知らんうちに弟分がおねショタハーレム主人公になってて狂いそう 作:鐘楼
「決闘だ!」
「……え、俺に言ってる?」
広場で霊子書籍を手に趣味に勤しんでいると、いつもとは雰囲気の違ったフレアルビーが喧嘩を売ってきた。この妖精はざっくり戦闘バカだが割と常識人、くらいに思っていたのだが、改める必要がありそうだ。
「普通に断るけど、なんで?」
「くっ……勝者の余裕か……決まってるだろ、少年の師匠の座を賭けてだ!」
どうやらフレアルビーが奇行に走ってしまったのは、クルスの師匠が俺ということが気に入らなかったかららしい。うーむ……なによりまずは、誤解を解くべきだろう。
「言っておくけど俺、クルスを弟子にした覚えとかないからな?」
クルスの方はそう思っていないだろうが、頼まれたから適当に教えただけだ。それに俺は戦いや力に美学なんか持っていないから、教えることに条件とかもない。まぁ、俺が頼みを聞いてやってもいいと思える相手で、俺に教えを請う奴なんてクルスくらいなんだが。
「とぼけんじゃねぇ! 聞いたんだ……少年がこれからはアタイとの修行を断ってお前に教わるって……!」
「誰から……って、ソフトレイニーか」
大方、ソフトレイニーが盗み聞きしていた俺とクルスの会話を妖精どもに流したんだろう。俺はこういう展開になってもそれはそれで面白いそうだと思ったからソフトレイニーに釘を刺さなかったわけだが、クルスにしてみれば想像より面倒な事態になっているかもしれない。
「とにかく、問答無用! 勝負ッ!」
そう叫びながら、フレアルビーは剣を抜いて襲いかかってくる。躊躇なく繰り出されるその一撃を……俺は避けもしなければ受け止めもしない。クルス相手に教えてるんじゃないのであれば、剣技を剣技で返す義理などどこにもないからだ。
「なッ! ……は?」
抵抗の素振りも見せない俺を信じられないとばかりに目を見開くフレアルビーだが、止まろうとしても遅く、刃が俺に当たり……フレアルビーの表情が驚愕に染まる。フレアルビーの剣は、まるで達人の寸止めのように俺の肌で静止していた。
彼女が何に驚いているのかと言えば、なぜ斬れていないのか、なぜ手応えが一切ないのか、なぜ俺を斬る方向に力を込めても剣が動かないのか……といったところだろう。
「ど……どうなってんだ……?」
「
「というわけで、俺への攻撃は無駄なんだが……気が済むまで斬ってもいいぞ」
「ぐ……けど、それじゃあどっちが少年を導くのに適しているか決められないじゃないか!」
「それなぁ……俺の教え方なんかが優れてるはずないんだが……お前どんな教え方してんの?」
「少年は強い男だ。だから加減は失礼になっちまうだろ? あ、だからこそ子供っぽい部分が良いんだが……」
「そこはいいよそこは」
「す、すまん……で、アタイと少年は高めあう仲だからな。毎回真剣勝負さ!」
「教えてないじゃん」
アドバイスもなく強制的に実戦形式って、それは師匠ポジションというよりライバル以下の何かじゃないだろうか。クルスはわかりにくいと言っていたが、分厚いオブラートである。
「……まぁ、クルスには適度にお前に付き合ってやるよう言っておくから、それで勘弁してくれ」
「ほんとか!?」
「んで、ソフトレイニーはどこからどこまで告げ口したんだ?」
「あぁ……確か……」
……ほぼ全部だった。俺やクルスの一応の秘密こそ漏れていなかったが、あいつの妖精達への思いなんかは全部バレているらしい。クルス、哀れ。
「そんな何から何まで……」
「……アタイが言うのも何だが、ソフトレイニーをあんまり責めないでくれよ。アイツ、最初は少年が妖精をまだ怖がってるから気をつけようって話をしたんだけど、どこからその話を……って流れになって、それで……」
「追及されて全部、と……まぁ押しに弱そうだしな」
「んで……サニーウインドがな……」
「あー……」
一番クルスにべったりなイメージがあるサニーウインドは、クルスから自分に伝説の少年の代わりを求めているんじゃないかという旨の疑惑を向けられており、一番ショッキングかもしれない。
「アイツ……あれ聞いたら飛び出して行っちまったんだよ……ちゃんと伝えなきゃって言ってさ……」
「ほう」
……早いな、告白イベント。
「よし、じゃあ行くか、野次馬」
「……は?」
―――――――――――――
「どうしたんですか、サニーウインドさん。こんなところに呼び出して……」
「ご主人くん……あのね」
里の外れ。妖精達もあまり訪れない場所で、サニーウインドはクルス少年を呼び出していた。
少年の心の内を知ってしまったサニーウインドは、悩み、そして、正面からぶつかることを選んだ。今では伝承など関係なく、少年を想っているということをはっきりと伝えるつもりだった。しかし。
「……誰ッ!?」
間が悪い。場所が悪い。運が悪い。現れたのは、招かれざる者……には、見えなかった。
「あぁ……すまない。邪魔をしてしまったな……私はここを通りたいだけなんだ」
「あなたは……たしか……」
「見たことない妖精の方……?」
一見二人に敵意はなさそうな、見知らぬ妖精。サニーウインドとクルスは納得して、その妖精を通そうとするが、それに待ったをかける者がいた。
「待っタ。ストップだヨ」
「クレイプレシャスさん!?」
「見てたの!?」
別方向の草陰から現れたクレイプレシャスが、里へ入ろうとする妖精を止めたのだ。
「順番待ちをしていただけだヨ……さて、随分久々だけど……何しに来たのカナ、アッシュスティング」
アッシュスティング、そう呼ばれた妖精は肩をすくめる。
「故郷に帰るだけなんだが、止めるのか?」
「フム。しかしキミ。ハッキリ言うけどね、黒化現象に関与しているダロウ?」
「な……!」
「アレが始まったのとキミが消えた時期は一致しているしネ……何より、死んでいなかったのなら正義感の強いキミが今まで動かなかったのはおかしい。そんな怪しい妖精、ボクは通したくないナ」
突然追い求めていた敵かもしれない存在の出現にクルス少年に緊張が走る。
「……このまま押し通っても良いが、大人しく帰ってもいい。条件次第では」
「条件なんて……こっちは三人なんだよ!」
「……サニーウインド。アッシュスティングは強い。帰ってもらえるならその方が良い相手だヨ」
「そんなに、ですか……」
三対一。数的不利にも関わらず、アッシュスティングに焦りは見えず、クルス少年の目からは余裕そのものといった風に見えていた。
「で、条件とはなんなのカナ」
「お前達が連れてきたレヴィンという男を渡せ。それだけだ」
「レヴィンさんを……!?」
「……分かっタ」
「クレイプレシャスさん!?」
「坊や。考えてみたまえ、あの男が敵の手に渡ったくらいでどうにかなると思うカ? ここはあのお兄さんに丸投げがベストだヨ」
「でも……」
クレイプレシャスの主張が正しいことは、クルスにもよく分かった。自分の保護者の計り知れなさを、少年はよく知っていた。
「……嫌です。ごめんなさい、僕は……レヴィンさんを売れません……!」
「坊や……」
「ご主人くん!」
だが、少年は恐れていた。憧れの騎士に迷惑をかけ、見捨てられることを。
「レヴィンさんは……渡しません!」
「……」
故に、少年は剣を抜き、二人の妖精もそれに続いた。
やっと繋がったな!()