知らんうちに弟分がおねショタハーレム主人公になってて狂いそう 作:鐘楼
あるところに、王国に仇なす邪悪な魔法使いがおりました。
その邪悪な魔法使いは狡猾で用心深く、王国が誇る騎士団も宮廷魔法使いもなかなか尻尾を掴むことができませんでした。
邪法をもって王国を混乱に陥れようとする魔法使いの企みが成就するまで秒読みとなった時、それを打ち破る英雄が現れたのです。
名を、レヴィン。
王国に二度目の栄華を齎す、最強の騎士の物語がここに始まったのです。
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……百年前。国家転覆を目論む魔法使いがいた。当時の王、ロクルス三世の治世はお世辞にも良いものとは言えぬものだったから、そやつの企みには一定の正当性があったように思うが……ともかく。
その魔法使いは追い詰められ、騎士団相手に籠城戦を余儀なくされた。
追い詰められた魔法使いは最後の切り札を切る……つもりで、最悪を引き当てた。
英霊召喚。
過去に偉業を為した英雄を魔力生命体として転生させる超高等魔法。これを行使できるほどに老熟した魔法使いは本当に希だが、幸か不幸か件の魔法使いはそれに当てはまっていた。
最強の英霊を。
あの魔法は呼び出す英雄を意図的に狙うことはできず、せいぜい大まかな条件づけが精一杯。故にそやつは自らの望みを実現しうる強さを求め……話も道理も通じんような奴を引き当てた。
そうして英霊召喚によって煉獄から呼び戻されたレヴィンだったが、何か気に障ることをしたのかその魔法使いは隷属の儀を行うまでもなくレヴィンに殺されてしまった。
レヴィンに全くその気は無かっただろうが、端から見れば騎士団でも手を焼いた王国の火種を一人で摘み取った英雄。そう捉えられたレヴィンはあっという間に王国の騎士へと仕立て上げられた。なぜあいつが大人しく王国の思惑に乗ったのかは聞いていないが……大体の予想はつく。どうせ騎士だの王様だの、聞いたような単語に惹かれてホイホイ着いていったんじゃろう。
……で、だ。レヴィンの持つ力の一端に魅入られた王国は欲をかいた。どう言いくるめたのか知らんが王国はレヴィンを儂に差し向けてきた。……まぁ、驕った者が儂に手を出そうとすること自体はそう珍しくない。が、あの時ほど肝が冷えたのは初めてじゃったな。
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「何用だ」
森厳なる森。摂理と共に生きる者たちの楽土にして、摂理に反して繁栄を勝ち取った者たちを拒んできた聖地。その奥地で、森に佇む者と土足で踏み込んだ一団とが対峙していた。
「ひっ……わ、我らは王国の忠実なる僕! ち、智龍よ! 大人しく我らの軍門に降れ!」
「……久方ぶりだな、こういう輩も」
一方は、本来の姿で休息を取っていた世界に名高き賢者、智龍フェンニバル。もう一方は、智龍の力を我が物にしようとする王国の尖兵。智龍にとって、自身を付け狙う愚者の出現はご無沙汰とはいえ何度も経験してきたことだ。故に、彼女の感情のほとんどを呆れが占めていたのだが。
「じゃが……」
同時に怪訝に思うことがあった。それは、智龍が休息に選んだこの場所。森厳なる森はその特異な生態系から強力な魔物が多く、決してただの人間が奥地まで到達できるような場所ではないということ。
「……お前は」
だが、智龍の疑問はすぐに解決する。一団の中心。そこに明らかに纏う雰囲気の異なる者がいることに気づいたからである。
「あれがドラゴンかぁ……」
「……」
その目的も力量も他とはかけ離れているように見える、15歳ほどに見える少年の顔に智龍は心当たりがあった。30年前に厄災を退けた少年。あの日死んだはずの少年が、当時と全く変わらない顔で……その上魔力生命体として現世に存在している。そこから導き出される答えに辿り着いた瞬間、智龍は最悪を想定して行動した。
「騎士レヴィンよ! 王国の力を示──」
「
取り巻きが少年に何か言う前に幻術魔法によって少年を除く全員を幻覚の中へ閉じ込めた智龍は、敢えて幻覚を見せずに残した少年と対峙する。
「で、お前は英霊だな? 誰に縛られている?」
「は?」
「……違うのか?」
智龍の懸念……それは、厄災殺しの少年が英霊として王国に使役されているのでは、という最悪。もしそうであれば、世界のパワーバランスが崩壊する。それは不干渉を是とする智龍とて静観するわけにはいかない事態だったが、それは杞憂であった。原理不明の力で智龍の精査が弾かれるものの、少年が行動を強制されている様子はないというのが智龍から見た少年の印象だった。
「そこで寝ている愚か者どもの目的は聞いた。が、まだお前の目的を聞いていない。なぜここに来た? 厄災殺しの少年よ」
「え? なんか本物のドラゴンがいるってこいつらが言うから。見たいなって」
「……いや、なら儂じゃなくても……もっと手頃な龍がいるじゃろ」
「そうなのか?」
ズレた発言を繰り返す少年に、智龍は対応に困った。しかし、少年が剣呑な雰囲気を醸しだし始めたことで、再び場に緊張が走る。
「何のつもりだ」
「闘ろう。試したいことがある」
「儂に付き合ってやる義理はないが」
「それ何か関係あるの?」
問答無用か、と智龍が認識した次の瞬間、少年は無から光剣を生み出し斬りかかった。横薙ぎに振るわれたそれを智龍は余裕を持って上に飛び回避するが、上空で下を確認し驚嘆する。少年はただ踏み込んだだけなのにも拘わらず広範囲にわたって森の木々が倒されており、あの光剣の尋常ではない射程を垣間見たからである。
智龍の想定通り少年は伸ばした剣を智龍の居る上空へ向けて振るう。今度はその切れ味を試そうと智龍は障壁を生成してそれを迎え撃つ。結果、障壁と光剣は拮抗する。少年の尋常ではない膂力を考慮すれば光剣そのものの切れ味は然程でもないと判断した智龍はしかし、この次に起きた出来事には舌を巻いた。障壁とぶつかり合っていた光剣が枝分かれし、まるで生きているかのような挙動で障壁を迂回して智龍本体へと襲いかかったのである。
「変形も自在か……!」
一先ず無詠唱の短距離転移で難を逃れた智龍は小手調べの炎弾を少年に浴びせる。普通であればひとたまりもない一撃に、少年は動じた様子も見せず待ち構え、着弾寸前に炎弾の方が消失した。
(かき消された……!? というよりもこれは……異常な速度で燃焼反応を完了させられた? 時間の加速……いや、厄災の時に見せた力と同質のものならば……)
検証のため、智龍は純粋な魔力砲を少年に向かっていくつか放つ。そのうちの一つが少年に直撃する……はずが、少年の翳した掌に吸い込まれるように魔力砲がかき消されていく。攻撃を完全に防がれた智龍だったが、敢えて直撃させなかった他の魔力砲が消されていないことを確認し、仮説を実証できたことに安堵する。
(支配下にないエネルギーを無条件に、逆に他人の制御下にあるエネルギーは接触によってかき消して……いや、あの時の急激な出力増加を見るに吸収、か)
とんでもない能力だと感じた智龍だったが、既に攻略法のいくつかが脳裏にあった。しかし、そこまでの手札を切るほど意味のある戦いだとも思っていなかった智龍は逃走を視野に入れながら少年に語りかけた。
「……参った! 降参じゃ」
「そうか」
智龍が負けを認めると、少年はあっさりと矛を収めた。ここまですんなり戦いが終わるとは思っていなかった智龍は面食らうも、地上に降り立ち少年と向かい合った。
「……強いな。名は?」
「レヴィン……それだけ?」
「それだけってなんじゃ……な、なんだその目は」
レヴィン、そう名乗った少年は不満や失望の籠もった目線を智龍に向ける。もっと戦いたいといった類いの文句であれば応じることはできないが、と考える智龍だったが、レヴィンの要求はその斜め下を行っていた。
「人の姿になんないの?」
「は?」
「負けを認めたドラゴンは人の姿になって生涯の忠誠を誓うんじゃないの?」
「そんなわけないじゃろ」
どんな認識をしているんだと咄嗟に全否定した智龍だったが、上辺も中身も子供にしか見えないレヴィンのテンションが急降下している様子を見て心が揺れる。レヴィンの認識は何もかも間違っているが、ややこしいことにドラゴンというカテゴリに属しているか怪しい存在である智龍は姿を自由に変える手段を有していた。
ここでレヴィンの期待に応えるのは間違った認識を助長させることになるんじゃないかという懸念と、子供のしょんぼり顔を天秤にかけた智龍は……少年の夢を取った。
「……ほら、これでいいか? さすがに忠誠はやれんが……」
仕方なしに、文献を読むときに元の姿では無理があるからと作成した人間サイズの読書用ボディへと変身する智龍。
「おぉー……あ、そうだった」
ぶすり。
「は? ……は?」
智龍の身体を眺めたレヴィンは、思い出したかのように小さな光剣を親指の爪に生成し……それを自分の鼻の穴に突っ込んだ。
「何してる!? お前は何をしている!?」
普通の鼻出血とはかけ離れた量の血を鼻から流すレヴィンに、智龍はとんでもなく困惑する。
「女の裸を見たら鼻血を出すらしいから……」
「聞いたこともないわ!」
改めて衣服の生成をした智龍は、何百年かぶりの頭痛を感じていた。
初々しいなぁ