知らんうちに弟分がおねショタハーレム主人公になってて狂いそう 作:鐘楼
少年にとっては喜ばしいことに、私にとっては残念なことに、目的地に困ることはなかった。私と少年が上陸するや否や、見るからに邪悪で巨大な像が現れたのだ。
少年は巨大像に向かって一直線で進んでいく。少しだけ期待していた大陸での旅を楽しむ余裕などは全くなかった。少年が挑まんとする敵の姿を見て、未だ無敗であるにも拘わらず少年の勝利を信じる気持ちは一層弱くなっていたからだ。少年の死を見届けるだけの旅に、気は滅入るばかりだった。
会話もなく、やがて会敵を果たすと、そこにはおびただしい死の跡が広がっていた。全て、あの巨像がやったということは一目で分かった。
「人間の少年……!?」
唯一生き残っていたらしい魔族の少女が、前に出て巨大像を見上げる少年に驚いた声を出す。もちろん、少年はそんな声を気にも留めず……おもむろに、私の分身とも呼べる剣を振るった。
「なっ……!」
瞬間、巨大像の腹が抉れた。少年自身は真っ二つにできなかったのが不思議だったのか首をかしげるが、次に起こった光景には目を見張った。少年に抉られた欠損を補うように散った破片が動き出し、傷を修復し始めたのだ。
「き、傷が……」
「……あれだけのダメージでも結果は変わらんか」
私も、魔族の少女も同じ思いを抱いたみたいだが、少年の感想は真逆であることをその表情が物語っていた。
「! 来るぞ、避けろ!」
その警告を受け取ったのか、単に攻撃の予兆を感じたのか、少年は巨大像の黒い砲撃を危なげなく避ける。が、避け方がダメだった。上に飛び、逃げ場のなくなった少年に、二撃目が放たれる。しかし、少年にも私にも焦りはなかった。それはこれまでの経験が生んだ少年の能力への過信であり、致命的な誤りだった。
「!? なんで……!」
魔法攻撃の類いなら、少年に吸収されて終わりだ……という予想を裏切り、現実には少年は身体の半分ほどを欠損した。
「今まで魔法が効いたことなんて……」
「あれは魔法ではない! 防ぐ方法などないのだ!」
「魔法じゃない……? それより少年くんは……!」
少年は、痛みというものを感じる素振りも見せず、回復に努めていた。出会ったときに見せた回復能力はあれだけのダメージでも機能しているようだが、今の少年は隙だらけだ。巨大像はその隙を見逃すことなく、あまりにも巨大な腕のようなもので叩き潰そうとする。
「不味いぞ……!」
「……」
……大丈夫、なはずだ。今の少年は物理攻撃なら全て吸収して自分の力にできる。なんなら、巨大像は罠にかかったとも言える。剣で隔たれているとはいえ、少年にあそこまで肉薄すれば最初に魔族を撃破したときに見せた生命力吸収の餌食だ。なのに、先ほどの砲撃がチラついて不安を拭えない。
結果、少年は残った片手で振り下ろされる巨大な腕を難なく受け止める。あの様子では、自分にのし掛かる力を吸収することには成功しているようだが、逆に相手の生命力を奪えているようにも見えない。
……魔族の女の子が言うには、あの砲撃は魔力とは違った力で放たれているらしい。だとすれば、あの時吸収できなかったのは少年とその能力にとって未知の力だったからではないだろうか。そして、あの巨体を動かしているのが普通の生き物と同じ生命力ではなくその未知の力なら、巨大像が少年に力を吸われなかった理由も説明できる。
「……あっ、少年くん!」
再び、あの砲撃が来る。それに気づいた少年は、あっさりと巨大な腕を横に弾いて回避を試みるが、少年の身体はそれに応えられるまで回復しきっていなかった。あれでは、今度こそ防げない砲撃が直撃してしまう。
「
魔族の少女が魔法を使った声が聞こえたかと思えば、そちらを見るまでもなく次の瞬間には少女が少年くんに向かってものすごい勢いで突っ込んできていた。少女は少年くんに襲いかかる砲撃が当たる寸前に少年くんを抱えて脱出することに成功するが、完全に避けることは叶わず片足に砲撃が掠ってしまっていた。
「ぐっ……!」
「あなた、大丈夫!?」
「問題ない……! どうでもいいのだ! 妾の命など! 希望はこの少年にしかない……ようやく見えた勝機なのだ……!」
痛みに耐えるように、そう叫ぶ魔族の少女からは、私たち妖精にはない責務のような……背負うものの大きさを感じさせる。どこの誰なのかは分からないが、実力も覚悟も見た目通りではないようだ。
「……どいて」
「! ……ああ」
少女に抱えられた少年くんが不機嫌そうに抗議すると、少女は少年くんを解放した。少年くんの身体は、概ね修復が完了したように見える……が、見えるだけでその身に宿す力の方はかなり削られているようにも思える。
「……それで、少年……勝てるのか、《無貌虚像》に」
「わかんないけど、勝てなくてもやるし。いみある? それ」
「……」
「そんなことよりここって、沢山死んだの?」
「あぁ……皆、勇敢だった……」
「ふーん……だったら」
「少年くん、何を……あ」
徐に、少年は私の剣を掲げる。そして、マナが揺れた。いや、揺れなんてものじゃない。まるで渦のようにマナが……いや、この場に漂っていた大量の人々の魂が少年くんに吸われていく。少年の力の原点、世界に漂うマナを、その元となる魂を、それに類する魔力を自らの力として吸収する少年の能力。思えば、この場は……大量の命が少し前に散っている場所はその力を発揮するに適しすぎている。
「これは……散った者たちの魂を喰らっているのか!?なんという……」
「ふ……は……あはは……ははははははは……!」
「しょ、少年くん!」
少年くんの、これまでで一番の凶笑。マナの渦が大きくなるにつれ、違和感。寒い、軽い、暗い。そんな感覚が押し寄せる。
「っ……このままでは巻き込まれる……退くぞ妖精よ!」
片足が使い物にならないにも関わらず、魔族の少女は私を抱えて脱出してみせる。しかし、当の私は少年くんから目を離せなかった。
「きれい……」
マナの大渦は、視界には映らない。しかし、この場の変化はそれだけではない。少年くんの周りには、かつて雑草や骸だったものの灰と、燦めく氷の礫が宙に舞い、それを夜から切り取ってきたような闇が覆う、この世のものとは思えない光景が広がっていた。
邪悪な元気玉だなぁ……