知らんうちに弟分がおねショタハーレム主人公になってて狂いそう   作:鐘楼

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修羅場って初めてだけど変な汗かくね

 「おいフェンニバル、こいつの自我全然治せてないぞ」

 

 目覚めるや否や、突然態度が急変してへりくだり始めた旋。誰だよ。フェンニバルの奴、後は任せろ案ずるなみたいな雰囲気を醸し出しておきながら再生するんじゃなくて別人格作りやがったのか?

 

 「いや、そやつは正気じゃ」

 「は? ……おい、コレが見えないのか、アレがコレなんだぞ? これが正気なわけ……」

 「よりにもよってお前が正気を語るのか……それはただの心境の変化と呼ぶべきものだろう。お前にとってはなかなか合点がいきにくい話じゃろうが、圧倒的な敗北というのは人の世界観を変える衝撃になる場合がある。要は、お前にとっての物語がその娘にとっての敗北だったという話じゃ」

 「……」

 

 ……さっぱり分からん。分からないが、どうやらフェンニバルに落ち度はないらしい。

 

 「御神体様! これまでの無礼をどうか償わせて……そして、もう一度……私めに……あの力を……っ!」

 

 喚きながら、俺の足に縋り付く旋。錯乱しているようにしか見えないが……それよりもまず気になることがある。

 

 「まずさ、その御神体ってなんだよ。本当に俺か?」

 「ち、違うのですか……? いえ、貴方が……貴方様こそが御神体のはず……!」

 「話通じねぇ」

 「レヴィンよ。その娘は間違っておらん」

 「は? どういう……」

 「正確には、拝淵教団が今も保管しているお前の亡骸を此奴らは御神体と呼んでいるのだ」

 

 ……フェンニバルは本当になんでも知っているな。俺に関わる重要な問題だっていうのになぜ共有しないのかと言いたくもなるが、ちょっと前の俺にそんなことを言っても興味を示さなかっただろうから、フェンニバルは正しい。にしても、旋やフェンニバルの口ぶりでは教団さんは俺の死体を崇めているように聞こえるが、それではデザイアに聞いた話と印象がかなり異なる。

 

 「ふざけるな……!」

 

 地の底から唸るような声が響く。デザイアだ。いよいよ我慢の限界といった風で、物凄い顔で旋を睨みつけている。

 

 「何が……何が御神体だ……! 私のレヴィンくんを奪っておいて……!」

 「デザイア、落ち着け……!」

 

 暗い感情が刺激されたのか、デザイアの魔力が吹き荒れる。今にも暴走しそうなデザイアを、アッシュスティングが焦りながらもなんとか抑えようとしている。デザイアさん、貴女の物になった覚えはないぞ。

 

 「やはり……! お願いします! あの時のようにオレ……私めに力をください! な、なんでもします! この身体も好きに使っていただいて構いません! だから……!」

 「あの時っていつだよ」

 

 どの時だよ。まるでご存じないが……ある程度推測はできる。多分、俺の死体を取り込んで力を手に入れた体験のことを言っているんだろう。色々と勘違いされていることがあるが、とりあえず一つ訂正しなくてはならない。

 

 「あのな、お前らのとこで俺の死体がどういう扱いなのか知らないが、お前が力を手に入れた要因は俺じゃなくて俺がぶっ殺した厄災のおかげなの。俺関係ないの」

 「厄災を……!? そん、な……それは……す、すげえ……!」

 「……!」

 

 伝わっていないのか……? 教団でさえも、俺が死んだときの出来事は伝えられていない……?

 

 「……フェンニバル、どういうことだ」

 「……お前も知っての通り、世間的には厄災を撃退せしめたのはウェスターシャ……魔王ということになっている。儂とブラックデザイア、そして教団の者ども以外に目撃者となる生存者はおらず……そういう話にしておいた方が魔王が魔族を統治するにあたって都合が良かったからじゃ。そして、それは教団も同じ事。崇める厄災が出自不明の少年に倒された、よりは誰もが知る魔王によって倒された、という話の方が格好がつく……それに、教団に長命種はほとんどおらん。カバーストーリーを本気で信じる者ばかりになっていても不思議ではない」

 「なる……ほど……って、本当になんでも知ってるな」

 「なんでもなど知るはずないだろう。そんな自惚れを抱いた途端に智は錆び付く」

 「あー、そうね」

 

 フェンニバルは物知りを褒められると毎度こんな風な謙遜をする。一時期は嫌味だと思っていたが、あれは本気で言ってるらしいし誰もがそんな彼女の態度を賞賛する。けれども、この謙虚さの良さというものが俺にはよく分からないんで毎回スルーすることにしている。っと、それはともかく。

 

 「そういうわけで、俺はお前らが崇めてる厄災ぶっ殺した宿敵だから。御神体とかでっち上げだかんね。分かったら……」

 「じゃ、じゃあ……貴方様……レヴィン様は、厄災よりも偉いということですか……!」

 「なんでそうなんの?」

 

 説明したら格上げされた件。お前の忠誠心はそれで……いや、その傾向はあったか。インタビューの印象だと、あくまで輪は上司と思しきアマネ様に、旋は力そのものを崇拝しているようだった。厄災には大してこだわりがない……のか。

 

 「だ、だって……レヴィン様は厄災よりも強いんでしょう!?」

 「まぁそれはそうだな」

 「……レヴィンよ。振りほどきたいのなら時に方便をだな……」

 「や、それは事実だし」

 

 今の俺なら厄災が何回出てきても余裕。その見解は旋と戦い厄災エネルギー(仮称)に再び触れてみてより強固になっている。だから、ここまでは旋が正しい。

 

 「なら、レヴィン様が世界の頂点です! この世界は力が全てなんですから……!」

 「そんなわけないだろ」

 

 旋が自分の世界に入りかけたところで、俺はハッキリとそれを否定した。すると、旋の表情が凍り付き、信じられないものを見るような目で俺を見上げる。信じらんないのは俺の方なんだけどな。

 

 「な、なんで……」

 「俺より幸せそうな奴はみんな俺より弱いから」

 

 強さが全てだと思い込んだのは、そんな環境に生まれた運が悪い。今もそう思っているのなら、身を置いている環境が悪い。これが旋の思想に対する俺の意見だ。別に口に出して否定するつもりはなかったが、押しつけられても困る。

 

 「というわけで、さっさと帰れよ。教団とやらの方が馴染めるだろお前」

 「──それでも!」

 

 面倒になって、しがみつく旋を振りほどいて適当に追い払おうとしたものの、旋は鋭い声でそれを拒む。

 

 「オレはあんたが……レヴィン様が最強だと分かったから……側にいさせてくれ……でないと、オレは……っ!」

 「勝ち馬に乗ってないと不安になるタイプか?」

 

 今の旋の状態には心当たりがある。これまた経験が無いが、トラウマを刺激されるヒロインとよく重なる。あー、クルスなら寄り添ってやったりするのかなぁ……まぁそれはいいとして、側にいさせろと来たか。……あ、またデザイアが暴れている。頑張れデザイア係のアッシュスティング。

 

 ……俺の言葉を聞いてなお旋が世界は強さだという価値観を改めないのは別に構わない。フェンニバルじゃないんだから、俺なんかの言葉で他人が変わるだなんて思っちゃいないからだ。だが、側にいさせろというのは……。

 

 「まぁ、断る。シンプルにお前いらない」

 「そんな……!」

 「レヴィンくん! 信じてたよ! じゃあ、そいつ殺しても良いよね? ね?」

 「アッシュスティング~? そいつちゃんと抑えてろよー?」

 「やっている! 頼むからこれ以上このバカを刺激するような話をするな!」

 

 ブラックデザイアを羽交い締めにして抑えているアッシュスティング。完全に目が血走っているデザイアだが、肝心の旋がそれに動じた様子がないんだよな。旋にとっては今の魔力が膨れ上がったデザイアも脅威ではないんだろうか……なんて考えていると、旋が再びしがみついてきた。デザイアの魔力が上がった。

 

 「な、ならせめて……レヴィン様の力をオレに……!」

 「や、待て待て。他人の身体の一部取り込んで強くなるなんて普通ないからな? そんな方法ないぞ」

 「た、試してみなければ分かりません!」

 「仮にそうだとして手を貸す理由がないからなー」

 「なんでもします! オレの……私めの身体を自由に使っていただいて構いません! 貴族のクソども……えっと、男に買われそうになったこともあって……だけど……」

 「レヴィンくん!? 分かってるよね!? レヴィンくんが汚れちゃうよ!」

 「あぁ、確かに顔は『美少女』だな」

 

 約一名によるヤジを無視して、旋と話して見たままを述べた……が、言った瞬間、吸ってやろうかと思うほどうるさかったデザイアの魔力の胎動が止まった。

 

 「あ、不味い」

 

 アッシュスティングがそう呟いた次の瞬間、黒い魔力が爆発した。

 

 「私も……私も言われたことないのにぃ!」

 「で、デザイア……ぐっ!」

 「許さない……! 絶対に!」

 

 アッシュスティングがあっさりと吹き飛ばされ、黒い魔力が旋に向かって襲いかかる。その前に。

 

 「落ち着け」

 「あ──」

 

 フェンニバルがデザイアの肩を叩き、それだけでデザイアはぐったりと沈静化した。いや、正確には肩を叩いただけに見えるというだけで、フェンニバルは何かをした。考えても分からないので、妖精特有のツボを突いた……とでも考えておくことにする。

 

 「ブラックデザイアよ。レヴィンの言う『美少女』というのは意味が少し違っていてな……断じて此奴の好みがどうとかという話ではないのだ……そうじゃな?」

 「そうだが」

 「それに……ほれ、レヴィンよ。デザイアの顔はどうじゃ?」

 

 言って、フェンニバルはぐったりとしているデザイアの顔を俺に見せつけてくる。まぁ……そうだな。

 

 「あー、まぁデザイアも『美少女』だな」

 「え……あ、えっそ、そう? そっか……えへへ……」

 「じゃから、レヴィンの好みという意味では……まぁいいか……」

 

 見たままを言うと、デザイアは急激に大人しくなった。なんだったんだ。

 

 「……あの妖精、レヴィン様のなんなんですか?」

 「俺も分からん。最近再会したストーカー?」

 「じゃあ、別にレヴィン様のお気に入りとして扱う必要はないってことっすか?」

 「まぁ、そうね……って、なにこれからも着いてくる前提みたいな話してんだ」

 「イヤです! 連れてってください! 靴でも舐めますんで!」

 

 思っていたが、目覚めたばかりは相当無理してたのか、どんどん敬語が雑になってきているな、こいつ……あ、本当に舐め始めた。マジかよ。

 

 ……うーん、これ何が良いんだ? 悪役の描写として靴舐めはたまにあるが、さっぱり良さが分からない……ていうかこいついつまで舐めてんだ。

 

 「おい、そろそろ」

 「レヴィンさん!」

 

 時間はそんなに経っていないはずなのに、なぜだが懐かしい、少年の声。

 

 「クルス、よくここが……」

 「……レヴィン、さん……?」

 「ん?」

 

 案の定、声をかけてきたのはクルスだった。よくここが分かって……と思ったが、結構激しく戦闘してたししょうがないか。声の方に振り向くと、クルスの顔が凍り付いていた。まるで現実を受け入れられないとでもいうような、そんな顔だ。

 

 「なんでそんな……あ」

 

 下を見る。ちょっと前まで、クルスたちを追い詰めていた強敵、旋。そんな彼女が、一心不乱に俺の靴を舐めていた。なんならアッシュスティングは未だに転がっているし、妄想トリップ中のデザイアも目を引く。まともなのはフェンニバルだけだ。

 

 ……一旦マズいか。




長い(超当社比)
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