知らんうちに弟分がおねショタハーレム主人公になってて狂いそう 作:鐘楼
「戻ってきたか少年! あいつは……あっ、野次馬は秘密だったか……」
「フレアルビーさん……レヴィンさんは……」
里に帰ってきたクルス少年、サニーウインド、クレイプレシャスを出迎えたフレアルビーは、二つの違和感を覚えた。一つは、『こくはくいべんと』がどうのと言って野次馬をしに行ったあの男……少年が敬愛するレヴィンという男の姿が見えないこと。もう一つは、帰ってきた三人が皆一様に暗い顔をしていたことだ。
「レヴィンさんは……僕たちの代わりに……黒化現象の犯人と……うぅ」
「……ボクが説明するヨ。フレア君も名前はしっているダロウ、アッシュスティング」
「あぁ……生まれたての頃に面倒を見てもらった気がするぞ! いつか戦ってみたい相手だ!」
「……生まれたての頃に、カ。若いネ、キミもサニー君も……昔はもっと彼女の名が通っていたんだケド……アぁ、話が逸れてしまったネ」
妖精の社会は、情報の格差が深刻だ。文字を初めとする伝達手段を扱うのは、クレイプレシャスのような変わり者だけで、種族単位での知識の蓄積は基本的に行われない。多くの妖精は同族を単なる遊び相手くらいにしか思っておらず、アッシュスティングのように種族単位で仲間意識を持つ者は少ない。それだけ、口伝であれだけ普及した“伝説の少年”が異質なのだが……ともかく、そんな知識のギャップから、クレイプレシャスのようなタイプの妖精は周囲と話が合わないことが多く、やがてはジェネレーションギャップにも苦しむことになる。妖精の知識や知性は寿命に直結するのだ。
「そのアッシュスティングが、黒化現象の犯人の一人だった。妖精のため、とやらを標榜していた彼女がなぜ……と言いたいところダガ、これはキミに言っても仕方がない。重要なのは……」
「……その妖精の方に僕たちは全く敵わなくて……レヴィンさんが一人で……」
「あいつが一人で……って、それは……」
ことの顛末を聞かされたフレアルビーが思い起こすのは、決闘を申し込んだ自分を軽くあしらった男の姿。フレアルビーには、妖精の中でもかなり戦える方だという自負がある。そんな自分を勝負の土俵にすら立たせなかったレヴィンという男が負けるイメージが、フレアルビーには想像できなかった。
「……大丈夫じゃないか? あいつがピンチになるところが想像できないぞ」
「ボクも同意見ダ。レヴィンお兄さんならどうとでもなるだろうサ。ケド……」
「……ご主人くんが落ち込んでるのは、あの人が心配だからじゃないんでしょ?」
普段の調子とは打って変わって、帰還から今まで黙ったままだったサニーウインドがクルス少年に語りかけるようにその心中を言い当てる。言われたクルスは、俯きながらも確かにうなずく。
「……レヴィンさんは、ずっと僕の憧れだったんです」
「ずっと、って……少年とあいつはそんなに古い仲なのか?」
「いえ……知り合いだったわけじゃないんです。一方的に僕が知っていて……というか、有名なんです。レヴィンさんは」
「有名……確かに、あの奇行はとても印象に残るガ……」
「い、いえ。そういうのじゃなくて……レヴィン騎士物語と言って……魔族と人間の争いを終わらせたのがレヴィンさんなんです」
その言葉を聞いた三人の妖精は一様に驚き……その後に、一斉に首をかしげた。
「……あいつにそんな正義の心があるのか……?」
「たしかに凄い強さだったけど……」
「……そもそも、騎士といのは王国に仕える者の称号ダロウ? あのお兄さんに君主ガ……?」
「き、気持ちは分かりますけど……」
「事実なのかい? お兄さんは何テ?」
「えーと、『脚色が酷すぎるが、まぁ箇条書きだと間違ってはいないかもしれない』と……」
「煮え切らない答えだな……」
明かされる衝撃の事実に、妖精達は困惑する。
「……それで、どんな物語なんだい? その騎士物語というのハ」
「レヴィン少年が辺境で悪さをしていた魔法使いを倒したことで騎士に徴用されて、やがて出会った二人の仲間と共に旅をして、最後には魔王と手を取り合うという話でして……僕の国では定番のおとぎ話なんです。今にして思えば、未だ衰えず存命しているレヴィンさんを国が利用した示威の一環だったんでしょうけど……とにかく、小さい頃の僕はあのお話が好きで、一度は物語の騎士に会ってみたいなと思っていました」
「そんな人が、今ではご主人くんの保護者で、師匠……」
「はい……そうなった理由は……今は言えないんですけど、僕自身が特別なものを持っていたからじゃないんです。それでも、そんな人が僕に戦い方や夢のような力の使い方を教えてくれて……嬉しかったんです」
「でも……」
サニーウインドは言いかけて、途中で口を閉ざす。フレアルビーを除いた面々に思い浮かぶのは、レヴィンとクルスのあの時のやりとり。
『そんな! 僕たちも……!』
『足手まといだ!』
『っ! でも……僕はレヴィンさんの教えを……』
『あれは遊びだ! このレベルには通用しない……!』
『……わかり、ました……』
妖精達はもちろん、クルスでさえも聞いたことのない厳しい口調でレヴィンはクルスの助けを拒絶した。
「……言われてしまいました……僕の剣は、力は……遊びだって」
「ご主人くん……」
「少年……」
「……」
「前々から、言われてはいたんです。『弟子にしたわけじゃない』『暇つぶしに教えてるだけ』『何かあったら戦おうとせず逃げて俺を待て』って。でも、皆さんと戦ってきて自信もついて、もしかしたらレヴィンさんに認めてもらえるかもしれないと勘違いして……そんな時に、ハッキリと遊びだと言われて……その言葉の通りに歯が立たなくて……」
少年の失意に、妖精達は何も言えなかった。少年の方も、言葉を切って黙り込み、その場には沈黙が流れる。そんな暗い雰囲気を打ち破ったのは、意識していつもの調子に戻したサニーウインドの一声だった。
「ご主人くん!」
「……は、はい」
「さっき言えなかったこと、ここで言うね!」
「な、なんですか……?」
「聞いちゃったんだ。ご主人くんが……私はあなたに伝説の少年の代わりを求めてるだけなんじゃないか疑ってる、って……」
「そ、それはどこで……」
「それを聞いて! 反省したんだ……それで、ちゃんと言わなきゃって思って」
サニーウインドは、勢いよく少年の手を取る。至近距離で見つめ合うことになり、クルス少年は盗聴の件も忘れて顔を赤くした。
「確かに、最初の頃はその剣を抜いたご主人くんを……クルスくんを見て私も伝説に出てくる妖精みたいにって思ったよ……でも、今は違うの。短いかもしれないけど、その分濃い時間を過ごして、一緒に戦って……伝説とは関係ない、クルスくんと仲良くなって、もっと好きになって、一緒に強くなって……そんな時間を! 遊びで終わらせる権利は、あの人にもないよ……!」
「サニーウインドさん……」
思いの丈をありのままぶちまけたサニーウインドに、クルス少年は胸に広がる暖かいものを感じ、深く反省した。
「……そうですよね、ごめんなさい……皆さんと歩んできた戦いを遊びだなんて、失礼でした」
「……まぁ、ボクたちの戦いまで遊びだというのは坊やとサニー君の拡大解釈であっテ、お兄さんにそんな意図ハ……」
「水を差すようなこと言うなよ! にしても、残念だなぁ。アッシュスティングに敵わなかったのは、アタシが欠けてたせいだろ?」
「あはは、そうかもしれません」
すっかり明るくなった雰囲気の中、クルスはその立役者であるサニーウインドに向き直る。
「サニーウインドさん」
「なーに?」
「……その、サニーさんって、呼んでいいですか?」
「~~~~~~~~っ! クルスくんっ!」
豊満な胸に包まれ、息が苦しくなる中、少年は思う。
(……打ち明けても、いいのかな……身分のこと……王国のこと……打ち明けたって、きっと皆さんは……)
受け入れてくれる。そんなことを考えるクルスの胸中は、すっかり晴れやかになっていた。
一方で。
「……鈍いよネ。坊やも……サニー君も……イヤ、彼女のそれは美点だけどサ」
クレイプレシャスは、まるで弟子を守るかのようにアッシュスティングを一人で引き受けた男のことを思い浮かべていた。
(お兄さん、あんなに演技が下手なのに)
生まれからの脆弱が故に知識を求めた灰色の妖精は、多くの未知を秘める男の考察に、静かに心が躍っていた。