知らんうちに弟分がおねショタハーレム主人公になってて狂いそう 作:鐘楼
レヴィン達がここにやってきた道とは違う、獣道と言って良いのかも怪しい道を進む。障害となる樹木や草木を切り払いながら、ゆっくりと。こんなことをしなくても、儂が元の姿に戻ってレヴィンを乗せて飛ぶのが手っ取り早いが、もう今は旅の最中だ。旅の魅力を知らない子供に、飛行という移動手段はまだ早い。
「どこに向かってるの」
「ま、適当な町じゃな」
現在儂らが向かっているのは帝国領の地方都市。レヴィンの顔が割れている王国に戻るつもりはない。もし王国に立ち入れば、遅かれ早かれ権力の差し金がレヴィンを再びコントロールしようとするだろう。そうなったら面倒だ。何が面倒かと言えば、そうなればレヴィンは十中八九実力の行使という形で事態を解決しようとすることだ。そうならないように指導する予定ではあるが、少し油断すれば犯罪者一直線である。どれだけ力があろうとルールを守らなければ得られないものは確かに存在するが故、できればそれは避けたい。
「そんなところ行きたいなんて行ってないけど」
「お前が具体的に希望の場所を出せなかったから見繕ってやったんじゃろうが。安心せい、お前の望む物語が生まれる場所は人の多い場所と昔から決まっとる」
王国が不適切な理由は他にもある。単純に国家基盤が未熟で政情も安定していないことだ。あそこは建国王ロクルス一世によって急速かつ強引にまとめられた新興国で、建国から百年も経っていない。その上要であったロクルス一世が不在の今、安定性を失い内乱を防ぐのに躍起になっているのだ。レヴィンのような圧倒的な力を欲する理由もここにあるのだろう。そのような国ではトラブルの可能性も増えてしまう。
他にも人間でない種族の国がいくつかあるが、それも却下だ。儂が角を消さずに側にいればレヴィンの見た目が人間であってもそうそう因縁はつけられないだろうが、まず間違いなく警戒される。警戒されれば避けられ、深入りするチャンスも少なくなるだろう。レヴィンの見たいものを見せてやれる可能性も低くなる。
「……と、モンスターか」
出発してから初めての、道を阻まんとする敵。この森の獰猛な動物たちは、姿を変えていても儂のことを認識しているのか襲ってはこない。しかし、モンスターにそんな生存本能は備わっていない故、勝ち目の有無も分からずに戦いを挑んでくるのだ。
「レヴィン」
「ん」
儂がレヴィンの名を呼ぶと、あの光剣が閃く。人型の出来損ないのような風貌のモンスターの上体が滑り落ちるように下半身と分離し、残った下半身もやがて崩れ落ちる。一度の斬撃で適切に核を両断した証だ。
「モンスターの性質は知っていたか……だが、レヴィンよ。今ちゃんと考えてから斬ったか?」
「え。モンスター相手でもやるの?」
「当たり前じゃ。ほれ、何を考えなければならなかったか言ってみろ」
たまに生徒をとった時のように、教え子を試す口調でレヴィンに問いかける。だが、どうやら覚えきれていなかったようで儂の方を見たままフリーズしてしまった。仕方がないので答え合わせをしてやることにする。
「まず、“その戦いで自分は何を得るのか”。今の戦いなら、お前は剣を出して振るう手間と先へ進む道を手に入れられた、といったところじゃな」
「? ……当たり前じゃん」
「次に“損失を被るのは誰か”。この場合、モンスターが命を失うことになったな」
「だから何」
「確かに、どうでもいい。が、損をする者がどうでもいい相手だけだということを確認することが肝要なのじゃ」
説明するが、レヴィンの顔は訝しむ表情のまま動かない。確かにこれは少し例が悪いか。まぁ、いずれ分かる時が来る。
「そして、“何が世界から失われるのか”。これもモンスターが一匹だけ。むしろモンスターは生態系の外から無差別に命を食い荒らす存在。お前は世界のほとんどの動植物に益あることをしたと言えるじゃろうな」
「ふーん……で、結局何?」
「何も? 言ったじゃろ。ここまで考えることが大事だ、と。今の話を聞いてお前自身が戦ったのは正解だったと思えるなら、それで終わりじゃ」
「間違いなわけないじゃん」
やはり意味が分からない、という顔をするレヴィン。まぁ、それはそうだ。まず負けるはずのない魔物との戦いなど後悔しようがない。が、習慣づけることが大事なのだ。
「では、先に進むぞ……あぁ、歩きながらで良いが、お前の扱う光剣はなんじゃ? どこまで融通が効く?」
「……地獄は剣が無かったから。必要になった。そしたら出せた」
「確かに地獄に送られる者は丸裸が基本だが……」
あちらに現世の物を持ち込めるはずもなく、死後に地獄へ送られる者は抵抗する為、あるいは責め苦を回避するための道具を一切与えられない……というのが観測して分かったことだ。そんな環境に置かれ、必要になったから抵抗のための道具を創り出した……か。そんなことは聞いたことがないが、一端納得しておく。
「たしか、向こうで大作家ユータローとやらと一緒だったと言ったな?」
「うん」
「それは最初からか?」
「違う。しばらく暴れてたらじじいしかいない場所に移された」
「なるほど……」
となると、煉獄か。あそこには地獄の運用に支障をきたす魂を隔離する場所だ。レヴィンが放り込まれるのも納得できる。そうならば、大作家とやらも途轍もない力の持ち主ということになるが……。
「……大体分かった。後はお前に聞いても分からないだろうな……で、もう一つの方はどうなのじゃ? その力をどこまで……いや、お前は自分の力をどこまで理解しておる?」
儂の問いに、レヴィンは考えたこともなかったと顔に書かれた表情で首をかしげた。完全に感覚だけで戦ってきた者の顔であった。