知らんうちに弟分がおねショタハーレム主人公になってて狂いそう 作:鐘楼
「やっ!」
サニーウインドが、得意の魔力矢を
「も~! あっちだけ障壁が使えてずるいよ!」
「詳しくは分からないガ、あの力はほとんど魔力の上位互換と考えて良さそうだネ」
サニーウインドの攻撃を完封した輪は、向かってくるクルスへと狙いを定め、紫炎の弾丸を放つ。思わずクルスは突進を中断して回避行動に移ろうとするが、その前にクレイプレシャスが動いた。
「
「!?」
瞬間、クルスの動きが不自然なほどに速くなった。無論、クレイプレシャスの魔法の効果であり、クルスの視界では輪の放つ弾が驚くほどスローに見えていた。これにより、クルスは回避をするまでもなく弾の雨を突っ切ることで輪に肉薄する。
「凄い! クルスくんが急に速く……!」
「サニー君……感心するのは良いガ、ボクを守ってくれないか……今狙われたらひとたまりもない」
クレイプレシャスの自己申告の通り、彼女は肩で息をしていた。この戦いで見せたクレイプレシャスの高度な魔法は、いずれもかなりの負担を伴うものなのだ。
「……プレシャスってさ、こんなに頼りになったんだ」
「失礼だネ……まぁ、ここまでサニー君たちに見せたのは初めてカ」
クレイプレシャスの高度な魔法は、サニーウインドも初めて見るものだった。これはフレアルビーもだが、今までは三人で最も戦闘で劣るのはクレイプレシャスだと思っていたのだ。
「簡単な話サ。これがサニー君たちと挑む初めての命懸けの戦いだから、初めて全力を見せているのサ」
「……今までは違ったってこと?」
「その通リ。黒化妖精との戦いも、お兄さんに助けられた時以外で本当に危ない場面はそれほど無かったからネ……裏にアッシュスティングがいると知って納得したものだガ……とにかく、普段は温存しているからこそこういう時に手札を残せるんだヨ」
「ふーん……」
サニーウインドとクレイプレシャスがそんな会話をしている一方、尋常ではない速さを手にしたクルスは輪と互角以上に渡り合っていた。アッシュスティングやフレアルビーと戦っている
「くっ……! この……っ!」
形勢は逆転し、輪の方が防戦一方の状態になっていた。本来、こういった状況に陥らないために輪は旋と組んでいるのだが、その旋はアッシュスティングとフレアルビーにかかりきりだ。
そんな輪の守りがいつまでも続くことはなく、やがては致命的な隙を晒してしまう。
「ここです……っ!」
そんな決定的な瞬間を、クルスは……見逃した。
「……なぜだ、なぜもう一歩踏み込まなかった」
クルスが輪に与えたのは、ほんのかすり傷だった。明らかに決めきれた瞬間であったのは当然輪にも分かっており、だからこそなぜ少年が自分に手心を加えたのかが理解できなかった。
「……貴方の方も、僕を殺そうとはしてなかったから」
「……それは生け捕りが任務だから。妖精の方が前に出ていたら迷わず殺していた……!」
「それでも、貴方は僕を殺すことができないのは同じ……だから、これで公平です」
「後悔しろ……!」
言って、バックステップで最低限の距離を稼いだ輪は、クルスに向けて紫炎の弾を放つ。
無論、その程度の距離などは今のクルスにとっては一瞬で迫り、今度こそ黒衣の少女を無力化することができる……はずだった。
「っ!?」
その時、クルスにかかっていた
「く、クルスくんの動きが戻っちゃったよ!? どうしたのプレシャス!?」
「……魔力切れダ」
「ちょ、ちょっと! 今切れたらクルスくんが……!」
「無茶を言わないでクレ、ボクは君たちのように豊かな魔力を生まれ持った強力な妖精ではないんダ」
クルスは咄嗟の判断で輪へ迫る動きを中断し、横飛びで回避を試みる。なんとか避けることには成功したものの、クルスたちにとって状況は最悪だった。素のクルスでは輪に太刀打ちできず、頼みのクレイプレシャスがダウンした今、輪の大技を防ぐ術もない。
「……これで終わり」
「く……」
輪が決め手となる一撃を繰り出そうとした時、誰にも思いも寄らなかったことが起きた。
「させん!」
「なに……!?」
上空から飛び込んできた人間が、無防備な輪に攻撃を仕掛けたのだ。その攻撃が輪に届くことはなかったが、クルスと妖精達は命拾いした形だ。そして、その人間の姿に、クルスは覚えがあった。
「殿下! よくぞご無事で──!」
「アンリエッタさん!? どうしてここに……」
突如現れたのは、クルスの護衛を務めていた女騎士アンリエッタだったのだ。
「質問は後ほど。今はここを切り抜けましょう」
「……なにかと思えば。王国の騎士か」
久々の主従の会話も、感動の再会とはいかず、苛立ちを滲ませた輪が二人を睨みつける。
「今更ただの人間が一人増えたところで──!?」
輪の言うとおり、アンリエッタの参戦は残念なことにこの状況を覆すようなものではない。だというのに、あることに気づいた輪の表情は凍り付いた。
「……旋! ここは撤退する!」
そして、あろうことか有利なはずの状況で撤退を宣言したのだ。当然、旋からは反発の声が上がる。
「はぁっ!? なんでだよ! こんな雑魚どもに──」
「上を見ろ」
「上? ──っ!?」
その言葉につられ、旋だけでなくアンリエッタ以外の全員が上を見上げる。そこにいたのは。
「智龍……!」
偉大。荘厳。神話を体現する龍。無知な者でさえ、一般的なドラゴンとは格……いや、
「……わーったよ。ここは退く」
旋も状況を理解したのか、撤退を決意。輪と共に戦場を後にしていく。そんな二人の後ろ姿も、智龍はただ見ているだけだった。
「……助かった、んですか……」
「智龍様……大きな借りを……」
安堵で息をつくクルスと、申し訳なさそうにするアンリエッタ。そんな二人のもとに、アッシュスティング以外の妖精達が集まってくる。興味の対象は様々だ。クルスと親しげな女騎士のこと。『ロクルス十世』のこと。クルスを狙う敵のこと。
「んで、色々話してもらうぜ、少年」
「そうだよ! あとその人誰!」
だが、次の瞬間、妖精達のそんなばらけた興味を一気に吹き飛ばす出来事が起こった。
「クルス~~~!」
「わっ!?」
またもや突如現れた少女がクルスに抱きついたのだ。
「み、ミストリア!?」
「やっっと会えたわね、クルス!」
しかも、その少女とクルスは知り合いらしいときた。
「ちょ、ちょっと……! 次から次へと、あなた誰!?」
「まぁ、ごめんなさい! ついはしゃいでしまったわ……クルスがお世話になっているわね! 私、クルスの婚約者のミストリアよ!」
慌てて問い詰めるサニーウインドに帝国の公爵令嬢ミストリアは、さも当然のように爆弾発言を投下した。瞬間、一瞬の静寂が訪れ……爆発した。
「「はぁ~~~~!?」」
「ほう、興味深い」
主人公観戦中……