知らんうちに弟分がおねショタハーレム主人公になってて狂いそう 作:鐘楼
「レヴィン卿は大丈夫だろうか……」
ロクルス王国を追われ、異国の地で君主の……クルス王子の無事と、王子を任せたレヴィン卿のことを想う。
私……アンリエッタ・ドラクロワは、君主であるクルス王子を王国から逃すためレヴィン卿に王子を託したことで国からの逃亡生活を送っていた。
……ロクルス王国は詰んでいる。既に毒は回りきり、いずれ腐り落ちる……だけで済めば良いが、もはや自滅どころか外道の傀儡として人類の……いや、この世界に害を為す病巣になり果てた。
初代国王が建国して九代続いた王国だが、次第に《拝淵教団》なる組織の手が入り込み、今やほとんど掌握されてしまった。決定打だったのは、教団の幹部が王妃になったこと。これを切っ掛けに、国は奴らの傀儡だ。
そんな惨状に、私は一矢を報いた。
奴らの計画の要、ロクルス十世……クルス王子を国から逃がしたのだ。
あの王妃の息子とはいえ、あの方は聡明で優しいお方だ。そんなお方が教団の毒牙にかかる前に、そして私の叛意を見抜かれあの方と引き離される前に、奴らの手が及ばない者……それも絶対的な強者に王子を預けることに成功したのだ。
預けたのは、未だ教団が表立って強硬手段に出ない理由であり、童話にもなった生ける伝説レヴィン卿。教団の手が及ばない場所と言えば他にも明確に教団を危険視している魔王が治める魔族の国があるが、人間の子供を逃がす場所としては適切ではなく、また私に魔王への伝手がなかったことで彼に託すことを決めたのだ。
と言っても、ただで言うことを聞くような相手ではない。レヴィン卿はこの国の騎士ということになっているが、実のところ彼が文句を言わないのを良いことに昔の有能だった執政官が対外的なアピールとして彼を自国の騎士だと喧伝したのが続いているだけで、彼が王に傅いたことはない。その上無欲であり、金でも名誉でも女でも靡くことはなかったと記録にある。
こうしたことから、レヴィン卿に頼るのは難しいように思える。しかし、私には……先代から伝えられていた切り札があった。一度きり、レヴィン卿に言うことを聞かせられる切り札、建国王の秘蔵文書。レヴィン卿が初代国王の趣味で残したとされる奇怪な文書に執心であるという情報を得た私の祖先は、来るべきに備えてこの情報を秘匿し続けた。
その来るべき時が今だと判断した私は、文書が保管された霊子書籍と引き換えにレヴィン卿に王子の保護を依頼することを決めた。そもそも連絡が取れるかが賭けだったが、無事成功してクルス王子は現在最強の庇護下にある。
そして私は、追っ手から逃れるため王国を脱出し、帝国領に潜伏した。本当ならば、今すぐにでも王子のもとに参上したいところだったが、一応の同盟国とはいえ他国の地、それも教団に目を付けられている状態で大きく動くわけにもいかず、もどかしい日々を送っていた。
「……貴女、クルスの護衛のアンリエッタ!? なんでこんなところに……」
「ミストリア公爵令嬢……」
奇跡的な再会を果たすまでは。
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「それで、聞かせて貰えるのよね? クルスに何があったの!?」
「えぇ……ですが、これから話す情報はどうか慎重に……」
ミストリア公爵令嬢。クルス王子の幼馴染みであり、教団の介入がなければ婚約者になっていたお方。そんな彼女がお忍びで市中に来ていたところ私と出会い、紆余曲折あって保護され今に至る。
帝国と王国の力関係は絶妙だ。謎の多い“厄災”戦でロクルス王国が人類の代表を務めたのも今は昔、偉大な建国王の影響がすっかり無くなった今、王国はとても一強とは言い難いのが現状だ。帝国は王国よりも歴史が長く、王国の台頭を快く思っていなかった歴史があったりと、特別友好的であるわけではない。しかし、同じ人類人間族の国。それだけで同盟を組むに値するのがこの世界だ。
「王国が……そんな事態に……」
「はい……ですが、どうか内密に。失礼ながら、帝国にどれほど教団の魔の手が及んでいるのか未知数です。表だって動けば、あなた様も危険に……」
我が王国がとりわけ酷いだけで、教団の根が王国だけに張られているわけではない。帝国に教団の勢力がどれだけ潜んでいるか分からないが、完全に安全だと判断するには危険すぎる。
「で、クルスは!? 王国にいられないのは分かったけれど、一緒じゃないの?」
「……恥ずかしながら、私の手では守り切れないと判断し、信頼できる者に託したのです」
「信頼できる人って?」
「……我が国の英雄、レヴィン卿です」
「レヴィン卿って、あの……」
レヴィン卿の功績である魔族との和平はあくまで王国との間で結ばれたものであったが、それを切っ掛けとして魔族と人間が殲滅を目指して争うようなことはなくなった。人間ならば全員が彼の恩恵を受けていると言ってもよく、他国でも通る名だ。とはいえ、他国においては彼の名が必ずしも肯定的な意味で捉えられるわけではない。過去に王国が他国に対する牽制としてレヴィン卿を忠実な騎士として喧伝したのもあって、厄介な戦力として見られる場合もある。もっとも、実際にその力が振るわれたことはなく、所詮ハッタリに過ぎないのだが。
「……それでも、心配だわ。それに、レヴィン卿……ちょうど良かったかもしれないわね」
「ちょうど良い、とは……?」
「今、うちの領に招いているお方……レヴィン卿にはとても詳しいと思うの。アンリエッタ、一緒に来てくれない?」
「は、はぁ……」
ミストリア様に連れられ、慣れない宮殿を行く。レヴィン卿に詳しい、という人物が全く想像できず、到着を待たずにミストリア様に疑問を投げかける。
「あ、あの……レヴィン卿に詳しいというのは、いったい……?」
「ふふ、聞いて驚きなさい! レヴィン卿の物語で共に旅をしていた、智龍さまよ!」