知らんうちに弟分がおねショタハーレム主人公になってて狂いそう   作:鐘楼

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ブラックデザイア(Ⅰ)

 「こ……来ないで!」

 「黙れ! こちとらもう手ぶらじゃ帰れねぇんだよ!」

 

 追い詰められた私に向かって、男たちの一人が叫ぶ。どうやら今に至る過程で仲間を数人失っているらしいが、そんなの私の知ったことじゃない。そもそも妖精を攫う目的で島に上陸しておいてどういう言い草だ。

 

 内心でそう毒づくけれど、私のピンチは変わらない。

 

 「お前ら! 絶対に逃がすなよ! 油断もするな! こいつらは化け物だ、見た目に騙されるんじゃねぇ! そんでさっさとずらかって金に換えるんだ!」

 「っ……!」

 

 男の号令で沸き立つ賊たち。その瞳には勘違いした愚か者の俗物のようなギラついた欲望ではなく、一刻も早く成果を得て島から脱出しようという覚悟が宿っていた。これでは油断を望めそうにない。

 

 いよいよマズいことになってしまった。普通島では、あんな人間の烏合の衆は狩られる側であり、悪戯好きの妖精たちによって弄ばれて殺されるのがオチだ。だが、私は他の妖精たちから能力のせいで避けられているのもあって一人。しかも直接戦闘は苦手中の苦手だ。

 

 「一斉にやるぞ! ──ぁ……?」

 

 リーダー格の男が合図となる雄叫びを挙げようと口を開け……その口からは疑問のような、嗚咽のような呻きが漏れる。そして、血しぶきが噴き出す。それが断末魔だった。

 

 「なっ……リーダー! がっ」

 「よ、妖精のしわ──」

 

 違う。私は何もしていないし、この場に他の妖精はいない。

 

 「が、ガキだッ! なんだこの──」

 

 血しぶきの中から現れたのは、小さな人影。その人影は、跳ねるように跳び、刺して一つ。空で回って圧し斬りまた二つ。振り向きざまに横薙ぎに蹴り潰して三つと、その剣と身体で次々に命を奪っていく。

 

 「ひっ……く、来るな!」

 

 最後の一人が恐怖に染まった顔で後ずさる。そんな男に躊躇う様子もなく剣を向ける血塗れの人影は……少年だ。喚きなのか命乞いなのか、必死に口を動かす男を見た少年は笑い──あっさりと男の首を断った。

 

 ……助けてくれた……んだろうか……?

 

 一回も私を見てないし、そんなつもりはなさそうに見えるけど……助かったのは事実だから、人間だけどお礼はしておこうかな。

 

 「ね、ねぇそこの君? 助けてくれたんだよね? ありが──」

 

 お礼を言っておこうと声をかけ、少年の瞳に私が映った瞬間。

 

 私の頭は宙に舞っていた。

 

 「ちょ……いきなり何するの!」

 「!……なんで」

 「……知らないの? 妖精は魔力核を破壊されない限り……」

 「なんで血が出ないの」

 「そ……そこ?」

 

 私の魔力核は右胸の方にあるので、転がった頭の方を消して新しく首を構成する。

 

 「えっとね、だから……妖精を殺すには魔力の籠もった攻撃で核を破壊するか、そこに倒れてる奴らが持ってるような魔道具じゃないと……」

 「ふーん……つまんないんだね、妖精って」

 「つ、つま……!?」

 

 興味なさげに私の説明を聞いた少年は、本当につまらなさそうな目で私を見てそう言った。なんて失礼な……人間の子供はみんなこう……なわけはないか。この島に来るような妖精を奴隷にしようとする輩よりはマシかもしれないけど……待って、未遂だけど殺されかけてるんだぞ私。感覚が麻痺していないか?

 

 「って、妖精のこと知らないのにこの場所に来たの?」

 「……仕留め損ねた奴がここに逃げ込んだから、追いかけてきた」

 「仕留め損ねたって……それってどんな……」

 「もらったァ!!」

 

 少年が仕留め損ねたという存在について聞こうとしたその時、仲間の骸に隠れていた男が突然起き上がり、無防備な少年の背に刃を突き立てた。

 

 「へ……へへ、やってや──ガッ!」

 

 後ろから刺され、お腹の方から刃が見えている少年は顔色一つ変えずに、最初に見たときと遜色ない動きで男を真っ二つに切り裂いた。

 

 「だ……大丈夫!?」

 「ふ……ふふ」

 「!……これ」

 

 近くで見て、分かった。この子は人を殺した後に、その魂を吸っている。

 

 ……魂に知能は関係がない。妖精はまた特殊なのだが……植物も動物も、死ねば皆魂となり、その場に滞留する。滞留した魂はやがて死神によってパーソナリティが漂白され、人間や魔族の魔法使いが魔法に利用するマナになる……が、少年は魂もマナも等しく吸って自身の力に換えていた。その証拠に、よくよく見れば一度にこれだけの人間が死んだというのにこの場には魂が全く滞留していないし、少年が魂を吸うほどに傷がみるみると塞がっていっている。

 

 ……まさか、『つまらない』っていうのは私の魂を吸えなかったから……!?

 

 「……あ、待って!」

 「……なに」

 

 本当にもう私への興味がないんだろう、何も言わずに少年が歩き出したところを慌てて引き留める。

 

 「あ……な、名前! あなた名前は?」

 「そんなのないけど」

 「な、ない……? 人間は両親から貰うって……」

 「両親……? わかんないけど、たぶん殺した」

 

 そうなんでもないように少年は言う。いや、なんでもない“ように"じゃなくて本当になんでもないことだと思っている……私にはそんな風に見えた。それが良いことなのか悪いことなのかは、私じゃとても分からない。

 

 「ま、待って! じゃ、じゃあ……なにか食べない? その……仕留め損ねた人……だっけ? とにかく、ずっと探してたら疲れちゃうよ!」

 「食べる……? あぁ、おれそういうのしない」

 「しないって……人間がそんなわけ……あ」

 

 ……この子は、魂と同時にマナも吸って自分の力としていた。もしあれが戦闘中でなくても出来るのであれば……無理に摂食を行わなくても活動できる。……妖精のように。

 

 「もういい?」

 「え……じゃ、じゃあお風呂! そんなに血だらけじゃ汚いよ!」

 「……なにそれ。血はずっとだし。おねえさん、しつこい」

 「お……おねえさん……」

 

 おねえさん……おねえさん……良い響き……はっ!

 

 「……ま、待ってよう!」

 

 私が『おねえさん』という言葉の響きを噛みしめている間に、少年はスタスタと歩き始めていた。油断も隙もない。

 

 「わ、私ブラックデザイアっていうの! あなた……いえ、キミの面倒を見るつもりだから、よろしく!」

 「……はぁ? 意味分かんない」

 

 ……この子が見せた。マナや魂……いや、“力”を吸う能力。今は栄養や回復にしか使えないみたいだけど、攻撃に使えるようになれば……妖精の仲間を容易に殺し得る。それができると知ったとき、彼はどうなるだろうか、純粋な魔力そのものと言ってもいい妖精に味を占めてその凶刃を妖精に向けるのではないだろうか。そうならないために、あるいはそうなってしまった時のために、私が監視しなければいけない。

 

 決して、人間なんかが心配になったわけではないのだ。

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