大洋を駆ける   作:ジャーマンポテトin納豆

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ゆっくり風解説記 IFマリアナ沖海戦

 

 

「こんにちわ、ゆっくり霊夢だよ」

 

「こんにちわ、ゆっくり魔理沙だぜ。今日はマリアナ沖海戦、マリアナ諸島における戦いに付いて解説していこうと思うぜ」

 

「よろしくお願いするわ」

 

「1945年初頭、米軍がマリアナ諸島に来襲したことで発生したマリアナ諸島の戦いは、主に三つの戦いに分けられる。第一に日本軍基地航空隊と米軍艦載機部隊との間で発生した空戦と地上戦、そして日本軍による増援部隊を送り込む戦い、そして最後に日米両軍による海戦だ」

 

 

 

「まずそもそも米軍がマリアナ諸島へ来襲した経緯や理由などを軽く説明していこう」

「そもそもこの時期、米軍、というよりアメリカ政府は大統領選を控えていたんだぜ。出馬するのはルーズベルトとトマス・E・デューイだったんだが、現職大統領として史上初の四選目を目論んでいたルーズベルトは窮地に立たされていたぜ」

 

「そりゃ開戦以来日本相手に負け続けているわけだし、しかも日本相手ならすぐに戦争は終わるって豪語した挙句、大量の戦死傷者や捕虜を出してんだからそりゃ大統領の資質を問われるわよね」

 

「あぁ。そこでルーズベルトは何とかして戦況をひっくり返して選挙に有利な状況を作り出そうと考えたぜ。そしてこれがマリアナ諸島への攻勢という結果に繋がる」

「選挙が間近に迫っていたルーズベルトは何とかして戦果を挙げる必要があったんだ。そこで目標とされたのがマリアナ諸島だ」

「当初マリアナ諸島以外に、ハワイ、フィリピン、パラオ、トラック諸島、マーシャル諸島なども候補として挙げられていたんだが、とある理由でマリアナに決定されたんだ」

 

「とある理由って?」

 

「米陸軍が実用化、採用して配備を進めていたB‐29の存在だ。この時期、米海軍は度重なる敗北で信頼を失っていたんだが、そこに米陸軍は付け込んでマリアナさえ落とせれば日本本土を直接爆撃して屈服させることが出来るってルーズベルトに進言したんだ。それにルーズベルトは支持率回復の最後の手段だって飛び付いたんだぜ」

 

「でもなんで飛び付いたの?」

 

「相次ぐ負けに焦ってたとか、色々理由はあるだろう。お金の話であれば、日本海軍に対抗出来る艦隊を再建するにはどう考えても莫大な予算と時間が必要になってくる。この時期米海軍はまだ大艦巨砲主義一直線で進んでいたし、モンタナ級を始めとした複数の戦艦の建造に躍起になっていたからな。空母の数も圧倒的の負けていてエセックス級で対抗しようとしたら数年単位の時間と金が必要になる。だがB‐29は確かに当時の貨幣価値や航空機などと見比べても高価な機体と断言出来るが、それでも艦艇を建造するよりも遥かに安上がりで済むし何よりも短期間に数を揃えやすいと踏んだんだ」

 

「なるほどね。そのためにマリアナを落とす必要があったって訳ね。でも搭乗員はどうするつもりだったの?」

 

「対独戦に投入する予定だった搭乗員がかなり余っていたんだ。なんせ遅々としてイギリスへの配備が進んでいなかったからな。だからそれを転用してしまえ、それでも足りないなら数を揃えて絨毯爆撃してしまえ、そうすれば練度不足は補える、と踏んでいたんだよな」

 

「なんていうか、合理主義なアメリカらしくないわよね。もう色々と無茶苦茶な気もするけど」

 

「それだけ追い詰められてたってことだ。日本海軍相手に勝とうとするなら正規空母20隻、軽空母20隻は揃える必要があったしこれを揃えるとなると、数年は掛かる。なんせ西海岸の造船所は日本海軍の手によって軒並み攻撃を受けて廃墟になっていたから東海岸でどうにかするしかない」

「その点、B‐29は高価とは言えど工場で大量生産が出来る。工場を増設したりすれば1945年末までに2000機~3000機程度は揃えられるって報告書が大統領の元に届いていたんだ。それに戦略的や理論的にはマリアナを落としてそこからB‐29を飛ばして爆撃を行って日本の工業能力を奪うってのは確かにアリだったんだ。だが仮にマリアナを落としても課題は多かったぜ」

 

「そうなの?」

 

「そもそもB‐29は欧州での運用が想定されていた機体だ。B‐29のエンジンにはマグネシウムをふんだんに使った金属が用いられていたんだ」

「だがこのエンジン、確かに性能は高かったんだが、思い出して欲しい。どんな金属を用いて製造されてるっていった?」

 

「マグネシウムをふんだんに使った合金って言ったわよね」

 

「その通り。このマグネシウム合金は確かに軽量且つ高性能だったんだがそもそも燃料を爆発させてプロペラを回して推進力を得ているエンジンは、運転中高温になり易い」

「にもかかわらず他金属に比べて明らかに熱に弱いマグネシウム合金を用いていたんだ。そうなるとどうなると思う?」

 

「まぁ、そりゃ当然エンジンに掛かる負荷とかダメージは普通に比べればどう考えても大きいわよね」

 

「そうだ。そしてこのマグネシウム合金をふんだんに使ったR‐3350エンジンは、熱に弱いっていう欠点があった」

「これが、まだ平均気温がそこまで高くない欧州で運用するなら特に問題らしい問題は無かっただろう。だが運用を検討していた太平洋は欧州に比べて平均気温が10度以上も高い。これで運用したとなったらどうなると思う?」

 

「まぁ、エンジンに想定外の負荷とかダメージが掛かって事故とか多発していたでしょうね」

 

「だろう?それに当時の日本軍の防空能力を考えればより損害は嵩んでいた筈だし、戦略爆撃もそれほど効果を挙げられたかは中々厳しいものがある」

 

「確か当時の日本の防空体制って、対空砲の数こそドイツに比べるべくもなかったけれど、迎撃戦闘機は十分以上の数を配備していたのよね?それに護衛戦闘機無しで、ってなると……」

 

「そう言う事だ。何より初期のB‐29に搭載されていたR‐3350エンジンは信頼性が低いと言うしかないものだったぜ。だがアメリカはこれをカンザスの攻防と題される、労働基準法ガン無視の体制で支えていた。まぁアメリカ式に言うなら駄目になったエンジンは丸ごと新しいエンジンに交換してしまえ、って考えだったわけだ」

 

「だけどそう簡単に行くかしら?」

 

「さっきも霊夢が言った通り、機体の問題だけでなく日本側の防空体制も問題だ。既に小笠原諸島を始めとして日本本土にも全方向をカバー出来るように、計算されて多くの対空レーダーが配備されていたし、陸海軍の統合防空作戦本部が設置されていて有機的な運用を可能としていたぜ」

「対空砲の数こそドイツ軍に比べて明らかに劣るが、それを補うように高高度迎撃性能を有している零式局地戦闘機や九九式双発汎用機と言った、B‐29を迎撃するのに必要な性能を持つ戦闘機も十分な数が配備されていたから、ここに突っ込むとなるとかなりの被害を覚悟しなければならない」

「そしてこれらの設備や機体を操るのは、母艦航空隊ほどとは言えなくても南方の豊富な高品質燃料で十分な高高度重爆撃機迎撃戦闘訓練を積んだ搭乗員達だ。こんなところにたかだか100機程度のB‐29を突っ込ませたところで大損害を被るのは目に見えている」

 

「以下は1944年末までに各地方に配備されていた本土防空戦力だ。資料によってマチマチだし正確な数も判明していないが、少なくとも平均してこの程度の数は配備されていたようだ」

 

・北海道 陸軍機130機、海軍機120機

・東北  陸軍機150機、海軍機120機

・関東  陸軍機200機、海軍機360機

・中部  陸軍機140機、海軍機130機

・近畿  陸軍機140機、海軍機130機

・中国  陸軍機60機、海軍機230機

・四国  陸軍機80機、海軍機240機

・九州  陸軍機70機、海軍機240機

 

陸軍機 970機 海軍機1570機 合計2540機

 

「これだけの防空戦力が常に配備されていたんだ。しかもこれら陸海軍機は統合防空作戦本部によって指揮され、地上管制、空中管制によって十分に連携を取れる体制を整えていたし陸海軍機の機上無線は共通のものだったから陸海軍で小隊単位での意思疎通と連携が可能になっていたんだ」

「これら戦力は工業地帯を中心として人口密集地の防空を主眼に置いている。特に沿岸部を始めとした地域には重工業地帯が数多く存在したからな、守りを固めている」

「横須賀、舞鶴、呉、佐世保は特に海軍にとって最重要拠点だ。ここには大型艦艇の造船が可能な工廠だけでなく兵装製造などを担う部門や工場、生産ライン、民間造船所が多数存在している。それ以外にも陸軍造兵廠を始めとした生産施設や設備が多い。ここを叩かれたら日本は戦争継続能力の一切を喪失することになる」

 

「マリアナ失陥でこれら工業地帯を叩かれたら日本はまず間違いなく太平洋戦争に負けていただろうと言われている。皆が思っているほど余裕綽々と言った感じで戦争に勝ったわけじゃないんだよ。ましてやマリアナには奇襲を許してアメリカ軍地上兵力の上陸を許していたからな」

「実際、日本とアメリカの講和条約を見れば分かるがあれだけ勝ちに勝っていた日本がアメリカ相手にあれだけ譲歩した形の条約を結んだのがその証左だ」

 

「でもなんで日本軍は米軍の奇襲を許してしまったの?」

 

「実を言うと、米軍マリアナ来襲時期が早かったと言うのも大きな理由の一つなんだがもう一つ察知出来なかった理由がある。というのも日本軍は米軍がマリアナ諸島に来襲する前に必ずある場所に来襲してそこの占領を狙ってくると考えていたんだ。だからそこに米軍が来襲すればマリアナに来襲するのも近い、と判断出来たんだな」

 

「それはどこなの?」

 

「ニューギニアにあるビアク島という小さな島だ」

 

「その島はどういう役割があったの?」

 

「このビアク島は、日本軍からすればフィリピンから東部ニューギニア以西へ至る飛行中継地点、連合軍から見ればパラオ、フィリピン南部、マリアナ諸島を爆撃圏内に収める要衝だったんだよ。地図を見ればよく分かると思うが、米軍からすればB‐17やB‐24で日本軍が防衛を固めつつある戦略上要衝地点に対して爆撃が行える場所だったんだ」

「だから日本軍は米軍がマリアナ諸島に来襲する前にこのビアク島の占領を目論んで来襲してくると考えていたんだ」

「それだけじゃなくて、クラモノ油田という油田と製油所があったんだ。ここは第101燃料廠による開発を受けて操業が開始された油田で、それ以外にも鉱物資源なんかも採掘出来るし、更には東部ニューギニア以西の部隊に対する燃料供給を担っていたこともあって重要度は跳ね上がっていたんだぜ」

 

「実際に日本軍はそうなった場合に備えてビアク島防衛の為に4個歩兵連隊を主力とする第36師団、高射砲約70門、2個戦車中隊(25両)、野戦重砲兵1個連隊、海軍から機動九〇式野砲の提供を受けた野砲兵第12連隊、同じく海軍からトラック200台の提供を受けた陸軍輜重兵連隊、3個工兵中隊が防衛に当たっていたからな」

「これだけの装備を有する部隊は他に同等の装備を有するのは、マリアナ諸島、硫黄島、パラオを守る守備隊ぐらいだ。要衝だったからこそ精鋭部隊を配置していたし敵が来襲した場合に備えてフィリピンのダバオから一個歩兵連隊を増援に送り込む手筈を整えていたんだ」

 

「でもビアク島には米軍が来なかったと」

 

「そうなんだ。計画としては米豪軍共同での攻略作戦はあったらしいんだが、それ以上に米軍は奇襲性を優先してここを攻略しようとしなかったんだ。だから日本軍は虚を突かれた形になって奇襲を許してしまったんだな」

 

「なるほどね」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「本土防空戦力のうち、陸軍機よりも海軍機の方が多いのは何故?」

 

「陸軍は各地に部隊を派遣していたし、その補充に追われていたからな。特にビルマ戦線、南方方面に航空戦力の大部分を送り込んでいたぜ。対中戦争は連合国の対中支援も枢軸国に押され続けていた事で枯れていたから航空戦力もそこまで強いものでは無かったので多くは無かったが、無くて良いって訳じゃない」

「対して海軍は本土以外だと、マリアナ、パラオ、小笠原防衛の為に航空兵力を集中させていたんだ。この3地点は陸海軍共通認識として対米戦における最重要地点だ。だから海軍は航空兵力を、陸軍は精鋭師団を配備していたんだな」

 

「それに海軍は基地航空隊だけでなく、母艦航空隊も保有していたものね」

 

「あぁ。日本海軍は基地航空隊とは別に機動航空兵力として名実共に世界最大且つ最強の戦力を有していたんだ」

 

 

 

「余裕綽々ではないとは言ったものの、仮に米軍がB‐29を用いて迎撃網を突破して日本に打撃を与えるならどう考えても、飽和攻撃をするしかない」

「となると毎回数百機ぐらいは揃える必要があるが、イギリスと言う広大な土地を使える欧州戦線と違って、マリアナ諸島で使えるのは小さな島が3つか4つだけだ。毎回数百機ものB‐29を損耗ありきで出撃させ続けるなんて、アメリカの工業能力を考えても現実的じゃない」

「それに燃料、爆弾、修理用の部品や交換用エンジンなどの物資を大量にマリアナ諸島に運び込まなければならないが、そんな狙ってくださいと言わんばかりの補給線を、通商破壊戦に慣れている日本海軍潜水艦部隊が黙って見ているわけが無い」

 

「長い補給線はそれだけ敵に攻撃される可能性や寸断される危険性が上がるものね」

 

「だから補給を考えてもアメリカ軍は全体的に日本軍に大打撃を与える必要があるんだ。だが米陸軍はまだしも当時の米海軍がそんなアクロバティックな芸当が出来ると思うか?」

 

「そりゃ無理でしょ。戦力は額面上揃っては居たけど中身は全く伴っていないじゃない」

 

「その通りだ。そんな色々な理由を盾にアメリカ軍上層部の殆どはマリアナ諸島攻略作戦、通称『フォレージャー作戦』に反対していたんだ。ところがルーズベルトは兎に角今すぐやれと言って譲らなかったんだ。結局軍部の反対と不満を抱えつつマリアナ諸島攻略作戦を実施する運びになったんだ」

 

「え、でもすぐやれって、それじゃ準備不足になっちゃうんじゃ……」

 

「だがそれをアメリカはクリアしたんだ。この辺はやはり流石アメリカ、と言ったところか。持前の工業力を総動員してどうにかこうにか数字上ではどうにかして揃えた戦力でマリアナ諸島に向けて出撃するぜ」

 

「兵力とか物資はどうしたの?」

 

「あらゆる方法で搔き集められたぜ。しかし米海軍は戦力以上にもっと悩まされていた問題を解決しないまま作戦に挑むことになる」

 

「確かに空母の数は護衛空母や軽空母まで入れれば40隻という数字だったが、実際の戦力としては取り合えず数を揃えたと言うだけで訓練が足りていない新兵が9割以上を占めている状態だったんだ。熟練兵は開戦以来の消耗で殆ど残っておらず、艦隊指揮が執れる指揮官ですら練度不足に嘆いている手記を残している。勿論数だけは揃えた母艦航空隊もだ。そんな中で米軍来襲に備えて防備を固めて精鋭部隊を配備しつつあったマリアナ諸島に突っ込むことになる」

 

「ルーズベルトが焦っていたが故に、ってことね」

 

 

 

 

 

 

「米軍来襲時の日本側はどういう状況だったのか?と言うと、実は完全に虚を突かれた状態だった」

 

「そうだったの?てっきり余裕綽々で迎撃したものだとばかり思っていたのだけど」

 

「確かに戦果を見ればそう思うかもしれないが、実はそんなことは全く無かったのぜ」

「ではなぜそうなったのか。というのも日本の予想では1945年半ばから1945年末に掛けてアメリカ軍は攻勢を仕掛けてくるだろうと予想していたからだ。だから迎撃準備をその時期に合わせていたんだぜ」

「実際に日本軍のマリアナ諸島増援計画、『松輸送』の作戦計画書が存在する。これ以外にもパラオに対する『竹輸送』、小笠原諸島、特に硫黄島に対する『楓輸送』、フィリピンに対する『梅輸送』などがある」

 

「なるほど。予想時期よりも半年も早く敵が来ちゃったものだから準備不足だったってことね」

 

「その通り。マリアナ諸島各島の地下陣地や地下要塞自体は既に完成していたんだが、肝心なそこに配備される予定だった部隊がまだ到着していなかったんだ。実際マリアナ諸島への増援計画も来襲予想時期に合わせてあってこれから部隊を送る、という状況だったんだ。主力艦隊もブルネイで訓練をしていたしな」

「ではマリアナ諸島にはどれぐらいの兵力が存在していたのかと言うと、以下の通りになる」

 

サイパン島 2個海軍陸戦隊及び陸軍第12師団、合計2万9千名。

      航空機約70機

テニアン島 陸軍第51師団 計2万3千名

      航空機約100機

ロタ島 陸軍第7独立混成旅団 1万3千名

    航空機約50機

 

グアム島 陸軍第96師団 計2万2千名

     航空機約110機

 

 

 

「本来ならばこれに加えてサイパン島3個師団、グアム島2個師団、テニアン島には3個師団がそれぞれ送り込まれて防備を固める筈で、半年の間に行われる予定だったんだ。だが米軍が予想よりも早く来襲したことで本来配備される予定の兵力の半分以下程度しか戦力が無かったんだ。これら師団に先んじて物資は既に送り込まれていたから物資不足の心配は無かったんだが、二十万を超すような大軍を相手に合計しても予定していた兵力の半分以下の兵力で戦わなければならないのは中々厳しいものがある」

 

「それなら日本軍はどうやって迎撃したの?」

 

「日本軍は早急な迎撃を諦めて、艦隊の準備がしっかりと整うのを待つこととしたぜ」

 

「えっ、それじゃマリアナは持ち堪えられないんじゃ?」

 

「マリアナ諸島は完全に要塞化されていて、地下に壕や射撃陣地、砲撃陣地を無数を備えていたんだ。各種物資も持久戦闘なら一年は保つぐらいの備蓄量を誇っていたからな。部隊配備こそ進んでいないが、配備されていた部隊は十分な訓練を積んでいたし、陸戦隊も精鋭部隊と言える練度を誇っていた。設備や装備は十分、兵数と加味してどうにか戦えると言う状態だ。そこでまず迎撃作戦を二段に分けて行うこととしたぜ」

 

「二段?」

 

「そうだ。米軍来襲時、即応可能状態にあったのは横須賀で待機していた第五艦隊だけだったんだ。それ以外の艦隊は整備だったり訓練だったりで即座の対応が困難だったんだ。そこでまず山田中将は兵力逐次投入を避ける為に全ての艦隊の準備が整うのを待ち、それまでの間にサイパン島に増援を送り込むことを計画したぜ」

 

「どれぐらいの増援を送ろうとしていたの?」

 

「二回に分けて送ることが計画されたぜ。第一次増援計画では2個海軍陸戦隊、陸軍第一師団の二万八〇〇〇名」

「第二次増援計画では陸軍第23師団、第10師団、第19師団の3個師団、合計六万名ほどが送られることとなったぜ」

 

「それぞれの部隊の輸送にはかなり時間が掛かるんじゃないの?」

 

「実は第一次、第二次合わせて陸軍五個師団は元々フィリピンへ送られる予定だったんだ。だから各地から日本本土に一旦集まって港に集結していたんだ。だから船さえあればすぐに移動出来る状態だったんだぜ。それを陸軍に頼んで3個師団をマリアナへ転用してもらえるようにしたんだ」

 

「物資はどうするの?何万人分もの物資なんて一朝一夕じゃ出来ないでしょ」

 

「そっちも部隊と一緒に送る予定だったからな。とっくに港の倉庫に積み上げられて船積み待ちだったぜ。だから戦地に到着すればすぐに戦闘が出来る状態だったんだ」

 

「運が良いというか、手際が良いわね」

 

「陸軍の方が大陸で所謂大陸打通作戦をやる予定だったからな。そうなったら余裕も無くなるから予め物資は集積されていたんだ。それでも足りない分は海軍側から出されたんだぜ」

 

「なるほどね。でも一回で送り込まなかったのは何故?」

 

「単純に輸送船の都合だ。敵制空権下を突破して揚陸となると幾ら練度が低かろうが難易度は桁違いに跳ね上がる。低速の輸送船なんて恰好の餌食だし、正規空母の数は少ないとは言えそれを補う多数の護衛空母や、多数の戦艦と巡洋艦が居る。そんなのが待ち構えている所に突っ込むんだから船足は少しでも早い方が良い。仮に輸送船で普通に揚陸となると艀や港に接岸したりしてクレーンで降ろさないとならない。だがそんな余裕は無いのは分かるだろ?」

 

「そうね。そんな悠長にやってたら敵機の餌食だわ」

 

「だから海岸に直接揚陸が出来る輸送艦を用いることが決定されたんだ。だがこの揚陸艦は何かと使い勝手が良いってことであっちこっちで物資輸送だったり部隊移動だったりに用いられていたからな。すぐに投入可能だった輸送艦は搔き集めても20隻が限界だった。この輸送艦は戦車揚陸艦に分類されるもので600名の兵員と物資を一度に運ぶことが出来た。この輸送艦は陸戦隊を輸送する役割を担ったぜ」

「だがこれだけでは到底足りないので海軍は高速輸送船を追加で8隻用意したぜ。重装備が多い陸戦隊に比べて軽武装な陸軍師団は大発動艇を輸送船に搭載して揚陸を行うことになったぜ」

 

「これら28隻の輸送船団に第一回増援部隊は分譲し、送られることになった。そして輸送船団の護衛を担ったのは本土で待機していた第五艦隊と第三護衛艦隊だ。護衛艦隊のどれかをという話もあったんだが、仮にも正規空母を中心とした数十隻の敵空母艦隊に対して、護衛艦隊だけでは殆ど意味が無いと判断し、第五艦隊の投入を決定したぜ。第五艦隊は対潜哨戒用の艦攻と偵察機以外は全て戦闘機を載せて出撃することになった」

 

 

「第一次増援計画は米軍来襲の四日後に出港し、マリアナ諸島を目指したぜ。指揮を執ったのは山口多聞中将。第三護衛艦隊、それとは別に臨時編成護衛部隊が重巡高雄、摩耶、最上、那智、軽巡天龍、龍田、能代、駆逐艦16隻を有して編成されたのぜ」

「護衛部隊を率いるのは、これより以前に行われたビアク島輸送作戦でも指揮を執った三川軍一少将。第五艦隊を甲部隊、護衛部隊を乙部隊、第三護衛艦隊を丙部隊としていたぜ」

 

 

甲部隊 第五艦隊

    指揮官 山口多聞中将

    空母 大鳳 慶鳳 禄鳳 神鳳 

    戦艦 大和 武蔵

    重巡 1隻

    防巡 2隻

    軽巡 3隻

    防駆 15隻

    駆逐 12隻

    艦載機 280機

 

乙部隊 臨時編成護衛部隊

    指揮官 三川軍一少将

    乙1部隊 高雄、摩耶、能代、駆逐艦8隻

    乙2部隊 最上、那智、天龍、龍田、駆逐艦8隻

 

丙部隊 第三護衛艦隊

    指揮官 大井篤少将

    護空 雲鷹(搭載機三〇機)

    軽巡 1隻

    駆逐 8隻

    海防 12隻

 

「第五艦隊はそのままだが、護衛部隊の方は高雄、摩耶、能代、駆逐艦8隻の護衛本隊と最上、那智、天龍、龍田、駆逐艦8隻の警戒隊に分けたぜ」

「護衛部隊は二つに分けられていた。三川軍一少将が直接率いる乙1部隊、吉川潔大佐が率いる乙2部隊。第三護衛艦隊は物資揚陸中に輸送船の直接護衛を担当し、護衛部隊は展開しつつ敵艦隊の警戒、誘引、吸収することが目的だった」

「第三護衛艦隊は輸送船団を直接護衛し、輸送船団のエアカバーを担当していた」

 

 

 

「どんな作戦だったの?」

 

「第五艦隊が敵艦隊の気を引いている間に護衛艦隊と護衛部隊に守られた輸送船団がサイパン島に突っ込むというものだ。この際必要であれば輸送船を座礁させて無理矢理上陸させても構わないというお達しも来ていたぜ」

 

「中々覚悟決まっていそうね」

 

「あぁ。敵制空権下を強行突破しての物資揚陸だ。並大抵のことじゃ成功させられないからな。それにこれが決戦と腹を括っていた日本海軍は多少の損害には瞑ることにしていたんだ」

 

 

 

 

「話を戻し、米艦隊とマリアナ諸島基地航空隊の戦いについて話そう。米軍はまず基地航空隊を無力化するべく、第一次、第二次、第三次の三回に分けてマリアナ諸島を空襲したぜ。迎え撃つのは約330機の零式局地戦闘機、九九式双発汎用機、そして烈風だ。これら基地航空隊は予め方向と機数、高度の情報を受け取って、高度有利を取ったまま米軍艦載機に奇襲を仕掛けたぜ」

「第一次攻撃隊の米軍機は約700機。その内戦闘機は250機程度で戦闘機の数で勝る日本軍は九九式双発汎用機を残して全てが米軍戦闘機に食らいついた。九九式双発汎用機はがら空きになった爆撃機、雷撃機に次々と襲い掛かったぜ」

「九九式双発汎用機の武装は機首に20mm機銃4丁、翼内に20mm機銃4丁、1400発の携行弾数を誇る重武装だ。爆弾やロケット弾の搭載も出来るが今回は迎撃戦なので搭載していない。防御力が秀でている米軍機とは言っても一連射されただけでも一溜りも無い」

 

「米軍第一次攻撃隊は400機を超える撃墜破という大損害を食らって、飛行場に攻撃出来たのは僅か70機程度でしかもバラバラに投入したもんだから対空砲火に撃墜された機も多かった。サイパン島飛行場滑走路やエプロン帯、周辺に30発程度の命中弾をポツポツと与えただけに終わり、効果不十分だった。しかしそれでも二時間程度の使用不可能に追い込んだことで、サイパン島迎撃隊はテニアン島に帰還し、そこで修理と補給を受けることになった」

 

「第二次攻撃隊は?」

 

「実は米軍はここで大きなミスをしてしまったんだ。というのも米軍は第一次攻撃隊の損害が余りにも大き過ぎたことで第二次攻撃隊の準備を入念にするために出撃予定時間を遅らせてしまったんだ」

 

「すぐに仕掛けていれば飛行場に降りて来たばかりの日本軍機を一方的に叩けたってこと?」

 

「そうだ。どれだけ練度が優れていても弾薬や燃料が無ければ飛行機は飛ばせないし戦えないからな。その点700機という数の米軍機は弾薬枯渇という状況を迎撃隊に押し付けることが出来ていたんだ」

 

「なるほど。だからすぐに第二次攻撃隊を放っていれば隙を突くことができたってわけね」

 

「あぁ。だが米軍は損害を恐れて第二次攻撃隊により多くの戦闘機を随伴させる必要があると判断して遅らせてしまったんだ。結果的に日本軍に補給と休息の猶予をたっぷりと与えてしまうことになる」

「当時、基地航空隊で迎撃戦に参加していた元浦少尉は以下のように記述を残している」

 

『米軍第一次攻撃隊が去った後、第二次攻撃隊を迎撃するべく、残弾に不安はあれど空中で待機していたのに30分経っても来襲せず、誰もが不思議に首を傾げていた。それと同時に司令部から帰投して補給せよ、と命令が下った。交代で幾らかの機は上空で備えていたが、結局帰投した全機が修理と補給、休養を終えても敵機が来ることは無かった。いよいよ我々は不思議で仕方が無かった』

 

「他にも対空砲陣地で指揮を執っていた飯山少佐は以下のように記述している」

 

『敵第一次攻撃隊はサイパン島に全力攻撃を掛けるも戦果は明らか不十分。第二次攻撃隊に備え弾火薬庫から砲弾を、歩兵隊の手も借りて補充するも敵機が上空に現れることあらず。電探に問い合わせるも敵機の反応は無しの返答あり。飛行場は工兵隊が既に修理作業に取り掛かりつつあり、数時間後には元通り稼働が出来るであろう様相であった。何故すぐに、二の矢を放ち止めを刺しに来ぬのか不可思議極まりない』

 

「以上のように残している。現場将兵はおろか、指揮を執る将校達ですら何故すぐに第二次攻撃隊が来ないのか不思議だったようだ。流石に戦闘態勢は解かれなかったが、それでも5時間もの時間的猶予を日本軍に与えてしまったのは確かだ」

 

「五時間ってかなり大きいわよね。普通にご飯も食べて一時間でも二時間でも仮眠も取れるし」

 

「そうだな。第一種戦闘配備は続けられたものの、各員は交代で休息を取るようにというお達しがマリアナ諸島司令部から来たぐらいだ。司令部も何か裏があるのか、と首を捻っていたようだがな」

 

 

 

 

 

 

「米軍第二次攻撃隊が日本軍の電探に探知されたのは第一次攻撃隊来襲から5時間後だ。米軍は練度不足故の事故の多発で攻撃隊の出撃が遅れに遅れてしまったんだ。どうにか出撃させた攻撃隊は約900機の大編隊だ。戦闘機も300機と大盤振る舞い。その後方には更に約700機の第三次攻撃隊が続いていた」

「日本軍基地航空隊はこれを十分な補給と休養を取った、万全とも言える状態で迎え撃ったぜ。米軍第二次攻撃隊の戦闘機の数は迎撃隊以上だったが、練度でカバーしつつ九九式双発汎用機が爆撃機、雷撃機を襲ったぜ」

 

「良い感じね」

 

「だが数の暴力ってのは中々厳しく、結局三〇〇機を超える敵機の攻撃を許してしまい、サイパン島飛行場は完全破壊されてしまい、四日間は使えなくなってしまう」

「米軍第三次攻撃隊は残弾が残り少ない日本軍迎撃隊と戦いつつ、テニアン島を空襲。結果、第二次と第三次攻撃隊によってサイパン島、テニアン島の飛行場は使用不可能に陥ってしまったのぜ」

 

「追い詰められてきたわね」

 

「迎撃隊は二〇〇機ほどに数を減らし、搭乗員は救助されたものの機体が無ければ戦えない。残った迎撃隊はグアム島に向かい、そこで補給を受けたぜ」

「翌日に戦いは持ち越されるかと思われたが、米軍はここでマリアナ諸島各島に夜間の内に接近して艦砲射撃を行って飛行場を完全破壊してしまったのぜ。これで日本軍は翌日以降敵機の迎撃が出来なくなってしまったんだ」

 

「幸い、退避が間に合ったお陰で被害は飛行場に留まり、死傷者も数えるぐらいだったんだが、翌朝、日の出と共に出撃し、来襲した米軍艦載機はマリアナ諸島より100kmの地点に位置していたこともあって常に爆撃を受け続けている状況に陥っていたぜ。飛行場は常に爆撃に晒され、それに加えて上陸準備のための艦砲射撃も常に加え続けられており、マリアナ司令部は全部隊に対して『第一種戦闘配置、敵上陸部隊に備え』を下命したぜ」

 

「いよいよね」

 

「米軍はまずサイパン島を攻略する為に行動を開始したぜ。他の島には飛行場が使えない程度の爆撃を行い、それ以外は全力でサイパン島に対する砲爆撃を行っていたのぜ。ところが米軍側は本来一週間の艦砲射撃を予定していたものの、反撃が全く無く日本軍陣地を破壊したと判断したことで予定を繰り上げて3日間の艦砲射撃だけで切り上げてしまったのぜ」

 

「あっ……(察し)」

 

「海軍は砲撃を切り上げ、海兵隊に上陸を要請したぜ。海兵隊司令部も特に問題視することも無く、要請に従って第1海兵師団を輸送船から出撃させてしまったのぜ」

「ここでビアク島に対する作戦が行われていて戦訓が反映されていれば、というのに繋がって来るわけだな」

「まぁ実際に航空偵察で撮られた写真を見れば分かるんだが、マリアナ諸島は砲撃で完全に禿げあがっていたからな、そりゃ当然日本軍陣地も完全に破壊されたと思うのも無理は無いぜ」

 

「他の島はどうだったの?」

 

「基本的には数隻の駆逐艦と十数機ほどの米軍艦載機に定期的に砲撃と爆撃を加えられていて飛行場は使えない状況だったんだ。とは言えそれ以外の場所に対しての砲爆撃は行われていなかった。サイパン島を墜として飛行場を整備してしまえば海兵隊機や陸軍機を進出させることが出来るし、そうなったら練度に不足のある空母艦載機頼りにならなくて済む」

「実は海兵隊機や陸軍機のパイロットはそこまで損耗していなかったからベテランパイロットも多く残っていたんだ。だから彼らに仕事を引き継ぐことが出来れば母艦搭乗員や乗組員は訓練を行うことが出来るからな」

 

 

 

 

 

 

 

「サイパン島にまず上陸したのは第1海兵師団だ。この師団はガダルカナルでも戦った精鋭師団だ。上陸が予想されていたサイパン島南端の海岸には多数の地雷や航空爆弾を改造した即席地雷などが埋設してあったがこれは艦砲射撃で半数が吹き飛んでしまっていたのぜ。それでも10隻ほどの上陸用舟艇が250kg爆弾を用いた即席爆弾で撃沈され、戦車11両も同様に対戦車地雷、即席爆弾で破壊されている。指向性地雷やドイツからの技術供与で開発された跳躍地雷も多数設置されており上陸時点で600名を超える死傷者を出した第1海兵師団の先行きは暗いものだったぜ」

 

「上陸しただけで一個大隊規模が死傷って、不味いでしょ」

 

「本来なら地雷などを処理するんだが、ここでも海岸線に砲撃をしっかり行ったからという理由で楽観していたんだ。まぁ流石にこの被害を見て地雷処理を行って損害は無くなったんだ」

「第一海兵師団は後続の第2海兵師団、第3海兵師団に場所を譲りつつ、飛行場攻略を目的として準備を始めたぜ。ところが第2、第3海兵師団が上陸を終えて第1海兵師団が前進を開始しようとした途端に日本軍からの猛砲撃や猛射撃が3個師団がいる海岸付近に加えられ始めたのぜ」

 

「あーあー……」

 

「しかも砲撃をしている場所を特定しようにも隠蔽されていて榴弾砲は数発撃ったら地下にすぐに隠れてしまうものだからカウンターを食らわせる事も難しかった。結局第1海兵師団は砲撃に晒されながら飛行場に向けて前進する他に無かったんだ」

 

「地獄じゃない」

 

「その通りだ。そして飛行場周辺には多数の機関銃陣地、修理不可能と判断された機から取り外された20mm機銃が備え付けられたりしている機関銃陣地が多数存在し、それぞれの機銃陣地は鉄筋コンクリート製で艦砲射撃でも、ものともしない頑丈さを誇る。実際今でもこれらの機銃陣地やトーチカは今も残っているぜ」

「これら陣地やトーチカは全てのものが別のトーチカや陣地から射線が通せるように配置し配備されていたわけだから、接近して爆破しようにも別のトーチカから撃たれるという状態だ。しかも飛行場含めて周辺は平地で障害物になるような地形なんかは存在せず、見通しがとてもいい。お陰で日本軍砲兵から好き放題撃たれるような状態に陥っていたんだ」

 

「それでも第1海兵師団は飛行場内に突入したんだが、これが大きな転換点となった」

「飛行場内側に対しても射撃が行えるように設計し配備していたわけだから360度全方位、そして真上からは砲弾の雨が降って来るという地獄の状況だったぜ」

 

「戦車とか装甲車はいなかったの?」

 

「勿論M4シャーマン中戦車や装甲ハーフトラックなども存在はしていたんだが、そんなもの大きいし目立つしで真っ先に日本軍に狙われて、破壊されるか擱座するかのどちらかの道を辿ったぜ。擱座した戦車の搭乗員を助ける為に接近した小隊が機銃、砲撃で文字通り全滅した事例まである。だから歩兵は戦車を盾にすることも出来ないし、戦車は歩兵の助けや支援を受けられない状態だ。歩兵は自分で穴を掘って隠れるぐらいしかやれることが無かったんだ。なんせ日本兵の姿は見えないしな」

 

「第1海兵師団は結局どうなったの?」

 

「第2、第3海兵師団に応援を要請したものの、この2個師団も猛砲撃、猛射撃を加えられていて大混乱だったからそれどころじゃなかったんだぜ。結局第1海兵師団は飛行場に突入してから二日ほどは粘ったものの、損耗が余りにも拡大したことで海岸に撤退したんだがこれが、第2、第3海兵師団がいるところに大慌てで撤退してきたから、より混乱に拍車を掛けてしまう。どこにどの部隊がいるのかすら把握出来ないぐらいの混乱ぶりで、サイパン島攻略は初手から躓いてしまう」

「結局大混乱と砲撃に常に晒されながら、どうにか指揮下の部隊を掌握した第1海兵師団司令部は愕然としたぜ。なんせ師団の戦力が半分にまで低下していたんだ。たったの二日、撤退して来てからも含めてたったの4日で師団の戦力が半分になったんだからな」

 

「でも船上に撤退するのも出来なかったんでしょ?」

 

「あぁ。なんせ上陸地点は日本軍からの砲撃で大混乱、大損害で司令部は更に戦力を送り込んで無理矢理攻略しようとしていたわけだから船上も大混乱だったんだ。結局第1海兵師団は搔き集めた戦力と、第2、第3海兵師団と共に艦砲射撃と近接航空支援を受けながら陣地やトーチカを一つ一つ潰しながら前進し始めた。それでも常に凄まじい砲撃と銃撃が加えられて、どうにかこうにか無理矢理飛行場とその周辺を奪った頃には第1海兵師団は8割もの戦力を喪失、第2海兵師団は6割、第3海兵師団は5割の戦力を喪失する結果になったぜ」

 

「実は日本軍はサイパン島には扶桑型戦艦、伊勢型戦艦を空母に改装する際に撤去された35.6cm砲を要塞砲として配備してはどうか、という話もあったんだ」

 

「4隻分の35.6cm砲って、48門にもなるじゃない。しかも戦艦クラスの主砲でしょ?」

 

「あぁ。仮に配備されていたら米軍の損害は実際よりも遥か上になっていただろうな」

 

「でもなんで配備されなかったの?」

 

「そこまでの余裕が無かったからだ。流石に戦艦クラスの主砲を配備して、となるとかなりの大規模な工事になる。流石に戦時中にそこまでの大規模な工事をやっていられるほどの余裕は当然ない。だから配備されなかったんだ」

「結局、海軍はこの取り外された砲塔と砲身は金剛型戦艦の予備として保管することに落ち着いたわけだ」

 

「幻の計画ってことね」

 

 

「大打撃を被った海兵隊3個師団の代わりに米軍司令部は陸軍3個師団を送り込む決定を下したんだが、この時日本側にも大きな動きがあったぜ」

 

「増援部隊ね」

 

「その通り。米軍はこの動きを察知し迎撃を試みたことで第一次マリアナ沖海戦が勃発するぜ」

 

 

 

 

 

 

 

「第一次マリアナ沖海戦は、日本陸軍と海軍陸戦隊を載せた輸送船団を守る第5艦隊と米軍機動部隊の間で生起した海戦だ」

「日本側は装甲空母4隻、戦艦2隻を中心とし、他に護衛空母1隻が存在したもののこちらは米軍潜水艦と戦っていたため空母対空母の戦いには参加していない」

 

「でも夜戦もやってたでしょ」

 

「それはこの海戦の後だ」

「日本艦隊の接近を察知した米軍はその後ろに輸送船団の存在があることを知った為、全力で迎撃に注力するべく空母から攻撃隊を出撃させた。しかしここで先日行われた航空戦の影響が大きく出て来る」

「マリアナ沖航空戦で米軍は900機を超える被撃墜、被撃破の大損害を被っていたんだ。これは米軍艦載機の3分の1程度を失っていたことになる。そこに第五艦隊の空母5隻、それも戦闘機を満載していた状態の空母が突っ込んできたんだ。索敵機と対潜用艦攻を除いても310機もの烈風を搭載しているわけだ。しかも搭乗員は開戦以来戦い続けている歴戦ばかリだから、練度不足に頭を抱えている米軍とは雲泥の差がある」

 

「第五艦隊は敵機動部隊の艦載機を誘引しつつ、その間に輸送船団がサイパン島に突っ込む手筈になっていた。とは言え米軍も黙っていない。輸送船団には米軍潜水艦が多数接近しており、第五艦隊の戦いが始まるよりも前から対潜戦闘を繰り広げていたんだ」

「第五艦隊は敵機と敵空母との戦いに集中しつつ、輸送船団は突入機会を伺っていた。この時第五艦隊が敵空母を誘引している今すぐにでも突入するべきという意見と夜闇に紛れて突入するべき、という意見の二つに分かれていた」

 

「どうなったの?」

 

「三川少将は最終的に夜間に突入することを決定するぜ。この決定には米艦載機に一時的にとは言え発見されて接触され、現在位置を晒してしまったことで第五艦隊が引き付けている空母の内の幾らかが輸送船団に向かってくる可能性が出てきていたんだ。そこで夜間ならば敵機の心配は無く、敵水上部隊に備えるだけでいい、との判断から夜間突入という判断を下したぜ」

 

「空母同士の戦いはどうなったの?」

 

「第五艦隊の装甲空母に何発かの爆弾が命中したものの、損害らしい損害は被っていない。艦載機は70機ほどが被撃墜被撃破となったものの、米艦載機に対しても500機を超える撃墜破を与えている。とは言えお互いに空母が損傷したわけでも無いので、判定はしにくいが艦載機の損害から見れば日本側の勝利と言えるな」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

「陽が沈んだ午後20時頃、輸送船団はサイパン島に向けて突入を開始するぜ。これを契機に発生したのがマリアナ沖夜戦だ」

「投入戦力は以下の通りになる」

 

 

 

投入戦力

 

乙部隊 臨時編成護衛部隊

    指揮官 三川軍一少将

    乙1部隊 高雄、摩耶、能代、駆逐艦8隻

    指揮官 吉川潔大佐

    乙2部隊 最上、那智、天龍、龍田、駆逐艦8隻

    

 

 

米海軍 日本軍増援阻止部隊

    指揮官 ウィリアム・パイ中将

    戦艦ウィスコンシン、イリノイ、ケンタッキー

    重巡アラスカ グアム セーラム

    軽巡トピカ スプリング・フィールド パサデナ オクラホマシティ

    駆逐艦 フレッチャー級、アレン・M・サムナー級合計26隻

 

 

「明らかに日本艦隊が兵力的には劣勢ね。アメリカ艦隊は戦艦はアイオワ級の最新鋭、重巡も実質巡洋戦艦みたいなアラスカ級が二隻、軽巡も最新鋭。駆逐艦の数も10隻も多い」

 

「どの艦艇も就役から半年~1年ぐらいしか経っていないようなピカピカの新品ばかりだ。対して日本側は駆逐艦と軽巡能代以外は艦齢が10年前後。天龍、龍田に至っては20年以上の、老朽艦に分類されるものだからな。艦艇の質という面ではアメリカ側に圧倒的に分があるわけだ」

 

「軽巡天龍、龍田は防空巡洋艦として改装されているから、主兵装は対空砲。魚雷も降ろされちゃってるし、駆逐艦も半分が防空駆逐艦で魚雷を装備していないものね。対艦攻撃能力も劣っていると言えるわ」

 

 

「三川少将率いる臨時編成護衛部隊は第三護衛部隊と共にサイパン島南部の砂浜に接近。沖合400mの地点で座礁覚悟で輸送船は停泊し特大発動艇や大発動艇を下ろして揚陸開始。輸送艦は砂浜に乗り上げて揚陸を開始したのぜ」

 

「米軍はどう動いたの?」

 

「米軍はこの動きを察知して、迎撃部隊を出したのぜ。戦力はアイオワ級戦艦3隻、重巡3隻、軽巡4隻、駆逐艦26隻。指揮官はウィリアム・パイ中将だ。数少ない手練れの指揮官だ」

 

「戦力差は大きいわね」

 

「あぁ。とは言え引き下がれば輸送船団と第三護衛艦隊が蹂躙されるのは目に見えている。三川少将は迎撃する為に動くのぜ」

「とは言ってもニューギニアのように小さい島が多く存在していて隠れ場所に困らないと言うわけでも無く、殆ど正面からぶつかる以外に選択肢は無かった。そこで戦力的に明らかに劣勢であることから三川少将は部隊や物資が揚陸し終わるまでの時間稼ぎをしつつ、第五艦隊に応援要請を行ったのぜ」

 

「第五艦隊に?」

 

「そうだ。なんたって第五艦隊には戦艦大和、武蔵という2隻がいるわけだからな」

「午後22時19分、米海軍戦艦ウィスコンシン、イリノイ、ケンタッキーが日本艦隊に対して砲撃を開始するぜ」

 

「うーん、流石に戦艦3隻からの砲撃は不味そう」

 

「とは言ってもこの時代の砲撃戦で初弾命中なんてまず有り得ないからな。3隻の放った砲弾は見事に外れたぜ。それもかなり的外れだったらしく日米双方に記録が残っている。レーダー射撃を実施してはいたもののやはり練度不足というのはここでも大きく足を引っ張ることになる」

 

「日本側もレーダー射撃は実用化されてたんでしょ?」

 

「されてはいたが、そもそもの距離が2万5千mとかなり遠いからな。撃って命中したとしても戦艦相手に20.5cm砲弾の効果は薄い。だから日本側は射撃の精度に関わらず米戦艦に有効打を与えられなかったんだよ。有効打を与えようとしたら接近した上で駆逐艦による雷撃を行うしかない」

「だが日本側の目的は兵員と物資を無事に揚陸させることだ。態々突っ込む必要は無いし時間稼ぎだけしていればいいって判断だ」

「まぁ、一応巡洋艦や駆逐艦の砲撃でも上部構造物を損傷させたり破壊したりすることは出来るがな」

 

「だけど米軍側はそうじゃないんでしょ?」

 

「あぁ。米軍側はなんとしてでも揚陸を阻止しなければならないし、近海に日本海軍の戦艦がいるってのは何となく分かってたから合流される前に護衛艦隊を撃破して輸送船団を叩く必要がある。ただでさえ地上戦で味方がボコボコにされてるのに、ここに増援の日本軍が加わって立て籠もられたら頭を抱えるなんてレベルじゃないぜ。投入地上兵力を全部擦り減らしても勝てないなんてことも現実味を帯びて来る」

 

「そう言う事情もあってアメリカ艦隊は日本艦隊に対して接近し続けて早々に決着を付ける姿勢だったんだ。だから日本側もそれに対応するべく至近距離での撃ち合いをせざるを得なくなってしまう」

「日本艦隊はどうにかこうにかして時間稼ぎをしつつ、応援を待つ必要があったんだが、かといって高速戦艦を主力としている27ノットを超える速度で突っ込んでくる米艦隊を相手しないと、逃げるだけでは輸送船団に攻撃されてしまう。なので護衛部隊は同航戦を挑むこととなった」

 

「まぁ、戦艦3隻相手に重巡4隻に軽巡3隻じゃ普通なら勝ち目は無いもんね」

 

「あぁ。だから三川少将は決死覚悟で同航戦を挑む必要があったんだろう。重巡が装備する20.3cm砲では至近距離でも打撃を与えられないが、結局1万5千mの距離で撃ち合いになる。米艦隊の砲弾も当たらないが、日本艦隊の砲弾は命中するものの戦艦の装甲を貫くことは出来ないから上部構造物にダメージを与えるぐらいでしかない」

「それでも米戦艦の射撃レーダーや測距儀を破壊したのか、何等かのダメージを与えたのか射撃制度が極端に悪化したという記録がある。それを契機に日本艦隊は戦艦との撃ち合いを切り上げて回りの巡洋艦や駆逐艦に目標を変えたぜ」

 

「なんで日本艦隊は巡洋艦や駆逐艦に目標を変えたの?それに米側はどう対応したの?」

 

「日本艦隊が目標を巡洋艦や駆逐艦に変えたのは、突撃して敵戦艦に雷撃戦を挑むときに障害となる存在を排除しておきたかったからっていうのと、逆に雷撃戦を挑まれないようにしるためだ」

「遠距離砲戦ではどうやったって命中弾を得られないから最終的に至近距離で叩く以外に方法は無かったからな。巡洋艦と駆逐艦が突撃をしようとしたが日本側は軽巡と駆逐艦がそれに集中砲火を加えて阻止している。とは言え米側も諦めるわけには行かず、どうにかして攻撃をしようとしていたようだ」

 

「これなら日本側の応援が到着するまで逃げきれそうね」

 

「それがそうも行かなかったんだよな。イリノイと撃ち合っていた摩耶に不運にもイリノイが放った40cm砲弾が命中してしまう」

「命中したのは艦後部で、機関部に命中したことで急速に速度を落として落伍してしまう。結果摩耶は7ノットの速度しか出せず、7隻の駆逐艦に袋叩きに合い、駆逐艦3隻を返り討ちにし沈没こそ辛うじて免れたものの、最終的に自沈処分になったぜ」

 

「流れが変わったわね」

 

「そして敵巡洋艦と撃ち合っていた軽巡能代が被弾3発、3番主砲に直撃を食らってしまう。それ以外にも既に駆逐艦同士の撃ち合いで被弾している艦もそれなりにいた。運が良かったのは致命傷には一切なっていないってことぐらいだ」

 

「これだけ戦力差が開いていれば普通は一瞬で磨り潰されててもおかしくないわよ」

 

「精鋭揃いの日本艦隊も、3時間に渡って戦い続けていると翳りが見えてくる。事実上戦艦5隻と撃ち合っているようなものだからな」

 

「アラスカ級の主砲は30.5cm砲だもの。これを巡洋艦と呼ぶにはちょっと無理があると思うわ」

 

「乙1部隊は敵戦艦3隻との撃ち合い、乙2部隊はアラスカ級2隻と重巡1隻との撃ち合いだ。中々厳しいものがある」

「最上にアラスカ級の主砲が一発命中、幸い致命傷にはならなかった。那智も敵軽巡から集中砲火を受けていたぜ。摩耶以外の脱落艦は無かったものの、このままいけば押し切られる」

 

「増援の日本陸軍部隊はどうなっていたの?」

 

「揚陸自体は終えていたんだが、島内部に部隊と物資の移動がまだ全然終わっていなかったんだ。だからここで砲撃に晒されると粉砕されてしまう状態だった。だから日本艦隊は少なくともあと2時間は時間を稼がなきゃならない状況だったぜ」

 

「2時間って……」

 

「あぁ、そこまで行ったらもう日本艦隊は全滅していてもおかしくは無いな。だがここで日本艦隊にとって転機となる出来事が発生するぜ」

「近くで輸送船団を護衛していた第三護衛艦隊から軽巡と駆逐艦8隻が急遽応援に駆け付けて戦闘に参加し始めたんだ」

「彼らは船団護衛の為に建造された艦艇で、魚雷を装備しているのは駆逐艦4隻だけだったものの、大きく迂回して米艦隊の後ろから回り込んできた訳だから完全に警戒は疎かになっていたぜ。米艦隊は日本艦隊に勝ちつつあるって現状に浮かれていたってのもあるだろうけどな」

 

「おぉ」

 

「結果、応援の9隻は雷撃戦を挑む姿勢を取り、突入を開始。駆逐艦4隻が合計20本の魚雷を発射。必然的に米艦隊は発射の有無に関わらず魚雷回避行動を取らざるを得なくなる。これまで得ていた射撃諸元は全部水泡に帰したわけだ」

「三川少将も吉川大佐もこんな好機を見逃すわけが無い。進路変針の上で敵艦隊に突入開始。距離4000にて魚雷発射」

 

「これ、味方の魚雷も迫ってきている中で突入したってことよね?……同士討ちも辞さないってこと?」

 

「その通り。近代化されていたとは言え、日本海軍の夜戦馬鹿は治っちゃいないからな。それに同士討ちをしても戦略目標の達成は可能になる」

 

「彼らが米艦隊に対して放ったのは酸素魚雷だ、夜間ってのも相まって全く見えない。だから見えない魚雷に対して回避運動を取る必要に迫られた米艦隊の恐怖は相当なものだったはずだ」

 

「魚雷は命中したの?」

 

「三川艦隊が放ったものなのか、救援に駆け付けたの駆逐艦が放ったものなのかはっきりとしたことは判明していないが、米側公式記録によれば、ウィスコンシンに1発、ケンタッキーに2本、アラスカに2本、グアムに2本、それ以外にも駆逐艦4隻に命中が確認されている」

 

「発射した数はそこまで多くないけど、結構命中してるわね」

 

「そうだな。三川艦隊と合わせて発射した魚雷の数は60本だから命中率はきっかり2割ってところだ」

 

「でもよくここまで命中率上がったわね。何か理由でもあるの?」

 

「一応日本側の戦闘詳報を色々漁ってみたんだが、どうも救援に駆け付けた駆逐艦が魚雷を放った距離が4000mを切っていたらしい。雷撃戦だとかなりの至近距離ってことになる。その分魚雷の速度を速く出来るし、魚雷の速度が速いってことは敵艦に到達するまでの時間が短くなって回避の余裕がなくなるってことだ。どうもアメリカ側の公式記録と照らし合わせると回避が間に合わなかったんじゃないか?と思われる節がある」

「どうやら救援艦隊の雷撃は回避に成功したようだが、そのすぐ後に発射した三川艦隊の雷撃の回避が間に合っていないような動きだったんだ。だから命中魚雷の殆ど、或いは全部が三川艦隊の放った魚雷と思われる」

 

「なるほど」

 

「それに加えてどうやら三川艦隊は電探による、所謂レーダー射撃を魚雷にも適用していたらしい。当時の日本のレーダーは確かに米軍のモノと比べて一歩劣っていたが、実戦でレーダー射撃を行うには問題無い性能があったからな。正確な方向と距離をレーダーで割り出すことが出来ればあとは、魚雷をどの角度でがどれぐらいの速度で進んでいくのか、を求めて、発射するタイミングを合わせるだけだ」

 

「それに三川艦隊は4000mと言う超至近距離での魚雷発射だものね。酸素魚雷は40ノットでも30kmの射程があったし」

 

「この時の魚雷の雷速は残念ながら記録に残っていない。だが到達までの時間を逆算するとざっくり50秒ほどで到達していることから、どうも60ノットを超えていたんじゃないか?と思うぜ。かなり無茶苦茶な速度だが、水雷員の手記には、『マリアナ沖夜戦での魚雷発射に際し、信管設定は特に気を使った。距離が近く速度も速く、下手な設定をすれば馳走中に誤爆をしたり命中しても不発で終わる恐れがあったからだ。戦闘の転換点に成り得る以上、その重圧は凄まじかった』と記している」

 

「まぁ4000mの距離で60ノット以上の速度だもんね」

 

「結果として酸素魚雷を食らった事が無かった米艦隊は大混乱に陥るぜ。なんせ本来なら見える筈の魚雷の航跡が見えないんだからな」

「米艦隊指揮官のウィリアム・パイ中将は、『魚雷命中までの間、手隙の人員を全て割いて魚雷発見に努めたが命中するまで魚雷を発見することは出来なかった。それに加えて我々の想定よりも魚雷の到達が遥かに速かった』と語っている」

 

「この魚雷命中の結果、駆逐艦4隻は瞬く間に轟沈してしまう。ウィスコンシンは艦首に命中した事で速力を20ノットに落とさざるを得なくなった。2本命中のケンタッキーは14度の傾斜となりレーダーが破壊されていたことも合わさって正確な射撃が困難になってしまう」

「アラスカに至っては、傾斜が23度にもなりそのまま傾斜復元が出来ずに20分後には転覆して漂流し始めてしまう」

「グアムは艦尾に命中が集中したため推進軸が破壊され機関室にも浸水が発生。速力が僅か7ノットにまで低下。軽巡こそ無事だったが一瞬にしてこれだけの戦力に大打撃を食らって大混乱に陥るぜ。艦隊運動が出来なくなる程度にはな」

 

「にしてもなんでここまで混乱が広がったのかしら」

 

「明確な理由としては、やはり乗組員の練度不足だ。ウィスコンシンもケンタッキーも、十分にダメージコントロールを行えていれば戦闘能力を十分に保持したままでいられたと分析されている。戦後の調査でどうも十分にダメコンを行えていなかったらしい」

「事実酸素魚雷と言っても戦艦2隻に命中した本数は1~2本と致命傷と言うには足りない命中本数だ。アラスカの3本命中も命中箇所を調べてみると艦前部と中央部の間、艦中央部と艦後部の間の二か所の命中で、そこは最も水雷防御が分厚い箇所となっている。そんなところに2本の魚雷が命中したぐらいで転覆するほどの大損害になるか?」

 

「転覆するほどの大損害になるかと言われると、確かにちょっと考えにくいわね。他の艦艇もそうだけど致命傷ってほどの損害では無いと思うし」

 

「だろ?それにやはり戦後の調査で判明したことだが、駆逐艦は致し方無かったとは言っても、ウィスコンシンの艦首付近の命中弾以外は、ケンタッキーの2本命中も、アラスカ、グアムの2本命中も、全部艦中央部付近の最も水雷防御が分厚い付近に命中しているんだよ。4本、5本と命中しているならばまだしも、2本の魚雷が一番防御力がある部分への命中ぐらいで精々艦齢半年の新鋭艦が沈むと思うか?」

 

「思わないわ。それに米軍だって今までの戦訓を反映して建造する艦艇の水雷防御は強化して建造していると思うし」

 

「その通りだ。実際ウィスコンシン、ケンタッキー、イリノイの3隻の水雷防御は本来の設計よりも充実したものになっているし、アラスカ、グアムも同じだ。だが2本の命中魚雷で戦闘能力の大部分を損失したり、転覆したりとしている」

「これらを考えるに、艦の性能や酸素魚雷の性能云々以前に、乗組員の練度不足故の損害と言えるんだよ」

 

「アラスカなんかは注排水システムをちゃんと稼働させることが出来ていれば確かに戦列から離脱ってことにはなるだろうけど、転覆まではいかなかったと思うわ」

 

「漂流していたアラスカは、戦闘後に日本軍が鹵獲している。そのまま沈めるってのも意見にあったんだが数人の捕虜となったアラスカ乗組員が艦内には生存可能な空間が存在しており、中でまだ生存者がいる、という証言があったから米海軍乗組員救助のために鹵獲したという経緯がある」

 

「鹵獲されたアラスカを調査した日本軍は、やはり満足にダメコンを行えていなかったことが判明している。未熟な乗組員ばかりだったことのツケが回ってきてしまったんだな」

 

「この雷撃の後、三川艦隊は第五艦隊からの通信で大和、武蔵率いる応援が急行しているというのが判明していたから再び日本艦隊は持ち直して時間稼ぎをすることになる」

「それでも諦めなかった米艦隊は、結局応援として到着した大和、武蔵との砲撃戦になり、最終的にイリノイ、ケンタッキーが撃沈され、旗艦であったウィスコンシンはサイパン島に座礁。アラスカは鹵獲され、グアム、セーラムの2隻は撃沈された」

「軽巡もオクラホマシティを残して全滅。駆逐艦は5隻撃沈、4隻大破、3隻中破、8隻小破の損害を負う」

 

「対する日本艦隊の損害は少なく、重巡摩耶が自沈処分、駆逐艦3隻沈没以外は大破、中破の損害が相次いだものの沈没艦は存在しなかったぜ。応援として駆け付けた大和、武蔵は無傷のまま戦闘を終えた」

「輸送船団も無事に守り切り、揚陸した部隊、物資は全て損害を受けることなく島内に無事に運び込まれ、戦闘に参加するぜ」

 

 

乙部隊 臨時編成護衛部隊

    指揮官 三川軍一少将

    乙1部隊 高雄(大破)、摩耶(沈没)、能代(小破)

         駆逐艦8隻(2隻沈没、2隻大破、3隻中破、1隻小破)

    指揮官 吉川潔大佐

    乙2部隊 最上(大破)、那智(大破)、天龍(中破)、龍田(中破)

         駆逐艦8隻(1隻沈没、4隻大破、1隻小破)

   

 

 

 

 

米海軍 日本軍増援阻止部隊

    指揮官 ウィリアム・パイ中将

    戦艦ウィスコンシン(座礁後鹵獲)、イリノイ(沈没)、ケンタッキー(沈没)

    重巡アラスカ(鹵獲)、グアム(沈没)、セーラム(沈没)

    軽巡トピカ(沈没)、スプリング・フィールド(沈没)、パサデナ(沈没)、オクラホマシティ(中破)

    駆逐艦 フレッチャー級、アレン・M・サムナー級合計26隻

        (5隻沈没、4隻大破、3隻中破、8隻小破)

 

 

 

「マリアナ沖夜戦の結果は日本側の戦術的、戦略的勝利に終わったぜ」

「この後に続く日本側のサイパン島強行増援輸送作戦は米軍による航空攻撃と潜水艦による妨害はあったものの、最終的に輸送船3隻沈没の被害で作戦を完遂している」

 

「失った輸送船の分の物資はどうしたの?」

 

「元々マリアナ諸島各島には配備される予定の部隊用に物資は備蓄されていたからな。輸送船3隻分の物資損失ぐらいは所要範囲内に収まっていたんだ」

 

「なるほど」

 

「こうして無事にサイパン島に対して増援を送り込むことが出来た日本海軍は、時間稼ぎに成功する。そして決戦たるマリアナ諸島沖海戦が生起するぜ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「増援部隊を送り込んで時間稼ぎに成功した日本海軍は、日本本土に一度第五艦隊以下を全て戻し、2日間の補給と休養を取らせるぜ」

「まぁ三川艦隊は損害を被り過ぎて、司令官である三川少将、吉川大佐以外は後の戦闘に参加していないんだけどな」

 

「でも勲章モノの働きであったのは間違いないわね」

 

「そうだ。日本海軍は第五艦隊の休養、補給、整備を終えると第一~第六艦隊までの6個艦隊体制でマリアナ諸島に向けて出撃。戦力は正規空母22隻、軽空母8隻、戦艦10隻。航空機2140機。主兵力全てを投入した戦いだ」

「本来なら軽空母8隻はそれぞれ別の艦隊に編成、運用されることになっていたんだが、この時点ではまだ編成が完了していなかった。そこで8隻の軽空母は第一~第四艦隊に2隻づつ配備したぜ」

 

 

総司令官 山田隆敏中将

 

第一艦隊 指揮官 小沢治三郎少将

     空母 赤城 加賀 飛龍 千歳 千代田

     戦艦 金剛 霧島

     重巡 1隻

     防巡 2隻

     軽巡 3隻

     防駆 8隻

     駆逐 12隻

     艦載機 330機

 

第二艦隊 指揮官 原忠一少将

     空母 翔鶴 瑞鶴 蒼龍 瑞鳳 祥鳳 

     戦艦 榛名 比叡

     重巡 1隻

     防巡 2隻

     軽巡 3隻

     防駆 8隻

     駆逐 12隻

     艦載機 330機

 

第三艦隊 指揮官 南雲忠一少将

     空母 伊勢 日向 扶桑 山城 隼鷹 飛鷹

     戦艦 長門 陸奥

     重巡 1隻

     防巡 2隻

     軽巡 3隻

     防駆 8隻

     駆逐 12隻

     艦載機 400機

 

第四艦隊 指揮官 宇垣纏少将

     空母 大龍 昇龍 隆龍 豊龍 龍驤 龍鳳

     戦艦 天塩 摂津

     重巡 1隻

     防巡 2隻

     軽巡 3隻

     防駆 8隻

     駆逐 12隻

     艦載機 440機

 

第五艦隊 指揮官 山口多聞少将

     空母 大鳳 慶鳳 禄鳳 神鳳

     戦艦 大和 武蔵

     重巡 1隻

     防巡 2隻

     軽巡 3隻

     防駆 15隻

     駆逐 12隻

     艦載機 280機

 

第六艦隊 指揮官 大西瀧次郎少将

     空母 青龍 白龍 赤龍 黒龍 

     重巡 1隻

     防巡 2隻

     軽巡 2隻

     防駆 10隻

     駆逐 20隻

     艦載機 360機

 

艦載機 2140機

 

 

 

「これだけの兵力を全部投入するなんて、凄いわね」

 

「だろう?しかも第五艦隊が失った艦載機と搭乗員は5日間の休養と補給で既に補充されていたからな」

「日本軍が想定していた侵攻時期であればここに空母が数隻更に加わっていた。少なくとも大鳳型装甲空母5番艦と6番艦が第五艦隊に配備されていた筈だ」

「それ以外の艦艇だと、特筆すべき艦艇は防空巡洋艦だろう。この防空巡洋艦は阿賀野型軽巡洋艦をそのまま流用し、武装のみを防空に特化させたものになる。主武装を10cm連装高角砲に置き換えている」

 

 

 

「総司令官以下、各艦隊指揮官や参謀達も航空戦におけるノウハウを積み重ねてきた手練ればかリだ。今回は指揮官しか書かなかったが調べれば、開戦以来の搭乗員上がりの参謀やベテラン搭乗員やら指揮官やらばかりで構成されていて、凄い面々ばかりが揃っているぜ」

「代表的な人物の名前を挙げると、友永丈市、江草隆繁、村田重治、樋端久利雄、源田実、美濃部正などの名前が挙がる。これ以外にも戦闘機隊には多くのトップエース達が搔き集められて所属していたからな」

 

「日本軍と比べちゃうと米軍の指揮官の質もやっぱり低く見えてしまうわね」

 

「それも仕方が無い。開戦以来アメリカ海軍は指揮官クラスを含めて大量の戦死者や捕虜を出しているんだ。寧ろよくあれだけ揃えたもんだと思うよ」

「とまぁ、米軍は確かに空母の数では確かに日本軍を大きく上回っていたんだが、そもそもそれまでのマリアナ沖航空戦と第五艦隊との戦いで艦載機をかなり失っていたんだ。米軍側はサイパン島に上陸した海兵隊、陸軍の支援の為に近海に張り付いていなければならず、失った分の艦載機や搭乗員を補充することは出来なかったんだ」

「とは言っても米海軍は搔き集められるだけ搔き集めてきた搭乗員だったから、そもそも機体はまだしも搭乗員は失ったら補充もどうにもならないって状況だったんだけどな。一応アメリカ本土の方では養成されていたが実戦投入は到底望めないようなレベルだったし」

 

「マリアナ諸島に米軍が来襲してから2週間後。日本艦隊は日本本土を抜錨しマリアナ諸島に向けて一斉に南下を開始するぜ」

 

 

 

 

「日本艦隊はそれぞれ約16海里、ざっくり30kmほど離れていた。集まると艦隊の規模が大きくなり過ぎて艦隊運動に支障を来たすってのもあったし、単純に敵の攻撃を分散させる狙いもあった」

「最も突出していたのは第五艦隊で、他の艦隊より前方に27海里、約50km先行していたんだ」

 

     第一

 

   第二  第三

 

   第四  第六

 

     

     第五

 

 

「第五艦隊が突出している理由はなんでなの?」

 

「第五艦隊は装甲空母で編成されているからだ。いわば被害担当艦隊と言うべき存在だったんだ。第五艦隊が敵を誘引、吸収している間に他艦隊が攻撃隊の準備を整えたりするという感じだな」

「米艦隊も日本艦隊の接近を前以て知って迎撃準備を整えたんだが、まぁ航空戦力は大分減っているし万全とは到底言い難い状況だった。これでサイパン島を始めとした各島の飛行場が使えていたらまた話は変わっていたかもしれない。この時期米陸軍は既にP‐51やP‐47と言った新鋭戦闘機を続々と配備していた。これらの戦闘機は性能が大戦中トップクラスに高く、しかも米陸軍航空隊に所属するパイロット達は海軍と違って結構ベテランが多かったんだ。だからこれら新鋭戦闘機と共に搭乗員がマリアナ諸島に配備されていたら、恐らく日本海軍は少なからず苦戦を強いられていた筈だ」

 

「でもそうならなかったと」

 

「あぁ。日本軍は米軍が開発したり配備を進めていた航空機を始めとして新兵器の情報はかなり正確に掴んでいたんだ。独自に入手したものもあればドイツから情報提供で得たものもあるが、少なくとも航空機に関しては全ての機種の情報を掴んでいた」

「だからこそマリアナ諸島陥落に伴うB‐29の配備と日本本土空襲も十分に想定されていたし、マリアナ諸島を巡る戦いで飛行場を使わせてしまうと新鋭戦闘機を相手しなければならないという事を分かっていたからマリアナ諸島の死守と、艦隊決戦に伴い敵に飛行場を決して使わせてはいけないと言うのを分かっていたんだ」

 

「なるほどね。でも海軍機のF6FやF4Uは警戒していなかったの?こっちも十分な脅威になるでしょ?」

 

「警戒はしていたが、米陸軍戦闘機ほどでは無かったぜ」

 

「それはなんでなの?」

 

「確かに性能は日本海軍機に比べて優れていたのは事実だ。F4Uなんかは型式によっては時速700kmを余裕で超える。だが肝心の航空機を操る搭乗員の腕がかなり悪いっていうので警戒度で言えば米陸軍戦闘機、米陸軍4発重爆の方が高かったんだぜ」

 

「そういうことね」

 

「実際、P‐51なんかは配備が進められていたD型は最高速度は700kmに迫るものだし、同時期の日本軍機で同等の性能を有していた単発戦闘機は零式局地戦闘機ぐらいしかない。開発中のジェット戦闘機なら速度性能だけで言えば勝っていたけどな」

「だが艦載機でP‐51やP‐47に性能で勝っている機体は無かったんだ。性能で勝っている部分と言えば武装ぐらいだったしな。一応烈風の後継艦載戦闘機として開発が進められていた陣風は、速度性能が660kmを目指して開発されていたが、陣風が完成して量産が開始されるのは戦後だ。それを考えれば日本軍は何が何でも米軍に飛行場を使わせたくなかったんだよ」

 

「どうしても技術力、工業力はアメリカに軍配が上がるものね」

 

 

 

「早朝、日本艦隊は攻撃隊を出撃させる。第一、第二、第三、第四、第六艦隊から延べ2波に渡る第一次攻撃隊だ。第五艦隊は艦隊防空の為に戦力は全て温存し、それ以外の艦隊は全力出撃を仕掛けたぜ」

「総計1900機近い攻撃隊だ。戦力を摺り減らした米艦隊艦載機じゃ到底太刀打ち出来ないのも無理は無かった」

 

「第五艦隊の艦載機は防空に専念していたものね

 

「結果的にこの第一波攻撃隊で、米艦隊は主戦力である高速空母機動部隊に所属していたエセックス級、インディペンデンス級空母は集中攻撃を受けて全滅してしまう」

 

「たった一回の攻撃隊で全滅したの?」

 

「そうだ。米海軍は新兵器としてVT信管の配備を進めていたが、無理矢理作戦時期を速くしたことで本来なら搭載予定だった艦艇の多くが搭載しないまま出撃することになってしまったんだ。実際米艦隊でVT信管を装備していたのは僅か13隻のみで、それ以外の艦艇は旧来の信管のままだったんだ」

「それに日本軍は可能な限り損害を少なくするために欺瞞作戦として艦攻数機に魚雷や爆弾の代わりに、レーダー波を反射する50cm四方の0.5mm厚のアルミ箔を括りつけたワイヤーロープを搭載して敵艦隊上空でこれを垂らしたんだ。するとレーダーには多数の敵機が複数方向に現れたように見える」

 

「なるほど、それで敵機の迎撃を全く何も無いところに誘引したのね」

 

「その通りだ。結果、日本軍攻撃隊が米艦隊のレーダー網に引っ掛かる前にそれをやられたもんだから米艦隊は複数方向に100機単位の敵機が突っ込んできたと勘違いしてそっちに迎撃戦闘機を全部差し向けてしまったんだ。しかしそこには何にもいない。そこに本当の攻撃隊が何百機と突っ込んできたんだ、その時の米艦隊の大混乱ぶりは想像に難くない」

「結果として日本軍攻撃隊を対空砲と機銃だけで迎え撃たねばならなくなった」

「日本軍第一波攻撃隊の任務は、空母を狙うのではなく、突入と撤収進路上に存在する巡洋艦や駆逐艦を攻撃して撃破することだった」

 

「それは何故なの?」

 

「米軍艦艇の対空能力は日本海軍艦艇に比べても高いと言えるんだが、日本軍航空隊はそれを当初から脅威的に感じていたんだ。そこで空母を守る随伴艦をまず最初に叩いて進路上の安全を確保するという戦術を編み出していたんだ。だからだな」

「結果、突入進路、撤収進路上の駆逐艦と巡洋艦は撃沈こそされなかったものの、急降下爆撃で数発の爆弾を食らって能力を減衰させられてしまったんだ」

「その後ろを続く第二波攻撃隊が空母を狙ったんだ。結果が最初に説明した通りだな」

 

「戦艦は狙わなかったの?」

 

「戦艦は防御力も対空能力も高くて沈めるのに苦労するからな。特に障害になる訳でなければ幾らか攻撃をして命中弾があれば良し、無かったとしても無視するってのが日本海軍の中での認識だったんだ」

 

「それなら空母を守る位置にいるんじゃない?普通なら最優先で撃破するものだと思うけど」

 

「米海軍の練度が不足しているってのは覚えているだろ?」

 

「えぇ」

 

「各艦の艦長も正直寄せ集めって感じだったんだ。だから空母を守るのに最適な位置取りが出来ていなかったんだよ。それに戦艦は空母に守られるものだって考えもあったしな。唯一戦艦部隊でベテラン指揮官だったウィリアム・パイ中将は先日の夜戦の結果、いなかったからな。だから戦艦は1、2発爆弾を命中させてそれ以降は放置されていたんだ」

「高速空母機動部隊を叩かれた米艦隊だが、それでも海域に留まっていた」

 

「なんでなの?普通なら撤退するものだと思うけど」

 

「霊夢、忘れてることがあるだろ」

 

「忘れている事?……あっ、海兵隊と陸軍」

 

「その通りだ。米軍は地上部隊をサイパン島に上陸させてしまっていたからな。しかも6個師団だ。撤退するにしても地上部隊を収容しないとならない。だから米艦隊司令官のチェスター・W・ニミッツ大将は撤退の決心が付かなかったんだよ」

「賢明な判断を下せたであろうリッチモンド中将やスプルーアンス中将と言った熟練の提督数名は高速空母機動部隊の指揮を執っていたが、それが日本軍に撃破されたことで連絡が取れていない状況だったんだ。なんせ空母だけじゃなくて重巡クラスにまでかなりの大打撃を被っていたんだからな」

「後々判明した事だが二人とも戦死こそしていなかったものの重症を負っていて、とてもじゃないが指揮や判断を執れる状況ではなかったんだがな」

 

「で、結局どうなったの?」

 

「参謀達は艦隊と輸送船団の即時撤退を進言したものの、海兵隊司令部と陸軍司令部からの圧力もあってニミッツ大将はどうにかして海域に留まり地上部隊を撤退させると譲らなかったんだ。確かに味方を見捨てないという判断を下したわけだから、人間としては出来た判断かもしれないが、この状況での判断では余りにも悪い。結果その判断が下されたことで米艦隊の運命が決まったと言っていい」

「第二次攻撃隊の猛攻を受けたのは、最初の攻撃で攻撃されていなかった多数の護衛空母だった。こっちは取り合えずの体裁を整えられた高速空母機動部隊とは違って、数だけは揃えた本当の寄せ集め部隊だったんだ。艦載機の数こそ満数だがパイロットは正真正銘のひよっこばかリだったんだよ」

「結果、日本軍攻撃隊の迎撃に出撃した艦載機の殆どは撃墜されてしまいパイロットも多くが戦死。30隻を超える護衛空母は殆どが次々と撃沈、撃破されていってしまい、どうにかこうにか撤退に成功したのは僅か2隻だったんだ。この2隻も損傷していて戦闘行動は出来ない状態にあった」

「海域には漂流している護衛空母も数隻存在していて、護衛空母を守っていた駆逐艦や巡洋艦も攻撃されて損傷していたから脱出した乗組員の救助も儘ならない」

 

「悲惨を通り越しているわね……」

 

「最終的に米海軍は空母戦力の殆どを喪失してしまい、海域に残されたのはエアカバーを完全に失った輸送船団と水上打撃部隊だ」

 

「ん?待って頂戴」

 

「どうした?」

 

「生き残りの護衛空母は撤退したのよね?」

 

「そうだな」

 

「でもなんで輸送船団と戦艦主力の水上打撃部隊は海域に残ったの?普通なら撤退するでしょ」

 

「米海軍の思想は未だに大艦巨砲主義だったんだよ」

 

「あー……」

 

「だから戦艦がいれば問題無いって考えで海域に留まってしまったんだ。それが後々、アメリカ海軍史上最悪の敗北と呼ばれる結果に繋がることになる」

 

 

 

 

「海域に留まった水上打撃部隊と輸送船団は何とかしてサイパン島に上陸した海兵隊、陸軍を収容しようと考えていた。作戦継続にしろ撤退するにしろ、サイパン島に既に上陸した師団を回収しなければならないと考えていたんだ」

「この時輸送船団には陸軍と海兵隊合わせて5個師団、10万人がまだ待機していた。上手く行けばこの5個師団を追加で上陸させてサイパン島を陥落させられなくても飛行場を使えるようにすれば陸軍航空隊を進出させてエアカバーを形成出来るとも考えていたんだぜ」

 

「こういう状況を何と言うのかしらね……」

 

「まぁ、詰みとでも言っとけばいいんじゃないか?」

「この判断を下した米軍は、エアカバーを失っている。そこに再武装と補給を終えた日本軍攻撃隊が来襲するぜ」

「それに加えて近海の潜水艦は全て米艦隊への攻撃命令を受けて、米軍輸送船団や米艦隊周辺に集結しつつあった。その数は70隻を超える」

 

「60隻の潜水艦って、どこから持って来たの?」

 

「建造計画で新しく建造された艦や各方面から引き抜いた艦だ。あらゆる戦力を集結させていたこのマリアナでの戦いは日本軍にとっては乾坤一擲だったんだよ」

「マリアナ沖に配備されていた潜水艦の多くは海中型と呼ばれる潜水艦で、当時の日本が持ち得る最大限の技術を結集して設計、建造された潜水艦だ。特筆すべきはその隠密性。今までの日本海軍潜水艦は騒音が酷く、すぐに発見されてしまうようなものばかりだったが、この海中型は全くの別物だ。徹底的に静穏性に配慮した設計をしていたんだ」

 

「なるほどね。米海軍はその接近に気が付かなかったと」

 

「米海軍の対潜技術であれば探知することは出来るし攻撃して撃沈することだって可能だった。ただ兎に角運が悪かった」

「日本海軍が米輸送船団や米艦隊近辺に潜水艦を集結させていた頃、日本艦隊から放たれた攻撃隊による攻撃が始まったんだ。その騒音で潜水艦は探知出来なくなってしまったんだよ」

「爆弾の炸裂音や魚雷の馳走音がごちゃまぜになっている上に、対空戦闘や回避機動を取る自艦や味方艦の騒音で搔き消されてしまったんだ。お陰で日本軍潜水艦は瞬く間に輸送船団に接近して攻撃をすることが出来たんだ」

 

「日本軍は攻撃隊と潜水艦隊が連携している形になったのね」

 

「そう言う訳だ。結果として対空戦闘が終わって被弾損傷をして、しかも攻撃隊が飛び去って一息吐いてしまうという無防備な状態の中に潜水艦から雷撃を食らうことになる」

「潜水艦が雷撃に用いたのは95式魚雷。もっと分かり易く言うなら酸素魚雷だ」

「日本海軍の潜水艦、特に海中型は本来であれば基本的には酸素魚雷を搭載していない。酸素魚雷は確かに高性能だったがその分、整備や調整に物凄く手間が掛かる代物で潜水艦という狭い艦内で運用するには厳しいものだ。だから海中型は酸素魚雷を搭載することは出来ても、基本的には電池魚雷を用いて通商破壊などに従事していたんだ」

「だが、この決戦の為に潜水艦は搭載魚雷を全て酸素魚雷に変えていたんだ。しかも魚雷に搭載されていた爆薬は全て新たに開発された3式爆薬に変えられていた。この爆薬はTNT爆薬の1.6倍の威力を持ち、水中で使用されるとバブルパルスによってより破壊力を増すという魚雷で使われるのに特化しているような爆薬だ」

「だから米海軍の戦艦相手でも凄まじい破壊力を発揮したぜ」

 

「結局米海軍はどうなったの?」

 

「航空攻撃と潜水艦からの雷撃を合わせて9隻の戦艦が撃沈された。残る戦艦も被弾、或いは被雷をしていて満身創痍の状態だった」

「しかしながら日本軍はこの米艦隊に追撃をすることは無く、次に狙ったのは米輸送船団だったぜ。この時狙われた米輸送船団の末路は悲惨極まりなかった。碌に輸送船を守る戦力も無く、艦隊が護衛をしても次々と輸送船は沈められていく」

「米輸送船団はその9割を損傷喪失し、船上に待機していた5個師団も海の上で散ることになった」

「最終的に米艦隊は護衛空母2隻、戦艦2隻、重巡1隻、軽巡3隻、駆逐艦7隻、輸送船5隻を残して撃沈、或いは自沈処理という結果になった。事実上の壊滅だ」

 

「洋上を漂う米兵も、全てを救助する余裕は無く、その多くは日本艦隊に救助されて捕虜になっている。サイパン島に上陸した米海兵隊、米陸軍合わせて6個師団は1週間ほど抵抗を続けたものの、最終的には艦砲射撃を数発食らったところで降伏したぜ」

「このマリアナ決戦で米軍は15万を超える戦死者、捕虜を出すことになり、結果としてアメリカは日本との講和に踏み切ることになる」

 

「まぁ、色々と米側の粗が目立つというか、ちゃんと準備をして挑んでいれば結果も変わっただろうにって感じね」

 

「そうだな」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「今回の解説はこれで終わりだ」

 

「「ご視聴、ありがとうございました」」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

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