知らんうちに弟分がおねショタハーレム主人公になってて狂いそう   作:鐘楼

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青き日々(2)

 騎士となったレヴィンは、ある使命に目覚めました。

 

 厄災との戦いでただ一人生き残った英雄、魔王ウェスターシャ。

 

 彼女の威光を以て人間の殲滅を訴える魔族の過激派達の蛮行を止めること。

 

 そのための後ろ盾として智龍フェンニバルを味方につけたレヴィンの旅路は、まだ始まったばかり。

 

 

―――――――――――――

 

 頭が痛い。

 

 幸いなのかすら分からないが、鼻腔を思いっきり切りつけた少年の出血は魔力生命体であることを考慮しても異常な早さで止まっていた。

 

 だいたいなんだ、女の裸見たからって。さっさと服を生成しなかった儂が悪いのか? 仕方ないだろう、変身の際に服を着た姿にすると衣服の部分も身体となり神経が通って本末転倒なのだ。だから変身と衣服の生成は別の工程にしなければならないのだから──などと考えている間も、少年はボーッとしながら儂を見ている。

 

 あまりにも何も言わないので、とりあえず名を名乗る。

 

 「……儂はフェンニバル。お前はレヴィン、でよいか?」

 「うん」

 「……なぜここに来た? まさか本当に龍を見に来たのか?」

 「こいつらがここに龍がいるって言うから」

 

 そう言ってレヴィンは転がったまま儂が見せた幻覚に囚われうわごとを呟く人間達を指さす。

 

 「それで倒したら本当に竜娘? になるのか気になって。本当だった」

 「いや、娘て……」

 「……違うの?」

 「儂以上の婆はおらんぞ」

 「……そうか……」

 

 しゅん、という音が聞こえてきそうなほどに気落ちするレヴィン。その姿は見た目以上に幼い少年にしか見えず、それが余計に一欠片の良心を刺激する。明らかに儂に非はないというのに。

 

 「い、いや……たまたま儂が外れだっただけかもしれん。倒せば人間になり忠誠を誓う若い雌竜も……いる可能性はゼロではない」

 「そうか……!」

 

 人の姿をとれる若い竜など見たことないが……まぁ、この世界には種族の常識を超える力を持つ個体がなんの脈絡もなく誕生することがあるにはある。ちょうどこの少年のように。

 

 「それよりも、なんなんだそのねじ曲がった知識は? どこの常識なんじゃそれ」

 「……ふふ」

 

 聞けば、レヴィンは「よくぞ聞いてくれました」という文字列を顔に浮かべたような得意げな笑みで懐を漁り始める。初めて笑顔を見るが、聞かれて余程嬉しかったらしい。

 

 「本……? いや……なんじゃそれは」

 「じじいの書き下ろし小説!」

 「じじいって誰じゃ」

 「たしか……大作家ユータロー」

 「……聞いたことないな」

 

 レヴィンが口にした名前は特徴的な語感で興味深かったが、生憎心当たりはない。もし本当に名の知れているという意味の大作家なら、聞いたことくらいはあるはずだが……偽名か? いや、芸術家のビッグマウスなどよくあること、という考えもあるか。

 

 それよりも、明確に気になるものがある。レヴィンが取り出した本。明らかに魔力でできている。魔力で物質をかたどれる実力があるなら、霊子書籍を作った方が早い上に便利だ。

 

 「それはどこで手に入れたんじゃ」

 「地獄でじじいが書いてたやつ」

 「! そうか……」

 

 また疑問点が増えてしまったが、あの本に関しては英霊として召喚される際に一緒についてきたものと見て良いだろう。あの召喚で呼ぶのは魂だけのはずだとか、儂の知る地獄には娯楽を楽しむ余地はないはずだとか、世界を救ってトントンにならない罪を犯しているのかだとかは気になるが、後回しだ。

 

 「では、見せてもらうぞ……って、おい」

 

 スイ、とレヴィンが半歩下がる。儂が本を貸してもらおうと手を伸ばす度に。

 

 「なんじゃ、読ませる気がないのに見せびらかしたのか?」

 「……これ一冊しかないし」

 「信用ないのう」

 

 無論、警戒心はあった方が好感が持てるが。

 

 「案ずるな、少し触るだけじゃ」

 「……それなら」

 

 現世にただ一つしかない愛読書に万が一がないかと怯えるのは筋が通っているが、それなら配慮できるやり方がいくらでもある。宣言通り本に一瞬触れるだけで手を離し、魔法を発動する。

 

 「形骸投写(デッドコピー)

 

 儂の手に、レヴィンが手にしているものと見た目は全く変わらない本が生成される。本当に見てくれだけで、武器なんかをコピーするのであれば全く使い物にならない魔法だが、本ならこれで十分だ。

 

 「! どういう……」

 「便利な魔法は珍しいか?」

 

 物を壊す魔法より、何かを生み出す魔法の方が段違いに難しい。爆薬を使うことと大差ない魔法よりも、物作りの工夫をすっ飛ばす魔法の方が複雑に決まっているから。故に、地味ながらこんな芸当ができる魔法使いは数少なく、レヴィンも初めて見るようだった。

 

 ともかく、大作家ユータローとやらの本をパラパラと捲る。

 

 「……それ読んでるの?」

 「儂が何万年文字を読んできていると思っとる……む……」

 

 再び同じようにページを捲り、読み込む。内容は娯楽小説集だが、なんというか。

 

 「で、どう? 面白い?」

 「いや……なんというか……特異、だな」

 

 人の芸術は模倣と反骨の繰り返し。いずれもが過去の作品の影響を受けていると言える。しかし、この作品には儂の知るどの時代のどの文化圏にも類する物を知らない。

 

 根底にある思想も気になる。自由恋愛、貴族社会への批判、王権の軽視、奴隷制への嫌悪……といった考え方が根から染みついているように思える。となれば、これは貴族向けの娯楽小説というわけではなさそうだが、大衆向けというのもおかしい。共通語で書かれているこの小説の文法や言葉選びは近年のそれだが、ここ二百年の間に庶民が娯楽に興じる余裕があり、識字率が高く、反貴族社会的思想が弾圧されていない……なんて人間の国は無かったはず。

 

 人間に限らなければないこともないが、この作品群はほぼ全て人間が主役だった。他の種族を下に見る描写はないものの、エルフや魔族という属性は個性として扱っているのに対して、人間の登場人物は当たり前に人間、という風に描かれているように見える。となれば作者は十中八九人間で間違いないだろう。

 

 そして、特に注目すべきなのが、世界観を掴みにくい作品。人間しかいない世界で、魔法は存在せず、当たり前に科学技術の恩恵を享受し、明確な身分が存在せず自由を当然に認められている世界……と、考察してなんとか読み取れるが、おかしいのはそこだ。普通、幻想(ファンタジー)は考察しなければまともに理解できないようには書かないだろう。

 

 ここから導き出される答えは。

 

 「異分子(ドリフト)……」

 「ドリ……? なにそれ。面白かったってこと?」

 「いや……面白いかどうかで言えば……」

 

 はっきり言ってつまらなかった。儂に物語を純粋に受け取る心がとっくになくなっていることを考慮しても、これらは明らかに男向けだしそもそもツッコミどころがありすぎて集中できん。野暮かもしれないが気になって集中できん。

 

 「……それよりも、じゃ。これのどこに竜に対する偏見が書いてある? 全部読んだが無かったぞ」

 

 正直につまらないと言うと少年がまた失望の目線を向けてきそうなので話題を変える。この本にはデタラメな竜の習性を描いたシーンは見当たらなかった。

 

 「……地獄から持ってこれたのがこれだけだった」

 「他にもあるのか……では、お前はこれからどうするつもりじゃ」

 「決めてない。けど、見てみたいものはたくさんある」

 「この小説に書いてあったようなものを、か?」

 

 そう聞けば、レヴィンは躊躇うこともなく首肯した。

 

 「……具体的には? どこに行って何を見る」

 「とりあえずこいつらの言うこと聞く」

 

 なんでもないことのようにレヴィンは倒れ伏す人間達を指さす。

 

 「本気か? こやつらはお前を利用しているのだぞ」

 「ドラゴンに会えるのは本当だったし、思惑はどうでもいい。命令を聞いてるつもりも従ってるつもりもないよ」

 

 他に指針もないから、とりあえず王国の策に乗っている……といったところか。

 

 「……そんな奴らに乗せられなくても、お前の行きたい場所に儂が連れて行ってやると言ったら?」

 

 儂が自分で決めたルールに沿うのであれば、放っておくべきだ。レヴィンが王国の思惑通りに動いて世界のパワーバランスがひっくり返ったとしても、どうでもいいことでしかない。

 だが、レヴィンには……もっと良い道があると思う。同じ不測(アウトライアー)として、弟のようにはなってほしくはない。

 

 「本当か? ならそうする」

 「素直じゃな」

 「こだわりないし」

 「そうか……では早速──!?」

 

 レヴィンから目を離した一瞬の隙。その僅かな時間の間に、レヴィンは転がっていた王国の者の首を刎ねていた。驚愕し、なんのつもりかとレヴィンの方を見れば、少年は人を殺したというのに当然のことのように平然としていた。

 

 「……何故殺した」

 「もういらないかなって。あれ、使う予定があったのか?」

 「いや……」

 

 この者達はレヴィンが何もしなくても死んでいたし、助けるつもりもなかった。このままならば幻覚に囚われたまま森の生物の餌となっていただろうし、もし意識を取り戻してもレヴィン無しでは生きてここから脱出することも叶わないだろう。

 

 「理由もなく殺したのかと聞いている」

 

 殺したことを責めているのではない。生きるために火の粉を振り払うこともあるだろうし、複雑な事情は時に罪なき命を手にかけることさえも選ばせることがある。だが、何も考えずに力を振るうのはダメだ。それは取り返しのつかない形で後悔をもたらす。

 

 「レヴィンよ。これからしばらく、儂がお前の旅に付き合ってやる。お前が見たいものがある場所へ導くことを約束する。その代わり、お前も一つルールを守れ」

 

 レヴィンの剣は軽すぎる。簡単に振るわれる力は、浅慮が故のもの。力ある者の振る舞いとして、それだけは正さなければならない。

 

 「剣を抜く時は、三つ考えてからにしろ。その戦いで自分は何を得るのか、損失を被るのは誰か、何が世界から失われるのか、だ」

 「めんどくさいしよくわかんない」

 「分かるまで何度でも言ってやるし、そもそも世界は面倒なものじゃ」

 

 少し渋る素振りを見せたレヴィンだったが、結局儂が提案したメリットを選び条件を呑んだのだった。

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