してインパールを制圧することが出来ると考えたんだ」
「牟田口が『雨季は皇軍の味方である』、と言ったのにはこういう理由があったんだぜ」
「なるほどね。でも自然に足止めを任せるって言うのもどうかとは思うけれどね。自分達だって影響を受けるだろうし。って言うかよく語られるけど、トラックが皆無だったってウソじゃない。少なくとも33師団は沢山保有していたらしいじゃない」
「そもそも、牟田口は作戦決行に於いて、やはり補給が困難というのは無視をすることが出来るものじゃないと判断していた。そこで牟田口は大本営に自動車中隊150個、輜重中隊20個、さらに工兵隊、野戦病院などを含めた増援を要求したものの、結局大陸打通作戦が主作戦だからそっちに殆ど回されて最終的に増援として送られて来たのは僅か自動車中隊18個中隊程度で、軍馬や医療品を合計しても要求の二割ほどしか届けられていなかったんだぜ」
「じゃぁ、ビルマ方面軍そのものが物資欠乏に悩んでいたってこと?」
「いいや、海上輸送航路はしっかり守られていて、ビルマ方面軍にはしっかりと備蓄もされてあったぜ。少なくともビルマの中だけであれば補給が行き届くレベルでは陸戦隊の工兵隊が派遣されて兵站線も整備されていた。だがビルマよりももっと先に進軍しようとなると話が変わってくる、ってことだ」
「大本営も要求に答える為にどうにかしようとしていたが、やはり主作戦である大陸打通作戦の方に兵力を割くことが優先されたんだ。そこでどうにかして要請に答える為に目を付けたのが海軍陸戦隊だったってわけだ」
「なるほどね、漸くここに話が繋がって来るってわけか」
「その通り。陸軍は海軍に本土で待機状態の陸戦隊を貸してほしい、と要請したんだ。勿論海軍はマリアナ諸島への配備計画があったから相当渋っていたんだ。それどころか一度は断っている。だが兵站を疎かにして将兵を死なせてはならない、と前年に天皇が言っていたから、その言葉を借りてきて海軍に頭まで下げたんだ」
「あの陸軍が頭まで下げたの?」
「ちょっと信じられないよな」
「でもそれで海軍は陸戦隊のビルマ方面への派遣を決定し、代わりに本土の陸軍一個旅団をマリアナ諸島の防備に送ると言う交換条件を飲ませた。斯くして海軍陸戦隊はビルマに送られることとなり、マリアナには約束通り一個旅団が配備されたぜ」
ーーーーーーーーー
「ビルマに送られたときの二個陸戦隊の陣容は既に配備状態にあった陸戦隊と比べても幾らか増強されている」
「それは何故なの?」
「というのも、対戦車戦闘能力が余りにも少なかったからなんだ。一応対戦車戦闘も出来る機動九〇式野砲が配備されていたとは言え、牽引式野砲であったから機動力もそこまであるわけでも無く、あくまでもこれは野砲でその延長線上で対戦車戦闘が限定的ながら出来る、と言う程度のものだ。だから陸戦隊は早急な対戦車戦闘能力を獲得する必要があったんだ」
「確かに機甲戦力が殆ど存在しなかった中国戦線でなら元々の編制でも有用だったけど、まともな数の機甲戦力を運用してくる英軍相手には厳しいかもね。特にチャーチル歩兵戦車とか出てきたら厳しいものがあるわよね」
「あぁ。だからそれを解決する為に戦車を新たに編成に組み込む必要があるとしたんだ」
「確かに陸戦隊は砲兵と歩兵は強いけど、対戦車能力が高いっていうのは中々聞かないわね」
「あぁ。一応ドイツからの技術供与でパンツァーファウストが生産されてはいたんだが、生産分の殆どをマリアナ諸島、小笠原諸島、フィリピン、パラオに配備していたから、ビルマ方面に配備されていたパンツァーファウストは数が少ない上に使い捨てだ。貧乏性の日本軍は使い捨てってのは中々良しとすることが出来ない。個人携行用無反動砲も開発されてはいたが、こっちはそもそも開発自体があんまり上手く行っていない。そこで陸戦隊は機動対戦車能力を獲得する為に戦車の配備に踏み切ったんだぜ」
「なんでそれまで配備していなかったの?」
「単純に重装備化し過ぎるのと、そこまでの予算を陸戦隊に振り分ける必要は無かろう、と判断したからだ。基本的に陸戦隊は上陸戦以外は陸軍と一緒に作戦行動を共にすることが想定されていたし、なにより陸戦隊の主眼は上陸作戦で、仮に本格的な陸戦をやるとしても島嶼戦における持久戦闘だ。だから戦車は必要無いとされていたし、対戦車戦闘は機動九〇式野砲で十分に事足りると判断されてこれが請け負うことになっていたんだぜ。実際に陸戦隊の機動九〇式野砲には専用の徹甲弾が幾らか配備されている」
「でも必要になったと」
「その通り。防衛に関して言えば確かに従来の編制でも問題無かったんだが、これが攻勢に出なければならないってなった時は話がまるで違ったんだ。一々進軍して、野砲を展開して戦って、また牽引して進軍して展開して戦って、なんてことを一々やっていたら兵士への負担も大きいし、何より即応が困難だ。だから戦車を配備する必要があったんだぜ」
「この問題が顕在化したのは陸軍からの要請と、実戦経験を積む為に中国戦線に陸戦隊が派遣されたときだ。その時はまだ中国軍の機甲兵力が貧弱だったからどうにかなったが、ドイツからもたらされていたアメリカ軍やイギリス軍の戦車の情報を考えても、どう考えても対抗し得ない、とされたぜ」
「なるほどね。で、陸戦隊は実際のところ具体的にはどれぐらいの機甲兵力が配備されたの?」
「三式中戦車*1が二〇両ほどだ。この三式中戦車は確かに米軍のM4シャーマンや英軍の巡航戦車相手なら十分な対戦車能力を有する性能があった。この時既に後継戦車である四式中戦車*2が量産開始されていたんだが、如何せん量産が開始されたばかりで完成していたのは僅か50両と到底陸戦隊に配備されるだけの分が無かったし、そもそも四式中戦車は陸軍向けで生産された50両は丸ごと一つの部隊として編制されて訓練を終えてすぐに大陸戦線に送られていたぜ」
「だから選択肢としては三式中戦車しか無かったってのが実のところだ。まぁこれでも十分に能力はあるし態々四式中戦車に拘る理由も無かったしな」
「この三式中戦車だけでは無く、陸戦隊には新開発の多連装噴進砲を装備したトラックを10両ほど新しく配備されている。これは砲兵隊が運用し、瞬間的な火力投射において絶大な威力を発揮したぜ」
「随分と増強されたわね」
「他にも、戦車の車体に40mm対空機関砲や25mm単装機銃をくっ付けた対空戦車なんかも新しく編成された対空大隊に配備されていた」
「この40mm対空機関砲はボフォース社製のものをライセンス生産したもので、艦艇から対空戦車に至るまで陸海軍で幅広く使われている」
ーーーーーーーーーー
以下陸戦隊編成図
陸戦隊編成概要(横向き閲覧推奨)
司令部 砲兵司令部
↓ ↓
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↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
歩兵大隊 砲兵隊 対空大隊 戦車中隊 工兵中隊 衛生中隊 輜重大隊 通信隊 葬儀小隊
↓ ↓ ↓ ↓
歩兵大隊 観測隊 架橋小隊 輸送中隊
↓ ↓ ↓ ↓
歩兵大隊 重砲隊 道路小隊 整備中隊
↓ ↓ ↓
歩兵大隊 軽砲隊 戦闘工兵小隊
↓
噴進砲大隊
ーーーーーーーーーー
「でも二個陸戦隊で四〇両の三式中戦車は中々心強いわよね」
「そうだな。インパール作戦当時、ビルマ方面軍に配備されていたのは九七式中戦車と一式中戦車が一五〇両ほどごちゃまぜに、そこに三〇両程度の二式中戦車*3があったぐらいで、ある程度纏まった数が存在したが中身は旧式戦車が主力の、はっきり言ってしまえば残念な戦力でしかなかったぜ。対歩兵戦闘ならばまだしも、対戦車戦闘、特に衝突すると予想される英軍のチャーチル歩兵戦車や、側面を脅かしてくる可能性のある米式化された中国軍のM4シャーマンなんかとかち合ったらかなり厳しい戦いになるな」
「そうなるとやっぱり陸戦隊の持ってた戦車は貴重なものね。それはそうとやっぱり自前で用意したの?」
「あぁ。製造の為の資材は海軍が自前で用意して、八個陸戦隊一六〇両分と補充用の四〇両を合わせて二〇〇両を海軍が保有していてそれ以外は全部陸軍が持っていたぜ。海軍も陸軍が資材提供を行うなら陸軍の分を海軍でも製造する、ってことで陸軍が保有していた三式中戦車八〇〇両ほどの内、実に五三〇両が海軍製造によるものだ」
「海軍もかなりの艦艇数を建造していたのに、そこまで製造する能力があったのね」
「まぁ、これには諸説あるんだが、一番大きな要因は計画されていた大型艦艇の建造が粗方終わっていて軽巡から海防艦、潜水艦ぐらいまでの戦闘艦艇と、掃海艇なんかの補助艦艇建造が専らだったってのが大きな原因ではないかと言われている。勿論輸送船の建造なんかは続けられていたが、主力戦闘艦艇である正規空母や戦艦に比べれば建造期間は一ヶ月と圧倒的に短いしその分海軍の製造部門は修理や整備用の部品の製造を除けば暇だったらしい」
「一応損傷艦艇の修理もあるんでしょ?」
「あるにはあったが海戦から殆ど損傷艦艇を出していないからな。一番大きな損傷を負ったのは座礁して大破した重巡洋艦最上ぐらいだし。航空隊は戦う度に損耗を負ってはいたが搭乗員は脱出して飛行艇か潜水艦、或いは救助に来た艦艇に救助されて実際に失っているのは機体だけだ。修理で一番数が多かったのは潜水艦だが、これもそこまで修理期間が必要なわけじゃないし、当時の海軍は損傷艦の修理の為に下手に船台を占拠するぐらいなら解体して新しい艦を作ってしまえ、みたいなところがあったから小破とか中破ぐらいならさっさっと修理して戦線復帰、大破したら解体して新しく建造して配備するってのがやり方だったからな。結局そこまで損傷艦修理もあったわけじゃない」
「点検整備はあったが、建造に比べれば時間も必要としない」
「だから海軍はわりかし余裕があったんだ。だから戦車やトラック、走行車両なんかの製造も行えたんだ」
「ここで面白い話があるんだが、陸軍製造戦車と海軍製造戦車だと、海軍製の方が性能が良かったらしい」
「それはまたなんで?」
「これも詳細な理由は判明していないんだが、海軍が製造した戦車の装甲板や主砲は陸軍のものよりも高品質だったらしい。実際同じ厚さの装甲にも関わらず海軍製の方は陸軍製では防げなかった砲撃も弾いたり、主砲の命中精度も抜群に良かったとかで陸軍戦車兵は海軍製戦車に誰もが乗りたがったって口を揃えて言ってるんだぜ」
「まぁ海軍って世界最大の艦載砲と、馬鹿みたいに分厚い装甲を装備した戦艦を作ったような連中だしね。戦車の装甲板とか主砲の製造なんて訳ないってところかしら」
「それもあると思うが、それ以外にもニッケルやモリブデン、クロムなんかの希少金属をたっぷり使えたからってもあるだろうな。元々海軍は戦艦の装甲と主砲製造用に希少金属や鉄鋼を大量に備蓄していたんだが、戦艦同士の殴り合い、砲撃戦は結局のところマリアナ沖での最後の決戦以外行われていないし、マレー沖での英海軍との戦闘も結局長門、陸奥が数発づつ撃って向こうが撃ち返してくる前に降伏している。だから本格的な砲撃戦で損害を受けていなかった海軍には本来戦艦の損傷修理用に使われる筈だった資材が山ほど余っていたんだ。駆逐艦や海防艦用の資材は別にあるし、かといって建造計画があるから下手に建造数を増やすと生産ラインが混乱してしまう」
「だからその資材を戦車製造に流用したんじゃないか、って言われているんだぜ。実際陸軍製と海軍製の装甲板の材質を調べたところ、海軍のは陸軍のに比べて希少金属の含有量が多く、しかも数は少ないが戦艦で用いられる特殊装甲で作られていた戦車もあったぐらいだ」
「えぇ……」
「だから海軍製の戦車は高性能だったんだろうな」
「まぁ戦艦の装甲を使って製造された戦車は生産性が良くないのと、普通の戦車を作る何台分もの値段と資材が掛かるってんで二十三両が作られただけだ。この戦艦用装甲で作られた戦車は海軍陸戦隊で運用され、一〇両程度がインパール作戦に参加したそうだ。インパール方面での戦闘後、というより戦争終結後には全車が日本へ帰還している。で、この戦艦用装甲を使って作られた戦車は一〇両ほどが海軍資料館の方で今でも稼働状態で保管されているぜ。定期的に公開されてその度に動かして年に一回は実射もしているから機会があれば見に行ってみて欲しい。抽選で乗車体験とかも出来る。動態保存されてる数がほんの数両で、しかも全部ヨーロッパにあって見に生き辛いティーガーとかに比べれば簡単に見ることが出来るからな」
「因みに海軍の方で予備保管されていた分の三式中戦車はアジア各地の独立戦争の際に日本から渡っている。少なくとも現在記録が確認出来ているものだと、インドネシアに三〇両、ベトナムに三〇両、ミャンマーに四〇両、インドに一〇〇両、そして独立って訳では無いがタイ陸軍に一〇〇両の合計して三〇〇両が売られたようだ。歩兵装備が精々の中で、これら戦車を含む重装備は現地反乱軍にとっては貴重なものだったようで独立後も三〇年ぐらいは現役で運用された後、生き残った車両は日本に返還されるか、現地の博物館や資料館で丁寧に保存されている」
「特に状態が良いのはタイにある車両で、20両が存在しているが全車が丁寧にレストアされた状態で動態保存されている。態々日本から部品なんかを取り寄せてまでやっているらしく、製造元の山田重工業に年に幾らかのパーツ生産の注文が入っているそうだ。なんにせよこれだけの厚遇を受けているんだから旧式兵器としては破格の待遇と言っていいな」
「戦闘機とかも国内外問わずに結構良い状態で保存されたりしているわよね」
「まぁ歴史的な資料としての価値が一定数あるからな」
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「話を戻そう。戦車中隊を新しく編成に加えた陸戦隊がビルマに送り込まれたんだが、実は海軍がビルマ方面に送り込んだ兵力はこれだけじゃなかったぜ」
「どういうこと?」
「海軍は陸路だけの補給路だと、さっき説明したみたいに、
・『英軍ゲリラコマンドによって破壊活動の影響を受ける可能性がある』
・『陸軍の補給能力が低い事も考えて陸戦隊単体だけだと補給を維持し続けるのは困難』
と判断したんだ。陸軍側から受け取っていた情報の中には
・『日英両軍共に航空戦力拮抗、制空権確保成らず』
という情報もあった」
「そこで零式局地戦闘機と烈風を一個航空隊48機づつ、九九式双発汎用機を20機、零式重爆の輸送機仕様を32機、早期警戒管制機の役割を持っていた機上電探装備の零式重爆4機を送り込んだんだ。これら兵力は合計152機もの航空兵力になる。空路の補給なら少なくともゲリコマの妨害は受けないし、機上電探で警戒しておけば空戦でも奇襲を受けることは早々無いからな」
「零式四発輸送機は最大積載量四トンを誇る。三十二機もあれば一日128トン、まぁ少なくとも海軍が試算していた陸戦隊が一日に必要とする約一〇五トン分の食糧と水ぐらいは余裕で運ぶことが出来るな。ビルマの飛行場との距離の関係を考えれば、搭乗員の負担を考慮しても一日二回は運ぶことが出来る計算だ。となると一日辺り256トン分の物資を運ぶことが出来る。陸路での補給を入れて考えても陸戦隊どころか陸軍の各師団に物資を十分とは行かずともある程度は供給出来る量を運べる」
「随分と大盤振る舞いね。というかよくそれだけの兵力を捻出することに同意したわね」
「まぁ送られたのは全部本土防空用の部隊だからな。最前線の部隊って訳じゃないし本土防空部隊にしても兵力は少なくなるが穴が空くようなレベルの引き抜きでは無かったってこともあって割とすんなり許可を貰えたらしい」
「これでどうにかこうにかして補給能力は確保出来た。あとは実施するだけなんだがその前に当時のイギリス軍の状況も説明しておこう」
「当時のイギリス軍は『三月危機』と呼ばれる悲惨な状況に陥っていたぜ」
「第14軍主力がアラカン方面に誘引されてしまったのは先程説明した通りだが、インパール方面に残っていた予備兵力は第17軽師団、第23師団の二個師団だけで、しかも日本軍の攻撃目標が掴めていなかったこともあってこの二つの師団を下手に動かせなかったんだ。装備自体も優良だったかというとそんなことは無く、かなり貧弱だったんだ。日本陸軍第33師団と戦闘になれば壊滅必至、と言われるぐらい悲惨だったんだぜ」
「よくインパール作戦時の日本軍は厳しい状況だった、と言われるがイギリス軍も厳しい状況だったんだ」
「資料によれば英軍は日本軍が何かしらの攻勢を行うというのは掴んでいたらしいんだが、その攻勢目標がどこなのか?って言うのが全く掴めていなかったんだ。それこそインパールが攻勢目標って意見から、インドのどこかに強襲上陸を仕掛けてそのままインド全域の制圧を目標としているとも言われていたし、もっとぶっ飛んだものだとスエズ運河に強襲揚陸を仕掛けて独伊との直接連絡線を構築、確保しようとしているなんてものもあったぐらいだ」
「それだけ混乱していたってことね」
「だからイギリスは日本軍の動きを掴めていなかったんだな」
「こうした互いの状況下でインパール作戦は実施されたわけだ」
「日本軍の進撃速度は速く、特に南部で同じ構成発起点から出撃した日本陸軍第33師団と陸戦隊の進軍速度は完全機械化されていたこともあって英軍の想定よりも遥か上を行き、英第17軽師団は配置をどこにするべきかと右往左往とやっている内に先行して進んでいた陸戦隊とぶつかって圧倒的な火力と航空支援の下で戦う陸戦隊相手に真正面からかち合うことになって、半壊して潰走してしまったぜ」
「しかも第17軽師団は撤退にもまごついてしまい、その間に後ろに回り込んだ33師団と正面から迫り来る陸戦隊にインパール南方のテディム近郊で包囲されてあっさり壊滅させられてしまったぜ。記録によると四日間の戦闘で陸戦隊は一門辺り200発、33師団は一門辺り130発もの砲弾を英第17軽師団に向けて撃ち込みまくったという。しかも日本軍は英第17軽師団用の、使う者の居なくなった備蓄物資を丸ごと二か月分、無傷で手に入れたから順調な滑り出しだと言えるな」
「装備の貧弱な軽師団と練度抜群で重装備も多数装備している一個師団と実質旅団規模の部隊とかち合ったらそりゃそうなるわよ」
「英軍指揮官スリム中将はインパール平原に引き込んでの決戦を採択したんだが、インパールに兵力を集中させる前に日本軍に突破されてしまい計画は破綻してしまう。最後の予備兵力だった英第23師団はと言うと、北上する陸戦隊と33師団の足止めに使われたんだが航空支援を受ける33師団にあっさりとひき潰されて蹴散らされて突破されてしまったぜ。しかもその間、本来なら山岳側から迂回していた日本陸軍第31、第15師団と対峙する筈だった師団が消えたことで二つの日本軍師団は全く抵抗を受けずにあっさりとコヒマ近郊まで到達し、13日目になると陸戦隊と33師団はインパールへの攻勢準備砲撃を始め、一日遅れて日本軍31師団はコヒマに突入、占領してしまうぜ」
「この時、英軍も必死になって増援を送り込もうとしていたんだが、ここで海軍が航空機も増援として送り込んだことが効いてくる」
「インパール作戦実施前の三月に開かれた『南西方面連合軍緊急会議』で、第二次アキャブ作戦によってアラカン方面に誘引された兵力をコヒマに緊急空輸することが決定されていたんだ。しかしイギリス軍航空兵力は日本陸軍第五飛行師団の攻撃で輸送機を殆ど喪失していて航空輸送能力は皆無に等しかったんだぜ。そこで英軍はアメリカ軍をディマプールが陥落すれば最後の援蒋ルートも遮断される、って英軍指揮官マウントバッテン元帥はアメリカを脅して30機の輸送機を譲って貰う、もとい強奪したんだな」
「んな無茶苦茶な……。もとはと言えば英軍の責任でしょうに。ディマプールが陥落してもアメリカ軍に責任は無いでしょ」
「まぁ当時のアメリカ軍にはそうも言ってられない状況だったってのもあっただろうな。太平洋じゃ日本海軍相手にボロ負け続きで、これで大陸でも負けたとなったらいよいよ米国内は戦争どころじゃなくなる。下手すれば連合国から離反して枢軸側に寝返るかもしれん、なんて国まで出て来る可能性だってあったわけだ。そうなれば大統領選を控えていたルーズベルトは夢の四選目を果たせなくなってしまう。それを考えたら大陸だけでもどうにかして負けてはならないと言う必要があったんだぜ。結局マリアナ沖で大敗北を喫して日本相手にアメリカは講和を結ぶことになるんだがな」
「とまぁ、何はともあれカツアゲした輸送機で輸送能力を整えられたは良かったんだが英軍にとって予期せぬ事態が起きる」
「それが海軍航空隊の進出ってわけね」
「その通り。本来なら戦闘機戦力が拮抗していた日本陸軍航空隊とだけ対峙しておけばよかったところに、海軍は陸戦隊よりも先に取り合えず航空隊だけ先に送っておこうということで送られて来た総数150機を超える航空兵力をも相手にしなければならなくなったんだ。戦闘機の数だけでも倍以上の差が開いていたから、航空撃滅戦を仕掛けられて英軍航空部隊はあっさりと壊滅させられて撤退してしまうのぜ」
「海軍航空隊が送られる前は英航空部隊と第五飛行師団の戦力は拮抗状態にあったのはさっきも言った通りなんだが、恐らくあのまま拮抗状態であれば英軍は輸送機で部隊をコヒマに送り込むことが出来たと思われる。輸送能力を考えても最低一個師団ぐらいは送り込めたはずだ」
「ところが海軍の増援が来たことで戦力比は戦闘機だけで1:2以上まで開くことになり、しかも増援の中には九九式双発汎用機まであった。この九九式汎用機は対爆撃機迎撃戦闘から対地攻撃、対艦攻撃、対爆撃機迎撃、限定的ながら対戦闘機戦闘までやれる機体だったから、戦闘機に守られた九九式双発機が英軍飛行場を襲撃したり、輸送機を撃墜したりしてまわっていたんだ。制空権は完全に奪取出来ていたからな」
「お陰でアメリカからぶん捕った輸送機は、第2イギリス師団、ロイヤルウエストケント連隊、アッサムライフル連隊といった有力な兵力を空輸中に全部叩き落されて載せていた兵員諸共空中に散っている。そのお陰でコヒマには結局英軍の展開は出来ず、英軍主力はアキャブ方面に結局取り残され、増援を送り込むことも出来ず、日本軍第31師団は無人のコヒマを奪取したんだ」
「イギリス軍ももうちょっと余力があれば全然逆転していた可能性があったのね」
「あぁ。だが英軍の不幸はまだまだ続くぜ。コヒマを奪取した事で飛行場が使えるようになった日本軍はそこに航空兵力を前進させ、インパール守備隊や撤退途上の英軍に襲い掛かったんだ。しかも同時期には日本軍はインパールを完全包囲下に置き、陸路と空路で補給を受けつつ連日砲撃、爆撃、砲撃、爆撃が続いたぜ」
「インパール飛行場、パレル飛行場は日本軍重砲の猛砲撃に晒されて僅か一日ほどで崩壊。第221軍指揮官コッタード少佐は両足と左腕を失って野戦病院にいるところを捕虜になっているぜ」
「半月ほど経つと、奪取した3つの飛行場を工兵隊が修理して、進出してきた日本陸海軍航空隊が本格的に稼働し始め、アメリカから追加でカツアゲした30機の輸送機もインパール市内への補給任務をマトモに果たせないまま2週間ほどで消耗しきった。2週間で送り込めたのは僅か20トンほどの物資だけだ。さらに悪い事に、前線近くの飛行場を奪ったことで日本軍は九九式汎用機を完全武装で攻撃に出すことが出来るようになると、英軍陣地や撤退をする英軍の頭上に飛来して爆弾やロケット弾、機銃掃射を仕掛けてきたんだぜ。制空権を失っていた英軍はこの一連の航空攻撃で増援の為に待機させていた二個師団が半壊させられているぜ」
「インパール包囲から三週間後、守備隊は降伏してインパールが陥落したぜ」
「これによって日本軍はアッサム全域を勢力圏に捉えることになった。日本軍にそれ以上進出する能力が無かったとは言え、事実上日本軍にインドを明確に、そして直接脅かされていたんだ。流石に英軍も黙っているわけにも行かず、アッサム地方に英第4軍と逃げ延びた第14軍の生き残りを再編して送り込んでいる。とは言っても第14軍の戦力は精々1個師団と2個旅団ってところでしかなく、実際の戦闘能力は低い。雨季と言うのもあって結局日英両軍の睨み合いは乾季の到来まで続くことになるぜ」
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「インパール作戦は日本軍の勝利として終わったぜ。しかしインパールでの戦いはこれからが本番で、まだまだ終わらなかったぜ」
「1944年10月に英軍はようやく作戦行動に移るぜ」
「英軍はなんで10月まで行動しなかったの?」
「単純な話で、だいたい6月~9月までは雨季だからだ。兵力を大きく消耗していた第14軍と増援として送られた第4軍ではこの時期に無理に奪還を図っても確実に負けると考えたんだ。泥濘と化した地は兵站維持や進軍を大きく妨げるし、それだけで兵員に消耗を与える。だから乾季になる10月まで待ったんだ」
「なるほどね。それまでの間は両軍共に戦力回復や備蓄に努めたってことね」
「その通り。雨季中の攻勢を断念した日英両軍はその間に戦力の回復と増援部隊の派遣、物資の備蓄に努めていた。乾季となった10月頃、乾季の到来を待ち侘びていた英軍はインパール、コヒマ、ディマプールの奪還を目的に進軍を開始するぜ」
「雨季の間に大規模に増援を受けた英軍は、第4軍と完全に再建された第14軍が展開し、戦車、火砲、航空機も揃っていた。その兵力は40万に達していたぜ」
「対する日本軍は第15師団、第31師団、第33師団、陸戦隊の4つが主戦力となり、損耗を補充されてはいたものの、大規模な増援は送られておらず増援部隊を入れても精々8万5千名程度しか存在しなかったぜ。とは言え日本軍側は人員こそ少なかったものの補給線の構築を大規模に進めていて、インド洋の制海権を未だ握っていたことで海路で運ばれた物資はヤンゴン、ネピドー、マンダレー、インパールを繋ぐ補給線を結んで補給状況を安定させてかなりの物資を備蓄していた」
「両軍の状況はこんな感じで、英軍は奪還の為に進軍を開始すると、インパール、コヒマ、ディマプールで防御を固めていた日本軍がそれを迎え撃つという形で戦闘状態になるぜ」
「これは第一次インパール会戦と呼ばれるものだが、第四次インパール会戦までの四回に渡って戦闘は繰り返されることになる」
「陸戦隊はインパールで防備を固めており、空路と陸路で大量に運ばれた建築資材と工兵隊、そして手隙の歩兵や砲兵も手伝って構築された防御陣地は複郭重防御陣地となっていたぜ」
「それにしてもよくこっちに回すだけの資材があったわね。この時期日本はマリアナでの決戦に備えていたでしょ?」
「そうなんだが、マリアナの防備はもう既に固め切っていて余裕があったんだな。これ以上こっちに資材を回しても意味が無いと判断し、ビルマ方面に資材を回すことになったんだ。実際問題、マリアナに配備されている以上の兵力を配備すると言うのならまだしも、少なくとも陸戦隊の代わりに送られた陸軍部隊しか追加で配備されなかったからそれ以上に拡大させる必要は無かったんだ」
「それに沖縄や小笠原の防備も前々から進めていた事もあってこれ以上は不要ってことでビルマ方面やフィリピンに資材を回していたんだぜ」
「それにインパールやディマプール奪還の為に英軍が動くのは確定事項だったし、こっちの防備を固めるのは急務だったってこともあったからな」
「四重に張り巡らされたトーチカ、塹壕、対戦車陣地が置かれ、第一防御線の外側には対戦車障害物を誘導するような形で設置し、その周辺には対戦車地雷が大量に埋設されていたぜ。対人地雷の数はマリアナ決戦に向けてそっちに回されてしまったから数は少なかったぜ」
「防御陣地と相対する敵は、必ず何処からかの射線が通るように機関銃トーチカは配置され、対戦車砲としての役割を担っていた機動九〇式野砲も敵戦車がどこに正面を向けていても必ず側面から砲撃を加えられるように配置されて、十字砲火を食らわせることが出来るようにされていたぜ」
「歩兵隊の直接支援は各中隊一〇門づつ配備されていた120mm迫撃砲が担当していて、陸軍に対する支援も行っている」
「これらの防御陣地は陸戦隊工兵隊の手によって全て連結され、連携が取れるようになっている。突破を許した場合に備えて後退を容易に行えるように塹壕やトンネルも整備してあった。殆ど要塞のような状態にしてあったんだぜ」
「より後方のインパール市内には砲兵隊が陣地を置いて展開済み、射撃陣地は隠蔽された状態で偽装もしっかり施されてある。この射撃陣地は多数用意され陣地転換を行えるようにしてある。これらの射撃陣地からの射撃諸元は事前に算定されていて表に詳細に記されてあるから数値を入力して撃てばいいだけの状態を作り上げていた」
「飛行場には航空隊が展開していて、特に第一次インパール会戦時には英軍は進軍中に猛爆撃を食らうことになったぜ」
「英軍約四〇万、日本軍約一〇万が対峙することになるんだが、ビルマ方面軍はこの時中国軍からも攻撃を受けていてインパール方面に増援を送るだけの余力が無かった。だからインパール方面に展開していた陸戦隊と陸軍は増援無しで戦い続けなければならなくなった。この中国軍の攻撃は英軍と共同したもので日本軍の援軍がインパールに送られることを防ぐ為のものだ。それと寸断された援蒋ルートを解放する為と言う目的もあった。そのため、中国軍は米式化された精鋭部隊を投入していてビルマ方面軍は航空支援があったとはいえ苦しい戦いを強いられることになる」
「疑問なんだけど英軍はなんで日本軍の飛行場を潰さなかったの?そうすれば少なくとも制空権は確保出来るし、なにより進軍中に襲われる心配は無い筈でしょ?」
「しなかったんじゃない、出来なかったんだ」
「どういうこと?」
「英軍だって馬鹿じゃない、航空撃滅戦を仕掛けて日本軍航空兵力を叩こうとしたんだ。だけどこの時期、欧州戦線、特に米英軍が担当していた西部戦線で大きな動きがあったんだ。この時欧州、東部戦線西部戦線共に拮抗状態が続いていて両軍共に決定打を撃ち出せずにいたんだ。しかもこの頃になるとドイツ軍はV2ロケットを実用化して本格的に運用を開始してイギリス本土に対して、このV2ロケットを用いて爆撃を開始していたんだ。だから本来ビルマ方面に送られる筈だった戦闘機は防空の為に引き抜かれて英本土防空に従事せざるを得ず、しかも予定されていたノルマンディー上陸作戦は米海軍が碌な戦力を有していなくて延期、未だフランス本土に橋頭保どころか上陸すら出来ていないのが現状だったんだ」
「だからビルマ方面に送られたイギリス軍航空隊は日本軍よりも少ない。対する日本軍はレーダーなんかの電子戦装備を豊富とは言えないが必要な数は揃えていたし、小さいながらも対空哨戒基地をインパールよりも150km先に幾つも設置して防御縦深を確保することで事前に迎撃態勢を整えることが出来るようにしていたのも要因だ」
「英軍は航空撃滅戦を仕掛けるどころか、逆に仕掛けられて一時的に飛行場が使えなくてエアカバーが無い時すらあったぐらいだ。まぁ後々に改善されるんだが、それまで英航空隊は苦しい戦いを強いられることになる」
「インパール会戦が開かれるよりも約一か月前、1944年九月十日に英軍は幾つかの空挺部隊とコマンド部隊を主力として投入し、ディマプールへの攻撃を開始する。これにより日本軍はディマプールを放棄し、ディマプール防衛を行っていた日本軍第31師団はコヒマに撤退し第15師団と共にコヒマ防衛に就くぜ」
「これによりコヒマは合計4万ほどの兵力が展開することになる」
「インパールには二個陸戦隊と第33師団合わせて3万5千名が防衛に就き、航空兵力は海軍航空隊約150機が展開していた。これとは別に輸送機が20機追加されて、元々あった輸送機と合わせて52機体制で物資輸送に従事していたから、それを加えると約170機の航空機だ」
「更に陸軍から疾風装備の飛行第59戦隊がインパールに増援として派遣され、インパールには約200機の航空兵力が展開する事になる。
「コヒマには撤退してきた第31師団、元々防衛に就いていた第15師団の二個師団合計3万3千名、陸軍三個飛行戦隊が展開しており40機ほどの疾風と60機ほどの隼、20機ほどの九九式双発汎用機、そして輸送機20機の合計約140機の航空兵力があったぜ」
「さらに陸軍からは疾風装備の飛行第13戦隊と、零式重爆装備の飛行第62戦隊が増援として派遣されている」
「これら守備隊は輸送機による補給を受けつつ、防衛体制の強化を進めたぜ」
「この頃になると後方地域に英軍コマンド部隊が浸透して陸路での補給を妨害し始めていた。この被害は結構大きく、2週間程度でトラック50台を失って輸送力は陸戦隊だけでも4分の3にまで低下していたぜ」
「そこで空路での補給に切り替えていたぜ。基本的には陣地設営の為の建設資材が3割、7割は武器弾薬砲弾、食料水医薬品の大規模な輸送に切り替えられたぜ。この時、日本軍は陸軍が輸送機30機を出してコヒマへの補給を行い、海軍の輸送機はインパールへの補給を行うと言うように役割を分担しつつ、航空隊は相互支援が出来るようにしていたぜ」
「英軍による補給線攻撃は、結局1カ月ほどで打ち切られてそれ以降日本軍は陸路での補給を再開している。これに対して日本軍も陸戦隊の戦闘工兵小隊が敵地後方に浸透して破壊活動に従事している」
「1944年10月4日、英軍は日本軍航空隊の攻撃を受けながらもインパール近郊に展開、第一次インパール会戦の火蓋が切って落とされた」
「午前7時15分、英軍は2個戦車連隊と1個師団が航空支援を受けつつ前進を開始。とは言っても日本軍は地上部隊の増援を受けることが出来なかったってだけで航空隊は増強されていて、それぞれ連携を取っていたぜ。航空隊の増強を受けていた日本軍のエアカバーと近接航空支援は激しく、インパールを直接攻撃範囲に捉えるまでに英軍はかなりの損害を負っている。結局インパールに攻撃を仕掛けたものの、分厚い防御陣地と戦車による機動防御によって弾かれて大損害を出しただけの失敗に終わる」
ーーーーーーーーー
「第二次インパール会戦は陣地設営を終えた英軍による本格的な攻勢が行われたが、日本軍はこの攻勢も跳ね返している。しかしながら英軍25ポンド砲が飛行場を一時的に射程圏内に捉えた為に航空隊はタマンティ、ホマリンに下がることになる。この砲撃で三機の烈風が損傷を負って放棄され、その際に取り外された12艇の20mm機銃が防御陣地に転用されているぜ。補給に関しては飛行場に離着陸してそのまま行われたぜ」
「英軍は一時的に25ポンド砲の射程にインパールを捉えたものの、射程がより長い15.5cm榴弾砲や12cm榴弾砲からの集中砲撃を受け、しかも歩兵部隊が爆撃で打撃を被ったことから後退せざるを得ず、結局この第二次インパール会戦も英軍の敗北に終わったぜ」
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「第三次インパール会戦は11月3日から始まったぜ」
「まずは航空隊の空戦と対地攻撃戦が展開された。この時英軍は重爆120機をインパール飛行場の爆撃に差し向け、コヒマの飛行場にも同様に重爆100機ほどを差し向けて飛行場の破壊を試みた。だが零式局戦と九九式双発汎用機の迎撃を受けてインパールへの爆撃は失敗に終わり、コヒマ、ディマプールへの爆撃も効果はイマイチに終わっている」
「これら航空戦の最中に、英軍は日本軍機による対地攻撃が無いと言う好機を逃さずにインパール近郊に一気に接近して陣地を設営し、2度の攻撃を仕掛けるも撃退され、その後に第4次インパール会戦に至るまで日英両軍による激しい砲撃戦が開始されるぜ」
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「最も激しい戦いだったのは、第四次インパール会戦だ」
「この戦いは12月19日から始まったが、航空戦の様相は今までのものとは違っていたぜ。今まで通り、戦闘機と重爆による敵編隊を電探で捉えた日本軍はすぐに戦闘機と汎用機を全て迎撃に向かわせた。しかしながら英軍機は今までのものとは違ったぜ」
「実は英軍航空隊は欧州戦線に配備予定だった航空隊をビルマでの作戦の為だけに引き抜いて、新型のグリフォンエンジン搭載型スピットファイアを配備していたんだ。日本軍は苦戦とは行かなかったがそれでも互いの航空戦闘力は、今までは日本側が有利で推移していたものがここにきて拮抗状態になってしまったぜ。そうなると本来近接航空支援が行われる筈だった地上戦は、地上部隊同士での殴り合いになる」
「結果、互いに砲兵戦でひたすら殴り合いを続けると言う事態になった」
「20日間繰り広げられた砲兵戦は、互いに10万発を超える砲弾射撃数を数え、日本軍は1時間あたりの砲撃数は700〜800発、英軍も1時間あたりの射撃数は750発にも及んだぜ」
「どちらも凄い数の砲弾を運び込んだのね」
「あぁ。英軍は元より、日本軍も全ての余力をこのインパールに注いでいたからな。陸海軍の輸送機や輜重隊は毎日のように空路と陸路で300トンを超える砲弾を運び込んでいたんだ。だから可能だったんだよ」
「毎日300トンって、凄い量じゃない」
「だから日英両軍による激しい砲撃戦を互いに行い続けたんだ」
「約3週間に及ぶ砲撃戦は苛烈を極めた。特に最前線に配置されていた日本陸軍33師団歩兵第214連隊は最前線に配置されており、彼らが守る陣地は砲撃戦の的になっていたんだ。結果、12日目に陣地維持は不可能と判断されて後退している」
「英軍も大打撃を被っており、アキャブ方面に誘引されていた英陸軍ロイヤルウエスト連隊、アッサムライフル連隊は配置転換によりインパール正面の最前線に配置されていたがこちらも日本軍の猛砲撃を受けて半壊している」
「日本軍よりイギリス軍の方が損害が大きいのは何故なの?」
「構築できた陣地の影響だ。日本軍が構築していた陣地はかなり強固に作られていたし、トーチカや機銃座と言った構築物は全て鉄筋コンクリートを用いていたし、待避壕なんかも鉄筋コンクリート製の物を地下に多数こしらえていた」
「しかしイギリス軍が構築出来た陣地は空襲や妨害、砲撃によって、日本軍のものに比べるとかなり劣っていたんだよ」
「だからなのね」
「英軍は壊滅した2つの連隊の代わりに、こちらもアキャブからの配置転換でインパール奪還作戦に従事していた第2イギリス師団を前面に配置したぜ。しかしながらこちらも大打撃を被って後退したぜ」
「イギリス軍はインパールより9km地点に砲兵陣地を設営したぜ。ここはインパール全周に展開していた日本軍陣地より8km手前の地点だった」
「ただ、インパール会戦全てを通して言えることだが、イギリス軍砲兵は日本軍砲兵に対して常に苦戦、或いは劣勢の中で戦わざるを得なかったんだ」
「それは何故?」
「英軍砲兵部隊が装備していたのはQF25ポンド砲。口径は87.6mmで射程が12kmちょっと。対する日本軍砲兵、まぁ陸戦隊の榴弾砲なんだがこっちは口径15.5cmや12cmだ。艦載砲をそのまま流用している」
「日本軍の榴弾砲の射程は15.5cmで最大射程2万7千mを超えるし、12cm砲でも最大射程1万5千mだ」
「だからイギリス軍砲兵部隊は日本軍砲兵部隊にアウトレンジで叩かれまくったんだよ」
「だからイギリス軍は序盤から終盤まで日本軍砲兵に対して苦戦を強いられたのね」
「そうだ。砲兵の戦いはそれ以外の戦いにも大きく影響するが、インパール会戦の場合は特に顕著だった。英軍が第1次から第3次まで日本軍にボコボコにされた要因の一つに砲兵戦で負けていたと言うのが理由として挙げられる」
「他にも航空戦で劣勢だったとか理由はあるがな」
「だから英軍はその状況を打開する為に航空隊も送り込んだし、更には砲兵戦力の大幅な増強を図った」
「しかし日本軍も兵力増強こそ叶わなかったものの、補給体制はしっかり整えていたぜ。陣地構築に必要な資材や、銃砲弾、水食糧医薬品は毎日100t単位で陸路、空路から運び込まれていたからな」
「砲弾の消費量は凄まじかったでしょうね」
「砲兵隊の記録によれば、第4次インパール会戦の際、陸戦隊の15.5cm榴弾砲は1門あたり1日200発、12cm榴弾砲は1日230発。機動九〇式野砲は1門1日あたり150発を超えるほどの射撃を行っている」
「機動九〇式野砲の射撃数が控え目になっている理由は陸軍にも砲弾を融通していたからだ。この砲に関しては陸軍のものと同じで弾薬を共用することが出来るから陸軍にかなりの数を渡しているんだ。それが無ければ陸戦隊の機動九〇式野砲の射撃数は1日辺り300発を超えていてもおかしくは無かった筈だ」
「最初の20日間の砲兵戦で合計40門の15.5cm榴弾砲は16万発もの砲弾を撃っているし、12cm榴弾砲は1門辺り11万発、機動九〇式野砲は24万発の射撃数を誇る」
「日本軍の砲兵戦とは思えないわね」
「この辺はやっぱり海軍の砲弾生産数が大きく関係している。海軍はこの頃殆ど大型艦艇の建造は終えていてかなり余力があったし、それにマリアナ諸島での決戦に備えて陸戦隊用の砲弾生産数を大きく増やしていたんだ。だからこれだけの砲弾をビルマ方面に送り込むことが出来たんだよ」
「工場の生産ラインを大幅に増やしていたし、これには陸軍もかなり協力している。なんせ陸軍は砲弾不足に悩まされていたからな。その中で配備数の少ない機動九〇式野砲1種類だけとは言っても砲弾不足問題が解決するのならば協力しない理由が無いし、リソースを他に割くことも出来るからな」
「砲弾の生産状況はどんな感じだったの?それに日本にこれだけの砲弾生産能力があったとは到底思えないわ」
「砲弾の種類にもよるが、最も多く数を必要とする機動九〇式野砲用の砲弾は1944年末期時点で月産5万発を超えている。効率化された生産ラインを多数設置して、4交代制の朝から晩まで常に生産ラインを稼働させ続けていたんだ。だからこれだけの数を用意出来ていたんだよ」
「海軍工廠は艦艇建造も殆ど終えていて余力がかなりあったからな。戦艦用の砲弾をこれだけの数を作るならまだしも、それよりも小さい砲弾だからな」
「因みに余談ではあるが、海軍はその艦載砲に用いた多くの技術を使って陸戦隊が装備する榴弾砲用に特殊な砲弾を幾つか製造している」
「一つ目が対空射撃用の三式弾を地上目標用に調整した三式榴弾だ。通常の榴弾と違う点は炸薬での爆発でダメージを与えるのではなく、対空用三式弾と同じで周囲を3000度の灼熱地獄に変えて辺り一帯を焼き払うという点だ。まぁサーモバリック爆弾みたいなもんだと思ってくれればいい」
「二つ目は二式強炸薬榴弾。これは砲弾内部に充填されていた炸薬量を2.5倍に増やしたものだ」
「これらの砲弾は生産量こそ少ないものの、かなりの活躍を残しているし、機動九〇式野砲用の砲弾は陸軍に供与されて大陸戦線やビルマ戦線で記録が多数残っているぜ」
「対する英軍もQF25ポンド砲の射撃数は1門辺り1日310発もの射撃数を数えており、第4次インパール会戦中に両軍は34日間で合計して約140万発もの砲弾を撃ち合っている」
「第4次インパール会戦は120日間に渡って激戦が繰り広げられる」
「砲兵戦の後に動いたのは英軍だ。英軍はチャーチル歩兵戦車、ファイアフライ、クロムウェル巡航戦車といった戦車を、先行する歩兵部隊の後ろに付けて支援させながら進んだ。戦車隊の後ろには更に歩兵部隊が続いていたぜ」
「英軍戦車部隊よりも前には規模としては3個連隊が展開して、北、北西、南西方向の3方向からそれぞれ進軍していたぜ」
「日本軍はこれを砲撃によって迎え撃ち、英軍は一時的に退却を余儀無くされた。しかしながら英軍は戦車を前面に押し出しながら日本軍陣地に接近を図ったぜ」
「日本軍の戦車部隊はどうしていたの?機動防御戦術とか取れそうだけど」
「陸軍の戦車は全てコヒマに展開しており、インパールに展開していた日本軍の戦車は陸戦隊の40両の戦車だけだったんだ。司令部は英軍が第4次インパール会戦に全力を叩き付けて来ると考えていて、こんな序盤で、言い換えれば防衛線の一つも突破されていない状況で虎の子の戦車部隊を投入するわけには行かなかったんだ」
「だから日本軍は別の方法で敵戦車の撃破を試みるぜ」
「別の方法?」
「機動九〇式野砲だよ。陸戦隊には合計して80門が配備されていたからな。しかもそれらは砲兵としての運用をしつつ、対戦車砲としての運用も出来るように配置されていたんだ。クロムウェル相手なら十分だったが、正面装甲が100mmを超えるチャーチルや傾斜装甲を持つファイアフライの相手は苦戦すると言うレベルだ。チャーチル歩兵戦車やファイアフライを撃破しようとするならば、少なくとも500mまで引き付ける必要があった」
「それ以外だと、もっと引き付けてパンツァーファウストで撃破するか、肉薄攻撃しかない」
「そこで日本軍は、それまで英軍部隊に対して砲撃を行っていた12cm榴弾砲を敵戦車に対して向けたんだ」
「え?でも榴弾砲の砲弾って貫徹力はかなり低いわよね?」
「何言ってるんだ霊夢?陸戦隊が使っていた榴弾砲は元々は艦載砲だぜ?徹甲弾が無いわけないだろ」
「えぇ……」
「数は多くないけどな。各門に5発づつが緊急用として配備されていたに過ぎないが、1000mを超える距離で敵戦車を簡単に仕留められるっていうのは大きな意味を持つ」
「ただまぁ、引き付けた方が命中率は高いし5発しかない貴重な徹甲弾を無駄には出来ないから500m以内にまで引き付けて射撃したようだけどな」
「陸戦隊はこの12cm榴弾砲で敵戦車を撃破しつつ、英軍の進軍を押し止めたぜ」
「しかしインパールの背後に英軍チンディット部隊が大きく迂回して浸透、攻撃を開始したことで日本軍の優勢は崩れてしまう」
「インパールを守る日本軍は4方向から攻められて、包囲されているような形ね」
「その通りだ。このチンディット部隊の後方浸透によってインパールへの補給線が寸断されてもいたからな。それでも日本軍の抵抗は激しく、空路での補給を続けると同時にビルマ方面軍からインパールに対してなけなしの1個師団が増援として送られインパール後方のチンディット部隊に対して解囲の為の総攻撃を実施するぜ」
「辛うじて解囲を達成したものの、増援1個師団はこの総攻撃で3000名近い損失を被ってしまう。この師団の戦力は2万2千名だったから、結構な痛手だ」
「後方に回り込んだ英軍を撃破して押し戻したのは良いが、次は正面からの英軍が第1防衛線を突破し、第2防衛線に迫っていたんだ」
「それだけ後方に回り込んできた英軍の出現は日本軍にとって想定外なうえに、対応を早急に行わなければならない状況だったんだ。実際33師団は正面の防御を陸戦隊に任せて後方に回り込んだチンディット部隊の対処に全力を注いでいる。兵力が手薄になったところを突かれてしまったんだ」
「第1防衛線を突破した英軍を押し戻す為に陸戦隊は、あらゆる火力を投射して第1防衛線を奪還して、英軍を押し戻すことに成功するぜ」
「大本営は増援を送らなかったの?」
「送りたくても送れなかったんだ。大陸打通作戦にマリアナ諸島での決戦準備。敗北した場合に備えてパラオ、フィリピン、小笠原、沖縄に兵力集中をして備えなければならない。そんな中でビルマ方面に増援を送れるほどの余力があると思うか?」
「無いわね」
「仮に派遣出来たとしても、日本本土の編制途上だったり、訓練もまだまだというレベルの師団ぐらいしか送れない。しかも輸送船の手配に兵員、物資、兵器の積み込みからインパールへの到着まではどれだけ甘く見積もっても20日以上、下手をすると一か月は掛かる。だからビルマ方面軍は現有戦力でどうにかするしか無かったんだよ」
「なけなしの1個師団の応援ももう送っちゃったしね」
「だから日本軍はせめて補給を送り込み続けるぐらいしか選択肢が無かったんだ」
「この第4次インパール会戦は120日間の間、日英両軍が一歩も引かずに消耗を続ける地獄の戦場と化す」
「英軍はインドから多くの援軍を送り込みつつ、インパール、コヒマに対して継続して攻撃を仕掛けていた」
「対する日本軍も兵員の補充はまばらなものの武器弾薬、食料水医薬品と言った物資は連日輸送機で凄まじい量を送り込み続けていた」
「ではこの時ビルマ方面軍はどういう状況だったかというと、先に説明した通り米式化支那軍が側面を突く動きをしたため、それを防ぐ為に全力を挙げていた」
「この時米式化支那軍は拉孟・騰越に殺到していて、ビルマ方面軍はここを守る為に全力を挙げていたんだ」
「なんで米式化支那軍は拉孟・騰越に殺到してきていたの?」
「援蒋ルートだ。拉孟・騰越を通るルートとしてビルマルート、レド公路の二つがあったんだがどっちも拉孟・騰越を通らなければならなかったんだ」
「それに加えてアメリカからの圧力もあった。この時アメリカは日本に負け続けていて、どうにかして太平洋に展開する日本軍戦力を減らしたいと考えていたんだ。そこで中国に対して戦争に何ら寄与していないとがフランクリン・ルーズベルトによる発言があったんだ。それに加えて中国軍は雲南方面での攻勢を実施すべきであり、中国軍への武器や航空機の貸与、空輸割り当てを大きく減らすという通告、そしてイギリスからの要請も相まって実施されたんだよ」
「結局この拉孟・騰越での戦いはどうなったの?」
「日本軍が勝ったんだ。なんせここを抜かれるとビルマ戦線は側面からの攻撃で完全に崩壊するから大本営も4個飛行戦隊を本土から抽出して送り込んでいる」
「拉孟・騰越で米式化支那軍を粉砕した日本軍だが、しかしながら勝ったとは言ってもビルマ方面軍の戦力は半分程度にまで低下していた。予備として残していた一個師団はインパールへの増援に送ってしまったし、もしここで再度支那軍の攻撃があったらビルマ戦線は崩壊して、インパールとコヒマも包囲された上で負けていただろうな」
「じゃぁ、どうするの?このままだと不味いでしょ」
「大本営は満ソ国境と日本本土にあった戦える数少ない師団を5つ、急遽ビルマ方面に派遣することを決定する」
「満ソ国境の方は、独ソ戦が長引きに長引いていた影響でソ連軍兵力が当初の数より大幅に低下していることが判明していたから引き抜かれた。この5個師団は海軍の保有する輸送船と輸送艦に載せられ、3個護衛艦隊が護衛に就きヤンゴンに陸揚げされた。そこからは陸路を鉄道とトラックで移動し、ビルマ方面軍に組み込まれたんだ」
「兵力は12万名に達するが、その内情は決して良いものでは無かった」
「日本本土からの第72師団、第93師団は装備は十分に配備されていたものの訓練途上で、練度に問題があった」
「満ソ国境から転用された第39師団、第79師団、第135師団の3個師団は装備は満足に支給されておらず、練度にも問題があるという状態だった」
「満ソ国境から転用された3個師団が有していた砲弾は各師団にそれぞれ1000~1200発づつ程度しか無く、それ以外の武器弾薬もかなり少なかった。全員に割り当てると小銃弾はそれぞれ30発づつ程度にしかならないぐらいしか持っていなかったんだ」
「そこでビルマ方面軍はビルマ方面軍の戦力で取り合えず戦線を維持しつつ、装備の充足している連隊には前線の少し後方で即応体制を取らせつつ訓練を行わせ、充足も何もない部隊には戦死や戦傷で後方へ送られる兵士から回収された装備を支給することで一旦補いつつ、足りない分は補充要請を出して待つことになった」
「ギリギリじゃない」
「実際送られた5個師団の内、装備を充足していたのは僅か4個連隊ほどだったというし、人員だけ送られてあとは何もないって感じだったんだ」
「ビルマ方面軍司令部はインパール、コヒマで敗退した際に備えて装備の無い兵士達には陣地構築作業を命令した。スコップやツルハシ、ノコギリなんかはビルマ方面軍は余裕があったらしい」
「陣地構築をしつつ、本土から装備を受け取って訓練させ、といったような感じでビルマ方面軍は何とか体制を立て直しつつあった」
「しかしながらインパール、コヒマでの戦いは一層激しさを増しつつあった」
「増援の5個師団を予備として中国軍に備え、拉孟・騰越の戦いで消耗した部隊を再編して2個師団規模を編成し、インパールとコヒマにそれぞれ1個師団づつを送り込んだビルマ方面軍だが、それでも兵力は足りなかった」
「なんせインパールとコヒマには合計して40万を超える英軍が押し寄せてきていたんだ。1個師団を送られたところで全然足りるわけが無い」
「それでも戦っている部隊からすれば増援ってのは有難かっただろう」
「結局この戦いはどうなったの?」
「最終的に120日続いた戦いは日本側の、辛勝に終わる」
「日本軍は航空優勢を取り戻したものの、インパール作戦に参加していた3個師団と2個陸戦隊は7割を超える戦死傷者を出すことになり、事実上壊滅することになった。それでも貴重な砲兵火力や優秀な装備を保有していた陸戦隊は残った兵力を集めて1個陸戦隊として再編してインパールでの防衛を引き続き担うことになる」
「後々に投入された3個師団も5割の戦力を喪失しており、まともな戦力足り得なかったぜ」
「対する英軍も大打撃を被っており、インパール奪還作戦中止以降はアッサム地方での防備を固めることに方針を転換している」
「とは言え日本軍も油断出来る状況じゃなかった。というのも英軍による後方地域への強襲上陸が無いとも言い切れず、中国軍による側面からの攻撃が再び行われないとも言い切れない」
「ビルマ方面軍は消耗した各師団を、残った兵力であの手この手で再編しつつ備えることになる」
「この時インド洋方面には英海軍の空母が少なくとも3隻確認されていたのもあって、ビルマ方面軍は神経を尖らせていたんだ」
「イギリスもアメリカ程では無いとは言っても十分強力な国力を持つ海軍国家だもんね」
「あぁ。それにドイツ軍に押されていたとは言っても、北アフリカの戦いでドイツに勝利しているし、地中海の戦いではイタリア軍相手に勝っていたしスエズ運河も問題無く保持していた。地中海の制海権はイギリスにあったんだ。だから戦力をスエズを通してインド洋に送り込むことも不可能じゃない」
「とは言ってもイギリスも、ドイツのUボートとの戦いで輸送船をかなり失っていたから、日本軍の後方地域へ強襲上陸を行うほどの船舶余力は無かったようだけどな」
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「今回の解説はここまでだ」
「「ご視聴、ありがとうございました」」
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