知らんうちに弟分がおねショタハーレム主人公になってて狂いそう   作:鐘楼

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厄災(Ⅱ)

 最初の犠牲は、小さな村だった。人間の住む小さな村が、“厄災”の目覚めと同時に消し飛んだ……いや、踏み潰された。

 

 人の生活圏を足と思しきもので悠々と踏み潰す、無貌の巨人。“厄災”の形を、人々は犠牲と共に知ることとなった。

 

―――――――――――――

 

 「……仮称《無貌虚像》、接近中です!」

 「人口密集地に向かってくる、という予想は当たったわけか……」

 「戦線への接触は一時間後になると推測されますが……魔王様」

 「……迎え撃つ……だが、その前に……皆に妾から話がある」

 

 魔王は、作戦を指揮するメンバーが待機しているテントを離れ、今や魔王軍の域を超えて集った戦士達の前へと立った。戦士といえど、魔王からすれば実力的にも精神的にも有象無象でしかない者たちも含まれている。故に、彼らの間には動揺が走っていた。ついに現れた倒すべき敵の悍ましき姿と強大さに押され、不安が伝播していたのだ。

 

 「……種族の壁を越え、国の壁を越え、幾年もの間先人達の血で彩られてきた壁を越えて集った猛き戦士達よ。妾は貴様達を尊敬する」

 

 かつてないほどの大所帯となっていた戦線の規模でも、魔王の声はよく響いた。

 

 「我々は此度の厄災を《無貌虚像》と呼ぶこととした……ここからでもよく見える、アレのことだ」

 

 魔王の言葉に、ざわめきが広がる。察していたこととはいえ、勘違いであることを祈るほどに《無貌虚像》の姿は明確な絶望だった。

 

 「知っての通り、厄災はこの世界を創ったとされる神にして埒外の存在と言われておる……いわば、我々全てにとって完全な外敵であり、力を結集する必要があった」

 

 人間との共同戦線を放棄した魔王は今日までに、他種族の強者たちに協力を求め奔走していた。一番の頼みであった『智龍』にこそ振られてしまったものの、彼女の努力の大きな成果がこの場に現れていた。

 

 「故にこそ、全ての壁を越えてここに集ってくれた勇士たちを妾は誇りに思う」

 

 強者たちは、魔王の見た目からは想像もできない実力を正確に読み取ったうえで、自分たちを讃える彼女の言葉に沸いた。厄災への恐怖も吹き飛ぶような熱狂だったが、反面魔王の内心は暗いままだった。

 

 今の魔王を動かしているのは、多くの者の命を預かる者としての、そしてこの世界でも指折りの強者としての責任だけで、その実誰よりも諦めていたのだ。今も自分で集めた者たちを死地へ誘おうとしている自分を恥じていた。

 

 「……では、詳しい作戦を説明させてもらう」

 「……魔王殿!」

 「む……貴様たちは」

 

 魔王の、戦線の前に現れたのは、人間の軍だった。それも、ついこの前に魔王が共同戦線を放棄した国の者たちが中心となっていた。

 

 「私はロクルス王国騎士団長代理を務めている者! この度は対厄災戦線に参加したく!」

 「……歓迎する。貴君らの勇気に敬意を」

 

 仇敵たる種族を受け入れ、先の言葉を実践する魔王に、集まった軍勢から敬意が募っていく。しかし、当の魔王の内心は。

 

 (大人しく、愛する者とでも終わりを待てば良いものを……)

 

 やはり、諦観に満ちたものだった。

 

―――――――――――――

 

 分かっていたことだった。

 

 「莫迦者! あれは魔力によるものではない! 対魔法障壁では……ぐっ!」

 「魔王様! 謎の砲撃と足の一薙ぎで軍勢の二割が損壊しています! 何か策を……!」

 「分かっておる! こちらの攻撃はどれもが有効打になっておらぬ……妾が弱点を探る! それまでに全員サポートに回れ!」

 

 こうなることは分かってはいたものの、魔王にとってそれは屈する理由にも背を向ける理由にもならなかった。

 

 「聞いてねぇ! 聞いてねぇよ、あんな……ぐわぁぁ!」

 「わ……私の魔法が通じない!? あ、ありえ……ひゅ」

 

 《無貌虚像》は魔王の想像通りに強く、一瞬で戦士たちに壊滅的な被害を与えた。何より問題なのは、物理攻撃は言うに及ばず、魔法攻撃ですら《無貌虚像》はダメージを受ける素振りを見せなかったことだ。魔王にすら、それがそもそも無効化されているのか損害を限りなく0に近く軽減されているのかの判別することかなわない。

 

 「ハァッ!」

 

 ならばと、魔王は魔法ではない謎の砲撃を躱した隙に巨体の攻撃が届かなさそうな《無貌虚像》の肩に飛び乗ると、強化魔法を重ねがけした一撃をぶつける。

 

 結果は……ひび割れという形で、ダメージを与えることに成功した。

 

 「……ッ!」

 

 小回りが効かぬ手足では届かないものの、砲撃はどこにでも撃てるのか迎撃を試みる《無貌虚像》。隙を突かれた魔王は掠り傷をもらう。しかし、その内心に自分の傷を慮る余裕はなかった。

 

 (単純に、火力が足りぬ……!)

 

 威力だけに特化した一撃でやっとダメージを与えられたということは、何か特別な力を攻略すれば済むことではなく、純粋な力で先ほどよりも強力な攻撃をしなければならないということ。魔王に、その手立てはなかった。

 

 「……ッ、総員、警戒──!」

 

 思考を中断させる、《無貌虚像》の無慈悲な攻撃。実のところ、一度の砲撃に数の制限はなく、有象無象を蹴散らすために取った厄災の行動は、全方位への逃げ場のない砲撃の雨。

 

 「……はァァァ!」

 

 先の一撃で、この砲撃が防御不可能なものだと分かっていた魔王は、とっさの判断で厄災が出現させた砲門よりも上空に跳躍して避けることに成功した……が、その魔王が振り返った時に見た物は壊滅した軍勢だった。

 

 「……く……貴様ァァァ!」

 

 半ば自暴自棄気味に、魔王は持てる魔力のほとんど全てを使って渾身の一撃を繰り出し……厄災の腕を穿った。

 

 「ハ……これで、一矢……な……!」

 

 一矢報いた、そのはずが、地に落ちていた《無貌虚像》の破片がひとりでに動き出し、瞬く間に再生し始める光景を目にした魔王は、動くこともできずにそれを見ているしかできない。

 

 「終わり、か……!?」

 

 魔王が絶望し、目を閉じる寸前、彼女は信じられないものを見た。

 

 「人間の少年……!?」




ここ最近びっくりするくらい懐かしい作品が次々更新再開されてたけど更新してない自分が辛すぎて読めてないんダワ
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