知らんうちに弟分がおねショタハーレム主人公になってて狂いそう   作:鐘楼

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厄災(Ⅳ)

 「どうなっているのだ……!」

 

 灰に変わっていく雑草や骸。急速に冷えていく気温。軽さでは説明がつかないほど浮かび続ける灰や氷。少年の周りだけに現れた闇。魔族の少女には何が起こっているのか見当もつかないだろうが、私はある予想ができていた。

 

 「あの時と同じなんだ……」

 「あの時?」

 「少年くんが私の剣を使って今までにない効率で力を吸って蓄えた時……新しく生命力を吸えるようになった……今回も……」

 「……確認したいことが山ほどあるが、つまり……あの少年の蓄えた力が一定に達すれば、新たに喰らえる力の種類が増える、ということか?」

 「多分……すごい、すごいよ少年くん……!」

 「なんという……では、さしずめこれは……“熱"“重力”“光”を喰らった結果……」

 

 あの厄災と思しき巨像さえもこの不可解な光景を観察していたのか、しばらく沈黙していた。しかし、少年が一歩を踏み出したのをきっかけに再び戦いが始まる。

 

 「なっ……!」

 

 いや、もはや戦いではない。巨像も物理攻撃が効かないとは学習していたのかあの砲撃を少年くんに放つが、その時には既に少年の姿はかき消え、私たちも巨像も思わず少年の姿を探し……それが叶うよりも前に、巨像の四肢に当たる部位が全て切断され、腕や胴が地に落ちる音が響き渡った。

 

 「少年くんの……勝ちだ……やった、やったよ……!」

 「はは……恥知らずの言葉だが、なぜもっと早くに、と思ってしまうな……」

 

 圧倒的だ。これはもう戦いじゃなく、蹂躙。勝負はもう終わっている。少年くんは倒れ横たわる巨像に、復元するよりも前に切り刻む。しかし、木っ端微塵にされても未だにその機能は損なっていないらしく、宙に砲門が現れ少年くんに砲撃を浴びせる。

 

 もちろん難なくそれを避ける少年くんだったが、そのわずかな隙で巨像は一部のパーツを復元させてしまった。

 

 「これは……」

 「もうほとんど少年くんの勝ちなのに……」

 「奴はどうすれば死ぬというのだ……?」

 

 明らかに圧倒しているのは少年くんの方だ。けれども、魔族の少女の言うとおりあの巨像が完全に停止する未来が見えない。これでは、いつか逆転してしまうんじゃ……という不安が頭をよぎったちょうどその時、少年くんが回避をやめた。

 

 「えっ……」

 

 あの砲撃に向かって、少年くんは正面に立って手を突き出す。

 

 やがて、当たり前に砲撃の光が少年くんを飲み込む……が、砲撃が終わり光から現れた少年くんは全くの無傷だった。

 

 「……あの砲撃の力を吸収したのか!」

 「そ、そっか……だったら……」

 

 確認は既に済んだとばかりに、少年くんは剣を下ろしてゆっくりと歩み始めた。巨像は向かってくる脅威に対して果敢に砲撃を放つが、もうそれは少年くんに対する攻撃になりはしない。いや、それどころか少年に塩を送るようなものなのかも知れない。

 

 もはや、倒せない。どうやっても。それを認めてしまったらしい巨像は……背を向けて逃げ出した。その背を見た少年くんは一瞬面倒そうに顔をしかめ……跳んだ。一瞬にして距離を詰め、巨像の身体に少年くんが触れると、叫び、軋み、呻きのような……生き物のそれではなくとも確かな苦悶の音を鳴らし、震え……やがて、塵となって消えた。

 

 正真正銘、少年くんの勝利だ。

 

 「勝った……勝ったんだ、少年くーんっ!」

 「……厄災を、退けたのか……都合の良い妄想……にしては、あまりに突飛だな……」

 

 誰より強く、勇敢な私の英雄を迎えに、駆ける。塵となった厄災をしばらく見上げた少年くんは踵を返し、私の方へと進み始め──崩れ落ちた。

 

 「ぇ──」

 

 慌てて、倒れた少年に駆け寄る。ついさっきまで不敵な笑みが浮かんでいた少年くんの表情には困惑と苦しみが浮かんでいた。

 

 「少年くん!しっかりしてよ!」

 「どうしたというのだ!」

 「分かんない! 少年くんが……!」

 

 異常を察してやってきた魔族の少女は、私よりも冷静に少年くんの身体に触れる。

 

 「……これは」

 「何か分かるの!? 一体何で……!」

 「……奴の、力……《無貌虚像》の砲撃、そしてその身体を動かしていた謎のエネルギーが、少年の身体を内から傷つけている……アレは、人の身に宿して良い代物ではなかったのだ……」

 「そ……そんな、なんとかできないの!?」

 「……すまぬ……そもそもこの力の委細を掴めていたのなら、妾がこの手で奴を……!」 「え……少年くん、嘘だよね……少年くんは無敵なんだよね! ねぇ!」

 「…………ま、あ……ひきわけ、か……」

 「少年くん! 少年くん!」

 

 徐々に冷たくなっていく少年くんの体温を拒むように、私は叫び続けた。

 

―――――――――――――

 

 「……妖精よ。彼は英雄だ……その褒美を、代わりに受け取る権利がお主にはあるように思う」

 「……いらないよ」

 「そうか……」

 

 泣き止んでも、いまだ眠る少年くんを抱いたままの私に、魔族の少女がそんな声をかけてくる。褒美なんて、そんなものはどうでも良かった。少年くんを返して、だなんて叶うわけもない。

 

 「……では、妾はこれで──」

 「邪魔だ、そこの妖精」

 「っ!?」

 

 魔族の少女が去ろうとしたその時、突然現れた一団の、一人の男がそう言い放つ。

 

 「それを、渡してもらおう」

 「それ、って──」

 「その愚か者の死体に決まっているだろう」

 「っ! そもそもあなたたちは何者……!?」

 「答える理由はない」

 

 問答無用といった風に、いきなり攻撃を仕掛けてくる男。私自身は、相も変わらず弱い。数年前に少年くんの剣を創って大幅に弱体化したこともあるけど、そもそもこんなに距離を詰められたらどうしようもない。だから、来る衝撃に備えて目をつむる。

 

 「させると思うか」

 「っ! ……これはこれは、魔王様」

 

 ……が、男の攻撃が私に届くことはなかった。魔族の少女が私を守ったのだ。

 

 「……厄災を信仰する莫迦者どもというのは、お前たちで相違ないか?」

 「……そこまで情報を掴んでいるか」

 「なぜ少年の亡骸を狙う」

 「なぜ……? 決まっているだろう! あのお方に知性が宿るよりも前に卑怯な手で……! あぁ……ああ、すまない。だが、その愚物には挽回のチャンスが与えられている」

 

 警戒を解かず、冷静に敵を分析している魔族の少女とは対照的に、少年くんを侮辱された私の頭は真っ白になっていた。

 

 「その死体には、あのお方から奪った力が宿っておられる……! それを利用すれば次の復活を迅速に……! さらにはあのお方の力を我らに……!」

 「夢物語だな。貴様らはここで果てる」

 「……ハッタリもいい加減にしろよ、魔王。その身体、その残り滓の魔力で、我々と戦い勝つと……? ふざけるな」

 

 男が腕を振り下ろすと、部下たちが一斉に魔族の少女に襲いかかる。彼女に少年くんのような規格外の治癒能力があるわけもなく、少年くんを庇ったときに負った片足のダメージは最低限の治癒魔法で取り繕っただけだ。にも拘わらず互角以上の戦いを繰り広げているが、目の前のボスらしい男から私と少年くんを守ることはできそうもない。

 

 「では、渡してもらおうか」

 「渡すもんか! 少年くんは島に……ぐっ!」

 「妖精ごときが我らの邪魔をするな!」

 

 あっけなく蹴り飛ばされ、少年くんを手放してしまう。男は少年くんを乱雑に拾い上げ、踵を返す。

 

 「ま、待てぇ……!」

 「どけ」

 「ぐぁっ……!」

 

 行かせるものかと足を掴むが、掴んだ腕を切り落とされる。身体を生成し直すことも忘れ、這いずるようにして男へ向かう。

 

 「……死体は手に入った。死に損ないの魔王に付き合う道理はない! 退くぞ!」

 

 行ってしまう。わけの分からない一団が、少年くんを連れて。

 

 「ぐ……限界、か……」

 

 一団の姿が見えなくなり、魔族の少女が倒れる音が聞こえても、私は這いつくばったままだった。私の胸に宿った、煮えたぎる炎に内側から焼かれるような感覚に、残った方の拳を握る力が止まらない。

 

 いや、拳の力だけじゃない。激情を自覚した途端、あらゆる力が増していく。

 

 「絶対に許さない……」

 

 私に残されたのは、彼が使っていた剣だけ。……せめてこれだけは、妖精島に持って帰る。

 それが終われば……復讐を……奴らに、報いを。




享年15歳
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